ログ速トップ
1名も無き被検体774号+@\(^o^)/[ageteoff] 投稿日:2016/05/31(火) 22:07:52.71 ID:9FeM9uJP.net [1/63回]
「もしもし」
俺がそう言うと同時に携帯の向こう側からも同じ言葉が聞こえた。
「あっ、すみません。あの、どちら様でしょうか?」
携帯から聞こえる女性の声は続けてそう言った。
2 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:08:16.63 ID:9FeM9uJP.net [2/63回]
どちら様とはどういうことだろうか?
確か俺は、見知らぬ番号からかかってきた電話に出ただけのはずだ。こういう時は普通、名乗るのは電話をかけてきたほうのはずだろ?
3 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:08:17.11 ID:N+HbBbVe.net [1/1回]
つまんね
4 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:08:42.18 ID:9FeM9uJP.net [3/63回]
俺は、思ったことをそのまま電話の向こうの女性に伝えた。
「何を言ってるんですか? わたしは電話が鳴ったから出ただけです。あなたが電話をかけてきたんですよね?」
「いや、俺こそ電話がかかってきたから出ただけだ。そっちが電話をかけてきたんだろ?」
5 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:09:00.31 ID:9FeM9uJP.net [4/63回]
そこからはどちらが電話をかけたかの言い合いが堂々巡りし、とりあえず携帯の故障ということで話は落ち着いた。
6 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:09:28.39 ID:9FeM9uJP.net [5/63回]
「でもこの携帯買ってもらったばっかだったんですけどねー、こんなすぐ壊れちゃたのかな?」
電話の向こうの女性は少し悲しそうな声でそう言った。
「よくわからないけど、何かの不具合だと思うよ。壊れたってわけじゃないんじゃないかな」
「そうですか、なら良かった。テストで頑張ってやっと買ってもらったんですよ」
テストで頑張って、か、小学生くらいかな。
そう思って聞いてみると意外な答えが返ってきた。
7 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:10:08.18 ID:9FeM9uJP.net [6/63回]
「失礼ですねー れっきとした高校生ですよ。16歳です。花の女子高生です」
「そうか、悪かった。同い年だな。だけど今時珍しいな、今まで携帯を持ってなかったなんてさ」
確かこの前、高校生のスマホ所持率99パーセントという記事をどっかで見た記憶がある。
そんな時代に携帯も持ってなかったなんて相当なレアケースのはずだ。
「そうですか? クラスでも持っている人半分くらいですけど。そんなに珍しくないと思いますよ」
8 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:11:05.75 ID:9FeM9uJP.net [7/63回]
99パーセントのうちの1パーセントが、彼女のクラスに半分もいるとなると、彼女が住んでいるのは相当な田舎とか離島なんかだろうか。
そう聞くと、また意外な答えが返ってきた。
9 : 旧りょうこ ◆VRyoko/kew @\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:11:07.70 ID:rhJPlVTx.net [1/1回]
これが面白いの?
10 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:11:25.70 ID:9FeM9uJP.net [8/63回]
どうやら彼女が住んでいるのは俺と同じ地域らしい。さらに、通っている学校は俺の通う高校と同じ名前の高校だった。
俺が住んでいる場所は、大都会というわけではないが、田舎と呼ぶような場所ではないはずだ。
そもそも俺のクラスの携帯所持率は100パーセントだしな。
そんな場所で携帯を持っているのがクラスの半分なんて考えられなかった。
11 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:11:54.09 ID:9FeM9uJP.net [9/63回]
「いや、さすがに嘘だろ? 今時、マサイ族だって携帯を持っている時代だぞ?」
そう聞くと、電話の向こうから笑い声が聞こえた。
「マサイ族って、あの目がすごいいい人達ですよね? 嘘ですよ、あの人達が携帯を持っているなんて。エイプリルフールだからって騙されませんよ?」
12 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:12:35.97 ID:9FeM9uJP.net [10/63回]
「嘘じゃないよ。そっちこそエイプリルフールだろ? 俺と同じ場所に住んでて、携帯所持率50パーセントなんてさ?」
「嘘じゃありませんよ。そもそも私が嘘つく理由なんてないじゃないですか」
「いや、でもやっぱりありえないだろ。この2016年にクラスで携帯を持っているのが半分だけとかさ。小学生だって携帯を持ってるんだよ?」
13 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[sage] 投稿日:2016/05/31(火) 22:12:38.20 ID:oc1rTMOw.net [1/1回]
小説家にでもなりたい人かな?
14 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:12:59.82 ID:9FeM9uJP.net [11/63回]
「2016年?」
彼女は不思議そうな声でそう聞き返してきた。
「ああ、それがどうしたんだ?」
「何言ってるんですか? 今は2006年ですよ? あなた、エイプリルフール大好きすぎませんか?」
「は?」
笑いながらそう言う彼女に、反射的に声を出していた。
15 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:13:36.48 ID:9FeM9uJP.net [12/63回]
声の調子を整えて俺は話し出す。
「何言ってるんだ、今は2016年だろ? そっちこそエイプリルフールが大好きなんだな」
「だから、そういうのいいですって。そもそもエイプリルフールって午前中だけらしいですよ。今、嘘つくのはルール違反です」
「もういいって、午前中だけだろ? 知ってるよ。嘘はもういいからさ」
「だから、もういいですって……」
16 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:14:13.00 ID:9FeM9uJP.net [13/63回]
そこからはまた、さっきのように言い合いが続いた。
三分くらい経った頃には、彼女のは不機嫌さを全く隠さなくなっていた。
「もういいですよ、エイプリルフールのいたずら電話だったんですよね? なかなか手が込んでると思いますよ」
ここまで言い争っておいて言うのもなんだが、俺には彼女は嘘を言ってないように思えた。
少なくとも彼女の声には嘘があるようには感じられなかったんだ。
17 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:14:58.41 ID:9FeM9uJP.net [14/63回]
だから一つ試してみることにした。
「わかった、そっちは今何時だ?」
「19時28分ですけど、それがどうしたんですか? 嘘つきさん?」
この汚名を返上するためにもと、俺は一つ予言をする。
「ちょうどよかった、今から一分後小さな地震が起こるはずだ。もしこれで地震が起きたら、俺が未来から電話をかけている証明になるだろ?」
「まぁ、そうですね、揺れたらの話ですが」
彼女の声からは俺を信じている可能性が1パーセントも感じられなかった。
18 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:15:30.10 ID:9FeM9uJP.net [15/63回]
「揺れませんでしたね、嘘つきさん」
一分間沈黙が続き、時計の針が19時29分を指した頃、彼女の呆れた声で静寂は破られた。
揺れなかった、彼女がそう言った瞬間、俺は彼女のことを信じるしかなくなっていた。
19 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:16:58.49 ID:9FeM9uJP.net [16/63回]
「私、少し本当に揺れるのかなとか思ってたのに、結局嘘つきさんは嘘つきさんでしたね」
「ああ、悪い、嘘をついていた」
「知ってますよ、結局揺れませ――」
「違うそうじゃない、確かに俺は嘘をついていた。
地震なんか本当は起きてないんだ。もし君が揺れたと言ったら、君が2006年にいるというのは嘘ということになる。それを確かめたくて嘘をついたんだ。でも君は揺れなかったと言った。あの短い時間で地震があったかどうかを調べるのは不可能だろう。
つまり君は本当に2006年にいるってことだ。信じるよ」
20 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:17:07.75 ID:JpIsYmaX.net [1/1回]
そそてこのあと無茶苦茶せっくすした
21 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:17:27.90 ID:9FeM9uJP.net [17/63回]
「いい加減にしてくれませんか? 言い訳が過ぎますよ、そんなんで騙されるわけないでしょ?」
その声は今日一番の不機嫌な声だった。
彼女とはまだ少ししか話してないけど、この一ヶ月くらいで、一番彼女を不機嫌にさせたのは俺だろうね。自負するよ。
22 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:17:53.88 ID:9FeM9uJP.net [18/63回]
ただ、そんなことを言っている場合でもなかった。
彼女は今にも電話を切りそうだったからさ。
だから、電話を切られる前に、さっきの1分の間にパソコンで調べたことを、予言する。
23 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:18:33.43 ID:9FeM9uJP.net [19/63回]
「ありがとう。じゃあ予言する。そっちで最近起きた通り魔事件があるだろ? その犯人が五分後、19時35分に捕まるはずだ。テレビのニュース速報でも見てくれればわかると思う」
「ふぅん」
彼女は早く終わらせたいと思っているのか、それだけ言うと、黙って5分間一言も喋らなかった。
24 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:19:03.55 ID:9FeM9uJP.net [20/63回]
「お話、聞かせてもらってもいいですか? 未来人さん」
19時35分、彼女は震えた声でそう切り出した。
俺の汚名が返上されているということは、つまりそういうことなんだろう。
25 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:19:36.09 ID:9FeM9uJP.net [21/63回]
「どうやら当たってみたいだな、予言」
「そうですね、残念ながら」
「残念ってことはないだろ? むしろ俺たちはすごい体験をしているんだからさ」
「それでも、信じられません。いや、信じてないわけではないんです。でも信じられません」
彼女はだいぶ混乱しているようだ。
「詩人だな」
「ふざけないでください。一体どういうことなんですか? 2016年って何ですか? わけがわかりません」
26 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[sage] 投稿日:2016/05/31(火) 22:19:39.09 ID:kxzsfEC0.net [1/1回]
>>1
VIPで相手にされないからこっちにきたの?
なんで相手にされなかったのか考えてみるといいよ
27 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:20:10.08 ID:9FeM9uJP.net [22/63回]
「俺だってわからないよ。さっき言った通り、電話が鳴ったからでたら君につながった。わけがわからないよ、ホントさ」
「じゃあ何でそんな冷静なんですか? おかしいでしょ、普通もっと取り乱しますよ」
彼女は取り乱した声でそう言った。
俺も普通こうなるはずなんだろう。
でも彼女の言う通り、俺は不思議と冷静だった。
28 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:20:49.18 ID:9FeM9uJP.net [23/63回]
「何でだろうな。未来人の余裕とかじゃないか」
「どういうことですか?」
「ほら、未来から電話がかかってきたとなると驚くけどさ、過去からだとそこまででもなくないか? なんとなくさ」
「意味がわかりません。普通どっちでも驚きます」
ごもっともだ。
でも自分自身でもわからないんだからしょうがない。
想定外すぎることが起こると、人間は案外冷静でいられるのかもしれないな。
「とにかくお互い何かわかってることを話しましょう。こうなった心当たりとか何かありませんか?」
29 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:21:11.64 ID:9FeM9uJP.net [24/63回]
そこからいろいろ話したが、結局原因らしい原因は見つからなかった。
「とりあえず、今日はもう遅いですしまた明日電話します。多分もう一度かけられますよね?」
「ああ、さっきもつながったし大丈夫なんじゃないか?」
さっき話している時に間違えて俺が電話を切ってしまったが、着信履歴からかけ直すとまた2006年の彼女につながった。
だからきっと大丈夫だろう。
30 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:21:40.75 ID:9FeM9uJP.net [25/63回]
「そうですね、じゃあまた明日」
「また明日」
俺が言い終わる頃には電話はもう切れていた。
31 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:22:00.19 ID:9FeM9uJP.net [26/63回]
そのあとは時間も遅く、疲れていたのもあって布団に入るとすぐ眠りに落ちた。
32 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:22:15.56 ID:9FeM9uJP.net [27/63回]


「冒険しようぜ!」
朝、携帯の鳴る音で目が覚め、彼女かなと思って出たら、聞こえてきたのはよく知る男の声だった。
33 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:22:41.43 ID:9FeM9uJP.net [28/63回]
「意味がわからないんだけど」
「だから、冒険しようってことだよ。楽しそうだろ?」
「いい加減、わかるように話してくれないかな? 桐島」
「だから冒険だって」
いつまでも、話さない桐島に俺はだんだんイラついてきた。
「もう、切るね。じゃあ」
「待って、待てって。ちゃんと話すから」
「最初からそうしてくれないかな?」
「悪かったって」
34 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:23:16.59 ID:9FeM9uJP.net [29/63回]
桐島はいつものようなお気楽そうな声で、『冒険』とやらのことを話し始めた。
「冒険っていうのはな、宝探しのことだ」
「抽象的な表現がまた別の抽象的な表現になっただけなんだけど? もっと具体的に話してくれないかな? 」
正直もう、いい加減にして欲しかった。
35 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:23:37.90 ID:9FeM9uJP.net [30/63回]
「そうだな、具体的に言うとタイムカプセル探しだな」
「タイムカプセル?」
「そうだ」
「タイムカプセルなんて埋めた覚えないんだけど?」
言葉の通り、そんな青春の塊みたいなものを埋めた覚えは一切なかった。
「ああ、俺もないぞ」
きっぱり言い切るその姿はいっそ清々しかったが、本格的にわけがわからなくなってきた。
36 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:24:12.60 ID:9FeM9uJP.net [31/63回]
「お前大丈夫か? 埋めてもないタイムカプセルを探せるわけないだろ?」
至極まっとうな意見のはずだ。
埋めてもないものは掘り出せない。
「俺たちじゃなくて、昔の卒業生が埋めたらしいんだよ。それを掘ろうってことだ、わかっただろ?」
「もっとわからなくなったな。なんで他の人が埋めたタイムカプセルを俺たちが掘るんだよ?」
俺はわからないを何回言えばいいんだろうか?『わからない』がゲシュタルト崩壊しそうだ。
37 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:24:27.80 ID:9FeM9uJP.net [32/63回]
「実はさ、今年タイムカプセルを埋めて10年たったから掘り出す予定だったらしいんだ。でも、人数が全然集まりそうになかったから中止になったらしい。それを俺たちが掘り出そうってことだ」
「だからなんでそうなるんだよ? 俺たちにはそのタイムカプセルになんの思い出もないだろ? そもそも何でお前そんなことを知ってるんだ?」
38 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:25:16.50 ID:9FeM9uJP.net [33/63回]
「櫻子ちゃんに聞いたんだよ。昔タイムカプセルをうめたってな。あの人うちの学校の卒業生らしいぞ」
「櫻子ちゃん? 誰?」
聞いたことない名前が桐島の口から出ていた。
さっきから俺の言葉には何回クエスチョンマークが使われているんだろうか?
39 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:25:54.09 ID:9FeM9uJP.net [34/63回]
「お前知らないのか? うちの学校の音楽の先生だよ。すごいかわいいって有名だぞ」
「知らないよそんなの、音楽の授業とってないし。そもそも、お前も選択音楽じゃないだろ?」
受けてない授業の教師になんて知ってるわけがない。そもそも俺は、隣のクラスの担任の名前すら知らない。
40 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:26:09.97 ID:9FeM9uJP.net [35/63回]
「俺は、かわいい人のことは誰だって知ってるんだよ。まぁ、俺だってことを抜きにしても、あの人は結構有名だぞ。知らないお前の方が珍しいからな」
「あっそ」
もう俺はこの話から興味を失っていた。
つまるところ、桐島の目的はそのタイムカプセルを掘り出して、その人の機嫌を取ろうというところなんだろう。
そんなことに、貴重な春休みを割くつもりは一切なかった。
その旨を桐島に伝え「一人でやれよ」と言って電話をきろうとした。
41 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:26:46.83 ID:9FeM9uJP.net [36/63回]
「待てって、櫻子ちゃんのこと知らないならちょうどいいじゃん。これを機会に仲良くなろうぜ」
調子のいい桐島の声が聞こえた。
42 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[sage] 投稿日:2016/05/31(火) 22:27:04.59 ID:0CeUa+q4.net [1/2回]
http://goo.gl/6UQBVV
43 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:27:12.26 ID:9FeM9uJP.net [37/63回]
「仲良くなりたいのはお前だけだろ。俺は一切興味ないから。だから一人で頑張れ」
「わかったよ。後で後悔しても知らないからな」
「絶対にないな」
そう言うと今度こそ電話をきった。
44 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:27:30.46 ID:9FeM9uJP.net [38/63回]
しかし、あいつもよくやるよなと思う。
その先生がどんだけ綺麗なのかは知らないが、あいつのルックスや性格だったら、別にその先生じゃなくてもたくさん相手がいるだろう。
唯一の問題は自由奔放なところくらいかな。
あれだけにはついていけない人がいるかもしれない。
45 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:28:07.34 ID:9FeM9uJP.net [39/63回]
まぁ、そんなことはどうでもいいか。
俺にだってやることはあるからな。
やることといってもただ髪を切りに行くだけだけど、それでも他人のタイムカプセル掘りよりは有意義なことだろう。

46 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[sage] 投稿日:2016/05/31(火) 22:28:10.60 ID:0CeUa+q4.net [2/2回]
iine
47 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:28:35.23 ID:9FeM9uJP.net [40/63回]
そういうわけで、髪を切るために美容院まで来た。
ここは床屋というよりは美容院というべきところだろう。
誤解しないでほしいんだけど、別におしゃれに気を使ってるとかじゃないよ。
ただ子供の頃から髪を切る場所を変えてないだけだ。
そこだけはわかっておいてほしい。
48 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:29:25.83 ID:9FeM9uJP.net [41/63回]
「いらっしゃいませー、カット?」
見知った顔の店員が聞いてくる。
「はい」
「じゃあいつも通り美咲ちゃんでいいよね?」
「はい」
「オッケー、じゃあちょっと待ってて」
美咲とは四年くらい前からこの店で働いている店員のことで、最近はずっとこの人に切ってもらってる。
49 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:29:43.67 ID:9FeM9uJP.net [42/63回]
十分くらいで美咲さんの手はあいたようで、席に案内された。
「今日はどうする?」
席に着くと早々、美咲さんは美容師の定型句を口にした。
どうすると聞かれても、さっき言った通りこだわりなんか持ち合わせてないので「いつも通りで」と答えた。
ちょっと思ったんだけど、『いつも通り』ってなんかこそばゆい感じがしない? 
ほら、バーで「いつもの」とか「あの女性に一杯」って言ってるみたいで、恥ずかしいよね。
まぁ、どうでもいいんだけど。
50 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:30:05.76 ID:9FeM9uJP.net [43/63回]
「君、いつも同じこと言うよね。たまには冒険しようよ」
美咲さんはいつも通りに少し不満なのか、どこかで聞いたようなことを言ってきた。
だけど、一日に二回も「冒険しよう」って言われると思わなかったよ。
まだ昼過ぎなんだけどね、もしかしたらまた別の人に言われるかもしれないな。
51 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:30:41.45 ID:9FeM9uJP.net [44/63回]
「安心とか安全を好むんですよ、俺みたいなのは」
「つまらないなー、まぁ、いいや。お客様の仰せのままに」
少し笑う美咲さんの顔が鏡越しに見えた。
「それでお願いします」
52 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:31:01.77 ID:9FeM9uJP.net [45/63回]
そうして、俺の髪が切られ始めた。
美容師ってすごい話しかけてくる人と、あんまり話しかけてこない人がいると思うんだけど、美咲さんは話しかけてくる方のタイプだった。
俺は本来、どっちのタイプも苦手なんだ。
話しかけてくる人は面倒くさいし、かといって話しかけてこないと気まずくて鏡と自問自答したりしちゃうし、要するにすごい面倒くさい人間なんだけど、でも、美咲さんには何故か話しかけられても平気だった。
53 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:31:27.22 ID:9FeM9uJP.net [46/63回]
もちろん初めて切ってもらった時からたくさん話せたわけじゃないけど、それでも他の人よりは全然大丈夫だった。
それで、何回か通っているうちに普通に話せるようになってた。
54 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:31:44.85 ID:9FeM9uJP.net [47/63回]
なんでだろうか? 別に好きとかじゃないんだ。
ただ、一緒にいるとなんか心地いい感じがする。
美容師の究極のテクニックかもしれない。
桐島も同じような能力を持っている気もするけどな。

55 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:32:02.55 ID:9FeM9uJP.net [48/63回]
「いや、それ絶対好きですよね?」
もう何度目だろうか? 彼女の口から同じ言葉が繰り返される。
「だからそういうのじゃないって言ってるだろ」
俺が何度否定しても彼女は引かなかった。
「いや絶対好きでしょ」
「だから……」
56 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:32:27.53 ID:9FeM9uJP.net [49/63回]
とりあえず、なんでこんなことになっているか説明しよっか。
まず、あの後髪を切り終えて家に帰った。
その後はいつも通り適当に過ごして、夜になると約束通り彼女から電話がかかってきた。
57 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:32:41.03 ID:yvRiqBSn.net [1/2回]
つまんねぇよ
58 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:33:04.55 ID:9FeM9uJP.net [50/63回]
最初は過去(未来)につながった電話の謎について割と真剣に話し合ってたんだ。
でも、いくら話しても結局思い当たる節もなくてだんだん話が脱線していき、気づくと今日あったことをお互いにはなしてた。
59 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:33:22.10 ID:9FeM9uJP.net [51/63回]
その流れの中で美咲さんのことを話した結果、俺は彼女に何回も「好きですよね?」と聞かれ続けられてるわけだ。
60 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:33:39.00 ID:9FeM9uJP.net [52/63回]
「好きですよね? 絶対好きですよね?」
「だから違うって。そんなこと言うなら君だって磯崎先輩って人のこと好きだろ?」
磯崎先輩とは、彼女と話している時に何回か出てきた人で、この人のことを話している時の彼女はどことなく嬉しそうだった気がした。
しつこい彼女への俺なりの反撃だ。
61 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:34:00.63 ID:9FeM9uJP.net [53/63回]
「はい、好きですよ。言ってませんでしたっけ?」
何故だろうか?
俺の予定では今頃、好きな人を指摘されて慌てふためく彼女の声が聞こえるはずだった。
それなのに、実際に聞こえるのはすましたようにあっさり認める彼女の声で、何故か動揺しているのは俺の方だ。
62 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:34:37.91 ID:NS9tUgOv.net [1/3回]
すみません!冷たいうどんください!
63 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:37:10.14 ID:+f+v9oqV.net [1/51回]
「それより今、『君だって好きだろ』って言いましたよね。それってつまり、自分も好きってことですよね?」
彼女がさらに追い討ちをかけてきた。
 こんなひどいこと人間にできるとは思えないよ。
彼女がこんな風にあっさり認めたのに、俺だけ必死になって否定するのは負けたみたいで嫌だった。
いや、実際こんなこと思わされてる時点で負けてるんだろうけどさ。
64 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:37:30.97 ID:+f+v9oqV.net [2/51回]
「そうだな、普通の人はこの感情を恋と呼ぶのかもな」
「すごい面倒くさい言い回ししますね。というか面倒くさい人ですね」
自分でだってそんなことわかってる。
そもそも、元々誰かを好きとか恥ずかしいことを言わなきゃいけないんだから、言い回しが恥ずかしくたって大して変わらないだろ。
65 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:37:51.56 ID:+f+v9oqV.net [3/51回]
「でも、とりあえず好きってことですよね。そうですか」
多分、彼女はニヤニヤしてるんだろうな。
結局負けた気がするよ。
66 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:38:08.58 ID:+f+v9oqV.net [4/51回]
「それで告白とかしないんですか?」
「なぁ、もういいだろ。この話やめにしようよ」
これ以上話を続けたら本当にいたたまれなくなる。
「えー、いいじゃないですか。女の子は恋バナが好きなんですよ」
「そんなに言うなら、そっちこそどうなんだよ。告白とかしないわけ?」
言い終わってから気づいたけど、これはマズイな。
完全にさっきと同じパターンだ。
67 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:38:25.12 ID:+f+v9oqV.net [5/51回]
「したいですけど……怖いじゃないですか」
彼女の声は急に弱々しくなっていた。
「意外だな。怖いとか思うんだ君でも」
てっきりまたさっきみたいにあっさり言われると思っていたので驚いた。
「ひどいですね。なんだと思ってるんですか私のこと」
「人の痛いところをついてくる悪魔?」
「なんですかそれ、むしろ天使でしょ」
「それはないな」
「あー、今のは傷ついたなー」
彼女の声はまた今までの明るい声に戻っていた。
68 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:38:49.71 ID:+f+v9oqV.net [6/51回]
「わかりました。じゃあ、こうしましょう。私は女の子の目線であなたの相談に乗ります。その代わりあなたは男の子目線で私の相談にのってください。そして二人で告白を成功させましょう」
彼女の声は「いいアイデアでしょ?」とでもいうように自信満々だった。
こんなにコロコロ声の調子が変わるなら、表情はもっとコロコロ変わるんだろうな。
「どうですか、これなら天使でしょ? 恋のキューピッドになってあげますよ」
69 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:39:21.19 ID:+f+v9oqV.net [7/51回]
「なんでそうなるの? 俺、一言も告白したいなんて言ってないんだけど?」
「しないんですか? しないと何も始まりませんけど?」
その言葉に俺は少しドキッとした。
なんでさっきまでふざけてたくせに、急に本質をつくようなことを言うんだろうか?
苦手だ、こういうタイプは。
70 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:39:43.22 ID:+f+v9oqV.net [8/51回]
「わかったよ。よろしくお願いします、天使さん」
少しふざけて言ったのは精一杯の強がりだ。
本当はそんな余裕なんてどこにもないのにさ。
「決まりですね。『さくらんぼ作戦』始動です」
「さくらんぼ? 何それ?」
「知らないんですか? 大塚 愛」
「知ってるけど。古くない?」
「二年くらい前ですかね」
そういえば、彼女は十年前にいるんだったな。くだらない話をしすぎて忘れてた。
71 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:40:04.16 ID:+f+v9oqV.net [9/51回]
「好きなの? 大塚 愛」
「まぁ、それなりには。それに『さくら』は私にとって特別なんです」
「どういうこと?」
「秘密です。女の子に秘密はつきものでしょ?」
ただの想像なんだけどさ、きっと彼女は今人差し指を口に当ててると思うんだよね。
得意げな顔でさ。
うん、絶対そうだと思う。
72 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:40:18.16 ID:yvRiqBSn.net [2/2回]
!??
73 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:40:22.64 ID:+f+v9oqV.net [10/51回]
「それより、2016年ってどんな曲が流行ってるんですか? すごい気になるんですよね」
「昨日も言ったけどさ、そういうのは言っちゃうのマズいだろ? ほら、歴史とか変わっちゃたら困るでしょ?」
だから俺たちは名前すら名乗らないまま恋愛話までしているわけで、よくよく考えるとかなり変な状況だな。
「えー、ケチ。少しくらいいいじゃないですか」
「ダメだって。そうだ、そっちはどんなのが流行ってるの? 音楽だけじゃなくて、他にもいろいろ」
74 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:41:07.22 ID:+f+v9oqV.net [11/51回]
「うーん、そうですね、さっきも言いましたけど、大塚愛だったら『プラネタリウム』ですよね。『さくら』だったらケツメイシかな。あとは『粉雪』とか『青春アミーゴ』ですかね」
聴いたことある曲がたくさん並べられた。
「音楽以外だったら、『オリラジ』が最近ノッてますね。ドラマは『1リットルの涙』ですね。後『電車男』も」
彼女は次々と懐かしい言葉を羅列していった。
懐かしい言葉のオンパレードだな。
彼女と話してるとタイムスリップしてるみたいだよ。
まぁ、半分してるようなもんだけどさ。
75 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:41:23.60 ID:+f+v9oqV.net [12/51回]
「あー、あと、あれも好きです。ほら、なんかアニメの、『一万年と二千年前から愛してる』ってやつ。なんでしたっけ?」
「『創世のアクエリオン』?」
「それです、なんかいいですよね響きが」
76 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:41:56.51 ID:+f+v9oqV.net [13/51回]
「なんか、すごい懐かしい気持ちになれたよ。ありがとう」
「そうですか、だったらそっちのことも少しくらい教えてくれてもいいと思うんですけどね」
また勝手な想像だけど、今度はきっと口をとがらせていると思うな。
「そうだな、じゃあ一つだけ、『PERFECT HUMAN』を覚えておくといいよ」
これだったら歴史に影響はそれほどないだろうし、言っても問題ないだろう。
「なんですか? それ。完璧人間?」
「うん、完璧人間。覚えといて」
「わかりました」
彼女は不思議そうな声で応じた。
77 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:42:14.61 ID:+f+v9oqV.net [14/51回]
そんな話をしているうちに時間は過ぎていき、もう今日は遅くなってしまったので、続きは明日にすることになった。
78 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[sage] 投稿日:2016/05/31(火) 22:42:32.92 ID:Z48nLjEj.net [1/1回]
ほーん
79 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:42:37.81 ID:+f+v9oqV.net [15/51回]


「まず、あなたは二つのハンデを背負っていることを理解してください」
「ハンデ?」
次の日、夜になったので彼女に電話すると、『さくらんぼ作戦』の恋愛講義が始まった。
「はい。まず、その美容師さんとあなたが会うときはどんなときですか?」
「どんなって、髪を切りに行った時だろ?」
美容師なんだから当然といえば当然だ。
「それが一つ目のハンデです」
「なんで? むしろ、会う理由があるんだからいい方のハンデじゃないか?」
世の中には好きな人と会う理由を必死で考えている人なんてごまんといるしな。
そう考えたら、会う理由が簡単につくれるのはプラスなはずだ。
80 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:43:10.80 ID:+f+v9oqV.net [16/51回]
「あなたが髪を切るときは、言い換えればその美容師さんが仕事中のときということです。仕事が絡むと恋愛は難しくなると言われているのを知っていますか?
仕事中は頭がそっちに集中していて、異性のことを深く意識しないようになるからです。
美容師のような技術職では尚更そうなります」
確かにそうかもしれないと思ったが、これくらいなら別にたいした問題じゃ――
「『たいした問題じゃない』そう思いましたか?」
俺の思考を先読みしたかのように彼女は口にした。
81 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:43:38.63 ID:+f+v9oqV.net [17/51回]
「そうですね、確かにこれはそこまで大きな問題ではありません。大事なのはもう一つの方です」
もう一つの問題。
それは、多分俺もわかっていた。
俺と美咲さんの間にある大きな壁。
82 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:43:54.32 ID:+f+v9oqV.net [18/51回]
「もう一つのハンデは、年齢です。あなたは学生で、美容師さんは働いている。同じ学生の私が言うことじゃないかもしれませんが、社会人と学生では価値観も話題も時間だって違います。一つ一つは小さな違いでもそれがたくさんになれば、それは埋められない差になります。
これを埋めるのは相当難しいことだと思います」
年齢、それが大きな障害になることはわかっていた。
仕事中だとかそんなことは頑張ればなんとかなるんだろう。
だけど、年齢の差はどう頑張ったって埋められない。
俺が歳をとることも、美咲さんが若返ることも絶対にできない。
83 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:44:22.08 ID:+f+v9oqV.net [19/51回]
「要するに望みはほぼゼロってことだな……」
そうだ、最初からわかってたんだ。
それなのに彼女と話して、もしかしたらと思ってしまった。
そんなわけないのに。
84 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:44:44.32 ID:+f+v9oqV.net [20/51回]
「無理だってわかってたはずなのにな、ちょっと舞い上がってたみたいだ…… もう、終わりにしよう。そっちの話聞くよ、磯崎先輩だっけ?」
「なんでですか?」
彼女は刺すような声で聞いてきた。
「あれ、磯崎じゃなかったっけ?」
確か磯崎だったはずなんだけど、記憶力にはわりと自信がある方なんだ。
「そうじゃなくて、なんで諦めるんですか?」
85 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:45:05.97 ID:+f+v9oqV.net [21/51回]
「なんでって…… 君も言ってたろ、難しいってさ。結局、最初から無理だったんだよ。俺とあの人には違いが多すぎる。君の言う通りだよ」
そう、わかってた。
「それだけで諦めちゃうんですか?」
「十分だろ、不可能に近いんだ。普通なら諦める」
「不可能に近いだけで不可能ではないですよね?」
彼女の言葉の一つ一つが俺の心に刺さった。
諦めたくない俺の心を刺激した。
だからそれを認めないために、彼女の言葉を必死で否定する。
「そんなの詭弁だろ。世の中無理なものは無理なんだ」
86 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:45:21.50 ID:+f+v9oqV.net [22/51回]
「たとえそれがどんなに難しくても諦める理由にはなりません」
彼女ははっきりとした声でそう言った。
俺は昨日まで、彼女は天然でこういう本質を突くようなことを言っているのだと思っていた。
でも、今わかった。
彼女はわかってて言ってるんだ。
俺がいま諦めたら絶対後悔すると、俺が本当は諦めたくないと、全部わかってて言ってるんだ。
現に俺は彼女と話してまた、諦めたくないと思わされている。
87 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:45:42.10 ID:+f+v9oqV.net [23/51回]
「それで、どうしますか? 『さくらんぼ作戦』やめますか? 続けますか?」
少し時間をおいて彼女は聞いてきた。
俺の返事はもう一つしかなかった。
「続けるよ、『さくらんぼ作戦』」
「わかりました。これからもよろしくお願いします」
その声はさっきまでの刺すような声と打って変わって明るいものになっていた。
88 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:45:58.42 ID:+f+v9oqV.net [24/51回]
「まず一つ目の問題ですが、これはまあ簡単ですね。美容院以外で会う理由を作りましょう。どこかでばったり会ったとかそんな感じで」
「それ、ストーカーしろってことか?」
「人聞き悪いですねー、別にそういう意味じゃないですよ。ただ、ちょっとつけてみたりするだけです」
「それをストーカーっていうんだよ」
さすがに犯罪者にはなりたくない。
89 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:46:14.95 ID:+f+v9oqV.net [25/51回]
「じゃあ、お店から帰るときにたまたま会ったとかでいいんじゃないですか」
それなら少しは犯罪臭は減ったが、それでもまだグレーゾーンだ。
「とにかく、重要なのはそっちじゃありません。もう一つの方をしっかり考えないと」
90 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:46:35.01 ID:+f+v9oqV.net [26/51回]
恋愛講義はそれから二時間ほど続き、「じゃあ今日はここら辺で」という彼女の合図で終わりを迎えた。
彼女の講義は本当の講義みたいで、学校で授業を受けているような気分だったよ。
91 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:46:52.66 ID:+f+v9oqV.net [27/51回]
「そういえば、結局そっちの話を聞けてないけどいいのか?」
この二時間、俺の方の話ばかりで、磯崎先輩の話は一切できなかった。
「はい、そっちは私がなにか聞きたいことがあったら聞くので大丈夫です」
「それならいいけど」
俺には彼女みたいに誰かに教える技術なんてないので、正直助かった。
92 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:47:26.79 ID:+f+v9oqV.net [28/51回]
「また、明日」といつもの言葉を言って電話を切ると、そのまま眠りについた。
93 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:47:42.39 ID:+f+v9oqV.net [29/51回]


「助けて!」
午前二時、携帯の着信音で起こされ、耳に当てると彼女の大きな焦った声が聞こえた。
どうしたのかと急いで聞いても返事はなく、しばらく息切れのような音だけが響いた。
94 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:47:49.15 ID:NS9tUgOv.net [2/3回]
さっき頼んだ冷たいうどんまだですか!!!
95 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:48:02.39 ID:+f+v9oqV.net [30/51回]
「すみません、夜遅くに」
少しするとまだ多少息は荒かったが、さっきよりは落ち着いた声で彼女が話した。
「大丈夫か? どうしたんだ?」
彼女のあんなに焦った声は初めて聞いた。
いったい何があったのか、そう思って聞くと、
「いや、あの……で……すね」
彼女は言いにくそうに口ごもった。
96 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:48:18.81 ID:NS9tUgOv.net [3/3回]
そのときだった。
97 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:48:41.30 ID:+f+v9oqV.net [31/51回]
「実は…… 電話を切った後、テレビを見てたら心霊特集やってまして、それでそれを見た後寝たら夢を見まして、 それがすごくて怖くて、それで今日は親が出かけてまして、いなくて、怖くて、
その…… 誰かいないかなと思ったら、あなたが思い浮かびまして…… 電話しちゃいました」
さっきまでの講義のスラスラとした話し方からは想像もつかないほど、しどろもどろといった感じでそんなことを話すので、思わず笑ってしまった。
98 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:49:01.66 ID:+f+v9oqV.net [32/51回]
「ひどくないですか、こっちは本当に怖くて……」
「いやごめん、なんかあれだよね、君ってさ、話すたびにイメージが変わるんだよね」
笑ったり、怒ったり、不安そうだったり、からかってきたり、彼女は本当にいろんな顔を見せてくる。
顔を見たことないのにおかしな話だけどさ。
99 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:49:23.49 ID:+f+v9oqV.net [33/51回]
「バカにしてます?」
そう聞く彼女の声も、泣きと怒りが混ざったような声で、またおかしくなる。
「いや、違うよ。ただ君に会ってみたいなと思ってさ。電話じゃなくて、実際に会って話してみたいなって」
彼女がどんな顔で、どんな風に笑うのか、どんな風に怒るのか、どんな風に泣くのか見てみたい。そう思った。
「私もあなたに会ってみたいですね。まぁ、そんなこといってもしょうがないんですけどね」
100 : 名も無き被検体774号+@\(^o^)/[] 投稿日:2016/05/31(火) 22:50:15.25 ID:+f+v9oqV.net [34/51回]
「それで、その…… もう少しだけ……」
彼女はまた口ごもりながら小さな声を出した。
それが何を意味するのかなんとなくわかったから、今日は少しだけ優しくなろうと思う。
「ああ、わかってる。そっちが切るまで電話してていいから、少し話そっか」
「ありがとうございます」
彼女は少し驚いたようだった。
俺が優しいのはそんなに珍しいんだろうか。
まぁ、それでもいいか。

終了したスレッドです

おすすめスレッド

PR

みんなが見ているスレッド

PR

スポンサードリンク