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1 : ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/02(木)00:56:17 ID:T3B [1/1回]
1908年 人工島・太平洋淤能碁呂島洋上学園都市完成――――

違う時代、違う発展を遂げた時代。蒸気技術によって高度な技術力を手に入れた世界。

発展した技術はさらなる技術研究、超心理学……超能力研究へと手を伸ばし、大国達はこぞって研究機関・学園都市を作り上げた。
そのうちの一つ、日本。太平洋側に位置する人工島・淤能碁呂島に作られた大日本帝国学園都市。

豪華絢爛、華やかにして堅実極まる。日本のみならず、世界中から留学生を集める洋上学園都市。
華やかなる蒸気文明の象徴たるそこは、魔術結社『黎明協会』による陰謀の結集地だった――――。

・GM式期間限定、ストーリー型のなりきりスレッドです
・参加者の皆様には、生徒或いは教師として洋上学園都市の一員となって頂きます
・黎明協会所属のキャラクター作成について、、大きく制限される場合があります。ご注意ください。
・スレッドの性質上、キャラクターの能力は強力なものでも可とします
・キャラクターの投下、質問、その他は避難所へどうぞ(https://jbbs.shitaraba.net/netgame/16507/

キャラクター、設定等まとめ
https://w.atwiki.jp/steampunk1908/pages/11.html

前スレ
http://kohada.open2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1583587415/
2重信愛子 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/03(金)04:59:22 ID:JmL [1/9回]
『ブルースカイイズデッド!! スタンダップ、ゴールドメン、ライトナウ!!』

佐野美珠が掲示板に張られた宗教組織の張り紙を見ていたちょうどそのころ(前>>992)、
夜道に大量に人が行進する気配を察することだろう。その数200から300人。

『ブルースカイisデッド!!! ブルースカイisデェェェッド!!!』

最近とみに流行りだした宗教団体。『黄金三角教団』が、にわかに街の中で力を伸ばしてきた。
この洋上都市を突如包んだ霧により長らく封鎖され孤立した状況は、力なき洋上市民を不安のどん底に突き落とした。
青空を望めなくなった都市の空気はどんよりと曇り、長い外出自粛の空気は一部の人々を静かに狂わせていく……

極め付きはあの「邪神戦艦」の一件である。
正体不明、圧倒的な力と、異形。そして生み出された眷属である触手怪物を、市民の多くは目撃し、被害にもあった。

≪この街に、青空はなくなった……≫

力に乏しい人々は絶望し、そしてその絶望の受け皿が、「新興宗教」だったわけである。

「黄金三角をたたえよ! 救世主・ドン・ルイスの導きを信じよ!!!」

その行進の中に、学園の教師の一人、重信愛子の姿もあった。

「異能を持つ者があの怪物を呼ぶなら……みんな死ぬしかないじゃない!!!」

重信愛子は「黄金三角教団員」の証である黄色のバンダナを頭に巻きながら、
他の市民たちと一緒に腕を振り上げ、喉がちぎれんばかりに「青空はなくなった!」と叫んでいる。

重信愛子は、学園の教師という立場でありながら、不安と心労で精神を病んでしまい、
結果……怪しい教団の大行進に身を投じ、熱狂で不安をかき消すようになってしまったのだ。

この行進は深夜の大通りに出て、人々を街から少しずつ吸い上げ合流していく。
その数は200から300程度と、洋上都市の人口からすれば、現時点では少数のカルトにすぎず、
いまここで根絶やしにすれば、単なる一部の暴徒の暴走にすぎないだろう……。

愛子はその宗教団体の暴徒の中にいて、他の人々を煽り立てるようにふるまっている。その目はぐるぐると闇に渦巻き、正気ではない。

その行進の行く先は、先の事件でまだ完全に防御機能が復旧していない『富嶽』のある洋上都市中枢部に向かっているようだ。

/主様へ。ちょっとオリジナル設定が強いようでしたらいってくだされは撤回します。
/置きですがどなたでも絡み待ちです……
3久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/03(金)12:43:43 ID:pZx [1/1回]
前スレ>>1000
教師と生徒という立場が容易く揺らぐはずもなく、そう簡単に納得してもらえるとは思っていない。
それでも諦めを知らない少年は、尚も一歩も譲らず食ってかかるのだ。

「分かってる、分かってるさ。だからってこんな状況で、はいそうですかって大人しくしていられる訳ねえだろ」

目の前に底知れぬ危機が迫っているとはいえ。生半尺な正義感で正対できる相手でない事は、身を以て知っている。
子供の我儘、素人の傲慢、経験不足から来る楽観視。言い方は様々だろうし、否定できる理屈はそれだけ存在する。

「俺は大人も子供も、センセも生徒も関係なく、全部守りたい。それで俺がどんなに傷ついても、誰かを傷つける事になってもだ」
「ここで諦めたら、俺を認めてくれた奴らに申し訳が立たねえし――それで助かっても多分、死んだ方がマシってくらい苦しいと思う」

しかし圧倒的な強者と敵対しようと、間近に死を捉えようと。やはり守護の気質の一心だけは、折れも捻れもしなかった。
既に他人の死を背負っている。生き様を肯定してくれた人がいる。これから救えるかもしれない命がある。
故にその覚悟と決意を双翼として、いつかは堕ちると知っていても、希望を目指さずにはいられないのだ。
羽ばたこうともせず空を仰ぎ見るだけでいたのならば、胸を押し潰す後悔が押し寄せると悟っているからこそ。

「これだけはセンセにも譲れねえ。俺だって皆を守るために戦いたいんだ」

//大変申し訳ありません、寝落ちしておりました…!
//今日は安定してお返しできるのが遅い時間になると思いますので、イベント等平行でロールしていただいても大丈夫です…!
4深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/03(金)20:03:24 ID:kTI [1/6回]
>>2
「……何やってるんですか、先生」

買い物に出て来ての帰り道、レジ袋を片手に騒がしい人たちがいた為にそちらに向かってみたところ、偶然彼の通っている学園の教師を発見。
元々あまり宗教を信じる質の人ではない為に若干引いた感じで教師、愛子に問い掛ける
5重信愛子 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/03(金)20:39:20 ID:JmL [2/9回]
>>4

「んあ! 何よ邪魔よっ!」

数百人の群れの中にあらわれた学園生徒……
その姿に少しだけ見覚えは会ったものの、この教師は名前までは憶えていない。

「いい、この街はもうおしまいなのよ! 私たちみんな、死ぬしかないの!!
 でも黄金三角の導きがあれば、全世界最大幸福の黄金世界の三角の安定が得られるの!
 未来、永劫なのよ!!!」

教師は深山の肩をぐっとつかんで、大声でまくしたてる。
周囲の信者もその騒ぎを聞きつけ、じわじわ集まってくる……。
6深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[] 投稿日:20/04/03(金)20:48:28 ID:kTI [2/6回]
>>5
「ひ、ひぃっ!?」
!?というマークがもし出るのならば彼の頭の上に出ていたであろう。
まくし立てられてビビっている中、かなりドン引きした顔になり教師の手を払おうと手を動かす。

信者に囲まれて少し及び腰になりながらも
「す、すみません、僕そういうの信じてないんで……」

と答えてその場を離れようとする
7重信愛子 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/03(金)20:51:31 ID:JmL [3/9回]
>>6
「……逃がさないわ。信じる・信じない、じゃあ……ないのよ……」

手を振り払おうとするが、愛子は能力を発動する。
手が漆黒に染まっていき……その硬さ、重さが爆発的に増える。
手は200kgに増量し、その肩にのしかかる

「黄金三角の皆さん! ここに迷える子羊がいるわ……
 みなさんも全世界を救う教えをこの子に導いてあげてぇっ!!!」

周囲の人々はぶつぶつと教義について語りだし、その言葉を深山に注ぎ込もうとするだろう……
8深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[] 投稿日:20/04/03(金)20:59:00 ID:kTI [3/6回]
>>7
「あだだだだだだ!もげる!もげるぅ!」

悲痛な叫び声をあげて相手の手をバシバシ叩く。

「す、少なくともこの状況では死ぬ……!て、手の重さを軽くしてください!そうすれば僕は救われるんです!救いを求める人に望んだ救いを与えないなんておかしいと思いませんか!?」

そう言って命乞いにも聞こえる様な言葉を叫び。
もはやなりふり構ってられない状況で……
9重信愛子 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/03(金)21:02:43 ID:JmL [4/9回]
>>8

「どうせ……この洋上都市に居たら、みんな死ぬのよ……
 でもこの教義を聞けば、死ではない何か――新しい世界への黄金が開けるのよ!!!
 教団に入りなさいッ!! 入らないと――殺すわ」

命乞いを聞きながらも、その言葉をスルーし、ずっと手の重さを増量させ続けていく。
周囲の信者は重信の言葉に感じ入ったのか、うんうんとうなづき、みんな納得しているようだ。

重信の目は、本気だ。信じない人間は、人を殺しても構わない、そんな目をしている。

・・・・

洋上都市の一部の人々は、このような不安の中、宗教にからめとられているようだ。
黎明協会や政府の動きとは別の何者かが、この状況を利用しているのだろうか――?
10 : 重信愛子 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/03(金)21:03:08 ID:JmL [5/9回]
/ちょっとだけ離籍します。1時間後くらいに戻ってきますー
11深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[] 投稿日:20/04/03(金)21:05:28 ID:kTI [4/6回]
>>9
「こ、こうなったら……!」

何が何でも入るわけにはいかない、そんな彼は香水を愛子の顔にめがけて噴射する。
目には入らない様に距離を気をつけながら
12◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/03(金)21:12:36 ID:A9e [1/3回]
不可知論とは。人間の精神に内在し、そのために超えることの出来ない限界のため、神を超えることは不可能だという哲学的信条である。
これを掲げながら、その実態を碩学を目指す青少年たちの親睦会となっていたのだが、不可知論青年会である。
その実態は正に親睦会、或いは知識を研鑽しあう間柄に過ぎないのであるが――――この度、その組織を名乗る者達から一部の者達へ。
受信電信機……Eメールを用いて、メッセージが送られたのだ。

『未来ある碩学よ。その力を以て、青空を取り戻そう』

短くも熱意に溢れた文章であった。
指定された場所は、町外れの小さな映画館だった。
入り口には古ぼけた篆刻写真機があって、そこから小さな扉を潜れば、中は静まり返った無人の映画館だ。
奥には旧式の蒸気映像機が沈黙している――――そして既に何人かの若い人間が、そこに座って待っていた。

/イベント開始です
/参加いただける方はこちらのレスに返信をくださいませ
/途中参加・途中退場は自由としますので、よろしくお願いします
13重信愛子 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/03(金)21:48:44 ID:JmL [6/9回]
>>11
「ひゃぁっ!」

突然の香水を「毒ガス」と勘違いし、思わず能力を解除し手を放してしまう愛子。
敏感なアレルギー体質なので、しばらく混乱している。
周囲の信者たちは心配し、おろおろしている……

いまなら、愛子の周辺に人が集中し、逃げることができるかもしれない……
14深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[] 投稿日:20/04/03(金)21:53:51 ID:kTI [5/6回]
>>13
「よ、よし……今のうちに……!」

隙を見れば急いで愛子と信者から逃げるように離れていき。

「前に戦った怪物よりも恐ろしいな、アレは……」

彼等を遠巻きに見て一言つぶやく。
そして何より自分の通う学校の先生があんなことに……と思うと、学校で顔を合わせづらいなと思って
15重信愛子 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/03(金)21:56:14 ID:JmL [7/9回]
>>14

「許さないわ……あの子はどこへ行ったの!?」

重信愛子は周囲を見渡すが、信者たちにも気づかれずに少年は脱出したようだ。

「絶対探し出して……殺すか入れるか……してやるわ。覚えておきなさい――」

そう決意する教師だった。

/こんな〆でどうでしょう?
16 : 深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[] 投稿日:20/04/03(金)21:57:54 ID:kTI [6/6回]
>>15
「……流石に衆目の前では行動を控えるか……?」

そんな他愛もないことを考えながら家を目指していき……

/ありがとうございました
17比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/03(金)22:20:15 ID:JmL [8/9回]
>>12
「困ったねぇ……お偉方にご報告するような情報が、まったくないとは。
 こりゃあ今回の報酬は期待できないネェ……」

 よれよれのジャケットに穴の開いた革靴。がりがりにやつれた顔の冴えない中年。
 かれは忍者である。現代忍者として、内閣府の調査室からこの洋上都市に派遣されたスパイでもある。
 彼の目的はこの洋上都市で暗躍する黎明協会や、暴走する陸軍や憲兵らの動きをけん制しうる情報を届けることだったのだが……
 時が止まり封鎖された事件や、邪神軍艦の影響で本部と連絡する手段も絶たれ、
 また予想以上に黎明協会の情報が厳重であり、何の成果もあげられていないのが現状だった……

「まあ~、プロとして~、最低限の仕事はしないとー、とは、思ってるんだがネ……」

 そうつぶやきつつ、メールハッキングなどを繰り返してふと気になったのが
【未来ある顕学よ……】のメッセージだったのだ。

「不可知論青年会……? 単なる学生の親睦サークルとは思ったが。
 忍者としてのカン~てやつかねぇ。黎明につながる情報がある気がする……ネェ」

 怪しいにおいを感じ、現代忍者比良坂A氏は、小さな映画館の……裏口の排煙口から潜入し、
 天井裏に息をひそめて、静かに潜んでいる。

//もしよろしければ! 
//確定殺害もOKです!
18◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/03(金)23:22:22 ID:A9e [2/3回]
>>17

この会合に於いて、先ず代表者として皆の前に出ることに鳴ったのは篠田鐐という機関術を学ぶ学生の男であった。
そのシアターの舞台裏に於いて、何人かの青年会のメンバーが会話をしているが、その中に憲兵隊の軍服を着た男が居た。
何かお互いに、書類を確認しながら篠田という青年へと指図をし、それから彼へと手解きを受ける。

「情報はお前達に与えた。俺はそれだけだ。
 これはあくまで、お前達が自分から動き出したという、学生達による運動だ」

『大人が絡むのと、学生達の自主的な運動では大違いになりますからね。
 分かってますよ、甘粕さん。貴方はただの情報提供者だ。俺達はあんたには頼らない』

彼等不可知論青年会は間違いなく情報提供を受けて動いていた。
言うなれば、その自主性を“煽った”のが一人の個人であり、それを受けて動き出したのが彼等……というのがその構造だった。
だから表に出るのは篠田鐐という一人の機関技術を学び、名だたる碩学を目指す学生だった。


――――旧式の蒸気映像機が、音を立てて映像を再生し始めた。
不可知論青年会 代表 学園都市大学部機関術科三年生 篠田鐐――――大きく、その画面に、シンプルに映し出された。

『皆様、この度はお集まり頂き有難う御座います。私はこの学園都市に於いて、碩学を目指す者の一人であります。
 この度皆様に集まっていただいたのは他でもない……この、空を覆う、大時計。そしてこの学園都市に渦巻く陰謀について』

演説は、静かな立ち上がりを見せた。

/遅くなりましてすみません
19比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/03(金)23:34:25 ID:JmL [9/9回]
>>18
(ああー……あれは陸軍大尉の甘粕正彦……? 学生たちに何を……)

 聞き耳を立てながら、天井裏の隙間からそれを見ている比良坂。

(陰謀……? 陸軍が学生をあおって、クーデターか?
 そもそも陸軍があの「大時計」を疎ましがってるという事は……
 黎明協会と陸軍はつながってないという事か)

 演説を聞きながら、他に有名人はいないか凝視するが、角度がまずい。

(天井じゃよく見えないネェ……ちょいと危険だが、舞台裏まで行ってみるかァ)

 男は関節を外し、まるで軟体動物のように隙間を液体のように這い
 より良い場所を目指して移動をする。
 そのさなか、学生の演説をしっかりと聞いている。
 何事もなければ、映画館の映写室に相当するような場所にたどり着こうとする。
 もし障害となる人があるなら、殺してでも、そのポジションを得ようとする覚悟だ。
20押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/03(金)23:49:21 ID:Evn [1/1回]
>>3

「────────Hmm」

揃えて綴じたプリントの淵をどこか妖しさのこもる手つきで撫でながら思案する。
説得は通じない。安全を最優先に考えるならば、恨まれることは承知で事態が解決するまで彼を病院送りにしてしまうのも選択肢ではある。
しかし、そうしてしまえば成長はないどころか、彼自身が言うとおり一生消えない後悔を背負う事となるだろう。
それに、あの目の人間は何度病院へ送ろうがいつのまにかベッドから這い出して来る。そう言うタイプを受け持ったことは、一度ではない。
目を瞑り、ふうと一息。机の引き出しを開けあるものを数枚取り出し、プリントの上へと乗せる。

「いい?手に負えない相手に会ったら、何とかしてこれを貼り付けなさい。使い捨てだけど逃げるtimeくらいは稼いでくれるわ」

英語のプリントの上に踊る、派手なタトゥーの図柄の刻まれたシール。
貼り付けた対象から魔力や生命力を吸収し、記録された魔術を発動する外付けの術式……タトゥーシール。
内訳は「爆破」が3枚、「減速」が1枚。人々の盾とならんとする教え子への、せめてもの手助け。

「その気概はいいけど、無暗に他の子を巻き込まないのよ。後、その手の不審者に出くわしたら私にも話してちょうだい、絶対に無理はしないで……言いたいことは、それだけよ」

お説教をしたくて仕方ない口を鎮めるように、煙草を加えて火をつける。
平静を保とうとしても微かに滲む表情から、彼を戦わせることが不本意であることは分かるだろう。
しかし、彼の覚悟を前に、教師としてとった行動は黙認だった。

//こちらこそ遅くて申し訳ありません、返信しておきます
21◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/03(金)23:56:00 ID:A9e [3/3回]
>>19

『我々は学生として良く学び、よく笑い、健全に生きることを目的とされておりました。
 然しそれが、訳の分からぬ何かによって……青空は閉ざされ、島は隔離され、挙句の果て、先の邪神戦艦のような!
 私達の世界は、死と破壊を振り撒く何者かに侵略されているのです! 』

音を立てて、画面が切り替わる。そこには邪神戦艦による惨劇の記録が映し出されている。
破壊された家屋。撃ち殺された眷属。稼働中の邪神戦艦。そして殺害された学生や何人もの大人達の死体。

『我々には未来があり、大人になり、幸福な人生を得る権利がある!
 或いはこの中に、バベッジ卿や岩倉卿のように、後世に碩学として名を残す者が居るかもしれない。
 だがその可能性も、権利も、今や正に潰されようとしている!! 実態も分からない何かに――――然し!!』

演説が始まったのを確認すると、甘粕はゆっくりと動き出した。
ほんの僅かに天井へと視線を向けたのであれば、向かう先は映写室……ただし、すぐにそこには向かわなかった。
見知らぬ男がその扉の前にやってきたのを確認すると、腰元のサーベルに手を掛ける。

(草の者か。何ともまぁ、この状況で呑気なことだ……銃は使えない。
 ここで演説を中断させたくない。……これが一番良い)

ゆっくりとその後を追って、映写室の扉へと手を掛けようとするのであれば、その背後から男を無言で斬りつけようとするだろう。
軍刀による唐竹割り。一閃を以てその息の根を止めようとする――――映像機はパンチカードによって動かされているが。
中に居るクラッカー達に混乱が起こり、あまつさえ死人が出たりしたならば、騒ぎになる可能性がある。
ここですっぱり切り捨ててしまおうという魂胆であった。
22押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/04(土)00:01:54 ID:rf8 [1/9回]
>>21

演説を遮るかのように、古ぼけた扉が吹き飛ぶ。
その奥から伸びる、すらりとした女の肢体。

「spamをばら撒いたのは、あなたたちで間違いないわね?」

眼鏡の奥から鋭い目線が、青年会のメンバーたちへ注がれる。
高等部を経由したもの、もしくは経由していなくとも、GTO(グレートティーチャー押井)の名や姿は覚えがあるかもしれない。

「個人であの連中と戦おうとするのは勝手だけど……うちのstudentsを巻き込まないでもらえるかしら?」

教師として戦うべきと考えている相手は、何も黎明協会だけではない。
教育の妨げになる、怪しい団体もまた、補導対象だ。

//平行になりますがよろしければ
23久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/04(土)00:18:21 ID:opF [1/5回]
>>20
最悪聞き入れてもらえないまま、無理に押し通すつもりでさえあった。
元々非があれば素直に認められる気質であるが故に、間違っていると分かっていながら決めた行動に関してはひどく頑固。
これは信念と意地のぶつかり合いであり、両方が終ぞ折れなくてもおかしくはないと思っていたから。

「えっ……いいのか?俺が言うのもなんだけど、センセは絶対認めてくれねえかなって」

思わず目を丸くして、視線が見慣れない紋様と眞子の顔を往復する様は、普段通りに調子のいい彼だった。
しかし困惑はあっても躊躇は皆無。大きくしっかと頷いて、本意ではないと分かる苦味を吹き飛ばすように溌剌と笑った。

「ああ、分かってるって!大丈夫、センセのためにも無理はしねえよ」
「……ところでセンセ、まさかと思うけどそのプリントって……」

他人の道理を叩いて引っ込めてしまった自覚はある。だからこそ、不安を覚えさせたくはなかった。
が、みるみるうちにその笑顔が強張っていったのは。シールの下に鎮座するプリントに目が向いている事からも、その理由は一目瞭然だろう。
24比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/04(土)00:19:54 ID:RYW [1/9回]
>>21
(岩倉卿の名前が出たネェ。懐かしいねェ……今となってはもはや、故人だがネェ)

 忍者として懐かしい名前が出て感慨深い男。
 何を隠そう、彼は外務卿・岩倉具視の暗殺と替え玉成立にちょっとだけかかわったことがあり……
 といっても、下っ端である彼には岩倉具視がその後も生きていた事も知らないのだが。

 そして関節を外しながら、映写室の脇倉庫の隙間に降り立つ現代忍者。
 のうのうとその映写室のノブに手をかける。

 その刹那――

(――?!)

 首と肩の関節を外し、背後からの攻撃を間一髪、奇妙な体勢で唐竹割をかわす忍者。

「……へっへっへ……物騒でございまさぁねぇ……」

(失敗だ――――!!!)

 内心ドキドキしながら、とにかくヘラヘラ笑う現代忍者。所詮は兼業農家である。

「いやっ、なに、なんといいますか、いやあ、斬新な映画でございまさあねぇと思いましてねぇ……」

 そうやって苦しい言い訳をしていると……

>>22

「おっと?」

 映画館の中で騒ぎが聞こえる。どうやら何か事件が起きたらしい。

「やー大尉! 何か起きたみたいでございまさぁねぇ! ちょっと、様子を見に行かないと!」

 へらへら言いながら客席に向かうふりして……隠れられそうなスペースに移動しようとする。
 少しでも甘粕の気がそれたら、視界から外れるつもりだ。
25◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/04(土)00:28:15 ID:xTS [1/15回]
>>22

『……出入りの際は、お静かにお願いします、先生』

映画館の脇を固める、不可知論青年会の一人である、高等部生がそう言った。
赤松克麿という少年であった。ロシア革命に大きく影響を受け、社会活動を志す少年であった。
出入りも私語もこの場では許されている。学生であろうが、大人だろうが、それが誰であろうとも。
然しこの場に大人が介入するというのは、果たしてどういう意味を成すのか。
それを理解していない訳でもないだろう。そして何を気にすること無く、熱の冷めぬ内にその続きを紡ぐ。

『こんなことが許されてなるものか? 貴方達は許すことが出来ますか!?
 訳も分からぬ大人達の陰謀によって、私達の自由も、未来も、権利も、何もかもが蹂躙される今を!!』

篠田鐐の演説技法は、後の世ではアラン・モンローの説得技法と呼ばれる弁舌技法に酷似して続けられる。
力強く、そして何より彼等に共通する脅威を提示し、それに抗う意思を彼等へと見せつける。

『この学園都市に生きる同士達よ! 私は信じている! 私達が団結すれば、必ずやこの閉ざされた世界を解放することが出来る!
 そして何より……私達は、その為の“力と情報”を手に入れたのだ!!』
26◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/04(土)00:38:58 ID:xTS [2/15回]
>>24

「草の者。幕府はとっくの等に倒れて、すっかり40年は過ぎてるが」

唐竹割りを外された。その身のこなしに驚くことはなかった。
甘粕正彦とて陰謀家であるのだ。正しくその、岩倉具視と繋がり、東条英機を直属の上司に持った男である。
だから内閣府がそういう存在を未だに抱えていることを知っている。だからこそのその挑発であった。

「……ただのお客さんだ。ここは学生さん達の場だぜ、おじさん」

ここで逃しては不味い。観客席の方に逃げられては、刀を振って暴れることは出来ない。
転がっていた乾いたペンキ缶を蹴飛ばして、観客席に向かう男への牽制としてみせた。
然し男の姿は一瞬の内に見失う……僅かでも、演説に現れた闖入者へと意識を向けてしまったせいだろう。

「……内閣府お抱えのお前達がこんな学生集会に何の用がある?
 まさかその歳になって碩学者目指そうってのかい?」
27押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/04(土)00:47:27 ID:rf8 [2/9回]
>>23

「やめろといってもやる気でしょう?認めなくていいなら、今からでもそうさせてもらうけど」

冗談半分、本気半分。
黙認の決断の裏にあるのは、彼の意地だけではない。
ある程度の戦闘能力を一度自身の目で確かめたこと、周囲の人物を無暗に巻き込もうとはしていない事。
そして先日の戦艦騒ぎでこの都市に安全地帯がなくなりつつある事。
それらを加味したうえで、より千梛の為になるであろうというギリギリの判断。止められるなら止めたいのが本音だ。

「ええ。追加のhomeworkよ。第3弾、第4弾も用意しておくから」

ふっと口角をあげ、どこか楽しげに差し出す。それとこれとは話が別だ。
彼がそのプリントを乗り越えてまたこの場所へ持ってきたならば、どんどんと量を増すそれらをお出しされることだろう。

「Masterするまで、死ぬんじゃないわよ?」

その言葉で、この邂逅は締めくくられるだろうか。

//こんな感じで〆でどうでしょう?


28比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/04(土)00:48:11 ID:RYW [2/9回]
>>26
「……結局、倒幕だあなんだ、と、若者の野心があろうと、
 権力を握っちまうと――若さってのは、しなびちまうモンなんでしょうなあ……」

 ペンキ缶をあえて頭に食らいながら、その音にまぎれてより闇へ行方をくらませる。

(……もとより用事はねぇんだよなあ。忍者としてのカンが、外れちまったんかねぇ。
 洋上学園の学生運動を陸軍が密かに扇動しようとしてる……程度の情報じゃあ、
 邪神戦艦級の騒ぎやらなにやらの説明にゃあならないもんだしねえ……
 ここは早々に撤退するかネェ……)

 そう思いつつ……甘粕がここにいるという意味を、もう少し見極めたいという現代忍者。
 そのまま隠れながら、映画館で何が行われるか、じっと耳を澄ます。
29押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/04(土)01:02:18 ID:rf8 [3/9回]

「Questionに答えなさい。Spamばら撒いたの、あなた達?」

静かにという注意に食い気味で、メール画面を開いた携帯端末を床へ放る。
黎明協会に新興宗教、次は革命まがいのことを目的にしているらしき組織。次々と湧いてくるtaskに、眞子の頭は重くなるばかり。

「また粋がってるクチ……」

この騒動に足を突っ込んで以来、妙に詩的か変に粋がる話し方をする人間ばかりでいい加減うんざりしかけている。
アピール優先でコミュニケーションが二の次になっているような話し方が蔓延しているのは、言語を教える教師としてこれもまた頭の痛くなる問題と言えるだろうか。
自身の話し方を棚に上げている、というツッコミはさておき。

「それをどうにかするのはあなた達の仕事じゃないわよ。大人しくreport書いてなさい」

扇動的な彼の話には耳を貸すことなく、解散を促す。
それに素直に応じるとは考えてはいないが、果たして。
30 : 押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/04(土)01:07:47 ID:rf8 [4/9回]
//安価忘れ>>25
31 : 久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/04(土)01:11:15 ID:opF [2/5回]
>>27
「まあそうだけど……って、それは困る!モチロン認めてほしいっての!」

泡を食って否定、ぶんぶんと両手を振って全身で恩情を受け止める心算を示す。
コップから溢れそうな程に張り詰めた水面に、進んで水を加える気には流石になれない。
零れても厭わないつもりだったとはいえ。静水を保っていられるなら、それに越した事はないのだ。

「うげっ……そ、それはまた別の話だろ!?もう勘弁してくれよ!」

愉快そうな眞子とは対照的に、突きつけられた追加課題に気圧されるように後退る。震える声、開かれた瞳孔。
いくら恐慌を齎す存在に対峙できようと、勉学を相手取るのであれば背中を見せるのも吝かではない。
しかし本質的には素直であるから、結局提出の約束手形を受け取らざるを得ないのだ。

「くっそお……!なんでこんな目に合わないといけないんだああああ!!」

そうして人気の少ない高等部校舎で、悲痛な叫びが反響したのであった。

//そうですね、こちらはこれで〆になります!
//お付き合いありがとうございました、お疲れ様でしたっ
32◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/04(土)01:11:15 ID:xTS [3/15回]
>>28

(隠れられると厄介だな……劇場は暗い。仕方ない)

「おい、草の者。ここから何もせず出ていくってんならこっちも手を出さない。
 だがなにか動くつもりなら……」

黎明式を用いて、暗視装置を創造、頭部に装着する。
それを用いて居場所を特定しようとする。
正直に言えば、騒ぎを起こさないのであればここを逃してしまっても構わない。
ここで彼が得られる情報は、確かに甘粕自身が提供した物であるが。果たして、それをどう判断するか。

『……この情報は憲兵隊の同志より提供された確かなものだ!!
 この陰謀の提供者は、黎明協会! 数多の……実に嘆かわしいことだが……碩学によって構成された秘密結社……。
 彼等は黎明式なる特異な術理を使う……然し、我々には、それに対抗するだけの力が齎された!』
33比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/04(土)01:20:02 ID:RYW [3/9回]
>>32
(なんだ……あれは……?! 無から有を生じた!?
 あれが魔術……いや、違う。なんだ、全く違う能力体系か――)

僅かな隙間に潜り込み、そのまままた天井に戻ろうとしていたが……
甘粕の「黎明式」を初めて目の当たりにしておののく忍者。
異能の中でもきわめて特異な「黎明式」は、内閣府の中ではまだ情報に乏しいものも多い。

そして耳にする学生の演説……何者かの闖入でいったん止められ、騒ぎの中わずかに聞こえるそれは……

(「黎明式」……そうか、これが……)

と感じ入っているが、甘粕が創成したそれが暗視装置だとは気が回らない。
現代忍者は壁と天井のわずかな隙間に体をいれながら芋虫のようにうごめいている。
攻撃を食らえばひとたまりもないだろう
34◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/04(土)01:22:43 ID:xTS [4/15回]
>>29

「先生、ここは学生の場です。貴方は本来歓迎される身ではなく、そのメールも貴方に向けたものではない。
 静粛に。それが出来ないのであれば、ご退場願います」

高等部の少年はあくまでもこの場では、彼女のことを諌めるつもりであった。
暴力的な手段を講じようとはしていない。ただ、ここは彼女を歓迎せず、然し敢えてそれを受け入れている。
演説は続いていく。マイクのエコーがかった篠田の声が、劇場中に響き渡っていく。

『――――ここには正に《Mの書》がある! これは魔術礼装……あの黎明協会が探し求めていたもの!
 この力さえあれば、我々は超人へと至れる! 彼等を超えるユーバーメンシュになれる! 青空を取り戻すための力を得ることが出来る!!』

掲げたのは、一冊の本。今は非稼働状態の魔術兵器。
薔薇十字団の教祖によって作られたそれは、情報提供者の手を通して今、学生達へと差し出された。

『我々は一人でも多くの生徒達を救いたい……そのためには最早!
 我々学生が、立ち向かわなければならない! 我々の手で、未来を切り開かねばならない!』
35◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/04(土)01:29:18 ID:xTS [5/15回]
>>33

「……返事が聞こえんな……全く、面倒だ」

手に持っていた軍刀を鞘に収める。
ようやくその姿を捉えた。まさかそんな高いところにいるとは想定外だったが、そこならばよけられないだろう。
再度創造するのは消音拳銃だ。最初から、その銃自体に消音装置を搭載した試作型の拳銃だ。
然し、消音器を使用するとは言えある程度大きな音は避けられない……だが、演説がある程度進んだ今なら、この程度は許容範囲だ。

「落ちてきな。視線合わせてお話しようぜ……!」

引き金を引くと、ドンドンと、扉を叩くような音が鳴った。
銃声はマイクの音に掻き消された。
36比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/04(土)01:36:08 ID:RYW [4/9回]
>>35

(!?)

無から有を生じたのが、銃と気づいた時には遅かった。
銃口はこちらをとらえ、的確に撃ってくる。

「――カハッっ」

腕と肩、そして腹に弾丸を受け、どさっと落ちてくる比良坂。
もとより闇に隠れなければその力もは半減するのが忍者といえる。

「発砲とは……穏やかじゃあありませんなあ……」

傷口を抑えながら、激痛で虫の息である
急所はぎりぎり外しつつ、もはや忍者としての動きはむつかしい。

(ここで死ぬかあ……。残してきたアスパラガス農園だけが心残りだネェ……)

覚悟を決めている忍者。だが忍者として捕縛されては生きていけない。
自殺用の毒薬を、奥歯でかみつぶそうとしているが……
37◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/04(土)01:48:14 ID:xTS [6/15回]
>>36

『ひぃ!? 甘粕さ……』

「騒ぐな、落ち着け。死んではいねえ」

傍らの、青年が取り乱しそうになるのを静止しながら、足早に銃を片手に彼の下へと向かう。
密偵が追い詰められた場合は、どうするかと言えば……服毒でもするか。死を以て情報漏洩を防ぐことだろう。
だが、それだと少々面白味がない。色々と聞いてみたいことがある。

「おい、待てよ。ちょっとお話しようぜおっさん」

その髪を引っ掴むと、口の中に無理矢理拳銃を突きこもうとするだろう。
奥歯にでもなにか仕込んでいるのは予測できる。力技だが、それを無理矢理止めるためだ。
歯が一本や二本折れようが気にすることはない。

「お前ら内閣府は何処まで知ってんだ?
 俺の事は知ってそうだな。じゃあ俺が岩倉卿の命令を受けてることは? そもそも内閣府は黎明に対してどういうスタンスだ?」
38比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/04(土)01:55:34 ID:RYW [5/9回]
>>37

「ガハッ!」

口に銃を突きつけられて、前歯が折れて飛ぶ。

(自決すらさせてくれないとは……優秀な軍人、いや……こっち側の匂いがする……ネェ)

質問を受けつつ、けん銃に手にやり、どけて、とサイン。

「……内閣府は、なあんにも知りやしませんぜ。だからこそ、あっしみたいな時代遅れでも使ってくるわけでさぁ。」

 とニヤつきながら笑う。維新から数10年たったとはいえ……表はウラを完全に掌握出来てはいない。
 幕府の時のような数百年にも及ぶ権力が暗部を使いこなしているようには、できてはいないのだ。

「だから、あんたらのようなボンに、出し抜かれっちまうですなあ……。やれやれ、死ぬタイミングをまた逃したもんですねェ」

 と皮肉を言いつつ

「……岩倉卿? あんた、死人にでも命令をうけてるのかい?」

 これは本当に末端の男が知りえない情報だった。すっとぼけるでもなく、素朴に疑念を口にする。
39押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/04(土)01:56:24 ID:rf8 [5/9回]
>>34

「ならうちのstudentsを巻き込もうとするのをやめなさい。3回目は言わないわよ」

再び食い気味に、鋭い目線で返す。思想にかぶれるのも思春期ならありがちだが、他の生徒を巻き込むなら話は別。
歓迎されてない団体に首を突っ込むのは眞子にとって慣れっこだ。
生徒を危険に晒しうる団体のいう事を聞く道理など、GTOにはない。

「What?」

高らかに掲げる本に片眉を上げ、怪訝な目を向ける。
これだけ首を突っ込んでおきながら、Mの書については初耳。
微かな魔力を肌で感じる辺り、何かしらの魔道具であることは間違いなさそうだが。

「────Huh?」

壇上の少年が言った、眞子にとってのNGワード……積極的に闘いへ他の生徒を巻き込もうとする言動に、全身の術式が起動。
次の瞬間、入り口から演説を行う少年へと一跳び。その顔面へ拳を振りぬこうとするだろう。

「それはあなたたちの仕事じゃない。これも二回目よ。Get back early,do you understand?(早く帰りなさい、わかった?)」

拳の成否に関わらず、マイクの前に立ち(立てずとも全員に聞こえる声の大きさで)青年たちへと警告じみた発言。
一触即発、いや火ぶたは既に切って落とされている状況。
40◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/04(土)02:14:25 ID:xTS [7/15回]
>>38

拳銃を退けてやると、それの実体化を解除する。
知らないおっさんの唾液塗れになった銃身を振り回すような、そんな特殊性癖は甘粕には存在しない。
憲兵流の『尋問』にでも掛けてやるつもりだったが、自分から喋ってくれるのならば、それはそれで手間がかからない。

「へぇ……本当に何も知らんらしいな」

彼の言葉を総括して……途中までの話であれば、彼が嘘を言っている可能性とてあったが。
決定的な反応は岩倉具視に対する認識だ。あれを知らないとするのならば、本格的に内閣府は殆ど情報を握っていないことになる。
黎明協会を把握しているのは、今は殆ど陸軍である……ということか。

「――――生きてるよ、岩倉卿は」

そして、事も無げに男は言った。
岩倉具視は暗殺され、その日本に尽くした生涯を悲劇的に幕を閉じた……というのが、彼等の知るストーリーだろう。
だが。岩倉具視という男は、徹底的に謀略家だ。自身の死すらも、計算式の中に取り入れて。
黎明協会へと、渡った。

「日本は維新で強くなったが。それでも満足できないんだと。
 神州日本……中国を支配し、アジアを支配し、ロシアを支配し。世界征服を夢見てる」

純粋な夢で、全く以て途方も無いものだった。
だが彼は、それを成せると信じている。成し遂げることが出来ると信じていて、だからこそ今も裏側で糸を手繰る。

「子供みたいだろ? それが面白いんだ」
41比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/04(土)02:26:07 ID:RYW [6/9回]
>>40
「ゲホッゲホッ……
 なんともはや……。岩倉卿は、壬生の残党らの策謀で死んだはず――」

 その策謀の下働きをしたのがほかならぬ自分自身である。
 暗殺に関わり、歴史の中の一部になれた……と忍者としてのやりがいを感じていただけに、ショックは深い。

(俺ぁ……とんだピエロだぁネェ……)

「世界征服だと。……愚か。愚かだよぉ。
 あんたら、何もない大地に種ェ撒いたことあるのかい?
 何もない大地が、豊穣の土地にかわる実感を知らネェんだろうなあ」

 兼業農家忍者は、その子供じみた夢を、あざ笑う。

「それを聞いちゃあ、この情報。内閣府に確実にとどけないと、いけませんナァ――」

 純粋な「他人の夢」を語っている甘粕。比良坂からわずかに目を離したそのわずかなスキ。
 忍者・比良坂は銃の実体化が解けてセキをしたときに密かに吐き出しておいた、一本の太針を手にした。
 シビレ薬を仕込んであるその針が比良坂の右手にあり、それを甘粕の視界の外側から、関節を外した不思議な腕の動きで鞭のようにしならせ……
 できれば首筋の経絡秘孔を目指して、突き刺そうと試みる。

「なるほど、岩倉卿は生きているのかい。
 なら、それを、きちんと死んだことにするのが、俺の人生の残された仕事になるってワケだぁネェ……」
42◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/04(土)02:30:29 ID:xTS [8/15回]
>>39

『共に闘おう、皆! 私達は、私達の手によって、未来を取り戻す!!』

そして、演説の熱気は最高潮に達した。
それを以て一区切りとして、劇場の中から喝采の如く拍手が起こった――――蒸気映像が、そこで停止する。
篠田は《Mの書》を脇に抱えて、眼鏡をお仕上げた。そして、次なる段階へと演説を進めようとしていた。

『さぁ、皆――――ぐぅ!?』

唐突な闖入者。この演説に於いて、篠田は一切彼女のことを認識していなかった――――
マイクの声量とこの暗さ。そして何より、全体へと向けて話していたことが在る。
小さなアクシデントを気にしないこともまた、演説の才能であるが……それが仇となった形となるだろう。

『くっ、な、何者だ……いや、確か高等部の……教師……!!』

舞台の脇には拉げた眼鏡が転がった。鼻が圧し折れて、ダラダラと鼻血を垂れ流しながらも、然し立ち上がった。
ここで演説を止めれば、確実に熱を逃すことになる。
何故止められなかったのかはこの際聞かない。この状況を、友好な方向に転がすことが最優先だった。

『……教師ですら……こうして……暴力を以て、抵抗することすら奪い取る!
 話し合うことすら許さず、具体的な有効策も示さず、ただ暴力で、抑えつけようとしている!』

流れる鼻血を流しながら、観客席へと男は叫ぶ。
攻撃的な行動に及ぶ予兆はなかった。それがこの場に於いて有効な手段ではないことを理解しているからだ。

『だが、大人になろうとする青少年の血は……こんなにも熱く、滾っている!
 力と権力で青少年を抑える大人達に!! 我々の強さを!! 見せつけてやろう!!!』

――――劇場には歓声と罵声が飛び交った。
それぞれがどちらに向かっているかは、敢えて言葉にすることもなく。
ふらつく身体を、脇から飛び出してきた二人の学生に支えられながら、篠田はそこに、勝ち誇ったように立っている。
43◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/04(土)02:40:01 ID:xTS [9/15回]
>>41

「壬生どもよりも、あの男が上手だったってことだろう?」

単純な結果だ。陰謀家としての化かし合いならば、より性格が悪い方が勝つ。
そして岩倉具視はより正確が悪かった。タチが悪かった。だから出し抜くことが出来た。

「“何もない場所に日本を作る”んだ。 何か違うか?」

これは甘粕自身の答えではない。甘粕はただ、岩倉のことを面白い夢を持った男であるとしか思っていない。
だからこれは、岩倉自身からの答えだ……彼にとっては。全て何もかもを日本に変えてやる革命こそが目的なのだから。
……比良坂が動き出した瞬間、右手が動き出した。軍刀を引き抜いて、真っ二つに切り捨てようとした。
だが間一髪、その右手に針が突き刺さった。

「おしゃべりが過ぎたな、なんて失態だ!!!」

右腕が使えない。とならば、右足を思い切り比良坂へと叩きつけようとするだろう。
元々甘粕は脚を悪くしている……そのための補助機械代わりに、軍服の下には強化外骨格を着込んでいる。
その脚力は、尋常のそれではない。
44比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/04(土)02:50:14 ID:RYW [7/9回]
>>43

「何もないところにヤリでも突き刺して、”国産み”ってワケかァ?
 この島がオノコロ島――イザナミとイザナギの伝承とおんなじ名前とは、しゃれが利いてるねぇ」

 使えない右腕で切られるほど、耄碌はしていない比良坂。
 怪我はしている。体の動きは鈍い。
 だが、まっとうな戦いではなく、化かしあいであれば、忍者に一日の長がある――

『ひっ、あ、甘粕さ――たす、け……』

 近くにいた青年の後ろに滑り込み、盾にしつつ。
 コルトハイウェイパトロールマン・ニンジャカスタム銃のサイレンサーを外すと、甘粕の足を狙い撃ち2発弾丸を発射。

(ま、軍人さんはこの程度では死にゃしないだろうが――
 強すぎる脚力ってもんは、ちょっとした誤作動でエラーを起こすもの……
 せいぜい、この場を荒らしてくれるとありがたいネェ!)

 銃声は映画館内>>42で『力と権力で青少年を抑える大人達に!! 我々の強さを!! 見せつけてやろう!!!』と青年がアジり、
 歓声が聞こえた直後に鳴らされたものだった。
 歓声に銃声が加われば、この集会も穏やかなものになるはずもない。
 血気盛んな学生たちのことだ。下手すれば、暴動にもなりかねないだろう。

 比良坂は混乱の場を作り出し、その人ごみにまぎれて脱出しようとする腹積もりだ。
 比良坂は青年を縦にしつつ、痛みをこらえて映画館の観客席方面へじりじり逃げようとしている。

 そこは、血気盛んな教師・押井がカチコミしにきた混沌の現場になっていることだろう!
45◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/04(土)03:14:52 ID:xTS [10/15回]
>>44

「クソ、離れてろと……!」

ここで盾にされた青年ごと撃ち抜く訳にはいかない。そんな事をすれば全てご破算ということになる。
取り敢えず手の中に銃を創造するが、その隙を突いて両足へと銃弾を撃ち込まれる。

「い、ってぇなぁ……!!」

舌打ちをする。確かにこの程度の銃弾であれば死ぬことはないが、それによって破損した外骨格はまた違う。
デッドウェイトになってしまうのだ。もちろんある程度の衝撃はどうとでもすることは出来るが。
銃撃のような暴力までを想定しているものではない、服に着込んでいるという特性上装甲があるでもない。

『な、なんだ……!? 今度は銃声かだと!』

館内に響いた銃声。次々に発生する異常事態。
そして人混みの中を逃げられれば、甘粕には追いつけない。
強化外骨格を外す時間も、そして何より何の補助もない脚では追い付くには難しい……こればかりは完全に失態だ。

「嘗めてたぜ、時代遅れの草の者なんて……」

追跡は諦めることになる。何よりこの荒れ果てた現場を追いかけられる気がしない。
この化かし合いでは甘粕は勝つことが出来なかった。舌打ちとともに、その姿を見送ることになる。
後は、この人混みをどう抜けるかだ。
大人に対する敵意を最大限まで煽られたこの現状で、どう切り抜けるかが、彼の最大の課題になる。
46押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/04(土)03:16:07 ID:rf8 [6/9回]
>>42

異様な熱気に包まれる館内、眞子に向けられる罵声、その様子を見て溜息を一つ。
ゆっくりと足を真上まで持ち上げ、息を大きく吸い、身体強化術式に魔力を回し。

「具体的な有効策が、何ですって?」

返答として。一気に踵を、振り下ろす。

めきり。べきり。ぐらり。

眞子の足元に大きな亀裂が走る。
柱がきしみ、建物が揺れる。不意を突かれたならば、篠田をはじめとする立っていた者は体勢を崩しうるほどの揺れ。
浴びせるのは、その熱気を凍り付かせうるだけの純粋な力。
そしてそれは、「加減していなければ先ほどの一撃で篠田は終わっていた」ことを、万の言葉より雄弁に語るだろう。
まるで朝礼で校長先生がそうするように、静まり返るのを待ってから。

「Don't be stupid.話し合いって言うのはね、相手に対抗できるだけの力を持って、通じるかどうかを考えてするものなの」
「煽られて熱くなった勢いでなったinstant soldjerや、そんな連中を煽って全貌も分からない相手に突っ込もうなんていう子には難しいことよ?せめてもっと勉強してからにしなさい」

まさしくお説教。劇場にいる青年たちの何もかもが、かの秘密結社に挑むには足りないと、ただ語る。
それは素直に聞き入れるか、更なる反発を生むか。

「強さ、見せつけるんでしょう?早く……っ!」

どこからか銃声が響き、舌打ちをする。
混乱は避けられない。戦闘に備え、構える────!
47 : 押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/04(土)03:18:27 ID:rf8 [7/9回]
//スペルミス、soldierでした
48 : 比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/04(土)03:22:49 ID:RYW [8/9回]
>>45

『ひゃっ、はあああ! アッ、アッ、甘粕さ――』
「はいはい、ゴクローさん」

甘粕の追撃を青年の盾でなんとか振り切り、映画館の裏手から逃げ出す。
そして盾にしていた青年を……

>>46

まさに会場が一触触発の状態になっているところに、盾にされていた青年を、映画館の壇上めがけてぶん投げる!

どよめく会場内。一人の教員らしき女が、学生たちに囲まれているのを見て、比良坂は……

「学生に無差別に暴力が振るわれているぞぉぉぉっ!!」

と大声を発する!!!

混乱を起こして、この混乱で人ごみにまぎれて、逃げ出そうとしている現代忍者。
人の群れに身を投じて、気配の薄いこの中年忍者は映画館から脱出を図る!!!
49◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/04(土)03:45:27 ID:xTS [11/15回]
>>46>>48
『見ろ……この期に及んでまだ、私達に暴力を見せつける!
 その暴力で奴らを抑えるでもなく!! 私達に、見せつけて、捻じ伏せようとする!!』

篠田には実際に、横流しされた《Mの書》という力を握っている。
その力を知るからこそ、その暴力にも平然と立っていることが出来た。

『だが安心してくれ、皆……! その力を、今こそ見せる……』

一撃で仕留めることが出来なかったのは、一撃で仕留められない事情があったから――――そこまで頭に入れて。
そして会場内に、鳴り響く銃声と――――

『……お、大杉!! 何があったんだ……!!
 くそ……!! 見ろ、やはり学生を人間だとは思っていない!! 教師も、黎明も、皆同じなんだ!!』

篠田は裏側で起こったことを何一つ把握できていない。
唐突に響いた銃声も、忍者に放り投げられることになった彼の顛末も……だからこそ、今は困惑するのみだ。
目的は殆ど達成している。ここまで暴徒化するのは想定の範囲外だが……。

「……やってくれたなぁ、あんにゃろ。
 こっちは撤退だ。後はもう、俺は知らんぞ。知らん知らん」

甘粕は後ろ側でそう呟くと、腰から軍刀を外し、それを杖代わりに歩き出した。
ここでの案件は終わりだ。こうなると脱出を止めることも出来ない……だったら巻き込まれる前に避難するしかあるまい。
暴徒化した状態で憲兵の自分がいることを見られたらそれこそ厄介だ。混乱が及ぶ前に、去っていった。

壇上には手当たり次第に物が投げ込まれている。
罵声と罵倒と、銃声によって煽られた暴力。強烈極まる熱気。
支える二人の学生から何か耳打ちされると、篠田自身も頷いて。

『次の集会はまたメールで知らせる!! 皆、力を合わせ、自らの力で未来を拓くんだ!!』

最後にそう叫んで、《Mの書》を小脇に抱えて、熱狂と投擲物が吹き荒れる壇上から捌け、そのまま去っていくのだった。

/それでは、こちらからはこれで〆とします
/ありがとうございました
50押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/04(土)03:49:00 ID:rf8 [8/9回]
>>49
//すみません、残った暴徒は勝手にボコボコにして捕まえちゃっていいやつでしょうか
51 : ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/04(土)03:51:18 ID:xTS [12/15回]
>>50
/どうぞ
52 : 比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/04(土)03:53:24 ID:RYW [9/9回]
>>49

「ふーっ……やれやれ。銃三発を食らって生きてる……
 俺も残念なくらいに……忍者だぁネェ……」

 暴徒がボッコボコに大変なことになっているさなか、忍者は人の影に隠れて脱出する。

「耐え忍びながら生きて情報を持ち帰るのが忍者の定め、って……痛い、痛いんだけどねぇ」

 銃で撃たれた体を引きずりながら、映画館を後にする。
 まだ内閣府には連絡する手段がないが、男の目的は変わった。

 生きている亡国の亡霊・岩倉具視を、「しっかりと殺すこと」。

「そのためには……黎明協会と「黎明式」。この秘密に近づくことが、最優先かネェ」

 止血をしつつ、忍者は闇に帰っていった。

/ありがとうございました!
53 : 押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/04(土)04:42:30 ID:rf8 [9/9回]
>>49

「私に力を見せつけられたりねじ伏せられたりする程度の腕であの不審者連中と戦おうとか、それこそひどいjoke」

抑えていないのではなく、眞子の力を以てしても抑えられないということに気づいたうえであえて言っているのか、それとも気づかないで本気で言っているのか。
彼の思う一撃で仕留めなかった事情というのも、大学部とはいえ学園生徒相手に命を取りに行くほど眞子とて野蛮ではないというだけの話。
天然にしろ計算にしろ、率直に言ってとても面倒臭い。とんでもない馬鹿なのではないか、という疑問が頭に浮かぶが、それでも教師ならば向き合わねばならない。

「逃げるんじゃないわよ……!」

協会が狙うという「Mの書」を抱える篠田を追いかけようとするも、投げ込まれた青年に阻まれる。
そちらを向くと、逃げる男の姿。そしてそれは瞬く間に、怒れる群衆と化した青年たちに紛れる。
すなわち、完全にスケープゴートにされた形となったわけだ。


「HOLY SHIT!!!」


アリバイ用の「記録」のタトゥーシールを、自分に貼り付けて。
その手に握るは、朔の杖。



「────ったく」

およそ一分後。
椅子に座り煙草を吹かす眞子の周囲には、気絶した青年たちがずらり十数名。
魔力壁に悉く攻撃を防がれ、飛行で薙ぎ払われ、一撃をまともに捉えることもできず吹っ飛ぶ。
こんな連中を戦いに出したら、味方の被害を広げる一方……というのはGTO故の厳しすぎる見立てだろうか。
今回ばかりは全員、取り調べと拘束は食らってもらう心づもり。こうも簡単に煽られるのでは短期間での矯正は眞子でも流石に望めない。
またこんなことに参加されてはたまらないし、浮かれて前線に出られるより少年院か保護観察下にいた方がましだろう。

「なんでこうも、次から次に面倒なことばかり起こるのかしら」

Mの書や黎明協会に関する情報を、彼らが一から手に入れられたとは思わない。裏で手を引いている人間がいるとみるのが自然だ。
一難去らずにまた一難。誰に向けたわけでもないボヤきは、煙とともにしばらく漂っていた。

//遅くなりましたがこちらもこれで〆でお願いします、お疲れ様でした
54 : ディ(以下略◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/04(土)14:01:28 ID:vMx [1/1回]
某日放課後、教室。
カリカリとノートに書き込む音が聞こえる。

「…」

机には開かれた教科書とそれを挟み込むようにしてノート二冊が置かれ、
少年は両手にシャーペンを握りしめ左右のノートへ同時に何かを書き記している。

「……」

集中しているようで一言も発さず作業に没頭しているその目は赤く輝き揺らめいていた。

/待ちです
55淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/04(土)22:17:02 ID:opF [3/5回]
空が澱んで蒼天が望めなくなってしまったとして、最も近い青を求めるとしたら。
躍起になって探したつもりはなかったが。これと思って足を止めたのは、潮騒が呼ぶ白い浜辺だった。
足を踏み出す度、柔らかな砂に靴が沈む。歩き易いとは言えないが、不快な感触でもない。

「――空と海、どっちが自由なんだろうね」

休日と雖も海水浴にはまだ尚早。堤防を通りがかる人はちらほらいるが、砂浜まで降りて来る者はごく一部。
制服で一人水遊びに興じる程にお転婆ではないが、少し戯れるくらいならと。靴と靴下を脱いでそっと乾いた砂に浸す。
波打ち際、色の濃い砂の一歩手前。遠く水平線に視線をやって、大きく打ち上がった飛沫を見る。陸の上に鯨の唄までは届かないようだった。
56ディ(以下略◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/04(土)22:44:04 ID:8gN [1/3回]
>>55
「そりゃあ、空なんじゃあねえの?」

唐突に声をかけてきたのは古い眼鏡かけ片手に小さめの古い書物を携えたジャージ少年。

「……いや、すまん。
 今のは別に俺に聞いてたわけじゃないな?
 ちょっと歩き読書してて咄嗟に返事しちまった」

反射的に答えてから苦い顔をした。
57 : ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/04(土)22:47:55 ID:xTS [13/15回]
>>55

「陸よりは、どっちもマシなんじゃないの」

ザクザクと、砂浜を下りていく。
海遊びなどやったこともなかったが、一つ話をしてみたいことがあったものだから、随分と探し回ってしまった。
跳ね上がる水飛沫に向けて、目を細めながらも。波打ち際まで、歩いていった。

「少し話したいことがあるのだけれど。良いかしら」
58 : ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/04(土)22:48:07 ID:xTS [14/15回]
/被り失礼しました、引きますね
59ジェームズ・モリアーティ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/04(土)22:55:38 ID:xTS [15/15回]

排煙の薄く烟る世界は、彼にとっては慣れたものであった。
その男はただの人間だった。ただの数学者だった。特別なことはなかった。ただ人より抜きん出た頭脳があった。
男が持つ数式はまるで蜘蛛糸のごとく広がり、そしてその先で悲劇を起こした。ただ、人を貶めることを好むでなかった。
そして、そうして破滅する度に、一言だけ呟くのだ。

「“計算通り”」

排煙の薄く烟る世界、空は巨大な時計で閉ざされていて、暗澹たる予感を想起させる。
そしてそれを以て、尚、男は……ジェームズ・モリアーティは、それが全て、蜘蛛糸の通りであると気付くのだ。
その足元には、一冊の本が佇んでいた。パラパラと、風に吹かれて、ページを捲っていた。

道行く人々は、誰も彼のことを気にかけることなど無かった。
老いた数学者はただ、街中で、空を見上げている。
60淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/04(土)23:06:17 ID:opF [4/5回]
>>56
「本当にそうかな。今はあんな物に覆われているのに?」

指をささずとも分かるだろう、頭上に居座る大時計は自由とは程遠い。
その向こうには無限の蒼穹が広がっているとしても、今ここでそれが見上げられないのならば同じ事。

「別に構わないよ。でも、歩きながら本を読むのはいただけないな。ぶつかったり転んだりしても知らないよ?」

渋面に対して、相変わらずの無表情。嘘を吐いていない事を前提とすれば、気分を害してはいないらしい。
濡れた場所を決して踏もうとはせず、さらさらとした感触を楽しむように。足の爪先で砂を掻いた。

>>57
//申し訳ありません、また機会がありましたらお願いします…!
61ディ(以下略◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/04(土)23:19:54 ID:8gN [2/3回]
>>60
「ん?それこそ、だろ」

空を見上げ挑戦的に大時計を見つめる少年。

「今のアレを見て自由がないって感じるなら、元々の空には自由があったって証左だ。
 比較対象の海だが…ま、限界はあるだろ?なんせ底があるんだからこうして海が保たれてるわけだ」

ふふん、と得意げに語るが何かに気づいたように訝しげな表情に変わる少年。

「心理的なものに対して物理的な限界で優劣つけるのは浪漫がねえな?
 あー…ダメだ、すまん。
 どうも演算能力が上がったところで元々のベースがすっからかんじゃ気の利いた答えは出ないみたいだ」

こめかみに指を当て二、三度捏ね繰り回してから手を下す少年。

「これじゃ黎明式の再現は無理だな…アプローチ変えるか?
 …あ、転んだりは大丈夫だ。
 今の俺は教科書を読みながら右手で書き写しをして左手で翻訳が出来るくらいの処理能力がある……筈だ」
62シャーロック・ホームズ◆</b></b>KZ.unZS3k2<b>[] 投稿日:20/04/04(土)23:29:45 ID:KEc [1/1回]
//前スレ>>997


「レディに年齢を尋ねるのはマナー違反ではないだろうか?因みに華の15歳だ」

齢十五にしてここまでの変人奇人が完成するにはどのような遍歴を辿ればいいのか。
きっと天性の素養に加えて幼い頃より難事件怪事件に立ち会い続けたならば、こうもなるのかもしれない。違うかもしれない。

「うん、うん────成る程、他者の思考回路を黎明術式の演算領域として用いるか
 実感としては疑わしいが、貴女がそういうのであればその可能性も極めて高いのだろう────他人の計算式を勝手に解かされるなんて、実に恐ろしい話だが!」

とは口で言いながらもその表情は納得を経てそれなりに満足を得られたものであった。
確かにその説明で筋は通る。演算領域が足りないのであれば、それを補う為に何を使うか────人の脳は機械の演算処理にも勝る論理端末である。
どのような手段を用いて、人の脳を利用するかまでは想像がつかないが、それでも何処で計算するのかさえ予想できるのであれば。

ならば────対策は打てる。
後手後手になることに間違いはないが、事前に阻止することは叶わないだろうが。
黎明術式がどういう構造であるかを理解した今であれば、計算式の処理過程において何らかの手を加えることも可能なのだから。


「ところで────計算式の弱点とはなんだと思う?
 数学とは常に完全な和が求められる。全ての論理を正として、一切の誤差を埋めない限り、決して解には辿り着けない」

「ならば、その弱点とは数式を紙に書き綴った者が誰しも一度は経験する────"計算ミス"に違いない訳だ」

そういって探偵は楽しそうに笑うのだ。
嫌がらせは英国人の十八番、そして仮定を元に策を練るのは探偵の十八番。
シャーロックの笑顔の意味は────碌でもないことを思いついた人間が浮かべる、それこそ悪人のように心地良い笑みに違いない。

//お待たせしました…お返し致します
63淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/04(土)23:43:45 ID:opF [5/5回]
>>61
「それはどうかな。今の空みたいに海が見えなくなったら、やっぱりそれを自由じゃないと思うかもしれない」
「どっちにしろ、ここにいるしかないわたし達に比べたら、ずっと自由なんだろうけれど」

淡々とした語り口からはそれが羨望か、あるいか単なる弁舌なのか、判断するのは難しい。
しかし視線はずっと陽光を反射して煌く水面の向こうであるから、何らかの感傷をそこに抱いているのは明白だった。

「そんな事はないよ。話し相手になってくれるだけありがたいもの。わたし、どうしてか避けられる事が多いから」

本当に僥倖と思っているのか疑わしいくらいには、無感動な声と表情なのがその原因であると、察するのはそう難しくないだろう。
ゆっくりと、足を伸ばして打ち寄せた波を撫でる。その冷たさに驚いたように、ぱっと引っこめた。

「……あれはそう簡単に再現出来るものじゃない、と思うよ」
「それにしてもその言い方、まるできみが人間じゃないみたい。機械人形か人造人間のようだね」
64ディ(以下略◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/04(土)23:55:45 ID:8gN [3/3回]
>>63
「そりゃあ違うぜ?此処に居るしかないって決めつけがアンタを絡めとってるだけだ。
 邪魔するなら運命ですら打ち抜いてやるって気概が自由への第一歩だ」

大時計へ向き直ると今は未だ届かない拳を突き出す少年。

「避けられるのか?パッと見だと理由は分かんねえな?」

空を見上げたり、淡島を見たりと目まぐるしい少年。
上から下へジックリと見つめている。

「ははっ、この時期じゃ未だ冷たいんじゃないか?
 それが良いっていう知り合いもいるけどな」

淡島の足遊びみて笑う少年。
砂地の温かさに比べたら驚きもするだろうと。

「お、黎明式詳しいのか?正直説明だけじゃ理解できなくてさー
 根本が演算能力にあるなら脳機能を強化すればいけるかなと実験を…
 ……あー、人造なのは否定しねーわ。俺ジーンリッチだからなあ」

指摘を受け自らの出生に立ち返る少年。
成程、そもそもそういった適性はあるのだろう自分は、と。
65ジェームズ・モリアーティ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/05(日)00:28:14 ID:ZhJ [1/4回]
>>62

「別にレディ同士だからいいだろう……15才!? 私と同い年だって!?」

英国学園都市では同級生だったということになる。
あそこでは随分と噂話を聞いた……奇妙奇天烈摩訶不思議な珍人物として、であるのだが。
通りがかったところを遠目に見て、ああ、噂のあの人か、ということを思ったことがあるが……同級生だということを知らなかった。
メアリー・シェリー自身、病弱で不登校気味であったことも挙げられる。序でに言うならば、メアリーは、もう少し淑やかな話し方をする少女でもあった。

「……そうだな。“他人に脳味噌弄られるなんて、考えたくもない”」

ともあれ、これは仮設である。
彼等が持つ具体的な方法など分からない。ただ、モリアーティであるならば、このくらいのことは出来ると踏んでの推測であった。
実際に、自分は好き放題に脳味噌を弄られた結果、論理的におかしなことをつい最近まで信じ切っていたのだから。
ある程度、脳構造やそれに繋がるための式を有していると考えていいだろう……恐ろしいことであるが。

「――――計算ミス?」

確かに、それは数学を行う者には付き纏う問題だ。
メアリー・シェリー自身、計算はてんで駄目だった。ヴィクター・フランケンシュタインには、よく勉強を教えられながら、笑われたものだ。
だから黎明式を使わない、使えない……というわけではないのだが。計算式は非常に冷たく、確実で、間違いない。
人的なミスでもない限り。

「……なんて悪い顔をしてるのかしら……んんっ。
 では、敢えて聞こう。数学者にして大犯罪者ジェームズ・モリアーティは凶悪なる計算式の使い手である」

単純極まる計算ミスなど期待できない。だがそれでも、彼女はそれを弱点として挙げたのだ。
ならば彼女のような、そう、心から英国人で、その中でも取り分けタチの悪い彼女は……一体どんな、手管を思いついたのか。

「名探偵シャーロック・ホームズ・ドイル。貴女は如何な方法で、その“破綻”を狙う?」

彼女が今、探偵であるならば、謂わばメアリー・シェリーは、その推理を引き出す刑事の役目である。
まるでスコットランドヤード所属のG・レストレード警部のように、彼女の導き出した結論を求めるのであった。

/お帰りなさいませ、こちらもお返しさせていただきますね
66淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/05(日)00:35:26 ID:Twi [1/4回]
>>64
「不自由が不幸とは限らないよ。少なくともわたしは、この島だって気に入っているんだから」
「これであの時計がなければ、もっと良いんだろうけれど」

敬遠される理由について、彼女から口にする事はない。ただほんの僅か目を細めるだけだ。
人は均一から大きく外れる存在を、疎んじて拝しやうとする傾向にある。
であればどうやっても普通と呼べない外見に加え、人間臭さがごく希薄となれば、大抵の人の印象は想像に難くない。

「いや、それもあるんだけれど……初めて触ったから、少しびっくりして」

なるほど温度差だけではなく、波が蠢いて拐おうとする感触にも不慣れだったようで。驚愕の気色はやはり皆無だったが。
ずっと海の営みを眺めていた眼差しが、出自を聞いて初めて少年へと向けられる。何を考えているのか読み取れない、無機質な瞳。

「へえ……そんな事まで実現出来るようになっていたんだ。」
「あくまで人間の受精卵から生まれてるなら、人造と呼べるかは微妙だけれども」

片足で立って、濡れた足を払う。飛沫が波の引いた砂地にぱたたと落ちた。
そのまま靴下、次いで靴を履きながら。視線を他所にやる様は、少しばかり考え込んでいるようだった。

「さあ……どうしてか、知識にあるくらいだけどね。術式を埋め込むか、誰かの物をそっくり真似しないと無理じゃないかな」
「闇雲に演算をしたって、方程式なしに数式を解くようなものだよ」
67ディ(以下略◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/05(日)00:53:10 ID:z8t [1/2回]
>>66
「自由と幸福はニアイコールじゃねえってか?
 ま、価値観なんて千差万別だからなー、ここ最近色んなやつ見てそう思うわ」

黎明協会ばかりでなく、妙な思想家連中までが台頭し始めた。
閉鎖空間だからこそ空気が澱んでいるのかもしれないと少年は思う。

「初めて?インドア派海なし県民だったのか?」

淡島の境遇を知らぬ少年はそんな思考に至る。

「詳しく知らねえけど、ホムンクルスみてーなもんだよ俺は。
 育ての親が生みの親だったかは今となっちゃ分かりもしないしな」

自身の中では何でもない事になっているのでアッサリと少年は言う。

「でも演算の果てに事象を生み出す、みたいな理論だろ?
 だったら情報を収集、解析して対応できる計算装置たる人間で、
 意志に応じて変化を生ぜしめる学にして術を修めた魔術師たる俺なら、
 って思ったんだがなあ?」

うーむ、と納得がいっていない様子の少年。
黎明式に似ているかすら怪しい独自路線に突っ込んでいる様子。
68 : 淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/05(日)01:25:36 ID:Twi [2/4回]
>>67
「ううん。覚えている限り、この島から出た事はないよ」
「本当は海の水にはあまり触らない方がいいんだ。肌が強くないから」

ゆるりと首を横に振る仕草に悲愴は感じさせない、事実を平然と述べているだけのような。
自分に対してもとんと無関心なのか、どうでもよさそうに堤防の上に視線を向けて。

「そう……とんでもなく醜い怪物にならなくてよかったね」

本人が割り切っているのであれば、他人の主観などほんの些事にしかなり得ない。
それが分かっているから声の調子は一定とはいえ、冗談めいた事も口にできる。親がいる事への羨望など、芽生えた事もなかった。

「わたしは使える訳じゃないから、そこまでの予測は立てられないけれど」
「どうしても習得したいなら、実際に使っている人から何かを掴むしかないんじゃないかな」

そも自分でもどうして知識にあるのか分からないのだ、文字をなぞるように語る事しかできない。
実践の助言を求めるなら、当然相手は経験のある者が最適。異能の類であれば尚更の事だ。
これ以上を手伝える訳でもなく、波と戯れるのももう十分。陸の奥へ戻るべく、ふらと堤防の階段へと足を向けた。

「ああ、そうだ――さっき、歩きながら読んでいても平気だって言っていたけれど。波を被らないように気をつけてね」

//この辺で〆でお願いします、ありがとうございました!
69 : ディ(以下略◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/05(日)01:26:25 ID:z8t [2/2回]
/ありがとうございましたー
70シャーロック・ホームズ◆</b></b>KZ.unZS3k2<b>[] 投稿日:20/04/05(日)01:29:40 ID:vmc [1/1回]
>>65

「彼は数式の天才、であれば彼が思案しているのであろう計算式そのものに、破綻の余地は介在しないと考えよう
 だがその計算量が膨大であるが故に、階差機関や脳味噌を計算機として用いるしかない。ならば」

「そもそも計算機が正しく機能しなければ────投げられた計算式に対して、誤った数値を正しい数値として返してしまうと、どうなるだろうか?」

計算式がどれほどの膨大領であったとしても、その根幹が数値と論理の集合体である以上は一切の誤差は許されない。
だが演算を委ねた計算機が正しい結果を返さないのであれば計算式は成立しない。そも計算機とは入力された式に対して、必ず正しい結果を返すからこそ価値があるのだ。
その前提が狂うことは自然には有り得ないだろう。だがもしも、恣意的に計算機が吐き出す計算結果を歪めることができたならば。

「計算式(ソフトフェア)ではなく、計算機(ハード)に対して仕掛けを施すと考えればいい」
「例えば────特定の計算式を処理する場合に、必ず誤った計算結果を出力してしまうような仕掛けを、つまり」

「"膨大な黎明式を演算する場合、結果として返す数値を必ず間違える"────たった一人でも、そういう状態の人間が演算に関わっていれば、それだけで全体を破綻させることができる」

手段は何でもいい。異能でも、魔術でも、はたまた見様見真似の黎明術式でも構わない。
何れかの手段によって演算に利用される人々の思考領域に楔を打ち込む、その楔とは特定の演算が行われた時にのみ発動する小さな罠。
なんてことはない、演算を行なった場合に結果の数値をほんの少しだけ増減させるような、他愛のない悪戯のようなもの。
だが────計算式を狂わすには、ほんの僅かな誤差さえ生じれば十分だ。たった一つ値が違うだけでも、膨大領の計算式に致命的な破綻を与えられる────数学とはそういうものだ。

詰まる所、シャーロックの目論見とは。
演算に脳味噌を利用されることを前提として、計算式に誤差を生じさせる罠を予め脳味噌自体に忍ばせておくというもの。
それは自分であり、自分以外でもあり、この街の不特定多数に対して────そしてその内の誰か一人の脳が利用された時点で、目論見は達成される。
ただし、この目論見に致命的な問題点があるとすれば。

「問題点があるとすれば、それは倫理的観点
 惨劇を防ぐ為とはいえ、無作為に選んだ無辜の住民にこっそりと術式を撃ち込んで罠とする訳だから────ああ、実に悪人らしい手段に違いない」

「だからこそ────先んじて聞いておこう。貴女が私に対抗するのか、それとも協調するのかどうか
 どちらであっても、私は貴女の判断を尊重しよう。その上で────私は私が最も合理的だと思った通りに行動する」

碧眼の双眸はメアリーを静かに覗き込み、彼女がどう反応を示すのか、どう答えを出すのかを観察していた。
この探偵は決して一般的な倫理観を備えた善人ではない。故にこそ、常人であれば憚れるような手段であっても、それが必要となれば選ぶことができる。
しかしそれは彼女の流儀であり、ひいては探偵としての信念であり────だからこそシャーロックは協力を強要しないし、かといって彼女が説得したとして応じることもないだろう。
今はただ、メアリーの答えを待つばかり。それはやはり、ほんの少し楽しそうな微笑みを浮かべつつ、つまりは普段通りの様子であった。
71メアリー・シェリー◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/05(日)02:03:59 ID:ZhJ [2/4回]
>>70

「成程、それは……何とも“悪魔的”だ」

悪に対して反抗する、それは正に手段として悪辣極まるものであった。
計算を行うための計算機自体が不具合を起こすように設定する……そんなことは考えつかなかった。否、考えていたとしても。
それを実験し、更に実行に移そうと考える人間は、恐らく相当悩みに悩むことだろう。無作為に選んだ誰か一人を、犠牲にするというのは。
顔のない大多数を殺すよりも、悲惨なことだ。

「考えついたこともなかった。確かに計算機がちゃんと動かなければ、式は正しく実行されない。
 正確な値を返さない数式は全く以て意味を成さなくなる……しかし、それは……あまりにも合理的が過ぎる」

合理的が過ぎる。
そしてだからこそ、それが……シャーロック・ホームズが答えを明かした相手が、自分であってよかったと、心底から思った。
果たしてその数式がどういうものか。果たして正しく動かないことで、本体にどんな事が起こるのか。
分かったことではない。おかしな動作を起こし続けて、最後には脳味噌が焼き切られる、なんていうことだって起こり得るだろう。

「……あのときオックスフォード学園都市にて私は死に至る筈だった。
 異界の中で身体をバラバラに引き裂かれて、そのまま壁や床と溶け合って死ぬはずだった」

そしてそれを助けたのは、他ならぬジェームズ・モリアーティだった。
ただの丁度いい実験材料を探していただけに違いない。ただ、その結果、メアリー・シェリーはこうして生き延びることが出来た。
この両目のオッドアイは天然のものではなく、継ぎ接ぎになった際に何処の誰とも分からぬものを、埋め込まれたのだ。
機械の体と歯車の心臓、蒸気が流れる身体でも――――何か、一撃を叩き込むことが出来るのだとすれば。

「――――私を使いなさい、シャーロック・ホームズ」

……彼女の最善手を、メアリー・シェリーは肯定する。
それは相応の覚悟を以て紡ぎ出した結論だ。シャーロック・ホームズは、そんな覚悟すら何でも無いと思っているように微笑んですらいる。
一度脳味噌を弄られた。それを相手は違えどもう一度やるというのだ、恐ろしくないわけがない。それでも、メアリーは自身の胸に手を当てて。
凛と響く声で、背を伸ばして、彼女へとそう告げたのだ。

「元より骸と大差のない、生きているだけの此の身。ならば、儲けものだと思いましょう」

あそこで生き残ったのは、きっとこのためにあるのだとメアリー・シェリーは思った。
これを以て、ジェームズ・モリアーティの計算式に至るまでが自身の命になったとしても構わない。
元より失うはずだった命が、こうして生き残り……そして人々を救う糧になれたのであれば、それはなんと――――素晴らしいことか。

「さぁ、どうか――――ホームズ。私にそれを、刻んでください」

自棄を起こしているのでもない。そこには寧ろ、自身を思い出して、取り戻したようですらあった。
暗澹たる道筋に光明が差したとすら、言っても良かった。恐ろしくはあれど、躊躇うことはなく……彼女へと、自身の身体を差し出すだろう。
72淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/05(日)15:05:21 ID:Twi [3/4回]
>>59
「ああ……これは本当に困ったな」

何か目的や理由がある訳ではなかった。風が吹く方向に向かおうと思い立っただけだった。
だからそこに居合わせるのはきっと、天上の薔薇か霊的な記録庫に定められていた事なのだろう。

「正直な所、貴方の事はあまり得意ではないんだ。貴方自身が気に入らない訳じゃないんだけれども」
「わたしが知らないわたしが居るんだって事を、どうしても見せつけられるような気がして」

無作為に流れる雑踏から疎まれ弾かれるように。たった一人、足を止めた。
胸の内を映さない面持ち、起伏のない声色。僅かに下げた眉尻だけが、言葉通りの困窮を示しているかのようだった。

「ところでそれも――やっぱり貴方の計算通りになるのかな」

二色の水晶を融かし合わせた瞳が、足元に横たわる本を捉える。つられるように風に踊った白に紛れる赤の一房を、そっと手で抑えて。
始から終へと流れ落ちる頁を目で追いながら、されどそこに秘された字を辿ろうとはしなかった。

//まだよろしければ…!
73ジェームズ・モリアーティ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/05(日)21:57:53 ID:ZhJ [3/4回]
>>72

「世界の全ては数式を以て表すことが出来る」

――――男は、ただの数学者だった。
そうして数式の偉大さを語り、大袈裟に振る舞うことこそ出来たが、その実、ここに居るのはただ一人の人間だ。
雑踏を行く人々と、何が変わろうか。ただ、ただ、ほんの少しだけ、人より多くのことを知っている。ただそれだけだった。
だから、少女の言葉に対して頷くことは出来なかった。

「だが、私は数式のように万能でもなければ、全知でもないのだよ。
 例えば……ここで、君に出会うことを知らぬようにね」

威圧するでもなかった。ただ、空に浮かぶ大時計から、少女へと視線を下ろすのみであった。
ラテン語で書かれたその文字達は、少女にも、そしてこの年老いた男にも読まれることはなく、ただ流れるのみだ。
男は何も知らない。ただ、一人の人間だ。多くの人々と同じように、少しの碩学達と同じように、特別なことはなかった。

「佐野君は元気かな……私に何か用かね、淡島君」

だから、ジェームズ・モリアーティは、淡島豊雲野という少女へと向けて、静かにそう問いかけるのだ。

/遅くなってしまいまして申し訳ありません、お返しさせて頂きます
74淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/05(日)23:21:21 ID:Twi [4/4回]
>>73
例えば彼が黎明協会の首魁に近しい存在だと、現状を良しとしない者が知るのであれば。
大なり小なり敵意をぶつける場合がほとんどだろうが、彼女はそれをしなかった。
胸の蟠りの真因は、自分にあると正しく把握しているからこそ。その立場に関して、なんら心象を抱いていないかのようで。

「そうだね。貴方はいつだって、式を立てて解くだけだった。それがどんなに複雑で、曖昧なモノでもね」
「……全く。自分でもどうしてこんな事が言えるのか分からないから……少し、嫌になる」

視線の先を書に留めたまま。ほんの少しだけ、自虐の孕んだ言葉尻。
大きな表情の変化は起こらない。その代わりとばかりに己の腕を抱いて、伏せた睫毛を微かに震わせた。

「彼女なら変わらないよ。最近はなんだか悩んでいるようだったけれど……」
「用がないなら話しかけてはいけない?強いて言うのなら……本は大事に扱った方がいいんじゃないかな」

どんな時でも、相手が誰であろうと。風見鶏が向く方向を選ぶ根幹の気儘さは変わらない。それはおそらく、喪われた時間から不変の心柄。
屈んで、落ちている本を拾おうと手を伸ばす。ゆったりとした動作には、焦燥や警戒心など皆無のようであった。

//すみません、こちらが少々遅くなりました…!
75ジェームズ・モリアーティ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/05(日)23:52:14 ID:ZhJ [4/4回]
>>74

ジェームズ・モリアーティは、何処か困ったように髭のない口元をなぞった。
モリアーティという男にとってはそれが全てだった。式を立てて、それを解く……ただそれだけを、延々と繰り返し続けている。
今もそうだ。そしてこれからもそうだろう。最初に黎明協会に足を踏み入れた時から、やっていることは何も変わらない。
数式を解くための手段を。証明するための手段を。それだけを追い求め続けて、現在の黎明協会へと成った。

「さて、そう言われても、私には仕方がないよ、お嬢さん」

そして、それを知るものは最早、黎明協会には数えるほどしか存在しない。
アレイスター・クロウリーは離反した。マクレガー・メイザースは沈黙し、クリスティアン・ローゼンクロイツは原初式の最果てに消え。
さて、それでは彼女は何者か。正確には――――彼女の内側に、何を潜ませているのだろうか。

「読み終えた本には、あまり拘らない主義なんだ。……手元に置きたいものでもないしね」

ただ、モリアーティという男には、《教授》と呼ばれた男には、どこか郷愁のようなものすら煽られる感覚があった。
だから、そう、興味を持ったのだ。彼女が一体何者であるのかを。彼女が、一体何を内側に持っているのかを。

「変わらないのならばよかった。年頃の少女だ、思い悩むこともあるだろう。
 さて……ただ、私のような老人に、用もなく話し掛けるのは、ただ物好きだと思っただけのことだ」

《Book of M》、《C.R.C.》。それらはラテン語で出来た魔術書だ、そしてそれ其の物が自然魔術の概念武装と化している。
魔力を流し込めば、それはもう一度平常に動作することだろう。壊れているわけでも、手を加えられているわけでもない。

「寧ろ、私は興味を持ったよ。淡島君、君が何者なのか。
 君すらも自覚しない、君の中の要素が一体何なのか……そう、『君の知らない君』について」

ジェームズ・モリアーティは、そこに在る何かを解こうとしていた。
ただ、彼女に向けて目に見えて何をするというわけでもなかった……ただ、《教授》の名が示す通りに。
まるで疑問を紐解くかのように、告げることだろう。

「……“私に向けて、衝動のままに、語ってみたまえ”」
76シャーロック・ホームズ◆</b></b>KZ.unZS3k2<b>[] 投稿日:20/04/06(月)00:01:47 ID:sQZ [1/1回]
>>71

一度は洗脳という形で脳への干渉が行われた彼女に対して、それをもう一度行うというのは決して許される所業ではないのだろう。
その意味はシャーロックとてよく理解しているが────それでも彼女がその行為を躊躇うことはあり得ない。
それは己の行動原理と思想が確固たるものであるが故に加えて、彼女の内心がどのようなものどあるかを察しているからこそ。

「────では」
「私は貴女を使いましょう────せめて、お互い後悔なきよう」

そしてシャーロックの指先が────彼女の額にとんと触れて。

そして仕掛けが撃ち込まれる。それは異能的、魔術的、そして黎明術的────複数の形式によって形作られる潜在術式。
普段は決して発動しない。誰にも触れることのできない脳領域の最奥にて潜み続けて、そしてその脳が外部より流し込まれた術式の演算に用いられた瞬間に起動する。
正しい計算結果を間違ったものとする。求められたものとは致命的に異なる値を正解として返し、その誤差は大計算式の全体を瓦解させる引鉄となる。

術式は最初の瞬間のみ、僅かな違和感を与えるだろうが、それは直ぐに鳴りを潜める。そしてそれは一度潜伏したならば、彼女にも認識できない。
然し、罠は確かに埋め込まれた────その存在が再び露わになるのは、かの教授の思惑が最終段階に進んだ時。

「────そうだ、一つ約束をしましょう」
「無事に英国に戻ったならば、その時は私が紅茶を淹れて差し上げましょう────それなりに自信はあるので」

そういった台詞は、大抵果たされぬものであるとフィクションでは相場が決まっているが。
然しシャーロックがそれを言う意図があるとすればその逆、お互いがこの事件を乗り越えることを願った、細やかな楔。

「それから────もう一つ、お願いが」

「私のことはホームズではなく、"シャル"と及びください。私は友人には常、こう呼ぶようお願いしているのです」

それを伝えた意味は、きっとそのままだろう。
願わくば、この縁が長いものになれば良いと────探偵はいつも通りの微笑みを浮かべて。

さて、この企みが何処まで意味を成すかは誰にも分からないだろうが。
それでも────その時まで万策を弄し、そして尽くしてみようと、シャーロック・ホームズは笑うのだ。

//長くなりましたが、私からはこれでラストです。絡みありがとうございました
77 : メアリー・シェリー◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/06(月)00:38:07 ID:K0x [1/2回]
>>76

指先が額に触れる――――処置は、メアリー・シェリーが思うよりも早く終わることとなった。
一人の少女によって刻まれた、ほんの僅かな致命傷……メアリーは、ただそこに存在し続けることだけで、偉大なる反撃の嚆矢となる。
仮にその先、刻まれたものによって脳髄を破壊されたとしても、きっと悔やむことはない。
ただ、背を伸ばし、受け入れ、そして高らかに嘲笑ってやることだ。お前は、死人に殺されるのだ、と。

「――――ああ、それは。とても、楽しみだ」

何とも、これは果たされまい。フィクションのお約束だ。もしも自分が小説に、こんな台詞を組み込むとしたのならば。
きっと悲劇的な出来事を以て引き裂かれ、英国で一人、それを惜しみながら紅茶を嗜む少女を描くことだろう。
それでも良かった――――ただ、それでも、何故そんな事を口走ったかという意思を、汲み取れないではなかった。
そして、そう思考してしまえば、メタフィクション的に――――バッドエンドは回避されるだろうと、自身の感性が告げている。

「そう――――私で良ければ、そう呼ばせていただきましょう。それでは、“シャル”」

何と、此処に於いて、友人が出来るとは、思ってもいなかった。
童心に帰る……という言葉を使うには、メアリー・シェリーはどうにも若すぎるだろう。
これが恐らく、本来の少女としての姿なのだ。そして、彼女へと、願われた名を告げながら、両の瞳を彼女へと真っ直ぐに向けて。

「親しい人々は、私のことを“メアリ”と呼びました。何とも、面白くもない呼び方なのだけれど――――」

そう他人に呼ばせるのは、果たして何時ぶりだろうか。
そう遠くない日にそう呼ばれていたはずなのに、随分長い間があったように思える。

「――――貴女も、そう呼んで頂けるかしら」

斯くして、メアリー・シェリーは、シャーロック・ホームズ・ドイルの歯車の一つとなった。
無力なその身であったとしても。その万策に付き合い、尽くしてみようと思い、微笑む。

/それでは、私からもこれで〆で。こちらこそありがとうございました、またよろしくお願いします
78押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/06(月)00:46:15 ID:E36 [1/5回]

「────────ふぅ」

昼休み、学園校舎屋上。
上空に鎮座し続ける文字盤へ、細長い紫煙はゆっくりと立ち上る。
教師の脳裏に浮かぶは、昨今の状況。
黎明協会についてだけでも解決までまだ遠いというのに、これ幸いと生徒に手を伸ばす怪しげな宗教団体や政治団体まで出る始末。
風の噂によれば、学園教師もその一味となっている団体もあるらしいというのだから酷い話だ。
勿論関わらないよう呼びかけを行い、目についたものは対処しているがそれでも限度がある。
その表情を見たならば、蓄積された精神的・身体的な疲労が見えるだろう

「……SHIT」

ぽつりぽつりと雨が降り出し、上手くいかないときは天気さえ敵に回るのね、とぼやきながら校舎へ戻る。
79淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/06(月)00:54:58 ID:I6I [1/3回]
>>75
拾った書物の土埃を丁寧に払いながら表紙を眺めたとて、羅語を流暢に読み解けはしない。
しかし生来の異能故か、それが持つ性質を直感的に察する事は、そう難しくない。
目を見開いて示した驚愕の色は、やはりごくごく些細なものだったが。

「よく言われるよ。わたしはただ、やりたいようにやっているだけなのにね」

驚いたのは、それだけではなかった。他人の中身に興味を抱いた事にもまた、同様の感情であった。
単純に不思議、疑問だった。だがよくよく考えれば、なんら不合理な事ではないと思い至る。
なにせ自分が彼について、少なからず知っているらしいとなれば。

「……そう言われても困るな。記憶にない事を、どう言葉にすれば――」

無論この男が、友の背中を好ましくない方へと押そうとしていた事は知っている。
それでもやらないのではなく出来ないと言うのは、己の意思でその好奇心に答える気であったのだろう。
とはいえ語る内容さえ、この時分になって尚白紙なのだ。困惑めいて目を伏せ、不意に言葉を切る。
こめかみを抑え、本を抱えて。溢れ出る単語の奔流に眉を寄せて目を瞑った。

「……いや、違う……『神智』……『アストラル』……『マハトマ』……?……っ!」

本来ならば、それは表層に浮き出ないはずの領域。しかし琴線に触れる、度重なる協会との接触。僅かでも持ち上がった確率は容易に増幅される。
意味も理解できずに語を羅列して、堪え切れない頭痛に思わず蹌踉めく。しかしてそれらは、明確に一つの神秘思想を指し示すものであるが。
初めて提唱し、大衆に広めた人間は。かつて英国学園都市を襲った地獄に際し、生死すら不明であるはずであった。
80ジェームズ・モリアーティ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/06(月)01:23:46 ID:K0x [2/2回]
>>79

彼女の記憶の奔流。その欠片から生み出された。
『神智』『アストラル』『マハトマ』――――この三つが提示される……それを以て、一つのキーワードへと収束する。
セオソフィー。神智学。神聖知識。神聖科学。そこから結び付けられる人物が一人、存在する。
ジェームズ・モリアーティをする一人の碩学――――英国学園都市の地獄へと沈んだと、そう思われていたはずの一人の人間の姿が。

「ヘレナ・フォン・ハーン――――あるいは、ヘレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキー」

懐かしい名であった。正しく、ジェームズ・モリアーティの計算式によって齎された悲劇の犠牲者たる存在であったはずだった。
そして黎明の碩学に名を連ねていたはずの人間……それが何故。
大日本帝国学園都市に存在する……違う。そもそも、彼女のことを、ジェームズ・モリアーティは……“本人”だと確信できなかった。

「その名に覚えはあるかね。“君”は“彼女”なのか。或いは――――」

より深く、より強く追求しなければならない。
記憶喪失とは違うだろう。一般的な方法で処置できる範囲内では、人種を誤魔化すことの出来るほどの整形技術を知らない。
何より、年齢が違いすぎる……黎明協会では、年齢を弄る程度は造作も無いことであるが、外部となればまた話は変わってくる。
ならば……神智学の観点より、そこから予想される答えを。

「――――君の中に、“彼女が居る”」


/申し訳ありません、本日はこれで落ちなければなりません
/凍結をお願いできますでしょうか?
81淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/06(月)02:33:36 ID:I6I [2/3回]
>>80
「……知らない……そんなの、聞いた事も……」

益々酷くなる頭の痛み。顔を伏せ、眉間に刻まれるのは深い皺。書を抱く腕に力が入った。
生理的反応には逆らえないとはいえ、そこに滲むのが断じて苦痛だけでないのは。
彼女にしては極めて珍しく感情を露わにした、切羽詰まった声からも明らかであった。

「い、っ……ぅ……」

記憶にないはずの名だった。あるいは巷で見聞する事を、無意識に避けていたのかもしれない。
ああ、だというのに。脳の奥底に隠された小箱の鍵穴に、言霊が差し込まれて蓋開く音。
長い沈黙。それはまるで、揺籃の深い眠りに沈むかのような。

「――――この身体でその名を呼ばれるのは、初めてだったかな」

ゆっくりと顔を上げる。その声は、外見は、何一つ変わってなどいない。ただ致命的な変化があった。
淡島豊雲野は決して、特別な理由もなく愉快そうな微笑みを浮かべる人間ではないのだから。

「その通り。今のワタシはこの肉体の中に刻まれた、人格のベースのようなもの。とは言っても、元のワタシの霊魂の一部だけれども」
「あくまで本体は彼女の方だからね。ワタシは彼女の記憶には残らない、一瞬の泡沫に過ぎない」

それはむしろ、かつての同胞に当てはまる特徴であった。芝居がかってさえいる声の起伏もまた。
身体の不調などなかったかのように悠然と笑んで。非科学的な理論を平然と口にしながら、前髪をかき上げた。

「さて、モリアーティ教授――こういう時は久し振り、が相応しいのかな」

//凍結了解しました、遅レスで申し訳ないです…!
//設定等問題がありましたら遠慮なく指摘して頂ければ幸いです!
82深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[] 投稿日:20/04/06(月)02:52:59 ID:vFJ [1/5回]
>>78
「だ、誰もいないよな……?」

ガチャリと扉をあけて屋上を見渡す。
すると教師である眞子を見付けて、怯えたような声を出す。
その様子は尋常じゃない物であり……
83押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/06(月)03:45:32 ID:E36 [2/5回]
>>82

「あら、どうしたの。深山比くん?」

携帯灰皿に吸殻を入れながら、現れた少年へ問いかける。
この学園では珍しい無能力の少年。
厄介ごとでなければよいのだけれど、と心中思いながら。
84深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[] 投稿日:20/04/06(月)03:49:44 ID:vFJ [2/5回]
>>83
「せ、先生……あの、先生は怪しい宗教には興味はないですよね……!?」

突然そんな事を扉を触りながら聞いて来る。
何やら事情がありそうで……

「……あ、それとよく間違われるのですが、良太ではなく比良太です」

そう間違いを訂正して
85押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/06(月)04:05:00 ID:E36 [3/5回]
>>84

「……Huh?」

まさか眞子を誘おうとしているのか、と怪訝そうな目で返す。
事情というのが宗教に誘おうとしているのか誘われて困ったのか、どちらかいまいち読みづらい。

「細かいことは気にしないの」

因みに間違いは素だ。中身も含めて。
86深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[] 投稿日:20/04/06(月)04:11:02 ID:vFJ [3/5回]
>>85
「……いえ、先日家庭科の先生に怪しいカルト宗教に入れ、入らなければ殺すとそれはそれは鬼気迫る表情で言われたもので……。押井先生もそう言ったものに興味がある、もしくは入っていたら嫌だな……と」

浮かない表情でそれを伝える深山、その体験がどれだけ壮絶だったかは彼の表情でわかるだろう。
決して冗談ではなく、本気の声色で教師に尋ねている
87押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/06(月)04:24:40 ID:E36 [4/5回]
>>86

「…………ハァー……」

数日間積もりに積もった疲労を伝えるかのような、あまりにも重いため息。
姿が見当たらないと思っていたら、そんな場所にいたとは。
噂であってほしいと思っていたが、それは叶わなかったようだ。

「No way(まさか).今その手の連中に手焼かされてるのよ。近いうちにどうにかするから、安心しなさい」
「あ、場所とか知ってたら教えてちょうだい?」
88深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[] 投稿日:20/04/06(月)04:50:59 ID:vFJ [4/5回]
>>87
色々苦労してるんだな、この先生もと思いながら、質問をされたので一応知っている限りの事を答えてみる

「あの時は逃げるのに必死で、本拠地などは聞けませんでしたが……あの辺りで行進をしていましたよ」

行進のあった場所を指をさす深山
89押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/06(月)05:03:11 ID:E36 [5/5回]
>>88

「All right.またやってきたら、その時ね」

本拠地を知らないとなると、すぐ潰しに行くというのは無理がある。
だが幸いと言っては語弊が生じるが、強引な勧誘を行っているのならばまたチャンスはあるだろう。
その時、5分前の予鈴が屋上にも響く。

「Oops,もう時間ね。それじゃあね。religionやpoliticsには気をつけなさい」

そう言って、校舎へと戻っていくだろう。

//すみません、そろそろ〆をお願いしたいです
90ジェームズ・モリアーティ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/06(月)11:55:40 ID:zZq [1/1回]
>>81

平坦な少女の声色に、苦痛じみた色が混じった。
それはゆっくりと、蓋をされていた何かが開いていく音……或いは、こじ開けられる音だ。
ようやく、そこに教授にとって。姿形こそは違えども、確かに見覚えのある姿が映し出されることになる。
姿形は違えども、その微笑みとその話し方、立ち居振る舞いを、ジェームズ・モリアーティは覚えている。

「――――ああ、久し振りだね、ヘレナ女史」

そこには、間違いなく彼女が存在している。
神智学の第一人者。碩学、ヘレナ・ブラヴァツキー。
あの時、オックスフォードの学園都市に消えたはずの彼女の姿が……淡島豊雲野という少女の中に、存在している。

「それでは、本来であれば君は此処には存在しないはずであった。
 生き残ったわけではなく、なんらかの方法で君は……淡島君の魂に織り込まれたと」

非科学的であることは、モリアーティにも慣れていることであった。
黎明式は理論だったものであるが、言うならば、超常という現象を数式を以て再現していることに他ならない。
根底でいえば、魔術も、異能も、黎明式も、全て同じようなもので……過程において、慣れ親しんだものであり。

「それでは、何故……どうして、そのような手段を以て、彼女の身体に君が在るのか。
 オルコット大佐か、ジャッジ氏の差し金かな。神智学協会にそのような技術があったのか」

彼女自身の人望を考えると、どうにかして彼女を生かそうとするか。
或いは再現、降霊に至ろうとすること自体はおかしなことではない……この極東で、この学園都市の一人の少女に在るのは。
果たして何故か。黎明協会の目を逃れるためか。それとも、何か別の理由があるのか……興味は正しく尽きなかった。

/凍結の件、ありがとうございました
/まだ安定して返すことは出来ませんが、お返しさせていただきますね
91 : 深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[] 投稿日:20/04/06(月)17:34:00 ID:vFJ [5/5回]
>>89
「ありがとうございます……それでは、僕はこれで……」

お辞儀をすると、チャイムを聞いた彼も急いで校舎へと戻っていく。

/ありがとうございました
92◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/06(月)23:33:41 ID:I6I [3/3回]
>>90
「まあ、待ちなよ。その辺りの話をするなら……そうだな、まずはコレについて語った方がいいだろうね」

這い出る興味に短絡的な答えを返すでもなく、泰然として自分のペースを崩さない。
本を片手でやんわりと抱え直し、己の胸に手を当てて示す。
大凡生命を対象に取る言葉ではないが。間違いなく、それは自身の肉体を示していた。

「簡単に言えば――コレはアレイスター・クロウリーの作品だよ。黎明式でも魔術でもなく。異能を生まれ持つ人造人間を、錬金術で作ろうとしていたんだ」
「とは言っても、彼が作るのは肉体だけ。生憎ワタシは専門外だから、理論までは語れないけれど」

まるで他人事のように、事もなげに。考えようによっては確かにそうだとも言えるのだが。
例えこれが本当に自分の事だったとしても、きっと彼女の態度は変わらないのだ。
それこそこの身体が、ヒトの生殖細胞ですらない何かから作られたものだったとしても。

「そしてワタシは……詳細は省くけど、神的根源に近づく手段として、自分の御霊の一部をコレに分け与えた」
「分身、と呼んだ方が近いのかもね。大佐達も手を貸してくれたけれど、あくまでワタシが決めた話だったよ」

ここに存在する彼女は精神そのものではなく、一部を分け与えた、謂わば幹から伸びた枝葉のようなもの。
故にこそ、この肉体は人格だけを土台として。積み重なった記憶と経験から、今の自意識を形成していった。
片や中身を求め、片や外側を求めた取引。神秘を論ずる者同士だからこそ、成し得たやり取りだった。

「だからもしかしたら、元のワタシもまだどこかで生きているかもね?」
「だってあの時――ワタシは何も残していないはずだもの」

肩を竦めて戯けたように、無邪気に大人を揶揄うこましゃくれた少女めいて。
かつて地獄に変貌した英国学園都市において。確かに彼女が生きていた証は少なからず落ちてはいたのだろう。
しかし生き永らえている報せがないのと同様に。死して遺る骸の類もまた、未だ見つかってはいない。
だからこそ、書類上では死亡扱いとされているが。その生死自体は明確にはなっていないのだから。

//大変お待たせ致しました…!
93ジェームズ・モリアーティ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/07(火)01:08:33 ID:e5x [1/3回]
>>92

「……そうか。“彼”が作り上げた器か。なるほど……通りで完璧であるわけだ。
 私には分からなかったよ。そうまで研究を進ませていたとはね」

その肉体は恐らくホムンクルスにも近いものだろう――――ただし、それはモリアーティの知るそれとは大きく違うもの。
謂わば神智学と錬金術の合作と言うべきか。
モリアーティの手を以て、黎明協会は純粋な追求者の集合から変わっていった。そうしている中に、多くの碩学達がそこから離れていった。
それがここにて、再度垣間見えることになるとは。驚く、ということはなかった。ただ、懐かしい気持ちだった。

「マハトマへと至る為、か。そして此処に君は存在している――――その分け御霊を用いて魂を形成し。
 そうして彼女を作り出した。淡島豊雲野という少女を形成した」

何らかの実験結果であることは分かっていた。ただ、それを追求しようとはしなかった。
何者かが作った異能研究体。それを気にも留めなかったのは、モリアーティにとっては想像もしていなかったことであった。
ただ……それでも計算は違わない。数式の通りに、進んでいく。

「何とも、君らしい。ブラヴァツキ女史、君は本当に、ほんの一部であるというのに。
 だが、君らしい。君達らしい、納得のできる理論だ。全く、疑いようがない――――では」

英国の空の下には……そうでなくとも、何処かに。ヘレナ・ブラヴァツキーは生きているかもしれない。
確かに、死体は残っていない。英国の地獄の中に呑み込まれた中では、死体が残るほうが少ないが……逆に言うのであれば。
生きていた証は合ったとしても、死んだ証は無いのだから。その可能性も考えられるだろう。
或いは、既にこの学園都市に息を潜ませている可能性もある。

「ブラヴァツキ女史。それでは、“現在”、君はそれを以て何を果たさんとする。
 君はヘレナ・ブラヴァツキーとして何かを求めているのか。淡島豊雲野という副産物をどう処理するのか」

彼女は根源に近づく手段として、現在の少女淡島豊雲野を作り出した。生み出された目的は提示された。
それでは、現在はどうする。彼女の魂はほんの一部でしかない。それではそこにある主人格を、こうして上書きして乗り換えるか。
何か――――果たすべき目的を、持っているのか。

/申し訳有りません、こちらも遅くなってしまいました……
94◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/07(火)02:06:46 ID:2HR [1/3回]
>>93
「……これを言ってしまっては、貴方は拍子抜けかもしれないけれど」

頬に指を添える仕草は、乙女の恥じらいと呼ぶには些か大袈裟が過ぎる。
言うか言わないか。その恣意的な考える間ですら、楽しんでいるかのように目を細めた。

「ワタシはこの子が、いつか正しく死を迎えてくれればそれでいいんだ」
「その時、今のワタシの霊魂はどこへ行くのか――元のワタシに回帰するのか、廻るのか、確かめるためにね」

それこそが、この少女を生み出すに至る真意だった。分割した魂の行く末を知るためだけの。
受け継がれるカルマの蓄積は、果たして分かたれた存在をも継承するのか。今彼女がここにいるのは、そのための実験の一環に過ぎなかった。

「はっきり言っておくよ。ワタシはこの身体を使って、何かをする気はないんだ。今は偶々、『Mの書』に悪戯されただけ」
「貴方がこの島を使って何をしようと、邪魔するつもりも手伝うつもりもないし……黙ってここで見守っているだけでも、退屈はしないだろうしね」

故に存在する事を認めていても、人として生きる事は既に半ば放棄している。
性格だけは自分によく似て、けれど自分程のめりこむ何かを持たないこの少女の中で。物語が紡ぐ糸の傍観者としての立場を受け入れていた。
目指すのは死による肉体からの解放のみ。自身が他者の意思に縛られるのを快く思わないからこそ、そこに辿り着くまでの道筋に干渉する気は皆無なのだ。

「だからコレの事は、使い潰そうと放っておこうと、好きに使って構わない。従うか従わないかは、ワタシじゃなくてこの子次第だからね」
「でもこの子は、神智学を知らないワタシのようなものだから……きっとさぞかし、気紛れで自分本位な答えを出すんじゃないかな」

//お気になさらず!ただこちらの返信は今日はここまでになりそうです…!
95ジェームズ・モリアーティ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/07(火)02:40:38 ID:e5x [2/3回]
>>94

「……君はあくまで、観測に徹するということか」

印をつけた動物を、海に果たしてその行動を記録するかのような。それを魂を以て成してみせる――――とでも言うのだろうか。
その口元には、小さな微笑みさえ浮かべていた。何ていうことはない、本当に単純に、純粋に……“愉快”だったのだ。
ここに居る少女ですら、あの時と何も変わらないのだから。その向こう側にいる彼女もまた、同様に変わらないのだろう。

「やはり君は、私と同じ。黎明協会の碩学だよ」

結局の所、道を違えただけであって、その本質は誰も彼も変わらないということだろう。
ローゼンクロイツも、マクレガーも、アレイスターも、ブラヴァツキーも、モリアーティも。
誰も彼もが同様に、純粋に、形振り構うこと無く、自身の目標を追い求め続ける――――何も変わらない。何も変わることがない。

「……良いだろう。それでは、競走といこうじゃないか。
 私が、私の理論が正しいと証明することか。その少女の魂の行く先を、君が見届けるか」

背を向けた。ジェームズ・モリアーティは、それを以て対話を終えるとするだろう。
懐かしい顔を見たが、然しそれで十分だった。知りたいことを知ることが出来た。旧友と出会うことが出来て楽しかった。
それだけの話で、それ以上のことはない。モリアーティが行うことは何一つ変わらない――――ただ、立てた式の通りに。

「――――計算を続けよう」

そう言って、モリアーティは歩き出した。
杖を突き、少女の脇を通り過ぎて、何事もなく人混みの中へと消えていくことだろう。
雫を落としたかのような、ほんの僅かな出会いは――――ほんの僅かな波紋にすら、ならなかったのかもしれない。

「……淡島さん!?」

――――入れ替わるように、彼女の下へと駆けてくる少女の姿があった。
長い前髪を揺らしながら、少女は……佐野美珠は、酷く狼狽えていた。偶々見かけた時、そこにモリアーティの姿を見たからだった。

「何をしていたの、淡島さん! 怪我はない? なにかされなかった!?」

乱れた髪を直すこともなく、彼女へと問うことだろう。
そこにいる少女は果たして、どちらのものであるのか。

/了解しました、それでは一旦凍結で。絡みありがとうございました
96◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/07(火)19:25:56 ID:2HR [2/3回]
>>95
「変わらないよ。ワタシも貴方も、かつて歩みを共にした彼らだって」
「……本当に、何も変わらない」

だからこそ、黎明協会はそう在った。一を究極的にまで突き詰めて、真理を目指す彼らの受け皿として。
そして一種の奇士とさえ言われる者達の生き様は、例え死して尚変わる事はないのだろう。
ほんのひと時、無影の刹那に過ぎない時間でも。懐旧の同志とこうして言葉を交わせば、それはよくよく理解ができる。
それは沁々と心地良く、あるいはこのやり取りそのものが。漏らした忍び笑いは、追慕と懐古を孕んでいるかのようであった。

「狡いな。そう言われたら、その気がなくても負けたくなくなってしまうじゃない」
「ああそうそう、エジソン君にもよろしく――なに、寂しくなったら名前でも呼べば、きっとすぐに会えるだろうさ」

その場に佇んだまま、すれ違い様に目を瞑る。歌うように言霊に依る鍵を口ずさんで。雑踏の中で、遠ざかる足音だけが響いた。
瞼の向こうの空を見上げる。この肉体の主の名を呼ぶ声が聞こえて、ゆっくりと眼を開いた。
切欠の装置は既に沈黙し、楔は歩き去った。であれば、最早表層に留まるのが許される摂理はない。

「…………――――」

駆け寄る美珠へと半ば倒れこむようにして、その身を寄せんとする彼女は、少なくとも無用な微笑を湛えてはいなかった。
ただ幾許かの混乱に化生めいた瞳を揺らして、胸元の本を両腕でぎゅうと抱えているだけで。

「……大丈夫。何もされていないよ」
「途中から……何を話していたのか、全く覚えていないけれど……」

嘘はなく、虚構でもなかった。両者何をしたでもなく、言の葉を触れ合わせただけだった。事実、その身体には傷一つない。
だから感情を表出させない彼女が今困惑しているのは、抜け落ちた記憶の空白がつい先程の間に生まれていた事と。
そこに見知らぬ意識の残滓が、月光の如く淡く瞬いていた事だけであった。

「……きっと、楽しくて……懐かしかったんだと思う」
「本当に、それだけ。わたしはなんともないから、そんなに心配しないで」

//凍結ありがとうございました、お返ししておきます!
97◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/07(火)22:23:15 ID:e5x [3/3回]
>>96

碩学達の追求は止まることはない。その結果、世界を全て破壊し尽くすことになってしまったとしても。
空の打ち上げられた時計の針は凍りついたように動かず、数式は音もなく解き進められていく。
その時計の下に潜む、数多の命を、全く以て意に介することもなく――――知的好奇心の前に全てを踏み抜いて。彼等は前に進み続ける。
それこそが、碩学達なのだから。

「……良かった……本当に、良かった」

だが、その舞台は決して、彼等だけで回っているものではない。
倒れ込んできた少女の身体を、美珠は胸の中に、柔らかく抱き止め。そしてその背に両手を回した。
ジェームズ・モリアーティと出会って、何もなかった――――それを信じられるわけではないが、先ずは彼女が無事である。
そのことだけで、十分だった。

「……淡島さん。あなたもきっと、何かを抱えているんだと思う。
 私にはそれが何か分からない。けど……」

尋常ではないだろう。その邂逅で、楽しさや、懐かしさを感じるなんて……心配するなといわれてたって、無理だった。
鵜呑みになど出来なかった。だからこうして腕を離す事が出来ない。覚えていないというのならば、きっと話すことも出来ないだろう。
だから、それ以上のことは聞かない。心配した代わりに、というでもないが。

「――――あなたは外の世界が見たいって言ったわね」

……確かに、佐野美珠はこの世界の何もかもが嫌いだった。
全て夜に呑まれてしまえばいいと思っていた。或いはこの空は、その願いの究極系であると言えるのかもしれない。
ただ、都合のいい話かもしれないが。

「……一緒に見ましょう。見に行きましょう」

今は少しは違うと断言できるだけの、想いがあった。
だからどこにもいかないてほしい。彼女がどんな事情を抱えていたとしても、彼女がどんな過去を持っていたとしても。
その時までどうかと、佐野美珠は願っていた。

/申し訳有りません、こちらが遅くなってしまいました……お返しします
98◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/07(火)23:32:58 ID:2HR [3/3回]
>>97
優しい腕に抱かれて、他の誰でもない自分の名を呼ばれる。
それだけで、曖昧だった自己が樹立している証を、確信できるような気がして。
安堵らしくゆっくりと抜ける肩の力。腕を振り解くはずもなく、白猫のように顔を擦り付けた。

「…………外、に?」

呆然と反芻、それほどに意表を突かれたのだろう。顔を上げて、ぱちぱちと幾度かの瞬き。
何かを言おうとして、すぐに口を閉ざす。言葉がすぐに纏まらない程に迷うのは、彼女にしては珍しい。

「……言った、けど……それは……」

確かに、島の外を知りたかった。ここよりもずっと広い大地を踏みしめてみたかった。外界から断絶されて、初めて自覚した願望ではあるが。
けれどそれは実現という選択肢に不思議と触れられない、硝子の向こうの憧憬のようなもの。
事ここに至っても、やはり即断ができないのは。夢を夢として切り捨てるのに抵抗がない、達観の代償とも言えた。

「…………うん、行きたい。二人で、この島の外に」
「何も知らないまま、閉じ込められたままで終わるなんて……そんなの、わたしは嫌だ」

けれど、それが一人ではないのならば。共に暗夜の空を往く友達がいるのなら。
幾ら羽を散らしても蒼い月を目指して、鳥籠の外へ飛び立つためにもがこうと思えるのだ。
しっかりと見上げた顔は感情の起伏に乏しく、しかし痛烈な切望だけは、眼差しにも声にも抑えきれていなかった。

//こちらも遅くなってしまったのでお気になさらず…!
99◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/08(水)00:01:01 ID:x81 [1/5回]
>>98

もしかしたらそれは美珠が、ただ身勝手に願いを拾っただけかもしれないが。
それでも、その透明だった心が、そこにたぎる切望に気付いたのであれば……それを叶えない理由なんて無いだろう。
彼女の純白と、紅の混じる髪を梳かすように撫でる。

「……だったら、絶対行きましょう。やりたいこと、何でもしましょう」

勿論、佐野美珠という一人の少女が、黎明協会の碩学達に対して出来ることなど少ないかもしれない。
だが、それでも……この腕の中に収まる少女の願いを叶えるためであれば、出来ることは何でもやってやると。
あの少年と対話した時、そう決めた――――決めることが出来た。腕の中の少女が切望している。
そして何より――――自分がそう、望んでいる。

「だから、その時まで、何処にもいかないで。一緒に、外の世界を見に行くために」

だから、それが唯一、佐野美珠が彼女へと求めるものであった。
彼女が何を抱えていてもいい。どんな秘密を抱えていたとしてもいい。
ただ一つだけ、たった一人の友が、どこにも行かず、共にいられることを望むのみだ。

「――――帰りましょう。今日も一緒に、ご飯食べていきましょう」

そして、これまで通りの日常に戻ろうとするだろう。
ただそれは、この世界が終わるまで、息を潜めるような日常ではなくて……もう少し、前向きなものであるが。
100◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/08(水)00:47:07 ID:GZc [1/3回]
>>99
指通りの良い髪が梳かれる度に、羽のようにさらさらと舞い落ちる。
その心地良さに僅か目を細め、胸元に顔を埋めて仄かに体重を預けた。

「分かった、約束する。外の世界に行く時まで――行ってからも、ずっと一緒だ」

互いの利益を求めた取引だなんて、安い価値観での契りなどでは断じてなかった。一度だけ大きく頷いたのは、彼女がそうしたかったからに他ならない。
共にいる事にこそ意味があり、それを希求すると決めたのであれば。
如何なる障壁とて、その意思を遮られはしない。艱難辛苦を概算せず思うがままに振る舞えるのが、淡島豊雲野という少女なのだ。
そしてそれは、凍てついた秒針が相手でもきっと変わらない、不惑の在り方なのだろう。

「うん、帰ろう。少し疲れたから、お腹が空いちゃったよ」
「……ありがとう、佐野さん。こんなわたしと、一緒にいてくれて」

身体を離すのは別離ではなく、手を繋いで並んで歩くため。
微かに笑んで日常へと踏み出す一歩は、目指すべき月華を夢想して浮雲に輝く。
古びた書もまた、抱えて滅多な事では手放そうとはせず。大時計の彼方の太陽にあてられたように頬が薄らと朱を呈した。
101◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/08(水)01:05:46 ID:x81 [2/5回]
>>100

胸に埋められる体温と、その小さな呼気を不快に思うはずもなかった。
寧ろ何より心地良いものであった。こうして誰かと共に在ること。それを約束すること。
それはきっと、黎明協会の誰もが持たないものだろう。どんな天才でも――――この幸福だけは、齎すことは出来ない。

「――――ええ、ずっと一緒にいましょう。ここから先、何があっても」

意思が希薄な彼女が、そうまで言ってくれたのだから。望んでくれたのだから、勿論……佐野美珠という少女も。
絶対に手放したりしない。その意思と願いに、寄り添い続けなければならない。
この凍りついた時間の向こう側に、淡島豊雲野という一人の少女を連れ立って――――共に、歩み続けなければならないのだから。

「……私こそ、ありがとう。こんな私に……手を差し伸べてくれて」

離れていく体温を名残惜しくは思わなかった。
その手を握って、歩幅を合わせて、歩き続けることが出来るから、惜しむことができるはずなどなかったのだ。
何れ黎明を抜け、太陽を仰ぐ。ただ、今は目の前の日常へと向かって、歩いていく。

「ところで、その本、どうしたの?」

――――最後に、そんな素朴な疑問を問い掛けてみて。

/それでは、こちらからはこれで〆で
/長いあいだの絡み、ありがとうございました。またよろしくお願いします
102 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/08(水)01:11:00 ID:GZc [2/3回]
>>101
//そろそろ落ちなければならないので、返信は後程置いておきますね…!
//こちらこそありがとうございました、またよろしくお願いします!
103トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/08(水)01:35:29 ID:x81 [3/5回]

学園都市、多目的サーキット。

大日本帝国国内の大手自動車メーカー達は、学園都市建設に、このサーキットを設置することを条件として提示した。
その思惑は如何なものであれ、結果的に……特に、大学部の生徒達にとっては、良い影響を与えることもあった。
サーキットには、蒸気自動車が走り回っている。各々、大学部の生徒達が作った力作を、走らせ競わせる、年に一回の行事だった。
観客席の中に、一人の男が座っていた。後方の席で、つまらなさそうに、脚を組んで、サーキットを見下ろしているようであった。

「――――蒸気文明には、必ず限界が来る」

流線型のゼファーと名付けられた自動車が、モクモクと煙を挙げながら戦闘を走っている。
独創的で、実験的な格好の自動車達がその後を追っていく。
まるで巫山戯たようなものから、徹底的に速度を追い求めたものまで。サーキットに、轍を刻みつけて走るのだ。

「チャールズ・バベッジによるディファレンス・エンジンの開発から蒸気文明は大きく発展した。
 その間に幾つもそれに代わるものは提唱されてきた。だが、広がり切った“エンジン”は止まることはなかった」

一台の車両がクラッシュした。
それと同時にゼファーが一番にゴールインし、二位以下の自動車がなだれ込んで行く。
周囲に青色の紙片が舞って、観客たちは何処かへと向かっていった。
トーマス・アルバ・エジソンは、クラッシュした自動車から立ち昇る、暗い排煙を、忌々しげに睨みつけるようだった。

「その結果が、これだ。大気汚染が当たり前になり、排煙が覆い尽くす世界だ。
 これが正しいものか。これが続くものか。必ず、何処かで限界が来るはずだ」

その両手が、強く握り込まれた。……蒸気文明の発展に、エジソンは大いに寄与した。
蒸気機関の改良、蒸気管の小型化、蒸気映像機――――大いに世界の発展を促してきた。その結果を、分かりきった上で。

「私は正しい――――間違っているのは、貴様らの方だ……!!」
104 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/08(水)12:36:31 ID:GZc [3/3回]
>>101
畏れる事など何一つなかった。例え凍える刻が滑り落ち、この島全てを飲み込もうとも。
双翼であればその殻を破って、狭い籠から見上げていた太陽へ羽搏けるに違いないと。奪えない自由は必ずここにあると、確信しているからこそ。
言葉の代わりに繋いだ手に力を込めて、ふわりと笑いかけられるのだ。

「これは……拾ったんだ。色々な人が探していた、可能性を変える力だよ」

だからそれが渦中の魔術概念である事も、包み隠さず口にする。
そこに関してはこの無感動も、何かしらの感情を秘めた故のものではない。純粋に、この本が持つ力そのものには興味がなかった。

「でもわたしには、そんな事はどうでもいいんだ」
「これは……大切な、形見のような物みたいだから」

それ以上に意味があった。それを作り上げた人物にこそ、意義がある。
どうしてそう感じるのか、その理由まではやはり依然として分からないままではあったが。
胸に過る郷愁という名の感傷が、悪いものではないであると断定できたから。見知らぬはずの誰かのそれを、大事に抱えていたいと思うのだ。

//改めて絡みありがとうございました!
105重信愛子 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/08(水)15:43:44 ID:e6C [1/1回]
ぶつぶつ、ぶつぶつ……何かをしゃべりながら、重信愛子は学校の印刷室で大量のビラを印刷している。

「青い空は……もう……ないのよ……みんな……死ぬしか……ないのよ……」

学園教師でありながら新興宗教「黄金三角教団」に入信した重信愛子。
先日は大規模デモに参加し、多くの市民に動揺を与えた。
なし崩し的に解散したが、次なる大行進のために、信者たちは積極的にアピール活動している。

この学園教師である彼女は、少しづつ復活してきた学園の授業でこの宗教のビラをまき、学生相手の信者を得ようとしているのだった。

「次の授業では……この教団の真理を伝えなきゃ……私の授業だけじゃないわ……
 この学園のすべてに、教団のお言葉を伝えなければ……
 青い空は、もう、ないの……!!!」

ガンっ、と力が入り、印刷機に大量の紙をセットする。
印刷機が煙を立てていく……

・・・・・・・・・

大量のビラをもって、授業に向かい廊下を歩く目のぐるぐるの女教師。殺気立っている。
このままでは学園内の授業が宗教活動家の街宣になってしまう。
学園内にはすでに憲兵と結託しテロ行為を行おうとした生徒たちも出ており、不安が広がっている

邪神戦艦の傷も癒えないなか、ようやく再開しつつある学園は、どうなってしまうのだろうか

/置きでよければ……
106シャーロック・ホームズ◆</b></b>KZ.unZS3k2<b>[] 投稿日:20/04/08(水)20:12:00 ID:pQz [1/2回]
>>103

「それでも時代は蒸気を選んだ。この選択が過ちだとしても、それが周知されるのはいつになるやら」
「何十年、或いは何百年も先────今という時代を客観的に捉えられる時が来るまで、その時は訪れないでしょう」

言の葉を紡ぐのは少女の声、それはエジソンにも聞き覚えがあるはずのもの。
伊達と酔狂が極まったのか、或いはもっと別の思慮に基づいた行動か。先日の戦闘で負った傷も癒えぬがままに。
英国が誇りし奇人もとい顧問探偵、シャーロックホームズは悠然とした歩みで姿を現した。

「御機嫌よう、発明王────それにしても、この街は興味深い施設に有り触れていますね」

そうして少女はちょこんと────とても自然な動作で、彼の隣の席に座った。
警戒心、敵対心、猜疑心、その他諸々一切合切ありはしない。その台詞の通り、探偵は楽しそうに眼下に広がる光景に目を凝らしている。

喧騒、熱気、排煙、様々なもので満たされたサーキット。
確かにどれも興味深い。そして其れ等に対してこの少女が抱く思いは、かの発明王とは全く別のものなのだろうが。

「いやはや────実に面白いですね!学生がああいう最先端技術を弄んでいるというのは
 思春期の暴走気味な熱気と資本主義の利権的な思惑が絡み合って、絶妙な背景事情を感じさせる光景ですね!」

────さて、この捻くれ者に対してどうするかは彼次第である。
107トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/08(水)22:58:09 ID:x81 [4/5回]
>>106

「貴様――――」

低く、そして雷の如く迸る殺意を、トーマス・アルバ・エジソンは抑えること無く少女へとぶつけることだろう。
米国人であるエジソンにとって、英国人流のジョーク、伊達や酔狂を理解すべく……否、アメリカ人の中においても尚。
傲慢であり、偏屈であり、誇り高いものであった。それ故に、目前に現れた自身を軽んじる者に対して殺意を抑えなかった。
ただ、理性的でもあった。隠すことなく殺意を迸らせながら、隣にホームズが座ることを許し、その上で手を出すことをしなかった。

「どれほどそれが利権に絡むものであったとしても、金に絡んだものであるとしてもだ。
 技術に触れることは重要だ。野生動物が、じゃれ合いながら牙の扱いを学ぶように、それを以て知識は研ぎ澄まされる」

――――その光景に対して、エジソンは肯定的ですらあった。
技術発展には、若い世代にそれを慣れ親しませることも重要なことだ。
そして一つの何かを成し得るにあたって重要なのは、無限の試行と、何より実行することが重要であり……仮にその理由が。
大人達の思惑が絡んだものだとしても、結果的にこうしてその場を作り出されているのであれば、何も問題ないという“合理”による答えだった。

「好ましいことではある――――それが蒸気であることを除けばな」

然しその答えは、最終的に“そこ”に帰結する。
トーマス・アルバ・エジソンという男に付き纏うのは、いつもそれだ。この世界に広がる蒸気文明、それこそが男にとっての敵だった。
蒸気ガーニー達を睨み付けるようでいて、そうではなかった。男はただ、この世界に広がる蒸気機関達を憎んでいる。

/遅れてすみません、よろしくお願いします
108柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/08(水)23:00:39 ID:JiI [1/1回]
学園、屋上からの景色は。地平の果に蒸気が立って、世の亡ぶ、兆のようだった。
麦田が視界から消えてどれほど経ったか。世界は蒸気を散らす様変わったが、午過ぎに眠る学生の寝息は変わらない。
空想のよな高層建築が並んでも、肉の戦艦が飛んだ日があっても、彼らは何も変わらずに淡色の希望を持っている。

「こればっかりは、向こうのがうめぇや。」

咥えた煙管を吸えど、排煙交じりの空気の中じゃ味わいも変わる。こんな時だけ、捨てたはずの故郷の空気を思い出す。
草の根の匂いが静かに鼻に、畑の土と石が自分を見ているような気がする。遂には帰って耕そう、なんて思う筈も無く。

強大な何かに立ち向かう、なんてことは探偵なぞに任せておけばいい事だ。
それは自分の仕事ではない、そう理解しながらも。理性じゃないそれが、気に入らないと声を挙げる。
何時だって彼はそうだった。出来る筈も無い事を、それに任せて初めて痛い目を見ている。

「あーあ、どうせ暇なら昼寝でもしてろや……」

耽る思いは、真下から叫ぶ教師によって阻まれて。粗雑に煙管の中身を放ったなら、ため息と共に階段を下りた。明確な不良行為の証たる管を隠す事もせずに。
109シャーロック・ホームズ◆</b></b>KZ.unZS3k2<b>[] 投稿日:20/04/08(水)23:26:51 ID:pQz [2/2回]
>>107

身を痺れ焦がす程の殺気が注がれる。シャーロック・ホームズは至って平然と其れを受け流す。
この探偵は何処までも偏屈者であるが故に、一度は命懸けの敵対を為した相手の横にだって、平然と座っていられる。

とはいえ、それは相手が憎悪を買い叩いた敵である以前に、深く理知的な人間であることを確信するが故でもある。
怨敵を前にしても理性を保って激情を御すことが可能か否か────それくらいの人間観察は前提として完了しており。
だからこそホームズもまた、自然体のままで彼の言葉に応じるのだ。此方は激情の欠片さえ見当たらない、正真正銘普段通りであるのだが。

「意外ですね。てっきり蒸気機関という名の怨敵が関わる勉学なんて、其れそのものを否定すると思っていました」
「かの天才、発明王といえども────健やかに智を育む後進の姿には、思う所があるということでしょうか」

シャーロック・ホームズは一応これでも学生ではあるが技術畑とは縁がない未分である。
既に存在する情報から隠された真実を暴くのは得意でも、存在しないものを創造する開発者としての資質は皆無。
だからこそ────エジソンの言葉は開発者側の言葉として、すんなりと納得することができた。

頷きながら手提げ袋の中から包紙を出す。中身は煎餅であった。
其れを呑気にぽりぽりと齧りながら、少女の碧眼はサーキットに向けられたまま、然し言の葉は彼に向けて。

「────さて、疑問ではあったのです。どうしてかのトーマス・アルバ・エジソンが
 蒸気機関と反目する筈の男が、どうして蒸気機関を用いた陰謀を目論む組織に手を貸しているのか」

「その様子ですと、決して蒸気文明に妥協した様子でもなさそうですから────いやはや、一枚入りますか?」

探っているのか、それとも見透かしているのか。
煎餅を一枚差し出しながら、少女はまるで明日の天気の話でもするかのような気軽な口調で、軽やかに踏み込んでいく。

//よろしくお願いします。それからすみません、また日付が変わる頃に凍結をお願いします…
110トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/08(水)23:52:16 ID:x81 [5/5回]
>>109

エジソンは、徹底的に他者を見下している。だが、それは無制限の他者に対する暴力には繋がるわけでもない。
如何なる碩学であろうとも、自身には及ばない。この発明王の知能には及ぶべくもないという絶対的な自信を持っているからだ。
そして、その傲慢を以て尚偉業を偉業と認める理知的な判断能力があった。

「凡愚のやることだと言ってもだ。成果に対して正当な評価を下さないほど愚かではない。
 世界は極少数の碩学によって進歩する。私が永遠の命を持っているのならば話は別だが、そうではない。ならば次の碩学を産む構造は作らなければならん」

例えば、自身が永遠に生き続け、その頭脳を常に人類のために使い続けることが出来るのであればその限りではない。
何より、永遠に生きるなどと願い下げだ。そうまで人類の介護をしたくはない。
だが、自分が死んだ後も、人類は進化し続けなければならない。そのために、後学の存在は必要不可欠だというものだった。

「――――何を下らん問い掛けを」

ホームズの問い掛けを、エジソンは鼻で笑った。
虚仮威しだけは立派だが――――所詮はただの探偵かとでも言いたげな、そんな一言を漏らした。

「蒸気機関は“道具”だ。私にとって憎むべき蒸気文明であるが、それが有効な道具であることに変わりはない。
 ならば目的のために使い潰す。それだけだ。蒸気機関は悍ましい物だが、その働き自体を否定する意のは無意味極まる」

蒸気文明は、トーマス・アルバ・エジソンにとって怨敵にも等しい相手だ。
だがそれが齎した高度な計算機能を始めとする数多の文明は、平たくいえば便利なものだ。ならば目的のために使わない理由はない。
憎んでいようと、そうでなかろうと、道具は持ち主の思うがままに動かされる。

「――――素晴らしき電気文明のためには、手段など些細なことだ」

それこそが、トーマス・アルバ・エジソンの願いだ。
男は人類の発展を望んでいる。そしてその先に予想される蒸気機関の限界を破るために、世界を電気文明に移行することが目的だ。
そのために何人の人間が犠牲になろうと知ったことではない。全ては、“人類のため”なのだから。
馴れ馴れしく差し出された、煎餅に、舌打ちをした。

/凍結について、了解しました
111シャーロック・ホームズ◆</b></b>KZ.unZS3k2<b>[] 投稿日:20/04/09(木)00:23:48 ID:1sQ [1/1回]
>>110

「その理念があるなら、黎明協会よりも学園教諭として教鞭を奮う方が似合う気もしますね」
「もし興味があれば紹介しましょうか────何せ英国学園都市は現在復旧中につき、絶賛教職募集中ですので」

英国学園都市をそのような状態に陥れた組織の一員にそんな台詞を吐けるのは、意図的かそれとも天然か。
然し言葉に悪感情らしきものは一切含まれていない辺り、単純に無頓着なだけの可能性が一番高い。

「────成る程、確かに発明王の威光は失墜してなかったようです」
「今ではなく未来────何時か彼方の遠い時代に電気文明が華開く為、今はその布石を打つ段階であると!」

納得したように相槌を打てば、煎餅の残りを口に放り込む。
咀嚼、そして今度はエジソンに渡せなかった二枚目を齧りながら、その合間合間に言葉を紡いでいく。

動機は幾つか予想していた。そのうちの一つが的中した為か、シャーロックの機嫌はとても良かった。
実際聞く側がどのような感情を抱くかどうかは別にして、彼女の台詞は彼の志を賞賛する意があったもので間違いない。
何せこの少女とて合理的過ぎる価値観の持主であるからこそ────多少なりとも彼の価値観に共感することができてしまうのだから。

ぱきん、と煎餅を大きく齧り、咀嚼し終えたなら。
何時のまにか用意していた魔法瓶入の煎茶で口を潤してから────その双眸を彼に向ける。


「────ところで、疑問に思うのです」

「果たして────蒸気文明が袋小路に陥った時、そう簡単に電気文明に移れるものなのでしょうか?」

その口調も、纏う空気も変わらないまま。
言の葉は恐れ知らずの刃が如く、彼の意図に向けて切り込んでいく。

//ありがとうございます、ではここで凍結お願いします…
112 : トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/09(木)00:56:53 ID:qRi [1/2回]
>>111

「私は、教師という人種が、この世で一番嫌いなんだ」

その冗談に対しては、本気の嫌悪を剥き出しにすることだろう。
殺意ではない、人間らしい嫌悪感であった。それは幼少の頃に、教師に吐き捨てられた言葉は、エジソンの性格形成にも強く関与する。
冗談の介在しない、純粋で本物の嫌悪だ。

「……」

エジソンは、鬱陶し気に、ホームズの称賛に対して無言を貫いた。
他者の称賛にあまり価値を見出していないことはある。ただ、それ以上に彼女の台詞を素直に受け取る気にならなかった。
ただし、称賛に対して嫌悪を抱くほどに捻くれてはいなかった。ただ、素直に喜ぶほどに単純ではないのだけは確かだった。

「移らんだろうな」

端的に、トーマス・アルバ・エジソンは彼女の問いに答えた。
この世界に普及された蒸気機関――――最早世界はそれらを中心に据えられたのだ。
もしもこれらが明日の地球を閉ざすと証明されたとしても……電気文明に移ることは、並大抵のものではないと断言する。

「その頃には、最早手遅れだ。世界は完全に蒸気文明に依存している。
 蒸気王バイロンは英雄と讃えられ、機関王バベッジは神格化され、彼等の率いた産業急進党は絶対的な力をつける」

その時は、きっと蒸気機関の進化の最終地点になるだろう。蒸気機関の普及に携わった者達は伝説になる。
英国首相バイロン、鉄道王スティーブンソン、そして機関王バベッジを始めとする碩学は蒸気文明の先達として神格化されることになるだろう。
事実としての権力と、偶像としての崇拝を手に入れた蒸気文明は最早手を付けられない――――ここから電気文明に切り替わるには。
どれほどの年月がかかるだろうか。

「待つのは緩やかな衰退だろう――――凡愚共の頭に、電気への移行が浮かぶのはそれからだ」

……実際のところで言えば。こればかりは、エジソンにとって恣意的な意見が含まれているのは確かである。
蒸気文明は更に発展を続けるかもしれない。エジソンの思わぬ方法で大気汚染も限界も突破できるかもしれないが。
だが、そうならなかった時。その先の人類にあるのは、蒸気文明と共に、緩やかに破滅すること。

/了解しました、それでは凍結で
/一旦お疲れさまでした
113押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/09(木)01:45:59 ID:Qcf [1/4回]
>>105

「Long time no see(お久しぶりね),Ms.重信」

廊下の向かい側からのヒールの音は、彼女の前で止まる。
同僚……通称GTO(グレートティーチャー押井)、押井眞子の姿は、彼女にも見覚えがあるだろうか。
笑ってはいるものの、その瞳は既に肉食獣のように彼女を捉える。何をしたか、何をしようとしているかは生徒に聞いた話と噂から察しは付いている。

「もうすぐ授業の時間よ?こんなものをどうする気かしら」

ぴらりと一枚ビラを取り、一瞥した後フンと心底くだらないものを見たといわんばかりに、適当に放り投げる。
それは教義に心酔する彼女からしたら侮辱に感じられるかもしれない。

//まだよろしければ
114重信愛子 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/09(木)01:53:57 ID:myZ [1/4回]
>>113

「……あ゛? 何してくださいますのかしら……?」

目がグルグルの甘ロリ風ヒラヒラ服を着た28歳独身女教師が、露出の多い女教師をにらみつける。
放り投げられたチラシを見、ビキビキとそのその額には血管が浮きまくっている。

「プリントはぁ、生徒たちにぃ、見せて、理解を深めてもらうためにあるのですぅ……
 あんなみたいな露出狂が紙飛行機にするためにあるもんじゃ、ないんですけどぅ?」

ツカ、ツカ、ツカ……と、安っぽい校内履きのサンダルをあえて足音鳴らしながら、
押井のパーソナルエリアを犯し近づいてくる。
その距離、5m……3m……いち、メートル……

何事もなければ、顔面10cmくらいまで近接し、ガンを飛ばすだろう。

「あなたが今投げ捨てた大切なチラシ、拾って下さらない? 
 いま、すぐに。
 ――このわたくしが、我慢できている間にねぇ」
115押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/09(木)02:17:23 ID:Qcf [2/4回]
>>114

「Really?真理とか教団なんて言葉が授業内で出てくるHome economicsなんて、ぞっとしないわね」
「しないわよ。飛ばしてうっかりこんなものがStudentsの目に入ったら大変」

露出の多い光沢のあるボディスーツを艶めかしく着こなした29歳独身女教師は、近寄ってきたロリータ教師に怖気づくことなく睨み返す。
眞子の方が長身であるために、意図はしていないが見下す形になるだろう。

「貴女がPrivateでどんなReligionを信じていようが、別に構わないわ」
「けどここはSchool、そして貴女はTeacher。Studentsに偏った教えをするのは褒められた話じゃない」
「それに貴女、校外で生徒に強引な勧誘をしたそうじゃない」

それは炎の上に乗せられた液体のように。眞子の怒りのボルテージもまた、ゆっくりと上昇していく。

「言いたいことはただ2つよ、Go away,and don't touch the students(他所でやれ、そして生徒に触るな)」
116重信愛子 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/09(木)02:27:52 ID:myZ [2/4回]
>>115

「あら、あたくしの言いたいことはシンプルに一つよ――
 ……ブスが見下さないでくれる?」

下から見上げる形で重信は一切目をそらさない。

まさに、一触即発。

その時――チャイムの音が鳴る。授業開始の合図だ。
だが二人にとっては、もしかしたら戦いのゴングにも聞こえるかもしれない。

「授業の時間だわ……。あたくしはこれから、真理を子供たちに伝えるのが仕事。
 そこを退いて下さるかしら? ああ、それから……」

 何事もなければ、その横を通り過ぎようとし……

「トーリトメントはしてる? 髪が痛んでる……手入れは十分にしておいた方がいいわよ。」

 通り過ぎさま、髪の毛に触れようとするが……どう反応するだろうか。
117押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/09(木)02:53:17 ID:Qcf [3/4回]
>>116

罵詈雑言に、二人の間で飛び散る目に見えない火花は一層激しくなる。
そして、教師という仕事・立場を己の道具とすべく、済ました顔で通り過ぎようとしたその時。

「────Teacher舐めてんじゃないわよ」

どこの白書かと言いたくなる台詞は、何も対応しなければすれ違いざまに顔面へ振りぬかれる拳に中断させられるだろう。
身体強化こそ入れてないが、真っ当に食らえば鼻っ面をへし折るだけの威力はある。
真っ当な人間なら躊躇う手段にも、教師として必要と判断したなら打って出る。GTOの名がつけられた理由の一端といえるか。
因みに髪は、戦艦騒ぎで政治家を名乗る不審者に日本刀で切られたショートカット状態だ。痛んでると称されるのも無理はない。

「Too bad.放っておいたら急ぎの仕事になるなんて」

遅刻は免れ得ない、と溜息をつく。
少なくとも「新興宗教を学園から排除する」ことに対しては、ここで決着をつける心づもりでいる。
118重信愛子 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/09(木)03:00:18 ID:myZ [3/4回]
>>117

「……ったいわねぇぇぇぇこのびちぐそがぁぁぁぁあああ!!!!」

顔面にダイレクトにGTOの拳が貫いた――かに見えたその瞬間、
重信の顔が真っ黒になっていた。
その真っ黒な女が、下品な言葉で叫び声をあげる!

異能が発動していた……彼女の能力「重い女」が、全身を漆黒の硬質重量物質となり覆う。

ただ、発動がわずかに遅れたのか……その顔面が硬化する前のわずかな間に、押井の拳はヒットしていた。手ごたえはあった。
だが、その衝撃を「硬化」能力により、脳を揺らす前にぎりぎり防いだといったところ。

「重い女」は、瞬時に重信愛子の体重を1トンまで増加させ、廊下のタイルは重量に耐えられずミシッとひび割れる。

「私に能力を使わせるつもり? 本気を出せばこの学園ごと破壊することになるわ……
 いまなら、あんた一人半殺しだけで許してあげなくもないんだけど? ないんだけど? 
 な、い、ん、だ、けどぉぉぉぉぉぉおおおおお?」

 硬質化し、1トンの重量になった平手で、GTOに襲い掛かろうとする!

 とうとう、最悪の形で学園教師二人の殺し合いが始まってしまった!?
119押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/09(木)03:32:16 ID:Qcf [4/4回]
>>118

「Oh,こっちの土俵に上がってくれるなら、やりやすくていいわね」
「そのReligionの教えも、今の貴方見てたら御利益があるようには思えないわ」

能力を発動させ怒り狂う愛子を見て、眞子も応えるように術式を作動させ笑う。
殴られたと主張し反撃もせずただ騒ぎ立てられていたなら面倒だったと、先日の政治団体のことをふと思い出し、内心安心しながら。
拳を引く前に感じた硬い感触、そして増加した重量。顔面に入っていながら真っ当にのけぞりもしないあたり、その重さは半端ではないはずだ。
ウェイトの圧倒的な差を意識した戦闘が要求されるか。

「そんなことはさせないし、貴女に許されなきゃいけない謂れはないのよ!」

繰り出される張り手、重さの乗った威力は一撃でもまともに食らえば首が飛びかねない。
だが、その動き自体は素人同然。「高速化」の恩恵により見切ることも難しくない────ならば、当たらなければよい話。
伏せるように姿勢を低くし、その一撃を回避。そして流れるように足をつかみ、手前に思い切り引いてバランスを崩そうとする。
重量で負けていても、馬力でなら張り合えるという見込み。そしてその身体を倒せたならば、そのまま右膝を逆に折るべく関節技を仕掛けに行くだろう。
その殻を打撃で砕くのは文字通り骨が折れそうだが、甲殻類がそうであるように関節部位を曲げる形ならば、という狙いだ。
120 : ディ(以下略◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/09(木)13:50:08 ID:6Wt [1/1回]
某日某所。
携帯で通話中の少年一人。

「Mの書、な…」

少年は先の騒動を直接目撃した訳でもないので伝え聞いた話でしかない。
しかし一応自分が必死こいて護りきったアーティファクトである、筈だ。
それが妙な連中の玩具になっているという事実が如何にも不満でならなかった。

「いや、英雄として祭り上げてくれって話ではないんだけどな?
 こう…やっぱ、モヤモヤする訳だよ色々と。
 こんな事なら書を拾い上げた時に俺も鳩尾に叩き込んでみるべきだったのかね?
 ん?いや、その宗教家?だっけか、ソイツのがホンモノって確証もないわけだけど」

何をすべきか、やはりこれまで同様にMの書を破壊されないようにすべきなのか。
しかしやはり所持している(と思われる)連中と協力する気にはなれない。
少年は悩んでいた、悩んでいたから相談してみたのだが。

「それに黎明協会の刺客の末路も気になるんだよ。
 割と奇跡って呼んでいい現象を受けた存在の扱いなんて悪い事の方が多いしな」

手持ちの情報はゼロ。
何度目かの奇跡を願い歩き回る気になどなりはしない。

/待ちです
121名無しさん@おーぷん[] 投稿日:20/04/09(木)20:39:05 ID:myZ [4/4回]
>>119
「アッ……」

平手打ちが空を切ると、足をつかまれた愛子はそのまま転倒する。
武道の心得のない愛子はこうした投げ技に弱い。
そのまま右膝は折られ、寝技のような体制になる、

「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛たいいい゛い゛い゛い゛゛い゛い!!!」

たとえ体が硬質化しても、てこの原理で体の構造を利用されてはたまったものではない。

だが、意地っ張りな愛子。硬質化し重くなった足がギシギシと嫌な音を立てても根をあげず。
がむしゃらにつかみかかり、そのまま重量を増加していく。
その重さ、既に10トンにもなろうとしている……

「あ゛ん゛だなんかにぃぃぃ……まけてたまるかぁぁぁああ!!!」

気が付けば、周囲の空間が重さでゆがみはじめ、「重力の虹」と呼ばれる偏光現象が起き始めた。
周囲のホコリやチリが、硬質化し重くなった愛子の周囲に引き寄せられ始めている。

また、10トンの重量は、校舎の床にめり込み始め、ゴゴゴゴコ……ときしむ音を立てている。
ガラスにもひびが入り、また大声が上がるので、生徒たちの数名が様子を見にざわざわと駆けつける音もする……

/遅れました。昨夜は寝落ち失礼いたしました
122久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/09(木)22:08:39 ID:wNR [1/3回]
>>108
教師の叫びがいつの間にか、廊下の走行を咎める怒号にすげ変わっていた。
見咎められたらしき慌ただしい足音は、曲がり角からみるみるうちに近づいて。

「うお――っと、悪い!!」

あわや衝突、と相成る寸前。精良な反射神経が急ブレーキをかけて、つんのめりながらもどうにか立ち止まる。
上半身を大きく前に傾けたまま、ぱちんと手を合わせて半ば反射の謝罪。
とはいえ顔に出ている後ろめたさと反省に嘘偽りはない、上体を起こそうと視線を上げて。

「…………あ」

喫煙具に釘付けになってしまったのもまた分かりやすく、思わず声に出して何度か瞬きを繰り返した。
それは粗暴者を前にしてしまった怖気の類ではなく。むしろ興味深さの方が強い反応であった。

//まだよろしければ…!
123 : ◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/09(木)22:27:21 ID:AGK [1/1回]
>>122
//遅れてごめんなさい。ただ今確認しましたので、返信まで少々お待ちを……
124柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/09(木)22:48:32 ID:bCt [1/2回]
>>122

「……あぁ?」

謝罪に向けて怪訝な視線が、即座に手が出ないだけ彼にしては穏便だ。
フェルト帽と煙管、何しろトレードマークが多いから、柏村中也と言う名の粗暴な生徒を認識しているかもしれない。

「おめぇにゃ似合わねぇし旨くもねぇよ。やめときな。」

こうも分かりやすく釘月になってしまえば、流石の彼も返事位はする。
喫煙を好む不良生徒には見えないから、その視線は憧れの類か。ならば似合わないと言い切って。
彼もまた酷く童顔だから、煙管が似合うような男ではないけれど。

「そもそも……おめぇのせいで一服も出来ねぇんじゃねぇか!
 阿呆め。景色を流して走るような奴に煙管が吸えるもんかい。」

思い出したと言わんばかりに軽めのローキックを入れれば、追う教師の視線を切るために物陰へ。
階段裏の倉庫代わりの空間。不良生徒にはうってつけの場所と言えた。
125 : トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/09(木)23:07:11 ID:qRi [2/2回]
/相談スレに次回イベントについて投下させて頂きました
/現在したらばが少々重たくなっていますが、ご確認頂ければ幸いです
126久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/09(木)23:19:07 ID:wNR [2/3回]
>>124
ずどん、と言葉が胸に突き刺さる音が、廊下にさえ響いたかのような表情だった。
良い噂を聞かない相手だからといって、先入観を抱くような人間ではないつもりではあったが。
気にしている事を真正面から口に出されて、冷静でいられる程に大人ではいられないのだ。

「んだとぉ!?やってみないと分かんねえ――いてえッ!」

売り言葉に買い言葉、無理と言われて憤慨し、完全にムキになっている辺り彼の方が明らかに子供っぽい。
最初は喫煙に対する憧れというよりは、自分も多少大人びて見えるのでは、なんて小賢しい思惑だったが。
ローキックを腿に食らって思わず片足で跳ねる。言葉程に痛がっているようではなく。

「お前だってカッコつけてるけど似合ってねえし……あ、待てって!俺も見つかるとヤバいんだって!」

追われているのだから、当然何かしらをやらかしたのは間違いなく、後を追って薄暗い空間へ。
煙管には興味がある割に、そういった如何にもな雰囲気の場所にはそう感慨深そうではない。

「へへっ……なんかさ、こういうトコって秘密基地みたいでワクワクするよな!」
「……わざとじゃないんだよなぁ、わざとじゃ……」

なにせもう少し程度の低い理由で既知なのだ、先程までの憤懣も忘れたかのように溌剌と笑って。
息を切らして廊下を通り過ぎる初老の教師の、見るからに人工物である頭髪が、本来あるべき場所からずれていた。
それが見えなくなるまでをおそるおそる物陰から伺っているのだから、何をしでかしたのは明白で。
127柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/09(木)23:38:48 ID:bCt [2/2回]

>>126

「煙管で格好付くと思ってるのが餓鬼で阿呆なんだ。
 いいか、こりゃ俺たちの春における止り木の枝だ。それもわかんねぇなら───」

何か高尚な言葉を使うふりをして、思い切り向きになっているのは表情でわかる。似た者同士かもしれない。

「……こっちゃあ巻き込まれてんだ、訳ぐらい離せや。
 お暇な丸頭様はどうしてあんな怒り狂ってるんでぇ?」

そもそも一つ目の怒りを引き出したのは自分の喫煙である。そんなことはめっきり忘れているらしく、なんとも都合のいい頭。
小柄な体で彼の下から外をのぞけば、そろそろ教師も別の場所を探しに行く頃。ひとまず怒号は消え去り静寂がやってくる。

「餓鬼ィ追い立てる前にやる事があるだろうよ。
 "あんなもの"を学生に迎撃させといて、何を偉そうにするんだか。」

そう愚痴って。
128久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/09(木)23:58:12 ID:wNR [3/3回]
>>127
「ぐぐッ……分かりづらい言い方しやがって……!お前の方が粋がってるじゃねえか……!!」

文豪達が記した文字の結晶どころか、活字を読む事すら億劫がる人間であるから、素直に思った事を言うばかり。
しかし追われる身になった理由を問われれば、ぎくりと口の端を引攣らせ。あからさまに目を逸らして、分かりやすく焦っていた。

「いやぁ……ちょっと巫山戯てたら、うっかり手がぶつかったっつうか?」
「だから事故だよ事故!大体、薄いのを誤魔化してるのが悪いんだっての!」

後半は最早開き直り、謂れのない責任転嫁。この話は終わりとばかりにふいと顔を背けて。
覗いていた先から人影が消えれば、すっかり気を抜いてその場にしゃがみこんだ。

「……この間のデカブツか?あれは……大人だからって、誰でもどうにか出来るようなモンじゃなかっただろ」
「戦うとか戦わないとかに、大人も子供も関係ねえんじゃねえかな。少なくとも俺は、そういうのを抜きに皆を守りたいって思うし」
129柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/10(金)00:13:29 ID:vn7 [1/4回]

>>128

「おめェ、本を読まねぇだろう。
 批評なら正面から受けて立つが、思考もせずわかんねぇと切り捨てられんのは我慢ならねぇなぁ!
 お前みてぇなかびた蜜柑たぁ話す事なんざ何も───」

そうして怒り狂って喚き散らしたかと思えば、続く彼の所業を聞けば

「はははっ!!なんだぁ、面白い事すんじゃねぇか。
 カビる程つまんない訳じゃねぇらしい。取り消してやるよ。」

そんな怒りなど無かったかのように笑い飛ばす。ある意味詩人らしくか、感情の波が凄まじい。
満ちれば呑むまで引けば干くまで。細かいことは気にしない。相手にとっても細かい事とは限らないけど。

「餓鬼がそう思うのは立派だろうが、大人は格好つけなきゃならんだろう。
 出来る出来ねぇじゃねぇ、大人は餓鬼の前に立たなきゃなんねぇ。
 おめぇだってそうだろう。赤子が後ろに、目の前に化物、退くかい?」

「ま、そもそもだ。守りてぇたぁ立派だが、どうすんだい。
 時計の針を止める算段は?傲慢な学者共の顎をひっ叩く腕はあんのかい?」

それを探しているのであれば、状況はまた彼も同じく、だけど。
130久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/10(金)00:42:06 ID:nwS [1/3回]
>>129
「カビてねえし!俺にはちゃんと久々之千梛って名前があんだよ!」
「だーかーらー、わざとじゃないんだっての……」

怒ったり笑ったりと忙しなかったが、相手の機嫌が良くなれば毒気を抜かれてがっくりと肩を落とす。
殊更に不貞腐れるかの二択であったが、それが軽視に所以するものではないと分かれば。
憤慨する気にもなれず、拗ねているような面持ちながらもつられて照れ臭そうに笑った。

「うーん……俺はどんな奴だろうと、困っているなら助けたいからなぁ……」
「大人だからって意地張って無理して、傷つく方が見たくないっつうか……」

まるでお人好しの言い分。しかし思いついたままに偽善をつらつらと述べるような、上っ面の言葉ではないと。
視線を宙に彷徨わせて首を傾げ、一言一言を考えながら紡ぐ様子が如実に表しているだろう。
そういう人間だった。誰であろうと傷つき悲しむのを是とせず、身を削ってでも救おうとするような。

「全然考えてねえけど。動いた奴を片っ端から止めれば、いつか諦めてくれんじゃねえかなって。この前のデカブツでも、俺だって一部は止められたし」
「そりゃ、大元から叩くのが一番いいんだろうけどよ……そういうの、考えるのは苦手なんだよ」

あっけらかんと言い放ってはいるが、後手後手の対応であるくらいは分かっている。
とはいえ情報も、そこから推測できる頭の出来も不足しているものだから、きまりが悪そうに頬を掻いた。
131押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/10(金)01:04:39 ID:qyk [1/1回]
>>121

関節の壊れた感触を確かめれば、間髪入れずに別の関節を折り抵抗不能にする心づもりであったが、それは足を掴まれ阻まれる。

「Shit,離しなさい……!」

力自体はそこまでではないが、その重量が片足を捉えて離さない。「重い女」というのは伊達ではないという事か。
そして周囲から鳴り響く異音。重さで校舎の床が抜けるという生易しいものではない。彼女を中心に、万物が引き寄せられていると表現すべきか。
「本気を出せばこの学園ごと破壊することになる」という言葉を実行に移す心づもりならば、時間はあまり残されていない。
生徒のざわめきが耳に届く。彼らを巻き込むわけにもいかない。

「ったく……こっちだって貴女『達』にかまってる暇なんてないってのに」

彼女、ひいてはその背後にいる新興宗教までも、眞子にとっては勝敗を争う立場にはない。
教育の妨げになるならば、ただ教師として粉砕すべき障害。
掴まれていない方の片足を、彼女の身体へと乗せて。

「It's SHOW TIME!!」

彼女という障害を砕くべく朔の杖を握りしめれば、肌の文様は蒼く燃える。
全開で繰り出すは魔力壁の形成、眞子の斜め上後ろに壁が吐き出されれば、反作用により彼女を床に押し付けそれをメリメリと削りながら、その上に乗る眞子ごと動いていくだろうか。
本来は空中での跳躍や飛行に用いる推進力で、彼女をスケートボードにしてしまおうという魂胆。

「さあ、授業(punishment:オシオキ)よ」

その上に乗る間、とん、とんと彼女の身体を足で踏みつける感触を感じられるだろうか。
無論その打撃でダメージを負わせることを狙ったものではない。
もし二人の真上からの視点を彼女が持っていたならば、踏みつけた場所に眞子のものと似たタトゥーの文様がいくつも刻まれていることが分かるはずだ。
貼り付けた相手の魔力・生命力を吸収し、記録された魔術を発動させる外付けの術式、その文様は「爆破」。それは彼女の力を吸い上げ、重量増加の妨げになるだろう。
そうして二人が向かう先は、行き止まりにある窓を突き破ったその先。校舎の外で彼女を爆発させ、戦闘不能へと追い込もうとするだろう。
当然この間に何らかの抵抗が挟まれば、その通りにはならないだろう。

//遅くなりました、お返しいたします
132柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/10(金)01:07:53 ID:vn7 [2/4回]
>>130

「……けっ。そーいう馬鹿は人に好かれやがるからなぁ。
 巻き添え作って碌な末路を迎えねぇ。早死にするぜ、おめぇ。」

酷い言い方ではあるが、要は無理をするな、と言う事。立派だと思っているのは本音だから。
煙管を仕込んで吸って吐く。漏れる煙は、きっと彼には心地のいい物じゃないだろう。

「後手後手で諦めてくれるかよ。断言してやる、あいつら俺らの事なんざ羽虫だと思ってら。
 考えんのは苦手だって言いきれるだけマシだがよ。」

今でこそ不良で成績も下から数えた方が早いが、嘗ては神童と呼ばれるほどの成績を記録していた。
とはいえ、自分だってあの探偵程推論を得意とするわけじゃない。別の分野に脳を振り切ったのだから。
だとして、攻勢に出る以外の選択肢はないのだ。軽視されているのなら、それそのものが可能性であるし

「あいつら、作家を馬鹿だ阿呆だと思ってやがる。世界を救うは数式だけだと思ってやがる。
 気に入らねぇだろ。だから考えんぞ。」

何より"気に入らない"。それが、一番の動機だった。

「お前もあの場に居たならなんか聞いてねぇのか。情報、ってか、目的とか。
 あークソ……探偵じゃあるまいし俺に分かる事なんてよぉ。Mの書?は見つかったんだったか?
 術式?黎明式?専門外なんだよ……」

とはいえ、手掛かりは遠く
133久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/10(金)01:37:11 ID:nwS [2/3回]
>>132
「それは困るな。出来れば誰も巻き込まないで済ませたいぜ」

本気で貶してはいないと悟り、へらっと笑えば八重歯が覗く。しかし天寿を全うできないだろう事は否定しなかった。
誰かが害されるのを見るのが嫌だと言うのならば。鏡を見ないふりさえすれば、自傷に拘う必要もないのだ。
風通しの悪い空間に漂う煙に小さく咳き込んで。決定的に常人を見下す彼らを想起し、険しい面持ちで大気に溶ける白を見た。

「知ってる。自分が一番だと思ってて、他を人間だと思っていないような奴ばっかりだ」
「……人よりすごいからって、誰かを傷つけていい理由にはならないのによ」

一部の人間としか戦っていないため、おそらくは多分な偏見が含まれているだろうが。
根本的に下に見られるのが嫌いであるから、彼の心象としては妥当とも言える。その行為も考え方も、到底受け入れられないものであった。

「悪い、あの時は色々必死だったから、全っ然覚えてねえや……あいつらの事も、実を言うとあんまり詳しくは知らねえんだよな」

ただ、この街の人間を使い潰して何かをしようとしている。はっきりしているのはそれだけだ。
そしてそれこそが、行く手の見えない暗闇でも我武者羅に走ろうという原動力になる。

「分かんねえなら探しに行こうぜ!あちこち探し回れば、ちょっとした情報くらいはあるだろ!」
「それでも無理なら、何かする度にぶん殴って、無駄だって分からせてやろうぜ!」

その思考の方向性は思索の不得手故に、どうしたって短絡的な実力行使にばかりに向くのが難点なのだが。
134柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/10(金)01:52:40 ID:vn7 [3/4回]
>>133

「阿呆超えて馬鹿だな間抜けェ。お前の頭は干し大根かよ。
 あれほどの技術と周到さを持った連中だ。道端に手がかかりなんて落ちるかよ。」

相手に居るのはトーマス・アルバ・エジソン。ルイス・キャロル。それを束ねる何者か。
悔しい事に世界最高峰の頭脳がそこに集っている。それこそ尊敬する大作家が、諦観を覚える程に。

「探すなら同士だ。一人で殴れる相手じゃねぇんだ。
 家族じゃなくて戦士を探すんだよ。お前の隣で戦える、な。」

それでも、幸いここは異能都市。一人一人が未知なるを抱える異能者であり、故にそこには必ず可能性がある。
可能性を集めて束ねる。羽虫の群れを積み立てあげて、蚊柱でぶん殴る。情報を集めるよりは可能性。

「まずは俺、柏村中也とお前で二人。
 愛称が欲しけりゃダダと呼べ。ぶん殴りてぇのは俺も同じだ。」

咥えた煙管を吐き出して、ハンケチで吹けば口を彼に向けて。多分、握手の代わりである。
135久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/10(金)02:29:32 ID:nwS [3/3回]
>>134
「ほ、ほしだいっ……ッ……!!」

口をぱくぱくとさせて、最早絶句である。後に続いた言葉すら頭に入っているのかも定かではない。
臨界点を通り越して怒りは蒸発し、がっくりと項垂れて愕然を示す。
思慮が浅いとは分かっているからこそ下手な反論はできない、頭を掻いて行き場のない遣る瀬無さを葬った。

「……隣で、か……」

消沈の姿勢のまま、目を瞑って考える。思い出すのは先の邪神襲来の日。あまりに強大な蹂躙を前に、数の力の必要性を知った。
誰かと共に戦うとして。どうしても、手傷を負うのを間近で見るのが嫌だと思っていた。
けれど一人の力には限界がある。大衆を踏み潰す巨象に対抗するには、蟻の結束が不可欠であると。

「…………ああ!やってやろうぜ、ダダ!」
「皆であの邪魔くせえ時計も、派手にぶっ壊してやろうじゃねえか!」

それに、これは決して口にはしないだろうが。シンパシーに近いものを感じたのも、きっと煙管を受け取る理由の一つだろう。
彼らの所業に対し、義憤に駆られる事も皆無ではない。だがもっと深層の単純な感情で片付けるのであれば。
自分が上位種だから他人を好きに扱っていい、なんて傲慢不遜な考えが。偏に気に入らないからこそ、牙を突き立ててやろうと思えるのだから。

「俺の事はナギでいいぜ!二年だから、センパイって呼んでも――――」

その意思は複雑な感傷が絡み合い、天を衝く不退転の決意となって彼を反抗の刃に至らせる。
しかし上手く吸えなかった煙に肺が驚き、盛大に咳き込んでいる様は。ただ背伸びしようとしている、少年のそれでしかないのであった。

//この辺りで〆でよろしいでしょうか!
//お付き合いいただきありがとうございましたっ
136 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/10(金)02:43:38 ID:vn7 [4/4回]
>>135

「言ったろ、旨くねぇっての。」

実に期待した通りの反応らしく。嗤う声を隠そうともしない。

「ま、せいぜい足?こうか───なんていうやつと一緒になるなよ。
 潰される気なんてサラサラねぇんだ。見せてやろうや俺たちの正体。
 牙も爪もある事を知らねぇあいつらの、戸惑う姿を嗤おうや。」

「よろしくな、ナギ」

先輩の威厳など、彼が感じるわけもなく。

//遅くまでありがとうございました
137 : トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/10(金)15:38:12 ID:mzV [1/1回]
/相談スレッドにイベントに関するお知らせを追記しました
/急な予定変更、大変申し訳あございません……
138 : 重信愛子 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/10(金)17:12:43 ID:hmh [1/1回]
>>131
「あたしに命令しないでッ!! 嫌い嫌いィィ……ッ」

 これでも「重い女」はフルパワーではない。
 重信愛子が恋愛したとき、その力は解放され、マックスの力を発揮できる。
 つまり愛子の魔術は未発展のものであり、理性でのコントロールを是とする魔術師からみれば、入り口にも立っていないと見える。

 GTOが魔力壁を形成し、さらに愛子にも魔術式を施す。

「?! あなた、何を……力が、抜けていく……」

 たちまち愛子の異能はタトゥーに吸収され、彼女の体の硬化が解けていく。
 手足の末端から人間の体に戻っていき……
 そしてスケートボードのような魔力壁に運ばれ、ひび割れた窓を突き破る。

「キャッ!」

 ガラスの破片が、生身の体に戻りつつある手足に突き刺さり……
 その次の瞬間!

 ドーンと大爆発。愛子の過剰な魔力を吸い込んだ術式が、おそらく眞子の想定以上の火力を生み出した。
 重信愛子は、硬化していない四肢……両手足は爆破でちぎれ、最低限硬化していた身体と頭だけは防御が間に合ったが、それまでだった。
 一命はとりとめたが、重信愛子の体はバラバラになり、手足は爆破で消滅した。
 中庭には、黒焦げになったボディが残される。激痛で意識は飛び、気絶しているようだ。

 幸い、眞子の活躍により学園生徒には誰一人怪我をすることはなかった。
 学園施設も最小限の被害にとどめたといっていいだろう。
139押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/11(土)02:46:36 ID:HJP [1/1回]
>>121

重量が減るにつれ、二人は加速する。
そして硝子をぶち抜けば、足を掴んでいた手が元に戻ったのをいいことに、彼女を空中へと蹴り飛ばす形で引きはがす。
校舎へと戻ろうとしたその時。想定以上の爆風と炎が背を炙り、身を吹き飛ばす。
結果、もう一度壊れた窓をぶち抜きなおし、眞子の身体は床を数回転がり着地することとなる。

「……貼り過ぎたかしら」

刺さった窓の大きめの破片を抜き、顔を顰めながら呟く。
爆音を耳にし、教室から出てきた生徒や教師たちを見て。

「何でもないわ、Religionistが紛れ込んでたから追っ払っただけ。教室に戻りなさい、授業中よ」

床に散らばったチラシの過激な主張と校舎に残った破壊の跡を目にすれば、揉めた結果戦闘となったという事は生徒たちにとっても想像は難くない。
生徒たちは「GTOがまたやった」等と口にしながら、教室へと戻っていく。眞子にとってこの手のエピソードは一回ではない。
それも含んだ数々の伝説、もとい噂が「GTOなら何をやらかしても不思議じゃない」という風評に繋がっている。眞子からすればはなはだ不本意な話ではあるが、こういう局面でもサラッと流されるのは痛し痒しというべきか。
外で気絶した愛子を一瞥し、一応救急車を呼んでおく。
生きてるかどうかも判断しがたいが、校舎ごと生徒を巻き込もうとした因果応報として受け取ってもらうほかない。新興宗教の本拠地を聞きそびれたが、そこは仕方ない。
そうして、歩み去るヒールの音で眞子は日常へと戻っていく。

//遅くなりました、こんな感じで〆でいかがでしょうか
140トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/11(土)20:08:19 ID:mUW [1/6回]

――――絢爛なりし蒸気文明。
人々はその素晴らしき文明発展を謳い続け、既に80年以上の年月が経とうとしている――――それに疑問を抱く者はいない。
服を身に纏うことを疑問に思う者がいようか。靴を履くことに疑問を持つ者がいようか。

未明。洋上学園都市全体に響き渡る衝撃と共に、セントラルタワー跡地に“何か”が降り落ちた。
天を衝く巨大な塔だった。それは蒸気に覆われた世界に降り立ち。そこに神々しき稲妻を撒き散らした。
輝く閃光は、タワーの周囲に雷撃の防御壁を生み出した。そしてその頂点では――――やはり、“電撃が迸っている”。

「――――計算を始めよう。この素晴らしき蒸気文明に」

その頂点に、トーマス・アルバ・エジソンは坐していた。
発明王の玉座であった。その背には、“電気で稼働する巨大な装置”が置かれていた。
電気稼働式特殊数式構築機《アフラ・マズダー》は、この蒸気文明に対して牙を立てるかのように。
一切の蒸気に頼らず、稼働する。

「排煙の世界に、雷光を齎そう。
 この偉大なる神雷を以て、私こそが、この世界に電気文明を拓こう」

タワーは、たった今そこに突き立てられたばかりだ。
警察機関や軍隊がそちらに駆けつけるまで、ほんの僅かばかりの猶予が存在する……そしてその間にも、電気は瞬いていく。

「凡愚共。この発明王の知に、よもや異を唱えるなどと言うまいな」

141久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/11(土)20:30:48 ID:BSL [1/4回]
>>140
雷電の幕壁に、ぱちりと何かが当たって弾かれる音。

「――――何をするつもりかは、知らねえけど」

狼煙の如く打ち上げた一矢が無意味に終わったのを、まるでそうなるのが分かっていたかのように。
構えていた和弓をかき消した少年は、タワーの下で閃光の頂点を強く見据えて呟いた。

「この街で危険な事をするってんなら、容赦はしねえからな!!」

背を向ける理由も躊躇う意味も、国の助けを待つ必要ですら皆無。
ただ、被害が及ぶ前にその危難を取り除くべく。紫電の塒巻く塔へと、果敢に猛って駆け出した。

//よろしくお願いします!
142 : ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/11(土)20:31:35 ID:Zh1 [1/5回]
>>140
「革命は何時だってアナタみたいなインテリが始める。
 でも夢みたいな目標をもってやるから過激なことしかやらない。
 どうせ最後はアナタが見下す凡愚…
 大衆にその才能を利用されて飲み込まれていくのにね?」

周囲に気温が下がっていく、パキリパキリと氷を踏みしだいて近づく音が響く。
姿を現したのは開いた一冊の手帳を片手に携えたフードパーカーと短パン姿の少女ラファ。

「産業革命なら然るべき場所で平和的にやって。
 それが出来ないからこんな事をしているのでしょうけれど」

パラパラとラファの携えた手帳のページが勝手にめくられていく。

「とっとと失せなエイリアン
 …尚この手帳は術式の発動と共に消滅する…そうだったの?」

バタン!と勢いよく手帳が閉じ、同時に青白い炎が吹き上がり手帳が燃え尽きた。

「伝言は以上よカエルさん。何処の誰の伝言かアナタは知る由もないのでしょうけど」

普段口数は決して多くないラファ。
だが伝え聞いて知っている。
目の前のコレは察する事をしないし恐らく言葉を紡いでもろくに聞きもしないだろう事を。
それでも必要だからこそ今日は言葉を紡ぐのだ。
143トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/11(土)21:00:47 ID:mUW [2/6回]
>>141
>>142
紫電渦巻く雷霆の塔。その内部は巨大極まる螺旋階段で構成されていた。
そこを支配するのは沈黙。ただ、排煙は無く、静かに白熱電球が内部を照らし出しているのみであった。
時折フィラメントがチラついて、塔の内部が暗く明滅した――――沈黙と、電流の塔の内部に、声が響き、渡っていった。

「――――何を抗う、凡愚共」

トーマス・アルバ・エジソンの不遜極まる声が、塔の内部に響いた。
エジソンが有するマイクから、拡声機を通して塔の内部へと響き渡る声であった。
足を踏み入れたその場にいる者達へと向けて、頭から押さえつけるような、圧迫するような言葉が降り注ぐ。

「この蒸気文明はやがて沈黙へと至る。進化の袋小路へと至り、壊死をするかの如き衰退へと向かう」

何らかの妨害があるわけでなく、螺旋階段にはただ、エジソンの声が響き続けている。
提示されるのはこの世界、蒸気によって支配された世界に対する提唱であった。
この学園都市は大日本帝国によって作り上げられた。徹底的な無煙都市として――――だが、蒸気文明からは逃れられていない。
表立って空が綺麗に見えている。海が綺麗に見えている。ただ。それだけの世界だ。

「ならば、ここで私は世界にそれを突き付ける。
 蒸気に頼らない、電気絢爛たるパラレルを見せつけることで、この世界は道を開かれる」

これは蒸気文明崩壊への一つの手順であり、そして何より世界の未来のためである。
世界はそれを以てさらなる発展を遂げると確信していた。そうすれば、幾つの新たな生命に世界は恵まれることだろう。

「お前達は未来への礎となって死ぬ。素晴らしいことだ。
 “こんなことに命を懸ける”よりも、遥かに有意義であると思うが?」

その最終結果として、多くの人間の命が世界を保つ為に捧げられることだろう。
この学園都市の命は全てディファレンス・エンジンとして扱われる。だが、それを以てエジソンは世界を切り拓いて見せると宣言する。
その先に在るのは――――電光眩く輝く、素晴らしき世界だと。彼等に問いかけるのだ。
144久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/11(土)21:21:38 ID:BSL [2/4回]
>>143
反響する声は重圧となり、螺旋を駆け上がるべく持ち上げる足に絡みつく。
それでも熱に浮かされたように、踵を鳴らして足音を刻むのを止めはしない。

「そんなのは、どっちだっていいんだよッ!!」

蒸気だろうと、電気だろうと。文明を発達させるためのツールなど、なんだってよかった。
どんなリスクを、失意の未来を抱えていたとしても。人は目の前の餌にしか意識が向かず、貪る事しか考えない。
一度怠惰に享受する事を覚えてしまえば、その表層だけに飛びついて。明確な利点を焼き付けられない限り、手放そうとはしないのだ。

「その為に大勢の人が死ぬってんなら!俺は絶対に、そんな未来は認めねえ!!」

しかしその否定は、断じて現行の文明にしがみついているがためではなかった。
そこに数多の命で賄った踏み台があるのならば。大衆を土足で踏み躙る行為を、見過ごせるはずもない。

「それに――何に命を懸けようと、俺の自由だ!!俺の命の使い方は、俺が選ぶ!!」
145 : ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/11(土)21:21:54 ID:Zh1 [2/5回]
>>141>>143
ただただエジソンへと向かう為に歩くラファ。
途中で久々之と鉢合わせする可能性もあるだろう。

「こちらの主張はもう述べた」

幸福の総量という数字だけで物事を推し量るならエジソンの主張には理がある。
不確定な未来に対し一定の保証を示せる彼は成程優秀なのだろう。
だが、しかし。

「強者しか残さないのは獣の所業。そこに人の未来がある筈もない」

その手段を看過し得た繁栄に人としての誇りはあるのか。
事実を知りながら享受できる者たちは果たして人でいられるのか。
虚偽の繁栄が続けば何れ時間が過去を覆い、次世代は礎の何たるかさえ知る事はないだろう。

「真に未来を憂うなら、成すべき事は別にある」
146トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/11(土)21:44:37 ID:mUW [3/6回]
>>144
>>145

トーマス・アルバ・エジソンは、実につまらないとばかりにその答えを聞き届けた。
全の為に個を捧げる存在が一般的であるならば、この世界はより素早く合理的な発展を遂げていただろう。
その答えは当然だ。誰しもが目の前の命が惜しい。だがそれでも問いを投げ掛けたのは、一定の理解を示す存在も見たからだ。
或いは理解を示すのであればと可能性を提示してみせたが。

「お前が認めぬから、何だと言うか。この私よりも、素晴らしく世界を導けると?」

ただ、当然かとばかりにエジソンは提示を止めることとした。
彼等は彼等なりの理論を以て螺旋階段を上がっていくことだろう。エジソンとは相容れない何者かである。
迎撃機構をこのアフラ・マズダーには備えていない。この塔には、何よりも、誰よりも強力な戦力を搭載してるのだから。

「人は所詮ケダモノだ。だが、同時に人間だ。だからこそ導かれなければならない。
 その役目を果たすのが碩学――――否」

エジソンは、それを以て尚、そこに掲げる大いなる傲慢と才能を振り翳すことを止めようとはしなかった。
少数の犠牲を以て大を導く。そして、自身こそが大を導くものであり、そのためであれば小の犠牲の一人であることを厭わぬ。
やがて、その螺旋階段の先に一つの扉が見えるだろう。巨大な機械じかけの扉の先に

「この、トーマス・アルバ・エジソンだ」

そこには巨大な演算機械が鎮座している。
塔の頂点だった。天を衝くかのような塔の頂点は、内部構造から比べても、物理的に不可解なまでに高い位置に君臨する。
玉座に、エジソンは腰掛けていた。発明王たる男は、頬杖をついて、足を組み。そこに現れる者を迎え入れる。
147ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/11(土)21:58:06 ID:Zh1 [3/5回]
>>146
言いたいことは言い切った。
目の前の敵には何を言おうが無駄なのは知っている。
だから此処からは無理を通して道理を引っ込めるしかない。

「あっそ」

自尊心の塊の宣言は予想通り過ぎて欠伸も出ない。
エジソンの姿が見えるや否やラファは車すら一撃で押し潰すサイズの氷塊を生成、撃ち放つ。
先手必勝、一撃必殺、生半可な一撃を用い砕いた程度では決して脅威を免れぬ一発だ。
148 : 久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/11(土)22:09:39 ID:BSL [3/4回]
>>146
「ああ、出来ないさ。俺はてめえみたいに、頭で世界を変えるなんて事は出来ねえ」

そこに否認の余地はない。大衆をより良い方向に導き高次元に運ぶなんて、やれると思うほどに不遜ではない。
それどころか自分に出来る事など、せいぜいが手を伸ばせる範囲くらいだとすら考えていた。

「だからこれは俺の我儘だ。この街の為に、てめえを止めるっつうな!!」

故にそこに合理性はない。あるのは心の内で迸る熱情に飽かせた、不壊の決意の弾丸だけだ。
図らずも同行者となったラファを一瞥した眼差しは、懸念と安堵の綯い交ぜになった複雑なもので。
扉を蹴破った勢いに任せて数歩のステップ、そのまま投擲されるのは挨拶代わりの五尺はあろう石槍。

「――久し振りだな。こんなモンをおっ立てて、随分元気そうじゃねえか」
149トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/11(土)22:35:37 ID:mUW [4/6回]
>>147
>>148

「――――愚かであることを、自覚できていることだけは褒めてやろう」

――――エジソンが懐から取り出したのは、二本の釘だ。
それを指先で弾くと、電撃が迸った後、射出される。
電磁加速により、音速の数倍を以て放たれた釘達は、轟音と共に氷塊と石槍へ衝突……その最終的な結果は、“蒸発”を以て終了とした。
金属製の弾頭は――――進路上にある物体を、存在している限り、蒸発して消し飛ばしていったのだ。

「ならば教えてやろう。お前達が相手をするものが何なのか。
 今回はそう……言うならば、“本気”だ」

指を鳴らすと同時に、二発の電撃が放たれることだろう――――それらは両者二人へと向けて、正面から放たれる。
それは正しく雷として、人体を焼き切らんとするだけの威力を発揮することだろう……だが、それだけでは終わらない。
例えば、電撃だけを利用するのであれば対処方法はいくらでもある。その性質は、如何にせよ雷撃であるのだから。

「感謝しろ。兎一匹を仕留めるべく、この私が労を割いてやるのだからなぁ!!」

そして、五本の釘を撒いた――――それらは磁力を以てその先端を揃えて、扇状に並べられたのであれば。
僅かな電流の予兆とともに、扇状に放たれる。
150ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/11(土)22:50:56 ID:Zh1 [4/5回]
>>149
放たれた攻撃を避ける為、ラファが地を蹴って跳ねる。
ギャキキ!と音を立てて空中に氷の道が出現する。
それはスロープのように曲がりくねり最終的にはエジソンへと至る道になっている。
ラファはスケートリンクを滑るが如く、生成した道を滑りゆく。
しかしその途中で不意に道を外れ横に跳んだ。
そのまま道を進み突貫と見せかけたフェイントである。
フェイントはアクセルジャンプの形で行われ、回転の際に人を易々と貫くサイズの氷柱を放った。

「…」

最早言葉は必要ない。
ただ只管に敵を止めるために力を振るうのみ。
151 : 久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/11(土)23:05:58 ID:BSL [4/4回]
>>149
初手から有利を引き寄せられるなどと楽観はしていない、防がれるのが前提の一手。
しかしそれでも、その結果が気化となれば。目を見開き、思わずして歯を軋る。

「ハッ……それじゃあここでやられたら、もう言い訳は出来ねえな?」

だがそれは、罷り間違ってもここで後退る理由にはなり得ない。ただただ、標的目掛けて疾るだけ。
鼓舞するように鼻で笑って更なる一歩、唸る紫電に俯くほどに脆い矜持を持ち合わせた覚えはなかった。
音の速さを超えた電撃を身体で迎え撃つ手前、立ち塞がるように忽然と現れるのは長大な木製の盾。

「そんだけの本気を出せるってんなら――」

手元ではなく宙空に出でたそれは、雷電を受け止めれば瞬く間に黒く焦げて異臭を滲ませる。
それで保つはずもないのは分かっていた。だが、一発を防げるのであれば十分だった。
もう一つの攻勢、釘の猛進は最初から、己が身で受け止めるつもりだったのだから。

「ッ――犠牲のない方法だって、考えられたはずだろうがッ!!」

皮膚を貫き肉を穿ち、一本の釘が脇腹を容易く噛み破く。焼けるような痛みと、それから鈍い痺れが徐々に這い上がる感覚。
そして零れる灼熱の鮮血を指で掬い、喚び出すのは方天戟と呼ばれる槍。
その中でもかつて猛将が振るったとされる、片方のみに横刃を持つ方天画戟を中段に構えて。
接近叶えば一切合切の容赦をなしに、寸断の横薙ぎを振るうのだろう。
152トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/11(土)23:36:23 ID:mUW [5/6回]
>>150
>>151

碩学、発明王エジソンは迸る稲妻と共に敵の動きを計算する。
大凡片方の能力者の持つ力は、武装を生成することだと理解している……それであるならば、大きな脅威ではない。
片方の異能者についても、大凡は理解することが出来た……しかしその応用力は非常に高いものなのだろう。

「――――笑止千万!!」

射出された氷柱を、先ずエジソンは両手で掴みかかり。それを押し留めた。
体内電流の操作による、身体の直接操作、身体機能の維持を顧みない徹底的な稼働によって強力に強化された握力は。
握り締めたそれを自身に突き刺さるよりも前に押し留め、それを構え直し。

「世界は単純な構造では出来ていない――――陰謀、権力、利権、金銭、数多の理屈によって成り立つ」

そして振るわれた方天戟に対して、その氷の柱を以て受け止め、寸断を押し留めることになる。
中程まで食い込んだ刃――――その付近が、鋭い音と共にひび割れたのであれば、すぐにそれを放し、エジソンは玉座より飛んだ。
それと共に、その周囲に電撃を纏ったのであれば、《大雷霆機構》の効果を発動する――――

「力のみで世界を支配できるのであれば――――」

――――次の瞬間。床からは、幾つも鉄の柱が突き立った。
電磁力によって誘導された、この階下の螺旋階段の“手摺”達だ――――それが勢いよく飛び出して、彼等の身体を貫かんとする。
ただし、一斉に面を覆うような性質ではない。一つ一つは、時間の差を以て突き立てられている。

「――――私は、とうにこの世界を電気の輝きに満たしていた筈だ」

その内の一本に、エジソンは舞い降りる。
その頬から、一筋鮮血が流れた――――氷柱に拠るものか、斬撃に拠るものか判然としなかったが
153柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/11(土)23:38:56 ID:w07 [1/1回]
//本日用事がありイベント参加を見送っていたのですが、もしまだ続くようでしたら、今からでも参戦させていただけないでしょうか?
154 : トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/11(土)23:43:57 ID:mUW [6/6回]
>>153
/大丈夫ですよ、ここから入ってもらって構いません
155ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/11(土)23:46:39 ID:Zh1 [5/5回]
>>152
「っ!」

エジソンの読み通りにラファの氷生能力は応用の幅が広い。
繰り出された鉄の槍はそれぞれの脅威に対応すべく生成された氷盾によって押し留められる。
エジソンが自ら生成した足場に着地した様にラファも又氷の足場へと着地する。
その息遣いは少し荒くなっていた。

「……足りないものが何であるか理解してるつもり?」

呼吸を整える為に一時動かぬ事もまた必要。
エジソンの答えに共感することはないだろうが時間は稼げる。
相手が語るならそれを有効に利用するのも吝かではない。
156 : 重信愛子 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/11(土)23:58:56 ID:QSS [1/1回]
>>>139

やがて鳴り響く救急車の音。だが洋上学園都市ではありふれた光景なのか……
校内での爆発も大きな騒ぎにはならず、生徒たちは特に大きく動揺することなく日常に戻っていく。

重信愛子は問題行動や奇妙な言動も多く、たとえ爆破で怪我をさせられたといっても重信に原因があると皆は思うだろう。
押井にはほんの少しの口頭注意と窓ガラスの弁済程度でこの事件は幕を引く――かに思えた。

・・・・・・・・・・・・・・

『……? どこに患者はいるんだ?』

救急隊が困惑している。
通報通り、校舎の中庭で人が爆破事故に巻き込まれたとやってきたのだが、
確かに周囲に爆破の跡はあるが、肝心の重信愛子の身体がどこにもないのである。

異能を持った人間の身体は、それだけで研究価値のある「素材」にもなる。
コントロールはできないとはいえ「人間ブラックホール」という強力な異能を持った体は、
なんらかの兵器に転用の可能性もあるのだが……

(……わ、わたし、は……)

意識が混濁しながら、重信愛子の身体はいずこかに運ばれていくのであった。

//ロールありがとうございました!
//また、みなさまへ。特にこの後の展開は考えてないので、重信愛子の身体はフリー素材として特に許可なくロールに出現させていただいて結構です。
//虐殺も人間兵器も可能です。操作フリーで殺害も魔改造も可能としますー
157柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/12(日)00:03:49 ID:KNw [1/6回]

>>152

床を突き抜ける鉄柱の群れに紛れて、さらに一人、その戦場に立ち上がる。
フェルトの鍔に隠す童顔と、コートで暈す矮躯。不良生徒が、戦場に遅刻してやってきた。

「本は読んだかい? えぇ、学者様よ。」

その衣服の下から立ち上る蒸気、拳に迸る紅い血管が既に覚悟を決めた事を示して。

「力で世界は支配できない───気づいてんなら、どうだ。必要なモノは分かるかい?
 見落としてんのさ、ずっと。教えてやろうか!!」

槍と化した鉄柱を力任せに引き抜いて、それをエジソンへ向けて投擲する。
彼が持つ異能は、理論とは少し遠い所に位置するモノ。数字の代わりに文字と言葉で構成されるそれは、計算式に代入できない。
即ち、彼と同じく怒りを抱くその槍は。磁場にすら逆らい、直線的に腹部へと飛んでいく。
158 : 久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/12(日)00:04:32 ID:W49 [1/6回]
>>152
遮二無二夜曝しを裂いた斬撃の、肉ではなく硬い結晶を無理矢理に断つ感触。
意図せず漏れた舌打ちを置き去りに、反撃の迅雷を警戒して大きく後方に飛び退った。

「なんだよッ……散々偉そうな事を言って、それが限界か?」

上方のエジソンを見上げ、されど聴覚の意識は下方に向く。
床の下、空気を揺るがす音を聞き。本能的にその場に飛んで、足元に展開するのは鉄の盾。
咄嗟に上に立つような器用な真似こそ無理だが、突き刺さるのを防ぎ、手摺が突き出る力を利用して大きく飛び上がるくらいはできる。

「大勢を巻き込まないと、やるって決めた事も出来ないなんて――拍子抜けだなァ!!」

痛みを堪えて歯を食いしばり、上空で身を捻る。数多の戦で血に塗れた戟を、全身の回転運動を利用して投擲。
その行き先はエジソンと、もう一つ。重力に引かれながらも間を置かず、創造した三名槍が一振り、蜻蛉切を衝波と共に投げ放った。
159トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/12(日)00:34:09 ID:7rM [1/6回]
>>155
>>157
>>158

「――――何者、ぐぅ!?」

鉄柱であるならば、電撃を以て操作することが出来る――――電撃を操るとは、即ち磁力の操作も付随する。
ただ楽々と、それを電撃によって弾き飛ばす予定であったエジソンの腹部へと向けて、鉄柱が突き刺さった。
言の葉によって紡がれる一撃は、エジソンの身体を確かに傷付け……然し、それを致命傷に至る前に留めた。
体内電流操作による身体能力向上を以て、その一撃を押し留めたのだ。

「嘗めるなぁ!!」

その鉄柱を引き抜いて、乱世の英雄、その偉大なる二振りへと向けてそれを振るった。
だが、限界はある。エジソンは決して剣や槍を用いた肉弾戦を得意とする存在ではない――――だからこそ。
腹部の傷の痛みに耐えながら、方天戟を叩き落とし……然し、蜻蛉切を避け切ることが出来ず、その刃が右肩を斬り裂いた。

「吠えるなよ、凡愚共。この大碩学、発明王エジソンを……この程度で追い詰めたなどと……!!」

その意味に関わらず、トーマス・アルバ・エジソンは、問い掛けには答える性質があった。
それを相手に、分かるように伝えることはしない。ただ、答えるという義務だけを果たすという性格であった。
故にこそ、その問いには、紫電を迸らせながら、答えるだろう。

「足りないもの? そんなものは唯の一つだけだ。チャールズ・バベッジに先んじることが出来なかった“時の運”。
 ただこれだけだ!! これさえあれば、私はこの世界を電気の輝きによって満たすことが出来た!!」

ただ、ただ、時間が足りなかった。あと十年でも早く生まれていたならば……きっとこの世界を、電気で照らすことが出来た。
蒸気文明による世界ではなく、電気文明による世界を成立させることが出来た。そう吠え、そしてそれは裏を返せば。
此処から先の事に、足りぬものなど無いと宣言するようでもあった。

「今必要なもの……そんなもの、“証明”以外にあるものか。この世界の袋小路を世界に証明すること。
 それだけだ。ならば、貴様ら有象無象共を巻き込んで、然るべきことだろうが!!」

――――右手を掲げる。その落雷が、突き立てられた鉄柱のうちの一つに叩き付けられる。
そして鉄柱同士で誘導し合いながら、その雷が拡散し放射される。それと共に、鉄柱の一つ一つが高熱によって熱せられる。
何にしても、エジソンにとって、この戦いは勝たねばならぬものであった。もし敗北すれば、命あったとしても。

「私は、負けることはない。私こそが、人類を導く大碩学、繁栄の輝きであるからだ――――!!」

160ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/12(日)01:01:47 ID:LMJ [1/1回]
>>157>>158>>159
「嗚呼」

共感できないのは分かっていた。
しかしまあ、此処までとは。
遣る瀬無さに溜息の一つも出る。

「井蛙は以って海を語るべからず、虚に拘めばなり。
 夏虫は以って氷を語るべからず、時に篤ければなり。
 曲士は以って道を語るべからず、教に束わるればなり」

ありったけの力を吹き散らし氷雪が空間に吹き荒ぶ。
空間を自らのものへと力任せに書き換える。
躊躇いの消えたラファの魔術にして異能の力が解放される。

「『エターナルフォースグラキエス』!!」

エジソンを、そして電気稼働式特殊数式構築機《アフラ・マズダー》を。
その全てを凍りつかせんと凄まじい冷気が走る。
恐るべきは対象としたもの以外にはその効果が極端に少ない事だろう。
本来であれば柏村や久々之も無事では済まない。
此処までの完成度で力が放てたのは何のことはない、始めに読み上げた伝言が原因である。
ラファが携えてきたのはディエンテス・デ・レオン・ディモルフォセカ・デイドラの言葉だけではない。
読み上げたことで彼の魔術『力こそパワー』を付与されていたのだ。

「お休みなさいなカエルさん」
161 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/12(日)01:20:39 ID:KNw [2/6回]
>>159
稲妻の煌きを数字として捉えるのであれば、導かれる解は一つだけ。
量子の如く曖昧で不定な、感情を原理として用いる彼の異能には、公式は存在せず、解は常に変動する。
故に、理論の最先端、無知なるには神の如き黎明に追い縋るには、強い怒りを保たなければならない。
螺旋階段の一歩一歩、零れる怒を刻むように踏みしめて。戦場に立つ今、最高潮の肉体を以って立っていた。
始まりは"気に入らない"、怒りと言うシンプルな感情。けれど、今は。

エジソンと言う男は、答えるという対話を放棄しない。それは詩人が求める様な感情の交錯ではないけれど、近しい行為だと理解できる。少なくとも、詩人にとっては。
だから。三人を前にして不屈である彼の言葉は。鉄柱から放射される煌きは、詩人の感性に触れるには十分で。
怒りが霧散しかけて、違う感情が沸き上がって。それは、研ぎ澄ました肉を放棄する事に等しく。

「……げっ、え゛え゛っ、ぎ」

放射される光、高熱と衝撃が彼の体を迸る。狂う神経が肉を痙攣させて、唇が震える。声が言葉にならない。
あの戦艦に立っていた時よりも衰えた体には、落雷は致命に足る。それでも、声が止まないのは。その体を、意識を現世に留めるのは。どうしても、言いたい言葉があるからで。

「あの時は、敵が二人。今は、三人───なのにお前はまた一人。やるせなくって詠えもしねぇ。」

その一心が、焼け焦げ絶えた細胞を再生させ、電流が流れきるまで意識を抱え込んだ。
感情の行き場をなくした時、人は空を見上げる。精霊が躍るような光は、その上に時計がある事を忘れさせるほどに
綺麗だ。

「こんなに綺麗な空を描けるってのによぉ!!それを実現するだけの根性があんのによぉ!!
 お前の頭も干し大根かい?どぉーしてわかんねぇかなぁ!!」

その言葉に乗せる、息苦しいほど悔しいという感情、向ける対象は発明王。異能によって行われるそれは、対話と言うには乱暴な手段でだけど。感情の交錯を試みた。
だってそうだろう。こんなにも素晴らしい男が、我ら文壇を文学を軽視して袋小路に立っている。
こんなにも美しい景色を見せる男が、一人であるが故に敗北を目前とする。
喜劇にしたってつまらない。こんな結末、誰が望むものか。

「電気文明結構結構、さぞ美しき景色でしょう───詩人として、是非とも詠わせてもらいたい。
 だけど一人ぼっちのあんたは、それでも次の発明に負けんだよ。今から俺らに負けるみたいに。」

未だしびれの残る身体で距離を詰めていく。一歩、一歩、四肢を?がれた獣の如く鈍重に。
詩人は未来を知るわけじゃない。口にする言葉は願望の様なモノだ。
だってもしも、彼が本を言葉を愛し、その交錯の悦を知っていたなら。こんな手段でなくたって、世界は十分替えられた。たとえ蒸気の後だとしても。

言葉をさらに紡ぐほど、肉体は言う事を聞いてくれない。出来る動作なんて知れていて。
近づいて殴る。思い切り。異能強化付きの喧嘩技。凡愚の拳が飛んでいく。
162久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/12(日)01:21:29 ID:W49 [2/6回]
>>159
「へっ……来るのが遅えんだよ」

命運を懸けた戦いの最中、確かに口の橋をつり上げて。不格好に受身を取って、最低限の衝撃で穴だらけの床に落ちる。
膝立ちになってすぐ近くに突き刺さった方天戟を掴み、頭上を睨めつける。日の本の槍が落ちたのは遠く、ここから取りに行く余裕はない。

「なんだよ、それ……まるで八つ当たりじゃねえか……」
「遅かっただけで認められなかったなら……それは結局、運を覆せなかったてめえの力不足だろうがッ!!」

時勢に見放されたから、力づくで先達が築いたものを塗り潰す。時にはそれも、上手い解決法になるだろう。
しかしこの場合は、やり方は。発展よりも隣人の平和を求める彼にとって、決して容認できるものにはならない。
その否定がある種の押し付けであり、ただ意地をぶつけているだけだと。理解しているからこそ、退く訳にはいかないのだ。

「繁栄だってェ?そうやって手に入れた生活に、意味なんてねえ!!」

縦横無尽に走る雷条が身動きを制する。赤熱する鉄の棒が高温で以て意欲を奪う。
されど業雷に縛られようと、焦熱に曝されようと。踏み出す足を留める理由になりはしない。
槍をくるりと回して矛先を目標に向ける。一息に袈裟に裂いたのは、血を求めた己の身体だった。

「今よりずっと進んでるとしても――俺は誰かを犠牲にして得たモンなんて、真っ平御免なんだよ!!」

溢れ出る赤、痛みに視界が明滅する。それでもやらねばならない事が、誰であろうと譲れない覚悟がある。
矛に置換して創造したのは、身の丈程もある大斧。それもチャク――雨と雷を司り、炎を伴う古き神が携えていたとされるもの。
軽々と持ち上げたそれが持つ特質で身を守りながら。ハンマー投げの要領でぐるりぐるりと振り回し、渾身の力で投擲する先は。
エジソンではなくその向こう。電気の叡智を知らしめる、雷霆の機構を目掛けて流星の如く打ち上げた。
163 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/12(日)01:26:12 ID:KNw [3/6回]
>>162
放射される稲妻に触れるより前。

「待たせた。やっぱ立派じゃねぇの、"センパイ"。
 侘びにゃ、そうだ。今度煙管でも買ってやっからよぉ。」

わずかに上がる口角は、彼も同じく。
164トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/12(日)01:54:45 ID:7rM [2/6回]
>>160>>161>>162

「黙れ、凡愚が!! 私は唯一人で十分だ――――貴様ら凡愚が、どれだけ束になったところで!!
 私一人の頭脳に敵うものか……私の輝きに、敵うはずがない!!」

雷撃――――否。放たれるのは、巨大な電磁力――――そこなる文壇であれば、見たことも在るだろう。
空には巨大な鉄柱が、無数に浮かんでいた。例えば、この学園都市の工事現場の何処かから、持ってきたものだろうか。
それほどの規模の大計算を以て、空に浮かぶそれらを。電磁加速を用いて撃ち出したのであれば――――そして、ここにシャーロック・ホームズは存在しない。

「消えろ凡愚。神鳴る裁きをその身に受け、塵を残さず消え失せるがいい――――!?」

ロッズ・フロム・ゴッド。大いなる神の裁きによって、抗う反逆者達を灰燼へと還す――――文字通り、鉄槌の一撃であった。
鏖殺を成されるばかりであった。然しその計算が遅れていた。その身体が凍り付いたことに、エジソン自身が気付いたのが。
遅れていると、気付いた瞬間であったからだ。

「巫山戯るな、こんなもの!! この程度で、私とアフラ・マズダーが止められるとでも……!!」

低音による論理的思考能力の低下は、数式を扱う碩学にとって時に致命的なものであった。
体内電流を操作し、体温を上げて、正常な計算を取り戻す。対抗することは出来れども、それだけの手間がかかってしまうのだ。
そして――――それを、エジソンは間に合わぬと判断した。

「知ったような口を聞くなよ、凡愚!! ただ、技術と知能を享受するだけの凡愚共!!
 貴様らに――――貴様らに、やらせてなるものか!!」

放たれようとする大斧へと向けて、エジソンは駆け出した。
神雷によって強化された肉体は、その投擲を前に、彼自身へと到達し、その身体を内側から雷電によって焼き尽くす。
その筈だった。

「――――ぐ、は」

――――そして文壇の拳が、エジソンへと叩き込まれた。
演算機械、中枢制御装置が古き神の大斧によって粉砕されるのを聞いた。新なる神の、世界を開く雷光が砕かれる音を聞いた。
それは頬に叩き込まれた拳が、頭蓋に罅を入れて、その身体を宙に浮かせるよりも、鮮明に脳髄に響き渡るものであった。
どん、どん、と音を立てて、エジソンの身体が転がった。玉座の足元に、その身体が力なく横たわった。
165 : トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/12(日)01:54:55 ID:7rM [3/6回]

「……私は……」

凄まじい轟音とともに、巨大な鉄骨が降り注いだ。攻撃ではない。制御できなくなった鉄柱が、重力に従って落ちたのだ。
その中を、覚束ない足取りで、破壊された機械へと向けて足を踏み出した。
ただ、誰に頼るでもなく、ただ一人で生み出した演算機械、アフラ・マズダー――――壊れたところで、何だというのだ。

「私は……何も……間違えてなど、いない……。
 何度でも……繰り返してやる……何度でも……何度でも……そうだ……何度でも……!!」

繰り返すこと。試行錯誤すること。エジソンにとっては当然のことだった。
それを努力というのであれば、鼻で笑うことだろう。それこそが才能であるのだと、見下し、高笑いするはずだ。
粉砕された制御装置に背を預けて。再度、彼等へと相対する。

「私は、天才だ……私は、誰よりも価値在る大碩学……ならば……。
 世界を、導く……義務がある……誰にも頼らず……私こそが……導く……!!」

割れた頭部から、血が流れてその片目を覆った。
息も絶え絶えに、腹の傷を抑える。そしてそれでも尚、彼等に一つの問い掛けを落とすことだろう。

「お前達に……何の勝ちがある……。それは私の……偉大なる才よりも……素晴らしき頭脳よりも……。
 私という唯一人の、碩学よりも、価値がある、ものなのか……?」

それは疑問ではない。決まり切った答えを持った人間が、挑発するように誘う、一つの皮肉めいたものであった。
トーマス・アルバ・エジソンが、今までそうしていたように。今以て尚、彼等へと問いかける。
166久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/12(日)02:37:47 ID:W49 [3/6回]
>>164-165
ぞあ、と冷たい怖気が背筋をなぞった。
それは現人神の暴威に見下ろされたからではない。狂気とも呼べる一の智慧を目の当たりにしたからでもない。
振りかぶって擲つ直前。防衛のための進撃を前に、背筋が凍る思いだった。
この膂力は重く大きな得物を取り回す最低限でしかない、動作を中断して俊敏に防ぐのは至難の業。

「ははっ――良い後輩を持ったよ、俺は」

しかし滂沱の神に代わって投擲する烈腕が、最後まで鈍る事はなかった。
動きを止めた氷鎖に、殴り飛ばした裂拳に。暴雷の障害が退けられたのを横目に捉えて、殊更に踏ん張る足に力を入れた。

「凡愚凡愚って――――煩えんだよッ!!」

手から離れる古雷の宿木。くるくる回って宙を舞い、新たに世界を統べんとする不届き者を打ち砕く。
ばらばらと、たくさんの金属物が落ちる音に混じって、荒れた床へと背中から倒れる。
どうやら身の丈に合わない幻想の逸品を創り上げた場合、代償となるのは流した血の分だけでなく。
体内を循環する血液の一部がその生理機能を失って、ただの水と変わらなくなってしまうらしかった。

「ッ、ぁあ…………キッツ……」

だから出血量以上に、全身に運ばれる酸素が急激に減少してしまっては、力なく大の字に伏せるより他にない。
釘を受けて貫通した脇腹と、自分で切った袈裟の傷も軽傷とは到底言い難い。血の気の失せた顔が、脳を劈く激痛に歪んで呻き声を漏らした。
その状態でも投げられた問いを聞き取ったのならば、荒い呼吸の合間合間にぽつりぽつりと呟いて。
朦朧とする意識では上手く思考を纏められず、気を失いこそしないものの緩く瞼を閉じるのだろう。

「…………どっちがって……問題じゃ、ねえんだよ……価値が無い、人なんていねえし……」
「みんな、対等で……ああ、くそ……頭が、働かねえや……」
167 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/12(日)02:42:05 ID:KNw [4/6回]

>>164

神罰に等しきその術式は、一人の肉を消し飛ばすには過ぎる威力で。鏖殺なんて単語が脳裏に浮かぶ。
どうしたものか。武骨な鉄柱は、致命を避ける優しさなんて持ち合わせぬだろうし、そもそもの威力が大きすぎる。
泣きながら人を殺す神様、なんて悲劇しか浮かばない。諦めなんて持ち合わせないが、だとして打てる手段がない事も明白だった。
今の一撃でほとんど限界。猫と喧嘩して負けそうなんだ、もう。もしも一人と一人であれば、在りをつぶす程に容易に、詩人は消えてなくなったろう。

冷気が計算を妨害し、斧が玉座を破壊し、そうして拳が届く。なんとも彼らしい、衝動的な一撃だった。届く筈も無い、駄々をこねるようなそれは、三人が故に。
発明王の命はどれほどか。少なくとも機構は絶えた。もしも、このまま殺されたって決着はついた後。
詩人の目的、伝えたい言葉は、覆したい価値観はまだ届いちゃいないけど。

───ああ、そうだ。まだ話さなきゃ。

「……知るか。俺らの勝利の意味も、負けた意味も自分で考えな。
 女の子と、教授のヅラとる阿呆と。そして詩人の柏村中也、見下した凡愚共に負けたんだ。
 その事実だけは受け止めろや。どうせ、曲がる気なんてねぇだろうけど。」

倒れる体で這いずって、エジソンを追う。体に残っているのはそれだけ。
後は全部、口を回すために使う。

「こんな風に街が輝くなら、地上の星でも見れるかね?あんたの作る世界は、俺だって見てみてぇ。
 だからあんたの作る世界がどれだけ綺麗か詠ってやる。理想を言葉にして、凡愚の髄に染み込ませるんだ。
 俺にはそれが出来るが、お前には無理だろ。"文壇"は、お前にも出来ないことが出来んだって、言いに来ただけなんだわ。」

その口の割には暴力的で、乱暴で、無茶苦茶でぐちゃぐちゃだけど。

「良い本を教えてやるよ。ルイス・キャロルも、ラブクラフトも、いきなり読むにはわかりづれぇんだ。
 ま、まずは……前薦めたの、ちゃんと読めよ。」

相対する彼に対して、仰向けになって差し出すのは拳ではなく広げた掌。手に取れと言うように。
握手。その行為は、感情の交錯の基本的な形だろう。それに応じて、触れ合うのなら。彼の異能は、エジソンにすら作用する。
まだあきらめないなら。生きると強く想うのなら。割れた頭蓋すら笑い飛ばして、その体に魂がしがみつく。死んだ細胞が喚いて蘇る。致死の雷を喰らいながらべらべら話す、彼と同じ様に。

あるいは、言うだけ言って満足げなその顔を踏みつけて、砕いてしまう事すら出来る。
168トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/12(日)03:01:24 ID:7rM [4/6回]
>>166
>>167
/レスが遅くなってしまい申し訳ありません、ラファ様が落ちられてしまったようなので返信を確認次第最後のレスを返しますね
/イベントは次のレスで終了とさせて頂きます、ここまでお付き合いただきありがとうございました
/皆様に感謝致します
169久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/12(日)03:06:00 ID:W49 [4/6回]
>>168
//了解です、一先ず皆様お疲れ様でした!
170 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/12(日)03:12:11 ID:KNw [5/6回]
>>169
//一先ずお疲れ様です!
//途中参加を快諾していただき、改めてありがとうございました!
171 : ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/12(日)10:51:38 ID:wsr [1/1回]
>>164>>165>>166>>167
「人の価値を数値で表せるとしたらきっとアナタは誰よりも優秀かもしれない。
 でもそれだけで世界を動かせないのはアナタ自身が証明してる。
 結局、個人の優秀さの価値なんてその程度。
 私たちは人間、群れてこそ真価を発揮する五感をもった類い稀なる計算装置。
 きっと群れる事でのメリットデメリットを受けて尚輝く者が真に優秀な人間なんでしょうね」

如何なる脅威に晒されようと、
既に空間に充満した魔力は氷雪として顕在し、
あらゆる形でもってラファの身を守るだろう。

「私も心無い人間だから真に優秀な人間足り得ない。
 結局アナタは私以外の二人に、自らの視点でしか見ず価値を見誤った真に価値ある二人に負けた。
 これはそういう結末でしょう?」

何かあれば守らねばならぬ価値ある二人だ。
事の成り行きは彼らに託し、一歩引いて事の成り行きを見守り始めようと思うラファだった。

/寝落ち失礼しました
172トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/12(日)16:38:33 ID:7rM [5/6回]
>>166>>167>>171
「皆が……対等な筈があるものか……。人は常に……不平等と共に、生きる……。
 ……だから……努力をしなければ……それこそが……才能だ……」

人間は決して平等ではない。それはエジソン自身が理解している。
だからこそ努力しなければならない。戦わなければならない。出し抜いて、騙してでも、努力と共に生き続けなければならない。
それこそが才能だ。凡愚と碩学とを分け隔てる、巨大極まる壁なのだ。
故にエジソンは決して諦めることはない。ここで命が尽き果てようと――――そんなことを認めるわけには行かない。

「違う……これは……結末などではない……。ただの、乱数だ……!
 数字の下振れでしかない……試行を……繰り返せば……必ず、私の正しさが……証明される……」

今この場で、切って繋げてを繰り返して再起動を行うには、余りにも時間が足りない。
制御装置へと伸ばした手を諦めると、指先から僅かな電流が流れ、それら全てをショートさせ、破壊することになった。
何のことはない。ただ、自分の発明が、他人に渡ることが我慢ならなかった。それだけの話であった。

「……文壇……ヘミングウェイの言葉は……明るすぎる……。
 私は……私は……」

揺らぐ身体は、ゆっくりと塔の縁へと向かっていく。
差し伸べられた手を握り返すことはなく、邪魔だとばかりに傍らを通っていった。
眼下には、学園都市の光があった。無煙都市の光があった。素晴らしき蒸気文明に寄り添う、人々の営みがあった。

「――――敗北した」

それを以て、エジソンは自身の決定的な敗北を認めることになる。
蒸気文明でもなければ、電気文明の落ち度でもない。ただ、人間に敗けた。何というシンプルで、単純な結論であろうか。
だが――――だが、手を取り合うなどと。そんなことは、認められない。

「だが、私は諦めない……たった一度、敗けたところで……何だというのだ……。
 何度だって……そうだ次は……私だけでなく……ベルや……テスラを……」

確かに、エジソンはここで敗けた。だが、たった一度何だというのだ。一人で不可能だということが分かったのならば。
次は考えを改めれば良い。一人ではないやり方を見つけてやる。
そのために何度だって試行錯誤を繰り返してみせる。何度だって、この世界に挑戦を繰り返してやる。
次の1%の閃きさえあれば。後は全て、努力で補って、必ず正しいのだと世界に示してみせる。

「働き続けなければ……ならない……寝ている暇なんて、無いんだ……。
 あと……三十年……四十年は……働き……続けて……私の、才能は……」

揺らめいた身体が、昇る太陽を背にした。それと共に、その身体は空へと投げ出された。
夜明けの光とともに、消え失せたかのように、トーマス・アルバ・エジソンは、それからこつ然とそうやって消えた。
ただ、一言だけを残すだろう。

「――――これは失敗ではない。ただ、上手く行かないやり方を、見つけただけだ」
173 : トーマス・アルバ・エジソン◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/12(日)16:38:59 ID:7rM [6/6回]
/それでは、これにてイベントを終了とします
/お突合いただきありがとうございました、次回もよろしくお願いします
174 : 久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/12(日)18:35:01 ID:W49 [5/6回]
>>172
ゆるりと閉じた瞼の裏に、永遠を覆い尽くす幻灯の銀瑠璃を視た。
それが暁光に撫でられた宵闇の星屑なのか、犇めく建築物に宿る人々の息吹なのか。
煌々と燃える輝きすら薄れつつある仄暗い視界では、どちらとも判断がつかず。
それでいて、聴覚は未だ朽ちてはいなかったから。言葉を紡ぐのは難しくとも、聞いて咀嚼するくらいは辛うじて。

「それを、失敗って……ッ……言うんだろうが……」

呆れたような、それでいて諭すような声に混じる苦しげな吐息。
彼がこの場において、最後にどのような手段を取ったのかを、直接目にはしていないが。
薄らと感じ取れる、音、気配、それからその傲慢に達する自尊心を統合すれば。確信はできずとも、予想はできた。

「……何度だって、試せばいい……」
「俺が、認められるまで……全部、全部……止めてやるから、よ……」

だからこの言葉は、届かなくても構わなかった。ただ、己の決意の表れでしかなかった。
掠れた声は、それ以上喉を震わせるのを是とせず。大きく息を吐いて脱力する。
身体が重い。肌寒い。体内から流れ出た血の温もりすらも感じられない。

「……っあー……流石に、やべ……」

酸素が不足した脳の働きが極端に鈍くなる、二度目の感覚。痛みと悼みに抱かれて、ひと匙の達成感を胸に。
美しくも残酷な奈落に堕ちるように、緩やかに意識を手放すのであった。

//改めてお疲れ様でした、楽しかったですー
//皆様ありがとうございました!
175 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/12(日)22:49:08 ID:KNw [6/6回]

>>172

もう、指の先すら動く気配がない。伸ばした手はぱたりと落ちて。

「……ケッ。あんたほど明るい言葉が言える奴もそういねぇって。」

不屈と言う概念を人にしたような言葉を、呟いて、消えていく。その言葉は文壇に劣らず、人の心を動かしていく。
何を明るいと忌避するのか。アーネスト・ヘミングウェイだって、感心するぐらいの言葉だろうに。

「センパァーイ、手ェ貸して……寝てら。」

頼れる先輩もまた眠っている。頼れる相手も居ないけど、決着はついた後、意識を手放すのに躊躇はなく。
何より、言いたいことは言い切りました。多分きっと伝わったから、やりきって満足した顔で、なんとも迷惑。

「……目覚ましは頼むわ。寝よ。」

//イベントお疲れさまでした!!
//皆様楽しかったですっ
176淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/12(日)23:03:11 ID:W49 [6/6回]
烈雷を冠する異層塔を見上げていた。遥か彼方に息づく星々は、稲光に覆われて姿を眩ませる。
大凡夜半過ぎとは思えない明るさに思わず目を細めこそすれど、視線を外す事はできなかった。
一冊の本だけを収めた肩掛け鞄のストラップを、いつの間にか強く握りしめていた。

「………………」

このような神をも恐れぬ芸当を可能とする人間を、どうにも自分は知っているらしかった。
記憶にはあらずとも、知識としては存在する。そのあまりに朧げな知覚がどうにももどかしくて。

「…………ああ、貴方は――」

だからその閃光が途絶えた時。真っ先に覚えたのは、強襲の爪牙が失せた安堵ではなかった。
葬列を見送る情動に火が灯ったような、胸にちらついたのはそんな言い知れぬ感傷。
一人では上手く言語化できず、喉が微かに蠢くだけ。開いた口からは短な言葉がか細く漏れて、下唇を弱く噛んだ。
177メアリー・シェリー◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/13(月)19:42:36 ID:9oO [1/4回]
>>176

「――――遅かったか」

真っ赤な、英国陸軍服に身を包んだ少女が、傍らでそう呟いた。
その背には、その格好に恥じぬほどに、背丈を超えるほどに巨大なライフル銃を背負う。
短く着られた金髪に、蒼と紅の双眼が、雷霆を迸らせていた塔の天辺を見上げ、それが収まったのを見上げて肩を落とす。

「……そこの少女、あれがどうなったか見ていたか?
 例えば誰かがやられたとか、落ちたとか、なんでもいい」

何となく、肌感覚を信じて良いのであれば、きっと人類は勝利したのであろう。
迸る雷霆が収まったというのは、そういうことだ。トーマス・アルバ・エジソンは敗北することとなった。
だが、確信が欲しい……どんな小さな情報でもいいと、先に現場に立っていた少女へと問うのであった。

/本日は置きになってしまいますが、よろしければ
178淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/13(月)21:15:56 ID:ISF [1/3回]
>>177
突然に声をかけられても大きな反応を見せず、暗がりの天頂からじっと目を離さない。
聞いているのか、いないのか。そう迷わせてもおかしくはない程に、その横顔に気色の変化はない。

「――確かにさっき、誰かが落ちたかもしれないけれど」
「誰がどうなったのかは、ここからじゃ流石に見えないよ」

それでも言葉を返したから反応は希薄でも、受け答えをする気はあるらしかった。
紫紺から暗紅に移ろう空で、明星を目指そうとした影を視界に捉えていたとしても。
さして取り乱しもせず淡々と、その見たままの事実を口にするのだ。

「でもこうして見る限りじゃ、きっと彼は負けたんだろうね」

地上から命の駆け引きは見えない。けれどその閃雷が止んだのであれば、そこから導かれる結果は一つしかないと確信ができる。
そこに日常の破壊が避けられた喜びも、目論見を挫かれた怒りも含んではいなかった。
興味のない新聞を読み上げているのに近い響きであったが、強いてそこから感情を読み解こうとするのであれば。

「だってそうでもなければ……彼が自分から、頂点を諦めるはずがないもの」

赤と青の焔が溶け合った、不可思議な色彩に塗られた瞳がようやく少女の方を見る。
剣呑極まる武装を前にしても怯懦は皆無、されど不安定な揺らめきが星屑に似た宝石を想起させる。
それは埃の積もった額縁をなぞって悼む、微細な懐古と哀傷を孕んでいるかのようであった。

//反応遅れてすみません、よろしくお願いします!
179メアリー・シェリー◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/13(月)21:47:40 ID:9oO [2/4回]
>>178

「そうか、それはそうだ……」

まあ、当然の話か――――何か手掛かりがあればよかったが、一般人から情報を得ようとするほうが愚かだろう。
実際に自分の足で昇って、見るのが早いに違いない。もしかしたらまだ戦闘は終わってないかもしれないし。
それに、ホームズ……シャルを始めとした、知り合いと顔を合わせることもあるかもしれないのだから。

「――――何だって?」

だが、彼女の口調はまるで……そう、トーマス・アルバ・エジソンを知っているかのようであった。
それどころかその人柄を。人格を。まるで、よく親しんでいるような。
淡々と、読み上げるかのような口調だった。感情やそういった物が酷く読み取りづらかったが……。
そこから何か。作家の端くれとしての感性を以て、表現するのであるとしたら……ほんの僅かな、郷愁があった。

「……トーマス・アルバ・エジソンを、知っているのか?」

その瞳を覗き込んだ。不可思議な虹彩であった。
メアリー・シェリーの双眸は、ジェームズ・モリアーティに作られたものだ。有り合わせのパーツで、形を保つように。
それでも、不可思議不可解極まるその瞳孔に、思わずメアリーは立ち止まって、そう聞いてしまったのだ。
エジソン。その名を知らぬ者はそういない。だが――――違う。そういう意味ではない。彼女は、分かるだろうか。
180淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/13(月)22:13:37 ID:ISF [2/3回]
>>179
「わたしは、会った事はないよ」

即答、ゆるりと頭を振る。言わんとする事を理解している答えだった。
言葉に嘘はなかった。そんな著名人と顔を合わせた事があるのならば、そう記憶が薄れるはずもない。
ならばその知識は所在はきっと、己の空白の部分から生じる萌芽に違いなく。

「……ただ、何故だか知識として、どういう人間なのかは知ってる」
「彼ならどうするか、なんとなく分かるんだ。それだけの話だよ」

近頃は、自分でも知覚できない心の領域に秘せられている何かを、透明なままに受け入れつつある。
それでもこういう時、言いようのない不安が虚を嗤って耳元で囁くのもみ事実で。
歴とした人間の虹彩だが、同時に作り物でもある証左の瞳がつと伏せられる。
我ながら、抽象的が過ぎる表現だとは理解しているから。微かに震える睫毛は、注視する眼差しから逃げるようでもあった。

「……なんて。聞き流して構わないよ。自分でも、よく分からないんだ」
181メアリー・シェリー◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/13(月)22:32:43 ID:9oO [3/4回]
>>180


「……よく分からないな……知識としてどういうことか知っている。
 それもエジソンという人物を……人格まで……」

データだけで得た情報だと言うには、感覚的が過ぎると思えた。
知識だけならば、彼という男を示す文献は見つかる……だが、彼女の発現はそれでは補いきれないような。
彼の人格をよく知った上で、言及したような、そんな感覚だ。
少し考える。怪しい素振りは見られない。友であれば嘘をついているか見分けられるかもだが、生憎推理の技術はない。

「いや、信じるよ」

ならば感性のまま動いてみるとしよう。
彼女から何らかの情報を引き出せるだろうか――――というのは、打算的が過ぎて気が引けるが。
その距離を縮める意味でも、色々と聞いてみるとしよう。

「君は、黎明協会の一員……ではないんだよね?
 ああ、申し遅れた。私の名前はメアリー・シェリー……英国学園都市から来たんだ」

核心に迫る一言――――を述べた後、流石に急すぎたと。先ずは自己紹介を、自身の胸に手を当てながら。
出来る限り、威圧感を与えぬように。或いは紳士的に振る舞おうとしているが。
182淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/13(月)23:00:19 ID:ISF [3/3回]
>>181
信じろと言う方が無理な話ではあった。なにせ超自然の領域ですらある、茫漠とした感覚だ。
だから鼻で笑われるか、よくても妄言と両断されても仕方がない事だと思っていた。

「…………そう……ありがとう」

であれば不慮の言葉に呆気にとられて、ぱちぱちと瞬きを繰り返すのも、なんらおかしな事ではない。
本当に僅か、注視してようやく気がつく程度に唇の片端をつり上げて。
視線を合わせた水晶の煌きにもう揺らぎは見受けられず。安堵したかのように、肩にかけた鞄を優しく摩った。

「まさか。わたしには彼らほどの力はないよ」
「……昔の事は、覚えていないから。もしかしたら、その時には何かあったのかもしれないけれど」

原則的に平坦な声色である彼女は、自分の事もやはり他人事のように語れてしまうらしかった。
あくまで客観的に述べつつも、しかし最近はその予想が現実味を帯びてしまっているから。口にするのに、少々の逡巡は見受けられたが。
一見無機質な言動から警戒心を見い出すのが難しいのは、得も知れぬ余裕のようにも見えなくはないが。
その実、このご時世だというのに、何か根拠がある訳でもなく問題がないと思っているだけで。

「英国……そう、あの地獄の」
「淡島豊雲野。何処にでもいる、ただの学生だよ」
183メアリー・シェリー◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/13(月)23:23:59 ID:9oO [4/4回]
>>182

その感謝の言葉に、メアリーは笑顔で返すことだろう。
ともあれ、彼女の言葉を信じることにする。答え合わせなど後からでも出来るし、なんなら誰かに丸投げしても良い。
今は自分の肌感覚を信じて、彼女の言葉を聞くとしよう。

「そうか。まあ、それは当然か……昔のことを覚えてない?
 それはまた……記憶喪失? どのくらいまで覚えていて、覚えていないか、分かるかい?」

何とも平淡な語り口である。まるで自分という存在を見下ろして、そこに書かれている文章を読み上げているようだ。
それに対して何らかの葛藤があると、想像するには難くなかった。
本来であれば、友がやるように、問答無用で相手の事情に踏み込んでいけるような無神経を持ち合わせていないのであるが。
今は、少し測りかねていて、だからこそ、そこに踏み込むことが出来たのだった。

「一応、生還者だ。今は、手も足も心臓も、目だって他人の物や造り物だけれど。
 それと……一時期は、黎明協会にも居た」

学園都市の凄惨極まる世界の生還者。過去最大の数式実験によって、ありとあらゆる惨劇が繰り広げられた英国。
そして何より、黎明協会の一員であった……のは、彼女の過去を暴こうとする、自身の差し出すものだ。
無用な警戒を与えることになってしまうかもしれないが」

「そうか、それじゃあ……レイディ・淡島。
 ……ここ最近は物騒だ。貴女の帰り途を歩きながら、話を聞いてもいいだろうか?」

/申し訳ありません、今日の返信はここまでとなりそうです
/凍結か締めか、どちらでも構いませんので、選んでいただけたら
184淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/14(火)00:15:44 ID:BEf [1/3回]
>>183
「この島に来る前の事は、何も」
「生まれた場所も、親の顔や名前だって……自分の事なのに、何も知らないんだ」

それを悲観的に捉えているようではなかった。心は動かされず、あるがままの現実を受け止めるだけ。
あるいは、それがずっと当然であったからこそ。忘却の恐怖に震えずに済んでいるのだろう。
殊更に踏み込まれても、抵抗を覚えている様子はない。感情だけでなく緊迫感だとか、そういった防衛機構でさえも希薄のようだった。

「…………へえ。それは意外だな、とてもそうは見えないのに……抜けてしまったんだね」

オックスフォードを血に染めた惨劇に関して、深くを掘り下げはしない。人の不幸を根掘り葉掘り聞く趣味は持たなかった。
今更、黎明協会に所属していたという事実にも怖じ気づく事はなかった。なにせ、同様の経緯を辿った友がいるのだ。
むしろそれ以上に、その単語を耳にする度に何かが騒ついて胸を擽る感覚の方が、ほんの少しだけ言葉を濁らせる。
その感傷に名前をつける事は未だ叶わないが、負の想いでないのだけは理解できるから、余計に遣る瀬なくなるのだ。

「それは構わないけれど……別に、一人でも平気なのに」
「この前の教授といい――わたしに興味を持って、どうするつもりなんだろうね」

一人で宵を往く危機感や、初対面の相手と夜を渡る警戒心が皆無なのは、生憎と素でしかない。
ごく自然にまろび出た言葉でその好奇心を揶揄って、一度だけ沈黙した塔を見上げ。
連れ立って歩くのも、投げられた問いに返すのも。規則的な満ち欠けを繰り返す月のようにどこまでも素直であるのだろう。

//了解しました、それではどちらでもいける感じでお返ししておきます!
//一先ずお疲れ様でした、おやすみなさいませっ
185メアリー・シェリー◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/14(火)16:14:38 ID:iAA [1/3回]
>>184

「そうか……それは……何も覚えていないというのは……」

思えば、自身が黎明協会の尖兵として、セバスチャン・モランとして生きていたときのことを忘れていたとしたら。
きっと、覚えていること以上の恐怖だっただろう。その空白が一体何なのか分からないというのは。
不安ではないか、という言葉をメアリー・シェリーは呑み込んだ。
それは、彼女の中に眠る、その空白に対する恐怖心を煽ることも同義なのではないかと、考えたからだ。

「……行ってきたことをゼロには出来ないことを前提とした上で……。
 自分の意志で入ったわけじゃないんだ。目を覚まさせてくれた人間がいたから、こうしていられるけれど」

黎明協会に所属していることを告げた。それに対して驚きを見せなかったのは、その意識の希薄さからだろうか。
どうにも少女の在り方については首を傾げてしまうことが多かった。
その語り口は黎明協会を言外に、悪しように語る。彼女が抱えている事情のうち、そちらに対して思うところがあるとは。
想像もしていなかった。ただ、メアリーの印象では、そこは『悪の組織』以上の何者でもなかったのだから。

「それに、私は碩学者でも無いし」

元より、メアリー・シェリーはただの学生だ。
本来であれば、黎明協会など縁もゆかりも無い人間であると付け加え。

「淡島君、君は少し不用心だね。もう少し現状に対して危機を持った方がいい。
 そう、例えばその教授のように……教授?」

その危機に対する認識は、メアリーも心配になるところだった。これは自身の好奇心とは掛け離れた点にあった。
しかし、大学教授といえば学園にはいくらでも存在するだろうが、この話の流れでその呼び名を知ったのであれば。
どうにも言葉を置き去りにしていくのには、過ぎる引っ掛かりであった。

「その教授の名というのは、ジェームズ・モリアーティではなかろうね。
 私はかつて、セバスチャン・モランという名だったのだが、聞き覚えはあるかい」

その、嘗て名付けられたメアリー・シェリーの名は、当の教授からしてみれば。
過去を懐かしむ郷愁を含んだ名でありつつも、深い意味を持つわけではなかったのであるが。
夜闇を連れ立って歩きながらその名と共に、彼女へと問うのであった。

/先日はありがとうございました
/それではあと少しの間、お願いします
186淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/14(火)19:36:45 ID:BEf [2/3回]
>>185
喪失した記憶がある事自体は、彼女にとってそう憂えるような事態ではなかった。
ただそれが、何らかの形を成すのが。自分という存在を蝕もうとするのが、ひどく恐ろしく思えるのだ。
だからその兆しが見えないのであれば、悩ましく思う必要もない。途中で切れた言葉にも、気を揉んでいるようには見えなかった。

「そっか……それなら、無事抜けられてよかったのかもね」

黎明協会のその在り方がいつかと随分剥離していると、細やかな懐旧が胸を擽って。
為している事が悪事と断定されて然るべきだとしても。彼らの根源が悪意ではないと、直感的に知っていたから。
其が悪であるとはどうしても銘打てず、少し悩んだ末の曖昧な言葉。痛ましげに、微か眉尻を下げた。

「そんなつもりはないんだけどな。わたしは単純に、やりたいようにやっているだけなのに」

彼女はそういう人間だった。自由で勝手で気紛れで、他人どころか自分すら顧みずに、意思の赴くまま行動に移せるような。
それはきっと、完膚なきまでに希求するべき何かを見い出した時、形振り構わずにいられる資質なのだろう。

「そうだよ、その教授。でもわたしの知り合いに、そんな名前の人はいなかったと思うよ」
「大体、それって男性名じゃ――」

肯定は呆気なく、されど思い出を掘り起こしても心当たりは芽を出さない。
時間差で想起する知識もまた、本来なら日の目を見ないはずであったが。その確率に干渉できる代物が、今はここにある。
歩を緩めて、視線の先が路面を捉える。痛みを堪えるように眉根を寄せ、白髪をかき上げるようにしてこめかみを抑えた。

「――――セバスチャン・モラン大佐。モリアーティ教授の懐刀だった人」
「……勿論、きみもそうだとは思っていないけれど」

//お待たせ致しました!
187メアリー・シェリー◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/14(火)21:15:25 ID:LuM [1/2回]
>>186
「ふむ……なら淡島君には、研究者の資質があるのかもしれないな」

やりたいようにやっている。その言葉を聞いて、思わずするりと言葉が出た。
形振り構わず、研究や理想へと没頭することが出来るのは、碩学にとっても大事なことだろう。
黎明協会の一員であるかどうかに関わらず、研究者には必要な才能だ……その言葉が、無意識であったとしても。
彼等という存在がどういうものであるかを、肯定してもいる。それは無意識下で、黎明の碩学達が何者かを理解しているように。

「……“思い出した”のかな」

彼女は最初、その言葉を否定した。
ジェームズ・モリアーティという名について理解しているのは、恐らく教員としてだったと予想できる。
それとも彼女に興味を持って、モリアーティという男が接触したか。何れにしても、考えの付く範囲ではあるが。
ここに来て、メアリー自身も知らぬ情報が、彼女から飛び出したのだ。

「その情報は間違っていないけれど、それはつまり、私以前に“モラン”が居たということかな。
 それについては、私も知らなかった。ただ、意味のない名前をもらっただけだと思ってた」

かつて、懐刀として同じ名を持った人間が居た。同じ名を、少女へと言い渡したのだとしたら、筋は通る話だ。
そして彼女はそれを知っていた。或いは面識すらもあったのかもしれない。その過去が何なのか、少女には知り得ない。
彼女の正体については、知的好奇心が揺さぶられる。だが……その様子を見ていると。

「……ありがとう、興味深い話を聞けたよ」

彼女画素の記憶を思い出す度に、何かもしも苦痛を抱いているのならば、それは良くないことかもしれない。
だからそうして、今回は話を聞くのを切り上げることにした。
彼女について。知人に話すべきかは後に考えるとして……今は、純粋に、彼女の話を聞けたことに感謝するだろう。
随分と歩いた。帰り途も、そろそろ終わりが近い。

/こちらこそ、おまたせして申し訳ありません
/そろそろ〆にしたいと思います
188淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/14(火)22:16:22 ID:BEf [3/3回]
>>187
「まさか。そんなの、考えた事もないよ」

得てして、人は己の事となればどこまでも鈍感になれる生き物だ。
碩学の域に達する者がどういった人間なのかは理解できても、そこに自分が類似しているとはとても考えられない。
冗談とでも思ったのか首を横に振って、三日月よりも細い微笑を浮かべたようだった。

「…………分からない。分からない、けど……」
「……きっと、今のわたしじゃないわたしが……その人を、知っていたんだと思う」

ゆっくりと通り過ぎる道路へと目を伏せたまま、不可解な海馬の働きを伝えるために、苦心しながら言葉を探す。
彼女は知る由もないが、正確にはそれは思い出すという行為ですらなく。他人の魂に刻まれた記録の泡沫を掬っているようなものでしかない。
本来であれば表出するのは、そこに宿る人格のみであるのだが。記憶は知識の形を取り、黎明協会を引き金として意図せず想起される。
無論、そんな事を彼女が十全に知覚しているはずもなく。そういうものだと、無理矢理にでも納得するしかないのだ。

「ううん……ごめんね、あまり役に立ちそうな話は出来なくて」
「わたしの方こそ、話し相手になってくれてありがとう。もうここまでで、大丈夫だから」

故に話を打ち切られても、なんでもないように気遣いの必要性を否定するが。その実、安堵に肩の力が抜けたのも確かであった。
痛覚とは異なる、情報を直接脳に刷り込まれるような感覚は、いつまで経っても慣れる気はしない。
しかしそれで人に心配をかけてしまうのは本意ではない。記憶の澱みを押し流すように、赤を交えた白髪を払って。
朝焼けを背に帰路へ一人踏み出そうとして、最後に振り返って仄かに笑んだ。

//それではこちらからはここで〆にしますね!
//お付き合いありがとうございました、またよろしくお願いしますー
189 : メアリー・シェリー◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/14(火)23:06:08 ID:LuM [2/2回]
>>188

「ははは、なら今から考えればいい。
 計算や研究ばかりが、碩学に至る道では無いのだから」

碩学と言っても、部屋に閉じこもって計算ばかりをしているだけではない。
例えばチャールズ・ダーウィン卿やエドワード・マロリー博士のように、世界中に足を運んで、何かを見つけるのも立派な学。
勿論、与太話の一つではあるし、メアリー・シェリーも本気で彼女に勧めているわけではない。
ただ、可能性として頭の中に入れておくのは悪くないだろうという、思いはあった。

「――――かつて君だった誰か。悪いは、かつて誰かだった君。
 私はそれに、無責任なことを言えないけれど……」

彼女の中に、他の誰かが潜り込んでいる。或いは、その瞳の虹彩のように混じっているのだとしたら。
きっとその記憶には戸惑うばかりであろう。それは自分のものであるように、自分の脳裏に浮かんでは消えていくとしたら。
だからなんとも言えることはなかった。だが、一つだけ彼女に掛ける言葉があるとすれば、陳腐な励ましだ。

「今いる君こそが正しいものだと、私は思うよ」

そこにどんな記憶が入り混じろうとも、彼女は彼女なのだから、そのように背筋を伸ばして、生きればいいのだ。
なんとも上手く話せた自信はなかった。思えば、話すよりも書くほうが得意だった。最近はとんと触れていないが。
だから、打ち切り方が酷く不自然であったことは反省しながらも。

「いいや、興味深い話が聞けた。ありがとう、私に話してくれて。
 それじゃ、気を付けてくれ。君の旅路が良いものであることを願っているよ」

朱交じりの白に、軽く微笑みながら、小さく片手を振って彼女の姿を見送った。
そして肩を落として、自身も帰路につこうとして。僅かな微笑みを、見たような気がしたものだから、足取りは少し、軽いものとなった。

/それでは、こちらからはこれで〆で
/こちらこそありがとうございました、次もよろしくお願い致します
190押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/15(水)00:49:27 ID:EXN [1/1回]

「次から次に……よくやるものね」

突然現れた塔の根元。
その手前に敷かれた規制線から、押井眞子はそれを見上げる。
黎明協会の起こした騒ぎによって活発化した新興宗教や社会改革を目的とした組織、その他諸々の怪しい集団にかまけていたらこのざまだ。

「いい加減一つぐらい、taskを片付けたいものなんだけど」

仕事は積まれる一方で、片付く気配を見せないものばかり。
一連の騒動に巻き込まれて以来回数が跳ね上がった、心底からくる重たさを孕んだ溜息をまた一つ。
191◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/15(水)19:32:20 ID:gm0 [1/1回]
>>190
そんな規制線の向こう側、塔の中からコッソリと抜け出てくる二人組がいた。

ディディ「勘弁してくれよ?あったから良かったものの、大事なもんだったら確実に見つけて持って帰れって」
ラファ「色々と運ぶのに気を取られた」
ディディ「あー、野郎二人が気い失ってたんだっけか?」

魔術による認識齟齬の効果を得ている二人は周囲にあまり警戒を割いてはいなかった。
心得のあるものや、ある程度の実力を持つ人物なら容易く看破してしまう程度の術である。
当然、押井が二人に気づかぬはずもない。

ディディ「ま、とっとと此の場から退散して何食わぬ顔で日常を……お、おお?」
ラファ「?」
ディディ「…やっべ」

学園都市高等部一年、ディエンテス・デ・レオン・ディモルフォセカ・デイドラは、
この時始めて規制線の向こう側に今、出会ってはいけない人物の姿を見とめ、立ちどまった。

/よろしければ
192久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/15(水)20:16:17 ID:7Ir [1/1回]
ここ最近になって病院の賑わいが大きくなったのは、街としては非常に不本意なものなのだろう。
だからと言って自分が入院している事を、申し訳なく思う道理が特段ある訳ではないのだけれど。

「…………暇だ」

強いて後悔を挙げるのであれば、この拘束時間が年頃の少年には退屈極まりない事だろうか。
あの後病院に担ぎこまれ、然るべき処置を経て目を覚ましたのが翌日の明朝。
思いの外深かったらしい切創、血中酸素濃度の一時的な急低下。更にこれまでの前科を踏まえて強要された数日の安静。

「ひーまーだー…………ふわぁ」

いくら言い方を変えたって、入院に押しこめられて無為に時間を過ごすより他にない。
中庭のベンチで仰向けに寝転がり、手慰みにペダルを漕ぐように両足をぐるぐると動かす。気持ちだけでも身体を鍛えながら、呑気に欠伸を零した。
193押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/16(木)00:30:41 ID:tJ7 [1/1回]
>>191

警官たちの後方、塔の内部から2つの人影。そのうち一人は見知った顔。
微かな魔力の気配と騒めく様子のなさから、隠蔽の類の魔術を使っているか。
疲れがたまっているかと一瞬思ったが、目が合った瞬間しくじったといわんばかりに立ち止まったところで、ため息をついて。

「────」

二人に向かって無言でくいくいと指を曲げ、手招きをする。
何かしらこの等について知っているのならば、聞き出しておきたいところだ。

//遅くなりました、まだよろしければ
194◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/16(木)20:12:53 ID:Hf1 [1/1回]
>>193
ディディ「いよーっす、センセ。何でこんなトコにいんのさ」
ラファ「…(ブーメラン)」

少年は溜息を一度つくと観念した様子で片手を上げながら押井の元へと歩き出す。
少女もまた其れに続いた。

ディディ「先に言っとくと俺らはコイツの忘れ物を取りに来ただけだから」
ラファ「初めまして」

規制線を潜り少女を指さす少年。
次いで押井へと会釈する少女。
二人に別に悪びれた様子はない。
まあ実際、別段悪いことをした気は全くないのであるからして。
195 : 淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/16(木)22:33:01 ID:aZf [1/1回]
牡丹が花開いて揺れ動き、鵤が枝上で羽を払う。どこかで聞こえる社会運動の雄叫び。
それら全てを五感で捉えながら、その何れにもたいした興味を抱くでもなく。

「……毎日、毎日……よくやるね……」

現状の打破を飽きもせず民衆に説く思想家の勤勉さに、感服こそすれど賛美はしない。
緑麗らかな自然公園の一角に聳える木の下、露を纏った芝生で仰向けになり、ちらちら瞬く木漏れ日に目を細める。

「……ん……、……」

そのまま瞼が落ちそうになったかと思えば、ふとした拍子にぱっと持ち上げて。微風に眠気が誘われているのは明らかだった。
胸の上に片腕で抱いた本が、呼吸に合わせて微かに上下する。微睡みに拐われてしまわないように、空いている方の指で無造作に広がる髪をくるくると弄った。

//>>192と併せて募集します…!
196押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/17(金)00:09:19 ID:h1O [1/1回]
>>194

「それはこっちの台詞。Dating(デート)にしては物騒な場所だと思うのだけど?」

にこやかに応対、というわけにはいかない。
忘れ物というのが真実であれ言い訳であれ、魔術まで用いて封鎖された塔に入らなければならない用事というのは穏やかではない。
考えうる最悪のパターンとしては、2人が黎明協会や何かしらの秘密組織の一員であるというのが考えられる。
隣の見知らぬ少女はともかく生徒に疑いの目を向けたくはないが、生徒がそうであったことは経験済みだ。
口元に笑みを作りはするが、警戒は怠らない。

「忘れ物、ね。何なのか聞いてもいいかしら?」
197 : メアリー・シェリー◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/17(金)10:26:30 ID:TZG [1/1回]
/お疲れさまです
/避難所にイベントについてお知らせを書かせていただきました
/ご一読頂けたら幸いです
198◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/17(金)10:47:31 ID:gyd [1/1回]
>>192

中庭の奥から響く足音───と呼ぶにはちょっと派手すぎる音。
廊下は走ってはいけません、なんて不文律を一切無視して、あの後輩が中庭へ飛び出した。看護師の群れを連れて。

「直った!!!!!!直ったっつってんだろうが!!!!!!
いやちょっ、待っ、ぎゃあ!!!!やめ、そこはまだ痛むんだって!!!!」

中庭で転倒した彼はすさまじい形相の看護師達に押さえつけられ、叱りつけられ。しかし反省の色はなく、看護師達が根負けするまで騒動を続けた。
数分後、彼は中庭に放置されることになる。廊下を走り回られるよりは中庭の方が対処しやすいのだろう。

「……んなとこに閉じ込められてる暇ァねぇんだよ……クソぉ……」

殊勝にも外の世界の情勢を気にしていると言うよりは、多分。先輩よりも遥かに早く退屈の限界が来たのだろう。脱走を試みる程に。

//まだいらっしゃいましたら……
199◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/17(金)18:57:56 ID:7RM [1/1回]
>>196
ディディ「そんな楽しいもんじゃないんだな、これが」

押井が少年らを警戒するのはもっともであるが、
少年らもまた押井、と言うより教師やこの島の社会そのものに警戒を抱いている。
隔離された中で尚展開される日常がその主な要因だ。
何食わぬ顔で通学こそしているが、日々学内においてでさえ周囲警戒を考えている。

ラファ「…」

押井に問われ少女は言葉ではなく現物を提示することで回答とした。
その手には金の象眼細工が施された黒い縞瑪瑙の首飾りだった。
魔力こそ感じないが醸し出す雰囲気が普通の品ではないと告げているようであり…

ディディ「ま、そう言う訳だよ。何か企んでるわけじゃねえから」
200久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/17(金)19:36:56 ID:Gv3 [1/4回]
>>198
「ねっむ…………うおおおおっ!?」

怒涛の騒乱が安静、もとい怠惰極まりない陽光の揺籃から無理矢理に叩き起こす。
横になったまま、数センチ程ベンチから飛び上がりそうな勢いで。
がばりと身を起こそうとして存在を訴える傷に引き戻され、呻き声と共に再び背中から倒れこんだ。

「――暇なのは分かるけどさぁ。あんまり周りに迷惑はかけんなよ」

結局起き上がって声をかけるのは騒動がひと段落し、振り返した痛みが落ち着いてからの事。
先輩風を吹かせようというつもりはないのだが、呆れというよりは諭しているような。
如何にもじっとしているのが苦手そうな彼がこうまで余裕がありそうに見えるのは、実はその辺りは弁えている、とかそういう訳ではなく。

「軽く身体を動かせば、ちょっとは暇潰しにになるって!」

少しでも運動ができるのであれば多少の不満は発散ができる、単純な頭の構造をしているだけである。

//お待たせしてすみません、よろしくお願いします!
201柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/17(金)21:58:09 ID:4sK [1/3回]
>>200

「無為に体を動かしても疲れるだけだっての。」

戦闘に於いては思い切り脳筋極まりない彼だけど、本来運動を好む方ではない。
空いた時間には本の虫になって文字に浸るのが日課、けれどここにはそれすらなくって。

「怪我なんて寝てりゃ治る。んで十分寝たんだ。」

医療を軽視すると言う訳ではなく、彼の異能は傷の治癒にも作用する。実際寝てれば治ってしまう。
それに。抜け出そうとするのもただ退屈と言う訳ではなく、空にまだ時計が浮かんでいるから。

「先輩は平気かよ?
 まだ何にも収まってねぇんだ。こんな空じゃ碌な詩も思いつかねぇ」

//こちらこそお待たせしました……
202久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/17(金)22:18:16 ID:Gv3 [2/4回]
>>201
「えーっ、そうかぁ?偶には運動しねえと、身体が鈍って仕方ないんだけどな……」

インドアとアウトドアの決定的な違いは永劫埋められる事はない、心底不思議そうに首を捻って。
当然、入院生活で満足に動ける訳ではないのだが。無理をして悪化させれば、困るのは自分だと重々承知していた。

「…………や、俺はもう大丈夫。後は、傷が完全に塞がるまでの辛抱だな」
「いつかやりすぎて、失血死しても知らないぞって怒られちまったけど」

取り押さえられていた時は、相当痛がっているように見えたけれど。なんて、野暮な事は喉元の寸前で押し留める。
穿閃の釘を受けた孔と自ら刻んだ裂傷はほぼほぼ元に戻りつつあり、経過次第では退院も間近。
それ以上に命を危機に晒しかねない異様な失血の再発を咎められた旨を、へらりと笑って口にした。

「確かに何も終わってないかもしれないけどさ。この前のを止められたんだから、何もかも悪くなってる訳じゃないだろ」
203柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/17(金)22:33:31 ID:4sK [2/3回]
>>202

「……前向きさに羨望すら湧いてくるわ。」

ため息に尖った言葉。微かに上がる口角は、そろそろすっかり慣れたころだから。
動いても仕方がないから、ベンチに座って足を振る。その際傷を庇うのはきっと気のせい。

「羽虫にしちゃあ随分頑張ったろうよ。心中が好みでもないなら、そろそろ任せても良い頃だ。
 誰かを助けるのは、別にお前でなくっていいだろ。」

「お前の傷を笑うんじゃねぇ。自分自身だろうとムカつくんだよ。
 次ィやったら笑えなくなるまで穿り返すからな。」

守りたい、なんて動機は。自分が傷ついたことを笑って流す程に強いモノだろうか。
少なくとも、彼には理解できなかったし、何よりちょっと癪に障る。自分の痛みが分からなくなったら、人の痛みが分かる筈も無い。そういう人間は、彼が最も嫌う人で。
204久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/17(金)22:57:51 ID:Gv3 [3/4回]
>>203
「へっへーん!もっと言ってくれてもいいんだぜ?」

無論、皮肉なしに得意げである。鼻は高々、意気軒昂。無意識に口元が緩んでいるのが隠しきれていない。
褒められたとしか思っていないのもあるだろうが、遅ればせながらの先輩呼びに、調子に乗っているのも間違いなく一因だ。
ベンチの半分を譲って、その際に兆した傷の徴候を目敏く捉えたらしく、何か言いたげに口を開きかけたが。
余計な世話を好まない性質だろうとは容易に想像がついたから、気懸りそうな視線をやるだけに留めた。

「こっっっわ!!こえーって!!せっかく治りかけてんだから、マジで止めろよ!?」

逃げるように大袈裟に仰け反って、戯けた調子で身を震わせる。しかしそれが全くの冗談ではないと、その態度から感じ取ったのであれば。
力なく笑って背もたれに体重を預け、だらりと天蓋の文字盤を見上げた。

「……確かに俺に出来る事なんて、ちっぽけかもしれねえ。大人に任せた方が、ずっと上手くやれるかもしれない……けど」
「俺が傷つくよりも、皆が哀しむ方が痛いんだ。こんな怪我、なんて事ないくらい」

痛いのは嫌だ。その生物として然るべき生理反応を忘れる程に、人間性を捨てたつもりはない。
どちらかと言えばより苦痛の和らぐ方を選ぶ、本能に近い欲望のようなものなのかもしれない。

「それに、誰かを傷つけてまで守ろうとしてるんだ。俺だけが楽をする訳にもいかねえだろ」
205柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/17(金)23:10:15 ID:4sK [3/3回]

>>204

「理由はあんのかよ。
 誰かの傷の代わりに、お前の心臓投げ捨てて良いって、そう思える理由は?」

口調はぶっきらぼうで、冷たいようにすら聞こえるかもしれないけれど。つまりはただ、心配なのだ。
捻りも何もない真っすぐな言葉で、空事の様な信念を本気で口にする。見ていて、危なっかしくないと思う方が無理だ。

「この街の何人の名前を知ってる?
 女が居るわけでもないだろ。初心丸出しの子供にしか見えん。」

行ってしまえば、その殆どは他人だろう。誰かのために、なんて口で言ったって。本当にそれだけ傷つく必要はない筈だ。
……後者の言葉は彼もなんだけど。

「誰かって、誰だよ。言えねぇ癖に、守りたいだなんていうんじゃねぇぞ
206久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/17(金)23:39:31 ID:Gv3 [4/4回]
>>205
「――――分かんねえ」

即答だった。そこに逡巡が介在する余地はなく、反論を恐れる理由は皆無。
上を向いていた首の角度が戻って、真っ直ぐに見据える。何を今更、と言わんばかりの眼差しだった。

「自分でも、なんでこう思うのか分かんねえんだ。ヒーローになりたいって訳でもないのにさ」

己を犠牲にしてでも守ろうとする意思の出処も、その切欠も。考えて、素直に出力されてはくれない。
そこに疑問を覚える事はなかった。その曖昧さこそが原動力になり得るのだと、幾度かの死線を経て知っていた。

「ただ、そうしないといけないって、心の底から思うんだ。この島は守らないといけないって、俺の中で煩えんだ」

そこに人を納得させられるような理屈などない。全身の細胞がそれを望む、ただそれだけの話。
言うなればそれは、衝動のままの振舞いと呼んでも相違ないのかもしれなかった。自傷を厭わず、他人の気遣いを見て見ぬ振りする。

「でもさ。その為に生きる事って、そんなにいけない事なのかな?」
「少なくとも俺は、そうやって命を使うのが、悪い事だとは思えねえんだ」
207柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/18(土)00:07:44 ID:kvl [1/7回]
>>206

「ああ、そう。」

すんと消える表情が何を意味するか。顔だけじゃわからないけど。
握る拳、振り被って肩を殴りつける。結構、と言うか明らかにじゃれ合いでなく本気の殴打である。
表情は一つも変わらないのに。明らかに衝動的な行為だった。

「悪いわ阿呆。ニイチェにでも毒されたか干し大根め。
 時計が消えた空に下に、ちゃんとお前は居るのか?」

それを本能と呼ぶのなら。善性から生まれるそれは、客観的に見て悪にはなりえない筈だけど。

「命を使う?随分お前の命は軽いらしいな。それとも国語の成績が死んでるか?
 守るなら大いに結構。立派だと思うが、犠牲になるって考えてんなら今度こそ抉る。」
208久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/18(土)00:35:58 ID:4ht [1/7回]
>>207
「誰――――おごおッ!!!」

かつてニヒリズムを語った男の名に首を傾げられているのもほんの束の間、綺麗に入る肩への殴打。
衝撃は鎖骨を通り、袈裟の傷痕を刺激して。情けない悲鳴と同時に胸を抑えて身悶えした。

「せ、成績は関係ないだろうが……!大体、俺の事ばっかり言ってるけど……お前はどうなんだっての……!!」

歯を食いしばって痛みを堪える。額に浮かんだ脂汗が引く頃になってようやく、息を整えて平静を取り戻す。
恨みがましげにじとっと向ける視線、一方的に聞かれてばかりはいられないと苦し紛れに問い返して。
ほんの少し、考えるように睫毛を伏せる。命と信条をかけた天秤を見守るように、悩ましげに口を閉ざした。

「……そりゃあ、俺だって死にたくはねえよ。痛いのも苦しいのも我慢は出来るけど、死ぬのは怖い」
「出来るのはせいぜい、死ぬギリギリ手前の所までだと思うぜ。だから心配すんなって」

嘘を吐いているつもりはない。しかし多数を救うために、一の命を擲つしか方法が存在しないのであれば。
きっと自分は心の声に従って、その手段を選んでしまうかもしれないと。予期はできても、言葉にはしなかった。
きっと誰だって、自分と同じように。親しい者が自ら傷つこうとする様など、見たくはないだろうから。
落命の恐怖が払拭できないのは歴とした事実、だから心を砕く必要はないと言いたげに笑って見せた。
209柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/18(土)01:06:15 ID:kvl [2/7回]

>>208

「俺はやらねぇだけでお前とは違うんだわ。」

と鼻で嗤いながら得意げに。実際、彼の成績は下から数えた方が早い。授業のほとんどは寝るか執筆に費やし、テストすら寝て過ごす事すらあるのだし。
とはいえ、少なくとも国語、文学の分野においては詩家を自称するだけあり知識は蓄えている。成績は他と変わらずだけど。

「……いいや。お前が死んだときの事考えてる方が建設的だ。」

その奥底、もしも自分の命と多数を天秤にかけた時の予測を見透かした訳ではないけれど。けれど、一応は友人として、共に命を懸けて戦った仲ならば予想は付く。

「そんときゃあ詩でも歌ってやるよ。生き残った連中が、誰もお前を忘れられないように。」

言ったってきっと変わらない。ならばせめてそうするのが、詩人に出来る弔いだろうから。
ベンチから立って、お前よりは早く退院してやると言って歩き出す。放っておけないから。

「退院したら……良ーい思いさせてやるよ。それまでは生きてろや。」

娼家びたりの彼が言う良い思い何て、一つしかないだろうけど。

//この辺りで〆でしょうか?
//お疲れ様でしたー!!明日のイベントもまたよろしくお願いしますっ
210 : 久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/18(土)01:32:15 ID:4ht [2/7回]
>>209
成績を突かれてしまえばぐぬぬ、と歯軋りをするしかない。頭に知識を詰めるよりも動き回っていたい気質なのだ、その点数は推して知れる。

「ひっでえな!!なんか今日のお前、やけにあたり強くねえか!?」

嘘でも死んでほしくない、と言われたかったのかと問われれば、それは否なのかもしれないが。
こうもあっさり、見透かされたように追悼の事を考えられてしまっては。思わず唇を尖らせて、不満も垂れ流したくなるというもの。

「はっ、せいぜい今から考えておけよ。全部無駄にしてやるからさ」

死にたがりのつもりはなかった。だから断じて、自分からその可能性を口にはしない。
自分一人の未来を全て捨てるだけで、島の存続が叶うのであれば。躊躇いなく、この心臓を止めてしまえるのだろうと。
そのために燃え尽きる事に、恐れはない。不思議と、現世に惜しむ事もきっとないと思えた。

「ははっ、そんじゃあ今は大人しくしてねえとな」
「お前こそ、また無理して逃げようとして悪化させんなよ?」

ベンチに空いたスペースを、すぐさま横になって占有する。衝撃を受けたばかりの傷に響いて、立ち上がる気力はなかった。
ひらひらと手を振って、一先ずの完治を約束する。言うまでもない事ではあったのだけれど。
人よりも少々初心のきらいがある彼が、良い思いと言われて真っ先に思い浮かんだものが誤りだと明らかになるのは、それから数日後の話。

//こちらこそありがとうございました、お疲れ様でした!
211押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/18(土)01:49:39 ID:R8E [1/5回]
>>199

「どうしてthis placeに忘れ物をしたのか、説明してもらえるかしら」

見せることを要求した立場で言うのもあれな話ではあるが、何もそういうわけで済む話でもないし、企みがない証明にもなっていない。
先程は流してしまったが、そもそも建ってからそれほど時間が経たないうちに軍によって封鎖された塔の中に忘れ物をする時点でおかしい。
さらにわざわざそこまでして回収しなければならないものであるとなると、「Mの書」という前例のように何らかの重要なアイテムという可能性も否定できない。
自分もまた疑われているとはつゆ知らず。

「それに貴女。見かけない顔ね」

//時間を中々合わせられず申し訳ありません、明日はイベントを優先していただいて大丈夫です
212◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/18(土)09:40:03 ID:6dy [1/1回]
>>211
ディディ「え?そりゃあ此処にこんなもんブチ建てた電気野郎をぶん殴った拍子の落とし物だよ」
ラファ「…」ハァ…

とても気軽に何でもない事のように少年が答える。
その言動に少女が盛大に溜息をついた。

ディディ
「…おっと、口が滑った。
 滑った序に白状するとその電気野郎ってのは黎明協会とかいう最近騒ぎばっかり起こす迷惑集団の一人だ。
 偶々迷惑行為の最中に出くわしたんで、まあ対処すんのは普通のことだよな?」

とやかく言われる筋合いはないと少年は思っている。
実際、最近の出来事は自分で動かなければ致命的な事象が起こりかねない事柄ばかりだ。
正直一度は手にしたMの書を気絶によって何処かの誰かに横取りされたことは尾を引いて騒ぎに過敏になっている所はあるが。

ディディ「それにコイツを見かけないのも当然だろ。学生じゃねえし、センセとは生活圏が違んだろうし?」
ラファ「…」

押井に問われ答えるのは少女ではなく少年。
単純に少女は口数が少ないのと、勝手に相方が喋るので別に口を開かなくていいやという思いもあった。
別に押井に対し必要以上の警戒心を抱いているわけでもないので涼しい顔をしていた。 
213◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/18(土)20:01:53 ID:8Gw [1/7回]
――――ここは凍結のシャトー・ディフ。或いは、蜘蛛糸の集合点。

モルフォ蝶が舞った。青く輝く、素晴らしく美しい蝶だった。
それが学園都市中を、覆い尽くすかのごとく舞っている――――まるで、それは街全体が夢を見ているかのようだった。
それらは吸い寄せられるように、人々へと向かっていくことだろう。
幼い子供から、大人まで。それが誰か人間を別けることはしなかった。ただ、それに触れたのであれば、その意識を急速に手放すことになる。

時計の音と、カツカツと、鉛筆の芯が紙を叩く、それだけの空間がそこに広がるだろう。
講義室だった。階段状になった、大きく広い席の、その最前列には、教卓に座った置いた一人の男が座っている。
名を、ジェームズ・モリアーティと言った。その右手に握った、鉛筆が、紙の上にガリガリと、何かを書き連ねている。
老若男女を問わず、そこには席が用意され、皆そこに、沈黙を保って座していた。

きっと大勢が座っているだろう。だがその距離は夢であるかのように曖昧だった。
講義室には、時計の音と、鉛筆の音が響くのみだった。
待っているのだろう。全員が、この場に出席するのを。
214 : ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/18(土)20:03:38 ID:8Gw [2/7回]
/開始文です
/参加して頂ける方は、こちらのレスに反応を頂ければ幸いです
215ディ(以下略◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/18(土)20:19:34 ID:DIy [1/7回]
>>213
近寄る魔蝶を躊躇なく、携えた魔杖で一刀のもとに切り捨てながら少年が行く。

「また周辺で騒ぎになってんだろうなあ…ま、ソッチは任せて俺は大元を叩くって事で」

如何にも異様な気配は講義室にあるらしい。
見知らぬ場所を見知ったかのように迷いなく、
神に逢うては神を斬り、仏に逢うては仏を斬る勢い。

「斯くの如くんば、行く手を阻む者、悪鬼羅刹の化身なりとも、豈に遅れを取る可けんやってなあ!」

講義室の扉の前に立ち、遠慮なくその扉を蹴り破る。
鍵がかかっていようがいまいが、結界が張られていようがいまいが関係なく。
理ではなく剛によって全てを制すと宣戦布告の意味合いと共に。

「で?今日の一々他人様に迷惑かけねえと何も出来ねえ迷惑野郎は何処のどいつだあ!!」
216 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/18(土)20:33:27 ID:4ht [3/7回]
>>213
現世と夢幻を運ぶ蝶に、誘われるように指を伸ばした。
陽炎よりも曖昧な境界を渡って、目覚めた教場での反応は大抵が一様であろう。

「――――ん、あれ?寝てた?つかどこだここ?」

今しがた意識が覚醒したのか、ずっとここにいたのかすらもどうにも判然とせず。
眼を擦って落ち着きなく、あちらこちらと視線をやって。異様な光景に口を噤む。
しかし虎穴に入らずんば、と自ら飛びこんだとは言え。夢か現かも明確ではない状況では、はっきりとした指針も見出せない。
故に久々之千梛少年は、雰囲気に飲まれたつもりではなくとも。そわそわしながらも大人しく事態が動くのを待つのだろう。

『…………――』

一方、其が何であるかを理解していながら脆い翅を撫でた少女、淡島豊雲野の方はと言うと。
特段なにかに興味を指し示す様子もなく。折でも手放さない本を膝に乗せて、転寝さえしているかのように緩く目を瞑っていた。

//すみません、悩んで遅くなりました…!
//よろしくお願いいたします!
217 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/18(土)20:56:04 ID:kvl [3/7回]
>>213

綺麗だと思った。だから手を伸ばした。単純な事。指先に停まった蝶に誘われて、彼は講義室に居た。

「どいつもこいつも随分行儀がよろしいこって。」

明らかな異常事態であるのに、広がるのは沈黙。ここに居る誰もが学生だとしても、誰も端末を弄る事もなく最善の教授を眺めているのは、まるで出来の悪い映画の背景。
ぽつんときょろきょろ、視線を動かす先輩の姿を見つけて、少し安心したみたいに口許を緩めた。

モルフォ蝶と講義室、教授。思い浮かぶ名前を、今現在の異常事態が肯定している気がした。

//遅くなりました……ここから参加させていただければ!
218◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/18(土)21:00:26 ID:8Gw [3/7回]
>>215>>216>>217

――――現実の講義室と、夢幻の中に存在する講義室の同一性が証明されるかと言えば、答えは否である。
小惑星の力学と書かれたジェームズ・モリアーティの著書、エルンスト・エドゥアルト・クンマーによるイデアル論についての純粋原本。
ブレーンワールド論、Mの書写本、人間原理、或いはシンプルな一つの数式がそこには存在している。
直前まで講義は行われていたように思えるだろう。実際に、黒板には何らかの理論が残されている。チョークの後は、すぐに消せるほど真新しい。

終局的犯罪。

薄っすらと見える数式の上には、大きくそう書かれている。

そして夢幻――――否。
それらは全て、繋がった意識であり、夢幻と呼ぶには余りにも現実的で、しかし現実であると言うには余りにも幻的だ。
鉛筆が動きを止めると、それが傍らに置かれた。ゆっくりと、モリアーティが立ち上がると、彼等に静かに一言だけ、告げる。

「……講義を始めよう」

然しそれは講義室に居る人々の中に、確かに聞こえる筈だろう。
身動ぐ久々之千梛にも聞こえたならば、淡島豊雲野の肩を叩いて起こそうと、友人が静かに動くことだろう。
柏村中也という少年が、違和感を持っていたのならば、それはきっと正しいことだ。その過ごし方は、思い思いであれども。
教授がチョークを取ると、軽い音とともに、黒板を叩く。そこに書き出される文字は。

「今回は、皆、知っていてもらいたいことだ。皆に関わることなのだから」

――――『終局的犯罪』。酷く整った文字が、そこに書き出される。
219 : ディ(以下略◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/18(土)21:18:56 ID:DIy [2/7回]
>>218
「あれ…?」

息まいてやってきたは良いものの、講義室はもぬけの殻。
勢いに任せて扉もぶっ壊してしまったが、弁償ものではなかろうか。
少々冷静になって周囲を見回しそんなことを考える。

「………終局的犯罪?」

そうして部屋に残された品々を適当に流し見し、黒板を見上げ呟く。
何かが起こっているのは間違いないがソレが此処であるとは言い難くなった。
とは言え、魔蝶に触れるのは危険が過ぎるだろう。

「とっ捕まえて解析してみるか…」

危険なものであることはわかっているが、何がどう危険であるかを具体的に解明しているわけではない。
なれば見定める事で何が別の事柄も見えてくるやも知れない。
神の視点からすれば遠回りな、しかし本人からすれば至極まっとうな警戒の元、少年は魔蝶採取へと行動を移す。
220深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/18(土)21:25:25 ID:bCy [1/4回]
>>213
「……ここは?」
火に引き寄せられた虫の様に、魔蝶を追い掛けて1人の生徒が講義室にやって来る。
なぜ扉が壊されているかは知らないが、講義室に入ってみて
221 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/18(土)21:27:28 ID:4ht [4/7回]
>>218
なんとなく、声を出すのが憚られる空間であった。浮き足立っていながら、静寂を阻害するのは気が引けた。

「……おっ……!!」

その代わりに忙しない視線が、見知った顔を見つけたのであれば。少年はぱっと表情を輝かせて大きく手を振った。
下手すれば声をあげるよりも目立つ行為だろうがなんて事はない、ただの考えなしの行動である。
しかしてその意識は、事態の変転によって瞬く間に最前へと向けられ、唾を飲んで次の言葉を待つのだが。

『……、……』

肩に触れた感覚に、薄らと片方の瞼を持ち上げる少女はというと。目線だけで礼の意を伝えると、前方の黒板に白が刻まれる様を眺めて。
その文字列に朧げな覚えがある事だけを確かめ、隣にいるだろう友人の肩に頭を預け。眠りに落ちまではしないものの、視界を閉ざして話を待つのだろう。
222柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/18(土)21:35:48 ID:kvl [4/7回]
>>218>>221
終局的犯罪、その言葉の意味を考慮する前に、微睡むままの彼の隣へ。

「よぉセンパイ。案外おとなしいじゃねぇの。
 殴りかかってもおかしくねぇと思ったが。」

ブーツの底が鳴らす音は静かな講義室中に響くが、それを気にする様子もなく。
元より不良生徒、受講態度は最悪で上等。

「……ジェームズ・モリアーティ教授。知ってるか?
 大学部の教授。なんでこんなところに居るかって……まぁ、そう言う事だろ。」

学園の内部、学生たちのずっと近くに、黎明の手は伸びていた。今更驚きやしないけど。
代わりに自嘲的な笑みが浮かぶ。自分の無能さに笑えてくる。

「……聞いてやろうや。終局的犯罪、それが何か。」
223押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/18(土)21:37:27 ID:R8E [2/5回]
>>212

「あのね、普通じゃないわ。そういう不審者と出会ったら自分でどうにかするんじゃなくて、私達オトナに任せてちょうだい」

彼の隣の少女の後を追うように、重いため息をつく。
生徒を黎明協会その他諸々との戦いに巻き込みたくないこともあるが、その態度から考えると命がけの戦いであることをきちんと正しく認識しているか怪しい。
悪の組織との戦いとなると物語の主人公のような気分に酔うのは理解できなくもないが、そんなことを許してくれる相手ではない。

「その年でここにいて、学生じゃない方が珍しいから」

煙草に火をつけ、一服。
最先端の都市とは言えど、流石に島一つに高校がいくつもあるわけはない。
そして能力研究・開発・教育という島が設立された目的上、出稼ぎというわけでもなく、かといってそれらに触っているわけでもない彼女は眞子から見れば奇異に見えた。
真実を知る身からすれば、過剰な警戒を抱いているようにも見えるだろうか。

//お返ししておきます、お手すきの際にご返信ください
224◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/18(土)21:49:17 ID:8Gw [4/7回]
>>220

現実の講義室には、ただ黒板に大きく、終局的犯罪とだけ書かれている。
教卓には数学者らしい資料の数があった。小惑星の力学は、ジェームズ・モリアーティが書き出した論文だ。
単刀直入に言えば、地球を物理的に、一息に破壊する方法が幾つも書き出されている。
抽象代数学におけるイデアルについて、より“原始的に”書かれたもの。ラテン語の書を、英文の翻訳とともに添えたもの。そして数式が残されている。

>>219>>221>>222

それに触れた瞬間に、講義の出席者になるだろう。
連ねられた無数の椅子に座る人々の中で、モリアーティは一人一人の顔をじっくりと眺めていくことだった。
特に目立ったのは、後になって講義室に足を踏み入れたもの、それから手を振る者、大きな声で話をするもの。
居眠りをしているものと、それに寄りかかられて身体を強張らせている者。彼等の姿を、認めながら話を進める。

「そも、犯罪とはなにか。単刀直入に言えば、法を破ることにある。
 不当な不利益を他者に齎すこと。人間倫理として認められるべくでないこと。理由は多岐にわたるが……」

そこで、一人の人間に視線を向けた。
ジェームズ・モリアーティが認めたのは、ディエンテスだった。
彼のことを、何か行動を伴って指し示すではない。だがそれでも、片手に握ったチョークを一旦下ろして、問うことだろう。

「この犯罪に於いて、“最も許されざるもの”はなにか。
 ディエンテス君、何だと思う?」
225◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/18(土)21:52:54 ID:DIy [3/7回]
>>223
ディディ「悪いけど、この間の化け物騒ぎの一件でオトナに任せっきりだと限界があるって知ったもんでさ」

ただ自分に酔っていられればどれだけ楽だろうか。
化け物騒ぎの前から都市に潜む危険には気づいていた。
それは間違いなくオトナ達の作り上げたものであったからし見知らぬオトナ達を取捨選択し頼れる筈もない。
そも少年だってこの短期間で幾度となく自分の命を危険に晒すなど想像もしなかった。
だが、直ぐにでも矢面に立たねば失われる命が目の前にあった。
なれば、成すべきことは一つであろう。
それを目の前のオトナに言えるかどうかは未だ見極めが足りなさすぎる。
だからこそ軽薄な態度は変わらない。

ディディ「そーかい?俺ら相手の店なんかにはバイトとかいるだろ?」
ラファ「…」

珍しいが居ない訳ではない、希少な立ち位置。
まあそうなってしまったのは少女の語られぬ物語に起因するのだが本件とは一切関係がない。

ディディ「で、センセこそ何してんのよ?こっちだけ質問攻めに晒されるのは簡便だぜ?」
226押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/18(土)21:59:18 ID:R8E [3/5回]
>>224

それは連日の疲労によるうたた寝の隙を突いたものか、それとも書類仕事を片付ける彼女の肩にふらりと蝶が止まったか。
気が付くと、そこは講義室。細かいディティールは分からないが、大まかには大学部のものと見てよいだろうか。
生徒、教師、老人、子供。バラバラな群衆たちの視線の先には、見覚えのある老教授。

「────Oh,it's nightmare」

その姿を認めれば、先日の若き社会活動家にそうしたように、身体強化を起動し教壇まで跳躍。その首を跳ね飛ばさんと跳び蹴りを叩きこもうとする。
散々この一か月近く煮え湯を飲まされた相手だ。夢の中ならこの程度の無法は許されるだろうと。
もしもこれが何かしらの向こうの仕掛けであっても、何かしら彼が噛んでいることは想像に難くない。どの道だ。
227 : ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/18(土)22:02:05 ID:DIy [4/7回]
>>224
「くっそ、手中に落ちてる気がしてなら……ああ?何の話だ!?」

気が付けば夢も現も曖昧な場所。
相手の領域に無防備な状態で突っ込むほど致命的なこともない。
魔術においては殊更それは顕著だろう。
故に少年は苛立っていたのだが…

「……そりゃ未来を担う何かを対象にした案件じゃねえのか?
 何をするにしても結果が先に続かないような事をしでかすのはろくなもんじゃねえだろ」

言いながら教授に右手に携えた先端に赤い輝石が嵌った銃の形に捻じくれた黒い魔杖を向ける。

「御託は良いんだよ、お前は何をするつもりだ。こちとら長話は好きじゃねえんだよ」
228◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/18(土)22:06:24 ID:4ht [5/7回]
>>222>>224
「お前な、俺をなんだと……」

素直で単純、難しい事を考えるのは苦手な直情型の人間ではあるが、久々之千梛の性根は基本的に善性である。
講義は大人しく受けるものだと思っているし、この場においては、極力目立ちたくないという算段も多少はあるのだが。
苦々しくひとりごちながらも、席を一つずれて隣を空ける横顔には、細やかな安堵もまた確かに偏在していた。

「黎明協会、って事だよな?こんな事して、どうするつもりなんだか……」
「…………分かんなくなったら、後で教えてくんね」

無意識に声を潜めて密談を交わす面持ちはどこか固い、教授から目を逸らさないまま警戒と困惑の混在した気色。
座学が苦手だと白状するに等しい呟きだけが、まるで日常風景のように浮いていた。


『……そんなに緊張しなくてもいいのに。疲れちゃうよ?』

身体の筋肉が緊張しているのを預けた頭で感じ取れば、微かに首を傾いでその顔を見上げる。
俄かに音の増えつつある空間において、ごくごく目立たない囁き声は、事ここに至っても平然として。
青と赤を混じえた瞳が、少しばかり目を惹く箇所を見渡して。我関せずとばかりにふと息を吐いた。
229柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/18(土)22:14:00 ID:kvl [5/7回]
>>228>>224

「石頭超えた鉄塊頭。考えるのに向いてるたぁ思わんな。」

その代わりに、誰よりも最前線で人の盾になれる鉄の塊。

「ま、ノートは代わりにとってやらぁな。
 飽きたら寝てろ。……どうせ後で殴り合いだ。」

まさか講義が抗議のまま終わるわけもない。終局的犯罪が何を意味するにしても、その過程で十分すぎる程に被害が出ている。
贖罪するとでも口にしない限りは、あの男を止める以外の択はない。

余りにも淡々と進む講義を、今はただ聞いている。やる事が変わるとは思わないけれど。
230 : 深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/18(土)22:14:42 ID:bCy [2/4回]
>>224
「終局的犯罪……それと、数式……」
と、黒板の文字と数式を見て出て来た言葉は

「うーん、勉強をしているとはいえやはり数式は苦手だ……」

そう漏らして
231押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/18(土)22:29:36 ID:R8E [4/5回]
>>225

「……あのね。分かってないようだからハッキリ言っておくわ。邪魔だから関わるのを今すぐやめなさい」

その何気ない一言は、信頼すべき人間を自力で見極めることもできない子供であるという自白も同然。
大人が全力を出してどうにもなっていないものを、自分が関わればどうにかなるかもと思っている時点で酷く自分に酔っているとしか言いようがない。
未熟な自分でも、と思っているならそれもまたひどい思い違いだ。この戦いに未熟な人間の出る幕などない。
軽薄な態度からは、意固地な教え子のような覚悟も感じられない。それを見せるにたる信頼が互いに足りない、という事かもしれない。
その考えで行きつく先は先日の若き社会運動家のような人間に耳障りの良い言葉で煽られて鉄砲玉が関の山、というのは厳しすぎる見立てか。

「part-time jobにしても学生じゃないのにこの島を選ぶのも珍しいわよ。あまり物騒な場所にうちのstudentsを連れまわさないでくれると有難いわ」

彼と彼女がどのような関係なのかは知り得ないが、どの道こんな場所に足を踏み入れている時点で好ましくない。
彼女が何者であるかについても、先程から黙りこくっていて判断に足る材料が足りない。だが、話は通じる相手である(或いはあってほしいという願望)という勘を信じて。

「何って見回りよ。最近その妙な連中に便乗した不審者も出てきて物騒だから」
232◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/18(土)22:31:57 ID:8Gw [5/7回]
>>226>>227>>228>>229>>230

講義の場にも、例外なく、モルフォ蝶は羽ばたいている。
無論、それに触れれば夢幻の講義室の中に足を踏み入れることになるだろう――――そう。

それはあくまでも、講義の場である。

そこに勝利や敗北の理屈があるとするのであれば、それは教授たる者の理論が、生徒達に跳ね除けられることに他ならない。
言うならば、それ以外は許されない。例えば――――講義の場において、暴力など、論外であることは理解できるだろうか。
彼女は“座っている”。ただ、それだけが事実して存在する。講義を聞くことも、聞かないことも自由だ。だが、その妨害は許されない。

『緊張だってするでしょう、こんな訳の分かんない状況で……』

「……あまり無駄話はしないように……」

美珠は豊雲野の声に答え、また小さく耳打ちをした。
内容が内容で、物々しい状況。だが、彼女の姿は変わらないことに安堵しつつも。
述べられる、至って普通の声に肩を小さくした。それは柏村と、久々之千へと向けられたものであるのだが。

「外れてはいないが、もう少し単純に考えるべきだ。
 繋がる未来を断つこと……これはつまるところ、“殺人”だね。おおよそ、多くの人が想像する最大の罪だ」

ディエンテスの答えを聞くと、頷きつつも、手を加えながら、講義の軌道を修正していく。
魔杖を向けられても、気にすることはなかった。ただ、それまで通りに、講義を続けていく。

「では、終局的犯罪とはなにか。つまるところ完全な終了だ。人類史の終了。つまり――――」

黒板消しを手にとって、書かれた文字を消していく。
まるで滑稽なくらいに、全く教授として、人として、一般的な方法で、講義を続けていく。
それから新たに書き出されるのは、『完全殺人』という、四文字だった。

「この地球に存在する、全人類の殺害だ」

それは何ということはないとばかりに、告げられる。
この世界の唯一人も残さず殺害し、人類史を集結させる。一つの命も残さず、終焉へと導くこと。それが終局的犯罪。
ただ、モリアーティはそれを“目的”であるとは言わなかった。それは結論ではなく、講義はまだ続いていく。

「では、人類を全て、一人残らず、一切取り零すこと無く、鏖殺するには果たしてどうするべきか。
 柏村君、どうすればいいと思う? 或いは、君ならばどうする?」

そして、生徒の一人を指し示す。その答えを促すというよりは、想像力から来る意見を引き出そうと。
233押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/18(土)22:34:27 ID:R8E [5/5回]
>>232
//ごめんなさい、参加を取りやめてもよろしいでしょうか
//黒幕が生徒に喋ってるのを何もできず見てるだけというのは正直厳しいです
234◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/18(土)22:45:37 ID:4ht [6/7回]
>>229>>232
「うっ、煩えな……!アレだ、適材適所ってヤツだよ……!」
「分かってるし……つか寝ねえし……多分」

幾度か繰り返してきたやり取りに律儀に返し、仏頂面で黒板に臨む。どうにか理解しようと努める姿勢だけは十全だった。
拳を振るう可能性を否定はしない。しかし同じくここに導かれた、無関係の一般人を巻き込む恐れが頭を掠めて。

「…………スイマセン」

反抗する者としてのそれらの思考を置き去りにして、投げられた注意に返すのは、一生徒としての反応でしかなかった。
未だ全容の見えない、それでいて聴き心地の良いとは言えない講義に、苦虫を噛み潰したような顔でこそあったが。

舌打ちの一つもしたくなる気持ちが理解できないでもなかったから、心懸かりそうに横目で伺う。手を握ろうと、体温の低い指を伸ばして。
縮こまった肩にずり落ちそうになって、頭の位置を調整しながら。瞼を完全に持ち上げ、チョークが描く白線を双眸が追う。
それでも体重を預けるのを止めないのは。隣にいる事を、堅実な方法で常に確かめていたいからに他ならなかった。
235 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/18(土)22:47:55 ID:kvl [6/7回]
>>232

「今更教授面すんじゃねぇよ。肩書に愛着もねぇ癖に。」

一生徒として謝罪する隣に肘をぶつけて、謝んなくていいんだよと。
ジェームズ・モリアーティ教授。その名前と肩書に、黎明協会所属という上方が付随するだけで敬意の一切は消滅する。
不良な態度は変わる事はなく、寧ろ挑発するように。講義を下らないと吐き捨てる代わりに、懐から煙管を取り出した。

それでも、今直ぐに教授に殴り掛からないのは、この講義室が術中だからである。
魔術の存在にも随分慣れた。これはあのエジソンの様な物理的現象として出力する術式でもないだろう。
蜘蛛の巣で藻掻けば糸が絡む。今は未だ、この講義に乗って、情報を引き出すしかない。

「簡単だろうよ。本を燃やせば人は死ぬ。死んだ心が勝手に殺し合いでも始めるわ。」

「いや、あんた数学教授だったなぁ。本の価値何てわかんねぇわなぁ!!
 もっと手っ取り早いのが好きか?でけぇ爆弾で丸ごと全部ぶっ飛ばしちまうか!?」

けれどその講義の最中に、直接言葉を交わす機会が与えられたなら。噴火するよな激情が教授へ向けて叩きつけられる。
236 : ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/18(土)22:49:13 ID:DIy [5/7回]
>>232
講義を悠長に聞き続けるべきだろうか?
答えは否、であろう。
しかし強制力が酷く強い空間だというのは周囲を見てわかる。
攻撃の為に魔杖のトリガーが引けるか微妙だが試すだけ試す。
それが叶わないのであれば今は周囲の解析に気を使うしかない。
何時までも講義を聞く気はない。
動ける範囲でこの空間を把握し、何かできないか模索する。

「…ほんと、黎明の連中って話聞かねえよなあ?」

ぼやきつつも解析に全力で挑む。
237 : 深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/18(土)22:51:07 ID:bCy [3/4回]
>>232
講義を聞いていた深山、彼はその問いに少し考えており

「人間を全て取り零さずに、殺す……?」
何の能力も持たない凡人の彼がそんなことを考えるのは少し奇抜さが足りない。
唸りながら考えて
238 : ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/18(土)22:54:12 ID:8Gw [6/7回]
>>233
/離脱は問題ありませんよ
/了解しました、それではお疲れさまでした
239◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/18(土)23:11:16 ID:8Gw [7/7回]
>>234>>235>>236>>237

この空間への解析を仕掛けたのであるならば――――それがどの範囲まで理解できるかは定かではないが。
先ず、この空間に物理的な限界は存在しない。そもそも形が存在しない。それは正に夢と同様の性質を持っている。
それでは何故、人々の意識が同じように並んでいるかと言えばだが……単刀直入に、“意識が繋がっている”ことにある。
今、ここに居る、全ての人間の意識が、繋がっている。

「私は、あくまでも、教授だよ」

――――モリアーティにとって、敬意など必要なものではない。
ただ、教授という立場に在る以上、その役割を果たしているのみだ。それが彼等の思う通りのものかどうかは問わずして。
そして柏村の、問いかけに対する答えを得られたのであれば、こくりと頷いた。

「そう、最も手っ取り早いのは、“全て破壊すること”だ。ならばそれを確実に行うには?」

黒板に、一つの円が描かれた。そして隣に、同じ大きさの円が描かれ、それらが矢印で結ばれる。
そして答えは単純なものであった。たったそれだけで、説明がつく。

「――――“巨大な質量を持った惑星を衝突させてしまえばいい”」

単刀直入な答えであった。
巨大過ぎる質量同士をぶつければ、完全に地球は崩壊する。全てが“小惑星”になってしまう。
そこからの講義は矢継ぎ早なものになっていった。結果さえ示してしまえば、後は大切なものではないとばかりに。

「これにはもう一つの地球を用いる。パラレル・ワールドより、新たに地球を呼び出し衝突させる……否。
 結果的に、衝突してしまう。これこそが平行世界の完全証明、それに付随して起こる“終局的犯罪”」

チョークを置いて、人々に向き直る。
ジェームズ・モリアーティの言葉は、一つ一つが、雄弁でもなければ、端的で、淡白なものであった。
そこには欠片の情熱など無いと、錯覚でもしてしまうほどに。

「――――そして、これを成すべく、私は計算のために、“君達の脳髄を使おうと思う”」

淡島豊雲野の横に座る少女は、苛立ちよりも呆けたようだった。ただ、触れた冷たい指先が、少女の心を何とか保ち。汗ばんだ手で、強く握り返した。
柏村中也の、隣りに座っていた女学生が、噛み締めるように睨みつけていた。ただ、それはなにか納得しているようだった。
ディエンテスの解析した結果は、ここにきて意味を持つ。

「君達の脳髄を用いた計算によって、平行世界を証明する。それが私の――――“研究”だ。
 以上。なにか質問は?」
240◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/18(土)23:24:06 ID:DIy [6/7回]
>>231
ディディ
「おいおい、センセ。そりゃどういう意味だ?
 悪いが此処最近どれもこれも見過ごせねえ事柄ばかり起きてたが一度だってセンセの邪魔をした事はねえぞ?
 さっきも言ったがどれをとってもその場で解決しなけりゃ先がないことばっかりだ。
 化け物騒ぎの時はどいつもこいつもソッチに気を取られやがってMの書を黎明の連中に持ってかれそうになってたしな!」

押井の言いように少年の中で二つの感情が爆発する。
疑念と憤慨である。
この島の社会システムに黎明が関わっているのは不自然に続く日常が物語っている。
そこで発せられた邪魔という言葉はオトナを疑っている少年からすれば黎明と関わりあるものと捉えかねない言葉だった。
そして何より少年は少年であるが故に人生経験が少なく精神的に大成している訳でもないので、
やはり人知れず窮地を防いできたという自負を知り様がないとは言え何も知らぬものに傷つけられるのは我慢できなかった。
感情はそのまま力となって少年の魔術を発動させその体を強化する。
所謂戦闘態勢だ。押井なら直ぐに察するだろう変化である。
本来、明確なる敵対者に対してのみ振るうと決めた魔術を押井相手に発現してしまうのも無理からぬことだった。
241◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/18(土)23:34:40 ID:DIy [7/7回]
>>239
「質問は、ねえ!」

この場で意識を殺したら、肉体も死を迎えるだろうか。
植物状態も十二分に考えられる。寧ろその可能性が一番高い。
だが此のままでは奴の思うが儘に利用され最悪の結果が起きるだろう。
それだけは絶対に阻止しなければならない。
結局トリガーを引けなかった魔杖を自らのこめかみに。
行動がどこまで制限されるか不安しかないがやるしかない。
現実で対応中であろう相棒が都合よく意識の抜けた肉体を回収してくれればそれが一番だがそれは考えない。

「二度としたくねえなこのモーニングコール!」

目をつむりトリガーを引き魔術を行使せんとする。
行うは目覚めに類する魔術だ。
成功すれば現実だろう。
果たして効果があるか否か。
効果があったとしてその先如何するべきかは分からない。
出たとこ勝負が過ぎる行動だった。
242 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/18(土)23:42:15 ID:4ht [7/7回]
>>239
肋骨に肘がぶち当てられて、大凡轢き潰されたような音が肺から漏れる。声にならない声を発しながら、机の上に額を乗せて悶えるのは辛うじて我慢して。
かと思えば不遜極まりない隣人の回答に、顔を青くして目を見開いたりと、なんとも落ち着きのない様子だった。

「…………??」

そんなだから、仮に真剣に講義を受けていたとしても、内容の半分も飲み込めてはいない。
分かったのは、同程度の質量の惑星をぶつけ合う事と、そのために人の脳を装置として扱う事。
思わず机に掌を叩きつけて、腰を持ち上げるにはそれで十分だった。

「――――いや、ちょっと待てよ!!えっとだな、言いたい事は色々あるけど……」
「なんでそんな事の為に、星ごと壊さないといけねえんだよ!!てめえに俺らが好き勝手に使われないといけないんだ!!」

よく響く怒号だった。たった一つの真理を証明するために、全を代償とする数式を否定せんとする。
彼は碩学が碩学たる所以など知らない。神秘の追求のために、他者を当たり前のように礎にできる精神性など理解が及ばなかった。


『……まあ、そんな所だろうね。まさか、多元宇宙論の為だとは思わなかったけれども』

それに隠れて呟いた声は、目的のための方法を答え合わせたかのような、平然としたものだった。
多種多様な反応に満ち溢れる中で、彼女だけはやはり大きな反応を見せる事はなく。

『さて……どうにか止めないと、外の世界に行くどころじゃなくなっちゃうね』
『……大丈夫だよ。きっと、どうにかなるから』

力の入った手を、優しく握り返して。根拠がある訳でもない励ましの言葉尻は柔らかく。
不安はない。ただ、するべき事が明確に定まっただけの話だった。
243 : 深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/18(土)23:42:59 ID:bCy [4/4回]
>>239
「……は?惑星?パラレルワールド?……僕等の脳髄?」
ガタッと音を立てて席を立つ。
彼の凡庸な脳では、教授の言葉は何1つ理解できない。
突然出て来た惑星を衝突させるということ、もう1つの地球の事も、そして脳髄を使って計算をするという事も。

脳髄を使ってどんな計算をするというのか、自分達にどんな影響があるのか、生命活動が送れなくなるのではないか。
そんな疑問が彼の頭の中を渦巻いていた
244 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/18(土)23:53:05 ID:kvl [7/7回]
>>239

「───はぁ?
 どいつもこいつも心中がお好きで。質問なら早退の手段でも聞かせてもらおうか」

皮肉のつもりで言い放った、実現しえない筈の可能性。そこに、確証を以って肯定が返ってくる。
開示される情報、脳髄を機関として平行世界より呼び出した地球で地球を砕く。夢のような話、だけどここは夢の中。ならあり得るか?

ここは既に術式の中だとしても、この講義が必然の下に行われたのであれば、抵抗の可能性は存在しているはず。
計画は未だ、成就していないことを前提に考えよう。そうでなければ何もできない。

「出番が来たぜセンパイ。下んねぇ講義室なんざぶっ壊しちまえ。」

そう意気込んでは見たって、対策が思いついている訳でもない。魔術に関する知識が違いすぎる。
睨む視線を感じて、隣の席を見た。噛み締めて浮かべる納得は、それとも諦観の親戚か?

「あんたはどうする?地球と心中なら悪くねぇって言うか?」

必要なのは情報だ。とにもかくにも。

(魔術……探偵がやってたアレ……見よう見まねで出来る訳もねぇ。
脳髄が計算に使えるってんなら、魔術は俺にも使える……か?理論上は。)

一応は頭脳を担当すると言い切ってしまったから、頭を回すも妙案は浮かばない
245押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/19(日)00:07:07 ID:0PT [1/4回]
>>240

「貴方のようなのが戦いに出ると私に限らず他の人に余計な手間を取らせるだけだからやめなさい、ってmeaning」
「それも言ったわ、オトナに任せなさい。通報の方法を知らないわけじゃないでしょう?」
「Mの書、ね。どこからそんな話をあの時に聞いていたのか教えてもらいたいわ。まさかそこまで自慢げに、人を悪し様に言っておいて見つけたのは偶然で、しかもそれ自体を確保できたわけでもないって訳じゃないわよね?」

どうやらこの少年は思ったより深くこの一件に関わってしまっているらしい。
最後の問いは、あの騒動の後Mの書を手にした社会集団をその目で見ていることからくる、若干意地の悪いもの。
もし情報源があるならば聞き出しておかなければならないし、偶然をさも自分の実力と言い張るのは運も実力のうちという言葉を踏まえても失笑ものだ。

「────Hmm。C'mon,let's start the lesson!」

言って分からない相手に拳を振るうのを躊躇うGTO(グレートティーチャー押井)ではない。
彼の怒りに応じるかのように全身のタトゥーを励起させる。譲られた先手、どう動くか。
246◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/19(日)00:16:16 ID:TYF [1/3回]
>>241>>242>>243>>244

「……なるほど」

――――恐らく、ディエンテスの手段は成功するだろう。
講義が終了するまで退室は基本的には許されないが、然し、生徒には権利として退出することが許されているのだ。
つまり、通常の手段では逃れることが出来ずとも、何らかの方法を用意できるのであれば……逃れることが出来る。
ジェームズ・モリアーティは、その姿を見送るだろう。目覚めることにも、問題はない。

「質問がなければ、講義を終了とするが――――」

それを合図に、モリアーティもその話を終えようとしていた。
だが、無論、それだけで終われるはずがない。批難と反抗が、当然のごとくモリアーティには降り注ぐだろうが。

「うん……“なんで”と……うむ。何故だろうか。私には、君が納得できるだけの理由を提示できない」

何故、星を壊さなければならないのか。何故、好き勝手に使われなければならないのか。
答えは無い。何故と言われても、モリアーティ自身も説明できなかった。それは碩学として、当然のことだからだ。
自身の学問を、徹底的に追求する。それまでに発生するあらゆる犠牲、あらゆる破壊、それに対して、一切頓着することが出来なかった。

「ただ、私が、私の理論を証明したい。それだけだよ」

それが全てだ。
この中で何人の人間が、それを理解することが出来るのか――――きっと、“ただ一人”しか存在しない。
そしてそんな、ただ一人の少女の、救われている人間も居た。
その少女は、想像もつかない、途方も無い崩壊を提示させられて、 ただ呆然と立ち竦むしか無いのかもしれなかったが。

『……うん……大丈夫……分かってる……淡島さん……。
 一緒に行くって……約束したもの……』

けれど、握り締められた手が。柔らかくかけられた声が、その心を、揺れる心を引き戻した。
不安がないとは言い切れないが。それでも、どうにか、そこに留まることが出来た。

『――――大丈夫だ。……“秘策”がある。私に、ホームズが仕掛けた、秘策が……!」

メアリー・シェリーが、柏村に気付くと……何か気付いたように、その口元に笑みを浮かべた。
それは無理に作ったものでは在ったが、同時に、確かな理屈によって支えられているものだった。
モリアーティが、ふと、出入り口の扉へと視線をやった。それから、静かに、然し全員に届く声で、そう告げる。

「質問がなければ――――退室は、手近な扉から」

モリアーティが告げたのは、この空間から……この夢幻から、退出する方法だった。
そうすればきっと、現実世界に戻ることが出来るだろう――――少なくとも、今の段階では。
247◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/19(日)00:18:26 ID:cLe [1/6回]
>>246
「っしゃあ!次だ、次!!」

一つの可能性に賭ける。
魔蝶によって意識を持っていかれたとするならば、
蝶を介して現実から夢幻へと魔術を叩き込める可能性はあるのではないかと。
既に自らの精神は行き来を経験している。
全くの繋がりがない場合に比べれば幾何かの関係性は存在し、それは魔術にとってゼロかイチかの大きな違いだ。
再度魔蝶を探し出し今度は触れることなく魔杖を構える。
先ほど自らに叩き込んだ魔術を今度は蝶へ、ひいてはその先に存在するだろう繋がった意識達に叩き込む。
それはきっと教授にも効果をもたらす筈だ。
あの空間が全員の意識を繋げているものならその場に存在していた教授もまた何らかの形で繋がっているだろうから。
果たしてどこまで思惑通り事が成るだろう。
願わくば教授の位置まで掴みたい所だが多くは望むまい。
先ずは捕らわれた皆の救出が第一だ。
教授のしでかそうとしている事を考えると今も何かしらの大きな力が何処かで発生している可能性は十分考えられる。
最悪そちらの線で救出後は動く考えだ。
少年の皆を目覚めさせるといった行為、多分これは杞憂なのかもしれないが。
248◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/19(日)00:37:01 ID:cLe [2/6回]
>>245
ディディ「話聞いてねえなセンセ?通報して来るのは一秒二秒か?その暇すらなかったって話だ!!」

怒りに任せ喚き散らす少年。
その様子はまさに一触即発。
我慢もなく先んじて動いたのは少年、ではなく。

ディディ「んが!?」

パキッ!と音が鳴ったと思えば一瞬にして周囲を氷の世界に変えてしまった少女だった。
その氷結範囲と効力は非常に強力で押井に気を向けていた少年の手足を抵抗する暇もなく氷で覆う。
押井も少年に語り掛けている最中に少女の行使した氷結に晒されるだろう。
それを受けるもかわすも押井次第である。

ラファ「二人とも、主張が一方的過ぎる」

心底下らないやり取りだと溜息一つで少女は語っている。
あまり喋るのは好きではないが、あまりにあまりなやり取りに辟易していた。

ラファ「認識を改める必要がある。少し、頭、冷やして」

少年の態度が悪いのは当然認めている。
しかし押井の全てを肯定できるかといえば答えは否だ。
現状確認されている書が本物であるかの真偽は不明であるが、当初黎明はアレを見つけ次第破壊する気でいた筈である。
間違っても表舞台に出すべき代物ではなかった筈なのだが…何処かで何かが変わったのだろう。
しかし化物騒動の時にMの書が直接黎明の連中に渡っていたら話は今以上に取り返しがつかなくなっている事は明白だ。
それを阻止出来たのは皆の頑張りだろう。
押井も少年もだれ一人欠けていては成しえなかった勝利の筈である。
少女は、少し身を引いた場所で見ていた少女はその事を知っていた。
249 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/19(日)00:44:40 ID:kYq [1/5回]
>>246
その答えに唖然とした。到底共感できないどころか、理解する事すら脳が拒絶していた。
どうしてそうも簡単に、正しさの証明するために骸の山を築けるのか、分かりたくもなかった。ただ、胸中が一色に塗り潰される思いだった。

「…………ふざけんなよ」
「任された。後、頼むわ」

沸騰した純粋な怒りを言い表すには、その一言だけで十分だった。粛々とした行為に、反抗の意地をぶつけるだけでよかった。
意地の押し付けであるのを重々承知の上で、尚もその行為を否定する。最早力で以って、己が道理を押し通すのみ。

「ここでてめえを止めれば――その馬鹿げた話も台無しだろッ!!」

ひょいと机に飛び乗って、手に握るのはペティナイフ。その鋭利な刃で、躊躇いなく左の二の腕を深く切り裂いた。
痛みに顔を顰めながらも、ごぼりと溢れ出る赤を気にも留めず。鮮血を失う代わりに、新たな得物を呼び起こす。
叛逆を謳い反旗を翻す剣、クラレント。立場の違いを覆す、下克上を是とする大罪の性質をその身に借りて。
人の頭を飛び越え、飛び石のように机の上を跳ねて最前列に吶喊すれば。止めるどころか、絶命さえも狙った唐竹割を放つのだろう。


『……わたし達には、出来る事なんて少ないかもしれないけれど』

その姿を眺めながら、膝元の古びた表紙を片方の手でそっと撫でる。
それはただの無為な行動ではなく、願いをかける呼びかけのようなもの。
魔術の知見はなくとも素体として、その素質は皆無ではない。後は、もっと潜在的な相性の問題。

『誰かの可能性を作るくらいなら、きっと出来るから』
250 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/19(日)00:52:19 ID:J4b [1/2回]
>>246>>249

「へぇ、講義は自由退出かい。
 実験には強制参加だろうがよ。いつまで教授面してやがる。」

教授の定義が違う。学問を探求し、研究を繰り返し、それを人に伝導する者。ジェームズ・モリアーティはそうではない。

ふざけるなとこぼして、飛び出す。自分が声をかけるよりもはるかに早く。
抱くのは恐怖でもなければ生存への渇望でもなく、他人の為の義憤。

「……まだ一句も思いついちゃいねぇ。死んだらぶっ殺す。」

闘争を彼に任せたなら、自分は任された事に注力する。少女に向かい、その口から出た名前を聞けば。

「あぁ……なるほど。また探偵頼りは腹立たしいがアテんなるな。」

シャーロック・ホームズは、共に発明王を退けた相手。
共に、と言うよりは自分が彼女の駒として動いていた、と言う方が精確だろうが、ともかく。あの探偵の秘策であるというのなら、今この場で撃てる最善だろう。

「聞かせてもらおうか、その秘策とやら。
 傲慢極まった干物爺を殴れるなら、何でもしてやるわ。」
251押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/19(日)01:03:56 ID:0PT [2/4回]
>>248

「Oh。危ないから何もせず大人しく逃げろ、といった方が良かったかしら……っ!」

売り言葉に買い言葉の応酬へ、浴びせかけられる冷たい魔力の気配。
数歩後退するのを追うように、氷が世界を蝕む。
どうにか拘束を免れ、少女の方を見据えると。

「ずっと黙って口を開いたかと思えば、随分と偉そうじゃない。何か知ってる事でもあるのかしら?」

術式を起動したまま、そう問いかける。止めるためとはいえ攻撃を仕掛けたのはそちらが先だといわんばかり。
あの闘いは、あの場にいた全員の全力と運があっての成果であることは確か。だが、これから先も同じように生徒が出張ろうとすることを、押井眞子は認めない。
The end doens't justify the means(結果は過程を正当化しない)、とでも言うべきか。
252◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/19(日)01:22:05 ID:TYF [2/3回]
>>247>>249>>250
「――――確かに、私が死ねば、この理論は全て終わりだ」

同じ理論が文面で残されていよう。然し、同様のことを証明する人間がそうそう現れることはないだろう。
これは綿密な計画を以て実行される計画だ。ここで、ジェームズ・モリアーティが即死したならば……終わることになる。
そして講義を終えたのならば、講義室で生徒達を縛る概念は、一気に解除されることになる。
右の掌を、迫る久々之千へと掲げる。反逆の騎士が振るいし輝ける剣は、正しくその頭部を、中途まで引き裂いたが――――

「だが、ここでは、私は死ねないな」

切りかかった少年の身体が、“まるで切り取ったフィルムを、全く別のシーンに繋げるように”。
彼の剣は、モリアーティの傍らの教卓を叩き切った。頭部を割ったその断面は、血を吹き出すでもなく、ただ、断面を見せていた。
モリアーティにとっても、ここで死ぬ訳にはいかない。この精神世界では、死なぬように作られている。

「――――講義は、終了だ」

正しく、モリアーティの身体が、久々之千の体に触れた。
行おうとしたのは――――彼の“心臓”を、そのまま切り出し、外側の空間と繋げようと、試みて。

『……可能性?』

美珠は、その戦いに介入することが出来なかった。ただ、座って、友達の手を握って、見届けているだけだった。
彼女が大事に握り締めている、古びた本を見下ろした。それがどんな意味を成すのか、美珠には分からなかった。
けれど、彼女が言っているのならば。本当のことなのだろう。

『……それは。私にも、出来ること?』

――――ジェームズ・モリアーティの右腕が崩れた。
朽ちるだとか、そういうものではなかった。ただ、グシャグシャと、形を失って、不定形に揺蕩っていた。
そしてそれは、腕だけに収まるものでもなかった。

「……ハッキングか」

逆流された術式を、解析して堰き止める。だがその過程で、モリアーティの現在位置を知ることが出来るだろう。
それは“空の上”。“大凍結時計”の上に位置する。ほんの僅かな一瞬ではあるが、それが露呈する。
強制的に、構築された意識のネットワークが崩れていく。それとともに、夢幻の講義室のテクスチャが剥がれていく。

「まあ、仕方のないことだ。数学上考えられる自体だ。仕方ない」

モリアーティは、頭を振って、それをあっさりと受け入れた。
崩壊していく世界――――その中で、崩れてくる世界に、あっさりと呑み込まれて、その姿は消え失せることだろう。
そして、柏村の隣に座っていたメアリー・シェリーは、立ち上がる。

「――――それは、今じゃない。何れ、語ることになるだろうが」

今、これについては語ることじゃない。
これは、最後の最後まで取っておくべき、名探偵の恐るべき切り札であるのだから。外れた倫理に、外れた倫理で対抗する、外道の手段だ。
壊れかけた講義室から出ていくために、一歩踏み出そうとする。既にその身体は重たく、本来の世界へと戻ろうとしていたが。

「私達は、思うがままに踊る人形ではないことを、教えてやれるんだ」

――――夢幻の世界が崩壊する。
目を覚ませば、そこは彼等、彼女らが、モルフォ蝶に触れたそこに居るはずだ。
現実世界での時間経過は、驚くほどに、短いものだった。
253◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/19(日)01:33:43 ID:cLe [3/6回]
>>251
ラファ「偉そうなのはお互い様」

少女にとっては少年も押井も等しく同じ人間としての評価しかない。
島の社会システムそのものが汚染されている可能性がある以上、
社会的立場に意味が見いだせないとも思っているからこその態度でもあった。

ラファ
「私からすれば彼も貴女も言っていることは五十歩百歩。
 一教師一生徒の立場で物事を語る段階は既に超えている。
 職業に誇りを持つ事を否定はしないけど私からすれば彼も貴女も今は同じ立場の人間。
 貴女の言葉を借りるなら今の状況は教師が出る幕でもない。
 それこそ然る組織に任せるべき危険な状況でしょう?
 まあ、任せるべき治安維持部隊でさえ彼が言うには黎明との関係があったようだけど」

そんな状況下、教師の立場で物を言われたところで今更であろうと少女。

ラファ
「だから信用できる大人の見極めが難しい。
 そもそもこの現実に対応できる実力者かどうかも加味しなければ意味がない。
 貴女がそれを全て満たしていると?だったらもう少し早く彼の前に現れるべきだった。
 少なくとも彼の周りで起きた出来事はその場に彼がいなかったらきっと致命的なものになっていた。
 今回もそう、事が起きた時にこの場にいたのは子供だけ。頼りになる大人なんて一人も現れなかった。
 今起きつつある危機に対して老若男女の垣根に意味なんてない。
 一人でも多くのやれるものが成すべき事を成さなければ島ごと全滅でしょう。
 その事実がありあがら尚、全て任せろと?」
254◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/19(日)01:43:56 ID:cLe [4/6回]
>>252
「…結局あの野郎何がしたかったんだ?」

感覚からいえば術は成功したようだ。
しかし、どうも手ごたえが軽い。
既に消えつつある術の消滅速度を増加させたにすぎないような感覚だった。
今回の術を使い一気に事を成就させるのだろうと思い躍起になって目覚めに奔走したのだが、
どうにも相手にそこまでの思惑はなかったようにも思える。
矢鱈と手の込んだ犯行声明とでも言えばいいのか。
正直、千載一遇のチャンスを棒に振って此方に対策の期間を設けさせたようにすら思える。

「いや、理解しようとするのは無意味か。そもそも初めから理解できる類の事しねえしな、連中」

振り回されている感は大いにある。
いい加減こちらから仕掛けたい所ではあるが後手後手なのは手も情報も足りていないからだろう。
空間で何名か見込みのありそうな人物はいたがコンタクトがとれるかは別問題。
やはり未だに色々と足りないのだ。
255 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/19(日)02:00:18 ID:kYq [2/5回]
>>252
誰かを救うために、誰かを弑する覚悟は十分すぎる程にしているつもりだった。だからこそ、掲げた刃を躊躇なく振り下ろす事ができるのだ。
硬い頭蓋を断ち、その奥に守られている柔らかな脳漿を露わにする。その手応えは確かなはずだった。

「んなッ――――」

その変化は一瞬で、まるで継目を感じさせなかった。ごとん、と真っ二つになった教卓が倒れる音。
大凡現実的ではない光景も、この幻想の只中では実現し得る。その考えが欠落していたが故の、数瞬の思考の空白。
その間に触れられたのを脳が認識した瞬間、嫌な予感が全身を巡った。何か致命的に不味い事をされるという予期があった。

「…………ッ!!」

だから伸ばされた右腕が形を失ったのを認めるや否や、大きく後方へと飛び退いて距離を取る。
血の一滴も見せず頭部が割り開かれているのを見て、追撃に走ろうとは思えなかった。ただ姿を消す教授を見守って、小さく悪態をつくのみ。

「…………悪い、逃したわ」

崩壊する夢想の世界で、最後に言えたのはそれだけだった。
気がつけば現の光景、道端で佇んでいるだけ。自傷の後もなく、果たして白昼夢だったのだろうかと軽く頭を振って。
酷い貧血のように、視界がぐわんぐわんと揺れたから、間違いなく実際に起きた事であったと確信が持ててしまった。
256 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/19(日)02:02:08 ID:kYq [3/5回]
>>252
問われてすぐに答えはしなかった。ただ微かに浮かべた微笑みが、肯定を示していた。

『――彼らはただ、識りたいだけなんだ。その為なら、人の命だってどうでもいい。碩学なんて、そういう人達ばかりだよ』

それは返答のようであったが、美珠にのみ向けられた言葉ではなかった。
唯一その行動原理を理解できる、理解できてしまうからこそ。やり辛い相手というのもまた。

『だから何かを捨ててでも、自分がやりたい事だけを信じれば、覆せないはずがないんだ』
『だってこれは単純な、意地の張り合いのようなものだもの』

理屈は希求の心で塗り潰せる。むしろ対抗するのが面倒なのは、同じく感傷に任せた強固な意思だ。
例え明確な手段を持たずとも、その心持ちは糸を断つ刃になり得ると。それこそ並び立つには、命の価値さえ擲つ必要性があるのかもしれないけれど。

『とにかく、気に病んだって何かが変わる訳じゃないんだから』
『そうだね……美味しいご飯でも食べれば、少しは前向きに考えられるさ』

崩れる世界、あやふやになっていく五感の中。繋いだ手だけは最後まで離さずに。
目覚めた先、少しぼんやりと瞬きを繰り返し。空を仰いで籠の象徴となりつつある文字盤を見据えた。
257 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/19(日)02:11:41 ID:J4b [2/2回]
>>252>>255

「─────!?」

尺はほんの刹那。殺陣とも戦闘とも呼べないような異様な景色で、頭部が裂けたまま教授の手が触れる。
何が起きるかなんてわからなくたって、仲間の命が危ういのだと直感で理解する。
自分が会話している事すら忘れて、視線がそこに釘付けになる。何でもいい、考えろ、今自分の持てる手段で止める方法は───

けれどその何かが起きる前に、歪に歪んで皮が剥がれていく。
剥がれていくのは教授に限らず、夢幻の皮そのものが剥げていくようだった。

「……良かった。生きてんだから、何も言わねぇ。」

「…………悪ぃ。」

楽観的なのは、自分も同じだと自覚する。今までを乗り越えてきたのだから、これからも乗り越えられると、そう思っていた。


「っ待てや……名前!名前ぐらいは置いてけって……」

消えていく世界。目覚めが、すぐそばに迫っている。
夢で見つけた反撃の欠片、それだけは現実へと持ち帰らなければならない。
だから名前を求めて。覚醒寸前の体で、女生徒へ向けて手を伸ばした。
現実に戻った時、その名前を憶えて居られればいいけれど。
258押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/19(日)02:26:12 ID:0PT [3/4回]
>>253

これまで黙り込んでいたのが嘘のように彼女が紡ぐ言葉を、一語一句聞いて。
一息つけば、ふっ、とほほ笑んで。



「好き勝手言ってんじゃないわよ、Fuc×in'girl(クソガキ)」


────名前も分からない相手にしたり顔で、誇りをもって全力で行っていた教師の仕事を「不足だ、だからこっちが出る」という文意で語られれば、我慢の限界も来る。
魔術回路が沸騰し、音をも超える速度で語り終えた彼女の間合いに踏み込めば。
その鼻っ面へと、鋼鉄をも砕きうる拳を叩きこもうとするだろう。
威力を以て、この騒動に対応しうる実力を持つことの証明となりうるのは何かの皮肉だろうか。
それが命中したか否かに関わらず、吐き捨てるように語りだす。

「私からすれば同じ立場?教師が出る幕じゃない?貴女何様のつもりでものを言ってるのかしら?」
「手が回らなかったことは申し訳ないと思うわ。でもだから今後は積極的に自分から首を突っ込みに行く、ってのは話にならない」
「そうよ。言ってしまえばstudentはみんな半人前、やれない者なの。それを守るのが私、Teacherの仕事」
「信用しなくてもいいけど、大人しくしているならいくらでも私は守ってみせる。けど自分から前に出てこられると守れるものも守れないのよ」

誇りと憤怒が混ざったものと形容すべきものが、その言葉には詰まっている。
落ち着くべく煙草を取り出し、炎をともす。
その場には下手な一言、一挙動で再び爆ぜる怒りが渦巻いている。
259◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/19(日)02:33:28 ID:TYF [3/3回]
>>254>>255>>256>>257

ジェームズ・モリアーティの構築した世界が崩壊し、そうして人々は目を覚ました。
男は、排煙の薄く煙る部屋に、深く腰を掛けていた。目的は終えた。今回は確認だ。そして、成立することが出来た……それで十分だった。
人間と人間の意識を繋ぐ。それは即ち、完全階差機関を作るための前段階だった。複数の脳を繋ぎ、一つの計算式を成立させることを。
出来ると。モリアーティは、確信することが出来た。

「ここからは、競走だよ。私が勝つか、君達が勝つか」

これは必要な手段で、本来であれば不要なものであった。
だが、だが解れた計画は、いつの間にか綻びを伴うものであった。だが、それでも、モリアーティは足を止めることはない。
もう、我慢ができない。識りたいのだ。自身の理屈の先を。証明されることを、願ってしまっているのだから。

『――――う、淡島さ……』

自室の布団の上で、佐野美珠は目を覚ました。
碩学とは。ただ知りたいだけ。その希求のためならば、人命すらも厭わない。ならばそこに、正しさなど求めるべくもない。
だが、逆を言うのであれば……こちらも細かいことは考えず、そうだ、彼女の言うとおりに。

『私のやりたいことを……信じればいい』

立ち上がって、出かける準備をした。買い物をして、食材を揃えて、それから料理を作って……。
美味しいものを食べさせてあげよう。そうしたら、きっと一緒に、前向きに考えられるはずだと。

『……しまった、名前を言うのを忘れてしまったな……いや、聞くのも忘れてしまった。
 しかしどこかで見たことあるような……気のせいか……なにか詩の関係の……』

目を覚ましたメアリー・シェリーは、倒れたティーカップから溢れた紅茶を拭いながら、後悔をしていた。
探し出さなければならない……不可能ではないが、簡単というわけでもない。それこそ、探偵にでも任せたいものであるが。
まあ、いい。同じ相手を追い続けているならば、きっと出会うことが出来るはずだ。

『……仕方ない、まあ、また会えるだろう。ホームズ……私は、必ず遂げてみせるぞ』

自らに刻まれた反逆式は、決して無駄になることはない。
それに続いてくれる、誰かがいることを、今回で確信することが出来た。それだけでも、収穫だった。
大凍結時計の針は止まり続けていようとも。人々の思考までを止めることは出来ない。

/それでは、こちらからはこれで〆で
/参加ありがとうございました、またよろしくお願い致します
260 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/19(日)02:44:48 ID:kYq [4/5回]
>>259
//こちらこそありがとうございました!
//皆様お疲れ様でした、またよろしくお願いしますー
261ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/19(日)03:00:51 ID:cLe [5/6回]
>>258
長々と語る中で空間は既に掌握済み。
微動だにせず思うが儘の場所に氷雪を生み出し操る場は整いすぎるくらい整った。
だから押井の一撃は氷が阻むだろう。
単純に物理的なものでは防ぎようもないだろうが魔術と異能の果てに生じる氷が普通であるわけもなく。

「身だしなみでも整えたら?」

鏡見ろよ阿婆擦れ、をマイルドに吐き出す少女。
少女からすれば押井の言葉はそのまま自らにも帰ってくる主張でしかない。
立場に固執しすぎて可能性を見過ごしているとすら感じている。

「傲慢横暴唯我独尊。在り様がそれでは拳どころか言葉も届く訳がない。
 物理的な強度だけで如何にかなるような相手ならそれでも事足りるだろうけれど」

少女は押井の教師としての評価など知らない。
初めから明言している通り、そんな立場は今起きている危機に関して何ら意味を発揮しないからだ。
だから教師は生徒を守るものだからガキはすっこんでろと言われたところで何も感じない、響かない。
事態を理解しているのかとさえ思うだろう。

「私は老いも若きも性別も超えて貴賤なくものを言うだけ。
 しいて言うなら人間様、私の定義だと必要なものが足りていない不完全な人間様」
262 : ◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/19(日)03:01:38 ID:E2g [1/1回]
>>259
//イベント運営お疲れさまでした
//ありがとうございました!
263押井 眞子 ◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/19(日)03:45:01 ID:0PT [4/4回]
>>261

「Oh,I see.God気取りって訳。私達下々の人間のやる事やmindは理解できないのも道理ね」

氷の壁を前に、煙草を吹かす。
心底腹立たしいが、これ以上やりあって消耗するのも馬鹿馬鹿しい。
何物にもとらわれず貴賎なくと言えば聞こえはいいが、自分の気持ち以外ルールがないのだから発言の相手に対して何の責任も負わないと宣言しているようなもの。生徒なら指導しているところだが、それをする義理もない。
そんなある種の安全地帯、眞子の言うところの神様視点から人をコケにする類の台詞を吐くような相手はどれだけ力があれど信用ならないしまともに取り合うだけ無駄、と結論付けた形。
彼女が理解しているかはわかりかねるが、眞子にとってのこの話は最終的には各人の誇りやプライドに帰結する。そういう意味でもこれ以上言い合っても無駄だろう。
好ましい形かはさておき、頭が冷えたというべきか。

「See you.そのFuxkin'girlには気をつけなさい。ろくな神様じゃないわ」

身をひるがえし、生徒である足元が凍っている少年へ眞子の私見からの警告をした後立ち去っていく。
この日以来、少し煙草の本数が増えたがそれはまた別の話。

//これで〆にしたいのですがよろしいでしょうか?
264 : ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/19(日)04:16:20 ID:cLe [6/6回]
>>263
ディディ「結局お前もヒートアップしてんじゃねえか」
ラファ「…」

双方言いたい事を言って仲違いといった感じの結末となった後、少年は呟いた。

ディディ「ま、仕方ねーんじゃねえの?センセはセンセの考え方があるだろーし?」
ラファ「…」
ディディ「機嫌なおせって…そら俺も頭から頑張り否定されてキレたけど」

がりがりと頭をかいて空を見上げる少年。
終始ブーメラン飛び交うやり取りだったなあ、と少年。

ディディ「ホント、センセの言う通り大人しくして事が過ぎるなら、こちとら危険に身を晒す気なんざ起きねえってのに」

だがそうはならない事を少年と少女は知っている。
我が身可愛さに誰かに押し付けても事態が好転しないことを知っている。
それを訴えた筈だが取りつく島もなく大人しくしていろでは話にならない。

ディディ「あーあ、こんなんでホント今後大丈夫かねー?」

明確なる敵対者が存在して尚、このありさまだ。
手を取り合って事態の解決に挑むには程遠い。
それは確実に必要なことであるはずなのに…
気が滅入る事実を胸に少年と少女は暫く黄昏ていた。

/はい、お疲れさまでしたー
265淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/19(日)23:35:49 ID:kYq [5/5回]
胡蝶の夢が蜘蛛糸に捕らえられて以来、世の様相が一息に変わってしまうような事態にはならなかった。
たかだか夢だと思い込もうとしている者が大半、あまりの現実味のなさに逃避している者も少なからず。
表立った影響を挙げるとするのなら、街頭に屯する社会運動の中に終末論者が少しばかり増えた事くらいか。

「――――だから、そんなモノには興味ないんだってば」

そしてそういう連中は得てして、善意で人を歪んだ信仰へと引き込もうと。あるいは理論を盾に良いように丸め込もうとする。
現状に漠然とした不安を抱いている者であれば、間近に迫る終末と千年王国の到来を説かれて、縋りたくもなるのだろう。
しかし外見だけは慇懃とした男二人に前を塞がれて、言葉で突き放す少女の無愛想さは、とても容易く手篭めにされそうには見えないが。

「悪いけど、他をあたって――」

付き合いきれないとばかりに踵を返そうとして掴まれる手首、淡白な表情に僅かながら明確な拒否感が浮かぶ。
力の差は歴然、腕を引かれては一歩前に出るよりなく。本一冊の重みが伝わる鞄の肩紐を握って、困ったように辺りを見渡した。

//凍結をお願いするかもしれませんが…!
266◆</b></b>F.krpwikgU<b>[] 投稿日:20/04/20(月)02:28:34 ID:KNk [1/1回]
都市の寂れたカフェのテーブルの一角を占拠し、二人の男と女が会話をしていた。
"左胸に幾つも勲章を付けた王子"と"しわくちゃの老いた夫人"の姿をして。

『最期に昔話を聞かせてくれないか、少女だったアリスがオールドレディとして死ぬまでの話を』

「学舎での王子様とのロマンスは破局に終わる、けれど彼が死ぬまでずっと友達だった。
 その後は地主の男の判事と結ばれた。3人の男の子に恵まれたけど、上の2人が戦争で死んだの。
 判事が死んで、三男のキャリルが財産を相続。そうやって、私は一人で居る時間が増えて――」

『もう十分私たちは生を謳歌しただろう、後は残りの生ある者に託そうじゃないか』

「白のナイト様も、わたしと一緒におしまいみたいね。
 ドジスンの元に行けなかったのは残念だけど、これが宿命なのよ。
 ―――次のゲームのわたしは、きっと上手くやれると信じてるわ」
二人の身体を構築していた夢幻は外なる夢幻によって否定され、"消失した"。

並列化によって個が崩壊する事で、嘘の意味が無くなる。
二人は最初から、そこに居なかったのように消えてしまった。
機械仕掛けの神は、二人を盤から取り除いた。

寂れたカフェの一角のテーブルに、一冊の手描きの本だけが残された。
タイトルはAlice's Adventures under Ground、"地下の国のアリス"
少女だった頃のアリスに数学者ルイス・キャロルが贈った、"不思議の国の原詩"である。

//アリス・リデルと、カリオストロ改め"オールバニ公爵レオポルド"が死亡しました。
本の処遇は、カフェのお茶会に一番乗りした人に委任します。
267深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/20(月)11:30:57 ID:4Do [1/1回]
>>266
「こんな所にカフェなんてあったんだな……」
街を散歩していた彼が偶然見付けた寂れた喫茶店、物珍しそうに中に入って周りを見渡す。
適当に席に座ると、一冊の手書きの本が気になってそれを手に取ってみる。

「落し物かな……?」
と呟きながら開いてみて
268◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/21(火)00:28:20 ID:ULx [1/5回]
>>265

一冊の本が、とある教授の本棚から逃げ出した。

ボディスと裾の広がったスカート、エプロンから構成されるピナフォア。袖は短いパフスリーブであり、裾にはタック。
靴は紐付きのフラットシューズ、エプロンの裾にフリルがつき、その後ろに大きなリボン結びが付けられ、ストッキングには縞模様が入る。
頭にはリボンが飾り付けられたカチューシャ。ゆらゆらとそれを振りながら、少女は凍結時計の下をスキップで駆けていく。

「私はドジスン♪ 哀れなキャロル♪ 私はきっと、ただの影♪」

その少女は、そこで立ち止まった。
一人の少女の手を男が無理やりひこうとしているのを見ると、まぁ、と口元に手を当てて、わざとらしく驚いた顔を見せる。
それから、眉を顰めて、両の腰に手を当てる。リボンが揺れて、まるで少女の感情に連動するようだった。

「ああ、なんて。女の子に乱暴するなんて。アリスの私が許しても、キャロルの私が許さない」

くるりとスカートを翻して、その場で右足を軸に、まるでバレリーナのように回れば、そのスカートから何かが飛び出した。
それは、かつらを被ったスズメバチだった。ブンブンと音を立てて、男たち二人を、怒り狂って追い立てようとするだろう。
それから、豊雲野へと振り返って、ニコリと笑い掛けるだろう。

/まだいらっしゃれば
269淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/21(火)01:12:20 ID:jvm [1/4回]
>>268
振り解けるだけの腕力はなく、踏ん張ったって堪えられるような体格差ではない。
周囲を見渡したって、赤の他人に手を差し伸べられるだなんて夢物語を期待はしていなかった。
せめて知った顔ならば、多少の言い訳は効くというのに。その目論見は幼い少女を目に留めて、歪んだ方向へと崩れ去った。

「――――え」

不思議な事に人間、終端を受け入れていても俗的な苦痛は忌避するらしく。唸るように羽ばたく雀蜂に迫られて、咄嗟に手を離して仰け反る男達。
その執拗な威嚇に諦めるのは早く、恨みがましげな視線を置き土産にそそくさと退散することだろう。
残された彼女はその背中に一瞥もくれず、少女から灼星と蒼月の輝きを秘めた眼を離せずにいた。微かに息を飲んで、心なしか呆然としているようだった。

「…………ルイス・キャロル?……どうして……」

自分でも何故その名が脳裏に閃いたのか理解できず、思わずして口を手で覆う。遅れて想起された記憶の残滓に、戸惑いがちに睫毛が震えて。
児童文学に浅く触れた者であればその出で立ちから、ワンダーランドに迷いこんだ少女を連想するのは容易いだろうが。
彼女がその作者であると思い至る人間はそう多くないだろう、しからば黎明の閥である事もまた。
平然とここにいる事もそうだが、その行動の真意を読み取るのは難しく。元より笑顔を浮かべるのは珍しい性質だが、今ばかりはむしろ困惑の色が強かった。

//ありがとうございます、よろしくお願いします!
270比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/21(火)01:23:51 ID:7Bf [1/6回]
>>267

(怪しい輩を追ってみれば……あれがうわさの「Mの書」かねぇ。
 放置されて動きがなかったが――あの学生はネズミなのか、それとも黎明の関係者か……?)

現代忍者は、まるで撒き餌のように残された本に手を伸ばしてきた学生を怪しんだ。
黎明の関係者ならば、なにか情報がつかめるかもしれない。

「「「おっと……そいつから手を放したほうが……いいぜ」」」

ささやくような声。特別な発声法により、深山の耳元のみ聞こえるように調節してある。
人の気配の少ないカフェ……比良坂はカフェのキッチンから様子をうかがう。
ウエイター数名はすでに比良坂の手刀で失神していた。

揺さぶりのつもりもかねて、太針を棒手裏剣のようにして、深山の手をめがけて発射する。
もし何もしなければ、手を貫通するほどの勢いだ。
271◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/21(火)02:06:20 ID:ULx [2/5回]
>>269
かつらを被ったスズメバチ達は、男たちを追い払ったならば、存在しなかった物語らしく、おとなしくその姿を消した。
退散していく者たちを見て、少女は満足気に笑っている。

「あら、愚かなキャロルを知ってるの? 私はドジスン。哀れなアリス。私は貴女を知らないけれど。
 ええ、でも、だけれど、なんとなく。どこかで私と、出会った気がする」

正しく、児童小説の世界から、飛び出してきたような少女は、二色に輝く彼女の瞳に、こくりと首を傾げるのだった。
黎明協会の碩学が一人。ラヴクラフトやヘミングウェイと同じくする、作家としての碩学。
或いは、この世界に迷い込んだアリスという幻想。かつて、英国で大数式を実行した、ルイス・キャロルという数学者だった。
名乗るよりも前に、それに思い至ることが、少女にとっては不思議だった。不思議の国の、足取りよりも。

「どうして、と言われても。蜘蛛糸なんかで私を縛ることなんて出来ないし。
 私は、キャロルは、アリスは、何時だって、女の子の味方だもの。けれど、かろうじて言うのなら」

少女は、微笑んで彼女を見つめることだろう。
その存在は酷く不安定で、既に幾つもノイズが混じっていた。幻想に呑み込まれる、ほんの僅かな時間を今、生きている。
ただ、ルイス・キャロルは、ただ純粋に、心より少女を愛した。それならば、少女に手を差し伸べることに、何の道理があろう。

「最後に失くなるまでの時間を、リデルと王子のところに行くまでに。
 少しでも、心を整えておきたいのだと思う。嗚呼、なんて愚かなキャロル。最後の最後まで」

/こちらこそ、よろしくお願いします
/ただ、本日の返信はここまでとなってしまいそうです、申し訳ありません
272深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/21(火)07:52:44 ID:AUc [1/6回]
>>270
「ひっ……ひぃっ!?」

いきなり耳元から声をかけられた気がした彼は、そんな情けない声を上げてビビって持っていた本から手を離してしまう。
しかし、ビビって手が動いた事で放たれた針から避ける事も出来たのだが。

「だ、誰ですかいきなり!」

いくら最近が物騒だとは言え、こうも明確に狙われた事など彼の人生で一度もない。
ガクガク震えながらも針の放たれた方を見て、お前は誰だと質問を投げかける
273淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/21(火)17:20:33 ID:jvm [2/4回]
>>271
「ううん。あなたと会うのは、これが初めて。だから会った事があるのなら、わたしじゃないわたしの時だと思う」
「だってわたしはあの時、貴方のお陰で――」

言いかけて途中で止めたのは、何も敬愛すべき作家への釿慕を恥じらった訳ではない。
その著書に目を通した事はあっても、人生観を変える程ではないはずだった。脊髄、あるいはもっと魂の潜在的な所から出でた言葉だったものだから。
それ以上を口にするのはどうしても憚られた。英国学園都市を阿鼻叫喚に陥れたあの地獄に、何らかの謝意を抱くなど。

「……そっか。貴方はもう、ただのルイス・キャロルなんだね」

その言動は、到底正気であるとは言えないのだろうけれども。狂気の陶酔の只中ともまた異なると、理屈を抜きに理解が及んでいた。
そうでなければ残滓であると知らないと雖も、幽けき崩壊が進んでいる事に説明がつかなかった。
幻想の揺籃でしか形を保てない在り方をどうして知っているのか、最早考えるのすら億劫だった。

「貴方は愚かなんかじゃないよ。これまでも、これからも」
「例え貴方がどれほど狂っていたって、どれだけの犠牲を出していたとしても」

淡白な声と表情で手を伸ばす。白い指と指が触れたのならば、伝わるのは人よりも低い体温。
朽ちて舞い散る運命だとしても、それが一種の性質でありさえすれば、抑制と遅延を試みるくらいはできる。
気休めでしかない出力や、超常の源は異なってこそいるが。その統馭の力は、決して原典などではなく。

「貴方の描いてきた世界は、生み出してきたモノ達は――碩学として、作家として誇るべきものだから」

//すみません、こちらも寝落ちしておりました…!
//安定してお返しできるのは夜になると思います!
274比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/21(火)20:40:59 ID:7Bf [2/6回]
>>272
「「「通りすがりの、お前を殺す者だ……」」」

例のささやき声を深山に飛ばす。
カフェのあちこちから聞こえるような声で、相手を翻弄しようとする。

天井にぬらりとぶらさがると、ヤモリのように天井を移動し、深山の頭上あたりにやってくる。

(手書きの本……? あれは本当にMの書か。もしくは別のものか……)

観察しながら、狼狽する深山を上から見る。

(演技かもしれない……。ひとつ、殺すつもりで攻撃してみるか……)

口に含んだ仕込み針を、吹矢のように深山の首筋めがけて発射する。
275深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/21(火)20:48:53 ID:AUc [2/6回]
>>274
「こ、殺す者!?僕は誰にも殺されるようなことはしてないぞ!?」

息も荒くなりながら、吹き矢が放たれる音を聞いた途端とっさに前転してその場から離れようと。
震える足に鞭打つように、喫茶店から逃げ出そうとする。

(誰だ、誰だ……!殺されるほど恨まれるようなことなんて僕は何も……!この本のことだって、偶然見た程度で……!)

心の中で思考がぐるぐる回る。
何で狙われているのか分からない、そんな恐怖からどこかにかけるでもなく叫ぶ。

「僕はその本について何も知らない!ただたまたま置いてあったから開いただけで……!」

絞るように、あるいは生にすがりつくように、情けなく声が出る
276比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/21(火)20:54:34 ID:7Bf [3/6回]
>>275

(ほう……忍者の本気で殺そうとした吹き矢を躱すとは……。奴は黎明会員かねぇ)

感心する忍者。喫茶店から離れるのを見、地面に音も立てず着地する。
そして机に残された本を手に取る。

(さて、これを残して去っていくとは……。罠のつもりかねえ)

少年は叫んでいる。どこからどう見てもただの学生に見える……

(ずいぶん演技の上手いことだ。やはりここで、殺しておくべきか)

ポケットの中の拳銃・コルトハイウェイパトロールマンに手をかけつつ……
 しかし特に抵抗もなければ、このまま見逃すのもいいかと思い、様子を見ている。
277深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/21(火)21:02:43 ID:AUc [3/6回]
>>276
異能だらけのこの世界、何の異能も持たない彼は身体を鍛えて如何なる事象にもこの身1つで対処していかなければならない、その為に結構身体能力は高いのだった。

「そ、その本が欲しいのなら差し上げますよ!どうせ僕のものではない、誰のものかも分からない物だったんだ!」

震えた声で相手を見て、その本に執着はないことを伝える。
ただの学生、何の組織にも属していない、たまたま散歩で喫茶店を発見して中に入っただけの客。
それなのに通り魔に襲われるなど理不尽極まりない、そんな思いが彼の心に渦巻いていた
278比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/21(火)21:05:54 ID:7Bf [4/6回]
>>277

「なぁるほど。それで……この本を持ち去ったら、ドカンと。なかなかいい……罠、だねェ」

比良坂はそっと本を机に置くと、懐の拳銃を抜く。
相手の少年の本気の叫びを、忍者はどうやら演技と判断したようだ。

バン、とサイレンサーの付いた拳銃を、たった一発。
しかし命中すれば確実に死ぬという、眉間めがけて少年に発砲する。
279深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/21(火)21:10:13 ID:AUc [4/6回]
>>278
「っ……!」
確実に殺される、そう思って咄嗟にしゃがんで回避しようと。
罠って何だ、この男の誤解をどう解けばいい、答えの出ない自問自答が彼の頭を相変わらずグルグル回っている
280比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/21(火)21:15:23 ID:7Bf [5/6回]
>>279

必死の反射神経によって、弾丸は回避された。
忍者にしてみれば、暗殺に二度も失敗したことになる。

(これは……手練れだねえ。この俺に二回もミスらせるとは……)

弱者のようにしゃがむ学生。だが忍者は警戒して、彼に近づかない。

(これも罠かもねえ。近づいたところを、ドカン、か。
 ま、ここはひとつ……)

忍者は、一度は罠と疑った本を懐に入れる。どうやら本そのものには仕掛けはないと判断した様子だ。
比良坂は、カウンターでぐったりしている喫茶店のマスターを起こすと、深山の飲んだであろうコーヒーの料金を胸ポケットにねじ込んで、その場を去ろうとする。

(忍者は、あぶねえ橋はわたらねぇのさ……)
281◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/21(火)21:18:31 ID:ULx [3/5回]
>>273


彼女の言葉を聞いた時。肯定の言葉を聞いた時、そこに思考の空白ができた。
久しく忘れていた感覚を、思い出した。それは作家という存在にとって、最大級の称賛だった。
そして、きっとルイス・キャロルは既に、その今際に救われたのだろう。狂気に塗り潰された存在の、ほんの僅かな最期の時間に。

「――――不思議な人ね」

指先が触れると、壊れかけていた身体が、消えかけていた身体が、多少なりと形を取り戻した。
その指先に触れた時、少女は驚いたように目を見開いた。それから、ゆっくりと彼女へと瞬きを見せて、微笑んだだろう。
彼女は、ここに居ない誰かの分身だ。複製とは少し違うかもしれない。ただ、その意図が何なのか、キャロルにはよく分かった。

「ありがとう、読者の少女。私の作品を肯定してくれて。
 ルイス・キャロルと……アリス・リデルを肯定してくれて」

それは、作家として、どんな名誉よりも燦然と輝く物であった。
一枚の手紙は、何十の金塊にも勝るものだった。たった一言は、どれほどのルビーを探しても並び物の無い美しさだった。
それが、救いだ。それは碩学として、作家として――――生きていた価値があるのだと、語られるも同然なのだから。

「……そうだ、君は。私は、貴女だって誰かを知っている」

結局のところ、彼女の結論は、そうだとしか言いようがなかった。
ただ、それを悲劇だとも喜劇だとも断言できなかった。キャロルには、彼女という存在が果たしてこれからどんな道を行くのか。
全く分からない物だから、そう、碩学として、情けないことではあるが。何も分からない。けれどこれでいいのだと思う。

「けれど、貴女は貴女。貴女がそれに、思い悩み、縛られる必要は、どこにもない」

これは幻想に縛られた、愚かな一人の作家からの助言だった。
彼女が何を抱えていようと。どこの誰でもない、ここに居るのは、紛れもない貴女なのだと。キャロルは告げる。

/こちらこそ、お待たせして申し訳ありません……
282深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/21(火)21:22:34 ID:AUc [5/6回]
>>280
「た、助かった……?」
ほっと胸をなで下ろして、去っていく相手を一瞬だけ見て机につかまりながら、ガクガク震えながらも生まれたての子鹿のように立つ。
深呼吸をして心身を落ち着ける様は、ただの非力な学生であり
283淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/21(火)22:11:24 ID:jvm [3/4回]
>>281
「どういたしまして――ああ、よかった。やっと貴方に伝えられて」

ようやく、という思いはきっと、真に自分が抱いているものではない。
けれどその源泉が不明であろうとも、どす黒い感情ではないと自らの意思で判断できたのであれば。
それを積極的に否定しようとは到底決めつけられず、肉体のない心の囁きを尊重してやりたいと思うのだ。
少女と比較すれば遥かに乏しく、けれど確かな微笑を湛えて。続いた言葉に、微かに眉を持ち上げた。

「……そうだね。わたしはわたし。自分じゃ見えない空っぽの部分も」
「全部含めてわたしという人間。それは分かってるんだ。でも……」

記憶の一部が失せている事を受け入れて、それをも今の自分を構成する要素であると。理性では納得しているつもりだった。
しかし近頃、黎明協会の手が淤能碁呂島に伸びて以来。意識せずとも、記憶の空白を刺激される事が多すぎた。
忘れている事、知らない事すらも赦されないとばかりに。それをも黙認できる程に、鈍くはいられないのだ。

「……最近は、少し怖いんだ。わたしが、わたしでなくなってしまうような気がして。知らないはずの事を、何故か知識として知っていてばかりだから」
「いつか全部思い出してしまったら、わたしはわたしのままでいられるのか……それが、怖くて仕方ない」

何かを忘れているのなら、それでいい。けれど封じられた蓋がこじ開けられ、記録が溢れ出てしまったのなら。
その時ここにいるのはかつての誰かか、変わらない自分か、あるいは全く新しい一人が生まれるのか。
何より自我を、自由意志を尊ぶからこそ、変転が何よりも恐ろしく思えて。無意識に目を伏せて、下唇を弱く噛んだ。
これまで吐露した事のない不安を、今ここで形にできたのは。きっと言い知れない懐古の念と、それでいて断じて親密ではない間柄が故なのだろう。

「……わたしは、何者なんだろうね」
284比良坂A氏 ◆</b></b>4iKkqYbBm2<b>[] 投稿日:20/04/21(火)22:13:33 ID:7Bf [6/6回]
>>282

「ふむ……追撃はなし、か。いろいろと対策はしてたんだがねぇ」

少年がおってこないのを察し、残されたのは懐にある謎の本。

「とりあえず、内閣府に報告するべきものなのか……。研究だぁねぇ」

現代忍者はあやしい少年が興味を示していた謎の本を手に入れつつ、雑踏に消えていった……

/乙でしたー
285 : 深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/21(火)22:16:29 ID:AUc [6/6回]
>>284
「……あの本、そんなにすごい代物なのか……?」

勿体無くは思ったが、命の天秤にかけるものでもないかなと思って警戒しながら店を出ていく

/こちらこそありがとうございました。めちゃくちゃしてしまって申し訳ない……
286◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/21(火)22:34:07 ID:ULx [4/5回]
>>283

彼女の中にある、何者かの思いを、ルイス・キャロルはたしかに受け取った。
それを以て、救われた。自分が背負う罪の全てを肯定することが出来たし、その罰を受け入れて、幻想の彼方に消える事に未練はなかった。
ただ、それでも、ルイス・キャロルは、童話作家は、アリスは、全く以て全ての少女の味方であるのだから。
今、この最後の瞬間くらいには、どうにか彼女に手を差し伸べられないかと、考える。l

「……それはとっても、恐ろしいことだろうね」

自分の中に存在する、もうひとりの自分が目を覚ました時、果たして現在存在する『自分』がどうなってしまうのか。
キャロルには分からない。出来ることならば、手助けしてあげたいと願う。
最後の幻想として、彼女を助ける法則を渡そうかと考えた。ルイス・キャロルという存在は、そういうものだから。
何より、“神智学を暴くこと”は、キャロルや、ドイルにとって意味があることだった。然し結局の所、その右手が動くことはなかった。

「君はどうなりたい?」

その代わり、キャロルは彼女へと向けて問いかける。

「君を定義するのは、君だよ。透明な心を形作るのは、君なんだ。
 例えば自分の中に居る誰かが、自分のことを奪えないくらいに――――“自分”を定義しよう」

確固たる意志を持つ。
単純なやり方だった。自分の中に誰かが目覚めた時、自分がいなくなってしまうと、そう思うのだとしたら。
失くならないくらいに、自分を形作ること。自分が自分であると、誰にも塗り潰されないように。

「君の望む、君はなんだろう。やりたいこと、願うこと、大切なもの、大切なこと、大切な人。
 それを探そう。そしてもしも、今、それが思い浮かぶのだとしたら……」

例えば、自分を形作るものは。
自分を取り巻く環境。自分が夢見るもの。自分が大切だと思う何か。自分を形作った、沢山の物事。
それは実際のところ、とても簡単なことだ。例えば、なんでもいい、“本を読む”だとか。そういうことが、思い付くのならば。

「きっと、“君”は大丈夫」
287淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/21(火)23:12:29 ID:jvm [4/4回]
>>286
ほんの少しだけ、朱碧の瞳が見開かれた。予想だにしなかった問いに覚えた戸惑いが、揺れる白髪に表れる。
己が遂げたいと定めた事に、代償や他人の目を顧みる事はなかった。我武者羅に、目的へと邁進できる精神性を持ち合わせてはいる。
しかしそれはこれまで、自我と結びついてはいなかった。それどころか明確に強固な願望を抱いた事すら、皆無と言ってもいい。

「…………わたしは――」

少し前の自分なら、きっとすぐには答えられなかっただろう。黙って考えこんで、そうやって導いた標識はなんとも頼りないものであっただろう。
何かに強い興味を持つ事も深い関係を築く事もなく、無為を揺蕩う小舟のように生きていた彼女なら。
けれど今は違う。時計を模した箱庭に閉ざされ、泥に沈んだ数多の記憶の欠片を手にして、多くの縁を得た。

「――この島の外に出たい。大事な友達と一緒に、外の世界を見て回りたい」
「そこがどんなに汚れていたとしても、きっと後悔はしないし」

上げた顔に相変わらず表情は希薄だが、それは必ずしも無感情と等号では結びつかない。
情の隆起に体温がつられる事はなく。触れていた指を包みこんだ両手は、弱くも確かな力で握られていた。
まっすぐに見つめる双眸は光をよく受け止め、意固地とさえ取れる煌きを孕む。

「今が絶望的だって、諦めるつもりもない。相手が教授だからって、こればかりは譲れない」
「だから出来る事なら――――貴方にも、手を貸して欲しいと思うんだ」

最初から、望むべき未来など見えていた。後はそれを、自己に定義づけるだけでよかった。
そして可能性を押し拡げるために手段を選ばない気質は、間違いなくその魂の根幹に刻まれたもので。
碩学に定められるべき専門性に向けられていないだけの、ある種の純粋さは、黎明の残滓でさえも掬い取ろうとするのだ。
288◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/21(火)23:22:17 ID:ULx [5/5回]
>>287

「ああ、きっと――――それなら、大丈夫だ」

希薄な表情だが、そこに籠められた意思は、確かに本物だとルイス・キャロルは受け取った。
その瞳の力強さは、よく見かけたものを碩学の中に見たが、然しそれは間違いなく、彼女だけが持っている光だった。
彼女のこれまでの一生が。ここに至るまでの一生が、その願いに至るまでの一生が、どんなものだったかは分からない。
だが、きっと。“悪いものではなかったんじゃないか”と、思えた。

「――――それは……」

然し、彼女が提案したものは想定外だった。
後はただ、幻想へと消えるだけのルイス・キャロル。最早意味はなく、最後に愛した少女の下へと旅立つことを残すのみ。
ならば、一体彼女は何を求めるのだろう。然し、ここにいるのは、愛すべき“読者”であるのだから。

「……分かった。読者の願いだ。出来る限り、君に手を貸そう。
 友と歩む。その道行きの、ほんの僅かな手助けが、私に出来るのであれば」

それに頷かない筈がなかった。ただ、最早、ルイス・キャロルには何が出来るのか、分からなかった。
だから彼女へと問うだろう。

「ならば、君は、私に何を望む? 哀れなドジスンに、果たして何を?」

彼女の純粋たる、碩学の如く願いへの思いは……その、消えかけた黎明の碩学を、どう扱うか。何を求めるか。
289淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/22(水)00:00:27 ID:CTw [1/2回]
>>288
「わたしは貴方達のように、優れた頭脳や力がある訳じゃないし……」
「この身体は脆すぎるから、正面から何か出来るとは思ってはいないよ」

意思の強さだけで何かを成し遂げられるのであれば、世の中は浪漫主義者に溢れかえるだろう。
それは彼女とて弁えているし、自身の弱さを加味して、その上でやれる事を模索する冷静さくらいは持ち合わせているつもりだった。
あるいはその殊勝さもまた、純粋に己の心に従う結果なのかもしれないけれど。

「彼らの今の動力源は、大方《クイーン・ヴィクトリア》でしょう?今の空もそうだろうけれど、これからやろうとしている事も」

それは所詮知識として、刺激されてようやく想起される破片に過ぎない。それでも不思議と、欲するものがするりと湧いてくる感覚。
かつて英国より奪われた大階差機関に関しては、誰かが導き出した推測に過ぎないのだろうが。今はそれだって、己が一部として利用しようと思えた。

「彼の事だから、本体は安全な所に置いてあるんだろうけれど。出力先の末端の末端でも、手が届く場所があるなら教えてほしいんだ」
「直接触れさえするなら……後はわたしでも、嫌がらせくらいは出来るだろうし」

計算能力を極限まで抑制し、エネルギーの供給を妨害してやるのもいいだろう。しかし真意はそこではない。
どのような計算装置だろうと、処理速度の限界はある。であれば、その限度を超えて過剰に稼働させるとしたら。
機構としての性質を過度に増幅させて不能までに追いこむ、所謂オーバーロード。無論、そう上手く行くとは思っていないし。
どうしようもない配置であれば、一人ではやりようがない。だからこれは、主題ではなかった。

「それと、もう一つ――わたし達の可能性を、信じていてほしい」
「そうしたらきっと、この子が応えてくれるから」

一人ではどうしようもないと分かっているからこそ、誰かの想いを借りる事を厭いはしない。絶望を覆すために束ねる光を。
膨大な動力など、その食いしん坊な性質を弄ればどうにでもなる。けれど決してそうしようとしないのは。
クリスティアン・ローゼンクロイツの遺児であるからには、行使ではなく願いとして。その確率変動の力を受け入れてほしいと思うのだ。
290◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/22(水)00:33:22 ID:Rys [1/2回]
>>289

「……けれど、非力なりにやれることはある、かね」

例え小さな力であろうとも、自分にやれることをやる。
それは、唯一黎明協会達の碩学達が持ち合わせていないものだ。碩学は、人並み外れた能力を持つからこそ、碩学足り得るのだから。
ルイス・キャロルもまた同様だ。だからそれを、肯定することも、否定することも、しなかったが。

「お察しの通り……あの時、僕が使った《クイーン・ヴィクトリア》は、今は協会の手の内にある」

彼女の詩的に、キャロルは頷いた。
英国にて、大数式を起動した際に異界に呑み込まれようとした大階差機関は、モリアーティの手によって回収された。
そして今、空に浮かぶオール・フリーズ・クロックの動力源として使われている。

「なるほど、そういうことならば簡単なものがある。
 この世界を、外界と隔絶している……それは“鳥籠”そのものであり……」

この世界は、隔離されている。空に浮かぶ時計によって、外界から遮断され、一切の外部干渉も、内部からの脱出も許されない。
その機能に使われている動力源が正しく、大階差機関による出力の一端なのだ。
少なくとも、彼女は――――それを、何度もの見ていたはずだ。

「――――つまり、“海”だ」

正しくそれが、“出力された”そのものだ。
海に出るという手段が必要ではあり、そう簡単に手を出せるものではない。だが、決して不可能であるというものでもない。
彼女が何を考えているのか、キャロルには“想像もつかぬもの”であったが。しかし少なくとも、それで要件は満たされるはずだ。

「なるほど、それならば、問題ない。なんて簡単なことだろう」

そしてもう一つの答えについて。ルイス・キャロルはいとも簡単に肯定した。
その童話作家は、少女を愛した。ただ、そこにいるものを愛でていたわけじゃない。ルイス・キャロルは……その未来までを、愛していた。
その愛を以て、可能性を信じることは、至って簡単なことだった。きっとそれは、薔薇十字の落とし物など、考えることもなく。

「分かった、君達の可能性を、信じよう。その輝ける可能性が、必ずや果たされると、信じてみよう」

/申し訳ありません、本日の返信はここまでとなってしまいそうです……
291淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/22(水)01:20:11 ID:CTw [2/2回]
>>290
無力を生まれ持ったのは、言ってしまえば仕様の上。異能という機能を付加するために削らざるを得ない要素だった。
それでも非力を自覚しながら放棄を選択しない在り方は、碩学であれば知る事のない道であり。霊的進化への路として、誰かを喜ばせる事となるのだろう。
無論そんな事は知る由も、それどころか知ったところでどうという事はない。追究の果てへの邁進である事に、変わりはないのだから。

「……それは、また。随分と大層な物を使っているんだね」
「その辺りの浜辺でもいいのなら楽なんだけれど……さて、どこまで沖に出ればいいのやら」

全く予想外ではあったが、驚きの気色は見せなかった。どう干渉するべきか、思案に少々の沈黙を挟むのみ。
いつだったか、端末の処理能力を上げようと試みた事があった。その時はどうやら加減を誤ったらしく、極端な過負荷によって稼働すらしなくなったのだ。
規模は違えど同じ階差機関であれば、同様の事は可能だと踏んでいた。どれだけの負荷が必要なのかは不明瞭であるが、やらないで終わるよりは良い。

「ああ――ありがとう、ルイス・キャロル」
「貴方にそう言ってもらえるなら、わたしも頑張れるような気がするよ」

その祈りが不可視の運命に齎す影響は何を用いても推し量れない、ひどく抽象的なものではあるが。
その言葉が籠の外を夢見る小鳥の翼に与える活力は、仰ぎ見る凍結した空よりも確かなものになる。
少なくとも彼女にとっては、か細い確率を撚り合わせるための軛としてではなく。羽ばたく背中を押してくれる、追い風となり得る肯定だった。
細やかな安堵に、握っていた手の力が幾分か抜けて。するりと片方の手が離れれば、繋ぎ止めているのは柔らかく触れる五指のみとなる。

//了解です、一先ずお疲れ様でした!
292◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/22(水)20:29:37 ID:Rys [2/2回]
>>291
海に存在する鳥籠に触れるには、つまるところ次元の屈折点にまで向かわなければならない。
ある程度の沖まで出る必要があるだろう。船を拝借する、何ていうことは、一介の少女には難しいだろう。
ならばと、指を鳴らした。そして――――自身に触れる、彼女の右手の中に、それを軽く握り込ませることだろう。

「では、君に橋を与えよう。私の最後の役割としては、丁度いいんじゃないだろうか。
 それを海水につけるといい。一度きりだが、代用ウミガメが、君を助けてくれる」

それは小さな海亀の甲羅だ。それを握り込ませたのならば、名残を惜しむこともなく、その指先から手を離すだろう。
最早未練はなかった。道筋は示した。チェシャ猫の真似事としては上出来だ。後は彼女が羽撃いていくことだけ。
彼女がどんな手段を扱うかどうかは分からない――――大階差機関が、凄まじい情報処理を行う存在であることは留意しておくべきだろう。

「ただ、代用ウミガメは、君の計算を助けてはくれない。
 もしも、《クイーン・ヴィクトリア》に触れるのだとしたら……私達のような、碩学には思い付かない手段を頼るといい」

碩学の如く性質を持ちながら、それらとは一切異なる道筋を行く彼女ならばきっと、それは出来ることだろう。
教授も、作家も、孤独だった。少なくとも、一人で全てを達すること、それ以外の手段を思い付かない者たちだったのだから。
彼女の手を離れた。天秤の抑止を受けることの無くなった身体は、急速に幻想へと呑み込まれ、崩壊していく。
それが、数式の罰だった。

「最期に、愚かなドジスンに、良い現実を見せてくれた。
 これで私も、悔いなく“アリス達”の下へ行ける。ヘミングウェイには礼も言えないが……」

幻想作家が最期に見たものは、きっと現実へ飛び立とうとする鳥籠の少女。
その檻を開ける為に、ほんの僅かな手助けをすることが出来た。
微笑みとともに、少女の身体は消えている。チャールズ・ラトウィッジ・ドジスンだった存在が、幻想の彼方へと消えていく。
きっとそれは、恐れていた程のものでもない。ただ、新たな旅路を行くのだとすら、思えた。

「ありがとう、少女。鳥籠の少女。君が、蒼き大空へ飛び立つことを、祈っているよ」

――――そうして、長い“あとがき”が終わりを告げる。
ドジスンの物語は、これで終わりだ。本は閉じられて、後には読者がそれを抱えて生きるのみ。

そうやって、創作は永遠を生き続ける。



/昨日はありがとうございました、お返しさせて頂きます
293淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/23(木)00:03:06 ID:unm [1/3回]
>>292
「何から何まで、ありがとう。わたしは貴方達を理解出来ても、同じにはなれないから」
「わたしはわたしなりに、やれる事をやってみるよ」

するりと手の中に滑りこんだ固い甲殻が、掌の触覚を大きく占める。それは砂を食んだ歯車が再び回り出す事を意味し、即ち別れの合図でもあり。
けれど決してその永訣は、滂沱に暮れるばかりのものではなく。例え煉獄への旅路だったとしても、笑って旅立てるのであれば。
見送るべきは、哀しみに濡れた頬ではない。敬愛と感謝を束ねた蕾が、慎ましく綻んだような玉響の微笑みだ。

「――さようなら。チャールズ・ラトウィッジ・ドジスン」
「どうか願わくば――貴方とアリス達の行末も、ハッピーエンドであらん事を」

幽玄に溶けて、幻像に散る。その最期の一欠片が天に昇るまで、微動だにせず見守って。
読み終えて閉じた背表紙を眺めるような、一抹の虚無感とでも呼べる尾を引く寂寥は、しかし気が沈むともまた違う。
本に綴られた先にだって、彼らの物語は続くのだから。いっそ清々しく、結末に餞を送る事ができるのだ。

「わたしもきっと……ううん、絶対に外に行くから。貴方の祈りを、無駄にはしないから」

飛ぶ事を知らない翼でも、殻を破って生まれてきたのならば。閉ざされた籠の中で退屈な生にしがみついてなどいられない。
その先に羽を休める場所がなくとも、焦がれた蒼穹の太陽に灼かれる事になろうとも。
生きたまま翼をもがれ、地を這うしかなくなったって。荒涼の大地だろうと、自由の地平線を諦めたくはない。
好転の風足り得る甲羅を、本とまとめて肩掛け鞄に収めて。未だ続く足跡を描くべく、踏み出した一歩は心なしか軽かった。

//大変お待たせしました…!この辺りで〆でしょうか?
294◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/23(木)00:10:18 ID:8Cw [1/2回]
>>293
/確認しました 切りが良いので、こちらも〆でお願いします
/お付き合い頂きありがとうございました、楽しかったです 次もまた、よろしくお願いします
295 : 淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/23(木)00:22:46 ID:unm [2/3回]
>>294
//こちらこそありがとうございました、お疲れ様でした!
296 : 深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/23(木)00:24:34 ID:Ncz [1/1回]
夜の街、帰路に着きながら少年がぶつぶつと呟いていた。

「船から落ちてきたよくわからない生物に街は襲われるわ……家庭科の先生によく分からない宗教に勧誘されて、入らなければ殺すと言われるし……置いてあった本を何気なく手に取ってみたら、通り魔に狙われるし……」

これまで起こった命の危機を感じたことを羅列して行き、立ち止まって頭をかかえる。

「僕は一体……どうしたら……異能も魔術も使えないのに、どうすればいいんだ……!?」

他の生徒もここまで命を狙われる事があるのか、そして異能も魔術も無い自分はこれから先も狙われるのであろうかと考えると不安になってしまうのだった
297 : ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/23(木)21:47:56 ID:8Cw [2/2回]
/イベントについての連絡を避難所に投下させて頂きました
/ご確認下さい
298 : 久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/23(木)23:46:12 ID:unm [3/3回]
天蓋が文字盤に覆われようと、その向こうで滅びに輝く星々の息吹は変わらない。
もしも地球が砕けてしまったら、あんな風に宙に漂う散屑の一部になるのだろうかと。

「……ヤな事考えたら負けなんだろうけどさぁ」

らしくもない考えを振り払うように、飲みかけの牛乳を一息に飲み干す。
いつ何時事が起きるか分からずに、落ち着かない心持ちで夜を廻る途中。頬を撫でる冷たい風に、眠気が浚われる思いだった。
淡く煌く水面を望む河川敷で、日課のランニングの小休憩。汗をかいて水分を補給しても、心まで晴れやかになるはずもなく。
下手に投げた紙パックが屑かごの縁に当たって落ちたものだから、大きくため息を吐いて頭を掻かずにはいられなかった。
299柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/24(金)18:17:41 ID:iAA [2/3回]
>>289

「ハズレ。ほら、もう一回。」

落ちた紙パックを拾い上げて、彼の方向に投げ返す。
幾らか沈んだ顔付は、柏村中也も変わらない。

「中也なんて男は、お前に大層なこと言ったがよ。
 結局無茶させやがったな。
 ……悪かったよ。」

あの講義室で、あの女の妨害がなければ、自分は相棒を見殺しにするところだった。
自分を犠牲にするな、そう言ったばかりなのに。
さしもの彼も、そこに関してはごまかしうやむやにする手段を持たないし、それが出来る性分でもない。
浮かない顔で、ばつが悪そうに謝罪を口にした。

//まだよければ。
//キャラ的に連続となってしまいますので、都合が悪ければ引きますね。
300久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/24(金)23:28:52 ID:ThO [1/1回]
>>299
「うおッ……と」

紙パックを顔面で上に弾いてからキャッチ、ぶすりとした顔を向ける。その不満は本心ではないが、赤銅の瞳に燻る鬱屈を隠しきれてはいない。
無論その原因は、抑圧の現状にある。積もる焦燥と疑惧を押し殺せる程、楽観的にはいられなかった。

「なんでダダが謝るんだよ。結局なんともなかったんだし、お前が気にする事はないだろ」

気休めや慰めのような、取り繕った言葉ではない。心底から不思議そうに、何度かの瞬きを繰り返す。
もう一度放った紙パックが弧を描いて、今度は屑かごの中心に落ちる。剥き出しの底にぶつかって、乾いた音が宵闇に響いた。

「あの時は俺も何も考えないで、馬鹿みたいに突っ込んだしさ」
「もう少し、上手くやれたはずなんだ。だから、お前がそんな顔すんなって」

気にしていないのは本心だったし、そんな事を気に病んでほしくはなかったから、八重歯を見せて溌剌と笑いかける。
他人が悲しむのは見たくなかった。けれど自分が傷ついた時、それを見た誰かが心を痛めるかもしれないというのは。
想像はできても、どうにもそのイメージは薄かった。そういう意味では、他人を顧みる事ができない人間なのかもしれなかった。

//申し訳ありません、大変遅くなりました…!
//こちらは大丈夫です、よろしくお願いします!
301柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/24(金)23:52:55 ID:iAA [3/3回]
>>300

考えるのは自分がすると言ったんだから、その責任は自分に在る。
上手くいった、行かなかった、そんな話じゃなくって。変わらず自身の命に頓着がなさそうな笑顔で。
詩人を自称する癖して伝えたいことは、結局未だ届かずに。なんとも。

「俺が未熟だったのが悪いっつってんだろ。受け取れや。」

笑うほどに彼は不機嫌になって行く。反省がかけらも感じられない態度ではあるけれど。

「……燻って灰になるのを待つような性分じゃねぇだろ。
 ちった前向きな話をしようや。」

「俺の能力、お前の能力。まだ虫の羽音のままだからよ。
 だったら毒の作り方でも探そうや。あいつらの術式も腐らせるぐらいの。
 ランニングよか意味があるだろうよ。」

//大丈夫です、よろしくお願いしますっ
302久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/25(土)00:38:25 ID:GZN [1/15回]
>>301
どうしてどんどんと不機嫌になっていくのか、はっきりとした理由は分からず首を傾げ。
それでもきっと根本的な嫌悪から来るものでないとは読み取れたから、気圧され気味に頷いて一先ずの承諾を示した。

「そんな事言われてもよ……正直なところ、どうすりゃいいか分かんねえしさ」

受動的が過ぎるのは身にしみているが、向こうの行動に応える形でしか動くしかないのもまた事実。
何から手をつけていいのかも、何が最善かも分からないまま。だから夜風に身体を動かして、蟠りを発散させずにはいられない。

「何を止めるにしてもアイツをどうにかしないと意味ないんだろうけど、どこ探したって見つからねえ」
「いっそあの時計を先にぶっ壊しちまえば、焦って出てきたりしねえかなぁ……」
303柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/25(土)00:53:47 ID:crU [1/13回]
>>302

「あいつらが使ってんのは技術だ。
 脳を機関に現象を計算するって言うな。
 魔術も種を明かせば理に準ずる、真似できねぇ道理はねぇ。」

とはいえその計算式が分からないのだから、問題が解ける道理もないのだけど。

「……だから、ちょっとでもいいからよ。
 魔術の法則とか、そう言うのがわかりゃあ……
 その方法さえわかんなら苦労しねぇよ。」

その方法さえわかれば、後手から先手へ回る事が出来るけど、その方法も浮かんだまま。

「この時計を作る機関の位置、それが解れば攻め込めるし
 或いはこれだけの計算を覆せるだけの機関が在ればな。」

「……あの講義の時、隣に居た女の名前とか知らんか。
 なんでも切り札があるらしいがよ。」
304久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/25(土)01:18:56 ID:GZN [2/15回]
>>303
「…………なるほど?」

元々魔術とも縁遠い身、黎明式の理屈など懇切丁寧に説明されてもその半分も理解できないだろう。
首を捻りながらも下手くそな納得した振りをしているが、そも理屈に偏った理論を理解しろと言う方が無理な話なのかもしれない。

「要するに、あのでっかいのが計算で出来てるって事だろ?」
「でもそんだけの階差機関なんて《富嶽》くらいだろ。他にそんな機関、聞いた事ねえけどな」

あれだけの巨大な隔壁が容易く展開できるのであれば、世の様相はもっと違うものになっていたはず。
莫大な動力が必要であると想像に難くないが、そんなものがこの狭い島に存在するとは聞いた事もない。
となれば外部から持ち込まれたか。そこまで思考が追いつく前に、脳細胞が疲労を訴えて頭を振った。

「隣ィ?誰かいたっけっか……」
「でも切り札って、なんか凄そうじゃん!どんなのか聞いてねえの?」

あの時は目の前の状況にいっぱいいっぱいで、強い興味を引かれる事象以外に意識を向ける余裕はなかった。
故に言われてもすぐにはその顔が思い浮かばず、記憶を手繰って腕を組んだが。
言葉の響きのみならず、現状を好転し得る意味に顔を輝かせ、期待を隠しきれてはおらず。
305柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/25(土)01:46:23 ID:crU [2/13回]
>>304

「富嶽がとっくに利用されてるってんなら最悪も最悪だな。
 つって、他に計算で切る機関なんざないだろうが。」

可能かどうかは考慮せずに、もしそれを落とすとなれば学園都市は停止する。
確信がなければ出来る事ではない。

「切り札の詳細は聞けてねぇが、探偵様から託されたんだと。悔しいが信用できる。
 黄金色の髪と蒼と紅の双眸。べっぴんだ、みりゃ忘れねぇだろうよ。
 ……女と絡むようには見えねぇが、そういう女の一人ぐらい覚えはねぇのか。」

もしや知り合いではないかとその情報を伝えてみる。
メアリー・シェリー。その名前さえ聞けていれば話は早かったのだが。
一回の学生にすぎぬ彼は、その希望の名前すら知らない。
306久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/25(土)02:08:09 ID:GZN [3/15回]
>>305
「別に《富嶽》とは限らないんじゃねえ?そうだとしたら、前に《富嶽》を狙ったりなんかしないだろ」
「他所の学園都市の大階差機関とか……つっても、こんなトコにある訳ねえか」

以前の邪神侵攻の件から、この島の大階差機関までも黎明の手に染められている可能性は切っている。
ではどこの何が、と問われれば答えるのは難しいが。知識の欠如に所以する馬鹿げた発想と柔軟な想像は紙一重だった。

「……あっ、知ってる。ちゃんと名前は聞けなかったけど、話した事はあるぜ」
「そっか、あいつが切り札をか……へへっ。前に会った時は元気なさそうで心配だったけど、頑張ろうとしてくれてるんだな」

名は知らずとも特徴的な容貌はそう簡単には忘れられず、切欠さえあれば思い至るのも容易い。
以前似たような夜空の下で邂逅した時は、悄然という言葉が可愛く思える程に無機質だったものだが。
最後に見せた魂の熱が、錯覚ではなかった事がどうにも嬉しくて。場にそぐわないとは分かっていても、笑みを零さずにはいられなかった。

「探偵ってのは知らねえけど……お前がそう言うなら、信用できるな!」
307柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/25(土)02:35:02 ID:crU [3/13回]

>>306

「それもそうだ。あの蚯蚓の塊のみてぇなのの行先は富嶽だったな。
 って……知ってんのか!?」

聞いたはいいモノのまさか知っているとは思わずに。

「からかってみようかと思ったが、お前に限っちゃなさそうだ。」

彼女の顔を浮かべてこぼす笑みと言葉を合わせても、それは恋に結び付きそうにもない。
そこに一切の性は混じらず、純然たる真っ白の行為しかないのだろうと想像できる。

「恋の一つでも覚えりゃ、多少我が身の価値がわかるか?
 今度ついでに会ったら口説いてみろよ。」

好きだ愛してるなんて言葉を貰えば、多少は死にたくないと思ってもらえるだろうか。

「逆撃の牙は研がれてるってわけだ。
 そろそろ殴り込みでもかけたいもんだが……何処に居んのかねあの女。」
308久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/25(土)02:54:28 ID:GZN [4/15回]
>>307
「い、いや!確かに知り合いだけどそんなんじゃないって!俺は恋愛とかにキョーミねえし!!」

思慕の情にはとんと縁がない。どちらかと言えば男女問わず、友誼の念を抱くタイプの人間だ。
いざ性差を意識すればその純情ぶりを遺憾なくし、顔を真っ赤にしてしどろもどろになるしかなくなってしまう。
今も言われてようやく泡を食って必死に否定している辺り、小学生並みに低い恋愛レベルが伺えた。

「ごほん……そんな事はいいんだよ。馬鹿な事を言ってる場合じゃねえだろ」

仕切り直しに咳払い一つ、どうにか落ち着きを取り戻したようだが耳は未だ赤い。
そこにひどく遠回しな打算があったとは夢にも思わない、揶揄われたとしか考えられずじとりとした視線を向けた。

「じゃあ探しに行こうぜ!その辺走ってりゃ、すぐ見つかるって!」

今は夜で、島としては決して大きくないとはいえ、足で探すには範囲は広大すぎる。
つまりは思考がストレート過ぎて目的と手段が致命的にすれ違っている、いつもの突発的な提案で。
その場で駆け足を始めれば、今にも捜索に走り出しそうな勢いだった。
309柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/25(土)03:14:36 ID:crU [4/13回]
>>308

「なんでぇ存外愛い反応すんじゃねぇか。
 朱くなんなら期待も持てるか。」

全く高校生とは思えないような反応だけど、赤くなるなら興味はあると言えなくもない。
そもそも想像すらできないのではないかとすら思っていたから、純情でも嬉しくすらあった。

「二人手を繋いで湖上に出たら、お月様が聞き耳を立てて寄ってくんのさ。
 そしたら見せつけるように接唇してよ。良事も拗言も言い合ってよ。
 案外楽しいもんだぜ?」

熱く語る彼も、決して熟達者と言う訳でもなく。なんなら初恋すらまだなのに。
人を愛せば自分を愛する。交わす言葉は、思い出は一人の物じゃなくなるから。

「前向きは嫌いじゃねえ。だが行動する前に少しは相談してくんねぇかねぇ。
 色々あんだろ……名簿見るとか、データベース漁るとか。
 あとついでに、魔術についても調べねぇと。Mの書って今どこだったか。」

頭脳を担当すると意気込む割に、彼もあの探偵の様な事が出来る訳ではないんだけど。
310久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/25(土)03:39:52 ID:GZN [5/15回]
>>309
「ストップ!!ストォォォォップ!!今はそれどころじゃねえっての!!」

聞いているだけで小っ恥ずかしくなってくる空想の睦言に、想像するだけで全身がむず痒くなる思い。
ぶんぶんと大きく両手を振って空気を払う、勢い余って拳で黙らせようとしなかったのが幸いか。

「んー……だって名前も分かんないんだから、顔で探すしかなくね?」
「つか、前にも言ってたけど。そもそもMの書って何――」

単語でしか知らない、どのような代物かも全く考えつかない書物の名を聞き返すのは、ごく自然であろう。
であれば奇怪なのは、それに答える声が全くの第三者のものであった事で。

『Mの書――クリスティアン・ローゼンクロイツが遺した、一種の魔術概念』
『簡単に言えば、きみ達の逆転の可能性を作り出せるかもしれない本で――今は、ここにあるよ』

いつの間にか芝を踏みしめ、河川敷を登ってきていた少女の声は、表情は、月光よりも淡々とした無機質なもので。
蒼紅を織り交ぜた双眸に、白髪を彩る幾筋の赤のメッシュ。奇抜な外見は、同学年の彼ならば覚えがあるだろうか。
少なくとも梛の方は全くの初対面らしく、打ち寄せる困惑と驚愕に唖然として目をぱちくりとさせているだけであった。
311柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/25(土)03:56:21 ID:crU [5/13回]
>>310

「こんだけ赤く成ってくれんなら、詩人冥利に尽きるってんだ。
 恥ずかしいもんじゃあねぇよ。」

「名簿にゃ写真位あんだろ。だから、こう───」

現れた少女の顔は、確かに憶えがある。

「───淡島?」

名前だって知っている。
なのに、疑問符が浮かぶのは、目の前の少女はその名ではないと感じてしまうから。
決して親しい間柄じゃない。直感の様なモノだけど

「話が早過ぎんだろ。頭が追い付かねぇっての。
 ……まあ、いいや。さっさと先に進んじまおうか。
 その本で俺らに何が出来る。こちとら魔術なんて、触れた事も無いんだよ。
 そしてお前は、俺らの逆転を望んでる、って認識で良いのか?」

隣の彼に対して、詩人は一切物おじせずに、寧ろ待っていたとすら言わん勢いで言葉を吐き出した。

//すいません、いったん凍結でも大丈夫でしょうか?
//イベントまでには〆られるようにしますので……
312 : 久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/25(土)03:58:44 ID:GZN [6/15回]
>>311
//了解しました、こちらも眠気が厳しいので後程返信させていただきます…!
//午後からは安定してお返しできると思います、一先ずお疲れ様でした!
313久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/25(土)13:45:15 ID:GZN [7/15回]
>>311
知り合いか、と目で問いかける少年に対して、少女の眼差しはよくよく落ち着いたものだった。
ゆっくりと交互に二人を見やり、何かを言いかけるように口を開くのは、説明の言葉を探しているようにも見えた。

『この本が出来るのは……有り得ない事を、有り得る事に変えるだけだよ。例えば、教授の完璧な計算を崩す、とかね』
『これがあってもなくても、わたし達がやるべき事は変わらない。不可能な挑戦に、ほんの少しの確率が生まれるだけだから』

つらつらと語る表情に変化はない。しかし束の間口を噤んだ沈黙は、反応を伺っているようだった。
何せそこらの平凡な女学生では大凡知り得るはずもない情報。何らかの疑心が生まれても仕方ないのは、重々承知していた。

「うーん……分かるような、分からないような……?要するに、俺らが勝つ確率を上げられるって事か……?」

頭を抱えて内容を飲み込むのに苦心している少年の、かろうじて振り絞った要点に頷いて返す。
片手を肩掛け鞄に添え、もう片方でストラップを握りしめて。もう一つの問いに答える声は、相変わらずの平坦さ。

「……わたしは、この島の外に出たいんだ。外の世界を知らないまま、こんな所で終わりたくない」
「だからわたしは、わたしに出来る事がしたい。ただそれだけだよ」

けれど動作の端々に目聡ければ、それらは完全な無感動ではないのが読み取れるはずだ。
指先に入る力、引き結んだ唇、ぶれる事のない視線。それぞれが奥底に秘められた、確固たる切望を孕んでいた。

//お待たせいたしました!
314柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/25(土)14:19:57 ID:crU [6/13回]
>>313
知っているのは名前だけ、と梛に向けて。
出席確認で呼ばれた名前を憶えている、それぐらいの事。

「計算式に混入する未知数、躍起になって探すわけだなァ。
 正しく蟲が毒を得た訳だ。」

それが黎明に対する切り札に値することは、彼らの行動が証明している。
零を超えないχに正数を代入する唯一の手段。だからこそ、それを確保し制御しようとしていたのだろう。

「だがそんな事、何処で知った?」

睨む様な、細まる目が疑念を突きつける。
本の意味を疑う事はなく。だけど、一介の学生にすぎない筈の少女が、なぜそれを知りえるのか。
好意的に解釈して黎明のはぐれもの。悪しき方向には下限なく可能性が浮かぶ。
信を置くべきか、否か。それを判断するために何を聞こうか。好きな花の名前でも聞こうか。

「良いねぇ。詩人の端くれだ、そういう事を言われちまうと、弱い。」

だけど、知らない世界を知りたいと言われてしまえば、少し表情が和らいでしまう。
知らない世界を知りたい。それは、表現者が持つ本能に近しい者。音叉の様に、理性を介さず共感してしまう。
だから、一つだけ質問する事にした。

「一つ聞かせてくれや。
 ……講義室で、手を握っていたあの子はあんたの、何だい?」

ぶれない視線と、あと一つ。必要なのは揺れる心の証明。

//此方こそお待たせしました。
315久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/25(土)14:56:04 ID:GZN [8/15回]
>>314
『さあね……どうして知っているのか、自分でも分からないんだ。この島に来る前の事は、何も覚えていないから』
『でも今のわたし自身は、黎明協会とは何の関係もない……なんて言っても、信じてもらえるとは思ってないけれど』

猜疑の眼差しに動揺は見せず、泰然と受け止める。全て嘘はなく、ただ現実味のない都合の良い話であるとは多少なりとも自覚はあった。
最初から信用されるとは思っていない、敵視されないだけでも御の字といったところ。
だから和らいだ表情を見て取ってほんの少しだけ、驚いたように眉を持ち上げたようだった。

『……ああ、見ていたんだ。なんだか恥ずかしいな』

微塵もそう思っていなさそうな淡白さ、事実本心から羞恥を抱いている訳ではなかった。
質問の真意を掴みかねて、しかし口を噤む事はなかった。答えは疑いようもなくはっきりしていたし、隠そうとする気恥ずかしさだって皆無。

『友達だよ。一緒にいてほしいって言ってくれた、わたしの初めての、大切な友達』

梛はといえば、元より誰かを疑う事にひどく鈍感な気質なものだから、何を聞いているんだとばかりの面持ちで。
とはいえ下手な懐疑心を持ったままであるのもいただけないのは分かっていたから、何か言いたげそうにしていながらも、黙って静観しているのみだった。
316柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/25(土)15:18:52 ID:crU [7/13回]
>>315

「……友達、ねぇ。それだけ聞けりゃあ十分。
 なんでぇ、つまんねぇ根暗だと思ってたが熱いじゃねぇの。」

指を絡めて身を寄せ合う。そこに、心がある事は自明だってわかってるけど。
改めて言葉にすれば確信になる。
あの距離感は、その言葉よりもう少し先に行ってもいい気がしたけど。

「わかった。どうせ最初から、こっちは疑っても居ないからよ。」

呼吸と共に疑念も吐き出し、すっかり柔らかな表情になっていた。

「随分かかったが、三人目の仲間ってな。よろしく頼むわ。」

一人なら何も出来ないから、仲間を作ろうと言ったのは何時だったっけ。
ようやくこれで3人目。とびっきりの切り札と一緒に。
317久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/25(土)15:59:46 ID:GZN [9/15回]
>>316
冷たい星光の下でも仄かに弛緩した空気を、最初に揺るがしたのは少年の声だった。

「なーんだよお前!相っ変わらず素直じゃねえんだからよぉ!!」
「俺、久々之千梛な!ナギ先輩って気軽に呼んでくれていいぜ!」

張り詰めた関係のままで終わらなかった事にほっとしたのを隠そうともせず、中也の背中にばしんと掌を叩きつける。
そのまま腕を肩に導いて組もうとすれば、困難を困難とも思っていないかのように。
心底から嬉しそうに破顔して、志を共にする仲間が増えたのを喜ぶのは、彼も同じだった。

『…………うん。よろしく、二人とも』
『前線には立てないかもしれないけれど。やれるだけ、やってみるよ』

その有り余る元気に、やや気圧されがちではあったものの。確かに小さく頷いて、注視してやっと分かる程度の微笑みを浮かべた。
肉体は体育の授業ですら参加できない程に虚弱だが、出処が不明の知識と無二の異能がある。
であれば、出来る事がゼロであるはずもないし、例えそうだったとしても。

『――そういえば、さっきの切り札の話だけれど』
『多分、メアリー・シェリーの事だと思う。名前が分かれば、探しやすいでしょ?』

情報とは思わぬところで繋がるものだから、そういった意味でも数が多くて困るものではないはずだと。盗み聞きの是非は置いておくとして。
とにかく、情報も助言も惜しむつもりはなかった。だから聞かれる事には分かる範囲で答えるだろうし、目論見だって例外ではない。
なんなら自らの力を開示して、異能そのものを一時的に底上げする事すら厭う事はないのだろう。
318柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/25(土)16:44:08 ID:crU [8/13回]
>>317

「いっつ……お前じゃなかったらぶん殴ってるぞ……。
 俺は柏村中也。愛称が欲しけりゃダダで良い。」

自己紹介を済ませて持ちうる情報を交換する。盗み聞きについては、そもそもされている事を気にしていなかった。
そして開示する異能は、感情に応じた強化。精確なコントロールはできないが、性質そのものは少女のそれと似ている。

「もしかして、異能そのものも……
 いや、良い。こいつはともかく、俺のはちと危ねぇし。」

感情と言う不安定な物に依存する上に、現状でも強化の反動がある能力だ。
更に強化してしまえば反動で六に使えない何て可能性すらあり得るから。

「後は……そうだ。使い方なんてものが説明出来るなら、魔術の法則が知りたい位だ。
 計算がそれで成り立つなら、その崩し方を知らねぇと。」

一度見た探偵の魔術。脳裏に焼き付いて離れない、それを再現できれば。
探偵が事件の渦中に居ないのであれば、今は自分がその役割を果たさなければないと自負している。
何よりも、梛に向けて難しい事は自分がすると言い切ったのだ。今度こそ、その役目を果たそうと。

「一人増えただけで情報も戦力も頼もしいもんだ。
 ……今度友達も呼べよ。丁度いい時期だ、鍋でもつつこう。」

//お待たせしました
//イベントもあるので、そろそろ〆でしょうか?
319 : 久々之千梛◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/25(土)17:24:17 ID:GZN [10/15回]
>>318
「堅い事言うなって!俺とお前の仲だろー?」
「んー……俺もデメリットがどうなるか分かんねえし、どうしてもって時になったらかなぁ」

異能に代償を伴うのは彼も同じ、血液を差し出すとなれば尚の事命に直結する。
歯切れは悪いものの完全に否定をしなかったのは、いざとなれば全てを捨てる事も厭わずにいられるからか。

『……今のわたしは魔術も黎明式も使えないから、上手くは説明できないけれど』

前置いて、しばしの間。頭に入っている知識を伝えるために言語化するのに、雲が月の下を通り抜けるまでの時間を要した。

『魔術は、魔力を使って自然現象を書き換える力。黎明協会でも、使える人はそう多くはなかったと思う』
『彼らが使う黎明式は、身体に埋め込んだ式を使って現実を改変する力。大抵は自分の頭で演算するから、処理能力の限界はあるはずだよ』
『真似が出来るかは……正直、どっちも分からないな。そういう力の異能でもないと、難しいと思う』

自身が扱える訳でもない力であるから、噛み砕いて説明するのに少し考えながら言葉を紡いでいく。
無論、梛は一度でその理屈を飲み込めるはずもなく、頭から煙を出しそうな勢いで眉間に皺を寄せていた。
その様子を見て微かに湛えた微笑は苦笑いのようでもあり、協力者を得られた安堵のそれのようでもあった。

『……うん。今度、紹介するよ。少し素直じゃないけれど、世話焼きで優しい子なんだ』
『だからその時まで……二人とも、無理はしないでほしいな』

目的のために手段を選ばない素養があったとして、碩学と決定的に違えている部分があるとするならば。
無用な犠牲を是とせず、喪う事に人並みの感受性を持ち合わせている事だろう。
その言葉を受けた少年は、呆気にとられたようだったが。すぐさま屈託のない笑みを浮かべて、昼とも見紛う返事で返した。
最悪を想定した末路の予見は月の裏側に隠して、確約できないなどとは断じて表には出さずに。

//そうですね、それではこちらからは〆になります!
//お付き合いありがとうございました、またよろしくお願いしますっ
320◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/25(土)20:17:08 ID:9gB [1/9回]
――――時計の針が、音を立てて時間を刻む。

止まっていた針が動き出す。それは学園都市を包み込んで、ゆっくりと終わりの幕を開いていく。
空に浮かぶ時計は、ゆっくりと時を刻む速度を上げて――――やがてその時計盤の中央から、二つに裂けて、開いていく。
まるで、空を裂くように。然し音もなく、それは何でもない出来事であるかのように――――終焉へと駆けようとするだろう。

「私の研究の最果てが、今、ここに、実現する」

ジェームズ・モリアーティは、薄く排煙の煙る部屋で、自らの計算式が流れていくのを見下ろしていた。
割れた時計の内部から、幾つもの“塔”が突き出た。
それらは相互に共振を行い、その波動を伴って、その学園都市全体を包み込まんと発動する――――

それは、人間の脳髄に訴えかけるものであった。
その思考を全て“繋ぎ合わせ”、一つの計算式を成立させんとするものであった。
“終局的犯罪”。“平行世界証明”。この日、学園都市の空が晴れ――――そこには、“青い空”が映し出された。

「来たれ、蒼き清浄なる星よ。私は、これをこそ、見たかった。さぁ――――」

まるで現実ではないかのように、学園都市の――――否。“この地球の空に、もう一つの地球が現れた”。
それは未だ不完全に、何度も何度も揺らぎ、然し揺れる像の一つ一つを重ね合わせて、現実化しようとしていた。
学園都市の人々の間に、自分のものではない、“静かな歓喜”が流れるだろう。それこそが、成立の証拠だった。

「――――終末の時だ」

一人、また一人と。学園都市の人々は、夢の中に入り込む。
ただ、計算式を流し続けるだけの夢――――それは正しく、成立するはずだった。

「……なんだ、何が起こった?」

誰かが一人、させるものかと呟いた。そうして、名探偵による策が一つ、成立した。
流れ込んだ計算式から、間違った計算を返した。その結果、モリアーティが繰り出した大数式に、僅かな狂いが生じ……。
僅かな数字の偏差は、やがて膨大な処理を伴う、大きな“計算ミス”となり、大数式の成立を、大いに妨害した。
繋がるはずだった意識は、一度大いに開放され――――

『こんなもので、あれを破壊できるの……?』

『分からない。だが、やるしかない……こいつで、直接奴らのところに乗り込んでやる』

メアリー・シェリーは、割れるように痛む脳髄に悶え苦しみながら、武器を手に取り、空を見上げている。
佐野美珠、そして甘粕正彦は、幾つかの蒸気加速装置を搭載した二輪車を、開けた場所に用意していた。

「……再計算が必要だ。狂った計算を正す為の時間が」

名探偵の策を以て、今此処に、抵抗のための間隙が生み出された。
321◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/25(土)20:34:26 ID:CJA [1/2回]
>>320
ディディ「なーんだ、同じようなことを考えてる奴が居たらしい」
ラファ「…?」

少女と共に空を見上げながら手の平の宝石を転がしながら少年が呟いた。

ディディ
「前回馬鹿正直に手の内見せやがったから計算を妨害する為の…所謂バグみてえなもんだ、
 それを叩き込んでやろうと引き籠ってたのにな、無駄になったかあ?」

黎明協会を快く思わないものは多く存在しているらしい。
見ず知らずのそれでいて目的を同じとする同胞に感謝と少しの嫉妬の念を少年は抱く。

ディディ
「んじゃ次の段階だな?前回の騒ぎで得られた見立てが正しけりゃあ連中は上に居る訳だが…
 さーて、物理的に存在しているのか、魔術的なもんで其処に何かしらの世界が展開されているのか、
 はたまた黎明式による未知の力場でも発生してるのかは流石に調査の時間が足らんかったな。
 やっぱスタンドプレイだと効率悪いぜ、何とかならんもんか…ああ、まあ、今後の課題だ、さて」

少年は少女に触れ、己が魔術を発動させる。

ディディ
「後は任せた。今から連中の居場所を探る。それで俺の魔力はスッカラカンだろうよ。
 なんせ索敵範囲が広すぎる。本当に空にあるかもわからねえから全域調査って訳で厳しいね」

魔法陣を床に書き込み島各所にちりばめた触媒と繋がりを構築しだす。
暫くすればある程度の力の流れを察するネットワークが構築されるだろう。
正確に何処に誰が居るなんて分かりはしないが、力ある何かが何処にあるか位は知れる筈だ。

ディディ「さーて、向かうべき場所は何処だろねっ…と!」
322◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/25(土)20:58:13 ID:GZN [11/15回]
>>320
滑り落ちる針。逆さまの街。鏡写しの青い星。
連結する意識は一時の解放に晒されて、狂った螺子を巻き直す時間を生む。
望まぬ末路を書き換えるためであればこの間隙に、身体を動かさずにいない道理はない。

「ここまで来たら、踏ん張るしかねえだろ。やらないで死ぬより、やって殺される方がずっといい」

鉄の馬が鎮座する空間に踏み込む者がいた。途中で行き合ったのだろう、少年と少女。
その瞳で未だ虚構に留まっている頭上の地球を認めても尚、しっかと立つ両の足に諦観の類は皆無。

「連れて行けよ。何が何でも止めてやるからさ」

少年には何を言われても退く気はなかった。例えどれだけの血を流す事になろうと、その果てに鼓動さえ止まったとしても。
輝ける明日のためであれば、針の筵にだって足を踏み出せる。それだけの覚悟を背負っていた。

『…………――』

その横をすいと通り抜けた少女は言葉を発する事なく、美珠の元へと一直線に向かえばその手を取らんと。
その仕草は、表情はやはりどこまでも普段通り。今にも生まれ出でんとする鉄槌にさえ、無感動のようだった。
ただその視線は重力を放棄した塔、それから地平へと落ちて、どこか遠くを見ていた。それはまるで干渉の余地ある部位を探っているかのようでもあった。

//よろしくお願いします!
323 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/25(土)21:01:14 ID:crU [9/13回]
>>320

空を鏡に映し出されるもう一つ。それは鏡から飛び出して、手を取り合って心中を図る。
その光景に見とれる前に、自分の中に入り込む無数の思考。正確には、彼が無数の中に入って繋がっている。
知らない景色がしゃぼん玉みたいに浮かんでは弾けて、その裏では桁もわからぬ数字の階差を求め続けている。

するとしゃぼん玉が一斉に、ぱちんと意識と共に弾けて我に返る。
頭の芯から湧き上がるような痛みは、視界を白く染め上げるけど。
それでも理解できたのは。今、週末に向かう時計の針が止まったという事。

「後手は終いだ。終わらせてやろうじゃねぇの!……」

始まった演算は正解か、或いは不正解を導いて必ず終わる。
解答用紙に出鱈目を書かせたならば、それがこの学園都市における騒動の終幕だ。
未だ尾を引く頭痛も無視して、走り出す先は覚める寸前に見たあの景色。並べられた蒸気二輪車へ。

「役者は揃って部隊は佳境。そろそろ俺らの出番だろ。」

息を切らして、彼はその場に現れた。
324 : 深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/25(土)21:14:20 ID:hql [1/3回]
>>320
「……」

帰宅途中の彼は、空に浮かんだもう一つの地球を見て夢の中での講義を思い出していた。
並行世界の地球をぶつけて人類を余すことなく滅ぼす終局的犯罪、異能も魔術もない自分に何ができるかはわからない、しかしこれから理不尽に全人類の1人として、無意味に括られ教授の身勝手に付き合わされ殺されるくらいならば、自分は何もせずに待っているわけにはいかなかった。

彼はその力の働く場所を手当たり次第にシラミ潰しに探して行くだけだった
325◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/25(土)21:33:11 ID:9gB [2/9回]
>>322
>>323

蒼き清浄なる星。排煙に汚染されなかった世界。それこそが、ジェームズ・モリアーティの目指したもの。
そして、それは計算の完了とともに立証される。不確定の存在は確定する。それを以て、世界は崩壊を迎える。
完全犯罪の成立まで、時間は幾許もない。

『相手の防衛体制が整うまで時間はある筈。それまでに乗り込むんだ、猶予はない』

『……それでも、私が空を飛ぶことになるとは思って……』

既に心からやる気に満ちた男と、それに戸惑う少女。
甘粕は、それほど大勢を集められるとは思っていなかった。寧ろこうして一人だけ道連れに出来ただけでも十分だと思っていた。
残念ながら、自分が舞台の主役であるとは思ってはいない。だがそれでも、戦う意志を示すことこそが重要だと思っていた。

『――――いつぞやの坊!!』

『淡島さん、と……そこの、二人は……?』

だから先ず、久々之千の姿を見た時、柄にもなく心からの笑顔を見せただろう。
それからもうひとり現れた、柏村の姿を見て、喜々として語り出す。
美珠は、先ず豊雲野の姿を見て、花咲くように明るく表情を変え、それから現れた二人の男子へと視線を滑らせる。

『よし、そこの生意気そうな坊主も道連れだな!
 これから俺達は奴らの本拠地に乗り込む――――いいな、日本男児共!!』

何でもいいとばかりに、甘粕がそれらに乗るように促すだろう。

『……どうしたの、淡島さん?』

そして、佐野美珠は、その横顔を見つめていた。
取られた美珠の手は、多くの不安で少し温かくなっていた。鼓動は早鐘を打ち、迫る終末に震えるかのよう。
ただ、彼女は――――いつも通りの彼女が視線を巡らせているのを見て、その視線の先を負ったのならば。
海の向こう。世界と学園都市を区切る壁が、揺らぐのが見えるか。それは、《クイーン・ヴィクトリア》の計算能力が。
上空の蒼き星に、傾いたことを示している。
326◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/25(土)21:33:36 ID:9gB [3/9回]
>>321
>>324


「――――私は、勝ったぞ。勝ったんだ、なぁ、ホームズ」

少女は、空を見上げていた。捻じ曲がった計算式の中心点に、メアリー・シェリーは空を仰いでいた。
光を失ったオッドアイ。暗く閉ざされた世界で、それでも、それに向かって勝ち誇っていた。
そしてそこには、やはり鉄の馬が鎮座していた。この空を駆け抜けるべく、空に浮かぶ大時計を撃ち抜くべく。

「行かなければ、私も……空の――――向こうへ――――」

大階差機関、クイーン・ヴィクトリアによって実行される数式を以て、空の大時計は成立している。
位相屈折により構築された、無数の次元の交差点にこそ、ジェームズ・モリアーティは存在する。
先で得られた情報の通り、存在するとしたらそれはやはり、空の上だ。
327◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/25(土)21:50:31 ID:CJA [2/2回]
>>326
ディディ「あー…やっぱ空、か」

少年はドッカとその場に座り込んで空を見上げる。
当初の見立て通り、ぶん殴るべき相手は空のその先に居るようだ。

ディディ「空間に道を作れるなら行けるだろ?魔術で飛べる距離じゃねえし…帰る方法はこっちで探しておく」
ラファ「…」

少女が迷いなく虚空へと一歩踏み出す。
直ぐに示された空へと氷の道が構築されていく。
といっても先が一気に繋がる訳でもない、必要な場所に必要なだけ道が出来ては消えていく。
大気中のマナに干渉し一時的な足場を構築するその様は移動した軌跡に煌めきを残し空を滑るスケーター。

ディディ「宜しくな」

少年の見送りを背に少女が空へと疾走する。
328柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/25(土)21:57:42 ID:crU [10/13回]
>>325>>322

「最初っから先陣突っ切るつもり、道連れなんて連れねぇ言い方すんじゃねぇ軍人様よ!!」

促される前に既に鉄馬に跨り、機関の駆動音を響かせる。不良生徒と煙管と二輪、操縦には慣れっこだ。

「何だと聞かれりゃあんたと同じよ。
 学者共が気に入らねぇ、淡島ちゃんの友達よォ。」

不安げな少女の手がもう一つの手に握られれば、なんだか満足げに笑って、高らかにそう名乗る。
信じてよかった。彼女は、無感情でつまらない人間ではないと。その二人を見て、心からそう思った。

「こうなりゃお月様の気持ちもわかるってぇな。
 気が済むまでそうしてな。日本男児が結んで来るからよ!」

前線に立つのは我ら二人の男児の仕事。だろう?とでも言うように、梛に向けて視線を送り。
無理しないでと淡島に言われたあの時はしないと言ったけど。梛が無茶をして死ぬぐらいなら、自分が無理を引き受ける覚悟は抱えて。
見据える先は空。恐怖はなく、昂揚してしょうがない。
329深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/25(土)22:00:01 ID:hql [2/3回]
>>326
「そ、空……か……」
彼はありとあらゆる武器を持ってはいるが、空を飛ぶ手段を持ち合わせてはいない。
空である事は分かったが、彼には手出しも何も出来ない。
苦々しい表情で、恨めしそうな目付きで届かぬ空を睨み歯ぎしりをする
330◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/25(土)22:02:31 ID:GZN [12/15回]
>>325
「坊じゃねえ!俺には久々之千梛って立派が名前があるんだっつーの!!」

『……だ、そうだよ。こっちは柏村中也さん――二人とも教授に対抗する、仲間だよ』

こんな時でも自分の感情に正直な少年は、坊呼びに反射的な憤慨を見せて。
追従と、簡単な紹介を済ませる少女の声色は、心なしか緊迫を忘れた憤慨に呆れているようでもあり。

「とにかく!!なんであろうとぶっ壊してやるから、どんと構えとけ!!」
「…………やってやろうじゃん!!!」

十全が過ぎる意気込みは、きっと空に聳える塔が落ちてきても決して萎んだりはしない。
いつぞやの、その時以上に色々と積載されているように見える自動二輪車を捉えれば、ひくりと口の端が引きつったが。
こんなところで怖気付いてはどうしようもない、己への鼓舞を含んだ激励と共に揚々と乗りこむのだろう。

『……うん、少し悩んでた』

その様子を尻目に、焔と氷の同居する視線を美珠に向ける。その指は冷ややかでこそあれど、篭る力は常よりも些か強い。
やる事は決まっていた、けれど途中の手段は無数に転がっている。隔壁よりも星の顕現に力が傾注しているのを認めれば、尚の事だった。
過負荷を狙って過剰に稼働させれば、演算の収束を早めかねない。となれば、終息までの時間が限られている事を加味して選ぶ方策は。

『どっちにしろ、わたしがやる事は変わらないね。《クイーン・ヴィクトリア》に接触して、少しでも有利に運ぶようにする』
『だから……付き合ってくれるかな、佐野さん』
331◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/25(土)22:32:37 ID:9gB [4/9回]
>>327
>>328
>>330
『……大丈夫、淡島さん。酷いことされてない?』

激昂する二人と不良生徒。憲兵である甘粕との会話を横から見ていた美珠が、豊雲野へと向けて不安気に囁いた。
甘粕正彦という男もろくなやつではないことは承知済みだが、それと同調出来る人間もろくな奴ではないという偏見の塊であった。
そんなことは他所に、甘粕は高揚した精神のまま、大声で喝を飛ばす。

『その意気や良し!! では久々之千某、柏村某!! 乗れぃ!!』 

久々之千は既に経験はあるだろうが、これは邪神戦艦にて使用された決戦兵器。
それを甘粕が色々に手を加えた兵器である。つまるところ、ブースターで一気に機体をかっ飛ばし、人員を運ぶものだ。
わざわざ操作の説明はするまい――――したところで、大した意味がないのがこの兵器であるのだが。

『――――尚、これらの決戦兵器は乗員の安全、及び生存を考慮せずとして設計されているため、注意されたし』

『ちょっと、私はどうすれば――――!?』

最後にそうとだけ言って、甘粕はそのアクセルを思い切り握り込めば、ブースターが轟音とともに起動し――――
やはり、操作も何もなく、直線を凄まじい速度で加速し、空へと伸びていくことになるだろう。
本当ならば、それに続くはずだった美珠は、途方に暮れた様子でそれを見送って、それから視線を豊雲野に戻す。

『……悩んでた?』

彼女の言葉については、美珠はよく分からなかった。
彼女が何も考えていないようで、それでいて時折思慮深くて、氷のごとく仮面の下には豊かな心があることを少女は知っている。
そして何より、美珠の知らない何かが彼女にはある。けれど、その手を握る力は、確かに彼女のものだった。

『――――ええ、そういうことなら。分かったわ、淡島さん』

だから初めて、屋上で同じ時間を過ごした時のように自然な微笑みを作って、彼女に頷くだろう。
332 : ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/25(土)22:33:52 ID:9gB [5/9回]
『迎撃システムが動くよりも早く突破する!! 目指すは中心だ!!』

空に浮かぶ大時計、そこから露出した内部機構――――無数の塔、それらの中心。
数多無数の歯車によって構成された身体を、鉄の装甲が覆う。逆を言えば、それは鉄の装甲というただそれだけでしかない。
今、数式のリソースを終局的犯罪に割り振っている以上、黎明式による概念防御は存在しない――――

『俺が道を開ける。一気に飛び込――――何やってんだお前は!?』

甘粕は、その右手に“四つ穴が空いた巨大な四角い砲”を創造すると、中心へと向けて撃ち込んだ。
四つの噴進砲弾が、装甲を吹き飛ばし、歯車を吹き飛ばし、そしてそこに、黒く小さな“口”を開けることだろう。
そしてそれを確認したならば、また声を張り上げて、突入を促そうとして、氷の道を作る少女へと向けて。
全く驚愕した声を上げることだろう。

『まあいい、ここまで来たら全員、行け、行け、行けぇ!!!』

そこに飛び込んでしまえば――――後はもう、移動用の兵器を乗り回す意味はない。
甘粕はそれを空中で乗り捨てると、その穴の中に飛び込むことだろう。高度が僅かに足らず、その縁にしがみつき。
ジタバタと入り込むことになるが――――

その内部は、清潔で、つるりとした、硬く未知の素材で構成されていた。
青く光るその道は、廊下のようで、左右に幾つかの扉が点在する。そして、遠く奥へと続いているが――――
333◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/25(土)22:36:17 ID:9gB [6/9回]
>>329

空を飛ぶための装備であれば、今正にそこに置かれているだろう。
数式の代償に、視力を失った少女は、傍らにおいた巨大なライフルと共に、手探りでそれを探っていた。
空に上がったところで、少女は戦力なることはないだろう。それを使ったほうが有意義かもしれない。
334深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/25(土)22:46:43 ID:hql [3/3回]
>>333
「……すみません、お嬢さん。これ、お借りしますね」

装備を着けて、ライフルを手に持つ。
しかし操作の仕方がわからない、電源のスイッチを押してみる。

「……これで飛べるのかな?」
と、目についたボタンを押してみる
335ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/25(土)22:48:45 ID:ugt [1/1回]
>>328>>330>>331>>332
「…」

此処にいる時点でやろうとしていることなど一つしかないではないか。
甘粕の驚きなど意にも介さず、そしてその問いは答えるまでもない事柄で。
だから少女は何も答えず、相棒が準備した空間への鍵もしまい込んで穴へと滑り込む。
いやはや御節介な相棒がいなければまともに会話もしないのが少女の悪癖。

「…二人とも怪我、いいの?」

見知った顔があったので一応挨拶だけはと声をかける。
正直怪我などとうに治っているだろうし、気にもしていないのだが、切欠がないと本当に喋らないのだ。

「…」

そして何だか危なっかしい侵入の仕方をする甘粕の側を通り過ぎ様、滑る勢いに任せ、その背を両手で掴んで中へと放ってやった。
336 : 名無しさん@おーぷん[] 投稿日:20/04/25(土)22:49:04 ID:crU [11/13回]
テスト
337 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/25(土)22:52:40 ID:crU [12/13回]

>>330>>331

視線を送る先、彼の顔がなぜ引き攣っているのかわからなかった。
想像力を誇る詩人も、しかし機械に関してからっきしと言うか。優雅な方向に補正しがちというか。
精々遊園地程度の空の旅を想像していたのだ。

「は?」

安全、までは良し。緊急事態である。しかし生存が考慮されていないとは?
疑問を呈する前に発信する二輪により、その意味は身をもって体感する事となる。

「っっっっあぶぶぶぶぶっぶぶぶぶうぶ」
 
超速で突き進む二輪、無害に漂うだけだった空気は、現状況に於いて最早暴力となり彼の頬を打つ。
あの軍人と同調できるのは碌な奴ではない、その認識は恐らく正解であるが。
もしも彼が聞きつけたなら、あいつよりはましだと叫ぶだろう。

「……冗談だろ!!!!!!!!!ふざけんな!!!!!」

発射される砲。吹き飛ばし、開く穴。
何が起きているか理解するような時間はなかったが、しかしその小さな穴だけが道だとは理解した。
決心は刹那の瞬間に、けれどその刹那の体感はどれだけだったろう。
甘粕がしたように、乗り捨て飛んで端を掴む、それだけで一年分の年を取ったような気が素らした。

「ッ阿呆め!!これで全員死んだら落語にもならんわ!!!!」

甘粕の背に向けて平手打ちを放つ。本来黎明に向けられるべきだった敵意の数割はそこに込められていそう。
当たり散らして少し落ち着いたら、その廊下に在る扉を眺める。誰の、何のための部屋なのか。

「……しっかしなんでぇこの場所は。
 大学の校舎がこんなんだったか?……」
338◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/25(土)23:08:05 ID:GZN [13/15回]
>>331
「ひっでえなお前!?する訳ねえっての!」

心底不満そうに美珠へと声を荒げ、しかしその激情はどちらかと言えばこれからの吶喊を思っての事だった。
明言してしまうと、久々之千梛はその乗り物が得意ではなかった。
自分の足では決して実現できない速度で動き回るのもそうだし、その駆動を蒸気機関に委ねているのも心休まらない。
加えて空中へと飛び出すとなれば、心臓がぎゅっと掴まれるような思いにすらなる。

「――――――!!!」

それでも明日を迎えるためと自分に言い聞かせ、総動員した決意で起動の段階を踏んでしまえば。
絶望さえ振り払う速度を一身に受けて、声にならない声で後ろに続く事となるのだろう。
当然周囲に注意を向ける余裕なんてない。かろうじて風を切る音の中で捉えた指示通りに、飛び込む裂け目を正面から見据えて。

「――――ぁぁぁぁぁあああああ!!!」

シートに足を乗せ、力強く蹴る。死に物狂いで孔へと飛び込み、無様に床に落ちてごろごろと転がった。
肩で息を切らしながらも咄嗟に跳ね起き、自分の足がちゃんと地についているのを確認すれば、あからさまに安堵の息をついた。

「……おう。ついさっき、死にそうになったけどな」

以前戦線を共にした少女に冷や汗が引っ込まないまま笑いかけ、悠長にしていられるのもそれまで。
廊下の奥を睨みつけ、その道中に佇む扉には目もくれず。猛進こそしないが、選ぶ道を如実に語っていた。
339◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/25(土)23:08:29 ID:GZN [14/15回]
>>331
上空へと羽撃く排煙に髪が揺れる。顔にかかるそれを抑えながら、確かな微笑みで返してみせる。

『……ありがとう。それじゃあ、海に行きたいんだ。歩きながらちゃんと話すから』

手を引いて、歩き出す。自然の足取りのようで、少し早足だった。
その途中、語る言葉は様々だった。Mの書の事、ルイス・キャロルとの邂逅、自身の持つ異能について。
それらを統合した大まかな目論見は、彼らの動力源を統馭する事であると。過剰に演算をさせるか、機能を抑制するか。
本当なら、本拠地に待つだろう本体へ向かってもよかったのだが。

『一緒にアレに乗って行ってもよかったんだけど……ちょっと、無理があると思うから』

あの爆速に耐えられる気は到底しないから、彼方に飲み込まれた彼らを見上げるのみに留める。
それから今しがた抱いていた悩み。オーバーロードを狙うか、限りある時間を引き延ばして勝利に期待をするか。
それについては、流星の如く舞い上がる彼らを見送って、とうに結論が出ていた。

『あの人達のために、少しでも時間を稼ぎたい。今のわたしには、それくらいしかできないから』

語り終えるのは、ちょうど浜辺に辿り着く頃。肩掛け鞄からそっと取り出した代用ウミガメを、柔らかな砂に解き放った。
340◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/25(土)23:25:25 ID:9gB [7/9回]
>>335
>>337
>>338
「いってえ!?」

背中を引っ掴んで中へ放られると、甘粕はべしゃりと床に叩きつけられる。
そして首を押さえながらゆっくりと立ち上がり、そこにしっかりと、全員生存していることを確認するのだった。

「宜しい、ちゃんと辿り着けたワケだ」

悪びれることもなくそう言うと、奥へ進むように促すことだろう。
それはひどく無機質な光景であった。固い人工物で作られた長い廊下には、僅かに歯車が動く音がする。

「ここからは俺にも何があるか分からない――――が、脇道に逸れる意味はなさそうだ。
 何故かと言うとだが――――」

――――進むべき廊下の奥から、何か無数の足音が聞こえてくる。
ガシャガシャと、何か鉄同士が擦れる音が激しかった。彼等の全貌は、すぐにそこに現れることだろう。
それは、無数の人形だった。大小は様々であったが、何れも人間を模した、人形達であった。
その軍勢の背後には、一際大きな影があった。鎧を着込んだ、一回りも、二回りも大きい影だった。

「――――つまり、警備員が来るわけだ」

甘粕自身も銃を構える。それと同時に、自動人形達が踊り出る。
幾つもがまるで津波のように、武装するでもなく、ただただ突進してくる。その物量を以て、押し潰さんとする。
質量による純粋暴力――――その行く末を、背後の機械鎧は観察していた。

『ベタなことを言えば――――“ここから先は通さない”』

蒸気機関駆動の、巨大な鎧を着込んだヘミングウェイの言葉が、廊下に静かに響いた。
341◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/25(土)23:28:24 ID:9gB [8/9回]
>>334

「まだるっこしいんだ貴様は!!」

ライフルを手にとった彼の背中を、思い切り蹴りつける誰かがいるだろう。
背の低い、まだ中性的な雰囲気を残す少年だった。彼は思い切り顔を顰めながら、彼を睨みつけていた。
そして傍らにある二輪車を指差して、言葉を続ける。

「さっきから見ていればモタモタと!
 これに乗ってさっさと空に飛べばいいだろうが!! なんでそれで飛べると思った!?
 この阿呆が! バカが! いいからさっさと行け一般人! 」

『えっ……あの、何……!?』
342◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/25(土)23:37:00 ID:9gB [9/9回]
>>339

「――――海に、行くの?」

手を引かれ、それを疑うこともなく歩き出す。そしてそこで、彼女の話を聞いた。
美珠の知らないところで、彼女は彼女として、様々に動いていたのだろう。
魔術礼装の事を美珠は知らなかった、ルイス・キャロルの本来の姿を知らなかった、彼女の異能を知らなかった。
そして、彼女の目論見を。異能を用いたオーバーロードを狙うか、それとも沈静化を狙うのか――――

「……そうね。ちょっと私達には、難しいかも」

あれは、確かに彼等のような、骨のある人々しか使えまい。
美珠とて、耐えられるか分からない。体育の時間を見学に費やす彼女では尚更だと、場違いにもくすりと笑った。

「ええ、勿論、それが淡島さんの望みなら、私はそれに従うわ」

代用ウミガメを海に解き放てば、甲羅を背負った子牛が、海に現れた。
その瞳には既に涙を貯めていて、彼女達がその背に足を乗せるのを待っていた。
そして、海へと渡る前に、美珠は彼女へと躊躇う素振りを見せてから、切り出した。

「……こんな時になんだけど。少し提案があるの」
343ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/25(土)23:37:45 ID:QBU [1/1回]
>>338
「露払いはするから、大事なところは宜しく」

エジソン風に言えば彼は価値ある人間である。
であれば、然るべき時に動いてもらうのが効果的だと少女は考えていた。

>>340
「そ」

興味なさ気に一歩前に踏み出すと同時に少女の向かうべき先の景色は一気に凍結するだろう。
抵抗できなければ機械人形や鎧は勿論の事、床だって凍結する。
加えて床や壁からは氷の槍が突き出すようにして生える。
さて、突如出現した滑る床と槍のトラップに突っ込んでくるだけの連中が対応できるか見ものである。
344 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/25(土)23:52:33 ID:GZN [15/15回]
>>340
「全っ然よろしくねえんだけど……」

辟易とした声色を隠す気力もなく、実を言えば平手打ちを見て清々とする思いさえあった。
よく言えば自然体、悪く言えば薄い緊張感。しかしそのどちらにしろ、瓦解して火急に束ねられるのは一瞬。
近づきつつある金属音へと俊敏に向き直る面持ちから、既に安穏とした調子は失せていた。

「――――煩えな」

不動の宣言を言い終えるより早く、一言だけを言い捨てて彼は動き始めていた。
凍結した床の寸前で跳躍、その手に握るは一振りの日本刀『薄緑』。またの名を膝丸ともいう、源氏が至宝の一振り。
本来無血では得られない逸品を、特に『薄緑』として喚び出したのには理由がある。その名付け主、源義経の伝説に肖るためだ。

「こっちは急いでるんだ――」

自動人形に飛び乗ったかと思えば、足をつけているのは一秒にも満たない時間。素早く次に飛び移り、それを幾度も繰り返す。
身軽という言葉を体現したかのような曲芸めいた芸当、最早見据えるのは前方の観察者のみ。

「――とっとと道を空けやがれェ!!」

回避と前進だけに注力し、物的質量の壁を終ぞくぐり抜けたのならば。
大きく飛んで横に一閃、機械鎧の割腹を誘うべく流麗の軌跡が宙に疾った。
345 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/25(土)23:57:28 ID:crU [13/13回]

 
>>340

 その再開は必然。望んですらいた。でも。

「……そうじゃねぇ。あんたの台詞はそれじゃねぇ。」

 構える銃の先へ踏み出し、最前線へ立つ。
 幾らか取り戻したはずの冷静さは、握りしめた激情に焼かれて散った。
 それは熱気となって目視できる程に立ち上る。

「探し物はこっちにある。同志も得た。今、計算は綻んだ。
 だったらあんたは"こっち"だろうが。今更屑の教授共に何の義理があるってんだ!!」

「何が起きてるかわかってんだろ。何が起きるのかわかってんだろ。
 退けよ。退け、邪魔だ、失せろ、なぁ!!!!道ィ開けろ!!!!
 俺は、なぁ!!!!」

躍り出た自動人形の首を一つ掴んで、持ち上げ、それを質量として振り回す。質量の群れをなぎ倒して突き進む。

「お前の分まで、あいつら全部ぶちのめすために来てんだよ!!!!
 そのお前がそこに立つんじゃねぇ!!!」
346◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/26(日)00:02:56 ID:BMf [1/12回]
>>342
『ごめんね。ずっと黙ってて』
『……佐野さんは優しいから。心配をかけたくなくて』

よくよく、気を揉む事が多いのは分かっていた。気まぐれなきらいがある彼女が相手であれば、きっと尚更だろう。
だからこそ心の赴くままの行動以外で、余計な不安を覚えさせたくはなくて。ほんの少しの後ろめたさが、微かに眉尻を下げさせた。

『……勿論聞くよ。どうしたの?』

乾燥から守るの涙を零す頭を撫でる。挨拶と、無事の祈願のようなものだった。
それから海上へと踏み出す前に、徐に呼び止められて振り返った。不思議そうに首を傾げど、急かしたり切り上げたりはしなかった。
この逼迫した状況で何を言い出すのか。否、だからこそ言える事があるのだろうと。自分からは急かさず、続く言葉を大人しく待った。
347◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/26(日)00:18:41 ID:5R8 [1/12回]
>>343>>344>>345

「まあ――――木偶共ではこんなものだな」

所詮は機械人形。どこぞの精巧に作られたオートマータのように、精密な人工知能を搭載しているわけでもない。
だからそれが次々と氷の槍に貫かれるのに対して、ヘミングウェイは全く無関心であった。
させるままにしている、というのが正しいだろうか。期待すらしていない――――本命は寧ろ自分にあるのだから。

「なるほど、八艘飛びという訳か。日本人らしくていいじゃないか――――」

正しく、牛若丸が如く、自動人形の海を渡る姿を見れば、全身から蒸気を噴出して、鎧が動き出す。
それから発せられる熱量によって氷を溶かしながら前に踏み出すと、その装甲を以て駆け走る一閃を防御しようと試みる――――
が、最早彼等の実力は、死地を潜り抜けたことで、黎明の記録する通りではないことは、明白であった。

「……ははは、いいぞ、いいぞ!!」

心から、ヘミングウェイは喜んだ。その脇腹が綺麗に切断されて、内部の本体にまで届くと、そこから鮮血が噴き出した。
そして笑いながら、最後の男を、ヘミングウェイは迎えることだろう。

「若き詩人よ。俺はな――――世界は、人間は、本当に素晴らしいものだと信じてる」

背部のミサイルポッドが展開し、周囲へとそれがばら撒かれた。
その鎧は、薄緑が授ける機動力に対して、最早足枷にしかなっていなかったが、ヘミングウェイは全く構わなかった。
寧ろ、それはとてもとても喜ばしいものであった。だからこそ、手を抜くではなく、機械鎧の機能を最大限使い切る事とする。

「見ろ、今正しく、世界は滅びようとしている――――もしも、もしもこれを乗り越えることが出来たならば!
 人々が力を、知恵を振り絞り、世界を救うことが出来たのであれば。大いなる蜘蛛糸を崩したのならば!!」

ヘミングウェイの言葉に熱がこもるとともに、機械鎧の駆動音が一際大きなものになった。
しかして――――その男もまた、黎明の碩学なのである。自身が求めるものがあれば、倫理も善悪もかなぐり捨てて。
それを全霊を賭して手に入れようとする。それこそが、碩学であり。

「なんて素晴らしいことだと思わないか――――
 どんな小説にも書くことの出来ない、最高のストーリーを――――俺に、見せてくれェ!!」

それは指向性をもたせた熱放射。純粋に光り輝く熱量と化して、針鼠の如く機械鎧は放射するだろう。
それがこの男の究極系であった。それは心よりの人間讃歌であり、その最終到達地点であった。
348◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/26(日)00:30:33 ID:5R8 [2/12回]
>>346

「……いいわよ、別に、まあ確かに、少し驚いたけれど……」

元より彼女の感情表現の希薄さだとか、警戒心の薄さだとか、時に驚くほど行動的なところだとか。
そういう点で、美珠はよくよく心配をしていた。そしてその心配は確かなものだったのだろう。
今になって、恐ろしくなってしまうが。それでも、こうして自分に言ってくれたのだから、それだけで良かった。

「ただ、今度からは、隠し事は無しにしましょうね」

それだけ約束しよう。これを終わらせれば、きっと必要無くなるはずだから。
だから気にしなくていいと、彼女の髪を一度撫でようと手を伸ばし。

「これが終わったら……無事に終わったら……」

それから、代用ウミガメに乗り出す前に。
視線を斜め下に向けて、自分の髪を指先で弄びながら、言い難そうにして。

「……私のことを、名前で呼んでほしいのだけれど……」

こんな時に何を言っているのか、口にしてから、大いに美珠は後悔していた。
そんなことは終わってから言えばいい、しかしここでしか言える気がしなかった、しかし今では……。
ぐるぐると、頭の中を後悔が責め立てながらも、しかし言い放ってしまったものは仕方ない。
349ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/26(日)00:33:30 ID:0KN [1/2回]
>>347
「それが本心であるのなら」

相棒より託された魔術を発動。
やはり先は同行者らに任せる事になりそうだと少女は思う。

「成したい事ではなく、成すべき事を成しなさいな」

最早周囲は氷竜の腹の中。
今更如何様に指向性を持たせ強力になろうが、仕掛け共々御せぬ熱量など存在するわけもなく。
鏡面にも似た氷面にて幾ばくかの放射熱すら相手に返しながら根本そのものを凍結させんと力を振るう。

「潔く道を開けろ」

何処までも冷たく静かに淡々と、相手の意思の熱量に反するように少女は冷徹に徹した。
350 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/26(日)00:39:49 ID:BMf [2/12回]
>>347
研ぎ澄まされた刃は鉄を断ち、肉を裂く。横をすり抜け様に掌を撫でた感覚には、いつまで経っても慣れそうにない。
着地と同時に反転、絶命に届いても構いやしない追撃に移行しようとして、思わず後方に大きく跳んだ。

「チッ――っぶねえなァ!」

舌打ち、無差別に描かれる弾道を全て避けきるには未だ近過ぎた。
重く長大な鉄盾、越後の鬼神が掲げたともされるそれを己の目の前に生み出して防ぎつつ、更に後退して距離を確保。
その間も、碩学の碩学足り得る所以である弁舌から意識は逸らさず。身勝手な理屈にかっと頭に血が昇る思い。

「てめえッ――――」

しかし憤懣の雄叫びは、最後まで放たれる事はない。今この場において、誰よりも怒りを発している存在に気がついてしまったからだ。
ならば、叩きつける拳は任せるべきだろう。先輩として、後輩に譲ってもバチは当たるまい。

「――――やれェ!!お前の想い、思いっきりブチ込めェ!!」

投擲に適さない日本刀を頭部目がけて投げつけたのは、何も放熱を嫌ったからではない。
それは単なる陽動、ささやかな手助け。詩人のぶつかり合いへの、少しばかりの依怙贔屓だった。
351 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/26(日)00:50:06 ID:Y8w [1/5回]
>>347
弟が死んだ。それが彼の詩人としての出発であり、その詩は喪失を始まりとする。
欠けた胸の痛みは、詠う以外に吐き出す手段を持てなかった。それだけの事。

エジソンは、あの男の言葉は明るすぎると言っていたか。
倫理すら突き抜けて真っすぐに人間を讃える物語は、成程彼には向かないかもしれない。
見下す程に、自己以外の人間の価値など忘れ去ったろうから。


「違う違う違うッ!!!!!!
 だから、お前は、"こっち"だろうが!!!」

放たれる熱は、それよりも熱い感情を抱えて居れば感じやしない。
彼がそう意識したわけではないけれど、人形の波が放射に対する壁となっていたから。
暴力の嵐が波を引き裂き、作家の前に詩人が立つ。花道は、先輩から手渡された道。
一瞬だけ視線を寄越して、ありがとうと。それだけを伝えたらまた前へ。

誰かの助けになればいいと、そう思って詠った事など無い。ただそれしかなかっただけだ。
だとしても、自分が詩人だという事は忘れたことはなかった。自分は伝える事を使命とした人間だと常に刻んできた。
なのに、その作家は。

「お前は─────」

壁の消えた熱放射は、詩人の肉を焼いて焦がす。衣服に火がついて、燃え上がる。
痛みも、熱気による息苦しさもある。だけど、それよりも強いものがある。
やる事は単純だ。その腕を振り上げて

「読者じゃない────作家だろうがッッ!!!!」

拳を、開いて。全力の平手打ちを頬へ放った。
352◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/26(日)01:02:18 ID:BMf [3/12回]
>>348
「うん、分かった。これからは、ちゃんと話すよ」

だからといって、彼女の突拍子もない行動が抑制されるかといえば、全くもって否であろうが。
どうあれ、約束を果たすべき未来が拓かれていなければ何も始まらない。尚も諦めを視界に捉えていないが故の了承だった。
大人しく頭を撫でられて、微かに目を細める。時々赤が掠める白髪は、指の通りを一度たりとも妨げる事はない。

「…………これが、終わったら……?」

しかしその提案を聞いて、呆れるような事はなかったが。すぐに言葉を返す事もできなかった。
何度か瞬いて、虹彩が目まぐるしく赤と青を行き来する。困惑や戸惑に近い反応であると、これまで傍で見ていれば察するのは容易であろう。
悠長にしている場合でないのは分かっている。けれど次に口を開いたのは、たっぷりと時間をかけてからの事だった。

「……それなら、わたしも名前で呼んでほしいな」
「なんだか、今更なような気もするけれど」

何を否定する事があるだろうか。むしろ、遅過ぎるのではないかと、言いながらぼんやりと思った。
それがなんだか可笑しくて、自然と微笑が溢れる。髪を弄る指を取って、両手でふわりと包み込む。
険しい壮途の路であると分かっていても、手を引く力に無駄な緊張はなく。宛ら海上の散歩に誘うかのようですら。

「だから、行こう。約束を無駄にしないためにも」
353◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/26(日)01:15:21 ID:5R8 [3/12回]
>>349>>350>>351

「――――小細工がッ!!」

投擲された日本刀に対して、機械鎧はそれを叩き落さんと拳を叩き付けた。
曰く付きの名刀を、そのままに粉砕させると――――その目前に、もうひとりが迫っていたのには、気付いていなかった。

「そうだ、それだとも。“死は敗北ではない”。それは、俺にとって――――」

心より、心よりの讃歌と歓喜を以て、その拳を迎え入れんとして――――
彼の平手打ちが、機械鎧の頭部へと叩き付けられると、力任せにそれが勢いよく壁へと叩き付けられる。

「ぐぅ、はァァ!!!!」

内部のヘミングウェイもまた、大きく揺さぶられる。
衝撃は鎧を通り、内部へと伝わる――――だが、それを終えた時、自身に命がある事に、ヘミングウェイはひどく疑問だった。
最高の物語の最中にて、命を落とすこととなったとして。それは勝利であると、受け入れていたというのに、ひどく拍子抜けだった。

「――――はぁ、俺に説教をしたつもりか、詩人」

その鎧が動くことはない。重すぎる鎧は、枷となってそこに縛りつけることだろう。
横たえたその身体からは、ヘミングウェイの声だけが発せられる。

「ああとも、俺は作家だ――――そしてこの場にあるのは、素晴らしい“ノンフィクション”だ。
 はは、ははははは――――なんて、なんて素晴らしい!」

碩学は、その意思を以て碩学足り得る。その知識探求の徹底の最果てに、人類が滅ぼうが関係のないことだった。
ヘミングウェイも同じことだ。そしてその在り方は変わらない。キャロルも、ラヴクラフトも、モリアーティも、同じことだった。
だから男は笑うことだろう。そこでひとしきり笑い声を上げて。

「――――正に、お前は俺の“作品じゃないか”」

そうして、ヘミングウェイは沈黙することだろう。
甘粕が、その鎧に一発弾丸を撃ち込んだ。憂さ晴らしのつもりもあっただろう。

そして、残る彼等へと向けて告げるだろう。

『さて、皆々様方――――此処から先の主役はお前達に譲ろう』

背後から、並んだ扉から、無数のオートマータが飛び出した。
それらは質量もさることながら、先程のようなものではなく、一つ一つが凶悪に刃だとか、鈍器だとか、そういうもので武装していた。
甘粕は行き先に背を向けて、二丁の銃を握り締めた。

『つまり、ここは俺に任せて先にいけ、というやつだ。
 何、お前達の中で俺は、捨て置くのに余計な躊躇いがいるような存在じゃあないだろう?』

廊下の奥からは、青い光とともに、冷たい空気が流れ込んでくる。
その先は蜘蛛糸の最果て。終わろうとする世界の、最中枢。目的地まであと僅か。道案内は必要なくなる頃合いだ。
354◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/26(日)01:28:09 ID:5R8 [4/12回]
>>352

「……ありがとう」

今更彼女の、好奇心から来る性質を諌めようとは思わなかったし……それ自体は尊重したいものだった。
だから、ただ話してくれるだけでも十分だった。美珠自身もまだ、話していないことは無数にあるのだから――――
相変わらず、柔らかくもゆるりと通る髪の感触は羨ましいほどだった。何となくそれで、美珠自身も落ち着いた気がした。
……それはすぐにひっくり返ってしまうことになるが。

「……そ、そう……あ、いや、やっぱりなんでも……」

ああ、やはり変なことを言ってしまった――――と、やはり後悔は留まることを知らなかった。
そうなるとひたすら自分を攻め続ける、目を逸らして瞳はパチパチと瞬きが見るからに増えていた。
明らかに彼女は困惑している。出来る限り軌道修正したほうが、傷も浅いだろうと――――言おうとして。

「――――た、確かに、今更だけれど……でも、い……いいじゃない!
 私もちゃんと、よ、呼ぶから……!!」

確かに、本当に今更な話だった。それ自体、分かっていたことだから、そう語気を強くして押し通そうとしたのだ。
彼女の要望も確かに受け取った。安請け合いだった、誰かを名前で呼ぶことに対して――――取られた指は、よく火照っていた。

「……ええ、行きましょう。皆のためにも」

そうして、美珠は豊雲野に誘われて、歩み出す。
代用ウミガメは撫でられたことに気を良くしたか、下手くそで、調子の外れた『ロンドン橋』を鼻歌で歌っていた。
355深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/26(日)01:29:48 ID:6Pw [1/2回]
>>341
「ぐはー!?」
蹴っ飛ばされる深山、なんとか立ち上がって

「いや、その……なんとなく試して見たくなっただけなんです、ほんの出来心で……」
ライフルだけ持ってそれに乗る。
目をそらして終始恥ずかしそうにしていた
356ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/26(日)01:32:41 ID:0KN [2/2回]
>>353
「こんな所に乗り込んでくるような御人好しなのだから躊躇すると思う」

少女は他二人を見て甘粕に言った。
そもそも周囲に思いを伸ばせてしまうからこそ理不尽に憤慨し立ち上がったであろう二人だ。

「それぞれが成すべき事を手早く終わらせれば良いだけの話。
 万事上手くいけば誰も倒れない。変に気負う必要はない、貴方も」

淡々と甘粕にそう告げ歩き出す少女。
時間がないのは始めから承知している。
その中で役目を買って出たのならそれを尊重し任せるのが最適解。
一瞬でも歩みを止める事が致命的なこの状況下でなら尚更だ。
皆がやるべきことをやれば良い結果になる。
確証もない、希望的観測でしかない、それでもそう思い込んで前に進むべき時。
冷たさの権化の胸の内では強い熱が生まれている。

/時間も時間なのでここ等で失礼させていただきます
357 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/26(日)01:40:28 ID:BMf [4/12回]
>>353
自分が差し向けた凶刃が粉砕されようと構わなかった。ただ本命がしくじったら、拳骨でも手向けてやろうという程度だった。
だからその顛末を見届けて、大きな激情に突き動かされる事はなかった。
その鎧の中に未だ命が根付いていようと、障害にならないのであればそれでいい。不殺を貫けるとは思っていないが、強行を好む訳でもないのだ。

「……皆、自分の為に生きてるんだよ。誰かの作品として生きる奴なんて、一人もいねえ」

言い捨てるのはそれだけ。碩学の在り方に覚える言いようのない怒りは、その語勢だけに凝縮されていて。
後は興味をなくしたかのように、視線を不抜の意思を見せた後輩へと向けた。

「ほら行くぞ、まだ終わりじゃねえんだ」
「ここで止まったら今の説教だって、それこそ全部無駄になっちまうだろ」

立つ気力がないのであればその首根っこを掴んででも、進むべき道へと促して。
無理矢理な奮起は多少なりとも気を遣ってか、縦社会を利用して有無を言わさずとばかりであったが。
殿を引き受ける言葉を受け止めて、思わずその足を止めた。

「……お前……」

長く言葉を交わした訳ではない。けれど、共に死線をくぐり抜けた、所謂戦友に近い情があるのも事実だった。
ならばここに留まって、無用な犠牲を減らす方を選ぶか。少し前の彼であれば、その天秤に揺れていてもおかしくはなかったのだろうけれど。

「……死ぬんじゃねえぞ。空中散歩の礼も、まだしちゃいねえんだからよ」

今ではその決意を、救うのではなく無駄にしていけないと理解できた。それは誇りに砂をかけると同意義だ。
振り返らず、それだけを言い残して。強く食いしばった歯が軋るのを抑えきれないまま、最奥へ駆け出すのだろう。
358 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/26(日)01:46:41 ID:Y8w [2/5回]

>>353

拳を握ったままであれば、その頭を破裂させるに足る威力だったのかもしれない。
ただ、その平手に加減はなかったし、理性も無かった。伝えたいと願うだけの思いがあって、自然と開いた。

「説教……そうだ。若葉が老木を締め直してやるんだ。
 ……ああ糞、なんでこんな奴の本を好きになったんだ。」

迸る賛歌は、彼以外の誰にも書けない。数百項の、数万の言葉全てが唯一で、だから胸に刻まれた。

「物語も、詩も、伝える誰かが居ないなら何の意味があるんだ。
 ……学問もそうだろ。なぁ、お前らは、なんなんだよ!!」

伝える。伝わる。あげて、もらって。幾らか捻くれていても、言葉のその機能を軽視したことはない。
もう少し器用に、詠う以外に手段があればそうしたろうけど、無かった。
まだ、湧き上がる言葉は山の様に。なのに、"そう"言われて。何も言えなくなって。梛に肩を引かれるまで、動けなかった。

あれだけの感情がすっかり霧散したみたいに、身体には力がこもらなくて。歩きはするけど覇気はなく。

「……わかってる。
 俺が止まったら、それこそ終わりだろうが。」

その言葉を自分に言い聞かせて。彼よりも先に、奥へ奥へとひた走る。
359◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/26(日)01:55:48 ID:BMf [5/12回]
>>354
羞恥を誤魔化そうとして荒げる声に怯む要素はなく、むしろ可愛らしいとさえ。
熱を持っているとすら錯覚してしまいそうな指を離さずに、両足を乗せた亀の甲羅は存外しっかりとしているように思えた。

「さて……よろしくね。わたし達を閉じこめる、あの壁まで連れて行ってほしいんだ」

一方彼女といえば最低限の喜怒哀楽は備わっているが、恥じらいに関しては特段人よりも薄い。
故にこそ相手が動物でもこうして平然と声をかけられる、返事が来るとは流石に思っていないが。
もう一度、代用ウミガメの頭をひと撫でしてやって。ついに陸から離れたのならば、慣れない振動に美珠にしがみつく形になるだろうか。

「……最近のカメって、マザーグースも歌えるんだね。彼っぽいっていうか、なんというか……」
360◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/26(日)02:07:32 ID:5R8 [5/12回]
>>356
>>357
>>358
「なるほど、それは確かに……」

ラファの言葉に、意外なほど素直に甘粕は頷いた。
果たして、こんなところに乗り込んでくるほどの使命感の塊達が。然し何よりその言葉の主が冷静冷酷であることが胸を打った。
しかしだからと言って、その役目をやはり辞めるということはない。

「うん、まあ、その通りだ。全員万事上手くやってくれ。
 だから久々之千。死んでほしくなかったら、できれば早く終わらせてくれよ」

軽い口調で、彼等へとそういった。そして両の手に握る銃の引き金を引き続けた。
炸裂する弾丸は人形達に吸い寄せられ、一つ一つと脱落させていくが――――数が多すぎると、舌打ちをして。
それでも、最奥へと駆け出すのを見送ったならば……もう一度、噴進砲を片手に、そして腰元の軍刀を引き抜いた。

「さぁ、さぁ、さぁ――――映画ならば、メチャクチャに画になったシーンだなぁ」

冷や汗を流しながら、立ち向かっていくが。
そうしたならば、彼等の背を、オートマータが襲うことは無かった。


――――さて、その最奥には。

まるで神殿のようだった。機械の神を祀るとしたら、きっとそういう形になっていただろう。
静かな部屋だった。ただ、計算機の静かな駆動音だけがゆっくりと息を吐いていた。
それから、とても寒い部屋だった。おそらくその計算機を冷やす為なのだろう。
大きなスクリーンがあった。そしてそこには、地球の頭上に現れた、もう一つの地球を映し出していて。

安楽椅子の上で、ジェームズ・モリアーティは、温かい紅茶を片手にしていた。

「――――完全犯罪に至るべく。計算を、終了した」

背を向けたモリアーティは、足を踏み入れた彼等へと向けたものか。静かにそう告げることだろう。

/了解しました。
/それでは長くなってしまうので、一旦ここで一区切りとし、置きを交えながら明日の夜よりまた本格的に進めるのは如何でしょうか?
/長くなってしまって申し訳ないのですが……
361柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/26(日)02:10:16 ID:Y8w [3/5回]
>>360
//置き了解です。
//私はその方針で大丈夫です。
362 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/26(日)02:10:59 ID:BMf [6/12回]
>>360
//こちらもそれで大丈夫です!
363◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/26(日)02:11:19 ID:5R8 [6/12回]
>>355
「凡人がどう足掻くか見物と行くかと思ったら!!
 それでは、エジソンも“凡愚”と言うわ! 全く……いや、気にするな。こっちの話だ」

『こっちの話……はぁ……』

ベルメールは彼を罵りながら、適当極まりなくメアリー・シェリーにそう誤魔化しを入れる。
そして彼がそれに乗ったのを見たならば、少々距離を取りながら説明をする。

「バイク乗ったことはあるか? そのまま右のハンドルを捻ろ。そうしたら加速する。
 そうしたらあそこまでひとっ飛びだ。分かったか? なんでぼくがこんな説明を……」

ベルメールの言葉通りに操作すれば、殺人的な加速とともに、彼を空へと連れて行くだろう。
それについて説明しなかったのは、単に意地悪を発揮しているだけだが。
364 : ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/26(日)02:12:06 ID:5R8 [7/12回]
>>361
>>362
/了承いただき有難う御座います
/それでは、一旦お疲れさまでした
/独立したロールについては返信していきますね
365◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/26(日)02:26:35 ID:5R8 [8/12回]
>>359

「言葉は分かるのかしら……あ、分かるみたい……?」

亀の甲羅の上に乗るという体験など、そうそうあるものではあるまい。
それが普通の亀ではないのは間違いないのだが――――とにかく、乗ること自体に問題は無さそうだ。
彼女のお願いを聞くと、代用ウミガメは泳ぎだす。正しくその歩みは海亀のごとくではあったが、波に負けること無く進み続けた。

「……え、最近のカメも……歌わないんじゃないかしら……。
 多分……『不思議の国のアリス』の、ウミガメモドキだと思う」

彼女がカメに話しかけたことよりも、最近のカメと表現したことに美珠は驚いた。
揺れる振動にしがみつかれると、それに美珠自身、驚きを含めつつも悪い気はしていなかった。
そこにいる彼女の体温や指先にこもる力に確かに存在していることを、より強く感じられるからだった。

「……本当にルイス・キャロルの世界に来たみたいね」

彼女の腰に片手を添えて支え、取り敢えずは座っても大丈夫そうだと、腰を下ろすように促すだろう。
ゆっくりと、ゆっくりと、世界を分け隔てる壁へ進んでいく。
ウミガメモドキに乗りながら行くのは、正に童話の世界のようだと思う。青い空を見上げて、呑気なものだと自嘲する。
366深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/26(日)02:37:53 ID:6Pw [2/2回]
>>363
「目の前に1%でも希望があるように思えればすがりつく、それが僕の流儀なんですよ」

自分の出来る事は限られてる、だから目の前にあるものを手当たり次第に試して何が悪い。
そう言った態度で凡人と言われてそれを気にするどころか開き直って来た。

「やる前に無理だって決め付ける天才よりはいいでしょう」
367◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/26(日)02:54:24 ID:BMf [7/12回]
>>365
童話が全て現実に映し出されると思える程に、夢見がちな性質ではないはずだったが。
長く狭い世界しか知らなかったが故の弊害か、少々世間を知らない傾向は多々あった。

「…………そう。皆が皆、歌う訳じゃないんだ」

それこそ幻想世界に限らず、歌うカメが世の中には広くいてもおかしくはないと思うくらいには。
だからなんとなく、本当になんとなくだが。真っ向から否定されて、どことなくがっかりしたように目を伏せた。

「こんな時じゃなければ、もっとゆっくり出来たんだろうけれどね」

などと言いつつ、その態度が平時と大きく変わっているようには到底見えないのだが。
支えられながらゆっくりと座りこむ。乗るどころか、初めて目の当たりにする甲羅を興味深げに撫でて。
遠ざかる白い浜辺、迫りつつある隔絶の壁。そのどちらにも意識を傾けるでもなく、久方振りの蒼穹を仰ぎ見た。

「でも、わたし達が行きたいのはそこじゃない」
「ウサギを追いかけるのもいいけれど。わたしはもう少し、のんびり世界を見て回りたいな」

島から見上げる青空は広いように見えて、自由ではなかった。硝子の向こうに広がるまほろばに近い景色だった。
むしろ今思えばあの大時計がなくても。これまでずっといた場所は、空と海の蒼で囲われた籠の中に過ぎなかったのかもしれない。
だからこの海路は、ちょっとした脱走劇のようなもの。進んでも近づけない水平線も、今は不思議と憎らしく思えなかった。
368◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/26(日)03:18:03 ID:5R8 [9/12回]
>>366

「口だけならば何とでも言える。
 結果を出さなければ、その流儀とやらも糞の役にも立たん」

流儀、拘り、プライド、全て結果を出さなければ何の役にも立たない。
碩学たるベルメールはよく知っている。
才能のないものほど、そういう物をがなりたてる。

「したらば早く行け。ぼくはおまえとごちゃごちゃと言い合いを続けるためにここに居るんじゃない!」

重要なのは結果だ。起こした結果が重要なのだ。爪先で脚に蹴りを入れて、再度飛び立つように促した。
369柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/26(日)03:35:02 ID:Y8w [4/5回]
>>360>>357
吐きだす息は白く、放射熱に晒された身体が罅割れるような感覚。
痛みは、反復する言葉にて埋まる頭に届かない。作品だと、その意味を探索し続ける。
彼ならきっと、気にするなと言って蹴飛ばしてしまうだろう。誰かの作品として生きる人間など居ない、きっと間違いじゃない。
けど、たった一つの正解でもない気がして───

掌に満ちた血液を顔にぶつけて目を覚ます。今、思考するべきは目の前の計算を砕く事のみ。
あの男の背が見えた。その部屋に踏み入れる、その寸前に、吐き出した。

「俺と、お前と、淡島と、その友達と鍋でもつつこうって言ったけどよ。
 そこにあの軍人と……偏屈爺も呼んでいいか?
 色々言い足りねぇんだ。」

押しつけがましい少年にしては、なんとも遠慮がちに口にした願望だった。
彼があの作家に対して怒りを抱いている事なんてわかりきっていたし、自分だってそうだから。

「……柄にもねぇ。
 さっさと行こう。解答欄が間違いだらけって教えてやらねぇと。」

答えがどうあれ、ついにその部屋に踏み入れた。
終局的犯罪の、その場面に詩人は立つ。
370◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/26(日)03:36:15 ID:5R8 [10/12回]
>>367

彼女が落胆の意を見せる時、というのは、少なくとも美珠の前では珍しいものであった。
まさかこんなところで、それを見ることになるとは思わなかった――――と、慌ててフォローに入るのだが。

「……な、なら……一緒に海亀を見たりもしましょう。
 もしかしたら、歌うカメもいるかもしれないし……」

世界は広い。美珠自身、そういうものに詳しいわけでもないから、もしかしたらどこかにいるかもしれない。
クジラが歌うという話もあるのだから……少し無理があるとは、自分で自分の思考に思った。

「そうね。こんなお伽噺みたいなこと、もうきっと二度とない」

代用ウミガメは、上機嫌に鼻歌を歌う。今度は『誰が駒鳥殺したの』だった。
けれどこんな事件がなければ、ドジスンと彼女との出会いもなかった。無論、佐野美珠という少女は未だ孤独だったことだろう。
空を見上げる豊雲野の姿を、美珠は見つめながら答える。

「そうね。不思議の国よりも、まずはこの世界を見ていかないと。
 せっかくの外の世界を、自由に、ゆっくり……」

佐野美珠という少女は、彼女よりは世界を知っていた。元々は本島に住んでいて、学園都市で生活している時間のほうが短かった。
けれど見える世界はいつだって薄暗く、思い出そうとすれば、いつも白黒になって、その色を、どうしたって思い出せない。
色付いたのはつい最近、この学園都市の狭い世界の中。いくらモノクロを重ねても、その輝きには敵わないだろう。

「……そろそろ、なのかしら」

だから籠の中の鳥を連れ立って旅立てば、どれほど世界は色を取り戻すだろうか。
代用ウミガメが、そこで止まった。マザーグースは止まらなかったが、その代わりに、目の前には世界を遮る断絶の壁があった。
計算リソースを向こう側に割いている今――――ガラスやアクリルのように、僅かに光を屈折させて、文字通りの壁として振る舞っていた。
371 : ◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/26(日)03:42:54 ID:yLK [1/1回]
//すいません、本日は落ちとさせて頂きます
//明日以降もよろしくお願いします
372◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/26(日)04:09:05 ID:BMf [8/12回]
>>370
「本当?それは楽しみだな」

少しばかり、声が弾んだようだった。錯覚とも取れるくらいに微かな変化ではあったが。
甲羅の上で、跳ねる白波から逃げるように身を寄せる。その下で自由に泳ぎ回る魚達も、彼女はまだ見た事がない。
図鑑や写真とは違う、生命の息づく営み。そこに思いを馳せるだけでも、胸が期待にきゅうと鳴った。

「空飛ぶ馬や角が生えたウサギ、羽のある蛇……本当はいないんだろうな、とは思うんだけれども」
「いるかもしれないって考えるだけで、外がもっと楽しみになるんだ」

例え排煙に汚れ、今現在頭上に浮かぶもう一つの惑星のような青は望めないとしても。
白い羽を大事に畳んで籠の中で生を終えるより、逆風に散らしてでも自由が欲しいのだ。
無限の空に届くのであれば、何が羽を千切ろうと傷つけたって、恐れず目指していきたかった。

「だから――今だけ、ちょっと無理をするよ」

膝と片手をついて、揺らめく壁へと指を伸ばす。触れて改めて理解するのは、これがあくまでも末端である事だ。
有限の演算能力が星の招来へと割かれていれば、この壁の強度が下がるのは自明。その二つの出力先に、何らかの因果関係が見出せないのであれば。
大時計が巡らせた壁の持つ性質を、持てる力の限り引き上げて。多元を証明するためのリソースを、無理矢理にでも壁に注ぎ込ませる腹積もりだった。
373◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/26(日)04:21:32 ID:EBA [1/2回]
/申し訳ありません、次の返信はまた後程となってしまいます…
374 : ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/26(日)04:22:01 ID:EBA [2/2回]
/申し訳ありません、次の返信はまた後程となりそうです…
375 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/26(日)04:47:45 ID:BMf [9/12回]
>>360
気軽な言葉にも、轟いた銃声にも振り返りはしなかった。前だけを見て踏み鳴らした靴音が、何よりの答えだった。
それよりも拙いと思うのは、すっかり腑抜けたようにしか見えない後輩の方。新月よりも暗い消沈具合に、最早見ていられない。

「…………おい」
「さっき言われた事、そんなに響いてんのかよ」

だから思わず口にした言葉は、ひどく突き放すような響きを伴っていた。
部屋の手前で止まったその隣を通り抜ける真似はしない。そのまま行かせては駄目だろうと、直感が叫んでいた。
もしも彼の背中が意気地のないままであったのなら。きっとらしくもない辛辣な言葉を投げて、反骨心を煽ってでも発破をかけていたのだろうが。

「駄目な訳ないだろ。知ってるか?鍋ってのは、人数が多い方が楽しいんだぜ」
「……だから、これくらいで折れるんじゃねえよ。隣で戦うって言ったじゃねえか」

一先ず持ち直したのだろうとは思えたから心にもない言葉を飲み込んで、代わりに吐き出す声に怒気は孕んでいなかった。
己の知的欲求を最優先にして他者を顧みない在り方には、確かに激烈な怒りを抱いている。けれどその人格をも否定できる程、完璧な人間ではないのだ。
それに、慕ってくれる後輩の珍しい頼み事なのだから。断るなんて、イルカが空を飛んでもあり得ない事だった。
呟いた切願を残響に置いて、更なる一歩を大きく踏み出す。開けた視界、その全容を脳が把握するよりも早く。

「――――それ以上、させるかよォ!!!」

崩れる歩調は投擲のステップ、手には長槍。先手必勝の投槍は、氷冷の空気を穿って計算の騒音をも喰らう。
投げ放たれたのは赤に染められた『ゲイ・ジャルグ』、獄閃の軌道は寸分違わずモリアーティの後頭部へ。
御託はいらず、言い訳を聞き入れる気もない。抵抗の前に終わらせられるのであれば、それが最善であるはずなのだから。
376 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/26(日)04:48:16 ID:BMf [10/12回]
>>373
//了解です、皆さん一先ずお疲れ様でした!
377 : ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/26(日)17:52:13 ID:jdM [1/2回]
>>360
「!」

最早一刻の猶予もない。
もしかしたら間に合わないのかもしれない。
それでも動かない理由にはならない。
教授の戯言に耳を貸す気はない。
そもそも交わすべき言葉などあるわけもない。
少女は教授に一切の関心を払わず、ただ只管に計算機へと滑り出す。
事は動いている。
それを巻き戻すためには再度計算機を使う以外に妙案が浮かばない。
少年が用意した宝石は不幸な事に日の目を見る事になるだろうか。
用意した起死回生の術式を計算機へと叩き込む為少女は行く。
378◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/26(日)21:13:13 ID:5R8 [11/12回]
>>369>>375>>377

「――――世界が終わるまで、あとほんの僅かだ」

ジェームズ・モリアーティの指先が動いた。
ゲイ・ジャルグ。魔術殺しの槍。それは正しく、“概念的切除、再接合”を以て――――ほんの一部も勢いを抑えることなく。
計算機を破壊しようとするラファへと矛先を変えることになる。そしてジェームズ・モリアーティは、ゆっくりと立ち上がった。
ステッキが音を立てて、床に叩きつけられる。そしてそこに訪れる終末を仰いだ。

「講義は、君達を計算機とするための最後の一手だった」

ディスプレイに、幾つもの数字が映し出されていく。
エラー表示が取り払われ、急速にオンラインの表示が広がっていく。
膨大な計算が再開され、頭上に浮かぶもう一つの地球は、更に鮮明な姿を描き出していく。

「ここは私の計算式の中枢だ。ならば、ここに居る人間が、最も影響を強く受けることになる」

そして、そこにいる全員の脳内に、ジェームズ・モリアーティが実行する数式が流れ込む。
膨大極まる術式は、自我というプログラムを実行する容量すらも奪い去って、脳髄を純粋な計算機器へと変貌させるものだ。

「邪魔はさせないよ。私の“夢”が、ようやく叶う、その時が来たのだから」

肺炎の薄く烟る部屋。小さく、大階差機関の計算の音は、未だ終わること無く響き続ける。
379◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/26(日)21:25:25 ID:5R8 [12/12回]
>>372

――――大階差機関による計算は、既にこの断絶の壁を手放しつつあった。
必要がなくなった、とも言えるだろうか。最早学園都市の外側から干渉しようにも、絶対に間に合わないという状況にある。
だからこそ、その壁の実体は急速に形を失っていった。元より透明な檻は、正しくその強度を失って、本来の形を取り戻そうとしている。
揺らめく壁へと向かった指先を、追いかけて――――

「無理って、一体――――」

――――彼女が能力を行使しようと力を用いたのであれば、確かにその計算と壁との間に繋がりがあることは分かるはずだ。
既に薄まろうとしている壁の強度を引き上げれば、必然的に計算のリソースを強制的に奪われることになる。
理論上で言えば、可能だ。可能だが――――その計算式の膨大極まる形を以て、“抵抗”となるだろう。

大凍結時計の計算はクイーン・ヴィクトリアが代行する。
それは碩学級の頭脳の持ち主であろうとも、一人では追い付かない大計算の連続だ。

それを再起動させるとなれば――――直接の計算でなくとも、“相応の負担”が術の実行者にもかかるだろう。
それこそ、少なくとも、ただ一人では成らぬほどの。それが型破りに対して、横たわる壁だ。
380ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/26(日)22:16:42 ID:jdM [2/2回]
>>378
「!?」

真横から強い衝撃を受けたと認識した頃には少女の肩は槍に貫かれそのまま壁へと縫い付けられていた。

「っぐ!?」

全くもって此方に関心など無いだろうと高を括っていたのは否めない。
仮に幾何かの注意を此方に向けても他の二人が対処してくれるだろうとも。
その結果は思いもよらぬ一撃による磔だ。
だが裏を返せば計算機へ干渉されるのは彼方としても捨て置けないと言う事だろう。
ならばやるべき事は変わらずそして何より。

「…未だ完全に読み間違っていない」

相手の手の内は全てではなくとも既に知れている。
精神干渉に何も対策をしないまま、何も仕込まぬままノコノコと格上相手の根城に誰が赴くものか。
教授の干渉が始まった時点で少女は少年から託された宝石を凍結し、砕き、術式を起動させる。

「細工は流々、仕掛けは上々…後は仕上げを御覧じろってなあ?』

人間とは五感をもった類い稀なる計算装置。
情報を収集、解析し、対応できる知性体。
それを解し、意志に応じて変化を生ぜしめる学にして術を修めし魔術師なれば。
少年が思い描いた対教授戦において重点を置いたのはネットワークの有無である。
教授が個々の繋がりを構築し全体を一つの計算装置に仕立て上げようとしていたのは明かされていた事実だ。
だからこそ少年はその繋がりを徹底的に断ち切る事を念頭に置き、己が振える限りの技術を全て其処に費やした。
出来上がったのは『孤立』と『総意』を実行するプログラム。
全体との繋がりを断ち切りながらも全体の望む行動をとろうとする代物。
設定された総意が果たして実際の総意であるかは重要ではない。
少なくとも決戦の場に集った面々が抱いていた意志であろうと少年は望み構築した。
 
『…っ』

少女の体を貫いた槍が凍り砕ける。
その瞳が紅く煌めく。
外部からの干渉をシャットダウンした事で五感をも失う。
常人であれば致命的、その場で佇むだけの肉の塊。
されど異能にして魔術師たる少女においては更に上の感覚を剥き出しにする術でしかなく。
第六感の開放はそのまま魔術師としての次なる高みに至る事に相違なく。

『第二ラウンド!』

その体の所々に氷と見紛う魔力結晶を纏い、魔術にて周囲を見、自らの体を操り戦う少女が生まれた。
このふざけた行いを叩き潰す、実際であろうとなかろうと、その総意実行の為に再度計算機へ!
381 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/26(日)22:27:33 ID:BMf [11/12回]
>>378
「終わらせねえ為に来てんだよ――!!」

魔槍が頭蓋を抉り抜いて、真赤の散華を描くのであれば。そんなのは希望的観測に過ぎないと分かってはいても。
当たらないとして、その過程に予測できるのは回避か弾かれるか。百歩譲って夢幻の如く、肉を晒して尚死なないか。
少なくともその軌道が不自然に捻じ曲げられて、あらぬ相手へ穂先を向けるとは。咄嗟に頭は追いつかず、言葉よりも行動が先んじる。
追撃ではなく、己が創り出した撃滅の槍を消し去る方を優先。間に合わずとも、やるしかない。

「なッッ――――」

しかし脳に直接流しこまれる数式を押し留める術など、持ち合わせているはずもなかった。
思考が計算に塗り潰される。立ち方さえも指令を出せず、その場で力なく膝をつく。
言葉を認識できるだけの容量も残されていない。今にも割れそうな頭を抑え、輪郭のぼやける視界で睨みつけるだけ。
だからそれは、脳髄が必死に組み立てた行動などではなく。

「――――ッッ!!」

何かを投げつける仕草。さして力は入っていなかっただろうに、その軌跡は鋭い直線を描いて教授へと牙を剥く。
ひとりでに標的を見定める人喰い刀『エペタム』に、持ち手の意思など必要ない。ただただ血を吸うためだけに、妖しく刀身をぎらつかせるだけ。
それは後先など考えちゃいない、脊髄による反射的な行動だった。正しく細胞の一つ一つが、同一の意思に応えるが故の。
無論その抵抗が長く続くはずもなく本人は、自我が蹂躙される悍ましい感覚に呻き声を漏らすしかないのだが。
382◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/26(日)22:27:49 ID:BMf [12/12回]
>>379
抵抗の産声を肌で感じ取って、理解してしまった。この大階差機関が持つ、深海の如き計算式の重みを。
人一人の脳味噌を遥かに超えた処理能力。それはほんの少し弄る程度であれば、自衛を働こうとはしないのだろうけれど。
今からやろうとしているのは、そんな可愛らしい悪戯なんてものじゃない。ある程度の無茶は、覚悟の上だった。

「…………っ……」

元より強靭とは呼べない肉体、襲い来る数式に手一杯の頭は身体の支配を一時的に放棄する。
力の抜けた身体はそのままでは海に落ちるより他ににいだろうが。今は支えてくれる友達が、そこにいる事を知っている。
到底処理しきれない式の羅列の捌け口を探して無意識に彷徨った、手持ち無沙汰な片手がずっと持ち歩いていたソレに触れて。

「……!…………く、ぁ……」

その瞬間、彼女自身の肉体は計算の掌理を放棄した。かと言って、過干渉を諦めた訳ではない。一層に身を灼く感覚に、微かな声が零れる。
終端ではなく、導体として。本人に自覚はないが、厳密には人の子ではなく、錬金術によって生み出された器だからこそ選び取れた芸当。
そしてその計算を代わって一手に引き受けるのは、よくよく沈黙を保ち続けていたMの書に他ならないのだ。
383 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/26(日)23:45:51 ID:Y8w [5/5回]
>>378

ほんの少し、小数点の先、零の果ての遅れだとしても。この瞬間に於いては致命の刹那。
魔術師の少女と、槍を振るう。だが詩人が動くよりも前に、終局が再起動する。
砂漠の砂粒の様に、集合した意識の中で個人の意識など無力。悲鳴にすらならない声を上げて額を抑えた。

歴史に名を遺す碩学は、まさしく世界そのものを変革するだけの存在だろう。
もしも電気の発見がほんの少し早かったら、蒸気の排煙の代わりに電灯がこの世界を埋め尽くしただろう。
もしも平行世界が証明された後地球が現存するのであれば、世界と言う言葉の意味その物が変わるだろう。
であれば、作家には、詩人には、世界を変えるだけの力がないのか。

アーネスト・ヘミングウェイは、その精神を国に刻んだ。
ルイス・キャロルは、不可思議で未知の世界を描き、展開した。
H・P・ラヴクラフトは、超宇宙的恐怖を現実にした。

自分を、彼らに及ぶような作家であると自負する程自惚れるつもりは無い。それでも。
魂より零れる詩を、久遠の未来にまで残すだけの自信はあるんだ。
だから、その自我が碩学に匹敵する程に強くあるのであれば

悶え苦しむ以外にあり得ぬ地獄の中で。無数の意識に埋もれることなく、出鱈目な奇声を上げながら走る。
二人の様に、器用に無意識のまま戦うなんて出来ないけれど。まっすぐ走るぐらいは何時だってできる。
その先は教授の背後、未だ駆動する演算機へ
384◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/27(月)00:48:16 ID:ac1 [1/5回]
>>382


――――その場に於いて、佐野美珠少女に出来ることが、果たして幾つあっただろうか。
少なくとも、膨大な数式に悶え苦しむ友の姿を見て、それを肩代わりすることも出来なければ、苦しみを共にすることも出来ない。
ともすれば、ほんの僅かでも、戦力として向こう側に向かうべきではなかったのか。そうとすら思った。

「淡島さん!!!」

だから、そこに共に在るという意味を、美珠は理解していなかった。
少なくとも、必死で、それでいて困難に立ち向かっているということ。ただそれだけだった。
ほんの僅かなこの黎明式を、どうにか補助に当てられないかと考えても、それは全体からしてみれば、あまりにも些細なものだった。
ただ、彼女の身体が海に落ちないように、その身体を抱き締めた、強く、強く離さないように。

「――――ごめんなさい……私に出来ること、何も――――」

淡島豊雲野が、Mの書に触れた――――それは一人の碩学が残した魔術礼装。
変動する未来を常に肯定し続けるものであり、クリスティアン・ローゼンクロイツが賢者達に授けられた原初式によって構成される。
純粋なる原初式は、如何なる数字にも至る――――それを以て、そこにある“二つの脳髄を効率的に利用した、計算式の修正”が行われる。

「――――壁が……」

それは最適化を成した。この世界を隔てる鳥籠が、形を取り戻した。
大階差機関《クイーン・ヴィクトリア》は――――その運行リソースの割り振りを、再設定した。

385◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/27(月)00:49:51 ID:ac1 [2/5回]
>>380>>381>>383

ジェームズ・モリアーティの身体を、人喰らう刀が放たれた。
それはきっとモリアーティを容易く刺し貫いてしまうに違いない――――だが、構わなかった。
ここであの刀が、自身を貫いたとして、その結果自分の命を落とすことになっとしても、何も、何も問題などありはしなかった。
それを見届けるだけの時間は残されていると、確信していた。

「もう、遅い」

撃ち出された弾丸を止めるために、銃を破壊したところで意味がないように。
モリアーティの命脈が断たれるよりも早く、彼等が計算機に辿り着くよりも早く――――計算は完了し、もう一つの地球が顕現する。
それで終わりだった。それで終わるはずだった。

「私の――――“勝ち”だ」

静かに、その数字が完了を指し示そうとしていた。
すべて満たす。ジェームズ・モリアーティの完全犯罪は成立する。ほんの僅か、小数点以下の遥か那由多の彼方にのみ、失敗の可能性を残して。
そうして、平行世界の証明が完了する。この地球に存在する、すべての人々を殺し尽くし――――終局的犯罪は、ここに達成される筈だった。

「――――何故だ」

正しく、満たされた犯罪の器に――――小さな、小さな穴が空いてしまった。

「――――何故、今、計算が、遅れた――――」

数式への不正介入。ほんの僅かな計算の乱れ。計算領域の僅かな変化。変動。その数字を、確かに、モリアーティは“見た”。
遅れたのは、ほんの僅かな時間だろう。如何程か。きっと小数点以下ほどもない。緻密極まる計算を以て、勝利を確信していた。
安楽椅子から、胸を抑えて立ち上がった。右手には拳銃が握り締められていた。何の変哲もないものだった。

「それに……クイーン・ヴィクトリアに!」

ならば、その場にいる無意味だった全てが、意味を持つようになってしまう。
孤独を以て再起動し果たさんとする魔術塊も、新たに産声を上げようとする新たな碩学も、刺し貫かんと放たれた人喰いの刀も。
ここで、大階差機関を破壊されれば終わりだという――――モリアーティの味わったことのない、最後の、“最悪な計算ミスが”。

「――――触るなぁ!!」

乾いた銃声が響き渡る。二人を止めようと、我武者羅に引き金が引かれて、そこら中に弾丸が跳ね跳んだ。
銃弾の一撃が計算機に当たったところで、その程度では壊れはしない。しないが――――最早、今更説明の意味もあるまい。
蜘蛛糸の中心に坐し、計算を以て、自身の理論実証のために、多くの人々を絶望へと招いた、犯罪者、ジェームズ・モリアーティは。

何十年も忘れていた、焦燥と共に、懇願するように叫び、そして。

――――モリアーティの胸を、刃が貫いた。
386◆</b></b>vplVQ5Q2UQHz<b>[] 投稿日:20/04/27(月)01:22:29 ID:0bD [1/1回]
//すみません、ここ最近忙しく読みに回っていたのですがMの書っていつの間に淡島さんに渡ったのでしょうか(複数あるとかでしたら申し訳ありません)
//出てこられてなかった身分で水を差すような発言で申し訳ないのですが、学生の集まりのイベントに参加した身としてはちょっと気になる部分でしたので伺わせていただきます
387 : ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/27(月)01:46:04 ID:ac1 [3/5回]
>>386
/相談スレでお答えしますね
388◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/27(月)02:51:23 ID:Pd8 [1/4回]
>>384
外傷を負っている訳ではない。されど己を演算の通り道にする事は、雷が背骨を伝うと同義だった。
叶うものなら、今すぐ手を離してしまいたかった。心身を占める数式から解放されたかった。

「……っ……、……佐野、さん……!」

けれどそうしようと思えなかったのは、一人ではなかったからだ。
背中を押してくれた先達がいる。遠くで戦っている仲間がいる。
そして何より蒼天の未来を約束した、抱きかかえて支えてくれる友がいる。
ならば、諦められるはずがなかった。視界が白く塗り潰され、指先の感覚が失せようとも。

――――全く、こうもしっかりした子に育つとは思わなかったよ

明滅する世界の中で、覚えのない声を聞いた。青白い輪郭が女性らしい形を描いて、愉しげに笑いかけているように思えた。
白昼夢のような錯覚に、魂が囁いた。高負荷の演算処理の足しにするため、無理矢理表に引っ張り出されたようなものではあるが。
彼女は間違いなくずっと秘せられていた、自分を構成する最後の欠片であると。それに触れる事は、欠けていたものを取り戻すという事であると。
それでもどちらともなく手を伸ばしたのは。淡島豊雲野という一つの自我の強度であれば耐えられると、確かな信用があったからだ。

触れ合う瞬間、打ち寄せる記憶の奔流には、不思議と恐怖を感じなかった。

「――――反転」

徐に呟いた言の葉は、その通りの試行を意味した。
一方向に流れる演算の行く先を翻転させる。出力機関であるはずのそれに、吐き出された計算式を叩きこむ。
本来は持ち得ないはずの芸当。ならばそれは、生来備わっていたものを、取り戻しただけに過ぎない。
黎明式から異能へと形を変え、不完全な継承だった背反術式《シークレット・ドクトリン》は、元より事象の制馭・反転を本質とするのだから。
389◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/27(月)02:51:28 ID:Pd8 [2/4回]
>>385
耳が、口が正常に機能していたのならば。何が遅いものかと、憤懣として叫んでいたのだろうけれど。
今出来るのは片膝をついて、薄らぼんやりとした視界を煌く妖刀の行方を追うだけ。

「――――ッァアア!!」

だから脳のほぼ全領域を占めていた計算が、ほんの僅かに綻んだ瞬間。溜め込んでいた衝動を一気に解き放つように、強く地を蹴って飛び出した。
自律とはいえ、人の胸を刺し貫いた事に。その柄を握って一息に引き抜くのに、なんの躊躇いもない。頬に落ちる返り血は熱く。
返す刀でずくりと刃を埋めた腹は、梛自身のものだった。戦場に赴く前、とある少女に無理を通して代償を抑えてもらって尚、血を必要とする秘宝を呼び起こすために。

「こいつで――――」

もう慣れつつある体内の血液が急激に失われる感覚、それもかつてない程の。
飽くなき碩学の探求を、邪気のない悪事を断つには、それだけの得物である必要があった。この島でなければ、決して応えてくれないような。
完膚なきまでに滅さなければならないと、耳元で誰かががなり立てる。爪先から髪の一片までの全細胞が、前に進めと奮い立てる。

「――――終いだあああああ!!!」

天流乱星、夜裂一閃。そこに宿る焦慮、渇望、嘆願全てを、『天之尾羽張』は薙ぎ払う。
その殲斬は実体の刃に留まらず、後方の機械神にまでも斬撃を齎すのだろう。
ああ、自分は今この時の為に遣って来たのだろうと、引き千切られそうな意識の中で他人事のように思った。
390 : 深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/27(月)10:54:57 ID:0Id [1/2回]
>>368
「……は、はい!」
ちゃっちゃと教授たちの戦線へと入っていく深山。
武器を構えて突入していく

//遅れて申し訳ない……!
391 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/27(月)15:12:27 ID:WRV [1/1回]
>>385

無数の意識に沈みゆく中で、自分の手足がどこに在るかすらわからなくなっても、歩みを止めることはなく。
無意味で無価値、無謀でしかないその行動は、残り二人の仲間の手によって意味を取り戻す。
青天の空へ機械仕掛けを蹴り上げて。裂けた皮膚から赤い煙が上がる。感情の排煙を立ち上らせる

「あぁ、こいつで────」

振り返る事無くとも、彼が放った殲斬の位置を理解する程度には、彼を信頼しているのだから。
脚を振り上げた体制のまま飛び上がり、その地点を斬撃が走る。

血の滴る音は聞こえてる。命を削り続けて、次はきっとその芯にまで到達する。
犠牲なんて要らない。戻らない何かが在っては、綺麗な結びだとは思わない。
故に、鉄槌の如く振り下ろす、その一撃は

「────終いだらァァァァッァ!!!」

放たれた斬撃を、機械の深く深く心臓まで押し込もうと。
これにて終幕だと言い切るために。

"ノンフィクション"は終わりだ。あんたの作品だと言われても、今は悪い気はしない。
あんたと出会わなければ戦わなかった。先輩と出会わなければ勝てなかった。淡島とその友達がいなければ無数の意識に埋もれてた。
きっと、自分は彼らとの思い出で構成された"作品"だから。
392 : ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/27(月)19:15:46 ID:zz8 [1/1回]
>>385
予想外であった。
強烈な干渉を受けて尚、二人が自らの意志を貫き、そして通さんとしている事が、だ。
強き意思を持って望むべく先を掴み取るその様は真に魔術の御業と相違ない。
それを成しえるとは思っておらず、教授程ではないが少女もまた彼らを見誤っていた。
自らが動き現状の打破をと躍起になっていたが、最早その必要もないだろう。

「露払い」

成すべき事を成そうとする二人の行く手を阻むもの。
それが些細なものであろうとなかろうと。
僅かな綻びが如何様な結果を齎すか今まさに見せつけられているからこそ。
つまらぬ銃弾一つに彼らを晒させる理由はない。
教授の抗い一つ一つを丁寧に確実に凍結せしめ、そして彼らの行く道を確たるものに。
計算機の為に用意された筈の冷気は少女の術を繊細かつ強力に成すべき為の礎となった。

「いっけええええええええええええええ!!」

咆哮と冷気が空間に散った。
393◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/27(月)21:15:53 ID:ac1 [4/5回]
>>389>>390>>391>>392


抵抗の弾丸は凍り付いて動くことはなかった。
我武者羅の一撃が爆ぜて《クイーン・ヴィクトリア》の心臓部まで達した。
失われて尚、膨大な計算を抱え続けていたオックスフォード学園都市の亡霊は、今ここに完全なる沈黙を果たし、息の根を止めた。
そしてジェームズ・モリアーティの蜘蛛糸は――――デウス・エクス・マキナと共に、寸断された。

「――――計算は……完璧だった……」

並べ立てられた数多の数字が、エラーを吐き出し始める。どかりと、その身体が腰から一刀を以て断ち切られた。
ドクドクと流血し、それは正に、クイーン・ヴィクトリアと運命を共にしようとしていた。
この施設に溢れていた駆動音が、音もなく消えていった。現実が還る。世界は、正しい形を取り戻していく。

「……洋上学園都市の誕生……干渉遮断……Mの書理論の解析……対抗式の準備……全て……。
 ……何十年と重ねたというのに……ほんの僅かな、計算ミスで……全てが崩れてしまった……」

こうなれば、何が間違っていたのか分からない。
人間の強さ、想いの強さ、意志の強さなど、とっくに勘定に入れて計算していた。それで尚、出来ると確信して実行したというのに。
何がいけなかった。抵抗は予測できた。全てを凍て付かせる魔術か、神の如く鮮血の刃か、それとも純粋暴力か。それら全て、許容の範囲内であるはずなのに。

「……ああ……“悔しいなぁ”……」

胸の中に去来するのは、ただただ、やりきれないという気持ちだった。
もう一度、もう一度チャンスが欲しい。こんなものは夢であって欲しい。計算を違えた予想外に遭遇した、ただの人間の思考回路であった。
ジェームズ・モリアーティは碩学であった。只管に数式を求め続けた教授だった。そして数式は、必ず決まった答えを出すはずだった。

「私が、君達に、敗けた理由が……私には、分からない……。
 これはなんとしても……式を再計算しなければ……ならない、のに……」

だから、心から、自身の間違いを解明することを、欲していた。死は目前に迫っている。
動きを止めた大階差機関に、縋るように手を伸ばした。もう少しだけでいい、計算を直す時間をくれと、叶わぬ願いをそこに祈った。

「間に合わない、なんて……本当に、悔しいなぁ……」

それは命を奪い合うことよりも、貶められることよりも、辱められることよりも、何よりも。
ジェームズ・モリアーティにとって。碩学として、最大にして、最高の、完膚無きまでの――――敗北だった。
394◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/27(月)21:31:48 ID:ac1 [5/5回]
>>388
ジェームズ・モリアーティの希望は、そこに潰えた。
鳴り響く時計の音は聞こえた。頭上に迫っていた地球が、いくつも残像に揺れて、それから――――ゆっくりと、解けていく。
その彼岸は果たされること無く、そしてそれこそが完全な勝利の証だった。きっとそれは、生死を賭けた決着よりも。
間違いは正せばいい。その無限の試行錯誤で、碩学は続いている。そして、その無限の試行錯誤の最果てが――――完了する。

「……空が……」

頭上には、太陽が眩く輝いていた。遮るもののない太陽は、二人のことを明るく照らしていた。
空には大きな飛行船が飛んでいた。その船体には大日本帝国の証が大きく刻まれていて、兵隊が大騒ぎしていた。
空を覆っていた時計盤が瓦解して、展開された塔も崩壊し、海に落ちていく――――

「……晴れた……」

美珠には何も分からなかった。ただ自身の脳髄を計算機械として使われ、数式が通り過ぎていったのだけは分かった。
――――“彼女”の黎明式は、クイーン・ヴィクトリアを一切の計算から解放し、オックスフォードの亡霊を還す一助となって。
それから、ほんの一瞬、ほんの一瞬だけ……ジェームズ・モリアーティの意思を返した。ただ、“悔しいなぁ”と呟いた、一言を。

「ねぇ、ねぇ、淡島さん――――」

久方振りに見る太陽に、思わず涙をこぼした。
ああも忌々しかった太陽が、影に生きるはずの佐野美珠という少女にとって、あまりにも輝かしいものに見えた。見えてしまった。
蒼天を海鳥が羽撃いていった。照り返す太陽光も、今は素晴らしい物に思えた。

「勝ったのよ、皆。淡島さんが、頑張って、上に行った皆が頑張って……」

傍らにいる少女と、それから空へと渡っていった四人の勇者達は、晴れて魔王を討ち滅ぼし、この世界に光を齎した。
その光が、平等に、限りなく、降り注ぐ。今はこの、無煙都市の空を仰ぐ自由を謳歌できる。

「――――空を、取り戻したの」
395 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/27(月)23:03:50 ID:Pd8 [3/4回]
>>393
勝利の無音に身を任せる。不思議と未来への扉を蹴り飛ばした高揚はなく。
代わりに心中を支配するのはまた一つ手を汚した、言いようのない責苦と血塗られた狂奔。
奪ってしまったモノの分だけ、どこまでも貫き通さなければならない。後退を選んでしまえば、己の所業に穿たれて全てに耐えられなくなってしまう。

「――――知るか。てめえに次なんてねえよ」

自分でも驚く程に冷たい物言い。剣を払って刀身を鈍らせる罪過を振り飛ばす。
同じ惨劇を繰り返す可能性を放っておくくらいなら、己が手で摘み取る覚悟くらいはしてきたつもりだった。
だから同情や憐憫、後悔の花束を手向ける訳にはいかないのだ。それが赦される善行などではないと、よく理解していた。
出来るのは精々が切り拓いた屍の道を、全て背負って裸足で進む程度。立ち止まるなど、最早認めてもらえるはずがない。

「…………――ッ」

祈りの灯火に背を向けて、その瞬間に砂が落ちきった。抜ける全身の力、形を失った神剣が陽炎と昇る。
開闢を興した原始の神性の一端。様々な遠因があったとて、それを手にする代償は人の子には有り余る。
どうと仰向けに倒れる。背中を受け止めたはずの鮮血の温もりすら、今は曖昧にしか感じ取れなかった。

「ははっ……今度、ばかりは…………マジで……ムリ、かも……」

声が掠れる。指先は上手く動かせない。圧倒的に身体を巡る、酸素の運搬体が足りていなかった。
自分の声すら、鼓膜を震わせているのか定かではない。蒼白の面持ちで、かろうじて痛みに反応した左手が傷を抑えた。
血液という代償はその価値を勘案しなくとも、奪われれば死に容易く直結する。
一部の肉の永遠の喪失で以って替えでもしない限り、待つのは緩やかな下り坂でしかない。今はもう、それでもいいと思えてしまった。
396◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/27(月)23:03:56 ID:Pd8 [4/4回]
>>394
壁が消える。伸ばしていた手が虚空を掴んで、ぱたりと甲羅の上に落ちた。
上下する肩、深く項垂れて、重力に従う髪に隠された相貌を伺う術はない。
けれど海風に頬を撫でられ、潮騒に揺り起こされて。何より、他でもない彼女の名前を呼ばれたのならば。

「……うん。見えてるよ」
「――――ああ、相変わらず、綺麗な蒼だ」

ゆっくりと顔を上げる。水平線の澄んだ煌きに目を細めて、微かに感嘆の吐息を零した。
最低限の動きで、抱きすくめられていた身体をすり寄せる。まだ身体が怠いからしな垂れかかろうとして、甘えるような仕草だった。
太陽に向かう鳥の影。くすむ事のない翼が無限の空に風を起こし、宙を求めて光の階を駆け上る。
その景色は島で見るよりもずっとずっと、自由であるように見えた。

「……わたしは、一人じゃ無理だったよ」

思えば、限りのない迷い路で目を瞑って佇んでいるようなものだった。
知りたい事を知ろうとせず、見たいものを見ようとせず。無数の虚を抱えて過ごすばかり。
そんな自分が本当はどうしたいのかを、教えてくれた人だから。そのためなら、どうしたって叶えたいと思った。

「佐野さんがいてくれたから。一緒に行こうって、言ってくれたから。わたしは頑張れたんだ」
「だから――――」

そこから先の言葉は藻屑に溺れて、安らかな呼吸が泡となって代わりに浮かぶ。
なんて事はない。過剰な演算と散らかった記憶に脳が休息を訴えて、陽光の転寝に落ちてしまっただけだ。
その寝顔は人形めいて無機質なものだったが、確かに胸は上下して。何より、心なしか穏やかな面持ちであった。
397深山比良太◆</b></b>fnkquv7jY2<b>[sage] 投稿日:20/04/27(月)23:49:08 ID:0Id [2/2回]
>>393
「……遅すぎたみたいですね」
やってきたはいいものの、全てが終わった後。
それでも勝利した様なので一安心して、輪には入らずに少し離れたところで見ており
398 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/28(火)06:18:31 ID:p80 [1/1回]
>>393>>395>>392

「蜘蛛糸はよく編み為されている程に速やかに乱離する
 って、訳だ……」

そうしなければ、生きていけなかった。そうする以外を、生きると呼べなかった。
アルバ・トーマス・エジソンがそうだったように。アーネスト・ヘミングウェイがそうであるように。
その命を奪ったのが、もしも自分の手であったとして。同情も後悔も無い。
碩学に足を踏み入れかけたからこそ、彼らはそうするより他になかった事を知っている。

崩壊する機械仕掛けに背を向けたなら、倒れた仲間に手を伸ばす。

「……帰んぞ。」

屍を積み上げた道を踏んで、その背中に追いついたなら。振り返らぬ意思すら無視して、手を伸ばす。

「何がムリだ。肉と酒をかっ喰らやぁ治る。
 あんたも、ちょっと手伝ってくれよ。止血とかできんだろ。」

訓練として習った応急処置は、本当に予想もしない形で役に立つ。そして、魔術師の少女に援護を求めたなら。
脱いだコートを用いて、傷口に最低限の処置をしたなら。肩で立ち上げて、それでも動く事すら出来ないのなら、背負ってでも彼を連れて歩き出す。
声色は揺れることなく、変わらない。

「神よ、私は人の世の事象が
 いかに微細に織られるかを心理的にも知ってをります。
 しかし私はそれらのことを、
 一も知らないかの如く生きてをります───」

鼻歌を歌うように、気軽に。普段の粗暴な口が嘘のように、穏やかに、綺麗に、言葉を紡ぐ。
それは詩人であるのだから。欠ける言葉が見つからなくとも、詠うことなら出来るから。
微細に織られた罪悪感を、想う事なら出来るから。それを叫ぼうとも描こうとも説明しようともしないけど。

「しかし、噫! やがてお恵みが下ります時には、
 優しく美しい夜の歌と 櫂歌とをうたおうと思っております……」

何時だって、出来る限りの綺麗な詩を用意して、待っているから。
言葉に乗せた、祈りに似た思いは。異能に変じて、少しはその生存を手助けしてくれるだろうか。

「……正しかったかとか、ンなこた知らんが
 この街を救ったのは確かなんだ。呼べるだけの仲間を呼んで、とびっきりの鍋にしよう。
 "傷"の事なんざ、忘れちまう位の祭りをすんだ。」
399 : ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/28(火)11:50:00 ID:7no [1/1回]
>>393>>395>>398
蘇生の可能性も含め人知れず教授の生死を確かめる。
結果がどうであれただ確かめるだけだ。

「…」

確認後に踵を返せば柏村が久々之の処置を求めてくる所だった。

「凍らせて仮死状態にした方がいいと思う」

酒はどうなんだろうか、肉を食う行為すら現状難しいだろうにと思いながら必要な事だけを口にする。
如何に意志をもって変化を生じさせる魔術であろうと。
そもそもその意志を引き出す気力すらつきかけている者に無理をさせれば取り返しがつかないだろう。

「一度やっているから問題ない。後遺症もなかったでしょう?」

事も無げにエジソン戦後において意識を手放した二人を運んだ張本人が言う。
流石に乙女の軟腕で男二人は運べない、氷の棺に包んで蹴り動かしたほうが何倍も楽だった。
病院についた途端、駐車場に放置して帰った非情さもあったが。

「…そう言えばどうやって帰るつもりだったの貴方達」

よくよく思い返してみれば甘粕含め揃いも揃って男どもが帰還手段を持ち合わせているようには見えず。
何故か刀を納めるべき鞘を投げ捨てた人物を思い出す。

「小次郎破れたり」

言外に勢いに任せて後の事を考えてなかったな?と小馬鹿にしたのだった。
400◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/28(火)21:33:47 ID:uUm [1/3回]
>>396>>398>>399

――――死は、何者にも平等に齎されるものだ。

如何程の天才的頭脳を持ち合わせていようとも、碩学であろうとも、死は死でしかない。
モリアーティに触れたところで、急速に消えていく生命の残滓があるだけだ。ただ事切れたそこには骸があるのみだ。
死は、全く、何者にとっても、例外なく訪れる。

さて、動力源を失ったオール・フリーズ・クロックがどうなるかと言えば……空に浮かび続けることもできなくなる。
そうなれば、後は壊れ往くのみであろう。崩壊は急速に始まっていく――――今正に、破壊したクイーン・ヴィクトリアも、また同様だ。

廊下を歩いていけば、やがて無数の破壊されたオートマータが見えるだろう。
それから夥しい量の鮮血の後。点々と、無数の肉片と軍服の破片が散らばっていたが、甘粕自身の姿も見られない。
次に出会うのは、おそらく破棄された蒸気鎧だ。内側から展開されていて、その中には僅かに血痕が残るのみで誰も搭乗していない。

一度突入した出入り口まで戻ったならば、一つ一つ壊れた自動二輪がある筈だ。
そもそも用意されていた燃料が片道分だったものだから、“生存が考慮されていない”という事実が、全く以て事実であったことが見て取れる。
然しその穴を覗いてみれば、然し、それが絶望ばかりではないことが分かるだろう。

そこから見下ろしてみれば、一つ、鉄屑の螺旋階段が組み上げられているのが分かるだろうか。
何とも乱暴な作りであって、そこら中の鉄骨や空き缶、それから大凍結時計自身すらも用いて、組み上げられている。
ただ、時折、バチ、バチ、という音を立てて、白光が唸る。そこから、それが何を以て構築されているか分かることだろう。

ただそれが、罠の可能性も大いにある。丸ごと凍結させるならば、それが一番確実かもしれない。
どちらにせよ、徒歩で降り切る手段は、用意されているということだった。
401 : ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/28(火)22:00:05 ID:uUm [2/3回]
/安価が抜けていました
/>>397>>398>>399>>400様宛です、失礼しました
402◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/28(火)22:20:07 ID:uUm [3/3回]
>>396
ゆっくりと、ゆっくりと、代用ウミガメが陸へと戻っていく。
『ロンドン橋落ちた』の音とともに、大凍結時計を見上げる。崩壊していく先、雷とともにそこに巨大な螺旋階段が組み上がるのを見た。
それは、彼等の誰かがやったことなのだろうか。それとも、彼等と出会った、別の誰かなのだろうかと思いながらも。
皆もこれで戻ってくるだろう、と。これで本当の意味で、胸をなでおろした。

「……これで、本当に、何処にでもいけるわね」

出来る限り、彼女のことを甘やかすことだろう。
あれだけのことを成し遂げてくれたのだから、体重を預けられたまま、彼女を抱き止めて、それから髪を梳いて撫でて軽く撫でた。
佐野美珠は、この偉業を享受する側の人間だ。見上げた空を取り戻した者たちに、どうあっても頭が上がらない。

「……ありがと……でもね――――」

自分のおかげで、なんて言ってくれると、あまりにも自分には大きすぎて、どうしても受けきれなかった。
いつも、彼女にはもらうばかりで、自分が与えたことなんて、それこそ健康的な食事くらいだっただろうか。
気持ちはありがたいし、彼女の意思は尊重したい。そのうえで、彼女に感謝の意を伝えようとして――――

「……寝ちゃってる……」

彼女らしいと言えば、彼女らしいだろうか。
この、凪いだ海を渡ること。空から降り注ぐ、久々の暖かな光。遠くから聞こえる、街の人達の喧騒。
そうなってしまうのも仕方ないか、と。少なくとも沖にたどり着くまでは――――彼女の寝息と寝顔を楽しむことにした。
403◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/28(火)23:17:02 ID:f6P [1/2回]
>>400
赤く烟る視界。深淵の底へと堕ちる意識の中で、降り注ぐ幽けき音色が頬を叩いた。
それが何を想って紡がれた言の葉なのか、何処へと綾織る祈りなのか、解するだけの情緒は、生憎と持ち合わせていなかったけれど。
その調べは確かに、微睡む心臓を叩き起こすための光の環となった。

「――――……んだよ。ちゃんと綺麗な詩、詠めるんじゃねえか」

腕を担がれ立たされて、それでも足の力は入らないから、おぶさるより他に動く術はないかもしれないが。
それでも、生命を繋いだ。消えない傷痕を負い、深い嘆きは解き放てずとも。
迅速な応急処置や、本人に自覚はないが、密かに増強された造血作用によって、枯れ果てる今際で踏み止まったのだ。
ラファの提案を、小さく首を横に振って辞退する。今は両足で立てないかもしれないが、骸に朽ちずにいられるのなら、起きて地上へと帰りたかった。

「…………――」

そんな状態であるから、不安定な帰路に周囲へ気を配る余裕などない。
ただ、絶たれていたはずの無骨な往路の唸り声を聞いた時だけ。気怠げに閉じていた瞼を薄らと持ち上げ、継ぎ接ぎの階段を認めたのならば。
体重を預けた肩をぽんと叩いて、言外に使えと促す。命綱足り得ると、一種の信頼に基づいた判断だった。
404 : ◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/28(火)23:54:03 ID:f6P [2/2回]
>>402
波に任せた一定の振動。淡い焔の砕けた陽光。蒼海の鳴き声と、果てない心臓の鼓動。
それら全てが安寧の羊水となるのであれば、静謐の眠りに揺蕩わずにはいられない。
すうすうと呑気に寝息を立てて、次にゆっくりと目を覚ますのは。代用ウミガメが陸に上がり、身体を揺すり起こしてようやくの事だろう。

「…………ん……」

ぼんやりとする頭、未だ眠たげな眼を緩慢と擦る。意識が覚醒するに従って、二色の髪が騒ぎ立てるように揺れた。
役目を終えた代用ウミガメに視線を送って、その頭を軽く指で撫でつけてやる。
それからじっと美珠の顔を凝視して、しばらくの静止。何かを言おうとしていたような気がしたし、何かを言われようとしていたような気もして。

「…………行こう。皆を迎えに行ってあげないと」

結局、それを口にする事はなかった。代わりに凱旋を祝福するべく、手を取ろうとした。
世界はまだ続く。風は変わらず天に向かう鳥を包み、花は綻び夢の花弁で丘を飾る。
ならば共に過ごす時間もまた、蒼き星に響もすのが摂理。空を覆う雲に焦る必要など、どこにもない。
話さなければならない事はたくさんある。けれどその物語を紡いでも余りある程に、光は道先を照らしているのだ。
405 : 柏村中也◆</b></b>1JX5HRE6hA<b>[] 投稿日:20/04/29(水)16:14:11 ID:E7w [1/1回]
>>400

「や、良いってよ。
 折角の凱旋だ、寝てりゃ一生モンの後悔だろうさ。」

動かない彼を背負って、少年は歩き出す。動かない骸へ、振り返る事はしなかった。

自動人形の残滓が散らばり、蒸気装甲が打ち捨てられ、人の感触は残っていない。

「どいつもこいつも俺を何だと思ってやがる。
 ……せっかく、最高の"作品"を持ってきてやったのに。」

死体がないなら、生きていると思ってもいいかもしれないけど。不思議と、また会える気はしなかった。

白光を放つ残骸の螺旋。踏み出す脚を支えてくれるのか、見かけには不安しかないけれど。
使えと言われなくたって、大丈夫。恐れはなく、そこへ踏み出した。

「大天才の作品だ。凡愚3人ぐらいは支えてくれらぁな。」
406 : ラファ◆</b></b>bKRvPQDCyg<b>[] 投稿日:20/04/29(水)18:54:09 ID:Ljs [1/1回]
>>400>>403>>405
「そう」

教授の最後を確認し、提案も本人の意思を尊重し引っ込める少女。
出入り口まで戻れば用意された地上への道。
この場にいない男が作ったのだろうし、二人は迷いなくそれを使う気でいるようだ。
敢えてそれを止めるつもりもない。
彼らは彼ら、自分は自分の道を進めばいいだけの話だろう。

「それじゃ」

目的は果たした。
何時までも一緒にいる理由はなく、個人的に気になることもある。
淡白な別れの挨拶と共に少女は来た時と同じように虚空へと一歩踏み出し宙を滑り去っていった。
407 : ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/30(木)00:13:56 ID:281 [1/5回]
>>402

代用ウミガメが陸へ上がったのであれば、先ずは豊雲野を抱き上げて、砂浜へと下ろすのが先立った。
それから彼女のことを揺すって、声をかけて。起きるまでは待ち続けなければならなかった。
それから、小さく漏れた声とともに、彼女の意識が覚醒するのを見ると、小さく肩を竦めて。

「……おはよう」

撫でられた代用ウミガメは、心地良さそうに目を細める。それに合わせて、美珠も「ありがとう」と例の言葉を放った。
それからゆっくりと海の中へと帰っていく。役目を終わったものだから、キャロルの世界からも外れて、この海原を自由に生きるのだろう。
そうして最後の童話作家の幻想が消えたのであれば。それを皮切りとするだろう。

「そうね。迎えに来ましょうか。大騒ぎになる前にね」

世界はやがて無限に続いていく。アインシュタインの言葉を実感できるだけには十分な時間を取り戻したのだから。
今は、この戦いの功労者達を、祝福するところだろう。
これからきっと大騒ぎになるだろう。御丁寧に、誰かが作り上げた電撃の螺旋階段が、目印となってくれている。
手を取られれば、握り返して。それから、彼女ほどに自然に出来ず、控え目に肩を寄せて、歩き出した。
408 : ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/30(木)00:14:41 ID:281 [2/5回]
>>403>>405>>406
仮にそれが善意で行われたものなのだとすれば、それはジェームズ・モリアーティとの戦いの時点で差し伸べられているべきだろう。
それはほんの気まぐれであったのだろう。決して彼等の才能を認めるだとか、彼等は素晴らしいものだとか、そういうものではない。
だが、少なくともその雷電の主は、フランクリンや、テスラとも、志を違えているわけではないことは確かだろう。

螺旋階段を下りていったのであれば、その背に崩れていく大凍結時計が見えるだろう。
それは蜘蛛糸の象徴であり、動き出した時間の象徴だ。奪われた時間を取り戻した。
それから、大日本帝国の所有する飛行船が、直ぐ側を通り抜けていく。正しく、この世界が地続きになったというものだ。
何人もの野次馬が、螺旋階段を見上げていた。その中には、二人の少女が、手を振っている。
彼等こそが英雄であるのだと謳うものもいれば、果たして何者かと疑う声もあった。

だがきっと、それもすぐに収まってしまうことだろう。
彼等が英雄として祭り上げられることはないかもしれない。ほんの少し、小規模な、僅かな記述に留まることだろう。

“秘密結社の策謀が、数人の学生の手によって止められた”。

まるで都市伝説じみた事実は、決して言い広められることはなく、政府や軍部に、上手く真実を書き換えられるだろう。
だが、それでも、この螺旋階段を見上げていた全ての人達は――――そうでなくても、ほんの少しの碩学が、確かに彼等を覚えている。
明日を取り返した、ほんの数人の英雄を。この素晴らしき、澄み渡る青い空を。

歯車の唸りが、蒸気機関の煙が、ディファレンス・エンジンのデータが、覚えていなくても。

一旦の終幕だ。だが物語は続いていく。

ここは淤能碁呂島学園都市。
豪華絢爛、華やかにして堅実極まる。日本のみならず、世界中から留学生を集める洋上学園都市。

――――数奇な運命を辿り続ける、その皮切りこそが、1908年のその時であった。
409 : ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/30(木)00:16:28 ID:281 [3/5回]
/これにて、イベントは終了となります
/イベントに参加していただいた皆様、そしてこれまでスレッドに参加していただけた皆様、ありがとうございました
/心より感謝致します。今後のスレッドの扱いについては、相談スレにて投下させて頂きます
/これまでの参加、心より感謝致します。それでは、お疲れさまでした
410 : ◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/30(木)14:22:00 ID:g5P [1/2回]


学園都市中央総合病院。
車椅子の少女は、瞳の見えぬ身で、然しそれを肌で知った。

「……ああ、そうか……パーシー、やりました。
 私の友は、そして名も知れぬ人々は、世界を救ったのですね」



アメリカ合衆国・テスラ電灯社。
一人の男が、作業机に両足をおいて、踏ん反り返っていた。

「どうしたテスラ。ベル。さっさと蒸気文明を廃滅に追い込めるだけの案を出せ。
 この私が、貴様らの案を最適に改良してやるというのだ。感謝し……おい、何をするテスラ、やめ――――!!!」



学園都市。海岸線のアトリエ。
一人の少年は人形を作り続け、人形のような少女は当て所もなく生きている。

「ベルメール様、昼食の用意ができました」

「そこに置いてお……おい待てメイベル! これはただの缶詰だろうが!
 これを用意したというのか!? 貴様人間になってからポンコツに――――」



どこかの飛行船の中。
一人の男が、昇る太陽を見つめていた。

「――――“陽はまた昇る”。俺も次の資料を探しに行くとしよう。
 俺は人生について書きたい。そのためには生きなければならんからなぁ」



蒸気機関車に、二人の男が揺られている。
一人は軍人で一人は政治家だった。

「……かくして俺は、満州へ出向というわけですかい、岩倉卿」

「ああそうだ、甘粕大尉。かすめ取れるものは掠め取った。
 後は我々で有効利用してやるだけさ――――」
411佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/30(木)14:22:21 ID:g5P [2/2回]

――――絢爛なりし学園都市。
無数の蒸気機関から構築された高度情報社会に於いても、学生の青春は変わらない。

運動場では生徒達が体育の授業に勤しんでいた。
全力で体を動かして、運動の喜びに身を任せる者、それも程々にクラスメイトとの雑談に興じる者。
或いは、その輪からも離れている者。

「……やっぱりやってらんないわ……」

体育館裏の日陰に、少女は腰を下ろしていた。
ぜぇぜぇと息を切らしながら、火照った身体を日陰の冷たい風に当てている。

「……まあ、どうせいてもいなくても変わらないし……」

少女、佐野美珠は、体育への恨み節もほどほどに、そこに座り込んでいる。
体育館の中から聞こえてくる、ボールの弾む音が、やはり、少し落ち着かなかった。
412淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/30(木)18:24:54 ID:kIv [1/2回]
>>411
「――またこんな所にいる」

惜春を想起させる麗かな陽光を、無色透明な声が無為に揺らした。
さらさらと流れる赤の混じった白髪を目で辿れば、見下ろしているのは感情を見出せない容貌の少女。
涼しくも近寄り難い日陰に踏みこんでいたとしても、確かな気楽さがそこにはあった。

「休憩かな。それとも飽きちゃった?」

どちらにせよ、労いと揶揄を僅かに含んだ声色。赤と青の水晶を砕いてかき混ぜた瞳に非難は映らず。
先程まではふらりとどこかに行っていたが、いつの間にか運動場近辺に戻ってきていたようで。
答えを待たず、肩が触れ合いそうな距離で座る。見学の立場だから、当然汗一つかいていなかった。
413佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/30(木)20:28:44 ID:281 [4/5回]
>>412

敵意でもなく、猜疑心でもなく、ただ親しみと、悪戯を咎められたような気不味さを孕んだ視線を向ける。

佐野美珠は、クラス内の人々と関わりを持つことはあまりなかった。
性根から、人見知りであるものだから、クラスの中では、結局淡島豊雲野という少女の事しか知らなかった。
ただ、そうして踏み込んでくることを、佐野美珠は心地良いとすら思っていた。

「……苦手なのよ……誰かと一緒に運動、とか……」

質問に対する答えは、全く以て素直なものであった。
多少は他人に対する拒絶が薄まっても、今まで面倒であるとして断ってきた他人との交流の壁がなくなったならば。
その後は 純粋な人見知りが立ちはだかっているものだから、世話がない。

「……まあ……そんなところ……淡島、さ、ん……」

曖昧な答えを返す。結局授業から逃げ出しているのだから、正直に答えるのも憚られた。
それから、やましいことでもないというのに、少女は彼女の名を呼ぶ時に、絞り出すようだった。
自分でした提案を、自分で出来ていないのだから、世話がない。

「……わ、私汗臭くないかしら……?」

日陰を出るか、教室に戻れば、なんて提案をするでもなく、彼女が隣に座るのを自然と美珠は受け入れた。
だが、汗をかいている自分の隣に座られることに狼狽えるばかりだった。
414淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/04/30(木)22:16:41 ID:kIv [2/2回]
>>413
運動が、ではなく誰かと何かをする事が。その自白に納得がいってしまって、居心地が悪そうな視線を真正面から受け止める。
人見知り以前に敬遠ばかりで寄ってくる人もいなければ、似たような心持ちを抱いた経験はなかったが。
その消極姿勢が自分に向いている訳ではないのが今はよくよく分かっていたから、微かに首を傾げて微笑んだ。

「ごめんね。わたしも一緒に参加出来ればよかったんだけれど」

体育の授業において彼女が出来る事など、喚声を遠目に一人で暇を只管潰すくらいでしかない。
であればそこらでじっとしているはずもなく、あちこちを彷徨いているのもある意味では当然なのかもしれないが。
だとすればこのタイミングでちょうどここに訪れた事にも、なんらかの意図があっての事ではきっとないのだ。
膝に頬を乗せ、どこまでも淡々とした振る舞いの中で、言葉だけは真実と示すように僅か目を伏せて。

「ん――――大丈夫。臭くないよ」
「…………汗臭くは、ないけど……」

羞恥心を置き去りにしている様は、風貌と相俟って超然としていると呼ぶべきか。
鼻を肩に近付けてすんと匂いを確かめるなど、普通はいくら気を許している相手だとしても憚られるだろうが。
全く気にしていない素振りで問題ない事を伝えながらも。無機質な声色は中途半端に区切って、どうにも不満があるようだった。
415佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/04/30(木)23:48:19 ID:281 [5/5回]
>>414

「い、いいのよ! 淡島さんは何も悪くないわ」

こればかりは、彼女の問題ではなく、佐野美珠という少女が持っている人間性の問題なのだから仕方ない。
淡島豊雲野という少女に、学校に来て、顔を合わせることが出来る。それだけでも、美珠は十分救われているのだから。
それに彼女の身体が弱いことも、すっかり知っている。だから、彼女が気を落とすようなことではない、と。
無表情な彼女であるけれど、その中に、落ち込むような色を感じたものだから、そう言った。

「あ、淡島さ……!? あ、え、あの……そ、そう……それなら、良かったわ……」

彼女に羞恥心が無い――――というわけではないと思うが、少し外れた行動については慣れたものであるのだが。
流石に自分の匂いを何の躊躇もなく嗅がれてしまうとなると、乙女として、美珠がドギマギとさせられる。
問題ないというのならば、それは良かったのだが――――別の要因の汗と共に、頬を赤く染める羽目になるのだが。

「……ど、どうかしたの……?」

それから、彼女の口調から何か言いかけていると判断して。その先を促してみる。
何となく、自分でも心当たりがある……為に、恐る恐るが外れなかったのだが。
416淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/01(金)00:28:49 ID:4Ou [1/4回]
>>415
思うままに走る事さえ出来ない身体に、嫌気がさした事など数える程度でしかないが。
それでもこうやって人との違いが如実に表れると、どうしてもやり切れなさを覚えるものだから。
明確な言葉で冬枯れの心を慰められて、仄かに愁眉を開いた。

「……?うん、いつもと変わらないよ。落ち着く匂い」

狼狽する美珠とは対照的に、何を動揺する事があろうかと言わんばかりに玉彩の目を瞬かせる。
羞恥心の有無はともかくとして、どうやら匂いを嗅ぐという行為には割り振られていないらしい。
平然と言ってのけ、けれど己の髪を梳く指に視線を落としたのは。何も恥じらいが山彦めいて遅れて去来した訳ではない。

「…………わたしに言わせるんだ。最初に言い出したのはそっちなのに」

視線を外してしまうと、平坦な呟きはまるで砂に思わず落としたひとり言にも聞こえてしまう。
拗ねているのか、落胆しているのか。両膝を抱えこむ仕草は、その真意を緑風に隠す。

「知らない。美珠さんがそんな人だなんて、思ってもいなかったよ」

ふいとそっぽを向いて、背けた表情が大きな感情の漣を兆す事がなかったのは。
こうでもしないと素直じゃない彼女は踏ん切ってくれないだろうという、細やかな謀略の戯れ故であったが。
先に挙げた感情がそこに皆無であるかといえば、断言する事はひどく難しかった。
417佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/01(金)01:30:21 ID:NNM [1/3回]
>>416
「……そ、そう」

落ち着く匂い、と言われて、悪い気はしないまでも、それはそれで羞恥心を煽るものではあった。
なんなら、自分もおなじことをしてみようか、なんて思いはしたものの、それをする勇気も特になかった。
ただ彼女の髪が揺れるたびに漂う香りに対して、美珠は悪くは思っていない……というのも、胸にしまっておくことにした。
ぐりぐりと、指先で自分の髪を弄ぶ程度で、何とか乱れた心を整えようとして。

「……あ、え、いや、えっと、そうじゃなくて……!!
 あの、違うの、嫌だとかそういうことじゃなくて……あの……」

何となく、呼び方を変えることで今の関係が壊れるのが怖い、何ていうことを思っていたりもしていたが、有り体に言えば。
何ということはない、臆病者であるだけであった。そして、だからこそ、彼女から視線を外されるだけで焦燥に駆られるのだが。
そっぽを向いた彼女の表情が、どんなものか読めたものではないのだが、策略というのならば、美珠は見事に踊らされているばかりである。

「だ、だからその、あ、淡島さ……えっと……」

わたわたと、一人慌ただしい美珠。
彼女の名前を呼ぶに当たって、今までの呼び名を使おうとして、口籠り、それからむぐむぐと情けなくも躊躇いを重ねるのだが。
結局何度もそういうことを繰り返して、それから、ようやく少女は――――

「……豊雲野、さん……ゆ、許して……?」

彼女の耳元で、恐る恐ると囁くのであった。
418淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/01(金)02:04:05 ID:4Ou [2/4回]
>>417
しどろもどろな言葉を幾ら重ねても、彼女が視線を向ける事はない。
あまりに泡を食っているものだから、罪悪感が胸を掠めなくもないが。それでも今は心を鬼にする方を選ぶ。
そうでなければ、自分ばかりが下の名で呼ぶばかりになる予感があったし、それはなんとも狡いと思うのだ。

「………………」

とはいえここまで取り乱されると、口を閉ざす重石もだんだんと苦しくなってくる。
思えば以前の提案の際だって、ようやっと言葉にしたのだろうから。
こうも急かすのも下策かもしれないし、何も意地悪がしたくてやっている訳ではない。
無理をする事はない、と顔を上げようとして。鼓膜を震わせる囁きがそれに先んじた。

「んっ……」

完全な不意打ち、耳朶を擽る声に思わずして小さな吐息が漏れる。ふるりと身動ぎをすれば耳にかかった髪がはらはら落ちた。
表情にこそ出さないが、ぱっと振り向いた様子は些か驚いたようでもあり。ぱちぱちと瞬きを繰り返せば、その眼は多く水分を含んでいるようだった。

「……遅いよ。やっと呼んでくれたね」
「最初から怒ってないから。そんなに心配しなくてもいいんだよ」

けれどそれらの反応が霞であるかのように、平然と確信犯である事を吐露するが。
白髪をかけ直した耳が桜の朱を呈して、喜色を表すように蒼紅の瞳を細めた。

//すみません、今日の返信はここまでになると思います…!
419佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/01(金)02:54:48 ID:NNM [2/3回]
>>418

「あっ……えっと……」

気恥ずかしさとちょっとした焦りから、そうして囁いてみたのであるが、結果としては……。
小さく息を漏らしながら、紅白の髪が揺れる様は息を呑むような光景であったものだから、得をしたかもしれない。
ただ、潤む瞳を覗いてしまうと、綺麗だという感想の後に、また焦りを煽ってしまうのであるが

「……う、お、怒ってなかったの……?」

てっきり、彼女の機嫌を大きく損ねてしまっていて、そしてそれに足る理由だと思ったものだから。
嫌われてしまったらどうしようか、何ていうふうにまで考えていた自分の考えが霧散したことが、先ず有り難かった。
その後、何か納得の行かない気持ちがやってきたが、然しそれも別に大したものではなかった。
というのも、それでもやっぱり、自分のほうが罪が重い気がしたものだから。

「いえ、でも……私が悪かったわ。私が言い出したのに」

実際、こうして無理矢理にでも踏ん切りをつけてもらわないと、いつまで経ってもなあなあで済ませていたかもしれない。
だから、結局また彼女に手を引かれて、先に連れて行ってもらったというわけだ。
最初に会った時から、彼女の方から歩み寄ってきたものだから……何とも、という気持ちだった。

「ダメね、私。これから……と、豊雲野さん……と、外に行くっていうのに……そんなことじゃ」

それは口約束だし、まだ具体的な計画も決まっていないものだけれど……少なくとも、美珠にとっては確定事項。
彼女に、一緒に外に行こう、なんて言ったのは自分なのだから、もっと相手をリードできなければいけないと思っている。
のだが、やはりそこは行動力も、決断力も、彼女のほうが遥かに上で……上手くいかないな、と思うのだった。

/了解しました、それではまた返信をお待ちしていますね
/一旦お疲れさまでした!
420淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/01(金)13:32:22 ID:4Ou [3/4回]
>>419
自責を否定も肯定もしなかったが、美珠自身が憂いている事に彼女が頓着した事はこれまでなかった。
同級生から異端視されて弾かれるのが当たり前で、そこに何の感慨も見出だしていなかったからこそ。
尚も共に居てくれる事に感謝こそすれど、嫌いになるなどあるはずもないのだ。

「美珠さんが謝る事はないのに。言い出してくれただけで、わたしは嬉しかったんだから」

包み隠す事のない本心だった。実行に至るまでの気概が多少追いついていなかったとしても。
そういった意思を見せてくれた事自体が、何よりも喜ばしい時津風だった。
故に物憂げな声色は不本意でしかない、確かに言い出したのは美珠の方かもしれないが。
影を並べて歩くのであれば、どちらが先に手を引くかなどほんの些事でしかないというのに。

「あまり思い詰めないでほしいな。無理をする美珠さんは見たくないもの」
「……もしかして、まだわたしに遠慮しているのかな」

思うように一歩が踏み出せないのは、無論生まれ持っての性分も多分に影響を与えているのだろうが。
無用な一線を潜在的に引かれているような、硝子越しに指を重ねている錯覚が僅かに胸を去来するものだから。
今更そんな必要はない、と言外に伝えるつもりだった言葉は、期せずして微細な寂寥を孕んで。
それは先程のような恣意的なものではなく、本当に深層からまろび出たものだった。

//凍結ありがとうございます、お返しいたしますっ
//次の返信は夜以降になると思います!
421佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/01(金)14:48:51 ID:hS8 [1/1回]
>>420
「う、ううん……そうかしら……」

確かに美珠は思い詰めやすい、或いは考えすぎる性分ではある。
しかしどうでもいいことには、本当にどうでもいいと切り捨てられる性分でもある。
それだけ、その内心で占める割合が高いということでもあった。友人としての在り方に、まだ不慣れが故の、不安であった。

「べ、別に……遠慮しているというかその……わ、分からなくて……。
 豊雲野さんとの……距離、というか……」

遠慮、と言われると、美珠の胸に刺さる。
たしかにその通りで、まだどういう距離を取ればいいのか。距離を詰めていいのか。
そも、自分なんかが彼女の友人であっていいのか。そういう不安な部分が根底にあって、それが表に出てしまったのだろう。
だが、そういう不安を抱いてもらうのは、本意ではない。

「……な、なら……遠慮しないわ」

それならば、自分のやってみたかったことをやってみようと動き出してみた。
彼女の腕を取ると、ぎゅっと胸に抱いて、それから彼女の肩に、頭を乗せて体重を預けてみる。
自分に向けて、彼女が体をあずけることはあっても、美珠の性分もあって、その逆はやったことがなかったものだから。
こうして、思い切ってみたわけであるが。

「……わ、私、ずっとこうしてみたかったんだけど……ど、どうかしら……」

美珠とて、彼女との間に距離が出来るのは好ましくないものだから。こうして自分の求めるものを露出させてみたわけであるが。
汗の匂いが大丈夫ならば、いやでも汗を流したから気持ち悪いかも知れない、そもこれで解決になるのか。
けれど、これはつまり遠慮していた行動の一つなのだから、恐らくは切っ掛けの一つにはなるだろう。

/了解しました、お待ちしていますね
422淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/01(金)20:59:36 ID:4Ou [4/4回]
>>421
ほんの少しだけ眉尻を下げて、困った蜂鳥のように口を噤む。どう声をかければいいのか分からず、唇だけが虚しく動いた。
他人との距離感。それについて彼女が悩んだ事など、記憶にない相手をよくよく知っていた時くらいのもの。
流石に最低限の分別はあるとしても、そもそもがやりたいようにやる人間だから、二の足を踏む理由もはっきりとは理解ができない。
であれば助言を口にできるはずもない、自分がひどく蒙昧な支柱に思えて視線を乾いた地面に落とした。

「うん…………え?」

しかしその煩悶とした眼差しは、腕を取られてすぐにその相手へと向けられる事となる。
確かに下手な気兼ねをされるのは是としない。けれどあくまでこれからの指針としての催促であって、たった今行動に移されるとは思ってといなかったから。
頷いて、それから肩に乗せられた安らかな重みを受け止めれば、小さな喫驚の呟きが漏れた。
慣れない感覚に最初は身体を強張らせて、その居心地をおそるおそる伺うかのようにじっとしていたが。

「…………悪くはないよ。むしろ美珠さんに甘えられてるみたいで、なんだか恥ずかしいな」

その柔らかな心地が悪いものである道理など、日陰を浚う薫風のどこを探したって見つかるはずがなかった。
肩骨に伝わる側頭の形。絡み合う白と黒の糸。耳に届く程に近い呼吸音。
腕に触れる柔らかなものだけは自分にはなかったが、それはともかくとして勤勉に響く鼓動。
体重に負けて倒れこんでしまわないように、自分からも軽く寄りかかる。腕を取られては上手く動けないけれど。
目の前にある美珠の頭に頬骨を寄せて。これではどちらが甘えているのかすっかり分からなかった。

//大変お待たせいたしました!
423佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/01(金)23:59:25 ID:NNM [3/3回]
>>422

「私も、ちょっと……恥ずかしい……けど……」

早鐘のように打っていた鼓動は、果たして伝わっていただろうか。
彼女の柔らかくも、痩せた細く儚い身体に身体を預けることは多少の抵抗はあったし、ちゃんと支えられるかという心配があった。
けれどもそれも杞憂に終わった、のだろうか。負けじと彼女の炎が、折り重なるように自分に体重をかけてくる。
嫌な気分ではなかった。むしろ、心地よいくらいだった。

「……温かくて……良い匂いがして……気持ちいい……」

慣れ切った頃には、その状況を構成する要素を楽しむだけの余裕もできてきた。
まるで冷たいようでいて、それでも触れてみれば確かに温もりを感じる。掛かった髪が時折頬で踊って、くすぐったい。
それから、彼女の香りがとても心地よかった。思わず零してしまうくらいに。

「……私、こうして誰かに……受け入れてもらうこと、ってなかったから」

胸に抱いた腕を、埋めるように強く柔らかく抱き締めた。
彼女の方からやってきてくれて、それを受け入れることには、すっかりともう慣れ切ってしまっていた。
けれどこうして、自分の方から寄ってみて、受け入れてもらうことは……今まで無かった。
それは彼女との関係だけでなく、それまでの人生を含めて……佐野美珠という少女自身が、受け入れられた事はなかったものだから。

「……嬉しい……ちょっと、怖いくらい」

その道すがら、何度も絶望することはあった。むしろ人生の大半がそうで、そう思えることは、本当にここ最近ばかりだけれど。
それでも、幸福だった。こうして支え合って、頬を寄せ合って、お互いの体温に温もれることがこんなにも幸せだったなんて知らなかった。
こんな幸福を、自分が享受していていいのか、いつか手酷い揺り戻しが来るんじゃないか、なんて。少し怯えてしまうくらいに。

/すみません。こちらこそお待たせしました……
424淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/02(土)02:04:27 ID:Wrp [1/3回]
>>423
自分が口にするのにはなんら抵抗がないが、言われるのは話が別だと初めて知った。
あるいは限られた状況でのみ胸を擽る、稚き花の悪戯なのだろうか。

「……そうかな。自分じゃよく分からないけど……ありがとう」

どうあれ素直に髪を掠めた旋律に、言葉が咄嗟に浮かばなかった途惑いを声や表情に出すのは留めたが。
預けた腕と支える身体からは余分な力が完全に抜けてすっかり寛ぎ、微かに緩んだ頬は菫の薄紅を呈した。

「…………そっか」

浮雲の独白は、美珠のこれまでの人生を想像させるに余りある。その過去の足跡に、彼女が口出しできるような事はない。
それは所詮ここに在る今とこれから迎える未来を、掻き乱せやしない暗泥の残照でしかないのだから。

「怖がる事なんて、何もないよ。だって人生で、嫌な事と嬉しい事が同じ分だけあるならさ」
「後はもう、これまで苦しかった分を返してもらうだけだもの」

だから敢えて言及するのであれば。幸と不幸の天秤の揺り戻しは、必ずしも一方向ではないという事のみ。
そも、歓びと哀しみが同等に与えられるかどうかも不確かな摂理ではあるが。そうだとしたら、尚更反動を考える必要なんてない。
一層腕を強く抱かれて引き寄せられ、少し腰を持ち上げてただでさえ近い距離を更に詰める。
不安に寄り添うように、恐怖に共振してしまわないように。いなくなるつもりなんてないと、指先とは違って確かな熱を持つ身体で伝えるように。

「それに、何処にも行かないって約束したでしょ。だから、大丈夫だよ」

//こちらも遅くなってしまったのでお気になさらず…!
425佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/02(土)02:50:18 ID:pUx [1/3回]
>>424
こうして並んで、友の体温と香りに包まれて、春風に揺られて。
体育館からは、ボールが床を叩く音が霞んで聞こえて、運動場からは生徒達の叫び声、時折笛の音が聞こえてくる。
遠い音楽室から、ピアノと歌声が聞こえてきて――――これ以上の幸福な時間なんて、きっとどこにもないんじゃないか、なんて思ってしまう。

「――――あ、えっと……うん……」

思わず声に出してしまった、彼女への感想について、礼を言われて、少し戸惑った。
お互い、交換したとも言えるけれど、やはり意識すると恥ずかしくなってしまう。彼女が静かにそれを聞いてくれたのは救いだった。
“引かれ”ることもなくこうしていてくれることが本当にありがたい。自分も彼女に当てられたのだろう、なんて彼女のせいに。

「大したことじゃ、無いのだけれど」

取るに足らないものだと思う。よくある話……なのかは分からないけれど、少なくとも、有り触れた不幸なのだから。
嘆く価値すら無いとすら思っていたのかもしれない。そう言えば、少しでもそういう事を言ったのは、これが初めてかな、と追想する。
淡島豊雲野という少女は優しいから、気負って欲しくなかった。今は、自分のことを知ってほしいと思っていたけれど。

「――――そう、なのかしら。なら……」

けれど、返ってきた言葉は、綺麗で、光に溢れているようで、美珠が信じるには明るすぎるものだった。
これまで嫌なことが会った分だけ、良いことがある。
なんて希望に満ちた言葉なのだろう、美珠の生涯ではきっと、頭の中を掠めることすら無かった。

「……信じるわ。豊雲野さんが居てくれたら、それが私の嬉しい事だもの」

ただ、何処にも行かないと約束してくれたならば、その幸福の天秤も信じていいと思える語りだった。
こうして寄り添った距離こそが、佐野美珠という少女の幸福なのだから、これが続くのならばきっとその理屈は間違わないのだから。
いつまでも、この幸福を享受していたいところだが……時間はやはり平等に過ぎていく。

「……もうすぐ授業が終わる頃かしら」

チャイムが鳴るにはまだ少し早い。けれども、自分達は、このくらいの時間には教室に向かっていた……ような気がする、と。
彼女に言外に聞いてみる。一足先に、教室に戻ってしまおうか、と。
426淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/02(土)19:07:49 ID:Wrp [2/3回]
>>425
最早、言葉は不要だった。こうして立夏の揺籃の中で互いの体温を交換し合う事が。
言葉を交えて穏やかな時を紡ぐ事が、代え難い安寧の花畑であると。これまでも十分に示してきたつもりだった。
物事にはいつか必ず終わりがあったとしても。今回においては、何も落胆するような事ではない。

「そうだね……騒がしくなる前に、戻ろうか」

喧騒を嫌う訳ではないが、今に限ってはどうしても野暮な騒音でしかないと思えたから。
捕まった腕が振り解けてしまわないよう、ゆっくりと立ち上がろうとして。
けれど少しの間隙も惜しいから、寄せた身体を手放そうとはしなかった。

「それに早く、美珠さんの作ったお弁当が食べたいからね」

心地良い汗を流した後の昼食の時間。続けてそれが待っているからこそ、この泡沫の殻を破っても構わないと思えるのだ。
ある意味で一番の学び、人間らしい食事を教えてくれたこの時間だって、二人で築いたものなのだから。

//寝落ちしておりました大変申し訳ありません…!
427佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/02(土)20:31:05 ID:pUx [2/3回]
>>426

「ん……分かったわ」

彼女が身体を寄せて、離れなかったように、美珠もまたそうだった。ゆっくりと立ち上がるのに合わせてはいるものの。
今までの反動とも言うべきか、寄せた身体をピッタリとくっつけて離れなかった……そしてそのままでいるつもりだった。
こうして得たものを、喧騒で乱されるのは、たしかに美珠にとっても好ましいものではなかったから。
返事は端的だが、冷たいものではなかった。

「べ、別に今日もいつもと変わらないわよ?」

改まって言われてしまうと、美珠も少々気が引けてしまうが。
それでもやはり、自分の料理を楽しみにしてくれる人がいる、というのは嬉しいものだった。
誰かと共に食事をすること、提供することが楽しく思えるのは、二人揃ったからこそだ。

まだ授業中の教室の脇を抜けて歩いていく。見知った顔の教師が、別のクラスの生徒達におどけている。
誰も居ない教室に辿り着くと、入り込んだ風で、カーテンがスカートのように膨らんでいる。
抜け殻のような、生徒達の制服を横目に。それから、順々に、先ずその腕を放して。

「着替えて、それから……早めに何処かにいきましょう」

出来る限り、喧騒に乱されない場所で、静かに二人で昼食を、といきたいものだから。
最後に名残惜し気に身体を離して、仕方無しに自分の制服の下へと向かっていって、体操服の裾に手を掛けた。

/お気になさらず、こちらも遅いものでしたので……
428淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/02(土)21:32:55 ID:Wrp [3/3回]
>>427
「そうかな。でも楽しみなんだから、仕方ないでしょ」

どう言われようとその予感は正直なものであったし、容易く揺らぐような事もない。
さっきまで彷徨いていた廊下の、通り過ぎる見慣れた光景は空が紺碧を取り戻したとて何ら変わらない。
それは人気のない教室も同様、こうして一足先に帰り着くのには慣れたものだとしても。度々胸を擽る背徳感からは、どうにも逃れようがなかった。

「うん……そうだね」

離れた身体を窓から吹きこむ柔らかな風が撫でる。それが余計に名残惜しさに首を擡げさせて。
けれど焦燥に急ぐ、という性質は中々に覆らない。ゆっくりとジャージに手をかけ、一息に脱ぐ。
日の光に疎い被造めいた白い肌が、舞い落ちた白赤の髪に遅れて飾られる。その上からブラウスを羽織って。
下から一つ一つボタンを留める途中。胸の下で徐に手を止めて、朱と碧の煌きを宿した瞳を美珠へと向けた。

「…………鍋」
「美珠さんはさ。皆で鍋って、興味ある?」
429佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/02(土)23:09:06 ID:pUx [3/3回]
>>428

この授業中の教室を横目に歩いている状況に、美珠はどちらかと言えば、背徳感を含めた優越感こそが好きだった。
つまらなさそうに授業を受けている彼等より、少しだけ得をしている気になれるのだ。
……それも一人では虚しいばかりで、以前までは憂鬱こそが打ち勝つものであった。今はそうでもなく、その優越感を楽しめた。

「……鍋?」

食べたいのだろうか。それならば今日はそうしようか。
てっきり、今日の献立を求めているものだと思ったから、じゃあそうしようかと、汚れた体操服を畳みながら思っていた。
ブラウスを手にとって、ボタンを一つ一つ留めていく。名残惜しさも含んだ、少しの焦燥はあったものだから手付きは早いものだった。
空が閉ざされる以前よりも、より窮屈そうにボタンを留め終えたならば、弁当箱を二つ片手に持って、豊雲野の下へ。

「皆で? ……まあ、興味が……無いわけではないけれど……」

曖昧な答えであった。美珠の積極性については、先程示された通りである。積極的に他者と交わる気質ではない。
だからそういうところにおいては、尻込みするばかりである。傍らの机に一度弁当箱を置いて、当然のごとく。
止まった手の動きに変わって、一つ一つ、ブラウスのボタンを留めていく。相変わらずの白い肌に視線を落としながら。

「……豊雲野さんがしたいっていうなら……」

然し、彼女がそう言い出すということは、つまり考えあってのことなのだろう。だから拒否はしなかった。
むしろ、佐野美珠という少女にとっては、最大限の肯定の意でもあった。
430淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/03(日)00:00:14 ID:RDU [1/9回]
>>429
「うん、皆で」
「この前の騒ぎの時に、戦って勝った人達と」

突飛で唐突な話ではあったが、そういった内容を事もなげに口にするのは今に始まった事ではない。
するりと胸元のボタンを留める指を咎めはせず、中途で止まった自分の手を除ける。
一つ一つがボタンホールから顔を出して、少しずつ手元が近づいていく様を、氷焔の双眸がじっと眺めていた。

「嫌ならいいんだよ。無理しなくても――」

いつか声をかけよう、とは思っていたし、今言い出したのもほんの偶々ではあるのだが。
佐野美珠という少女が他者との関わりにおいて、少々消極的なきらいがあるのは知るところであったから。
二人慎ましく鍋を突くのもまた、と撤回しようとして。机を彷徨った指が、 弁当箱に触れた。

「……それじゃあ、一緒に行こう」
「大丈夫だよ、きっと楽しいから」

それでも、意思の欠片を拾い集めて形にしてくれたのなら。婉曲した答えでも、か細く笑んで受け止められる。
巡らせた思索があった訳ではない。ただ、例によってそうであったらいいという欲求に従っただけに過ぎないけれど。
共に在る事が充足を構成するにあたって、重要な要素であるのには間違いがないのだから。

「――でも、今はお昼ご飯だね。煩くなる前に、行こうか」

境界を跨ぐ鐘の音。近づいてくる大勢の声は、運動後の清涼に満ちて廊下に反響する。
持ち上げた弁当箱の片方を美珠へと押しつけて、もう一つは自分で持つ。その喧騒が教室を侵す前に、さっさと逃げ出してしまおうと。
431佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/03(日)00:25:09 ID:LEv [1/8回]
>>430
「え、ええ……行きましょう。……ちょっと怖いけれど……」

人と触れ合うことには、本当に臆病であることに変わりはない。
それでも、そう素直に言えたのは遠慮しないことを意識したからだろう。
それに彼女がそうしたいのであれば、最大限尊重したい。遠慮などではなく、それが佐野美珠という少女の望むものだからだ。
それに、彼女が居るのならば、まあ、少しくらいは冒険してもいいかなと思えていたのもあって。

「――――そうね、まずはお昼にしましょう」

喧騒に呑み込まれる前に、教室から出ていくのには同意だ。
押し付けられた弁当箱を右手に持った。それから、左の手のひらを差し出して、指を絡めて手を繋ごうとする。
チャイムの音が鳴り終える頃、きっとこの教室の、抜け殻の主達が集まってくる前に。

「今日も屋上でいいの?」

彼女がそれに同意するのならば、今日もまた、躊躇いなく立入禁止の屋上へ至るノブを回すことになるだろう。
432淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/03(日)01:09:06 ID:RDU [2/9回]
>>431
差し出された手に右の五指を絡めて、連れられるままに隣を歩く。
教室の静寂に踏み入ってかき乱す姦しい声を背に、自分の分の弁当箱を大事に抱えて。
不可侵を示す禁則事項なんて、穏やかに廻る時間と比べてしまえば、一瞥する価値など皆無に等しかった。

「そうだね。今日は天気がいいから」

涼やかな風が頬を撫でる。どこかで雀の囀り。徐々に階下で隆起する生徒達の騒めき。
そして遍く全てを照らす、蒼穹に座した太陽の光。いつも通りの昼休みの屋上だった。
日陰に微睡むベンチを選んで腰を落ち着ける。眩しげに目を細める以外、相変わらず感情の起伏は表立って表れはしないけれど。
膝の上に乗せた弁当箱を指でなぞる仕草は、期待を描いているようで。
流石に片手で食事は上手くできないが、そのために手を離すのは不思議と惜しく思わなかった。
433佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/03(日)01:29:13 ID:LEv [2/8回]
>>432

校舎の屋上から望める運動場は、もうすっかり空っぽになっていた。
すっかりと皆、この四角い箱の中に収まって、昼食に勤しんでいるものだから、こうしてほんの僅かな開放感と静寂を手に入れられるのは。
またも優越感を得られるものであって、そこに自分の性格の悪さを自覚するが、まあそんなものはいつも通りだと思う。
それからベンチの上に腰掛ける。絡めた手を離して、それから弁当箱を解いていく。

「……さっきも言った通り、いつもと変わらないけれど」

弁当箱を開いて、中に納められた箸を取り出した。
彼女と、美珠が持つ弁当箱の中身は変わらない。少食な豊雲野に合わせて、量を調整してはあるが。
梅干しの乗った白米、甘く焼いた卵焼き、唐揚げ、里芋の煮物、焼き鮭の切り身、プチトマトに枝豆。
出来る限り種類を多く、それから少しずつ盛り付けて、少食でも食事を楽しめるように、と考えていた。

「……いただきます」

誰かに食べさせる、という目的が出来たお陰で、美珠の弁当も雑なものから少し彩りを考えるものになった。
少食なものだから、そこまで負担になるでもなかったし、面倒よりも楽しさが上回って苦痛ではなかった。
問題は、食事に際して美味しく食べてもらえるかが毎回気になるところなのだが、今回は果たしてどうか。
箸の先で梅干しを摘みながらも、その一口目をじっと見つめているだろう。
434淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/03(日)01:52:42 ID:RDU [3/9回]
>>433
「いつもと変わらないからいいんだよ。安心するもの」

奇を衒ったものが弁当箱に詰めこまれていたとして、やはり彼女はなんの疑いもなく箸をつけるのだろうが、それを強く要求する訳ではない。
普通で凡庸で、今日もいつもと同じだと言えるような。帰るべき日常であると象徴に据えられる、標としての在り方を求めていた。
それに常々奇天烈なものを用意されては、きっと双方疲れてしまうだろうし。

「いただきます――」

横からの視線を感じているだろうに、慣れとは関係なしに気にする素振りを見せる事なく。
箸で卵焼きを人よりも小さめな一口大に割って、口腔内に迎え入れる。噛んで、舌で解して、喉の律動が嚥下を伝える。
彼女は咀嚼という一連の流れにリソースの大部分を割いているらしく、次の動作に移るのは常に、一度しっかり飲みこんでからの事だった。

「んっ――――うん、いつも通り美味しいね。美珠さんも食べなよ」

自分の所感を待っているのは分かっていたから、ゆるりと首だけで向き直って微かな笑みを象る。
一人で食べ進める気には到底なれないからその箸が動かない限り、じっと様子を伺って待つばかりなのたろう。
435佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/03(日)02:31:46 ID:LEv [3/8回]
>>434

「……そう? 豊雲野さんが、そういうのならば、そうなのね」

いつも通りで、いつもと同じ。それがどれほど幸福であるかを深く実感するには、美珠はまだ幸福な日常の享受が足りない。
けれど、そのうち分かるときが来るだろう。こうして、こんな関係を続けていれば、きっと分かるときが。
分からずとも、急ごうとは思わなかった。彼女がそういうのならば、そうなのだろうと、信じられたからだった。

「――――それは良かったわ」

そして、彼女の感想を聞けたのならば、嘘偽り無く、この暖かに降り注ぐ太陽の光に恥じぬ微笑みを返して。
それから、自分も箸の先で摘んだ梅干しを、白米と一緒に口に運んだ。
一口一口をしっかり楽しんでくれるのは、作った側としても気分が良かった。
元々、あまりに味気ない食生活をしていた彼女の為に作り出して、習慣づけられたものだから、健康面でも良し。

「そういえば、豊雲野さんは――――」

それから、ほんの少しの雑談を交えるだろう。
それはふと、思い立った疑問だった。彼女は、外の世界に憧れていると言っていたし、それを疑うこともない。
けれど、そこに踏み込んだことはなかったものだから、ほんの軽い気持ちで聞いてみる。

「何処か、行きたいところはある?」

外へ。この学園都市の外に行くとしたならば、何処へ行きたいか。
本島に行くか。大陸に行くか。それともヨーロッパか。アメリカか……なんていう意図で聞いてみたのだが。
少し言葉足らずではあるかもしれない。
436淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/03(日)03:10:32 ID:RDU [4/9回]
>>435
生来必要最低限の栄養だけを摂ればいいと割り切っていたが、感受性は普通の人間となんの相違もないのだから。
多様性に満ち溢れた味に心を動かされないはずもなく、弁当箱と口を往復する箸の動きは淡々としたものだったが。
よく噛んで、飲みこむまでの表情筋の変遷までもが、全くの無感動という訳では断じてない。

「え?…………ううん……そうだね……」

雑談の範疇であろうが、曖昧な問いに思わず問い返す。白米と一緒に含んだ梅干しの酸味に、少しばかり眉間に寄った皺をそのままにして。
例えばそれは、放課後にでも寄れる範囲の話か。それとももっと包括的な、希望を語らう夢物語として聞いているのか。
判断は難しく、加えて目的の邁進に形振り構わなくても、やりたい事を見つけるのには積極性がある訳ではないものだから。
すぐに答えは導き出せず、手を止めて視線をフェンスのずっと向こうにやる。その更に先、大海原の白波を見据えるように。

「…………この島じゃない処なら、どこにでも」

ずっと、淤能碁呂島を囲む海に鎖されていた。外の世界に思い焦がれる事も、知ろうという気にもならなかった。
だから大陸や本島の様相が、こことどれだけ違うのかも想像がつかない。どれも等しく、未知の大地だった。
それでも強いてこの肉体以前の記憶の書庫から、一つを選ぶとするのなら。

「……英国に、少し興味があるかな。どうしてって言われると、ちょっと困ってしまうけれど」
437佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/03(日)03:36:54 ID:LEv [4/8回]
>>436

帰り途に、どこかに行きたいだとか、美珠としてはそういうものでも良かった。
これは本当に他愛のない会話であるのだから、少しばかりのすれ違いなどどうでも良いと言える程度のことだった。
然し確かに彼女は意図を汲みとって、返事に時間をかけても、しっかりと答えを返してくれた。

「……そう。うーん……なら、何処が良いかしら……」

何処にでも、と言われたならば、今度は美珠の方が悩みだした。
家庭環境から、元々住んでいた尾張三河以外と、この島以外を殆ど知らない。観光名所など知る由もなし。
彼女にとっては、観光名所でなくとも、外ならばどこでも楽しんでくれそうだとは思うが、どうせなら最大限楽しみたい。

「……英国ね。なるほど、それなら……そうね……」

英国。ジェームズ・モリアーティやルイス・キャロルを始めとした、黎明協会の面々とも因縁浅からぬ土地である。
とは言え、それはそれ。ただ純粋に楽しむのに、戦いの記憶は関係ない。
イギリスで思い付くもの、というと、やはりあまり多くの知識を持っているわけではないのであるが。

「……バーリントン・アーケードってところに行ってみたいわ。
 私達みたいな日本人でも入れるのか分からないけれど……」

格式高い商店街である、ということだけは美珠は知っている。そういうところを二人で歩いて、英国風の素敵な服を買ったりだとか。
なんてことを何となく空想する。美珠には、あまり縁のない場所であるから、あまりはっきりした想像は出来なかったが。

「じゃあ、先ずはイギリスが目標ね。……勿論、それで終わりじゃなくて。
 本島が最初だろうし、アメリカやドイツだって行ってみたいし……」

けれど、それだけでは物足りないだろう。せっかく、籠の外から出てみるのだから。
安住の地だとか、帰ってくるかとか、そういうことはその後で考えるとして……。

「世界中を巡りましょう。私達、二人で」


/申し訳ありません、今日のレスはこれで最後になりそうです……
438 : 淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/03(日)03:38:27 ID:RDU [5/9回]
>>436
//了解いたしました、返信は後程置いておきます…!
//一先ずお疲れ様でした!
439淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/03(日)13:31:04 ID:RDU [6/9回]
>>437
「あそこも、色々とあったから……どんな処なのか、一度ちゃんと見ておきたいんだ」

それに一般的に流布されている、ヘレナ・ブラヴァツキーの終の住処であるが故に。
止むに止まれない事情の有無を含め、そこを選んだ意図の全てを追体験のみから伺い知るのは難しいが。
まず思い浮かんだのは、それだけの何かを手繰る事だった。かつての碩学達の足跡を直接この目で確かめたいという想いも、否定はできなかったが。

「由緒ある商店街だっけ。あちこちで買い物をするのも楽しそうだね」
「それなら最近出来た、ええと……なんとかってホテルで、本場のアフタヌーン・ティーっていうのもいいな」

未知の無窮へと羽搏きたいと思った原始的な衝動は、断じてそれを起源とした欲求ではない。
鳥籠から見上げる空しか知らない人生は嫌だと、突きつけられて始めて強く自覚した、自分だけの渇望なのだから。
他の何にも縛られない、それこそ思うままに楽しもうとする気概を、誰も咎められるはずもないのだ。
リッツ・ロンドンやサヴォイ・ホテルのような、今は手の届かない新天へと自由の翼で夢想する事だって。

「うん。どこまでも旅をしよう。色々な場所に行って、色々なものを見て」
「一緒なら、どんな国にだって行けるから」

それはこの島が他所に比べて、どれだけ安全かを真に理解していない甘い戯言かもしれないが。
この屋上からは水平線しか望めなくても、その果てに広がる世界に際限はないのだと、彼女はすっかり信じているものだから。
安穏で楽観的と揶揄されようと、いつも通りの微かな笑みを浮かべていられるのだ。
思い出したように、プチトマトを摘まんで口に運ぶ。酸味と甘味のブレンドを舌で転がしながら、空を往く鳶を眺めた。

//お待たせいたしました、お返ししておきます!
440佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/03(日)18:33:45 ID:LEv [5/8回]
>>439

オックスフォード学園都市における事件は記憶に新しいものである。
またチャールズ・バベッジを始めとした蒸気機関文明の中心点でもあるものだから、それだけ栄えているのも間違いはない。
佐野美珠という少女は、彼女の『母』である存在を知ることはないが――――或いは、そこで出会うこともまた、あるかもしれない。

「ホテルでアフタヌーンティー……良いわね、憧れるわ。なんだか貴族みたいで!」

これからの未来、旅立ちと歩みを想像するだけで気持ちが昂ぶってくる。
異国の文化、異国の世界。まるで本の中を歩むような。そういうものを現実にしようとしているのだから、楽しくない筈がない。
柄でもなく、そんな風に語尾を跳ねさせながら、焼き鮭を運ぶ。むぐむぐと咀嚼もそこそこに飲み込んだ。

「どこまでもどこにでも……そう、二人ならきっと楽しいわ。どんなことだって」

勿論、その過程の内に危険なことだって、ままならないことだってあるだろう。
そういうことを考えなくてはいけないのは分かっているけれど、それと一緒に。二人ならば何とかなるとも思っている。
甘い考えだろうか。ただ、それを実現しようとするのは、きっと悪いことじゃない。最後に残った白米の一欠片を口に運んでそう思った。
弁当箱を先に片付けて、ベンチの脇に置いた。一足先に食べ終えて、隣の少女の食べる姿を見つめていて。

「……ふわぁ……」

青い空に、心地良い風。春の陽気に、小さく欠伸を漏らした。
午後の食事の後は、どうしても身体が眠たくなってしまうのは、いつものことであるのだが。
今日は何時にも増して、だった。眠たげな瞳をパチパチと瞬かせていた。

/先日はありがとうございます、お返しさせていただきますね
441淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/03(日)20:40:21 ID:RDU [7/9回]
>>440
危険な無謀をまだ強くは自覚していない、花は散らないと豪語する無邪気さのようなものだけれど。
机上で回る地球儀に記されているのならどんな苦難が聳えていようと、双翼で地平を越えて降り立てるはず。
紙一重の信頼と過信はいつ変転するか定かではない。それでも、全て踏み越えて然るべきなのだ。

「……ふふっ、眠そうだね」

春の麗の陽射しを浴びて、満ちた腹が眠気を誘発するのは誰だって経験し得る事。
それを論うつもりはなく、珍しく普段よりも気の抜けた油断が可愛らしく思えて、自然と零れた笑みだった。

「少しくらいは、寝てしまってもいいんじゃないかな」
「今日はいい天気だから、これくらいならバチはあたらないよ」

彼女は小食であるだけでなく、一口が小さいと同時にそのペースも遅々としたものだ。
弁当箱の空白はやっと半分を超えたところ、待つ間を束の間の休息に当てたって文句を言うはずもない。
食べ終えて、休み時間の終わりを告げる鐘の音が響いて尚、起こしてくれるかどうかの保証もまた皆無なのだが。
442佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/03(日)21:34:56 ID:LEv [6/8回]
>>441

世界地図に花を咲かせるかのような、そんな揺蕩いを経て、やってきた眠気は、何故だろう。緊張か、それとも安心か。
うつらうつらと眠たげな瞳を擦りながら、彼女の言葉にこくりと頷いた。

「……うん……ちょっと……」

誤魔化しようのない眠気、やっぱり分かってしまうかと思いながら、隠すことでもないからそう言った。
とは言え、彼女はまだ食べている最中なものだから、何となくそれに合わせていたいなと思っても居た。
彼女が零した笑みへと、眠たげな微笑みを返して。

「……そう……じゃあ、少し……お言葉に甘えようかしら」

ただ、待っている間を許してくれるのならば、それはまた別のこと。
抗いがたい眠気に、委ねる。瞳を閉じて、彼女の方へ、ゆっくりと体を預け始めることだろう。
食事をするのには、邪魔だろうという考えは、直前まであったのだが、いざ眠気を受け入れると。
安心感と温もりを求めて、彼女への配慮が何処かへと消えてしまっている。

「……おやすみなさい」

最後にそうとだけ残して、ゆっくりと意識を闇に沈めていく。
起きれるだろうか、それとも起こしてもらえるのだろうか、何ていうことは勘定に入れていなかったし、もしも。
昼休みの鐘の音も忘れて、眠り続けることになったとしたら……それはそれで、悪い結果に転がるわけでもないだろうが。
443淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/03(日)21:58:13 ID:RDU [8/9回]
>>442
傾いだ身体を肩で受け止めてしまえば、少しだけ食べづらくはなってしまったが、両効きだったのが幸いだった。
それに眠気の旋律に沈む意識だからこそ、遠慮の垣根を払った動作がようやく顔を出したのが、喜ばしい事に思えたから。

「うん、おやすみなさい」

さして困るでもない不都合よりも、昼の泡沫の枕木になってやる方がずっと優先するべき事だった。
静寂だが、完全な孤独でもない。髪を擽る寝息と、木漏れ日のように穏やかな心音。
それらを背景にして弁当をつまむのは、不思議と寂しくもなんとも思わなかったのだ。
だからようやく食べ終えて空になった箱を片し、一息をついてしばらく。あちこちのスピーカーから響く報せが、教室に戻れとがなりたてたとしても。

「――ああ……まあ、いいか」

その寝顔を見たのならば、起こしてやろうという気は悄然と失せる。
支えてやらないといけないから、一緒になって微睡みの波に揺蕩う事はできないけれど。
流れる雲をこうしてぼんやりと眺めているのは、学びの時間よりも有意義とさえ思えたから。
美珠が目覚めるのは結局、彼女自身が自ら意識を覚醒させた時で。彼女はきっと悪びれもなく、こう言ってのけるのだろう。

「――――気持ち良さそうに寝てたから、起こしたら悪いと思って」
444佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/03(日)22:33:47 ID:LEv [7/8回]
>>443

安心しきった睡眠、深い闇の中に溶け込んでしまうような、何も心配がいらない、心から全てを預けられるような。
何も心配のいらない、誰かが隣にいるような睡眠を、少女は初めて体験した。だから区切りの鐘の音も聞こえなかった。
きっと起こさなかったのなら、随分と長い間時間眠ってしまうことだろう。次に目を覚ます時は――――

「――――ん……」

ゆっくりと、まぶたが開いた時には、そこから一時間か二時間か。少なくとも一限は超えているだろう。
青い空だったものが、ゆっくりとその色を失い始めている。春先の空は、日が落ちる速さこそ、冬ほどではないけれど。
確かに、色の失いを感じさせてしまって、そこに少しの焦燥を感じてしまって、慌てて隣の少女を見て。

「ご、ごめんなさい……私ずっと……」

流石にそんな時間、ずっと支えにしていたと考えると気も引けてしまうものだから、謝ることから始めるが。
それでも、彼女の悪びれないような、何でも無いような言葉を聞くと、すっかりと肩の力が抜けてしまう。

「……もう」

苦笑いにも似た微笑みを、返すのみだった。
それにしても、心地良い微睡みの時間を終えて、しかし残り幾つもない授業に戻る気はしなかった。

「ねぇ、もう、先に帰っちゃいましょう。……今から真面目に授業を受ける気にもならないわ」

そうして、結局体育どころか、このまま学校から抜け出すことを提案してみる。
どうせならば、とことん突き詰めてやろうと。
445淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/03(日)22:57:48 ID:RDU [9/9回]
>>444
「――――おはよう。よく寝てたね」

焦る美珠とは裏腹に、変わり映えのない無表情は怒っているようではないが、逆を言えば気にしていないのかも曖昧であって。
今回の場合、呆れていないどころかこのひと時を楽しんですらいたのは、終ぞ彼女から起こしはしなかった事から明白だった。
実際、天蓋と行き交う雲と、その狭間を駆ける鳥影の軌跡を観察しているのは、然程退屈を呼びこむような事ではなかったし。
蒼天から茜空へと徐々に移り変わっていく色彩の変遷は、見ていて飽きはしなかった。

「ん…………そうだね、そうしちゃおうか」
「どうせ今から戻ったって、怒られて終わってしまうだけだもの」

非行の提案に少し悩んだ素振りを見せたが、答える声色こそ平坦であるものの存外肯定的であるのは疑いようもない。
積極的にサボタージュを貪る悪童ではないが、品行方正の枷を自分に嵌める程に真面目な性分でもない。
中途半端に戻ったって何か結実するでもなし。ならばそれよりも、思うままに行動してしまいたかった。
446佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/03(日)23:29:22 ID:LEv [8/8回]
>>445


慣れ切っているものと言えど、その無表情に対して、時折判断に困ることがある……嫌、というわけではない。
初めてであった時は戸惑ったものの、今ではそれも彼女の個性のうちの一つだと思えるし、魅力だとも思う。
ただやはり、彼女の言葉には、気恥ずかしそうに笑うしか出来なかったのだが。

「ふふっ――――それじゃ、行きましょう。職員室から見えない、裏口から出ていって」

たまにはこういうことがあってもいいだろう。
最後まで生徒や教師を置き去りにして、さっさと煙のように消えてしまう、なんていう気ままな一日も。
裏口から行けば早々見つかることもない、ということを知っているのは、結局何度か同じことを経験しているからなのだが。
ともあれ、ベンチから立ち上がると、彼女に手を差し出した。その手を繋いで連れたって、そうしたならば、するりと校舎から抜けていく。
無人の門を悠々と歩いて。

「ねぇ、豊雲野さん。今日の夕飯は何が良いかしら?」

さて、美珠としては、さっき昼食として、すぐにまた夕飯の話になってしまうのだが、時間は時間である。
この大量生産、大量消費の時代に合わせた、米国初のスーパーマーケットに立ち寄って、買い物をして帰るかと考えた。
簡単なものならば、家でも作れるだけ揃っているから、なにもないならば、そのまま直帰、ということも出来るが。

「……それと、今日は家に帰る?」

それに重ねた質問には、友人が家に泊まるかどうか、なんていうイベントに対して、年頃らしい期待を重ねて。
447淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/04(月)00:00:22 ID:TBW [1/6回]
>>446
差し出された手を取って、引かれるままについて歩く。見つからないように、なんてそれ程気にした事もなかった。
教員に指摘されようと堪えないし、聞き入れているかどうかも怪しい態度に熱心に言い聞かせる者もそういないものだから。
裏口からこっそり抜け出すのは、余計いけない事をしているような気になって。顔にこそ出さないものの、繋いだ手に少しばかり力を込めた。

「そうだね、今日は……夕焼けを見ていたら、トマトが食べたくなったな」

おそらく黄昏色の空に、紅く燃えて地平に浮き出る太陽を幻視して、そこから丸くて赤い実を連想したのだろう。
突飛な発想はともかくとして。元々簡素極まる食生活であったから、疎い献立としてよりも食材を挙げる事が多い。
人気のない構内を靡く髪が乱す。敷地外に出れば、往来の喧騒が二人を包んだ。

「……どうしようかな…………」

けれど彼女はそう呟いたきり、視線を落として思索に耽ってしまう。
否定的な勘案ではない。ただ、そういった事はまさしく未知の領域であったから。
見知らぬ大地に踏み出す好奇や高揚ともまた違う。敢えて形容するなら、緊張に近い感情だろうか。
だから答えを口にできるのは、たっぷりと間を取ってから。リードされて寄りかかる、囁くような声だった。

「…………着替え、貸してくれるなら。明日はせっかく、学校も休みだしね」
448佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/04(月)00:37:29 ID:I9e [1/6回]
>>447

「……トマト? トマトね……トマト……」

食材を挙げること自体は問題ないが、トマトと言われるとちょっと悩む。
トマトを主役にした料理。添え物だとか、一部になることは分かるが、あまり思いつかないものだった。
そこまでレパートリーが多いというわけでもないものだから、少し考えた後。

「……ミートソースパスタでいい?」

思いついたのはそのくらい。トマトは潰れてしまうが、それでも了承を得られたのであれば、道中で買い物に寄っていくことだろう。
そして勘案に耽ける彼女のことを、じっと見つめていた。落ち着かない様子であった。
指先で神を弄びながら待っている。例えばそれはお泊まりの提案と変わらないのだから、そういう友人付き合いを経験しなかった身としては。
階段を一段二段飛ばすようなものであったものだから、その一挙手一投足に、ドギマギとして。

「……や、やった……!
 いえ、そ、そう、勿論貸すわ、サイズが合うか分からないけれど……いえ、多分大丈夫! 多分……」

それだから、寄りかかる彼女の声から、小さな声でも、ちゃんと答えを受け取れたことが、嬉しかった。
舞い上がりそうになるのをここはぐっと抑えていたが、それでも声が弾むのは止められていないのだが。
ともあれ、未知の領域に踏み込むことになった事で、胸を弾ませる気持ちが、声に出てきたのは隠せなかったのだが。

「じゃあ、先ずは買い物に行って……それから、私の家に帰りましょうか」

頷かれれば、食材を二人並んでしっかり買い込んだ後、美珠の家に連れて行くことだろう。
その間中、やはりどことなく舞い上がっているように見えるのは、想像に難くないが。
449淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/04(月)01:17:20 ID:TBW [2/6回]
>>448
「……うん、いいと思うよ」

それはトマトなのだろうか、という疑問が沈黙を生んだが、それ以上を指図できる立場ではないと分かっていたし。
自分で言ってみて、トマトをメインにした主菜というのが中々思い浮かばなかったから、むしろこれ以上にない努力をしてくれたのだろうと。

「背はそんなに変わらないし、大丈夫だと思うけど……」
「……多分……いや、どうだろう……」

一見常と変わらない平静な態度、しかし静かな期待と緊張を忍ばせているのには相違ない。
そうでなければ、これからの夜を考える事から逃げ出して、特にバスト周りの差異から服のサイズを気にしたりなんてしないだろうし。
事実、膨らみを覆う分の生地は、彼女の文字通り平坦体躯ではあまり余って仕方がないのかもしれないが。
それでも躍る心と密やかな緊迫感に、斜め後ろの足取りは心なしか軽いものであった。

「――――お邪魔します」

そうして諸々の買い出しを済ませ、美珠の家に到着するのは夕食の支度にちょうどいい時分。
いつも通りに靴を脱いで、いつも通りにベッドに浅く腰掛けて。手伝おう、という気概が皆無かと問われれば否ではあるのだが。
包丁も持った事がない彼女の手つきなど推して知れるから、こうして大人しく待っているのが常であった。
今日はほんの少しだけ、落ち着かなさそうに視線が慣れているはずの室内を走っていたが。
450佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/04(月)02:08:04 ID:I9e [2/6回]
>>449

その沈黙の理由だけは、先ず間違いなく正確に感じ取れた。
実際自分でもそれでいいのか分からない――――トマト料理というにはちょっと疑問。
せめてトマトをサラダにして添えようかな、なんてことを考えながら。トマトとトマトでかぶることになってしまうが

「大丈夫よ、体格もそこまで変わらないし……多少大きくたって小さいよりは……」

着れる服がなくて、お泊りはまた今度に、なんていうことは美珠としては避けたいものだったから、大は小を兼ねるなんて方便。
言葉に特に他意はなく、ただただ、これからの一夜に対して心を弾ませるままであった。
そうして帰り道で買い物を済ませて、いつもどおりの、しかしいつもよりも輝いて見えるような我が家に返ってくる。
鍵を開けて扉を開いて、家に上がる挨拶に向けて、どうぞ、なんて相槌を打つくらいには、舞い上がっている。

「それじゃ、少し待っていてね?」

いつもの通りに、彼女を待たせて自分はキッチンに向かう。
実際、狭いキッチンであるものだから、美珠が一人でやったほうが効率的であったりもする。
一人分の食事から、少しだけ量を増やすだけでもある。さて、エプロンを付けて、キッチンに立ったならば、調理の開始だ。
先ずは玉ねぎ、人参の皮を剥いて微塵切りに。その片手間でコンロの上にフライパンを置いて熱し、微塵切りを終えたならば以下省略。
ソースに挽肉を加えた辺りで、二口目のコンロでお湯を沸かし、塩を一摘み入れてパスタを茹でる。
その間に刻んだキャベツを盛り付けて、トマトを切って乗せる。茹で上がったパスタを皿に移し、ミートソースを乗せる。

「豊雲野さん、運ぶの手伝ってくれないかしらー?」

そうして、待っているであろう彼女へと向けて、最後にちょっとだけお手伝いを求めることだろう。
一皿ずつのミートソースパスタに、大皿に乗った、醤油ベースのドレッシングをかけたトマトサラダ。取皿。
一人で運び切るには少し手間がかかったものだから、ちょっとしたお手伝いを要求する。その頃には、丁度夕食には良い頃合いか。

「体感だと、私ずっとご飯食べてる気がするけど……はい、どうぞ」

そんな冗談を軽く口にする程度に舞い上がりながら、彼女の対面に座るだろう。
食事の準備はできたものだから、最後にフォークを手渡して、それで食事の準備は終わる。
先ずは彼女の感想を聞くのが、美珠の食事の第一歩であり。今回は何時になく、ソワソワと答えを求めるのだった。

/長いロールにお付き合いいただき、ありがとうございます
/今回の返信はこれで最後となりそうです……
451淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/04(月)02:44:22 ID:TBW [3/6回]
>>450
調理の間、彼女が何かしらのアクションを取る事は極めて珍しい。ただぼうっと座ったまま、日によっては眠っているかのように目を瞑っているくらいだ。
だから慣れ親しんでいるだろう部屋の中で、ベッドに座り直したり膝の上で指を弄ったりしていれば、気もそぞろなのがよく分かる。

「……あ、うん。分かった」

だからかけられた声への反応も比較的鈍い、表面上はなんら動揺していないようだけれども。
普段なら意識の大部分を傾けている、少しずつ空間を彩る炊事の匂いを、気にかけるだけの余裕はないらしかった。

「その分、夜は寝なくて済むかもね――いただきます」

盛り付けられた皿達を配膳して向かい合う。食前の挨拶は欠かさずに、手を合わせてからフォークを受け取って。
最初の一口を委ねられるのは、変わらないルーティンだろうに。咀嚼するまでに要した時間は、昼の弁当時よりも長かった。

「…………んくっ……美味しい。ちゃんとトマトの味がするんだね」

その要素は、果たしてそこまで重要であるか怪しいところではあるが。
とかく満足のいく出来であるのには変わらない、 綻んだ緊張から仄かな微笑が顔を出す。
そうしてようやく二人の食事が始まって、やはり彼女は食べる事にリソースを大きく割かないといけないのだろうが。

//了解しました!こちらも楽しんでますのでお気になさらずっ
452佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/04(月)15:00:41 ID:I9e [3/6回]
>>451

さて、ほんの一瞬や一度や二度であれば、そんな日もあるだろう程度の、ちょっとしたブレという認識で済むのだが。
それが継続して見られるとなると、流石に気にもかかる。取り敢えず、配膳の手伝いをしてもらうが。
それでも取り敢えずは観察のつもりで、彼女のことを見つめているだろう。料理の出来栄えを確認するという意味でも。

「そう? 良かったわ、トマトは潰しちゃったから、あんまりかと思ってたんだけど……」

とりあえず満足なのはよし。サラダも少なめに取り分けて、すっと差し出しながら。
しかし、何時もよりも一口が長い。何より何処か落ち着かないように見える。
何か不満でもあっただろうか。部屋の芳香剤を変えたということも特に無いし、散らかしているわけでもないのに。
くるくるとフォークでパスタを巻いて口に運ぶ。味は問題ない。ならなんだろうか。

「……どうかしたの?」

やはり本人の口から聞くのが一番だろうか。
ただでさえ彼女は食事に集中しなければならないのだから、あまり食事の邪魔になるようなことはしたくなかったが。
どうしても気になってしまう。美珠自身も初めて友人を泊めることで、緊張しているものだから、できれば解決しておきたい。

「なにか変なことあった? お腹痛い? ……泊まりはイヤだった? なにかあるなら、言ってくれていいのよ?」

思えば、泊まりを提案したときも悩んでいた素振りを見せたものだから、もしかしたらなにか思うところがあったのかもしれない。
何にせよ、聞かせてほしかった。それこそ遠慮することはなく。

/ありがとうございます……! それではお返しさせていただきますね
/またよろしくお願いします
453淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/04(月)15:27:02 ID:TBW [4/6回]
>>452
食べる時だけはそっちに集中しないといけないから、分かりやすい兆しがある訳ではないのだが。
常日頃から変わらぬひと時を過ごしていれば、その変化は撥水の如き浮き彫りになる。
言われて初めて、それが露呈していたと気がついたようで。食卓に落とした視線を持ち上げて、ぱちぱちと碧緋の眼を瞬かせた。

「…………そう見えた?」
「……ごめんね。何が嫌だとか、そういうつもりじゃないんだけど……」

取り分けてもらったサラダを食道に迎え入れて、それからようやく唇を開く。
気に入らない事があったり、都合が悪いと思うところがあったりであれば。それを言葉にする事に、そう躊躇うような性分ではない。
ただ、どう表現すればいいのか分からない漠然とした思いであったから、パスタを通したフォークの手を止めて、束の間口を噤んだ。

「…………多分、緊張しているんだと思う。こういうのって、初めてだから。美珠さんが気にする事じゃないよ」

生来、そういう感情とは縁遠い性格だった。初めて友人の家に訪れた時だって、優先されたのは好奇の方だった。
上手く処理のできない情動は、生まれ持った淡白のフィルターを通しても中途半端に表れ出る。
他人事のようで、自分でも理解が及んでいない所感。指先が所在なげにフォークを撫でた。
454佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/04(月)19:24:01 ID:I9e [4/6回]
>>453

「まぁ――――」

緊張。それを聞いた時に、美珠は間抜けな声を漏らしながら、フォークを持っていた右手を止めた。
今まで彼女のことを見てきて、そういうものを見て取れたことがないものだから、てっきり縁がないものだと思っていた。
だから今回も、頭の中に選択肢としてすら入ってこなかった――――いつも、好奇心旺盛な彼女が今日、緊張している。
それも自分の家に泊まるという理由で。

「そ、そう? ふふふ、分かった……緊張、緊張かぁ……」

なんとも可愛らしいこと。まるで小さな子供を見ているかのような。
思わず溢れた笑みを隠すこともなく、ふんふんと鼻歌交じりに食を進めていく。くるくるとフォークを巻取り、サラダを口に運んで。
その上機嫌がそうさせたのだろう。ただでさえ差が出来るというのに、いつもより早く食事を終えることになってしまうのだが。

「それじゃあ……これから慣らしていかないとね。……こ、これからも、二人になるわけだし」

そして、これからも来てくれたら、なんていう言外の誘いをかけるのだった。
これから二人で世界を回るとなれば、一緒に寝泊まりすることも、いやこの場合は部屋じゃないからセーフなのか。
なんて言うことを考えながら、箸を置いて、しばし彼女の食事風景を見つめてから。

「お風呂の用意してくるわね。豊雲野さんは食べてていいからね」

と、立ち上がって浴室へと向かうのだった。
455淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/04(月)21:15:51 ID:TBW [5/6回]
>>454
何を笑う事があるだろうか、とは思ったもののそこに悪い意味があるとは到底思えなかったから。
じっと見つめる双眸に感情は映らないが、なんとなく含羞を上辺で誤魔化しているような眼差し。
これまで他人に見せた事もないどころか、自分でも覚えのない心の揺らぎだからこそ、内外への対処法も中々確立は難しい。

「そっか……そうだね。これから慣れていけばいいんだよね」

どこに緊張する要素があるのか、自問自答を繰り返しても未だ答えに辿り着けてはいないけれど。
何も今回に限らず、反覆の展望があると言い聞かせられて。柄にもなく、安堵を抱いた。
ごく自然に頷いた後、非文の誘いであった事には気がつかないままであったのは、やはりらしくはなかったが。

「ん、シャワーだけでいいんだけれど……分かった」

多少は気が抜けたのだろう、食べる速度は幾許か普段通りに戻ったようで。
普段の味気ない生活が垣間見える否定を挟もうとしたが、郷に入っては郷に従えとはよく言ったもので。
結局すぐさま言葉を引っこめて大人しく食べ進めれば、どうにか全て胃の中に収めて。
美珠が戻ってくる頃には、ちょうど二人分の下膳を済ませた頃になっているはずだ。
456佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/04(月)21:51:17 ID:I9e [5/6回]
>>455

勿論その笑いに、嘲笑の意図は含まれておらず、只管に微笑ましく、そして経験を歓迎するものであった。
とは言え、普段は自分よりも成熟していると言うか、達観しているように見える彼女が、緊張していると考えると。
嬉しいと言うか、優越感と言うか、何とも言えない綯い交ぜになった感情がモヤモヤと立ち上ってくるのも事実なのであった。

「そう。……一回だけじゃないんだから、繰り返して慣れていきましょう」

彼女の持つ緊張が、美珠の抱いているそれと共通しているかは定かでない。
だが少なくとも、再度の約束を自然と取り付けられたものだから、美珠としてはとても喜ばしいものだった。
……彼女がそれに気付いているかは分からないが、そこはどちらでも良かった。言質は取っているのだから。

「ちゃんと湯船に浸からないと、自律神経とかなんとか、そういうものに良くないらしいわよ?」

普段は代謝をしていることすら疑わしいような、透明感に溢れた彼女であるが、然しだからといってそれは良くない。
衛生的には問題ないかもしれないが、健康的には湯船に浸かるべきである……というのが一般的な常識。
知識としては曖昧であるのだが、これも体を気遣ってのことであるので。
さて、風呂を洗って、湯を張り始めて、二人分のバスタオルを置いて戻っていく。

「お待たせ……あ、下げといてくれたのね。ありがとう、豊雲野さん」

皿が既に流しへと持ち込まれていることを見れば。
礼の言葉とともに、彼女へと手を伸ばし、幼い子にやるように撫でようとする。
特に他意はないものだが、先程の事もあって、少し彼女のことが幼く見えていたのかもしれない。

「そうだ、着替えも用意しておかないと……これでいい?」

パタパタと忙しなく世話を焼く。取り出したのは、ゆったりとした寝間着の上下だ。
前開きのシャツタイプで、胸元のボタンが多少緩かったりはするものの、美珠が日常的に使っているうちの一着。
白の上下で、小さなシルエット化された猫が連続して描かれている。それを彼女へと差し出して。
457淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/04(月)22:16:44 ID:TBW [6/6回]
>>456
「ちゃんと身体を洗えれば、別にいいと思うんだけれど……」

背中に届く声は不満げ、と言うよりは心底から不思議そうな響き。
人並みの健康状態を保てれば、それ以上を生活に取り入れようとしないのは食事に留まらないのだ。

「ううん。いつもご馳走になってるし、これくらい気にしないで」

ともあれ戻ってきた美珠の礼に、むしろ世話になってばかりなのはこちらであると首を振る。
返せるのはこれくらいであるから、至極当然の手伝いではあったのだが。
撫でられるのにどうやら悪い気はしないらしく、大人しく掌を享受して猫のように目を細めた。

「大丈夫……だと思う。どうかな?」

元々がゆったりしているサイズ感であれば、多少の上背の違いはそう顕著に表れるものではない。
広げて身体に当ててみて、そうひどく合わないという事態にはならないはずだ。
一部布が余りそうではあるが、着てみなければ分からない部分であるし、そこまでの試算は頭にない。

「…………それじゃあ、先にシャワーを借りてもいいかな」

受け取った着替えを抱えて、一人そそくさと浴室に向かおうとしているのは。
これまでは既に帰宅しているはずの段階を、今初めて踏み越えて長居してしまう事から、微細な緊張が逃避を選んでしまうが故で。
二人で入浴するのが嫌だというつもりはないが。ただ単に、それを言い出す胆力が今だけは萎びてしまっているようだった。
458佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/04(月)23:31:46 ID:I9e [6/6回]
>>457
「その気持ちが、私には嬉しいのよ」

 指通りの良い髪と、分かりやすく、身を任せてくれる反応が心地良い。
 何よりその感謝の気持ちだけでも、そう思ってくれるだけでも、少女にとっては万の宝石よりも価値のあるものであった。

「ええ、大丈夫そうね。ちゃんと着れそう」

 自分が普段日常で着ているものを、彼女が着ると考えると、少し不思議な気分にはなったが。
 ともあれ、着る分には問題なさそうだ。布が余る分には、逆に小さいよりはマシだろうということで。
 脱いだ服は洗っておいても良いのだろうか……なんと一瞬考えたが、そんな事は後回しとして。

「あ、ええ……行ってらっしゃい」

 なんだか、よそよそしいような様子で風呂場に向かっていく彼女を見送ろうとする。
 さてその間に歯ブラシや布団を用意しておくのが効率的だろうが、そんな事は今はどうでも良いのだ。
 果たして本当に、彼女は素直に湯船に浸かるだろうか。今、シャワーを借りると言った。ならばもしや本当にそれだけなのでは、なんて考えて。

「待って、私も一緒にいいかしら?」

 と、するりと声が出たのは、彼女に対する過保護なまでの世話焼きの一種なのだが、言ってから美珠は気付いた。
 ほんのお世話のつもりで口に出してみたのであるが、二人一緒に入ることを自分から要求しているようだ。

「……べ、べべ、別に変な意味じゃなくてね? あの、豊雲野さんうちのお風呂わかんないだろうし?
 だ、だか、その、い、嫌なら良いのよ? う、うん、そう……!」

 変に意識して、そう言い訳を並べるのは逆効果だろうが、そんなことには気付かないで。
 自分の着替えをぎゅうぎゅう抱きしめて、挙動不審にそう言うのだった。
459淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/05(火)00:16:57 ID:XXB [1/8回]
>>458
呼び止められて、振り向くまでに幾許かの時間を要した。正直なところ、言われる内容は予測できていた。
美珠から言い出すとしたら、余程あるだけを振り絞ったものになるだろうとも思っていたから。
そうであれば揶揄ってやって、少しでも自分の平静を取り戻そうという心算だったのだが。

「――うん、構わないよ」

あまりにも、その言い方が自然なものであったから。ついついつられて美珠が慌てふためくより早く、返事が口をついて出る。
本当にシャワーだけで済ませるつもりだったから、一緒に入ってどうするのだろうという思いこそ多々あれど。
言い出した本人があまりに泡を食っているものだから、身体の不必要な力が抜けたように思えた。

「分かってる、分かってるから落ち着いて」
「嫌なんかじゃないよ。一緒に入ろう」

軽く微笑みを零して寝間着を抱きかかえる腕をちょいちょいと引く。引っ張って連れて行こうとしないのは、勝手が分かっていないのもあるのだろう。
二人入った脱衣室で、自分の衣を取り払う手つきに躊躇や羞恥といったぎこちなさはない。呆気なく生まれたままの姿を晒して、ふと手を止める。

「ああ、洗濯……お願いしてもいいのかな」

露出に何かしらを思う事はなくても、二日続けて同じ衣服に袖を通すのには抵抗感があるらしかった。
460佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/05(火)00:52:21 ID:a9v [1/7回]
>>459
結果的に美珠は空回りをすることになってしまう。求めていた結果としては、正しいものであるのだが。
わたわたと慌てふためくよりも先に、肯定の意見を聞いたことによって更なる混乱を招いてしまうのだが。
とにかく、美珠としては、彼女が優しくて幸運であった、という他ないだろう。

「あっ……ふくっ、ぅ……わ、分かったわ……」

小動物のように袖を引く動きに、ようやく思考の空転が落ち着いた。
こくりとようやく頷いて、彼女を連れて脱衣所へと連れて行く。……だが、彼女と比べて、美珠には既の躊躇いがあった。
今から脱いで裸を見せるのか、とか、肌白い、だとか、細いなぁ、なんてそういう雑念がまだまだ湧き出てきて、服を脱ぐ動きはゆっくりとしたものになった。
一糸まとわぬ姿で、右手を重たげに胸の下に添えて、それからようやく入浴の準備を終える。

「ええ、勿論。それは私に任せて」

それについては当然のことだろう。
彼女に洗っていない服を着せるなど、むしろいいといわれても拒否して無理矢理洗濯をしてみせる予定だった。
あまり意識をしないように、ジロジロ見ないようにとしているわけなのだが、それはそれでやはり挙動が不審になる訳だが。
ともかく、浴槽の扉を開いて、彼女を招くだろう。

「シャンプーとか洗顔は好きに使ってね。
 ここは結構新しいから、設備も新しい方なのよ。こうしてこっち側に捻ればそれで……」

美珠が住んでいる寮は、建物としては新しい部類に入る。
シャワーヘッドを手にとって、しゃがみ込むと、捻るだけで後は勝手にお湯が出てきてくれる……と説明する。
指先でちょんちょんと出てくる水が湯になるのを確認している。
461淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/05(火)01:37:16 ID:XXB [2/8回]
>>460
「ありがとう、よろしくね」

洗濯物を委ねながらも、素肌を見せる事に抵抗がないから、緩慢とした脱衣の動作を訝しむが故にじっと見つめていたが。
やがて肌寒いのだろう、などと見当違いなあたりをつけて、ほんの一瞬だけ視線が胸元へ落ちる。
自分よりも遥かに、と思うのも束の間。すぐさま失礼だと思い直して目を逸らすが、その先が美珠の顔で固定されているから、逆効果かもしれなかった。
落ち着かない美珠の様子を、まだ動転を引きずっているものとして。誘われた浴室で、見慣れないカランに僅か首を傾げた。

「どれ…………ああ、本当だ。楽でいいね」
「わたしのところも、ここだけ新しくしてくれればいいのに」

しかしその仕組みを理解すれば、納得に微量の感嘆を含んだ声があがる。
彼女も寮暮らしだが、学園都市にやってきたのは美珠よりもずっと前。当然その頃からの建物だから、比較的古い方だ。
屈みこみ、横から人差し指でシャワーの水温の変化を確かめながら。二つのバルブで調整しなくてもいい画期的な形態に、どこか声が弾んでいるようだった。

「美珠さん、湯船に浸かる?わたしは身体を洗ってしまいたいけれど」

まるで自分は湯船に身を預ける気はないようで、実際その通りだった。張ったお湯から立ち昇る湯気は、彼女にとっては存外未知のものだ。
一つのシャワーヘッドを二人で分け合うのもいいだろうが、効率で見れば交互に済ませるのが圧倒的に楽。
けれど相手の手番の間、湯船の中で過ごそうとは思わなかったから、自然と至るのは一番風呂を譲ろうという思考だった。
462佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/05(火)02:00:32 ID:a9v [2/7回]
>>461

「お金さえ払えば、業者にやってもらえるかもだけど……怒られちゃうかしら」

思っていたよりも、この風呂場の温度調節機能に対して反応が良いものだから、別に自分の手柄であるわけでもないのに。
ちょっと得意げな気になったりもしていた。そして設置だけならば、お金で解決できそうな気もする……専門知識が無いので予想ではあるのだが。
とは言え、寮長なりの許可なく設備を弄ったら怒られてしまう、なんてこともあるだろうし、決して安くもないだろうから。

「……豊雲野さん、湯船入らない気でしょ」

答える前に、ジトっと彼女を見つめて、それを咎める。
先の発言から推測したものであるのだが、おそらく彼女は入らない……ので、この場合、一番風呂を貰うのは美珠的には不正解。
出来れば逃さないように、しっかり温まって貰う必要があるから、脇に寄せられていたバスチェアを引っ張ってくる。

「さ、座って。私が洗ってあげるから」

シャワーはもうすっかり温かくなっているものだから、トントンと指先で叩いて彼女に来るように促した。
裸の付き合いにこの短時間で慣れたということはないが、此処には彼女に世話を焼くためにやってきた。
その目的を忘れるわけにはいかないと、彼女を招くのであった。

「洗い終わったら、ちゃんとお湯に浸かってもらいますからね」

そしておどけた命令口調で最終目的を告げるのだった。
どうしたって湯船にはしっかり入って、肩まで浸かって温まってもらう。でなければ、お湯を張った意味がないのだから。
463淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/05(火)02:29:39 ID:XXB [3/8回]
>>462
管理者に許可を取って、業者を呼びつけて、それなりの金を支払う。
そこまでして自宅に取り入れたいかと考えると、一気に現実に引き戻されるようにも思えたから、ううんと小さく否定的に唸った。

「…………うん、そうだけど」

それは駄目だと言われるのが、向けられた眼差しでよく分かってしまったものだから。
たっぷりと間を取って水音に静寂を委ねてから、悪びれもなくはっきりと頷く。
本気で嫌がっている訳ではない。ただ溜めたお湯に身を浸からせるというのが、どうしても想像できないのだ。
前身が温浴をしていた記憶はある。けれどその肌感覚までを、明確に追想できる訳ではない。特に興味のない未知に、熱情はどうしても興らなかった。

「大丈夫だって。それくらい自分で洗えるよ」
「……どうしても、入らないと駄目?」

バスチェアに腰を下ろすのを躊躇うのも、今回に限っては人に頭髪や身体を触らせるのを嫌うからではない。
座ってしまったら湯船に浸かるのに同意するようなものだから、諦め悪く上目で伺ったりなんかもして。

「…………分かったよ。少しだけね」

しかしやがて、ついに根負けしてバスチェアに不承不承座る事になる。
いかにも渋々といった体、洗いやすいように背中を丸めて目を瞑った。
464佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/05(火)02:51:20 ID:a9v [3/7回]
>>463

「ダメ」

どうしても入浴を嫌がる様に、思わず猫を想起させる……飼った経験はないのだが。
とは言え、意思は強固であった。彼女がもしも前身の名を名乗っていたのならば、文化の違いで納得したかもしれないが。
彼女の名前は淡島豊雲野。少なくとも戸籍上は、しっかり日本人。だからそれに関しては、遠慮することはなかった。

「よし、偉い! 大丈夫、一回入ってみれば良さは分かると思うし……ダメだったらすぐ出てもいいわ」

……上目で強請るように見られた時には、少し意思が揺らぎかけたが、何とか意思を保った。
彼女の身体が弱いものであることは知っているから、体質上入れないと言うならば、すぐに出ることは問題はない。
ただ、一度経験してほしいのが事実だった。入浴は日本人の魂……なんていうのは少し大袈裟かもしれないが。身体にも美容にも良いのだから。

(……肌白っ……細い……大丈夫かしら、私なんかが触って……)

さて、改めて対面してみると、まるで雪のような肌。そして細く小さな背中に感嘆の声が漏れそうになる。
一度シャワーでお湯を背中にかけてから、ボディタオルで泡立てる……生地としては柔らかめなものであるが。
こんなに白い肌を擦って良いのかと躊躇う――――言い出したからには、勿論止めるわけにはいかないが。

「……痛かったら言ってね?」

と予防線を張りながら、丸まった背中にボディタオルを当てて、優しく擦る。
左手を手持ち無沙汰に背中に添えながら、背中を洗い続ける。
首元から初めて、反応を見ながら、慎重に少しずつ下ろしていく。
465淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/05(火)03:28:17 ID:XXB [4/8回]
>>464
元々人より虚弱な体質、加えて不健康一歩手前の生活を送っているものだから。
肌の白さは血色の悪さもあるのだろうが、温かい浴室の中では多少なりとも血の巡りはマシになる。
背中にかけられたお湯の心地よさに吐息が漏れる。すっかり濡れた髪が邪魔だろうと思い立ち、一纏めにして肩から前へと流した。

「ん……優しくしてね」

人に委ねるのは初めてであるから、どれだけの力加減が背中にかかるかどうか予想がつかない。
手つきが見えなければ尚の事。神経にどれだけの刺激が走るのか、気遣わしくなってそう言っていた。
皮膚に傷がつこうとどうでもいい事だったし、力が強ければすぐに口にするつもりではあったから、そこまで本気で心配してはいないのだが。

「……んっ……、……」

いずれにせよ、杞憂だったのはすぐに明らかになる。ボディタオルが肌を擦って、小さな声が唇から漏れた。
そこに痛みから来る鋭さは皆無。むしろ撫でられて喉を鳴らす猫に似た、甘えるような柔らかさを孕む。
自分でするのともまた違う力の塩梅は、絶妙に快然とした感覚で。更に添えられた左手が擽ったさも誘発するものだから。
心地が良いのは疑いようのない事実であり、俯いた眦もとろんと下がって、安らいでいるのは確かだった。
466佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/05(火)03:57:53 ID:a9v [4/7回]
>>465
まるで割れ物でも触れるように丁寧にを心掛けている。この白肌を傷付けるのは、本意ではなかった。
爪を切っておけばよかったと後悔する程度に、そうして丁寧に撫でていたが……どうやら、効果は覿面だったらしい。
痛みを感じているようでは無さそうだったし、これは恐らくは心地良い、という解釈をして良いのだろうと思う。
ただ、浴室に響くその声色は、普段では中々聞くことの出来ない、何とも言えぬものであった。

「……どう? 痛くない? ……気持ちいい?」

一応そう聞いてみながら、ボディタオルで撫でた後の泡を、空いていた左の手で伸ばしていく。
そういう行為を背中いっぱいに繰り返し、出来る限りを洗い終えたならば、後はシャワーを片手に取った。

「はい、それじゃあ、背中流すわね。そのまま頭も流しちゃうけれど、大丈夫?」

ともあれ、順当に終えて、背中を温水で流すことになるだろう。美珠としては、一息ついて、ほっとした気分だが。
さて、それで終わるというわけでもなく、前は流石に自分でやってもらうとして……了承を得られたのであれば。
そのまま、紅白入り交じる彼女の長髪を預かるつもりだった。頷かれれば、先ずは髪を濡らした後、纏めた髪を預かってから、手櫛で解いた後。
まずは手の中で、シャンプーを泡立てるのであるが。

/申し訳ありません、本日の返信はここまでとなります……!
/遅くまでお付き合いただき、本当に感謝です
467淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/05(火)14:50:27 ID:XXB [5/8回]
>>466
視覚を閉ざしているからだろう、余計に背中の神経が研ぎ澄まされているような錯覚を覚えるものだから。

「ん、ふぅ……気持ちいいよ……」

声の調子からして、その通りであるのは明白だった。顎を前に突き出して、穏やかな吐息がほうと漏れる。
浴室に満ちる湯気の温かさも手伝って半ば夢見心地、泡を滑る指が擽ったくて悩ましげに眉尻が下がった。
そんな状態であるから確認の言葉にも、即答までとはいかないが至極あっさりとしたものだ。

「うん、お願いするよ……前は自分でやれるから」

美珠に頭を洗ってもらっている間、洗い残した部分を自分でやる方が時間が無駄にならない。少し窮屈ではあるが、やれない事はなかった。
シャワーのお湯が背中を伝って泡を流し、続けて頭部へと向かえば髪を濡らして床に落ちる。
すっかり水分を含んで重くなった髪を後ろに受け渡し、代わって泡の残ったボディタオルを要求するだろう。
濡れて尚、銀糸を指が通るのは心地良いらしく、時折小さな吐息が喉を震わせる。存外、享楽には弱い性質らしかった。

//すみません、寝落ちしておりました…!お返ししておきます!
468佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/05(火)16:50:33 ID:a9v [5/7回]
>>467

反応としてはきっと良いものなのだろう、だがその悩ましい声を聞かされる側としては悶々とした気分にもなるが。
とにかく仕事をきっちりと終わらせたのであれば、彼女の髪を預かることになる。そして入れ替わりに、ボディタオルを手渡した。
濡髪をまっすぐに整えるべく手櫛を通りして、それにもしっかりと反応を見せてくれるのを見るに、刺激に対しては素直であるということか。
ならば擽ってみれば面白い反応でも見れるかも……と思ったが、その実行はまたの機会として。

「いつ見ても綺麗な髪ね。ちゃんと手入れしているの?」

少女の、それこそこの世のものとは思えぬ紅白の糸。それを先ず湯に濡らした後、泡立てたシャンプーで頭皮を洗う。
毛先に付かぬように頭皮をゆっくりと揉み洗いする。しっかりと頭皮に泡が浸透したのであれば。
流す前に一言声をかけてからまた、シャワーで泡を流す後、髪を軽く絞って水分を抜いていく。
それからトリートメントを付けて、毛先から初めて、頭の方の根本まで馴染ませていく。それを全体に施して。

「はい、ご苦労さま。これ流したら、先に湯船に入っててね」

後はトリートメントを流すだけのシャワーで、洗髪を終える。
自分の髪よりも随分時間をかけたものだったが……ともあれ、後は彼女に湯船に入るように促すことだろう。
交代で、自分もやってもらうという考えはすっかり頭から抜けていたようであった。

/いえ、いつも遅くまでお付きあいただきありがたいです
/お返ししておきますね
469淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/05(火)20:55:27 ID:XXB [6/8回]
>>468
受け取ったボディタオルから、泡を掬って腕に乗せる。その上から擦って、ゆっくりと脇、胸、腹へとボディソープを塗していく。
指の繊細な動きが頭皮を圧迫する感覚も、背中がむず痒くなる思いではあったが。
自分の手によるボディタオルの刺激のお陰で、背中の時に比べればずっと我慢できる程度であった。

「いや、特に何も?いつも普通に洗ってるだけだよ」

彼女の美に対する意識が然程高くないのは、休日を問わず制服でいる事からも伺えるか。髪を結ったり、色気づいて化粧を施すような事もない。
手入れに手間をかけるでもなく、あるがままの結果がこれであるのは、人間としての天然物でないからかもしれないが。
その分身体が弱いのを大きな枷だと思っているから、本当になんでもないような言い草だった。

「ぷあっ――――」

頭から被せられたシャワーでまとめて身体の泡も洗い流し、目に入ってしまわないよう殊更にきゅうと強く瞼を閉じる。
トリートメントが髪を潤して、再度の温かい雨に流されるまでの間は、手持ち無沙汰だったからぼんやりと毛先の感覚に集中していた。
全工程を終え、入浴を促される段になって。渋るともまた違う、伺うような眼差しで振り返る。

「……ねえ、わたしも洗ってあげようか」

世話をされているという認識は朧げにあるが、かといって施されるばかりを良しとするかとなれば、それは否だ。
自分でも出来る事であれば返してあげたいと思うし、そこに少しでも湯船に浸かるのを後回しにしたいなんて算段は爪先程度しかない。
滑ってしまわないよう慎重にバスチェアから立ち上がり、さっきまで座っていた場所を指差した。
470佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/05(火)22:18:02 ID:a9v [6/7回]
>>469

美珠自身、そこまで身嗜みに頓着する訳ではないのだが、その髪の繊細な美麗には感心するものが合った。
それが、大した手入れもなくというのは、それでも無いものを持っている相手として、羨ましく思う。
天が与え給うたものではないかもしれないが、それでも素晴らしいと美珠が思っているのは事実で、だからこそ丁寧に整えるのだった。
さぁ、とにかく工程を終わらせて、後は自分が洗う番だと思っていたのだが。

「そう……なら、お願いしようかしら」

彼女の提案を快く受ける。
湯船に入りたくないからか、何ていうことは少しだけ頭を過ぎったが、それでも与えられる好意を有り難く受け取ることにする。
先程まで彼女が座っていたバスチェアに、入れ替わりで美珠が座る。それから、自分の長い髪を、整える。

「……もう切っちゃおうかしらね、これ」

美珠の髪は、別に目的意識もなく、無計画に伸ばして伸ばして、適当に切ってを繰り返されたものであった。
意味もないものだから、切ってしまおうかな、なんて思いながら、彼女がやったように、自身の髪を肩に流す。
これで背中を開けたのならば、流しやすいように背中を丸めて。

「それじゃあ、お願いね」

そうして平静を装っているが、内心では緊張と期待に溢れていた。
なにせ親と風呂に入った経験すら、殆ど無いものであるから――――体を預けることは不慣れであるものだから。
471淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/05(火)22:55:09 ID:XXB [7/8回]
>>470
「うん、任せて」

なんとなく言葉尻が弾んでいるのは、いつもの美味しい食事と違って、ちゃんと対等なお返しができるからだろう。
入浴までの時間を先延ばしにできたのも、少しはあるかもしれないが、それはさておいて。

「どうして?せっかく長くて綺麗なのに」
「……でも短くした美珠さんも、少し興味あるかも。きっと似合うんじゃないかな」

自分とは違う、大和撫子然とした濡羽色。その豊かな髪を惜しいと思うのに嘘はない。
けれど今よりもずっと短くして、すっきりとした美珠もまた見てみたい。
相反した思いでは片方を選び取るなんてできやしなかったから、結局優柔不断な答えになってしまった。

「慣れないかもしれないけど……痛かったら、すぐに言ってね」

シャワーヘッドを取って、お湯の加減をまず自分の指で確認してから、剥き出しの背中へと温水をかけていく。
十分に濡れたならば、すっかり泡の流れてしまったボディタオルを再び泡立てて。両手を使って首元から擦り、徐々に腰の方へと下ろしていく。
緊張よりも奉仕してやりたいという思いの方が上回っていたから、ごく優しい力の入れ具合だった。
472佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/05(火)23:18:00 ID:a9v [7/7回]
>>471
「伸ばしていた理由も、特に無いから。お風呂も時間掛かっちゃうし……。
 そ、それなら、切っちゃおうかしら、思い切って……」

ほんのちょっとした独り言のつもりであったのだが、思っていたよりも明るい反応がもらえて、気を良くしたのだろう。
こうして一緒に入ってみると、二人揃って長い髪を保っていても……と思ったのが理由であったのだが。
切ることに対して肯定的な意見が出たものだから、近い内に髪を切りに行ってみようか、なんて思っていた。感想も聞いてみたいことだし。

「ええ、分かった。よろしくね、豊雲野さん……」

背中に掛かった温水に、すっかりと冷えた身体が僅かに震えた。
勿論それは問題があるようなものではなく、むしろ温水の心地良さにも繋がるものであるから、堪能していると言うべきだろう。
それからボディタオルが身体に触れた。柔らかな、それでいてこちらを気遣うような優しい力加減で、背中を擦っていく。

「……ふぅ、……っ……」

誰かに背中を任せるという行為について、美珠は経験したことがないものだから、こういうものなのかとも思った。
擽ったさと、自分ではなく、他人の力加減に任せることは、自分の肌を自分で擦るのとは違った心地良さを与えてくれる。
身を捩らせる、なんてことはなかったが、結局彼女がそうされていたように、熱の籠もった吐息を漏らすに至るのだった。
473淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/05(火)23:57:56 ID:XXB [8/8回]
>>472
「そうなの?ならいっそ、思いっきり短くしてみたらどうかな」
「ああでも、ミディアムヘアもいいかも……」

どの程度の長さだろうと、似合わないはずがないのだとは思っているのだけれど。
それはそれで選択があまりに幅広いものだから、はっきりこれと勧められず、思い巡らすような尻切れとんぼになってしまう。
そんな状態で、そんな状態だからこそ。美珠が零した声にならない声も、しっかりと耳に届いた。

「よかった、気持ち良さそうで」

自分もそうだったからよく分かる。それを色気と結びつける情動は、まだ育まれていなかったが。
当然悪い気はしないものだから、見えていないはずの口の端が微かに持ち上がった。
やがてボディタオルが終端まで辿り着いたなら名残惜しげに手を引いて、シャワーを再び手に取る。

「背中、流すよ。頭も一緒に流しちゃうからね」

問いではなく確認なのは、してもらった事を返すのは当然と思っているからに他ならない。
無論拒まれればそれまでだろうが、そうでなければまず背中の泡を全てお湯で浚ってしまってから。
頭部、次いで髪へ伝うようにシャワーを当てて、それから纏められた黒髪を受け取ろうとするのだろう。
474佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/06(水)00:26:43 ID:j4V [1/8回]
>>473
「悩んじゃうわね……それじゃ、いきなり髪を切ってくるからもしれないから、その時までお楽しみにって……ことで?」

自分の髪型の変化をお楽しみというのもどうかとは思ったが、実際選択肢は広いものだから、美珠自身絞り切れていない。
今決めたばかりのことだから、取り敢えずどうするかはまだ保留にするとして……。

「……ええ、とっても気持ちいいわ」

どうやら自分の声もしっかり聞こえていたようで。どことなく気恥ずかしいながらも、素直にそれを肯定する。
実際、彼女が丁寧にやってくれていることは功を奏した。美珠の肌も別段強いわけでもなく、運動が得意というわけでもない。
だからあまり強い刺激にはなれないから、助かっているものだった。

「ええ、よろしくね」

そして流れるような、髪への移行を受け入れる。
背中の泡を流しきってから、流しやすいように少し頭を下げれば、流した泡が浴室の床に踊るのが見えた。
さて、そうして髪をたっぷりと濡らしたのであれば、黒髪をまた同じように渡すことだろう。

「じゃ、今度は私に、もらってもいいかしら」

そして彼女がやったことと同じように、ボディタオルを要求するだろう。
先の一回で、すっかりと出来上がったルーティンであった。
475淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/06(水)01:06:38 ID:esg [1/8回]
>>474
「それは期待してもいいの?……楽しみだな」

予測のつかない事象は、好奇心の旺盛な彼女にとっては歓迎すべき事だ。どう転んでも喜ばしいのであれば尚の事。
美珠が安寧の揺籃に収まっている事も併せて、心に柔らかな熱がじんわりと篭って小さな微笑を浮かべるに至る。

「はい、どうぞ……なんだか、いつもこうしているみたいだね」

ボディタオルを手渡しながら、ふと漏れた思ったままの言葉が浴室に響く。
今日が初めての二人での入浴なのに、既に一連の流れが確立しているものだから、それがなんだか可笑しくて。
受け止めた髪を掌に乗せ、先端まで掬って洗ったばかりの背中に垂らす。これを切ってしまうのは、やっぱり少しもったいないとも思ってしまう。
ともあれシャンプーを手で泡立て、頭皮の油分を追い出すように指圧で洗う。ある程度全体に行き渡ったら、声をかけて身体と一纏めにシャワーで流して。
軽く絞った髪にトリートメントを毛髪の流れに沿って馴染ませれば、後は温水ですすげば洗髪はお終い。

「…………――」

そしてそれは、遂に湯船へと身を委ねる時が来たも同義であり。
心なしか固い面持ちで、脱衣所に繋がる扉へと小さく一歩下がった。
476佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/06(水)01:26:38 ID:j4V [2/8回]
>>475

勿論期待していていい、と自信満々に頷く……これで失敗してしまっては、目も当てられないのであるが。
それはそれ、ちゃんとした美容院に行ってやってもらうつもりだが、そうそう外れることもないだろう……と。
問題は、その美容院自体が苦手なところにあるのだが、まあそれはともかくとして。

「……そう言われれば、そうね……。
 ……わ、私としてはそれでも別に構わないのだけれど……!」

既に確立されたルーティーン。たしかにおかしな話で、一度しか入ってないのに、まるで最初からそう決まっていたかのよう。
美珠としても初めてのものだから……そう言うと、照れ隠し気味に、受け取ったボディタオルで身体を洗い始める。

「んんー……ふぅ。ありがとう、豊雲野」

喉元から爪先まで、しっかり洗い終えたならば、その頃には、髪も洗い終えている頃合いだろうか。
最後に髪をお湯で流して、それで洗髪が終わったならば、顔を上げて、満足気に自分の長い髪を、自分でも撫でてみた。
自分の髪に頓着はないが、今、こうして洗ってもらった髪を切れ、と言われたならば、きっと拒否するだろう……なんてことを思いながら。
さて、後はお楽しみの湯船に浸かる時間だ。この時間が、一番心地よい間であると思っているのだが。

「……ダーメ」

さて、彼女の我儘は出来る限り聞きたい所存であるが、こればかりは譲らない。
楽しい時間を過ごしはしたが、本来の目的を忘れるわけには行かない……と、笑顔で彼女の手をしっかりと握ることだろう。

「私も一緒に入るから。ほら、行きましょう?」

そうして、彼女の手を引いて、湯船の方へと手を引いていくだろう。
そして先に、湯船の中に右足先を入れて、温度を確かめる。丁度良いものだと頷いて、両足を浴槽の中に入れて。
その中から。彼女の両手を引いている。
477淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/06(水)01:49:51 ID:esg [2/8回]
>>476
「ん、え……」

一瞬、聞き間違いかと思った。泡の混じった温水が排水口に流れていく音が、錯覚を呼び起こしたのかと考えた。
それくらい自然な呼び方だったし、湯浴みへの煩慮も無視できないものであったから。
手を掴まれては、最早逃げる事は叶わない。浴槽に満ちて揺らめくお湯に向けられる眼差しは、なんとも気後れしているようだった。

「……分かった、から……ちょっと待って……」

引かれる手に急かされる思いだが、これまでの消極的な態度からも致し方ない催促だろう。
それでも心の準備は必要だ、妙な警戒を抱いているかのようにそっと左足の爪先を水面につけて。
すぐに引っこめ、またお湯を少しだけ撫でる。二、三回それを繰り返してから、ようやく片足を浸からせる。
それから数秒の間を空けて、右足も湯船の中へ。それだけでも慣れない感覚だから、握る指に力が入る。

「…………あったかい……」
478佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/06(水)02:07:15 ID:j4V [3/8回]
>>477

ここまで来たのだから、もはや逃さない、という意識が専攻すると、美珠の言葉は自然なものとなる。
心境の変化は目まぐるしいものであるのだから、忙しくて仕方ないのであるが、今はまず、彼女を引き込むことが優先だった。
片手を握って、手を引いて。それから観念して、ようやくその足先が指については離れて、ついては離れてを繰り返す様は。

「……やっぱり猫みたいね」

と、くすりと笑いながら。
それでも、何とか彼女が片足を入れたのであれば、握る手をしっかり握り返して、不安を少しでも、軽くしてあげようと。
それから少し時間をかけて、また片足が入って、これで両足が入ったことになる。そうしたならば、彼女のもう片方の手を取って。

「ね、温かいでしょう? そんなに怖いものじゃないんだから、ほら。
 後はゆっくり、肩まで浸かりましょうね」

そう言って、彼女にそう促した。
足を曲げて、腰を下ろして、肩まで湯に浸かる……という動作を、彼女が動くのに合わせて、行うはずだ。
湯船は……元々は学生寮の、単身者用の物だから、決して広いものではないし、足も触れ合って、窮屈かもしれない。

「……どう? 初めてお風呂に入った感想は?」

が、全身を湯に浸ける感覚は、何に代えることも出来ないような快感があるはずだ。
彼女の不安が解れるまでは、両手を繋ぎ続けるだろう。取り敢えずは、初めてお風呂に入った彼女の感想を聞いて。
479淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/06(水)02:40:54 ID:esg [3/8回]
>>478
「そうかな……あそこまで水嫌いじゃないと思うんだけど……」

猫といえば一般的な愛玩動物であり、その愛くるしさは彼女も認めるところである。
それと一緒にされるのに嫌な気はしないが、その濡れるのを嫌う性質もまた既知のものであったから。
そこまで酷いだろうかと表情はそのままに首を捻るが、実際そう言われてもおかしくないくらいの萎縮具合だった。

「…………ん……」

催促には小さく頷くだけ。ゆっくりと、蝸牛の如き緩慢とした動きで身体を沈めていく。何が怖いのか、瞼を閉じて双眸を隠して。
繋いだ両手を離そうとはせず。腰、臍、胸、肩とお湯に浸かるまでの時間は、長いようであっという間。
浴槽の底に辿り着き、腰を据えてようやくそっと紅水晶と青水晶の眼を開いた。

「――――はふぅ…………」

長い、長い吐息。全身を包み込むお湯の温もりは、どうやら彼女のお気に召したらしい。
最初こそ肌を撫でる水流に身を竦ませていたようだったが、段々と慣れてくればむしろそれが快くさえ思えてくる。
目を細めて、肩の力を抜いて。自然と絡めていた指も解れる。
それまでの抵抗がなんだったのかというくらいに、すっかり心が綻んでいる証左だった。
480佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/06(水)03:12:15 ID:j4V [4/8回]
>>479

緩やかだが、然しゆっくりと、確かに沈んでいく。今度はそれを急かすこと無く、ゆっくりと待った。
ゆっくり、ゆっくりと、身体を沈めていって――――腰を着けた時に、彼女もまた、浴槽に座り込むことになるだろう。
方まで沈んで、身体の内側まで染み込んでいくような暖かさ……ただ暖房に温まるとは全く別種の、浸透するような感覚に。

「ふぅ――――……」

それはようやくの達成感とともに、吐き出される吐息。
開いた蒼紅の瞳に笑って、そしてその指が解れていくのを知って、気持ちよさ気に目を細めていて。
絡めていた手を離す。先程までの彼女の警戒は、何処へやらと言ったものらしい――――

「……気持ちよさそうね。シャワーとは違うでしょう?
 お湯の中にゆっくりと体を預けるの。身体も随分楽になるでしょう?」

特に美珠に於いては、湯船の中では重力から開放されるという恩恵を強く感じられるものだから入浴という行為が好きだった。
ともあれ一先ずの目的は達成である。まさかこの友人が、湯船に入ったことがないと知ったときはどうしたものかと思ったが。
そうして、ゆっくりと湯船に背を預けて、まずはそれを堪能し。

「後はこれを毎日――――入る、のよ……」

そうして目的を達成し終えた後になると、美珠は……唐突にも見えよう、視線があちらを向いたりこちらを向いたり。
そわそわと落ち着かない様子で、狭い浴槽の中を、身動ぎし始める。

/本日もお相手いただきありがとうございました、このレスで最後になります
/お付き合いただき、本当に感謝しております。ありがとうございます……
481 : 淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/06(水)03:16:53 ID:esg [4/8回]
>>480
//了解です、返信は後程置かせていただきますね!
//こちらも楽しくロールしていますので本当にお気になさらず、のんびりペースでお付き合いいただければ幸いですっ
482淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/06(水)15:53:27 ID:esg [5/8回]
>>480
人としての最低限の生活を保つためには不要だと、考えていたのは抜きにして。
どうして自分が入った事もない風呂を得意としなかったのか、今身を浸してようやく合点がいった。
それはきっと完全な記憶の中でも朧げな、生まれて間もない自我が確立していない頃の、液体培地にも似た冷たい揺り籠を想起させるから。

「ん…………あったかくて、気持ちいいね」

けれどこれは違う。人肌を少し上回る水温と、少し篭った湯気に抱擁される感覚。
シャワーとも違う、身体を芯から温める熱に自然と肌にも仄かな紅が浮かぶ。
すっかり気が緩んだのか、声もどこか間延びしているようで。腕を浴槽の縁に預け、その上にくたりと顎を乗せる。

「……毎日……そうだね、毎日入っても……」

あまりに夢見心地なのかぼんやりとした声色、うつらと船を漕ぎそうにもなっていたが。
美珠の挙動不審な動きがお湯に漣を起こして肌を撫でるものだから、いくら入浴に耽溺していても流石に気がつく。
横目に伺いつつも、その理由はなんとなく察しがついていたから、ひどい懸念を表しはしなかったけれど。

「……どうかしたの?」

//お待たせしました、置いておきます!
483佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/06(水)16:42:52 ID:j4V [5/8回]
>>482

「――――良かった、気に入ってもらえて」

彼女が今まで問題ではなかったとしても、必要としていなかったとしても、だ。
やはり彼女には文化的で健康的な生活を送ってもらいたかった。老婆心という奴なのかもしれない。
余計なお世話なのかもしれないし、彼女の人生において、それを知らなくても豊かになどならなかったかもしれないが・
或いは、自分と価値観を共有して欲しい、と思ったからかもしれない。なんて、思っていた。

「……あ、いや、えーっと……」

さて、その挙動不審の理由が既に彼女に察せられているということを知らない美珠は、誤魔化しのために色々と思考を巡らせる。
のだが、暖かなお湯と冷静とは程遠い脳内は、むしろ今までの失態を記憶から掘り起こさせるだけに至った。
答えを返すのに数秒を要したが……結局、観念して、彼女から視線を右に逸らしながら、言い出すのだった。

「……い、今更だと思うかもしれないけど……」

本当に今更なことではあるかもしれない。だが今までは、一つの目的があったから、多くを意識できないものだ。
羞恥心と、馬鹿にされるか、気持ち悪く思われるか、というところがあって、中々口に出すのは憚られたのだが。
やはり少し考える時間の後に、溢すように口に出すのであった。

「ちょっとその……緊張するっていうか……あ、あんまり見たり触ったりしたらどうかと思うし……。
 そういえば私も誰かとお風呂とか……入ったことないから……」

つまるところ、美珠のそれも経験の浅さから来るものである。
これまで自然と振る舞えたのは目的意識が上回ったからで、改めて冷静に考えられる状況になると意識することになってしまうし。
だからこそ、今以て、視線を右往左往させ、挙動不審を解除することはなかったのだった。

/返信ありがとうございます、お返しさせていただきます
484淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/06(水)18:53:51 ID:esg [6/8回]
>>483
誰に対してもそうであるかは置いておくとして、佐野美珠という少女が存外にお節介だという事を、彼女は身をもって知っている。
最初は己の食生活を見咎めて、弁当を分けてくれたのが始まりだったか。突き詰めれば、もっと細かなところであったかもしれないが。
とにかく、一度世話を焼くと決めた事に関しては、眼を見張る主体性がある。今日のこの、湯船に浸かるまでのやり取りだってそうだ。

「――なんだ、やっぱり。美珠さんらしいや」

そしてふと我に返った時、こうして平常心を失うのもまた常の事。
無論それが悪癖だとは思っていない、むしろ可愛らしいものであるとすら思えるのだが。
その積極性を少しでも、普段の遠慮を取り払う方に割いてくれればいいのにと、考えない事もなかった。

「そんなに緊張する事かな。わたしだって、初めて誰かとお風呂に入るけれど」
「それに、あったかくて……難しい事は、忘れてしまいそうになるな」

宿泊という行為には緊張しても、一糸纏わぬ姿で一つの湯船に収まる事はそうではないようで。
羞恥の箍がない彼女らしくはあるが、この状況においてはそれよりも、入浴の心地良さに蕩けてしまっているところが大きい。
落ち着きのない美珠を眺めながら、お湯に露呈させられた気の抜けた微笑。眠気さえ誘われたか、ぱちぱちと何度か瞼が上下した。
485佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/06(水)19:41:51 ID:j4V [6/8回]
>>484
「わ……私らしいって……こうやってワタワタしてるのが、ってこと?」

それはつまり狼狽えている姿がそういうことなのか、そうやってから回っていることがそれらしいのか……なんていう。
勿論、悪意を持って言った言葉ではないのは分かっているから、少し膨れて、肩まで湯に沈んでいくのが関の山だったが。

「……まぁ……私が変に意識しすぎてるだけだと思うけれど……。
 豊雲野さんは……警戒心を持って欲しいわ。もし私が悪い人だったらどうするの」

――――考えてみれば、当初自分に話しかけてきた時は、正しく悪人に話しかけた状況と同様であると言えたか。
たしかに自分に落ち度があるのは間違いない。無いが彼女の方はどうなのだと、八つ当たり気味に言ってみるのだった。
今までヒヤヒヤさせられたことだってあった。もう少し、他人を疑うということを考えたほうがいい、というか。

「……眠たくなっちゃった?」

先程から、入浴を楽しんでくれていたことは分かったが、間延びした声に、瞬きを見ると、そう聞いてみた。
入浴に於いて眠気を誘われるのは珍しいことではないが、入浴中に入眠するのはあまり良いことではない。
だから指先を伸ばして、頬を撫でて、意識が自分に向くように求めて。

「眠いなら、お風呂出て、布団敷いちゃうけど……どうする? もう寝る?」

少し早いかもしれないし名残惜しいが、明日も休みで、まだ時間はある。今日はそのまま寝る準備をしてもいいだろう。
と、彼女に提案してみる。眠たげな瞳に、つい微笑みを誘われながら。
486淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/06(水)20:47:38 ID:esg [7/8回]
>>485
「ううん……色々してくれたと思ったら、すぐに恥ずかしがっちゃうところが」

短所ではなく、尊重すべき個性であり類稀なる美点だと思っているからこそ。
あっけらかんと首を横に振ってすぐさま答えられるし、そこに恥じらう要素などどこにもない。
ぶくぶくと身を沈める美珠を見やって目を細めたが、思いもよらない反撃に束の間言葉を詰まらせた。

「……でも、美珠さんは悪い人じゃないでしょ?」
「本当に危ないと思ったら、わたしだって自分から声はかけないよ」

空白の沈黙は痛いところを突かれたからではなく、何がいけないのかを理解できていないからだ。
美珠に関しては完全に結果論だし、何より一度その頸に指がかかってさえいる。
それすらも危険だと捉えていなかったのだし、あるいは分かっていて受け入れようとしたのかもしれないが。
そう考えれば彼女が言う危ないの判断基準は事実危なっかしく、そこに自覚がないのもまた拍車をかけるのだろう。

「んぅ…………ちょっと、眠いかな……」
「でも、もう少しだけ…………」

頬を指で擦られて、擽ったそうに眉間に寄る微かな皺。薄らと開いた瞳は、もう少しこの微睡みに身を委ねていたいと訴えかけているが。
それは長湯をすれば上気せるという、当たり前の事も知らないが故。
なんならこのまま眠りに落ちてしまいそうだが、有無を言わさぬお節介に晒されたのなら、どうにか身体を動かそうとはするのだろう。
487佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/06(水)21:24:22 ID:j4V [7/8回]
>>486

「……あんまり違わない……」

それはつまり、そういうことなんじゃないかと思うのだが、ただそれだけで、意地悪をするでもなかった。
何より彼女がそれを、純粋な気持ちで言ってくるものなのだから、わざわざ口に出して否定するつもりも失せてしまったのだ。
それはそれとして、彼女については突くことになるのだが。

「……うっ。いや、でも……私そんなに良い人じゃないわよ……。
 ……本当に? 豊雲野さんからしたら大体危なくない人なんじゃ……」

悪い人じゃない、と言われると少々思うところもあるし、そうきっぱり言われるとそれを受け入れてしまいそうになる。
が、それはそれ。これはこれと踏み留まって。彼女の判断基準はなんというか、それこそ刃物を片手に持っているとか。
目に見えて危険であると分からないのであれば、危機感が働かないんじゃないかと……そういうところが心配になる。
一人でいるときもそう思うくらいなのだから、美珠の心配性も極まれりと言ったところなのだが。

「ダメよ、あんまり長く入ってたら……豊雲野さんは体弱いんだから、良くないわ。
 ほら、立って。ちゃんとお布団で寝ましょ……う」

元々彼女の身体があまり強くないことを知っているから、長風呂で逆上せて良くないことがあるかもしれない。
もう少しくらいはたしかに大丈夫かもしれないが、眠気に任せたら後で取り返しが付かないかもしれないから。
彼女の脇の下に手を滑り込ませて、小さい子供にそうやるように、立ち上がらせて見せようとするのだろうが……触れたのであれば。
その触れる感覚に、頬に朱が差し込む。

488淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/06(水)22:17:05 ID:esg [8/8回]
>>487
「…………そんな事はないよ」

実際、美珠の懸念はほぼほぼその通りであった。目で見て明らかに凶器であるものが、自分に向けられていない限りは。
その刃煌に恐怖を抱くどころか、危機感を覚えるかどうかも怪しいもので。
思い返せば確かにこれまでも、直感的な危機意識を持った覚えがなかったから、ひどく苦し紛れな誤魔化し方だった。

「んっ……分かったよ、美珠さんがそう言うなら――」

麻薬には重篤な副作用があるし、酒類は人体への無視できない影響が提唱されている。
お風呂にもそういう何かがあるのだろうと。やや大袈裟に考えすぎだが、そうやって一人納得したならば。
自分で身体をどうにか持ち上げる前に、両脇を腕が掬ったものだから。

「ひぁっ…………待っ、ん…………!」

素肌の触れ合いというのもあるだろうが。存外に彼女は、微細な刺激に弱いらしかった。
悲鳴に近い素っ頓狂な声、びくりと身体が跳ね上がる。反射的に脇を締め、瞼も固く閉じてこそばゆさを訴える。
どうにか膝を奮い立たせ、苦心して立ち上がったのはいいのだが。羞恥を感じる余裕もなく、そのまま脱力して身を預けてしまうだろう。
489佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/06(水)23:00:35 ID:j4V [8/8回]
>>488

絶対そんな事ある――――とは思ったが、それについては追々話すことにしようと思う。
一朝一夕では彼女の好奇心旺盛な心を止めることは出来ない。少しずつ教育していくことを考えなければと思う。
……上手い方法が全く見つからないが。少なくとも、誰から構わず興味の抱くままに動くのを止めてもらいたいのであるが。

「あ、ご、ごめんなさ――――!?!?」

予兆は確かに見られていたはずなのだ、今までの交流の中で。
刺激に弱いということはなんとなく予想できたはず。だというのに、今の動きは浅はか極まるものであったと言えよう。
小さな子供を相手にしているかのような錯覚を、一瞬でもしてしまったのも間違いである。間違いに間違いを重ねた結果であろう。
謝った時には時既に遅し――――

「あっ……あぁぁ……!!」

脱力した彼女が身を預けるのを、問題なく抱き止めるのは、いつもの仕草だ。
だが、今は素肌同士の触れ合いになる。彼女のことを豊かに実った双丘で抱き止め、その背に触れるのは自分の身体だ。
湯で温まった体温をはっきりと感じ、その白肌を触覚で感じて、と美珠の頭の中はぐるぐると齎される物にいっぱいに満たされる。

「わ、わわわ、私が悪かったわ……!! ご、ごごご、ごめんなさい、立てる、大丈夫!?
 ああ、え、えっと……ど、どどど、どうしよう!?」

朱色の差していた肌は。大凡羞恥が元となって、真っ赤に染まって、心臓は早鐘のごとく。
混乱の最中、それでも彼女の事を支えるのを忘れず、両肩に手を添えるが、細い体を意識すると、それすらも、といった具合。
490淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/07(木)00:27:28 ID:QSe [1/8回]
>>489
手を握ったり髪を撫でられたりといった、日常的なスキンシップは別として。
身体を触らせる相手というのはこれまで皆無に等しかったし、子供なら誰もが通る擽り合いっこだって誰も彼女をその輪に入れなかった。
つまるところ自分の敏感な場所がこれ程までに弱いと、彼女自身も今この時初めて知る事となったのだ。

「――――っ」

息を飲む。不味い、と思っても神経は脳の命令を悉く無視して重力に制御を委ねる。
凭れかかる先が妙に柔らかい。ああ、思いきり寄りかかってしまったんだと、他人事のように思った。
ややあって、一斉に騒ぎ立てる申し訳なさ。ただでさえ常よりも血が巡っているものだから、殊更に顔が赤らんだようだった。

「大、丈夫……わたしこそ、ごめん……」

そっと触れた肩はびくと震えたがそれだけだ、どうやら脇よりはずっとマシらしい。
自分の露出には無頓着だが、人に猥りがわしい事を強要するのは本意ではない。
その触感は断じて不快なものではなかったが、だからといってずっと押し潰していいものでないくらいは理解している。

「んっ……落ち着いてよ、大丈夫だって。少し驚いただけだから」

できるだけ急いで身体を離そうとして、広くはない浴槽の中ではいつ足を滑らせてしまうか分からないから。
浴室にの壁に手をついて、少しずつ身体を持ち上げる。名残を惜しむつもりはなかったけれど、今はあまり力が入らなかった。
ようやく両足だけで立てば、首だけで振り返って無事をアピールするべく幽かに微笑んで見せるが。
朱のさした頬、水気をたっぷりと含んだ瞳だけは間違いなく普段通りとは言い難かった。
491佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/07(木)01:28:40 ID:17C [1/6回]
>>490

温かいだとか、柔らかいだとか、今考えるべきではないことが巡り続けて、情報過多で脳味噌を焼き切らんとする程であった。
その中で別段、拒絶するような感覚が走らなかったのは幸いだったのだろう……か。少なくとも、気を悪くする用なことはなかった。
むしろ彼女がどう思うか、というところが問題だった。だからこそ、そうして誤り倒すことになってしまうのだが。

「……そ、そう……分かったわ、待って、落ち着く……から……」

身体を離して、自ら立ち上がろうとした彼女を追うようなことはしなかった。
余計なことはしなかった――――彼女のせいでこういう事になった以上、当然の話ではあるが。
反省しても足りない。髪を切るどころか、いっそのこと頭を丸めたて、反省の意を目に見える形で示そうか……とすら思っていた。

「……っ……!!」

朱に染まった頬と、潤んだ瞳を見ると、何とも言えない、言語化出来ない感情に駆られて、いっそ舌を噛み切るかとも。
少しの間、何とも悩ましく、まごつくことになってしまったが――――そんなことばかりでもいられない。
ここで停滞していては、次に自分が何を言い出すか分からない。まだ冷静であれる前に動き出さなければ。

「……出ましょうか……とりあえず……!」

閑話休題。仕切り直しの意味も込めて、罪悪感だとか、感覚の残滓だとか、そういうものが混ざってまっすぐ見れなかったが。
浴槽の扉を開けて、予定通りの行動に戻ろうとする。彼女に背を向けて、先に扉を開いている時点で、元通りとは言い難いが。
むしろ離れてしまったからこそ、先程の接触の残滓を強く意識してしまってもいるのだが。
492淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/07(木)02:03:39 ID:QSe [2/8回]
>>491
「本当に、なんともないから……そんなに気にしないでよ」

涙腺が妙に活性化していたり、顔や全身が火照っていたりという事に自覚はあった。
けれどそれは全て入浴に伴った体温の上昇によるものだと思いこんでいたから、不可解な感情の揺らぎを強く知覚する事はない。
だから美珠が垣間見せた狼狽えた様子に、機嫌を伺うように首を傾げたが。

「あ…………うん、そうだね……」

そそくさと脱衣所への扉を開け放つ美珠の背中について行こうと、浴槽を跨ぐ動作は遅々としたものだ。
軽く上気せたのも理由の一つだろうが、どちらかと言えば全く別なもう一つの理由の方が大きい。
服越しに触れ合うよりもずっと温かくて、柔らかな感触。背中を直接轟かす、命を紡ぐ心臓の鼓動。
ほんの一時に過ぎないそれらはフラッシュのように脳裏に焼き付いて、剥き出しの背中にリフレインする。
けれどそれはあくまで幻影でしかないから、言いようのないもどかしさを覚えて手足の動きを鈍らせる。

「――――わ、さむ……」

そんなだから吹きこんだ生温い、けれど湯上りには充分肌寒い空気に当たって身体を震わせる羽目になる。
シャワーだけで済ませる普段よりも温まっているのだから尚の事。息急き脱衣所に逃げこんで、バスタオルで全身を覆うのだろう。
もそもそと身体の水分を拭き取る彼女の動きは、もう大事ないようで。眠気もとうにどこかに弾け飛んでしまっていた。
493佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/07(木)02:31:29 ID:17C [2/6回]
>>492

彼女がまさか、自身と同じように反芻に苛まれているとも思わず、先に脱衣所へと向かい、身体の水分を拭き取っていた。
正しくああいうのを、儚げであるというのだろう。細く小さな体に、けれども確かな命の暖かさ……と、一人になればまた考える。
そう言えば、まだ来てないと浴室の方を見て、転んでいるでもなく、ちゃんとこちらにやってきているのを見て、ほっと肩を落とす。
そうして、寒いと言いながら、バスタオルに包まった姿を見て……なるほど、そうかと合点がいった。

「……お風呂で身体が暖まってるからね。湯冷めする前に服を着ないとね」

湯船に浸かったことがないのであれば、それも初体験ということ。
ならば、慣れきってない身体を冷やす前にと。小さなタオルを取ると、彼女の髪を掬って、水分を拭き取ろうとするだろう。
まだ感覚は残っていても、幾許かそれで調子を取り戻せたような気がしていた。それが許可されたのであれば。

「……これでよし。じゃあ、寝間着に着替えましょう」

と言いながら、洗い物を、洗濯機という文明の利器の中に放り込んでいく。
これの最初の発明は、大気汚染激しい時代。毎日外出をすれば必ず煤まみれになる服をどうにか簡単に洗えないかという部分が発端らしい。
なんていう知識を、何となく思い出しながら、スイッチを押した後、寝間着に着替え始めるのだった。

「次は布団……その前に歯ブラシが欲しいかしら。じゃあ新しいの出して……。
 あ、豊雲野さんはベッドで寝てね。適当にテーブルを脇に寄せちゃえば……」

上には直接そのまま寝間着を羽織った後、下着を履いて、その上からボトムスを身に着けたならば。
洗面台の収納から、新品の歯ブラシを一つ取り出して置いておく。
寝具はワンセットしか無いので、自分は煎餅布団を一枚床にでも敷いて寝ることにしよう、朝食は何にしようか……と。
そう考え始めれば、その間は、すっかりと先程のことも忘れているのだった。
494 : 淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/07(木)02:38:13 ID:QSe [3/8回]
//すみません、少々眠気が厳しいので次の返信は明日以降になると思います…!
495 : 佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/07(木)02:41:24 ID:17C [3/6回]
/了解しました、本日もありがとうございます
/なにか気になることがありましたら遠慮なく仰ってくださいね
496淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[sage] 投稿日:20/05/07(木)10:21:44 ID:QSe [4/8回]
>>493
湯冷めとはこういう事かと、今しがた初めて実感した。身体の底から冷えるとも違う、しかし肌をざわざわと撫でる空気の冷たさ。
普段ならゆっくりと拭っていられる長い髪だが今日はそうも言っていられない、と思っていたところで。

「冬なんかは大変だね……ああ、ありがとう」

しっとりと濡れた白赤が纏めて持ち上げられれば、身体の水分を拭き取る事に専念できるから、幾分かは救われる。
髪を任せて肌の水滴を拭う。すぐ後ろにいるのに、背中を遮る空隙がいやにうら淋しい。
粗方終えたら、洗濯機を回しているのを横目に今度は自分で髪の束をバスタオルで包んで軽く叩く。何せ量が量だから、なかなかすぐには乾かない。
それでも少し湿ってる、程度にまでなったのなら、ようやく寝間着を手に取った。

「え……それじゃあ、美珠さんはどこで寝るの?」

上、下と袖を通しながら、まるで自分だけがベッドで寝るかのような言い方に思わず聞き返す。おそらくは床だろうと予想がついていたからこそ。
布団が一式しかないのは知っていたが、それでも寝心地の良いマットレスで一人安眠を貪るのは、二つ返事で了承できる事ではない。
では代案がすぐに思い浮かぶか、となると思い悩んで少しの沈黙。とはいえ、取れる手段は多くはないから。

「…………一緒に寝ようよ。わたしだけベッドで寝るのは悪いもの」

結局提案としては、二人で一つのベッドを使おうというありふれたものだった。

//お返ししておきますね!
497佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/07(木)13:57:00 ID:ndq [1/2回]
>>496

「冬はね……脱衣所に暖房器具を持ち込む人もいるくらいよ。
 でもこれから暖かいからって油断するのもダメよ。薄着で居たら風邪引いちゃうから」

冬は冬で温度差で極寒の如く。然し暖かい時期になるとそれはそれで、じわじわと体が冷えていくものだから。
どちらにせよ湯上がりについては気を付けておくのが良いだろう。彼女のことであれば尚更である。
……言いながら、夏場になってくると、自身は結構だらしなかったりもするのだが。
さて、髪を大まかに拭いたならば、彼女に最後の仕上げを任せて、自分は次の作業に移りつつ。

「まあ私は……テーブル動かして、そこに布団敷いて寝ようかしら」

所詮は、取り敢えず今日の分は、程度のことである。これから布団は用意しておくにしても一日くらいは。
その程度は平気だ。睡眠についてはそこまで神経質であるわけでもないから、多少寝付きが悪い程度で済むだろう。
客人に寝心地の悪い薄っぺらな布団で寝かすわけにはいくまい……普段から彼女については気にしていない気もするが。
それならなおのこと、寝心地の良い布団というものを経験させておきたかった。

「……え……」

勿論、彼女が提示した提案も考えていなかったわけではなかった。
嫌ではなかったし、むしろ望むところではあったが、自分から言い出すのは流石に憚られた。
そこまではもう世話を焼くこととは関係がなくなるし、結局客人に窮屈な思いをさせてしまうのだから。
といろいろ理由は付けたものの、結局の所言い出す勇気がなかったという部分にあるのだが。

「……と、豊雲野さんが……いいのなら……!!」

とはいえ、そうやって向こうから提示されたのであれば。
先程のことを思い出しても、それを加味して尚、素直に頷いてしまうくらいに忠実ではあるのだが。
さて、湿った髪もそこそこにドライヤーを手に取ると、湿った髪に当て整える。勿論彼女にもそれを促すだろう。
そうしている間……彼女の眠気が晴れたような気もしたものだから、一つ提案してみる。

「……アイス食べる?」

風呂上がりのおやつである。
湯船に浸かったことがないならば、こういう経験も初めてだろうと。

/ありがとうございます、こちらもお返ししますね
498淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[sage] 投稿日:20/05/07(木)15:07:49 ID:QSe [5/8回]
>>497
寝具を二人分備えている一人暮らしの学生なんてそういないだろうし、彼女自身も同様だ。
となれば床に設える布団はベッド程質の良いものではないだろうし、美珠がそっちを選ぶ事も予想はつく。
客分として配慮しようという心意気が理解できない訳ではない。だからと言って、自分だけが良い思いをするのを簡単に受容できるはずがなかった。

「それじゃあ身体に悪いでしょ。明日起きてから、あちこち痛くなったらどうするの」

存外というか、生きるための最低限の要素だけで生活を構築している彼女だったが。
例えば寝心地が悪くて寝不足だとか、節々を痛めるとか。健康に直結する習慣に関しては、人並みに気を遣ってはいるらしい。

「いいに決まってるよ。駄目だったら、わざわざ言わないもの」

睡眠環境を慮っての提案だったから、一も二もなく了承した美珠を余程無理していたものだと思ったようで。
少しばかりほっとしたように肩の力が抜ける。先刻のアクシデントと類似した状況になるかもしれないとは、とんと考えていなかった。
ドライヤーを受け取って、温風で髪の水分をさっぱり飛ばす。軽く指で梳いて整えれば、入浴後の身繕いは終いも同然。

「アイス?……うん、食べる」

さて風呂に浸かってすっかり火照った身体には、冷たい食べ物はこの上ないご馳走である。
しかし当然ながらここまで芯から温まった事はかつてなかったから、その至福の時を知る由もない。
それどころか菓子の類だって常日頃食さない人間であるから、アイスを口にした経験すらないと想像には難くないだろう。
であれば提案の意図も十分に理解はできなかったが。何より風呂と違って純粋な興味があったから、食事を待ち侘びるそれに似てこくこくと頷いた。
499佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/07(木)16:11:15 ID:ndq [2/2回]
>>498

「うぐっ……! ……その通りです……」

いつも口うるさく彼女にあれをしろ、これをしろ、と言っている訳だから、まともに返されるのが突き刺さる。
その割に自分のことは割と考えてこなかったわけだから、その言葉には反論の余地もない。
彼女の健康意識を低く見積もりすぎてもいたのだろう。それについても、少し反省しなければ……と、弁えるのであった。

「そ、それじゃあ……ご相伴に預からせて頂くわ」

なんと言えばいいか分からなかったものだから、変に畏まった言葉を使っていたが、ともかく解決である。
余計な気を使わせてしまったということにもなってしまうが、それでも、自分に気を使ってくれたのが嬉しかった。
その二つの事実にモヤモヤと自分の愚行を悔やむことにもなるし、先程のことを考えうと、また別の懸念も湧いてくるが。

「それじゃ用意するわ。お風呂上がりのアイスはね、特別なんだから」

風呂の時とは違う、純粋な期待を感じる視線に、気を良くして。
どことなく浮ついた足取りで冷蔵庫まで向かうと、冷凍室の中からカップアイスを一つ取り出した。
『あいすくりん』と書かれた紙製カップに詰め込まれたアイスクリームに、金属製の小さなスプーンを一つ取り出して。
そうしている間には、ベッドのある部屋へと戻っているだろうから、そちらへと帰ってくるはずだ。

「本当は寝る前に食べるってあんまりよくないけれど……でも美味しいのよ。
 普通に食べるよりもすごく美味しいんだから……はい、どうぞ」

彼女の健康のためにあれやこれやをいうだけで、全然楽しくなかった、というのは元も子もない。
元から誰かを楽しませるということが得意なわけではないが、それでも少しは楽しんでもらいたいとは考えている。
何より、そういうちょっとした背徳も共有したかったものだから、彼女にアイスとスプーンを差し出して。
500淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/07(木)17:58:39 ID:QSe [6/8回]
>>499
「うん。少し狭いかもしれないけれど、いいよね」

固い床の上に薄い布団を敷くよりは、という枕詞が入る確認の言葉だったが、それを省いてしまった弊害は割に大きい。
まるで密着しても構わないという真意のようで、実際にはそんな意図など全くない。かと言って、それが嫌かといえば否なのだけれど。

「そうなの?それは楽しみだな」

普通に食べるアイスがどのようなものかは包括的にしか理解していないから、その違いを比較して楽しむ事はできないかもしれないが。
特別と言うだけあるのだから、それはそれはすごいのだろうという勝手な待望が先走って仕方がない。
冷蔵庫に向かう美珠の後について、途中で離れて見慣れた居間に戻る。
戻ってくるのを崩した正座で待って、無感動な面持ちは手元の冷えきったそれに釘付けだった。

「今日くらいはいいんじゃない――うわ、冷たい」

紙のパックを受け取って、神経を伝う冷感に思わず小さな呟きが漏れる。落とさないように、けれど長く触らないように、指を踊らせて低音から逃げながら。
どうにかテーブルの上に落ち着けたのであれば、紙の蓋をこじ開けて乳白に輝く冷菓を覗きこんだ。
いただきますと唱えてスプーンで掬う。しばしまじまじと見つめた後、溶けてなくなってしまう前に意を決して口に含んだ。

「んっ――――」

途端、目を固く瞑って動きを止める。不快感とも違う、突発的な衝撃に見舞われたと見紛う硬直。
大袈裟な動きだがなんて事はない。ただ経験のない冷たさに脳が驚いて、一時的に機能を停止しただけだった。
その証にしぱしぱと何度か瞬きを繰り返したかと思えば、更にもう一口分を掬うのだから。
501佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/07(木)19:21:56 ID:17C [4/6回]
>>500

「え、ええ……私も勿論、いいわ……」

努めて平静を装って、そう答えるわけであるのだが、実際出来ているかと言えば否であるか。
ぐるぐると目を回さなかっただけよく出来ている――――という理由は、彼女の意図の外に言葉を受け取っているからなのだろう。
しかし無垢な彼女に対して、雑念に塗れた自分のことをふと振り返ってみると……少し落ち込んで肩を落としそうになってしまうのだが。

「そうね、今日くらいはいいわよね。さぁ。食べちゃいましょうか」

じっと見つめる彼女の姿を見るに、やはり反応は上々。やはりアイス自体初めてなのだろう。初めてがお風呂上がりとは幸か不幸か。
果たしてどんな反応を見られるだろうかと、蓋を開いて。いただきますと呟いて、アイスクリームを突きつつ、彼女の反応を待つ。
口に入れたその瞬間、両目をギュッと瞑って、動かなくなったのだから、美珠としては気が気でなかった。

「えっ――――頭痛くなった?」

冷たいものを食べる時に、頭痛が起きるあの現象は、美珠も経験済みだ。
エジソンが三叉神経がどうこうと語っていたのを何となく思い出しながら、思わず、反射的にそう口に出してしまった。
心配になって見つめていたが、もう一度スプーンが動き出したのを見て、ようやく安堵して、アイスクリームを掬った

「あんまり一度に食べると頭痛くなっちゃうからね、気をつけて――――ん、っ!?」

いいながら、アイスクリームを口に運ぶ。その瞬間に、今度は美珠が額を抑えることになる。
何のことはない、注意をしておきながら、実演することになってしまっただけだ。アイスクリーム頭痛。
どうやら多く掬いすぎたようだった。

「……こうなるから……」

と、身を以て教えるのだった。
502淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[sage] 投稿日:20/05/07(木)21:08:37 ID:QSe [7/8回]
>>501
「えっ…………ううん。冷たくてびっくりしただけだよ」

次の一口を頬張ろうとして、全く想定していなかった懸念に思わず手を止める。
アイスと頭痛に何の関係があるのか、体験どころかそういった症状がある事すら碌に知らないものだから。
半信半疑で首を横に振って、冷たい刺激に警戒してさっきよりも小さくなった雪氷の欠片を口に含んだ。

「そんな事があるの?冷たいだけなのに、変なの……」

脅かしに本気になる程幼いつもりはないが、どうしても頭痛との繋がりが見出せず、やっと慣れ始めた舌先でアイスを転がす。
落ち着いて味わえば口腔内の温度でほろりと溶けて、後に残るのは生乳の仄かな甘味。
何より嚥下した後、食道から胃までを通って入浴の粗熱を芯から冷ます感覚。
湯冷めとも違う、明確な快感。特別だと言っていた意味を、たった今真に理解できた。
しかしだからこそ、手痛い代償があるなど到底信じられなかったが。

「…………本当なんだ。分かった、気をつけるよ」
「大丈夫?辛くはないの?」

目の前で身を張って危険性を訴えかけられては認めざるを得ない、微かに浮かべる苦い笑み。
事前情報がなければもう少し動揺していたかもしれないが、可能性は提示されていたから二色の瞳をぱちくりとさせるだけ。
それでもあまりに痛そうに見えたから、せめて楽にしてやれないかと。手を伸ばして、頭を触れる程度に撫でようとするのだろう。
503佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/07(木)22:03:20 ID:17C [5/6回]
>>502

「なにか……神経系がどうのこうのって話を……エジソンがしてたような……」

然しどうやら彼女は、アイスクリーム頭痛自体を知らないらしい――――アイスを食べたことがないのであれば当たり前か。
これでも一応あの碩学達に、捨て駒として利用されていた身であったとは言え関わりのある身である。
なぜかと問われると、本当に記憶の彼方に消えかけている断片を絞り出そうとするが、結局靄のかかったような答えしか出ない。
ともあれ、思いっきり失態を晒した甲斐はあるようだ。

「それは良かったわ……結構痛いから、本当に気をつけて……」

折角アイスを楽しむのであれば、余計な横槍はないほうがいい。
これがあると体質にもよると思うが、中々尾を引くものだから、あまり欲張りすぎないことを学んでくれたのは良かった。
落ち着いた頃に食べるのを再開しよう……と思っていたところで、彼女の手が頭に触れたのを感じる。

「……あ、ありがとう……嬉しいわ」

ちょっとした心遣いのつまりだろうが、心遣いが心に染み渡る。はぁ、と一息つけば、少し落ち着いたので、もうひと口を口の中に。
今度はバランスよく入れると、よく火照った身体を、頭から爪先まで、体の内側から冷ましてくれるようだった。
何とも穏やかな時間。アイスクリームのクリーミーな甘さを、たっぷりと味わえるほどの。

「……はぁ。今が一番夢見たい……」

今まで、夢と見紛うような出来事には遭遇し続けてきたが、こうして何の心置きなく、ゆっくりと二人肩を並べて。
二人揃って寝間着姿で、アイスクリームを食べている、この時間が一番夢のようだと溢す。
504淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/07(木)22:34:08 ID:QSe [8/8回]
>>503
「彼が?……それって……」
「…………冷たい物で神経が刺激されて、脳に間違った命令が行くって話だっけ?」

以前であれば己の意思とは関係なしに、目を覚ました記憶が勝手に泡沫のように浮かび上がってきたのだが。
今ではそんな会話をしたような、しなかったような、という取っかかりから自ら書庫を漁る必要がある。
咥えたスプーンをそのままに視線を伏せて、他人の追憶を弄って。確かそう噛み砕いて理解したはずだった。
どうあれその痛み自体はやっぱり未知であるから、理論云々よりも実践してしまわないように気をつけるくらいしかできないのだが。

「だって本当に痛そうだったから。大丈夫そうなら良かった」

ずっと尾を引くような頭痛ではないと把握したらしく、食べるのを再開する美珠に安堵したかのような微かな微笑を向けて。
掬い取りすぎてしまわないように気をつけながら、元々の一口が小さいからそこまで神経質になる必要はないだろうけれど。
黙々遅々とカップの中を空にしていきながら、沁々と呟く隣を横目に見る。少しだけ、身体を寄せた。

「でも、今日だけじゃないでしょ。これからも二人でいるんだって、美珠さんが言ったんだよ」
505佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/07(木)23:12:46 ID:17C [6/6回]
>>504
「あ……そうそう、そんな感じのことを……なんで豊雲野さんが……」

確かに、彼はそんな事を言っていたと頷いた。かの碩学は、貪欲に知識を溜め込んでいた。常に閃きを求めて動き続けていた。
だからこそのそんな、無関係で無意味に思えるような知識だった。
彼女が何かを抱えていることは知っているけれど、その詳細までもを未だ知らなかった。だが、全てが終わった今ならば。

「……あ……そうね。そうだった。夢なんかじゃないわ。それはずっと……本当だものね」

まるで夢を見ているかのような幸福は、然しずっと続けるのだと、自分自身が言ったものだから。
身体を寄せた彼女に肩を寄せてそういった。勿論自分の言葉を嘘にするつもりはない。約束したのだから、果たすのだ。
この夢のような現実を、当たり前にすることが。当面の目標だろうか。

「……ねぇ、分かる範囲でいいからでいいのだけれど……豊雲野さんは何者なの?」

何とも、大味な問い掛けであった。ともあれ、この問いは、美珠にとっては重要なものだった。
彼女が何者か。それは始めて出会った時からの素朴な疑問だった。最も、その意味は大きく変化していったものだけれど。
何となく輪郭は分かる。ただ、ほんの分かる範囲でいいから、そのことを彼女の口から直接、聞いてみたかった。
506淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/08(金)00:33:32 ID:HIy [1/5回]
>>505
なんでと聞かれて、すぐに返せる言葉を彼女は持っていなかった。何かを言おうとしても、虚が空気を揺らすだけだった。
カップの中に視線を落とす。溶けかけて半ば液体のアイスだったものをスプーンで持ち上げる。
口に含むと儚く形崩れた砂糖の味が、矢鱈と強調されていて甘たるかった。

「……うん。わたしは、約束は破らないから。少しは信じてほしいな」

過度な幸福はやがて訪れる奈落に惑わされて、退廃への言い知れぬ不安を齎す。
けれどこの手を離すつもりが絶無であるならば、別離の怯懦に打ち震える必要もない。
例え力はなくとも、それを携えて暗雲を貫く意思だけは、何があろうと手放す気はなかった。
だからいつか、きちんと自分の事を伝えないといけないのも、分かっているはずだった。

「……わたしは…………」

けれどいざ言葉にしようとすると、上手く要旨が纏まらない。何を語るべきか、何から話すべきかも分からなくなってしまう。
こういう時だけは弁舌が得意なのだから代わってほしいと切に思うが、そんな生易しい性根でないのは誰よりもよく知っている。
それにきっと、何よりも不安なのだ。尋常でない生い立ちを知ってしまった時、関係性が変化してしまうのが。
自分がどう思われるか、考えるだけで恐ろしい。他人と関わるのに消極的になってしまう気持ちが、今ならよく分かる。

「……全部思い出したのはこの前の、空を取り戻した時」
「この島に来る前の事も、その前の事も……全部」

それでも、沈黙で答えるという選択肢はなかった。友達には、どこまでも誠実でありたかった。
だからまず紡ぐのは当たり障りのない、核心を取り囲む外堀からだった。
スプーンを動かす手は止まっていた。睫毛を伏せて俯いて、その相貌を陰に隠す。触れる肩は、縮こまっているようだった。

「…………美珠さんはさ。アレイスター・クロウリーと、ヘレナ・ブラヴァツキーを知ってる?」
507佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/08(金)01:14:00 ID:SVk [1/3回]
>>506

幸せ過ぎると怖くなる、という現象を菊が、今正に美珠がそれに直面していた。
それが幻想であるのだとしても、見通せない未来というものに人は恐れるものである……彼女を疑うつもりはなくとも。
ただ紡いだ約束を共にし続けるのであれば――――

「分かってるわ。私、豊雲野さんが心配になることはよくあるけれど……疑ったことはないから」

冗談交じりに、美珠はそう言った。
彼女を疑ったことなんて無い……というのは嘘になる。最初に顔を合わせたときは、一体何を企んでいるとも思ったけれど。
少しだなんてとんでもなくて、全幅の信頼をおいていることに変わりはない。
だから彼女が真実を語ることにも、恐れることはなかった。

「……うん」

彼女が言葉にできるのを、美珠は急かすこともなく待った。
自分の生い立ちを語れと美珠が言われたら、それこそ自分だって直ぐには言葉に出来ない。
お互い舌が回るような人間ではないことは知っている。それに、まだまだ夜は長いのだし、彼女の言葉を待つのは少しだって苦ではなかった。

「……あの時ね」

青い空をその手で取り戻した時。切っ掛けとしては不思議ではない。あれだけのことが起きたのだから。
彼女より、一足先に食べ終えたスプーンを、一旦テーブルの上に置いて。
縮こまった肩に寄り添い続ける。彼女が何を語ったとて、何処に行くわけがないのだから、と言葉で伝えたかったけれど。
彼女が紡ごうとする一つ一つを、邪魔するわけにはいかなかった。

「……えーっと、アレイスターっていうのは、なんか……魔術師? だとかいうのは知ってるけれど……。
 ヘレナ?っていう人は、私はよく知らないかも……」

どちらにしても、その二人のことはあまり知らなかった。アレイスターのことは何となく聞いたことがある程度。
だが、ヘレナ・ブラヴァツキーについてはとんと知らない……というのが、美珠の知識。
元々持っている知識については、あまり期待できたものでもないだろう。
508淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/08(金)02:03:54 ID:HIy [2/5回]
>>507
元より何かを食べようとするとそれだけで手一杯になってしまうから、こうなってしまってはアイスに手をつける余裕などない。
左手に紙製パックを、右手にスプーンを持ったまま。胸だけが呼吸に上下して、後は頭だけが回転していた。

「……そっか……それならいいんだ」

知っていたのなら、説明もある程度は楽だったかもしれない。けれどその答えにどこか安心できたのは。
黎明協会に関わる話である以上繊細な問題だから、余計な先入観を欲さなかったのだろう。
だから、言わないといけないはずだった。だと言うのに口が脳から離反して、頑なに拒んでいるかのような。
目を瞑って、大きく息を吐く。そうしてようやく言葉を紡ぐ権利を取り戻したのならば。

「アレイスター・クロウリーは一時期、異能を持つ人造人間を造ろうとしていたんだ。《ムーンチャイルド》なんて、大層な名前の計画を立ててね」
「…………それが、この身体。わたしは、人の腹から生まれたんじゃないんだよ」

肉体が非科学的、非現実的な方法で生み出された事自体は、彼女にとってはそう悲観するような事でもなかった。
他人事のように淡々と、いつも通りの声色。それでも大凡正気とは思えない話なのは変わらない。
どんな顔をしているのか、見る勇気もなくて俯いたままで。スプーンを握る指に力が入った。

「……それだけじゃ、中身は空っぽだったから。人格とか最低限の知識とか、そういうベースになる魂が必要だった」
「それで自分の魂の一部を切り離して、ここに移したのがヘレナ・ブラヴァツキー……欧米で流行ってる、近代神智学を広めた人」

肉体と心を別個に提供した、謂わば両親のような存在だろうに、語り口は相変わらずの平坦さ。
荒唐無稽な法螺話みたいだと自分でも思うから、言葉の端々はどこか固い。
一度に理解するのは難しいだろうし、そもそも信じてもらえるかも怪しい内容であるから。しばし口を噤んで、反応を伺うような静寂を喚んだ。
509佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/08(金)02:35:19 ID:SVk [2/3回]
>>508

手に持たれたままのアイスにふと目を落とした。
このまま溶けていってしまうのだろうかと思うと、少しもったいないかもしれないなんて、口に出したら怒られてしまうだろうか。
ただほんの少しだけ、それに意識が行っていたことだけが、事実として残り。

「……人工的に生み出された……全て、一から作り出された能力者……」

能力開発に於いて、全てを最初から作り出した前例は存在しない。
現在に於いても表向きには精々素養の解析と開花のための訓練くらいだ。ましてや人間を1から作るなどという大それた計画など。
先ず以て倫理が許すまい。然し、その倫理などというものが、ほんの一時の足枷にもならないのが碩学という存在である。
だから、驚きはすれども不思議ではなかった。それくらいの技術、あって然るべきなのだろう。

「それじゃあつまり……先ず、アレイスターっていう人が肉体を作って……。
 その次に、ヘレナっていう人の一部を切り離して、それで生まれたのが……今の豊雲野さんっていうことね」

……大まかには理解できた、とも思う。彼女は人工的な存在であると。不思議ではないかもしれない。
何となく、普通の人ではないとは思っていた。浮世離れしているとでも言うべきか……それは彼女と出会った時美珠が思った率直な意見だ。
下ろしたスプーンを手にとって、彼女のアイスクリームを掬おうとするだろう。そしてそのまま、彼女の口の中に押し込もうとする。

「……不思議だな、とは思ってたんだけれど、まさかそこまで不思議だなんて思わなかった」

顔を上げるように強制することもないし、そうするような気分じゃないのならば俯いたままでも良かった。
ただ、その表情は少しの驚きは表面に出ているだろうけれど、きっとそこまで大きく変わったものではないはずだろう。
実際、彼女という存在がそんなに、それこそ小説のようだとは思ってもいなかったから……驚きはしていたけれど。

「……それで、豊雲野さんはその二人のこと……どう思ってるの?」

少なくとも、その二人の碩学の手によって生まれたということは分かった。
だが、そこに悪意が宿っていたのか、その存在が彼女を不幸にしたのか、そこまでは、全くわからないものであったから。
質問は多岐に渡るということはあるまい。ただ、それが一番重要なことだった。
510淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/08(金)02:42:04 ID:HIy [3/5回]
>>509
//度々すみません、お返しできるのは明日になりそうです…!
511 : 佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/08(金)02:45:57 ID:SVk [3/3回]
>>510
/了解しました、問題ありませんよ
/それではお疲れさまでした、またお待ちしております
512淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[sage] 投稿日:20/05/08(金)10:27:22 ID:HIy [4/5回]
>>509
大雑把な解釈を小さく頷いて首肯する。しかしそれ以上の反応を伺おうと顔を上げる事はできなかった。
どんな表情で、何を思って聞いているのか。それを知る事に、こんなに臆病になれるとは思いしなかった。
だから半開きの口に押し入ったスプーンを、反射的に咥えてその上のアイスを舌で迎え入れていた。

「んむっ…………え?」
「どう……?……どうって、言われても……」

冷感と甘味を遅れて認識し、数拍置いて美珠を仰ぎ見る。少量の困惑にきょとんとして、喉だけが流動体を飲み下した。
もっと具体的な事を聞かれるものだと身構えていたから、つい聞き返して言葉を詰まらせる。
見上げた先の表情が想定していた最悪ではなかった事に、心の底では安堵が綻んでいたものの。
その面持ちにこびり付いた不安は未だ僅かに眉を曇らせ、また正面に向き直って顔を伏せた。

「…………よく分からない。ちゃんと会った事も、喋った事もないから」

自分の素性や成り立ちに特別強い興味があった訳じゃなかったし、どうだっていい事だとさえ思っていた。
いざ聞かれるとその意図が読めないのも含めて、すぐに答えが導き出せないものだから。
感情を上手く言語化できないのも一つの回答と言えるのだろう。頭を傾けて、肩に預けた。

「……でもわたしがいろんな事を知って、いろんな物を見て。皆に……美珠さんに会えたのは、彼らのお陰だから」
「上手く言葉に出来ないけど……ここにいられて、良かったと思う」

自己満足を受精卵として造り出された。そこに邪な意図はなくとも、赤子が施されて然るべき愛もまたなかったかもしれない。
それでもこれまで駆けてきた旅路は、これから紡ぐ季節は、断じて悲劇ではないと言い切れたから。
今ここに一つの生命として存在する事を、恨みも後悔もしていなかった。

//昨日はありがとうございました、お返ししておきます!
513佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[] 投稿日:20/05/08(金)14:08:44 ID:5w9 [1/1回]
>>512

口の中に押し入れたアイスは、しっかりと彼女の口の中に置き去りになっていった。
溶けていくアイスが勿体なく思ったのは間違いないことだったけれど、それと並んで、少しでも緊張を和らげたかった。
そもそも美珠から質問したのだから。何を答えたって、それは彼女の自由だから。

「そう。なら……会いに行ってみるのもいいかもね」

もしも彼女が、その二人を恨んでいるだとか、何らかの悪感情を持っていたのだとしたら、言葉は変わっていただろう。
会ってみたいと願うのであれば、絶対に二人を見つけてやるという気持ちにすらなっただろう。
ただ曖昧なままならば、曖昧なままでも良いと思うから、そんな提案とも言えない、溢すだけの一言に留まった。
美珠が聞きたかったのは、本当にそのまま。両親に値する二人のことを、どう思っているのか。それだけだった
ただ、何も分からないのならば……一言や二言交わすだけでも、顔を合わせて良いかも知れない、なんて些細に思っただけだ。

「私はね、人から産まれたとか、そういうの、関係ないと思うわ。
 私には……血の繋がった家族がいるけど、嫌われてたし、今でも嫌いだもの」

彼女が誰から産まれたとか、どういう風に産まれたか。それは美珠にとっては、ほんの些細なことだった。
妾の子として疎まれる日々を続けていたし、だから人々ほど血の繋がりを信用できなかった。
人の血の繋がりなど大したものではない。ならば人の腹を経由することに、如何程の価値も意味もない。
そう思えるから、やはり。彼女が造られたものであるとしても、そこに起因した違和感や嫌悪感を持つことがどうしても出来なかった。

「豊雲野さんは豊雲野さんだし、今のあなたが私は大好きだから」

結局の所、それに尽きる。
今彼女がここにいることを、良かったと思えるように。美珠もまた、彼女が隣りにいてよかったと思っている。
それだけだ。それだけで十分なのだ。人智を超えた神をも恐れぬ所業を以て産まれたとしても、『今』には関係のないことなのだから。

「……ありがとう、ちゃんと話してくれて。……嬉しいわ」

それから、きっと言い難かっただろうことを、話下手な彼女が、ちゃんと語ってくれたことに感謝して。
514淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[] 投稿日:20/05/08(金)20:16:37 ID:HIy [5/5回]
>>513
「会うのは……ちょっと、どうだろう……」

珍しく渋るのは、何も嫌悪から来る忌避ではない。そもそもが存命かも怪しい人達だし、そういう意味もあるのかもしれないが。
いざ対面した時を想像すると、何を言えばいいのか全く思い浮かばなくて。なんとなく、顔を合わせるのは躊躇われる。
自分では踏ん切りのつけられない感情の絵皿に不慣れなのを誤魔化すように、すっかり液体に近いアイスをスプーンでかき集めた。

「…………そう、なんだ」

家族という存在がどれだけ自我の形成に影響を与え、自己を占めるのかを彼女は知らない。喪ったでもなく、最初からないものだった。
だからその境遇は世間一般の基準における、所謂不憫に当てはまるのだろうとは判断がつくが。
それがどれだけ耐え難く冷たい世界であるのか。誰もが想像できたとしても、彼女だけは己に重ねる事ができない。
それがもどかしいから最後の一口を口に含む。神妙に相槌をうって、甘く感じられるのは舌だけだった。

「――…………え、うん……」
「……いつかは言わないといけない事だったし……」

しかし、しかしだ。なんとも不意打ちでしかない言葉に、そんな事は瞬く間に脳の処理機能から追いやられてしまう。
思えば一緒に何がしたいとか、そういう願望を語らう事は多々あった。友誼の糸に結ばれているのだって、最早言うに及ばない。
けれどもっと根本的な、相手への情感を口にするのはどうだったか。それもこんなにも直球な単語で。
相違なく生まれて初めて、淡島豊雲野という少女を指して言われた言葉。

「…………ん……」

アイスの残滓達をテーブルに乗せて、控えめに体重を預けていた美珠の腕を取ろうとする。
そのまま抱き枕のように胸にかき抱いたのならば、頬を擦り寄せて表情を隠してしまうだろう。
こんなにも心が擽ったいのは初めてだった。どうやら自分は、存外はっきりとした好意を向けられるのに弱いらしい。
どんな顔をしているのかも分からなかったから、今はあまり見せたくはない。それでいてこうして密着していたいなんて、随分我儘にもなれるようだった。
515佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/09(土)00:01:58 ID:VGH [1/2回]
>>514

「まぁ……良い事が起きる保証はないものね」

顔を合わせることに対しての懸念は分からないではない。
見たとて同じ立場だったら敬遠しているだろうか、そういう事を考えるとやはり無責任かもしれないが……然し美珠個人としては。
会えるものならば会ってみたいという気持ちだった。彼女を作ったというのならば、つい最近までは存命だろうという先入観から来るものだったが。
特に、その魂の元となったという人とは、一度顔を合わせてみたいと。……危険人物なら、それこそその一度が取り返しのつかないことになるかもしれないが。

「……まあ、私のことなんて大したことないわね、うん」

彼女に比べたら、本当に有り触れたものだ。路傍の石ころの不幸。今まではそれでも、自分が心の底から不幸だと思っていた。
誰かと不幸を比べるつもりだってないのだけれど、既にもうどうでもよくなったことなのだから、それを彼女が気に負うのは好ましくなかった。
共感する必要もなかったし、想像する必要もないものだから。多く語るべきこともない、この話はここで終わりにする。

「……あれ、私なにか変なこと言った……?」

なんだか妙な空白が挟まれたような――――気がする。
彼女が恥ずかしがるということを、あまり見たことがないものだから、自然とその選択肢は思考から除外されていた。
……するりと口から出た言葉ではあったが、少し恥ずかしかったかもしれない。ただそれは、普段から行動で示していたつもり。
嘘はついていない。ただ、意識されてしまうと、段々と落ち着かなくなってくるのだが――――

「わっ……と、豊雲野さん? ど、どうしたの? 眠たいの?」

大きく声を出すようなことはなかったが。食べ終えたアイスを置いた彼女が、腕に抱き着くようにしたらば、顔が隠れるように頬を寄せる。
腕に感じる微かな柔らかさに先程のことを思い出しつつも、やはり悪い気分はしない。寧ろこうしてくれることは、堪らなく嬉しい。
だが、顔を見せてくれないのは少しだけ不安だった。

「……もしかして、照れ隠し?」

皮切りになったのは、自分で言った一言だった。
多分に願望を含ませたものだったから、半ば冗談であるかもしれない。どちらかと言うと、やはり眠いのかな、なんて気持ちのほうが大きかったが。
するりと彼女の髪を撫でて、そう聞いた。

/遅くなりまして申し訳ありません……
516淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[sage] 投稿日:20/05/09(土)15:41:46 ID:zGD [1/2回]
>>515
関わらせたくない危険な人間、というよりは会わせるのに抵抗がある変人という変人の方が強い。
本質的には同じだからこそ異なる半生によって築かれた差異は際立つ、自分を棚に上げるつもりではないが。
当てがないでもない。ただ、美珠がはっきりと望みを口にしない限り、邂逅は天に任せるのだろう。

「…………何も?」

実際、美珠が何か特別おかしな事を言った訳ではない。思いの丈をあるがままに言葉にするのは、むしろ歓迎するところと言ってもいい。
ただ、彼女が勝手に感じ入っているだけの事。行動で示されるより、ずっと激烈に。
あまりにも当然のように口にされてしまったものだから、それだけ素の感情なのは分かる。
眠気を問われても、ふるふると首を横に振るばかり。睡魔が忍び寄っているのは事実だが原因でもないから、強ち嘘ではなかった。

「んっ…………別に……」

髪を擽られて小さな声が漏れる。二度目の否定は、ひどく弱々しいもので。
こうしてはにかむという経験が皆無と言ってもいいものだから、指摘されてもすぐにそうだとは断じられない。
何より自分がそういった感傷に苛まれるなど夢にも思っていなかったから、そう簡単には認めはしなかったが。
背中から足の先までをすっかり丸めて離れようとしない様子は、正しくその通りにしか見えないものだった。

//申し訳ありません、寝落ちしておりました…!
517佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/09(土)21:59:59 ID:VGH [2/2回]
>>516


淡島豊雲野という少女のことを、美珠は、あまり激しく感情に揺さぶられるような人種ではないと思っていた。
勿論感情があることは知っているし分かっている。だがそれに猛烈に左右されるでもなく、きっちりと自制できるのだろうと。
例えばその表情のように……であるものだから、照れ隠し、なんていう的はずれなことを言ってしまったと、一度美珠は思ったのだ。
そうして勝手に恥ずかしくなっていたりもした……だが。そうでないとするならば、やはりおかしくはないだろうかと、寧ろ確信に近付くほどだった。

「なにもないなんて言うことは無いと思うけれど……」

逆にその、好意の一言が気に入らなかった……ということはあるだろうかと思った。
然し避けるでもなくこうしてぴったりと引っ付いている物だから、それはないかと思う……思いたい、と言う意味も含まれるのだが。
その好意の言葉に嘘偽りはなかったものだから、後悔することはないが、こうして強く意識すると、自身も気恥ずかしい気がしてくる。

「……なにもないなら、顔を見せてほしいわ、豊雲野さん?」

だがそれ以上に、嬉しさだとか、愛おしい気持ちが込み上げてくる。
確かに、美珠がはっきりと、彼女への好意を口にするのは初めてだったかもしれないが、それは言わずもがなというものであった。
行動で示す、ということは今まで幾らかやってきたとは思うが。こうして口にするのは、初めてだったと思い返してみれば思う。
だから、その言葉に対する反応を見るのも、初めてなのは妥当――――なのだろうが。

「そうやって、丸まっている豊雲野さんも、可愛いけど。
 あんまりそうしていられると、少し寂しくなっちゃう……かも」

何度目かと思うが、まるで猫のように引っ付いて、身体を丸める姿も愛らしい。髪を撫でた手が、今度はその背を撫でようとするだろう。
だが、いつまでもそうしていてもらっては困ってしまうし寂しい、とはただの後付だ。
本当は彼女が今どんな顔をしているのか、自分に見せてほしいという、ただそれだけの俗な感情だった。

/お気になさらず、こちらもお待たせしてしまいました……
518淡島豊雲野◆</b></b>HnQRCeqIrM<b>[sage] 投稿日:20/05/09(土)23:35:40 ID:zGD [2/2回]
>>517
「なんでもないってば……」

鬱陶しがっているようで、実際には拗ねていると呼んだ方が正しいだろう蚊鳴声。
ここまで来れば疑いようもなく照れ隠しなのだろうが、本人はそれを頑なに認めようとはしない。
あるいはそれは、初めての感情への強い戸惑とも言えるのかもしれなかった。

「…………ん、ぅう…………」

だからこの情緒の波が引くまでは、それを言ってほしくはなかった。
今自分がどんな顔をしているのか、驚くほどに想像がつかないものであったから。
そんなところを見られたくはない、小さな呻き声は細やかな抗議を孕んで。
しかし困らせるつもりは毛頭なかった。しっかりと引っ付いているのは置いておくとして。
寂しい、なんて思わせてしまうのは極めて不本意、普段通りに平静であればその言葉の裏も読み取れていたのだろうけれど。

「…………そういう言い方は、狡いよ」

ようやっと顔を上げる。と言っても辛うじて見上げる程度ではあったが、表情を伺う分には十分だろう。
嬉しいようで恥ずかしい。もっと言ってほしいような、これ以上は止めてほしいような。怒ってしまいたいけれど、甘えてもいたい。
表情筋の動きに乏しい彼女が呈する複雑な感情は、羞恥を素直に認識できない幼子にも似て。
頬はすっかり朱に染まり、姑息な理由付けを責める瞳は背中を擦られて細くなるものだから迫力が皆無であった。
519佐野美珠◆</b></b>95S72tfpdk<b>[sage] 投稿日:20/05/10(日)05:14:23 ID:4wt [1/1回]
>>518
「隠すほうが、悪いのよ」

まるで硬く閉じた貝殻のようであった彼女の顔が、美珠の策も功を奏して、ようやく開かれた。
そこに覗いた表情は、きっと色んな感情が綯い混ぜになっているものであった。いつもの無表情とは、少なくとも