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1 : ◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/20(日)21:31:20 ID:maG [1/3回]
百年前、突如として飛来した小隕石とそこに付着していた物質「エーテル」によって世界は激変した。
生物に特異な変化を齎し、新たなエネルギー源となり得るそれはすぐさま人類の目に留まり、文明を発展させる福音になるかと思われた。
だが、エーテルの影響により世界には数々の異常現象が起こり始め、急速な変化を遂げた動植物は人類にも牙を剥いた。
更に人類の中からも特殊な技能や人体を変化させる個体が出現し始め、既存の人類は彼らを迫害し両者の溝は次第に深まっていった。
各々の形を保たんとする国々、迫害から逃げ延び自らの権利を主張する新人類、変貌し続ける自然環境。混迷を極める世界で生き残るために、戦え。

・エーテル
外宇宙から飛来した起源不明の物質。非常に高いエネルギー効率を持ち、扱い方によっては超常現象を引き起こすなど用途は多岐に渡る。
次世代のエネルギー源として重宝されているがその一方で生物に特異な変化や病の誘発、細胞の癌化など悪影響を与える例も報告されている。

・新人類
隕石落下後に現れ始めた特殊な技能や肉体の変化を伴う人類種。元々の人類と区別するためこう呼ばれる。
炎や水、風、雷など魔法の如き力を扱う者や他の生物の身体的特徴を併せ持ちその生物の能力に開花する者など形態は様々。
その異質さと後述する新生物の脅威によって通常の人類からは迫害を受けている。国によっては発露者は強制収容所に送られるケースもある。

・ゴフェルン
移動型空中要塞都市を本拠地として難民の保護活動やエーテルによる罹患者の治療などを行っている独立組織。
新生物の脅威で祖国を失った人々や国家から迫害される新人類達の寄る辺となるべく設立された彷徨える民草の希望。
要塞都市内には畑や牧場、果ては小さな湖まで存在している。「空飛ぶ山」とまで称される要塞の動力源も当然の如くエーテル。
平時は地上に駐留しているが難民救出などの際は地上を離れ空路で目的地付近まで移動する。

・マモノ
エーテルの影響によって急激に変化した生物達。変化は外見に留まらず凶暴性の上昇や食物の変化、生態など多岐に渡る。
中には最新鋭の兵器と同等かそれを凌ぐ程に肥大化した者も存在し人類にとっての大きな障害となっている。

・エデン
混迷を極める時代に生まれたエーテルを崇拝する過激派団体。「実存世界からの解放」の旗を掲げて各国でテロ紛いの事件を起こしている。
成立時の理念は「エーテルは神の福音であり、世界にエーテルが満ちることで楽園へと導かれる」と言う宗教的なもの。
そこに迫害され復讐心を抱いた新人類や単に鬱憤を晴らしたいだけの悪党が合流することで「世界にエーテルを満たすため既存の世界を破壊する」と過激な方向へ成長していった。
組織規模や本拠地は明らかになっていないが単純な戦力だけで言えば一国の軍隊を凌ぐ程の勢力にまでなっている。
迫害を受けた新人類達も所属しているが皮肉にも彼らの行動が新人類への迫害を増長させる一助になっている。
2ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/20(日)21:50:33 ID:maG [2/3回]
ゴフェルン移動要塞都市居住区画。資材輸送班の護衛から帰還した遠征部隊が市民により出迎えられていた。

「おかえりなさい!」「おかえり!」「お疲れー!」「無事かー!」

市民達の労いの声に応じて会釈する者や得意げな表情で両手を振りながら先頭を歩く者など遠征部隊の反応は様々。
その中に一人だけわかりやすい反応を見せない人物がいた。

「おいファイアナイト。お前もうちょっと愛想良くしろよ」
「……」

全身を黒い外骨格で構築した2m半もの身長の異形。刺々しい甲殻類のようでいて中世の騎士にも見えるそれは「ファイアナイト」と呼ばれていた。
彼は仲間の注意にも反応を見せず、部隊の後方にゆったりとした足取りで続いている。
市民の数が少なくなってきた時、彼は突然跳躍しビルの屋上をつたってどこかへ行ってしまう。

「あ!おい待て!あいつ~~~……」

人気の少ない場所までやってくると彼は変身能力を解除し、皆と変わらない人間の姿になる。
少し申し訳なさそうな表情で来た方向を振り返り、視線を前方に戻すと深呼吸をする。
懐から戦闘糧食を取り出すと袋の端に切れ込みを入れ、そこから一気に袋を開いた。

「……いただきます」

彼のいる場所は要塞都市の街並みが一望できる見晴らしの良い高台。
周囲をビルや何に使われているのかよくわからない配管などに囲まれているが、風通しが良く隠れた名所と言える。
彼はここで休憩するのが楽しみの一つだった。人工の城砦の中でもどこか心地良い風を感じられる。
普段、一人でいることが多い彼に近づいてくる者などいるだろうか。
3シュトラール◆</b></b>hHMogxWV7M<b>[sage] 投稿日:20/09/20(日)22:59:20 ID:0wt [1/2回]
>>2

喧騒は遠く、街を俯瞰する高台に今は一人。
しかしすぐに二人目が訪れる。偶然ではなく明確な意図を以って彼女はこの場所を訪れる。

「……」

小さく吐いた吐息が大気に流れる。要塞都市は人工の構造物といえどもかなりの面積を誇り、場面によっては移動にも一苦労する。
元々、身体を動かすのは得意ではない彼女だったが、気紛れで自ら足を運ぼうと思い至ったことを少しだけ後悔する。
とはいえ引き籠るばかりが役目の全てはない。こういう体験も後々の役に立つだろうと思いながら。

そうこう歩みを進めるうちに、目的地へと辿り着いた。
あらかじめ観測していた通り、対象の人物の姿がそこにあることを確認すれば。

「護送任務、お疲れ様でした
 メディカルチェックの準備が整ってます。なので、すっぽかさないでくださいね?」

要件、これにて完了。
任務を終えたメンバーに対して毎回行う健診、その場所に一人だけ訪れなかった者がいたので、釘を差しに来たのが彼女の目的である。
医療スタッフの一員にして、エーテル研究の第一人者、シュトラール。その紅い瞳が彼をじっと見つめていた。
4ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/20(日)23:15:57 ID:maG [3/3回]
>>3
戦闘糧食を口に含む。栄養を重視して味や食感は二の次とされている糧食は決して美味しいと言えるものではない。
口の中はパサつくし、口内に広がるのは土か壁を砕いて混ぜたような味。一言で言えば食べる虚無だ。
それでも彼にとっては簡単に持ち運べてすぐに食べられる都合の良い食事。文句を言うことは無かった。
無言で二口目を口に含もうとした時、いるはずのない他人の声が耳に入り咄嗟に身構える。

「……!」
「あ、あぁ……シュトラール?」

彼は戦闘糧食を懐に隠すようにしながら確認するように相手の名を呼んだ。
糧食を没収されるかもしれないと思ったのだろう。その警戒も数秒で緩み、とても嫌そうな表情に変わっていく。

「今すぐ行かなくちゃダメ……?」

彼は健康診断に代表されるメディカルチェック全般が嫌いだった。よくわからない機械で自分の体を解析されるのが理解し難いからだ。
理解し難いものを恐怖するのは生物の根源的な感情。それが表層に出てくる彼は非常に単純な頭の作りをしていると言える。
5シュトラール◆</b></b>hHMogxWV7M<b>[sage] 投稿日:20/09/20(日)23:45:33 ID:0wt [2/2回]
>>4

定期的なメディカルチェックは前線に立つゴフェルン職員を支える生命線といっても過言ではない。
エーテルという未だ未知のエネルギーと、その影響によって誕生した新人類の発現する超常的な能力。
全てが未知数でありながら、未知数に頼り戦う彼等を支えるには────先ずは健診あるのみである。

とはいえそれを苦手とする心情も充分に理解している。
この組織に所属する者は必ずしも年齢的にも精神的にも成熟した者だけではないのだから。

「んー……、今すぐ、という訳でもないのですけど展開……」

決して急かす必要もない。かといって明確な拒絶反応を目の当たりにすると、どうしたものかと思案する。
とはいえ、薬を嫌がる子を説得する方法は古来より定番の手法がある────つまりは飴と鞭。ご褒美という名の対価。

「……そうだ!もしも検診に協力してくれたら、ノーマンさんが食べたいものをご馳走してあげます!
 折角一仕事終えたばかりなのに、そんな味気ないご飯じゃ物足りないでしょう?」

ゴフェルン謹製戦闘食糧、決して資源が豊かとは言い難いこの時代において、効率的な栄養補給のみを重視した───まずいレーション。
それが必要である現場であることは誰もが承知しているが、しかしそれは戦場でこそ必要とするものであって、わざわざこの街に帰ってからも口にするようなものじゃない。
それは彼も承知だろうし、きっと不満だろうから───なので、ご馳走という名の餌を釣り針に刺して、様子を伺うのだった。
6ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/21(月)00:04:08 ID:LWL [1/5回]
>>5
「食べたいもの……?」

シュトラールの提案、もとい甘言によって彼の思考が一瞬停止する。怪訝そうな面持ちで腕を組みながらしばし思考。
食べたいものと言われると迷うのが人の常。大抵今まで食べて美味しいと感じたものを選ぶのも人の常。
彼の頭に浮かんできたのは随分前に凍土での難民救出作戦が成功した時に食べたステーキ、昔食堂のおばちゃんに作ってもらった炒飯。
部隊の皆と野営中に食べた──ただし彼は端に座っていただけ──なんてことのないスープに暖かなご飯。
どれもゴフェルンに来るまでは想像することも出来なかった暖かい食事だ。

「なるほど……!」
「わかった。行こう」

シュトラールの作戦は完璧に成功した。どれ程屈強な精神力を持つ人物であっても胃袋を人質に取られると非常に弱い。
それはそれとしてレーションはしっかり袋を括り、上着の内ポケットに収納する。極限まで乾いているので保存も容易いのが長所だ。

「……シュトラール」
「君は料理、するの?」

健診のため後に続く途中、彼は何気ない質問をシュトラールに投げかける。
彼は料理と言うものをどう作るのか、どう行うのかと言った知識が欠けていた。食べることは出来るが、作ることは出来ない。
食事の話が頭の中で疑問に繋がったのだろう。彼の顔は真剣そのものだった。
7シュトラール◆</b></b>hHMogxWV7M<b>[sage] 投稿日:20/09/21(月)00:32:30 ID:cv8 [1/5回]
>>6

籠絡、完了。検診を拒む職員を説得する方法は多数存在するけれども、やはり対価報酬の提示が最も確実であった。
検診は要塞都市内の医療区画の施設にて行われる。徒歩で向かうには少しばかり時間を必要とするが、気にするほどでもない。

さて、と並んで歩み出す。小柄なシュトラールの体躯である。まるで兄妹のような関係であるかとすれ違う人々には見られるだろうか。
とはいえシュトラールの着用する医療部スタッフの証であるジャケットが、彼女の立場を証明するだろう。
移動時間、黙り込む筈もない。彼から向けられた質問は、私生活に関わる些細なもので、回答を拒むような
内容でもなかった。

「ええ、人並みには
 けれども時間が取れないので、レーションで済ませてしまうことの方が多いですね」

シュトラールは多忙な身である。日々戦火に関わるゴフェルンであるからして、医療スタッフの余暇も限られてくる。
加えてシュトラールは研究職の立場も兼ねているのだから尚更である。詰まるところ────殆どレーション漬けであった。

「なので、商業区の飲食施設で好きなお店を選んでください
 私の手作り───でも構いませんが、お勧めはしませんよ?」

人並みであるけれども、当然プロには劣るので。お勧めしないというのは本音であった。
そうこう語る内に医療施設へと到着するだろう。検査内容の大半は機械化されている為、それこそ座っていればすぐに完了する内容ではある。


8ベルント◆</b></b>cy7Dnfdd96<b>[] 投稿日:20/09/21(月)00:51:51 ID:fuD [1/2回]
【地上・腐界にて】

レンジャーと呼ばれる者達がいる。

彼等はゴフェルンのような人類の希望となろうとしている訳でもなく、
その組織力・資金力などは比べるのも烏滸がましい程に微々たるものだ。

エーテルにより変質した生態系を調査し、超常現象であるアノーマリーの発生を確認・報告し、
あるいはエーテル物質そのものを持ち帰る事もある。

エーテル発見前であれば、冗談としか思えぬような動物のサンプル取得、
そして任務に付随する事も多いマモノへの対処もまた、任務の一環となる。

天翔ける天上人(ハイランダー)とは異なり華々しさとは無縁の商売だが、
それでも、確かにこの変革された世界には必要な者たちでもあった。

----

「に、しても酷いものだな此処は」

レンジャー隊所属、ベルント・ヴァイツエッカーは周囲の様子に毒づく。
腐界には雪のような胞子が常に降っており、極彩色の菌類が大木のように幾つも伸びている。
蟲達もまた奇妙に変異し、トンボの羽が生えた巨大百足等という冗談みたいにグロテスクなシロモノまで存在する。

≪ベルント、息苦しくてもヘルメット取っちゃったらダメよ?あっという間に肺が腐っちゃう≫
「ああ、わかってる。…はぁ」

安物の圧縮酸素の独特の匂いに辟易としながら、腐界に生える一見マトモな樹に切れ込みを入れる。
切れ込みから粘着質の液体がドロリと漏れ出し、汚染されていることを示していた。

粘着質の液体を試験管に採取し、厳重に封をする。菌類の一部分を削って同じく採取。それをタスクが埋まるまで行う。
地味で気の長い、報われるかもわからない作業だ。しかし、観察が無くば、未来すら失ってしまうことだろう。

//では人間が住めない環境となった場所の調査中ってシチィエーションを投げておきます
//イメージは風の谷のナウシカの腐界そのまんまです;
9ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/21(月)01:01:39 ID:LWL [2/5回]
>>7
彼もまたシュトラールと同様に若年のスタッフだ。しかし男女の差、戦闘経験の差などが二人の体格や身長の違いを浮き彫りにする。
しかし彼の服装はあくまでラフな格好に対し、シュトラールは医療部の制服だ。その身に纏う雰囲気の力強さで言えばシュトラールに軍配が上がる。

「そうか」

短い返答。そして歩きながらも何か考え込むような表情。

「じゃあ一緒に食べよう。美味いもの」
「美味いもの食うと気分が良い。シュトラールもそうだろう?」

二人とも料理が作れない。それなら二人で美味しいものを食べに行くのが一番良いと彼は結論づけた。
極めて単純な思考だが、決して悪意や打算を踏まえたものではない。
検査中、彼はとても退屈そうな顔をしている。座っているだけなのだから退屈な時間であることは確かなのだが。

「シュトラール」
「君はどうしてここにいる?」

またも単純な質問。彼の語彙の少なさは目下訓練中だが、それにしても抽象的がすぎる。
だが質問の内容自体はこの要塞都市にいるほぼ全ての人類に問えるものだ。皆、何かがあったからこそこの都市に来たのだから。
10シュトラール◆</b></b>hHMogxWV7M<b>[sage] 投稿日:20/09/21(月)01:22:18 ID:cv8 [2/5回]
>>9

自動化された検診は極めて単純作業であるが、結果を精査するのはやはり医療に携わる職員の役目である。
ディスプレイ上にグラフ化される数値に目を通して、彼の身体に変調がないか既存の検査情報と比較して確認していく。
エーテルの影響は未だに解明された訳ではない。異常が起きてないか、或いはその予兆がないかを見極めていく。

「はい、次は採血です
 息を吐いて、リラックスしてください。すぐに終わりますよ」

機械腕に設けられた注射針が彼の上腕動脈に触れる。機械による採血は正確かつ一瞬で、下手に緊張しなければ痛みもなく終わるだろう。
そしてすぐに表示される血中成分を確認していく。体内のエーテル値に異常はないか、超常の力を行使した前後はその変調が起きやすい。
画面から目を離さない姿は真剣そのもの。シュトラールというまだ幼さを残す少女の風貌には似つかわしくないくらい、医療関係者としての姿だった。

「……どうして、ですか。難しいことを尋ねますね」

単純な質問ではあったが、少しだけ目を丸くした。まさかそんな質問をされるなんて、思っても見なかった。
シュトラールがこの組織に参加した理由は、ただ自ら志願したからという単純なものではなく、ある種の成り行きであった。
某国の新人類収容施設、そこに彼女は収監されていた。それこそこの世の地獄のような場所であったけれども、やがて収容施設はゴフェルンによって解放されて、その際に彼女はその一員に加わった。
回答までには数秒間の沈黙を有した。それは僅か数秒間であったけれども、彼女にとってこの質問が即答できるほど簡単なものではない証拠だった。

「……変えたいと思ったから、でしょうか」

「みんな、そうだと思いますよ。人、暮らし、国家、時代───ここに集った人達は皆んな、何かを変えたいと願ったからこそ、ここにいるんだと私は思います」

「きっと、ノーマンさんもそうじゃないんですか?」

電子音が鳴る。検査の工程が一通り完了した合図だ。
電子カルテを閉じたシュトラールは、笑顔を浮かべて"お疲れ様でした"と彼に告げた。
11ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/21(月)01:44:27 ID:LWL [3/5回]
>>10
採血と聞いて彼は今日一番のしかめ面を披露する。メディカルチェック全般が嫌いな彼だが、中でも一際嫌っているものの一つが採血だった。
十年程前か、彼がゴフェルンに保護と言う名の捕縛された時に採血を嫌がり貴重な機材を半壊させたことを一部のスタッフは知っている。
その為、後に採用された検査機器等の採用基準には「耐久性に優れること」も追加されたそうだ。
しかし、今の彼は昔とは違う。曲がりなりにもスタッフとしての自覚は芽生えつつあり、その上食事が目の前に迫っているのだから。

「変える……?」
「俺は……よくわからない。負けたからここに連れて来られて、戦えば飯食えるから戦う」
「シュトラールは、それじゃダメなのか?」

彼には時代や国、迫害と言った人類の歴史の中で培われた争いの種は理解し難いものだ。
生きるために戦う。勝てば生き残り、負ければ死ぬ。負けたのに何故か死んでないから生きるためにゴフェルンでも戦う。純粋に自己の生存を求める生物だ。
彼はそもそも人間の幸福と言うものを持たずに生まれてきた。そんな彼が変わる時は来るのだろうか。

「終わったなら、飯食いに行こう」
「俺はシュトラールと飯が食いたい。今そんな気持ちだ」

食事を奢ってもらう身の癖して相手を食事に誘うのは如何な了見か。彼の視線は真っ直ぐシュトラールの瞳に向けられ、表情は餌を待つ犬のように嬉し気だった。
12シュトラール◆</b></b>hHMogxWV7M<b>[sage] 投稿日:20/09/21(月)02:07:52 ID:cv8 [3/5回]
>>11

機材を半壊させた昔話はシュトラールも同僚から聞かされている。
現在医療部では同意を得ない検査の強制が禁止行為とされているのがまさにその痕跡である。
その為にご褒美を用意したり、口先八丁で丸め込んだりと、素直でない職員から同意を確保するための手法が確立されつつあるのだが。
とはいえ今回は約束した食事の話以外に、更なる説得を行う必要もない。シュトラールから見て現在の彼は間違いなくゴフェルンの一員だった。

「んー……難しいですね」

「でも、ゴルフェンに加わってからは、温かいベッドで眠ることも、美味しいご飯を食べることも、増えたんじゃないですか?
 そんな今を昔と比べて、否定しようと思わないのならば、それは変化を認めたってことだと──思いますよ」

シュトラールとて彼の提示した命題に明確な解を提示できる訳ではない。
幸福に生きた時期もあったし、地獄を垣間見た時期もあった。結局、何が正解かなんて解る人間は今の時代にはいないのだろう。
時代における行動が正解か否か、それが判別できるのは後世の人間だけだ。そしてシュトラール自身、彼にこれ以上説教をできるほど、"出来た"人間じゃない。

さて、小難しい話は終わりにしよう。
後は約束の通り、彼の望む食事を楽しむだけ。職員の中でもそれなりに多くの給金を頂いている身。
普段の使い道が少ない分、彼の要望にはしっかりと答えるとしよう。

「それじゃあ、行きましょう。私も、ノーマンさんと同じ気持ちです」

まるで仔犬に見つめられているような気分になって、その頭を撫でてあげたいとも一瞬だけ思ってしまうが。
流石にそれは失礼なので、微笑みを浮かべて答えるだけに留めておく。さて、約束を果たすとしよう。


//では、この後食事に向かったという感じで〆で…ロールありがとうございました!
13 : ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/21(月)02:17:56 ID:LWL [4/5回]
>>12
/綺麗な流れなのでこちらもここで〆にさせていただきます。こちらこそ初ロールにお付き合いいただき感謝です!
14 : ベルント・ヴァイツエッカー◆</b></b>cy7Dnfdd96<b>[] 投稿日:20/09/21(月)15:48:03 ID:z0G [1/1回]
>>8
//こちらで再募集かけまーす
15シュトラール◆</b></b>hHMogxWV7M<b>[] 投稿日:20/09/21(月)20:18:19 ID:cv8 [4/5回]
要塞都市が駐留する地点の北方に一つの街が存在する。
決して規模は大きくないが、物流の拠点として多くの人々が行き交い、活気に溢れる交易街。

「人が、人が多いです……!!」

人が溢れんばかりに行き交う露店街。四方八方が喧騒で包まれて、言葉と商品と通貨が行き交う。
小柄な少女であるシュトラールは押しては返す人並みに飲み込まれないよう、踏ん張るのことで精一杯だった。

要塞都市では流通していない漢方が手に入るかもしれないと思い至ったのが、わざわざ地上の街に出向いた理由である。
とはいえ最近は屋内での研究続きだったせいか、久方ぶりの喧騒にすっかり疲弊したシュトラールは、一旦買出しを諦めて休息を選ぶことにした。

「……ふう、これなら誰かに手伝いを頼んでも良かったかもしれないですね」

露店で購入したドリンクを片手に、木蔭で体力が回復するのを待つ。
通り過ぎていく人々が、時折視線を向けてくる。それはシュトラールが身に纏う服装から、何の組織の一員であるかを理解した人達だろう。
シュトラールは普段と同じように、ゴフェルンのジャケットを着用していた。だが新人類の証である異形の角は、念の為に帽子で隠してあった。

既に要塞都市からも訪れている者が数多く存在しており、地上との交流が制限されているような話もない。
とはいえ───決して油断してはいけない。新人類にとって要塞都市とそれ以外の場所は、天と地に等しい差がある。
差別。偏見。迫害。それらの脅威が確実に存在しないと断定できるのは、要塞都市の中だけである。
故に最低限───新人類の証である異形だけでも、隠しておこうというのがシュトラールの判断であった。

(……やっぱり、そういう"視線"もありますね)

例え新人類であっても、そうでなくても、それを擁護する組織に所属しているというだけで、不快感や嫌悪を向けてくる人間は一定数存在する。
少しだけ暗くなった気分は、口に含んだドリンクと共に腹の底へと押し流した。


//少し不安定ですが絡み街です
16ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/21(月)22:47:54 ID:LWL [5/5回]
>>8
レンジャー隊が腐階の調査を行っている時刻。異なる方角からのアプローチで腐界調査を進める部隊の姿があった。

≪子細、問題無いか?目標地点はそこから200m直進だ≫
「わかった。すぐに終わらせる」

ゴフェルンの遠征部隊。そこに所属する戦闘員「ファイアナイト」が単独で腐界調査を行っている。
刺々しい雰囲気の黒い外骨格は腐界生物と言っても違和感が無い代物。彼はこの変身能力によって腐界の影響を阻んでいた。

≪待て。正体不明の生命反応を検知した。慎重に進み、目視で確認せよ≫

通信による指示通り、彼は音を立てずにゆっくりと検知された反応の方向へと進んでいく。
そして腐界調査中のベルントを視界に納めると、臨戦態勢に入りながら声掛けする。

「誰だ。所属を答えろ」
「こちらはゴフェルン遠征部隊所属ファイアナイト。腐界調査のためここに来た。戦闘の意思は無い」

訓練された通りの定型句。相手の素性を問うと同時にこちらの意思を告げる丁寧で無機質なものだ。

/今現在確認してらっしゃるかどうか不明なので置き式で絡ませていただきます
17◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/21(月)22:56:36 ID:6qw [1/1回]
>>15

「……つかれたの?」

そう声を掛けたのは、道行く人類種そのままの姿をした少女だった。
絹のような銀の髪を背中の中ほどまで伸ばし、ターコイズブルーの瞳を煌めかせる、陶器人形めいた涼やかな容貌。
小柄な体躯に艶のある黒革のコートを纏い、左右の腕にバングルを嵌めている。
しげしげと少し無作法かもしれない視線でその服装を眺めると、また口を開いて。

「ゴフェルンの人? この街には、物資の補給にきたのかな」

敵意のない、どこかあどけなさを残す声。
少し首を傾げるその所作と相俟って、問いかける姿は、やや幼さを感じさせるものかもしれない。
人混みに疲れた様子もないことは、シュトラールよりはこの街に慣れていることの証の様でもあったけれど。
18ベルント◆</b></b>cy7Dnfdd96<b>[] 投稿日:20/09/21(月)23:10:24 ID:fuD [2/2回]
>>16

≪――レーダーに感。ウェ…多分ハイランダー(天上人)。妙なことしないでよね?≫
「あいよ」

あからさまに厭そうな声音の『リンダ』の声に逆に冷静になれそうな気がしてきたベルントだ。
隠密行動ではないがゆえに通信の癖で察しがついたといったところ。
しかし連中、腐界なんぞに何用なのだろうか?とも思う。

しばらくすると、互いに感知していたのだろう、コンタクトと相成った。
もっとも、あちらさんは兎も角、こちらは正体不明(アンノウン)なのだ。
臨戦態勢での応答も当然の態度でしかない。両手を上げて戦闘意思がない事を示す。

「レンジャー隊所属、ベルント・チャレンジャーだ。登録コード:AMD17151225。
 こちらも腐界の調査だ。近隣の村に雇われている」

苗字はあからさまに偽名だが、そこはベルントもさして頓着していない。
多少の詐称あれど登録コードは正規のモノで、一応、実績も伴っているのだから後ろ暗いところなどない。

「殺さないでくれよハイランダー。こんなところで死んで菌床になっちまうなんでゴメンだ」

ハイランダー…
天上人。つまりゴフェルンを指すスラングだ。
移動型空中都市にお住まいの高尚な方々という多分に揶揄を含んた言葉である。

//よろしくおねがいしますー
19シュトラール◆</b></b>hHMogxWV7M<b>[] 投稿日:20/09/21(月)23:34:49 ID:cv8 [5/5回]
>>17

街の喧騒に耳を傾けながら瞳を閉じる。地上の街、地上の空気をこうして感じるのは久しぶりだった。
慣れない環境であることが、疲弊に繋がっていたのかもしれない。疲労感が抜けていくのを実感しながら、シュトラールは問いに答える。

「はい、少しだけ……って、わわっ!?」

そう答えてから、目の前に人が立っていることに気がづいて、分かりやすく驚いた。
慌てた拍子にカップのドリンクを溢しそうになるが、蓋を押さえて中身を撒き散らすことだけは阻止。

「……医療部門のスタッフ、シュトラールです。すみません、お見苦しい姿をお見せしてしまって」

僅かに頬を赤面させながら自己紹介。挨拶の拍子に少しだけ傾いた帽子は、すぐ元の位置に戻した。
彼女の目に敵意がないことを確認すると、緊張の糸を解く。シュトラールと殆ど同じ身長、恐らくは近しい年頃。
少し見ただけで解るのは、彼女がこの街に溶け込んでいる人間であるということ。余所者で少し浮いてる、自分とは異なって。

「もしかして、この街の方でしょうか
 でしたら、お聞きしたのですが……この街で漢方を扱ってる露天商ってご存知でしょうか?」

この土地に詳しいのではないかと期待して、シュトラールは早速本題を訊ねるのだった。
20グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/22(火)00:01:15 ID:m7I [1/5回]
>>19

「!! ……? ……??」

驚かれたことに驚いて、びくりと小さく肩が跳ねる。
その後はどこか妙なところでもあっただろうかと、自分の肩のあたりを少し気にして。

「グレイプニルです。ゴフェルンの人たちとは、少しだけ交流がありました」

何事もない様だと安堵の吐息ひとつ零せば、何事か思案した後に自己紹介を返した。
シュトラールの緊張が緩んだことを感じたのか、視線は穏やかさをまた少し帯びる。
そして尋ねられた本題に、少し考え込む様子を見せた末。

「漢方、かんぽう……何でも揃っている、市場の様なところでもいい? 
 私はかんぽうに詳しくないから、シュトラールが見てほしい」

シュトラールがその言葉に同意したなら、歩調を合わせながらグレイプニルは歩き出す。
時折シュトラールを気にする様子で振り向いては、無事を確かめて雰囲気が和らぐ。

そうして市場に辿り着けばまず目につくのは、何かの皮革を張り合わせて重ねた台座に並べられた品々だ。
正体不明の異形の爬虫類か両生類、四枚羽の蝙蝠、何かの角……そうした動物類を乾燥させた品を売る、怪しげなフードの人物が店主だ。

そこからやや距離を隔てれば、一般的な薬草類を取り扱う、清潔だが少々高級そうな露店がある。
別の一角には、ちょうど両者の中間程度の、品ぞろえも質も見立てを必要とするであろう、幾つかの露店が並んでいて。

どれがいい?と尋ねる様に向けるグレイプニルの目は、少し好奇心を帯びている様ではあった。
21ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/22(火)00:09:51 ID:q0M [1/4回]
>>18
「レンジャー……」

オペレーターに確認してもらった所、登録コードは確かなもの。少なくともエデンなどに与するものでないことを確認出来たなら十分だ。

「俺達はただの人間だ。ハイランダーじゃない」
「あんた、ここで調査するなら気をつけた方が良い。最近、蟲が変らしい」

彼の調査は腐界の自然環境と蟲の活性化の原因究明だった。
普段は腐界から出てくることのない蟲達が近隣の村や都市に害を成す事件が徐々に増えている。このままではゴフェルンの活動にも支障が出る。
住民の保護と蟲の鎮圧。両方を同時に進行出来るなら上々。

≪ファイアナイト。こう言う時は情報交換すると良いんだぜ≫
「わかった」

「あんた、この辺でおかしなことってなかったか?」
「……蟲が変とか?」

他者に尋ねるにも情報や知識がいる。彼にはその両方が欠けていた。
22ベルント・ヴァイツエッカー◆</b></b>cy7Dnfdd96<b>[] 投稿日:20/09/22(火)00:34:38 ID:kFJ [1/4回]
>>21

「生憎、地上からすりゃアンタも立派なハイランダーに見えるがね」

なんとも皮肉屋めいた言葉のベルント。
自分でも少し棘が立ちすぎているか?と思わなくもないが、
ここはまあ、許容範囲としておくことにする。

「おかしな事ならしょっちゅう起きているさ。ほら」

レンジャー隊にとって調査結果の障壁無き共有もまた理念の一つだ。
それゆえにゴフェルンだろうとエデンだろうと、求められれば資料を提出する。
だからなのだろう。ファイアナイトと名乗った強化外骨格(エーテル変異が機動重装歩兵かは区別できなかったが)にも、
木片が入った試験管を投げて寄越す。それは腐界と認定されていない外周エリアから採取されたものであったが。

「粘性の液体がしっかり食い込んでいやがる。見た目以上に腐界が広がっている。
 アンタらの警戒ももっともだ。こりゃ遠からず、『噛み顎』が繁殖するぞ」

噛み顎…
意思を持った菌類と言うべき腐界より産まれ出でる狂暴なマモノだ。
球場の形に弾力のある肉体、一般的には赤い色をしている。
形態は端的に言ってしまえば牙だらけの巨大な口の左右に強靭な二本の足が生えていると言えばいいか。
小さな眼球は個体によって数がバラバラであるが、ギラついた黄色をしている。

隕鉄の板さえも穿つ涎にまみれた牙が特徴で、食性は肉食…大量発生した際には雪崩のように人類領域を飲み込んでしまう。

「ヤバいエーテル結晶なのかアノーマリーの仕業なのか。それは今からの調査だがな」
23ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/22(火)00:47:59 ID:T86 [1/3回]
黄土一色の広漠たる荒野に薄らと一筋描かれた、街と街を繋ぐ傷んだ道路を駆ける黒い影。
目の覚めるような赤毛を振り乱して息を切らし、時々躓きそうにながらも決して足を止めようとはしない。
振り返った照りつける太陽の前を何かが横切る。仄暗い獰猛を双眸にぎらつかせた、大人の背丈ほどの翼を持つ黒鳥だった。

「はっ、はっ……!!まだ、追って……!!」

切欠は半刻前。眠る怪鳥の傍をそれと知らず通りがかり、不覚にも起こしてしまったのが運の尽き。人喰いと悪名高いそれに獲物と認識され、身を隠す物陰も荒涼の地には見当たらず。
這いずる鼠のように弱らせられていると分かっていても、命懸けの追いかけっこからリタイアなどできるはずがない。
心臓の鼓動が煩い。足裏がじくじくと痛みを、喉が渇きを訴える。人一人をすっぽりと収める不吉な影が覆い被さり肥大して、次の瞬間。

「――――ああっ!!」

人の腕程もある鋭利な鉤爪が、無防備な背中を撫でた。それだけで外套が、その下の衣服と柔らかな肌がいとも容易く切り裂かれた。
溢れ出る鮮血、倒れ伏す小さな躯体。旋回して再び急降下する黒い鳥が、動けない獲物を持ち帰るべく、爪を大きく開いて伸ばした。
24シュトラール◆</b></b>hHMogxWV7M<b>[] 投稿日:20/09/22(火)01:08:18 ID:QNQ [1/3回]
>>20

「グレイプニルさん、ですね。よろしくお願いします」

シュトラールは若年であるが、幾つも場数を踏んできた経験から、人を見抜く洞察力は人並み以上にあった。
彼女が信用できる人間であると理解すれば、微笑みを浮かべて手を差し出す。拍手に応じるかどうかはグレイプニル次第であるが。

「……!是非、お願いします!」

グレイプニルの提案に目を輝かせて同意すれば、彼女の一歩後に追従して人混みの中を進んでいく。
無理のない歩調で進んでくれたお陰で、シュトラールがはぐれてしまうといった事態も起きなかった。

漢方薬とは自然科に存在する動植物、鉱物などが備える薬効を生薬とし、組み合わせることで個々の患者に見合った調合を行うもの。
西洋医学とは異なるアプローチによって症状の改善を行う治療法であるが、今の時代において自然界に存在する生薬の中には安定的に手に入らないものも多い。
こうした物流の真っ只中にある市場であれば、もしかすると希少な漢方が手に入るかもしれないという淡い期待を寄せていたシュトラール。
そして目的的に到着すれば、シュトラールの期待は確信に変わって、その瞳を一層輝かせるのだった。

「……す、凄いです。想像以上ですよこれは!
 芍薬、釣藤鈎、冬虫夏草……やっぱり地上の物流は流石です!それにあっちには、マモノ由来の生薬まで……!」

興奮を隠すことなく、シュトラールは早速露天の物色を開始する。
気になる生薬があれば店主に薬効を尋ねて、値段を聞けば値下げ交渉を繰り広げて、そして満足して購入すればまた別の生薬に狙いを定める繰り返し。
三十分も経過した頃には、購入した品々が入った袋を抱えて、ほくほくとした笑みを浮かべているシュトラールの姿が見れることになる。

「……お待たせしました!すみません、待たせてしまって
 要塞都市では中々手に入らないものばかりだから、ついつい買い込んでしまいました……♪」

上機嫌。希少な生薬も迷うことなく購入していったので、傍から見れば相当な額を浪費したようにも見えるだろうが、その甲斐はあったようだ。


//すみません、眠気がキツいので次の返信は起きてからになります…
25メアリー・ロンド◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[] 投稿日:20/09/22(火)01:10:05 ID:IhQ [1/8回]
>>23

絶体絶命のそんな最中、ふとエンジン音が聞こえてくるだろう。
そちらをもしも見ることができたのならそこには小型のトラックがこちらへと真っ直ぐにフルスロットルで突進してきているのが見えて。

「――――伏せてくださいッ…!!!」

そんな声と共にそのトラックは少女の手前の少しだけ迫り上がった地面に乗り上げ、そうしてその勢いのまま滞空しちょうど急降下をしていた怪鳥目掛けて体当たりを敢行。
このトラックは元々輸送がメイン、だがこういうときの走行では何者かの襲撃を受けることが稀にある。もちろん今回はちゃんとルートを想定していたためにそんなことがあるはずなどないが……自分から向かっていく場合は別だ。
そして襲われたときのために多少頑丈に特別にチェーンナップされているからこそ、このような強行手段に出たのだ。
そうして怪鳥へと突撃する瞬間、ドライバー席から人影が飛び出し少女のそばへとなんとか着地して。

「っ…なんとか……」
「もし、そこのあなた…大丈夫でしょうか、意識はまだありますか?」

――――そうして飛び出してきたのは、そんな場所にはやや不釣り合いな修道服姿で大きな機械式の刀を携えたシスターだった。
26ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/22(火)01:42:09 ID:T86 [2/3回]
>>25
怪鳥は空の王者であったが、それ故に地を往くための文明の利器にとんと疎かった。
横合いから迫る知らない音を一切脅威とは見做さず、その正体を知るのは胴に鋼の馬が激突してようやくのこと。
醜く嗄れた悲鳴、空中で大きく崩れた体勢目標を辛うじて整える。無様に荒れ地に墜落する前に、砂塵を巻きこみ上空へと羽搏いて一旦の逃走。
束の間の猶予、しかしせっかくここまで手間暇かけた獲物を猛禽がそう簡単に見逃すはずもない。日輪を囲うように軌跡を描く影を見れば、諦めていないのは白月よりも明らかで。

「……ぁ、っ…………う……」

うつ伏せに倒れた少女は耳朶を打つ声に、荒い呼吸に混じった微かな呻きで返す。髪に隠れた面持ちは、きっと苦痛に歪んでいるに違いない。
無残に裂けた布地の下からこんこんと溢れる赤い雫と、妙に柔らかい不自然な膨らみ。死んではいないがしかし、無事であるとも到底言い難い。
立って歩くなど以ての外、苦悶を少しでも和らげようともがいた指が砂地に爪を立てた。

容態を把握した頃を見計らってか、狩りを邪魔立てされた怪鳥の嘶きが土塊を震わせる。
迫る黒き風は重力をも足掛かりとし、性急な長針の如く滑り落ちて新たな人間へと鋭き爪を突き立てるのだろう。
27グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/22(火)01:43:24 ID:m7I [2/5回]
>>24

「ん……うん。よろしく、シュトラール」

少し驚いた様子でやや瞠目して、けれど抵抗もない様子で握手に応じる。
自分が想像していたより、ずっと警戒のない距離感で歩み寄ってきたシュトラール。
不意を打たれて緩む頬は、彼女への、グレイプニルの心の距離もそう遠くないことの証左であったのだろう。

道中を無事にゆけるよう、ひとりのとき以上に注意深く辺りに気を配りながら歩けば到着。
ゴフェルンの事情にはそれほど詳しくないグレイプニルにも、目を輝かせて漢方を買って回るシュトラールの様子に感じるものはあった様で……瞠目しつつ、一緒に説明を聞いて回る。
もしも買った品々が嵩張る様なら、手分けして持つことも申し出るのだろうし、彼女の買い物にはずっと付いて回るのだろう。

そうして買い出しを終えたシュトラールの嬉しげな様子を見れば、グレイプニルにはよくわからないその品々が、どれだけ彼女には大切なのかはきっと伝わっていた。

「気にしないで。そんなシュトラールを見てるの、私も、ちょっと楽しかった」

揶揄う様ではないけれど、自分の目を引くくらいには熱心だった、なんて言う様な言葉を向ける。
くす、と笑う声は、そのまま次の言葉へと繋がっていて。

「その漢方で、出来ることがあるんだね。
 シュトラールはそれが大事?

 集めてるとき……すごく、活き活きしてるみたいに見えた」

そう言って薄く微笑むグレイプニルの興味は、今はシュトラールのことにある様だった。
それほど感情表現が豊かな方ではないこの少女は、熱心に漢方を集めて回る彼女のしたいこと、大切ななにかの話を聴きたがっている。
ゴフェルンでの暮らしの話なども、或いはよいのかもしれない。
ともあれ……シュトラールの話してくれることは、きっと何であれ楽しんでしまうのかもしれなかったが。

/了解ですっ、いったんお疲れ様でした……!
28メアリー・ロンド◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[] 投稿日:20/09/22(火)02:04:28 ID:IhQ [2/8回]
>>26

「あれは…確か、この辺りには巨大な鳥のマモノの目撃情報がありましたが…」

恐らくそれで間違いないだろう。その凶暴性からこの辺り一帯には近づかないようにという注意喚起がなされていた。
ゴフェルンにも討伐依頼が確かきていた、そんな危険地帯にわざわざ足を踏み入れているこの少女はその注意喚起を知らなかったか…もしくは知ってはいてもなおここを通る理由があったか。
どちらにせよ、戦う力が無い者にとってここを通るのは命知らずもいいところだ。

「"四式融解刀"起動…」

カチリ、という音と駆動音と共に刀身を熱が帯びる。そうしてみるみるうちにその温度は上昇していき、そして遂にはそれは視覚だけでも分かるほどの超高温へと到達。
迫りくる怪鳥を前に、背丈ほどにまで及ぶようなその大太刀を低く構える。
少女の容態は見るからに危険だ、僅かな時間でも放っておくわけにはいかない。ならばこれに時間をかけるような暇はないのだ。

「――――――」

一刀。ただそれだけに全てを込めて怪鳥を両断せしめようと刀を振るって。
29ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/22(火)02:40:42 ID:T86 [3/3回]
>>28
刀身へ作用するエーテルが尋常ならざる発熱を可能とし、あまりの高温に灼赤が歪んで見えるほど。
蜃気楼めいた揺らぎの錯視。怪鳥の脳裏で生物の本能が首を擡げて絶対的な危機を叫ぶ。
しかし、それは止まらなかった。流星の自由落下は既に踏み留まれない速度に達していたし、何より空を支配する自負が、地を這うモノへの蔑視が強襲を敢行させた。
鉤爪を振り下ろす。それだけでこの生意気な二足歩行は、先の子供のように赤い花を散らすはずだと、己の絶技に城塞の如き矜持と自信があったのだ。

だから太陽に目が眩んだ哀れな鳥は、自分の胴が二つに別たれたことに最期まで気が付くことはなかった。
地上から迸った緋炎の閃光は風よりも速く。乱火の天流が羽を焼き皮膚を割り、肉を切って骨を断つ。
砂礫の身じろぎにも満たない、ほんの刹那の攻防。どうと、重たい肉塊が続けて落ちた。

頁を綴った逃走劇よりもずっとずっと短い時間。見渡せば周囲には地にも空にも影はなく、当面の危機は去ったと言ってもいいだろう。

「…………んっ……」

そして少女の負傷も、また。よく観察すればとめどなく零れていたはずの血は既に止まりかけ、傷の具合も心なしか先程よりも浅くなっているようにも見える。
穴の空いた外套からはらりとまろび出る紅く染まった羽。苦しげな声が漏れ、微かに身を震わせて、徐々に意識が浮上しつつあるようだった。
30メアリー・ロンド◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[] 投稿日:20/09/22(火)02:54:26 ID:IhQ [3/8回]
>>29

裂かれた途端に皮膚を焼き、その鮮血すらも日の目を浴びることはない。コンマ数秒にも満たない中でその決着はあまりにも一瞬でついた。
地に足をつけるしかない人間が翼を持つ者に勝つのはまず難しい。だがあぁして向こうから向かってきてくれるのなら話は別、むしろそれは格好の獲物となる。
終わったのなど確信すれば武器はもう必要ない。セーフティをかければ排熱と共にその刀身の緋色は失われ元の無骨な黒一色へと変容、そのまま分割すれば元の鞘へと収納する。

「お待たせしました…容態はっ……あ、れ…?」

それは一目瞭然だ、さきほどまであんなに酷かった負傷がかなり浅くマシになっている。
まさか自分で治療したわけでもあるまい、もしそうだとしてもあまりに再生が早すぎる。そしてふと気づいたのは外套から覗く血染めの羽。

「…………ひとまず車の近くまで運びます、身体を動かしますが我慢してください」

少女の身体を両手でゆっくり優しく抱えれば、さきほど体当たりに使ったトラックの元へと。
多少フロントが歪んでしまったが走行に影響はないはずだ、体当たりの際に横倒しになっていたりしなくてよかった。
そうして彼女をそのまま運べばトラックでちょうど影になるところへとその身体を一旦下ろす。

「……意識はありますか?もしありましたらゆっくりでいいので、返事をしてください」
31ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/22(火)03:27:26 ID:64X [1/5回]
>>30
抱き上げた身体は軽く細い、運ぶのにそう苦労することもないだろう。
背中は人肌とも、ぱくりと裂けて露わになった肉の感触とも違う柔らかな手触りを返す。そこにバックパックとも違う何かがあるのは明らかだった。
仰向けにされて陽光に晒された顔には幾筋の脂汗。きゅっと瞑った二つの眼の真ん中に、皺を寄せて痛みを声なく訴える。
規則的な振動にせっつかれる意識。ひくと睫毛が震えて、日陰に身を横たえたところでゆっくりと瞼を持ち上げた。

「……ん、ぅ…………ぁ、え……?」
「――――っ!!あ、っ……!」

焦点が合わないのもほんの数秒、やがて灰の瞳が己を見下ろす女性の顔を認めたかと思えば。
真っ先に浮かんだのは安堵や疑念ではなかった。大きく目を見開き息を呑んで、ただでさえ血の気のなかった頬が一層に青ざめる。
酸化の進む乾いた血よりもくすんだ恐怖の色を瞳に映し、咄嗟に上体を起こそうとして。背中に走った痛みにすぐ地面へと引き戻された。

「いやっ……!!だ、だれっ!?さっきの、あの鳥は……?」
「っ……やだ、見ないで……!背中は、見たら駄目……!!」

背の肉を抉られて、そこからの記憶はほぼ失せているのだろう。
目の前の現状を咄嗟に理解できず、自分が助かったことも分かっていないのだから半ば恐慌状態に近い。
駄々を捏ねる幼子めいて首を横に振りながら、這ってでも距離を取ろうとするが。
動きは痛みに緩慢としているだけでなく、肉体はひどく非力なものだから、大人しくさせるのは容易だろう。
32メアリー・ロンド◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[] 投稿日:20/09/22(火)03:59:25 ID:IhQ [4/8回]
>>31
//すいません…!眠気が酷くこのままだと寝落ちしてしまいそうなので一旦凍結してもよろしいでしょうか…
33 : ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/22(火)04:03:40 ID:64X [2/5回]
>>32
//大丈夫ですよ、凍結了解です!
34メアリー・ロンド◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[] 投稿日:20/09/22(火)11:02:00 ID:IhQ [5/8回]
>>31

再生能力、それもかなり高度なものだろう。だが彼女の背中に感じるこの感触はさきほどの血染めの羽を見る限り翼の類なのだろうか。
身体はあまりに軽く肉付きも細い、およそ健康的な身体とは言い難くここに来るまでに一体何があったのだろうか。想像を巡らせても本人の口から聞くまではその道のりは分かるまい。

「良かった…意識は戻ったようで……あら…」

どうやら意識がはっきりしたのを見て安堵するも、その瞳に浮かんでいるのは恐怖の色。
下手をすれば命の危機だったのだから恐怖するのは仕方ない。だがそれにしてもその怖がり方は少々異常という他ない。
過去にどんなことがあったのか、それは知ることはできないが反応を見るに普通ではないことがあったのだということだけはわかる。

「…………落ち着いて、ここはもう安全です。あなたを害そうとする存在はいません」
「だから…怖がらなくていいのですよ、まずは落ち着いて…深呼吸してください」

優しく諭すように言葉を一つ一つ紡いでは、手を伸ばしてその頭にポンと手を乗せる。幼子に対する愛情を向けて、それこそ親が子に向けるそれに似たものを。

//返信を置いておきます…!お好きな時間に返信していただければ…!
35ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/22(火)13:12:28 ID:q0M [2/4回]
>>22
「噛み顎……?」
≪待ってろ。今データ照会する≫

聞き慣れない固有名を耳にし、オペレーターから情報提供を受ける。
それはベルントが指し示しているものと全く同一であり、ひとまず彼もなんとなくのイメージを抱くことができた。

「このネバネバも広がってるし、焼くしかないんじゃないか?」
「手遅れになったら、俺達でもどうにもできない」

堅牢で厳つい見た目に反して子供のような思考。くぐもっているが声音も十代中頃の少年のものだ。
しかし彼の提案も一理ある。ベルントの寄越したサンプルは確かに腐界の拡大を示す動かぬ証拠だ。

≪……ちょっと待て。地下100mから急速に接近する物体!何か来るぞ!≫

地響きと共に彼とベルントの間の地面が盛り上がり、土塊が宙に舞う。
地中を掘り進んで現れたのは正に今話題に上がっている噛み顎。それも異様に巨大化した特殊な個体だ。

「……やるか」

腐界の瘴気を切り裂きながら赤熱するのは彼専用に製造された超構造式対マモノ戦術大剣。エーテルの炎熱を纏い、仇敵の首を断つ。
森が怒り狂うかのようにざわめく。まるで意思を持っていると言わんばかりに侵入者である彼らを排除せんとマモノは吠える。
36ベルント・ヴァイツエッカー◆</b></b>cy7Dnfdd96<b>[] 投稿日:20/09/22(火)13:54:12 ID:kFJ [2/4回]
>>35

(おいおい、大丈夫なのか)

目の前の2メートルを超えるハイランダーの何とも頼りない返事。よく聞けば声音も少年っぽい。
ゴフェルンがいつの間にか人材不足で座学させる暇も無くなったとは思いたくないが。

「焼くしかないが、ただ火をつけただけじゃあ胞子が周囲に散って逆効果だ」

再び空を仰ぐ。雪のように降り積もる胞子。見た目は幻想的ですらあるが本質は悪意に満ち満ちている。
ベルントはファイアナイトと名乗った少年に視線を移し、

「オペレーター、聞いているな。これはエーテル汚染のケース3に該当している。
 毒性プロメチウムのフレーマー(火炎放射器)使用許可と専門部隊を申請。それが確実だ」

ゴフェルンの脅威判定と対処方針に則った申請を口にするレンジャー。
しゃしゃり出ている自覚はあるのだろう。言葉は不機嫌そのものであったが、
同時に自己のこだわりより周囲の被害軽減を優先した言葉でもあった。

「!?」
≪こっちも捉えた!死にたくなきゃあ、さっさと伏せんのよ!≫

が、ここでそれを阻止せんと言わんばかりに姿を現したのは噛み顎。それも特大のサイズだ。

「ビッグ・スクイッグ(噛み顎)?冗談じゃねえぞ!」

半ば泥濘と化していた地面から突然に現れる巨大噛み顎。
恐るべき跳躍力によって一気に空に向かって飛翔する。

その際巻きあげられた大量の土砂。それ自体が大質量の壁となって、戦術大剣を受け止めてしまった、

「おい、ハイランダー!救援は!」

苦し紛れにプレデターⅤヘヴィピストルを撃つが、
対人ならば兎も角、対マモノ相手ではあまりに心細いハンドガンだ。
大口を開けて空から隕石のように迫る巨大噛み顎相手に効いている実感がまるでない!

巨大噛み顎はそれこそ、審判を下さんと飛来する隕石のように牙だらけの大口を開けて落下した!
37ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/22(火)14:29:46 ID:q0M [3/4回]
>>36
≪悪いが十分以内に合流できる部隊は存在しない!≫
≪だが問題無い!フレーマーの使用許可はもう出されている!ファイアナイト、レンジャーを援護しろ!≫
「わかった」

ベルント側にも聞こえる回線でゴフェルンオペレーターは告げる。
既に火炎放射器使用の許可が出されているとは如何な理由か。しかしファイアナイトと呼ばれる戦闘員の力を見ればそれもすぐに解決するだろう。

「おっさん。戦えないなら下がってて」

侵入者を食い散らかさんと迫り来る貪食の流星に向けて再び大剣を振るう。
黒い外骨格に張り巡らされた橙色の紋様が光り輝き、ファイアナイトの名の通り猛る業火が剣の軌道に乗り、放たれる。
地を焼き、天を焦がす炎の剣によりマモノの巨体を弾き飛ばしたのだ。

「俺なら燃やせる。あんたはどうする?」

猛炎を纏う黒き騎士。火山に満ちる溶岩、炉で熱せられた鋼鉄、火と鉄、炎と炭、人類が古来より恐れながらも御してきた力の象徴。
立ちはだかる者は焼き尽くす。調子づいた奴は焼き尽くす。敵も味方も灰に変えてしまいそうな程の純粋な暴力の姿がそこにはあった。
彼が敵を惹きつける間、武装を整える時間は十分にあるだろう。一人では手に余る敵だとしても、力を合わせればあるいは。
38シュトラール◆</b></b>hHMogxWV7M<b>[] 投稿日:20/09/22(火)15:12:01 ID:QNQ [2/3回]
>>27

「えへへ……希少な生薬が手に入るのが、嬉しいっていうのもありますけど」

シュトラールは医療部門の人員であると同時に生粋の研究者である。
研究者は現物を好む。研究とは常に己の目で計測した実体こそが重要であり、資料上の情報だけでは満たされないもの。
だからこそ、普段は手に入らない漢方を手に入れる機会を得て、喜びを露わにするのはシュトラールが研究家である証だった。

とはいえ、探究の情動がシュトラールの全てではない。
周囲を見渡すと少し離れた場所に空席のカフェテラスを見つけると、グレイプニルを誘って席に座る。

「少し、待っていてください。案内して頂いたお礼になるかはわかりませんが……」

そう言って離席したシュトラール、少し経つと露店で購入したハーブドリンクを両手に、席に戻るとコップをグレイプニルに差し出した。
喧騒の絶えない昼下がり、ドリンクを口に運ぶと、立ちっぱなしで疲れた身体に冷えたハーブの香りが染み渡る。

「……エーテルが人体に齎す影響については、未だに未解明の部分が多いです
 超常の発現、身体の異形化、どのような相互作用が働いているのか、紐解いていくには多角的なアプローチが必要です」

「もしかすると、漢方薬学の視点を使えば、それを解明するヒントが得られるかも……なんて、確証のない話ですけどね」

未だに謎が多いエーテル。その未知の力が人体に与える影響のメカニズム解明に、漢方が役立つかもしれない。
シュトラールはそう語る。実際に役立つ確証はなく、むしろ徒労に終わる可能性が高い。けれどもそうなれば、シュトラールはまた別のアプローチを探すだろう。
医者であり、研究者であるシュトラールが、どのような姿勢でゴフェルンに所属しているのか、垣間見える言葉だった。

「そういえば、グレイプニルさんはどうしてゴフェルンと交流が?
 外部協力者、とは異なるようですが……」

一通り自分について語れば、今度はシュトラールが尋ねる番。
純粋な好奇心を宿した赤い眼が、グレイプニルへと向けられた。

//凍結ありがとうございました、お返し置いておきます!
39ベルント・ヴァイツエッカー◆</b></b>cy7Dnfdd96<b>[] 投稿日:20/09/22(火)15:30:15 ID:kFJ [3/4回]
>>37

「許可がもう出ている?おい、どういう事だ!?」

オープン回線でのゴフェルン・オペレーターの返答に思わず聞き返してしまうベルント。
しかし、その疑問はすぐに解消されることとなった。

突然にザワついたエーテル風。それは紅く収斂されて黒騎士により火炎となって放たれた。

エーテル能力…
剣が齎しているエーテル技術ではない。ファイアナイト自身が火炎を発生させており、
大剣はあくまで誘導体に過ぎないと、ベルントの眼にもハッキリ分かった。

(人手不足なんて、とんだ早とちりだったな)

しかし、だ。力を見せつけられてなお、戦えないなら下がってろなどと言われれば
それに黙って従うわけにもいかない。年長者としても、男としても、だ。

「子供に任せていられるかよ。『リンダ』今から座標を送る」

空中に弾き飛ばされた巨大噛み顎に、おあつらえ向きだとハンドガンを向ける。
無論、この銃そのものはマモノに対して何らの有効打を与えるものではない。
必要なのはハンドガンのアクセサリー…レーザーポインターの赤い光だ。

ベルントは空中で藻掻くマモノの照準レーザーを照射し続ける。

≪OK、捉えた。7.92mm重機:慣性制御マシマシで射撃準備。ホントは直接ぶった切ってやりたい気分なんだけど…≫
「ハイランダーが近くにいる。あまり大っぴらに手の内を見せると面倒だ。慣性制御弾、射程拡張――」

ベルントはハンドガンのトリガーを絞る。これそのものにはさして意味はない。
ただ、タイミングを計る。意を乗せる。そのための動作だ。

「――撃てっ!」

ハンドガンより重金属弾が放たれる。もっとも本命はこれではない。
同時に遠方より巨大噛み顎の側面を狙って、大量の7.92×57mm重機銃弾が襲い掛かった。

ヴァンキッシュ改に装備されている副武装…口径そのものは重機関銃としては一般的なものだ。
しかしゴフェルン独自開発の高性能エンジンの大出力と『L.I.N.D.A.』の組み合わせにより実現した
慣性制御・重力制御の応用で、その威力と射程を飛躍的に高めることに成功していた。

//次の返信は夜になるかもです
40ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/22(火)15:41:50 ID:64X [3/5回]
>>34
「やっ……来ないで……!あそこは、もう嫌……!」

情に満ちた言葉に心を許すどころか、青嵐めいて激しく取り乱し聞く耳を持とうとしない。
我も忘れて拒絶する悲鳴の端々を拾い上げれば、その恐怖の源泉が一寸先に迫った死の足音だけでなく。
もっと別の、未だ逃れるべき何かに起因すると察するのは難しくはないはずだ。

「――――っ!!」
「……、…………ぇ……?」

伸ばされた手に竦む身体、最悪しか想定できない混乱が連れ戻されると嘆声をあげる。
思わず瞼を固く瞑って。頭に触れた暖かな掌に、少し遅れて呆然とした声が喉を震わせた。
おそるおそる目を開き、色濃い怯懦の灰色が改めて女性をまじまじと観察する。
やがて杞憂、少なくとも今最も会いたくない連中の一人でないことに気がつけば。

「…………本当に?あなたも、わたしを使ったりしない?」

警戒と緊張の糸こそぴんと張っているものの、一先ずは幾許かの平静を取り戻したようで。
今度はゆっくりと、脊髄を通って神経を苛む鋭い痛みに顔を顰めながらも上体を起こす。
息を詰め、緊迫を如実に語る表情とは対照的に。外套の破れた穴から窮屈そうに顔を出した血染めの翼が、外気に触れてふるりと震えた。

//お待たせしました、夜まで不安定になりますがお返しします!
41メアリー・ロンド◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[] 投稿日:20/09/22(火)16:54:07 ID:IhQ [6/8回]
>>40

やはり何らかの彼女の何らかの過去に起因することなのだろう。
メンタルケアについてはいくらか知識はある、今の彼女にとっては自分は得体の知れない他人だ。たとえ敵意を向けられておらずとも警戒はそう簡単に解けるものではない。
だらこそまずはその警戒を解いてあげることが第一歩なのだろう。

「えぇ…私はあなたに危害を加えたりはしません、あなたを脅かせる者はここにはいませんよ…」

彼女の頭に添えた手でゆっくりと撫でる。
彼女はまだまだ小さい子供だ、そんな彼女の身に一体何があったのか。こんな風に恐怖で染め上げられるなんて、まず普通じゃない。

「無理をなさらないでください…まだ身体の傷は痛むのですからまずは安静に……」

上体を起こそうとする彼女の肩を支えれば傷の様子を見る。傷は癒えてきているものの今の痛がり方を見るに外傷よりかは内の神経によるものだろう。
幻肢痛然り人の身体というものは一見もう何も異常はなくとも、その実未だ痛みを忘れられないことがある。その原因が分からない限りは手の施しようがない。
破れた外套から覗く翼は一見オルヴィエート人のように思えるが頭部の輪っかが無いことからそれはまずない。
だとするのなら翼人か、あるいはエーテル汚染による身体的特徴の変化か……

「…………今の状態ではあなたの身体の完全な治療は望めません…私はゴフェルン所属の者です、一度私たちのところで治療をさせては頂けないでしょうか。このままあなたをここに放っておくわけにはどうしてもいきません」
42ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/22(火)17:14:05 ID:q0M [4/4回]
>>39
ファイアナイトは躊躇なく怒涛の連続攻撃を叩き込む。噛み顎の肉体に幾つもの裂傷が刻まれ、高熱で溶解した肉がチーズフォンヂュのように零れ落ちる。
彼は巨大マモノを前にしても全く臆することなく剣を振るっている。どのような人生を送れば少年がこんな戦いを見せるようになるのか。
彼が送ってきた決して平穏とは言えない人生が今ここで脅威に対する刃となっているのは火を見るよりも明らかだ。

≪ファイアナイト。援護射撃が来るぞ。こいつは……?いや、今はいい≫
≪出来るだけ当たりやすくしてやれ!≫
「注文が多い」

空中でなおも暴れ回る噛み顎に飛びかかり、その口中に大剣を突き立てる。
しかし、ただで殺されてなるものかと噛み顎はその大口を渾身の力で閉じる。ファイナイトを噛み砕かんとする一撃。

「っっっ……ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

されど黒き騎士は破れず。上顎と下顎をそれぞれ片腕で押し留め、両肩と肘からジェットエンジンの如く炎を噴射する。

「ぜぇあぁぁぁっ!!!」

周囲の瘴気をかき消す程の衝撃。強化された腕力に爆炎による加速力を乗せ、噛み顎の口を裂ける程に開いたのだ。
遠方より放たれる数多の弾丸。側面を狙った弾丸は一切の障害に阻まれることなく噛み顎へ殺到する。
限界以上に開かれた大口に最後の晩餐よろしく叩き込まれた弾丸は内部から噛み顎の体を粉砕し、その巨体を物言わぬ肉片に変える。
血潮と生肉の雨の中で彼らに勝利の栄光が授けられた。

≪やっっったぜ!≫
「まだ、だろ。おっさん、生きてる?」

ファイアナイトが着地すると腐界の胞子が巻き上がる。そして、煙が晴れる頃には噛み顎の死骸が辺り一面に転がるのみ。

「やっぱりここは燃やした方が良い。おっさん、手伝え」

これ程までの脅威が潜んでいる腐界を放置すれば周囲一帯への影響は想定よりも大きいものとなるだろう。
幸い、両者ともに負傷はしていない。胞子嚢を充填的に焼き払っていけば腐界は芯を失って消滅するだろう。
43グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/22(火)20:29:18 ID:m7I [3/5回]
>>38

希少な現物を得た喜びに、呼応する様に眦を緩めて。
シュトラールと一緒にカフェテラスの空席に腰を下ろせば、ハーブドリンクに口をつける。

「……おいしい。ありがとう」

端的な言葉だけれど、ほわほわと緩んだ雰囲気は、グレイプニルがこの贈り物を喜んだことを言葉よりずっと雄弁に伝えるのだろう。

そしてシュトラールがしてくれたのは、研究者としての彼女を、
自分とも決して無縁ではない、エーテル研究へのアプローチとしての漢方。
そしてそれに留まらず、きっと多様な手段を以て解き明かそうとするシュトラールの思いに……
グレイプニルは、年相応以上に目を輝かせて。

「シュトラールは、すごいね。

 あたりまえに起きちゃう流れをどうにかするだけじゃなく、“わからないこと”に、諦めずに挑戦してる……
 ……うん。いつか、きっと――この世界の流れだって変えちゃうんだと思う。
 それも、ずっといい方に。……頑張って。できることがあれば、私もするね」

そんな風に、協力を申し出ることもしてみせた。ちいさな笑顔に、万感の喜びが篭もる様なやわらかな音色で。
そうして今度はグレイプニルのことに話題が移ると、軽く辺りを見回し、聞き耳を立てる者がいないことを確かめると、声を潜めて。

「……私も、変異した人間だから。
 同じような人たちが攻め立てられてたとき、ゴフェルンの人たちと一緒に守る側に回った――

 そんなことが何回かあって、要塞都市に少し知り合いがいる。
 逆に、味方ではいられない人たちもこの世界にはいるけど……それは、仕方がないことなんだと思う。

 それで、ね」


「いつか、私たちも普通に人間なんだ、って……皆が、少しでも当たり前に受け入れられる未来が来るように。
 この街で生きてるひとりとして、今は、この街のためにできることをしてる。

 私がどんな生き物なのか、この街の人たちが知ったらまた街を離れて……その繰り返しで、なにが出来るのかはまだわからないけど。
 それでも、行く街の皆が生きやすくなるのは確かだと思うから。
 ゴフェルンみたいにはいかなくても、こう生きてるのは――私が、したくてしてることなんだ」

少しはにかんだ表情は、小さな体躯に秘めた思いが、自分には確かなものとしてあることを確信する様で。
誰かのために力を尽くすことに、正の思いを抱いていることを言外に語るには十分なのだろう。
そしてシュトラールの挑戦に抱いた思いも、きっと根は同じ。
自分の秘密ごと語った気恥ずかしさを誤魔化す様に、グレイプニルはまたドリンクに口をつけた。
44 : グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/22(火)20:29:58 ID:m7I [4/5回]
>>38
/お待たせしました…! 改めて、よろしくお願いしますー!
45 : グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/22(火)20:34:02 ID:m7I [5/5回]
>>38
/>>43に脱字、ありました…!

そしてシュトラールがしてくれたのは、研究者としての彼女を、
自分とも決して無縁ではない、エーテル研究へのアプローチとしての漢方。



そしてシュトラールがしてくれたのは、研究者としての彼女を、その芯を成す思いだった。
自分とも決して無縁ではない、エーテル研究へのアプローチとしての漢方。

…です!
46ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/22(火)21:01:42 ID:64X [4/5回]
>>41
優しい声色、穏やかな顔つき。神の意向を導く象徴たれと囁き、傷ついた戦士へ痛みを伴い献身せよと吹く大人達と同じ表情。
けれど今与えられる慈愛には、あそこにはなかったものがある。

「……ん、ぅ…………」

真紅の髪を指が梳く。その初めての心地良さに、抵抗も忘れて目を細める。
自分の身体を抱きすくめるように外套をしっかと掴んで、しかし彼女が脅威でないとは納得がいったのだろう。
小さく頷いて、そのまま目を伏せる。敵でないとは認識しても、怯弱な気質は人との触れ合いを苦手とするらしい。

「ごふぇるん……?……よく、分からない……」
「けど、しばらくすれば治るから……これくらい、平気」

おじおじとした態度で紡ぐのは、印象の良し悪しを問わず誰もが知る常識の欠如。
果たしてゴフェルンを知らずにここまで成長する者がこの世にどれだけ存在するのか、首を傾げる動作に態とらしさはない。
しかし実在するのであれば、未知の組織に身を委ねるのを是としないのも道理ではある。
ふるふると頭を振り庇護を拒絶するのも、それが生きる術を求める新人類にとっての救いの手であると知らないが故。

「少し休んだら、もう行く…………ありがとう」

それにやはり、何処かに身を預けるのはまだ少し怖かったから。
弛緩して全容を外気に晒した六枚の翼が砂を撫でる。ざらついた音に消えそうな程に、小さな感謝の言葉だった。

//お待たせしました、今から安定します!
47メアリー・ロンド◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[] 投稿日:20/09/22(火)22:41:46 ID:IhQ [7/8回]
>>46

「疑うことは悪いことではありません、何事も盲目的になってしまえばいずれ本当に大切なものを見失ってしまいますから」

さきほどの彼女の態度は正しいことだとそう語る。きっといろんな辛い目にあってきたのだろう、そんな中で人間不信となってしまっても仕方がない。
そんな中で自分に対して少しでも気を向けてくれたことに感謝をしなければならない。
目を伏せたのはどのような感情を含んでのことだろうか、考えてもいくつも予想ができてしまってキリがない。

「――――……そうですね…ゴフェルンは私の家のようなところで、私はそこでシスターをしているんです。あらゆるすべての人たちの力になりたい…そのために私はそこにいます」
「いけません。たとえ身体が治ったとしても…人には心があります、外傷は治せても心に負ったものはそう簡単には晴れません」

平気だなんて、そんな筈がない。彼女が初めて自分を認識した時のあの取り乱しようは明らかに普通じゃない。
思うにそれこそ過去に何者かから逃げ出したくなるような何かがあったことは間違いない。そんな不安定な彼女をこのまま放っておくことはどうしてもできなかった。
シスターとして、そしてその前に一人の人間として。

「あなたのことが心配なんです、どうか…あなたの身の安全はこの私が保証します、いえ…たった今出会ったばかりの私が保証してもどうにもならないかもしれませんが……それでも、あなたを放ってはおけません」
48ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/22(火)22:44:12 ID:nph [1/1回]
『……大丈夫かな、あの人……!!』

ゴフェルンの輸送車両が立ち往生しているのは、移動要塞都市に続く道中でのことであった。
その前方には、何処かの正規軍から簒奪したであろう。違法改造の痕跡が幾つも見られる強化外骨格や武装で構成された武装集団の姿がある。
強盗強奪を生業とする者達の中でも、取り立てて要領が良いのであろう。
現状非常に危険な状況であることに間違いなく、光輪と、小さな翼を背負った、運転手のオルヴィエート人の女性が不安を顕に呟いた。

「――――」

その不安の理由は、目の前の強盗ではなく、その輸送車両の『上』に立っている、一人の少女に起因する物であった。
丈夫で、且つ無骨な印象を与えるコートやジャケット、ブーツは、それが軍隊使用を想定した実用品であることは想像に難くない。
然し施された金糸での刺繍や装飾は、それらが単にそうであるだけでなく、高位階級の持ち主であることをよく示していた。
身長168センチの背格好に対して、ほぼ同等の大きさを持った、四枚の白い翼が背中の上で雄大に広がっている。
頭上で輝いている光輪は、それがオルヴィエートの国民であることを示す。

「さて……」

その持ち主は、威風堂々たる立ち居振る舞いを持って、その大勢の武装者に対して一切怯むことはなかった。
亜麻色の髪をほんの僅かとて恐怖に揺らすこともなく、かと言って敵意とて見せることはない。
然しその言葉の続きが発せられた時には、何らかの一触即発が期待されるだろう――――事実として、賊の中に小さな揺らめきが起きたのは違いない。
それまでに、何者かの介入があるかどうか。
49シュトラール◆</b></b>hHMogxWV7M<b>[] 投稿日:20/09/22(火)22:50:11 ID:QNQ [3/3回]
>>43

輝いた瞳を向けられて、シュトラールはどう応えるべきか、少しだけ悩んだ。
夢はある。理想もある。いつか、世界を変えることができると信じているからこそ、シュトラールはゴフェルンに所属し、日々医療と研究に明け暮れている。
そしてその目標とする場所は、新人類にとっての希望と呼べるもの。グレイプニルが向ける瞳は、シュトラールが掲げた希望が眩いものだからこそ。

「……はい、私も、ゴフェルンの皆さんも、その為に活動を続けているのですから」

世界を変えたいと願ったからこそ今がある。グレイプニルの言葉に、シュトラールは微笑みを浮かべて答えるのだった。
帽子を手で押さえる。不自然な膨らみが現れて、シュトラールがその下に何を隠しているのかを浮き彫りにする。
異形。エーテルによる人体変異が形となった、新人類としての記号。シュトラールの場合は頭部に出現した一対の角が該当する。

今の時代は、これを隠さなくてはいけない時代。
その必要がない場所というのは、要塞都市内部や、差別の少ない地域と極端に限られてくる。
グレイプニルには──選ぶことができた筈だ。ゴフェルンに所属して、要塞都市の一員に加わる機会があったに違いない。
けれどもグレイプニルはその道を選ばなかった。何故地上を選んだのかなんて、わざわざ聞く必要のないこと。

「グレイプニルさんは、強い方ですね。私は、ゴフェルンがなければ……変えたいと、願うことすらできなかったから
 けれども、想いは同じです。新人類が、人として正しく受け入れられる時代を───いつか、必ず作りたいと、そう思ってます」

差別をなくす。世界を変える。荒唐無稽な夢物語であることは、誰しもが理解していること。
けれども無謀を承知の上で立ち上がったのがグレイプニルであり、シュトラールであり、ゴフェルンに所属する者達である。
グレイプニルの決意に共感したシュトラールは、想いは一緒であることを宣言する。立つ場所は異なれども、同じ目標に向けて歩む者と出会えたことが、嬉しくて仕方なかった。

ドリンクを飲み終えて、暫しの歓談を経て。
そろそろ、要塞都市に戻らなければと、シュトラールは名残惜しさを滲ませながらも立ち上がる。

「もし良ければ、いつか要塞都市にもきてください。まだ停泊期間は暫くありますから
 何かあったら、私宛に連絡をください。きっと、力になりますから───今日は、ありがとうございました」

礼儀正しく頭を下げたならば、そのままシュトラールは要塞都市に向けた帰路につく。
要塞都市、その威容はこの街からでも容易に視認できる。そこはシュトラールが帰る場所であり、新人類の希望を載せる方舟。
その希望が紡ぐ縁によって、いつかまた二人が出会うということだって、充分にあり得るのだろう。

//凍結ありがとうございました、では、私からはこんな感じで……ありがとうございました!
50ベルント・ヴァイツエッカー◆</b></b>cy7Dnfdd96<b>[] 投稿日:20/09/22(火)23:02:29 ID:kFJ [4/4回]
>>42

「ふぅー…何とかなったな」

ベルントは空中で汚い花火となった噛み顎の肉片と臓物が降りかかるという、
欠片ほども夢の無い光景を目の当たりにしながら息を吐いた。

7.92mm弾を消耗した程度なら、まだ黒字の範疇に収まるのだ。
ゴフェルンという組織力の背景が無いため、財布事情は非常にお寒いのが現状だった。

≪赤字のならずに済んだのは良かったけど、慣性制御射はたぶん観測されちゃったわよ≫
「必要経費ってこったな」

『リンダ』はやや不満そうだったが、これは致しかたない事と判断する。
ケチって死にましたではお話にならないし、そんな場面はこの残酷で過酷な世界にあってはごまんとある。
このタイミングで地上に帰還したファイアナイトを出迎えた。

「こっちの台詞だハイランダー。天上人だからって本当にあの世まで行かれちゃ寝覚めが悪い」

さて、手伝えと言われても、毒性プロメチウムの持ち合わせのない身としては、
手段ではなく、レンジャーとしての知識でサポートするくらいがせいぜいだろう。

「全部を焼き払うのは土台無理だ。腐界でも広がろうとするトコと維持しようとするトコがあってな。
 後者に攻撃を加えちまうと少々拙い。いいか、胞子嚢の見分け方についてだが…」

危険な存在を排除する、あるいは不本意ながらも共存していなねばならない事もある。
エーテルが齎した新たな世界のカタチ。人類は万物の長ではなくなった。滅びの段階にあるという声すらある。

「お前さん、ちゃんと勉強しているのか?おい、オペレーターこりゃどういうことだ?」

からかい混じりにそんなやり取りをしながら、ゴフェルンの戦闘員と元戦車兵は奇妙な邂逅を果たすのであった。

//ではキリもいいので自分はこれにて!初ロールありがとうございましたーノシ
51ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/22(火)23:31:57 ID:64X [5/5回]
>>47
人を疑うことが、相手の気を悪くさせてしまう鬼胎を孕む危険性を知るには、彼女はまだ世間を知らなさ過ぎた。
それは天を駆ける救済の都市についても同じ、説明を受けても考えが及ばない様子で眉が八の字を描いた。

「別に……この程度なら慣れてるから」
「……心?心が、傷を負うの?」

もっと惨く、深い傷を『受けた』ことは数知れず。己の肉体が傷つくのは滅多になくとも、痛みだけならそう心を乱されることはないはずだった。
不感ではないが、強がりとも違う。言葉通りに、割り切れる範囲の苦痛なのだ。
むしろ強い困惑と恐慌を覚えたのは、他人に新人類の証を見られる方。その風貌を宗教と結びつけられるのが、何よりも恐ろしくて仕方がなかった。
それを心の傷と形容すると、知らない少女は訝しげに問い返す。地を這う斜陽の毛先が砂に汚れた。

「…………でも……やっぱり、嫌……」
「知らない人達のところに、行くのは……」

怖い、と唇の形だけが不安を謳う。汎愛を語る女性を信用しきったわけではなく、然りとて不信を決め打ったかといえばそれもまた否
恐れるのは新人類に向けられる目や、逃げ出した場所からの追っ手だけではない。
今しがた露わにした治癒力が、他者にも適用することが可能であることを。そこにどれだけの利用価値があるのか、少女は身を以て知っている。
それが悟られてしまった時、果たして今と同じ眼差しを、扱いを受けられるだろうか。何よりも、その昏き奈落が最も恐怖を齎すのだ。

「…………もう大丈夫だから。行くね」

覚束ない足取りで立ち上がり、砂塵に塗った衣服を払う。引き攣る痛みは既に動くのに支障はないのか、緩慢としていながらも危なげはなく。
そそくさと逃げるように歩き出そうとするが、向かう方向にある街は、ここから歩けば丸一日はかかる距離であった。
52メアリー・ロンド◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[sage] 投稿日:20/09/22(火)23:56:50 ID:IhQ [8/8回]
>>51

「えぇ……心は、とても繊細なものなんです。そして心にできた傷は本人の知らないところでどんどんと膨れ上がって…蝕んでいくのです」
「ゴフェルンには新人類の方々だって大勢います、みんなが手を取り合って……共存する道を探しています。もちろん私だってその一人です」

彼女をこのまま放っておけばその胸の傷は誰が埋める?もちろん自分以上に彼女に分かり合えるような誰かが現れるかもしれない。
だが今目の前に彼女がいる、ならば今それをすべきは自分なのだと。おこがましいかも知れない、お節介かも知れない。そうだとしても、だ。

「……そうですね、誰だって初めては怖いものです。ですが…誰だって最初は知らない人間です。それこそ私だってあなたとはさっきまで見知らぬ人だった……」
「でも今は信用されきれてはいないかも知れませんが…それでもこうして、あなたは私の話を聞いてくれている」

今まで他人に怯える子供たちは大勢見てきた。だがその中でも彼女は一番だろう。
他人への不安と恐怖、それらが彼女を雁字搦めにして道を閉ざそうとしている。
そんなのはだめだ、人には自由に選べるだけの道がある筈だ。その道を閉ざす権利なんて誰にもある筈がない。

「っ……私はあなたの力になりたい…どうか、私を信じてくれませんか」

あの先の街へはどんなに早くても1日はかかる。それをこんなか弱い彼女が歩き切れるか?その体質で傷は大丈夫だとしても体力は?外敵から身を守る術は?
後ろからその身体を優しく抱きしめる。まるで今にも途切れてしまいそうなか細い身体、その背に生えた綺麗な翼ごと包み込むように、彼女の全てを受け入れるように。
53 : ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/23(水)00:34:11 ID:4Tm [1/1回]
>>50
ベルントの指示通りに胞子嚢を焼いていく。彼の炎の勢いならば周囲の腐界なら焼野原に出来るが、それを繰り返したところで腐界の再生と彼の炎が拮抗し続けるだけだろう。
適切な判断を行うためには十分な知識が必要になる。ベルントの知識は迅速に事を終わらせるために必要不可欠だ。
そして、腐界の心臓とも言える胞子嚢を破壊し尽くした後、帰路につく彼にオペレーターが不意に問う。

≪ファイアナイト。お前、さっきの援護射撃に見覚えは?≫
「無い」
≪そうか……勘違いかもしれんが、一応データは残しておくかな……≫

ほんの一瞬の観測。手掛かりと言うには程遠いそれを記録し、当該作戦は終了した。

/こちらこそありがとうございました~
54ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/23(水)00:34:36 ID:ev8 [1/2回]
>>52
追われる者の重圧と、狭い鳥籠の隙間からずっと見てきた大人の醜悪さが、躊躇の足枷となって申し出へ踏み出すのを妨げる。
宗教を建前にして己を顧みず聖戦に赴き、傷が癒えたかと思えばまたすぐに、抑圧と差別からの解放を求めて戦場に帰る戦士達。
エーテルへの回帰を高らかに叫び、確約なんてされていやしない理想へ邁進するために、分かりやすい偶像を求めたお偉方。

「――――やぁ、離して……!」

似ている、と思い至ってしまった。漠然とした夢を口遊み、破片が突き刺さるのも厭わず硝子を突き破って光を掴みとらんとする執着心が。
それがどうしても、気味悪く思えた。あんなに痛い思いをしているのにどうしてと、苦痛だけを代替して得た疑問が息苦しさを催す。
背後から抱きかかえられ、反射的に腕をばたつかせるがその力は悲しいほどに弱い。密着した鼓動が緊迫に早鐘を打つ。
背中と胸に挟まれた三対の翼がもがく度に、乾いて黒ずんだ血がぱらぱらと舞い落ちる。激しく首を横に振れば黄昏の如き赤橙の髪が否定に暴れた。

「だって、そんなの……口だけなら、どうとだって言える……!」
「どうせ後から、わたしのこと……!一人で、大丈夫だから……離してよ!」
55 : グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/23(水)00:40:35 ID:cj1 [1/1回]
>>49

不確かな未来を切り拓くような、確信に満ちたシュトラールの言葉にまたグレイプニルは仄かに微笑んで。
双眸に変異の証への驚きはなく、ただ、重く確かな現実を共有してくれた彼女の思いを受け止めていた。
シュトラールもまた、この時代においては困難に見舞われる種。

そんな彼女が辿り着けた場所で重ねる挑戦は、自分にはきっとできないもので。

「誰かといられるのも、きっと強さなんだよ。
 
 自分たちの道にいても……そういう強さも、大切にしていきたい。きっと、幾らあってもいいものだから。
 そんな人たちが多ければ多いほど――いつか辿り着く場所は、近づいてくれそうだと思ってる」

そして誰かといられる強さなら、シュトラールはグレイプニルより持っているはず。そう言いたげな言葉は、それぞれの在り方をどこまでも肯定するものだった。
街を渡り市井にあることも、要塞都市にあることも。
それぞれの戦いで、喜びも痛みも代えなんてないのだろう。

数え切れない人々が挑み続けているから――グレイプニルは、自分自身も、彼ら彼女らも肯定していける。
それをこの街で思い起こせたことに、この出会いに勇気づけられる様な思いがして。

「……うん、ありがとう。

 またね、シュトラール。あなたと話せて、よかった」

穏やかに過ごすひとときが過ぎれば、楽しげなちいさな笑顔とともに、そんな感謝の言葉を残して手を振った。
視線の先には、人類種の希望たる要塞都市が佇んでいる。
そこで言葉を交わせたなら、また違ったなにかが出来るのかもしれない。そしてそれはきっと、この先の未来で識ることのできることなのだろう。
今はただ心待ちにする様に、普段より弾む足取りで。グレイプニルもまた、自分自身の帰路につくのだった。

/2日間、お疲れ様でした……!! ありがとうございましたー!
56メアリー・ロンド◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[sage] 投稿日:20/09/23(水)01:01:43 ID:fBE [1/2回]
>>54

「あっ……」

離さざるを得なかった、その言葉はもっともで今の自分にはそれを示せるものは何もない。
誰かを助けるというのはそれ相応の力がある者が言えることだ。今の自分にそれがあるといえば、まず有り得ない。そんな立場である筈がないのだ。
だからこそこうして正面から拒絶されてしまえばもうどうすることもできない、そんな自分があまりに歯痒く、やり切れない。

「…………どうか…あなたのこれからの旅路に…光あらんことを…」

一歩引き、ただそう祈ることしかできないけれど…これが今の自分にできる精一杯だ。

「……人の心は繊細です…そのことをどうか、お忘れならないでください」

最後に言い残すのはそんな心配事だった。彼女のその心がどうかいつか救われるよう、いつか誰か心を開ける人が現れることをただ祈る。
その後はもう彼女が歩き出したとしてもその後を追ってくることはないだろう。
57 : ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/23(水)01:40:59 ID:ev8 [2/2回]
>>56
自分の膂力がどれだけ頼りなく、女性と雖も大人に簡単に取り押さえられてしまうことは、本人が一番分かっていた。
それでも防衛本能は理屈を無視して抵抗を選ぶ。だから悪足掻きが結実して腕から放たれ、最たる驚愕を抱いたのは少女の方だろう。

「!!…………ぁ……」

酩酊に似た不規則な足取りで前につんのめり、慌てて振り返った灰色の視線が一握の後ろめたさを宿す。
無力感、やるせなさ、断腸の苦しみ。突き放したはずの好意が悲痛に色付くのを見て取って。
恐怖心を乗せた天秤の空皿に罪責の重石が乗せられ、少しばかり振れた針が見開かれた眼に浮かぶ。
罪悪感を胸に押し込め、背中を丸めて両腕を抱く。何度か口を開いて、かける言葉を必死に探しているようだった。

「っ…………天地に満ちる神の恩寵よ、汝の歩みを遍く照らし給え……」
「…………ごめんなさい」

何千何百と唱えた祝詞が震える。少し前の自分なら、求められた通りにもっと堂々とそれらしく振る舞えたというのに。
彼女らにとって敵対関係と呼んで差し支えない、歪な理念に基づいた祈りの言葉。最後の謝意は禿鷹の鳴き声に掻き消されそうな程にか細く。
下唇を噛み締め束の間の逡巡。しかし踵を返し一歩を踏み出せば、視界から届かなくなるまで走るのに躊躇いはない。
背には最早薄れた傷跡、縮こまった六枚の翼を背負って。濁りきった怪鳥の瞳に見送られ、少女は一人荒野を駆けるのだろう。
日は頂点、影は短く標にもならず。去り行く姿を舞い上がった砂塵が覆って寂寞に霞ませた。

//それではこちらは〆で!ありがとうございました!
58ベルント・ヴァイツエッカー◆</b></b>cy7Dnfdd96<b>[] 投稿日:20/09/23(水)02:40:41 ID:ixe [1/2回]
>>48

≪で?どうすんの。レイダーというにはちょーっと装備が豪華絢爛だけど≫
「どうするってなあ…」

ゴフェルンの輸送車両に喧嘩を売るレイダー集団。侮るには『リンダ』の言葉通り装備が良過ぎる。
特殊強襲用装甲に充実した火器。要領がいい…どこかの組織の紐付きの可能性すらあった。
エーテル技術を独占し新たな人類の支配者になろうとしていると決めつける連中もいることから、
ゴフェルンが掲げる誠なる理念とは裏腹に敵も決して少なくはない。

「あのお嬢ちゃん、あと運転手か。オルヴィエートだろ。そりゃ狙うか」

正に天使そのものと言った身姿のオルヴィエート人。
彼等、彼女等の容姿は賛美を呼ぶだけだったか。断じて否であろう。
神の御使いを標榜するミュータント、翼持つバケモノ、浴びせられる誹謗中傷は少なかろうはずもない。

そして…美しい者を蹂躙することに快を見出す金を持て余した好事家は何処にでもいる。
ブラックマーケットにおけるオルヴィエート人の価値たるや…。

「…言ってて胸糞悪くなってきやがった」≪露悪趣味も程ほどにね。で、どーすんのよ≫

どうする?とは、だ。たまたま状況を目撃し、今はエンジンを止めて経緯を見守っている自分達の身の振り方だ。
ハッキリ言う。カネにならない。リスクは大きい。さらにゴフェルン…ハイランダー(天上人)に自分が好意的ではない。

この観察者…ベルント・ヴァイツエッカーは戦車に乗っている。確かに強力なビークルだ。が、無敵ではない。
万年金欠病で弾丸一発とて使うのは惜しいし、常態化している整備不良によって本来の性能を発揮できない。
角笛(携行ロケット)の連射や車体上部にトップアタック(飛び乗って攻撃)を仕掛けられると酷く拙いことになる。

「………」

だがしかし、だ。なら見捨てるというのか?見て見ぬ振りをして?
もしレイダーに敗北すれば良くて即死で身体を解体される程度。悪けりゃ文字通りの生き地獄だ。

「それは無いな。仕方がねえ助けるぞ」≪ラジャー!…このお人よし≫
「うるせえ」

戦闘支援AIの上機嫌な揶揄に不機嫌そうに応えるベルント。これで覚悟は決まった。行動あるのみ。
一触即発…ギリギリまで弦が引かれた弓。ならば後は切っ掛けだ。なるべく優位になるのがいい。

「レイダー連中に姿を晒すぞ。それだけで切っ掛けになる。攻撃は控えろ。余計な展開になりかねん」

重要なのはゴフェルン側に余計な動揺をさせず、かつレイダーに対してはその逆であることだ。
幸い、ベルントの格闘戦車…ヴァンキッシュ改はへ―ル達のやや後方、丘上にあった。

「エンジンブースト。せいぜい目立つぞ」

レイダー側からすれば、厄介な展開となるだろう。
ゴフェルンの輸送車両の後方にエンジン音を唸らせた格闘戦車が突如姿を現したからだ。

格闘戦車…その名の通り二本の腕を持つ戦車は両腕を大きく上げてチェーンソードを猛回転させながらレイダーを威嚇!

//置き気味でよろしければー!!
59 : メアリー・ロンド◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[] 投稿日:20/09/23(水)07:44:51 ID:fBE [2/2回]
>>67
//最後の最後で寝落ち申し訳ありません…上手く〆てもらえたのでこちらからは以上です…!ロールありがとうございました…!
60名無しさん@おーぷん[] 投稿日:20/09/23(水)11:58:09 ID:bbe [1/1回]
>>58

悠然と背に揺蕩う、四枚の翼を広げる。
並ぶ大口径の火器に対してその身を晒すのは、何も阿呆が鉛玉と手を取って踊り狂うために、というわけでもなかった。
その手には何らかの武装を握り締めるわけでもないが、丸腰であることが非武装であることに繋がらないのはもはや常識だろう。
そして今、堂々と姿を晒したまま、オルヴィエートの民である少女は、凛と響く声を張った。

「今この場にて――――改心しろとは言いません。私は貴方達一人一人の事情までを知りません。
 全てを思うがままに出来ると思えるほどに傲慢でもありません。ですが……」

言葉に連なるように、そこに渦巻くのは高濃度のエーテル反応である。
エーテルは形を成して、正しく少女の周囲でいくつかの光球として浮遊、その内の一つへと少女は手を伸ばした。
その輝きの中から、何かを掴み、引き抜く動作を見せると、黄金に輝く柄と鍔をが、先ず姿を見せていく。
次いでそこに、正しく白く、静かに、然し高度に存在安定される、光の刃そのものが形成されて握られている。

「ですが、今、この場を退くというのであれば――――」

豪華絢爛極まる装飾を用いた刀剣の類とも、磨き抜かれた玉鋼の刃とも違う、正しく光の剣を片手に携える。
それは実に前時代的な姿形であるかもしれなかったが、同時に分かりやすい武力の証明でもあった。
あくまでも、お互いの戦力は対等であるか……あるいはそれ以上であると、主張する意味合いが籠められていた。


「五体の満足は、保障して――――」


さて、遂に最も主張すべく部分であり、最も賊を刺激するであろう言葉へと差し掛かろうとした時のこと。
少女は、そこに迫る気配と微かな駆動音に振り向いた。
それに続いて、賊達の有するレーダーに急接近する反応への警告、最後に輸送車両の民生品車載探知機に反応が映し出された。

『……同業者か?』

『味方!?』

「――――バック!!」

一瞬だけ生じる混迷の予兆。然し少女は直ぐ様、同じオルヴィエートの民である運転手へと向けて指示を叫んだ。
攻撃のつもりがあるならば幾らでもタイミングがあった。味方と断じるには早計だが、何らかの意図があって介入したと少女は考えた。
故に一息に撤退の指示を下した。屋根の上に取り付いたまま、指示に従って一気に、全開で後方へと走り出す。

『ジャミング。腕付きに構う必要はない。色気を出すな。想定内の範囲で動け』

『ヤバイヤバイヤバイヤバーイ!!!!!』

賊が持ち出したのは、同じく強奪品であろうECMと、高速遊撃機による追跡行動であった。
それによって動きを封じた後、地上を滑走するバイクに似た二輪の高速遊撃機で通りすがり様。
履帯へと向けて、重機関砲による攻撃を加えることにより、足回りへのダメージを目論みつつ、そのまま輸送車両を追いかける。
まともに相手をせず、対象、手繰るべき相手はあくまでも全力で撤退しようとする向こう側であることを、彼らは徹底している。

/よろしくお願いします~!
61ベルント・ヴァイツエッカー◆</b></b>cy7Dnfdd96<b>[] 投稿日:20/09/23(水)21:18:24 ID:ixe [2/2回]
>>60

「随分と演出過剰なお嬢さんもいたもんだ!」≪言ってる場合!?≫

この時には既にレイダー達は機動戦力を差し向けてきていた。
しかし、動揺はさして見られず。さらには一貫して目標を定めたまま行動している。

「おい、野盗にしては随分と統制取れてないか?何処の連中だ」≪さぁてね!来るわよ!≫

輸送車両とすれ違い、前面に出るヴァンキッシュ改。
モニターには迫りつつある二輪高速遊撃機の姿。

≪コンディションはイエロー。重力ジャンプ使用不可、慣性制御も安定せずシールド出力もイマイチ。
 機動戦闘中だと慣性制御弾仕上げるのも時間かかるから基本、通常火力のみよ!≫
「要するににいつも通りだな!ヴァンキッシュ改、戦闘モードに移行!火器制限解除!」

族のE.M.P.より電磁パルスが放たれる、が、何も起きない。戦車は健在だ。

≪アタシの動きを止めるには、出力ショボすぎんのよ!≫
「サイドブースター!慣性制御、効かせろ!」

次の瞬間起こったことは劇的だ。瞬発力に欠けるはずの戦車の重厚な車体が、
小規模なプラズマ励起と共に爆発的な推力で文字通り横にカッ飛んだ!

射撃を加えようとした高速遊撃機からすれば巨大質量が瞬間移動して己に突っ込んできたに等しいだろう。
62ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/24(木)01:16:02 ID:aNo [1/2回]
>>61
逃走劇を始める一台の輸送車両。それを追いかけようとする遊撃機の一台が、宙空へと勢いよく放り出された。
金属同士が衝突音、高速遊撃機がその速度のまま拉げて、宙に放り出され、搭乗していた人間が地面を何度も跳ねていく。

「一台やりましたね!」

『よっしゃ!!』

張本人は、一体何が起きたか理解していなかっただろう。それなりの機動力を想像できても、まさか真横に飛ぶとは考えもしまい。
速度と衝撃は通常の人体ならばそのままバラバラに吹き飛ぶ程の衝撃が発生したが、そこは改造品とは言え強化外骨格を纏っている。
死ぬほどの衝撃ではなかった……とは言え、何度か立ち上がろうとして、そのまま力尽きるまでであったが。

『……損切りだ。ストーカー一台の損害で済ます。退くぞ』

EMPがそこまで大きく効果を齎さない、それでいて遊撃機の一つが破壊された、その上にこちら側に敵意を持った戦車が一台健在。
これ以上の深追いをするとなると、徹底的に行わなければ相応の損害を覚悟しなければならない。
想定できる最大の利益と最大の損害が釣り合わない、故に即座に、損害を最小限に抑える方向に切り替えて動き出す。
反転する遊撃機、撤退する違法改造車両群。

『あっ、あっ、撤退してく、撤退してきますよっ』

「おや、少しくらいは剣を交えることになるかと思いましたが……まあいいでしょう」

ようやく輸送車両がバックギアから手を離すと、運転手のオルヴィエートは、溜め息を吐いて小さな翼を羽撃かせる。
その上に乗った少女は、その堂々たる立ち居振る舞いをそのままに、ノロノロと戦車へと向かっていく車両の上に立ったまま。
その横に車を付けさせて、運転手に変わって少女が声をかける。

「アクシデントへのフォロー、感謝致します。少しお話をさせていただいても?」
63ベルント・ヴァイツエッカー◆</b></b>cy7Dnfdd96<b>[] 投稿日:20/09/24(木)03:16:50 ID:rPi [1/3回]
>>62

実際、通常想像するであろう戦車とは一線を隔す機動であったことだろう。
AFT…すなわち格闘戦車とは、両腕が付いただけの戦車ではない。
その真骨頂はこの機動力と、それを実現する慣性制御技術にこそあるのだ。

≪クイックブーストも結構、負担大きいんだからね。主にアタシの!≫
「連中、引き時も鮮やかなもんだ。レイダーじゃなくてマーク(傭兵)の類だったか?」

『リンダ』の言葉をスルーしてベルントは対峙した相手の印象を独り言ちた。
実際、パイロットが急加速で潰れないのは『リンダ』の慣性制御あってこそだったが。

「まっ、弾を使わなくて済んでよかった。俺の財布は守られたってわけだ」

そうしていると、何やらゴフェルンのハイランダーから接触を受ける。
礼を述べているが、正直、関わってしまっていいものか迷う。
が、マークらしき連中に狙われていたことに好奇心がうずいたのも確かだ。ここはコンタクトを持つことにした。

戦車の上部ハッチが開き、褐色の肌に白い髪をした男が出てくる。

「いや、こっちが勝手にやったことだ。感謝は素直に受け取っとくがな」

第一声はなんともぶっきらぼうなものだ。実際お人よしが嵩じてやりましたなど言えるはずもない。

「妙な連中に狙われているんだな、ハイランダー。アンタらに敵が多いのは今に始まった話じゃあないが」

ハイランダー(天上人)…
地上人が移動型空中都市を本拠とするゴフェルンを指すスラング。
多分に差異と揶揄を含んでおり、好意的な意味合いとはとても言えない。
64名無しさん@おーぷん[] 投稿日:20/09/24(木)11:58:36 ID:qB4 [1/1回]
>>63
「抱いた謝意は、動機に左右されるものではありません。
 私はオルヴィエート天軍九隊、『ケルヴィム』所属、聖堂騎士のヘイルヴ・セデス・サピエンティアエと申します」

重要なのは、そこにある事実。少女たちは彼に助けられた、ただそれに従って礼を言った、それ以上でもそれ以下でもない。
翼を畳んで背筋を伸ばし、自身の胸元に手を当てながら、堂々とその名を、白髪の男へと告げる。
その出身について疑うべくもないだろう。また、少女は同時に、他国で言うならば軍人に相当する立ち位置でもあった。
ゴフェルンでの立ち位置について言及はしなかったが、凡そは、その名乗りで把握できるだろうという省略の意を兼ねてもいた。

「早々に撤退したところを見るに、私達が絶対的な目標だったわけではないのでしょう。
 戦力評価を試みた風でもありませんでしたので、賊の類であると見て間違いないかと」

多少の差別や誂いなど、少女にとっては何処吹く風と言わんばかりであった。
その態度も、声色も、姿勢も、一つとて崩すことはなく、ただ少女は先程交戦した賊達へと向けた評価を語る。

「用意された品々は賊が持つのには上等ですが、ブランドはバラバラ。
 ただ、金銭面で不自由をしているようには見られません、どこか大きな取引先を持っているのでしょうね」

判断の素早さから見られる手腕、充実した装備、而して統一も無ければ、雑多な改造が施された武装類。
切り上げの早さから目標達成が信用度に関わる傭兵の類ではなく、然し安定して大きな収入を得ている。
後ろ盾とまで行かずとも、大きく関わっている何者かがいることは分かる。

「我々オルヴィエートやゴフェルンに特別な需要を持った相手なのでしょう。
 最も、それ以上は心当たりが多すぎる……といったところですが」

それ以上の推測はどうにも出来かねる。
何にせよ、あれらに何らかの対策を施さなければならないのは事実であった。
この場で、となれば、徹底的な撃滅以外の手段を持たなかった為に、介入はやはり好都合としか言いようがない。
当然ながら、鏖殺など望むはずもない。

「ともあれ、積荷が無事で良かった……。
 謝礼については、後ほどゴフェルンかオルヴィエートに請求して頂ければ」

少女にとって、これに載せられた積み荷は特別重視されるものであることは確かであった。
今は手持ちが心許ありませんので、と言葉を足して、区切る。
無論、大袈裟なまでの大金とまではいかないだろうが、必要経費と心ばかりの謝礼金程度は受け取れよう。
正式な手続きを踏むならば、の話だが。
65ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/24(木)20:52:38 ID:fTz [1/3回]
要塞都市内、商業区の一角に普段とは比べ物にならない程の人混みが形成されていた。
今宵は週に一度のバザールが開かれる日。収集された物資や周辺から取り寄せた珍味などが商店に並ぶため、普段配給しか受け取らない者もこの日だけは外出し露店を物色している。
そしてこの者もまた、慣れない人混みに揉まれながら露店を巡る、もとい巡らされている一人だった。

「次は……なに……?カル、カルダモン……?」

暇ならこっちの仕事を手伝ってくれ、と厨房の職員に捕まったが最後あれもこれもとお使いを頼まれ大荷物を抱えることになる。
今日の被害者は本来なら前線に立ち、マモノを一網打尽にすることが役目の戦闘員ファイアナイト、本名ノーマン・ムスペルだ。
彼は聞いたこともない香辛料や野菜の名が綴られたメモを半ば強制的に押しつけられ、バザールに放り出された。
順調とは言い難いものの求められた品は集められている。だが、それもいよいよ頓挫しかけていた。

「クミン……?コリアンダー……?なんだこれ……」

次々に襲い来る正体不明の品名。メモ帳から引き千切った小さな紙切れを凝視しながら、彼は人混みの隅で立ち尽くしていた。
66シルバーバレット ◆</b></b>00VQHnSkJLvb<b>[] 投稿日:20/09/24(木)21:57:28 ID:WKL [1/3回]
>>65
木を隠すなら森の中と言うように、雑踏の中だからこそ人は隠密が叶う。ましてやそれが一通り以上の戦闘訓練を積んだ者なら尚更。
人混みを縫うようにして足音も無く近付いたその人物は、気取られる事がなければ唐突に、不意を突くように肩に手を乗せようとするだろう。

「───よっ。どしたい、こんな所で置物になっちゃって」

近付いた影、旅用のバックパックを担いだままのフィールドエージェント兼戦闘員『シルバーバレット』は、少年が困惑の闇に惑っている事など露知らず、はにかんで背後から馴れ馴れしく声をかけようと。
着古し色褪せた衣類と物品は、砂塵に汚れた痕跡が未だ残り、彼が帰投したばかりという事を表す。
バザールに紛れるその姿は、彼を知らぬ者からすれば難民の一人と見られてもおかしくないもの。身勝手なあだ名を付けて近付くのは、ともすれば図々しささえ感じさせる。
相手、特に難しい年頃に見える人物がどのような反応を返すかは気にしていないらしい。煤に薄っすらと汚れた顔は、ただそれだけを待つ。

「いやー、バザールの時ぐらい帰らないとな。間に合って良かった。
 何か良い物あった、ノーちゃん? 久しぶりに汁物が食べたいんだよね俺」
67ベルント・ヴァイツエッカー◆</b></b>cy7Dnfdd96<b>[] 投稿日:20/09/24(木)22:17:46 ID:rPi [2/3回]
>>64

「オルヴィエート人なのはそりゃ見りゃ解るが、ケルヴィム(同盟支援)か。成程ね」

天使がハイランダー(天上人)に協力。何とも出来すぎな話だとも思えた。
が、そのような諧謔味は今は余計であろう。

聖堂騎士というエーテル時代前であれば前時代的と揶揄されていたかもしれぬ名乗りについても
ベルント自身は特にあれこれ邪推することはない。

致命的な災害が相次ぎ、世界は分断された。文明消失者やテクノバーバリアンも闊歩する有り様。
世界の価値観は独自色と独立性を強め、普遍的に思われてきた事柄はそうではなくなった。
コロニーによって在り方も文化も異なるなど、エーテル時代では当たり前の事象に過ぎない。

「賊ね。レイダー(襲撃者)でもバンディッツ(野盗)でもない。
 軍ではないなら雇われたマーク(傭兵)あたりに見えたがな」

と、言っても正規の軍人さんならそれこそ雇われ傭兵など総じて『賊』か。とも思えた。

「おっと、挨拶が遅れたな。失礼。レンジャー隊のベルント・チャレンジャーだ。
 ま、見ての通りの戦車乗りだな。さっきはたまたま上手くいってよかったよ」

ベルントが偽名で自己紹介すると共に、背後の戦車は両手を上げて存在をアピールした。
リモートによる演出でなければ随分と自己主張の激しい戦闘補助装置を積んでいるということになる。

「積み荷か。マークが狙った積み荷…いや、ゴフェルンならそれこそ可能性は幾らでも、か。
 しかし、聖堂騎士。それも最上位階級の印章持ちを護衛にか。ま、そこは深入りはしないでおこうか」

埒の無い事を考えるのは止めて現実的な話だ。つまりは報酬だ。
カネを得られる機会があるならば、そのつもりは無かったとしても飛びつくのは当然だ。
戦車はカネがかかるのだ。そして、レンジャーの給料は安い。生身で戦える新人類に比べコスパを考えなきゃならん。

「あー…んじゃ、オルヴィエートに請求させてもらうかな。認証コードはAMD19951225だ」

ここでゴフェルンを避けたのは離反兵という事とある種の拘り故だ。
68ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/24(木)22:25:02 ID:fTz [2/3回]
>>66
彼は本来マモノのような感覚と思考で戦ってきた者。知識や教養は欠けているが、戦闘経験だけは一級品だ。なにしろ、物心つく前から命のやり取りをしている。
背後から近づいてくる気配に気づき、警戒を強めながら触れられる寸前にこちらから振り返る。

「……シルバーバレット」

それが潜入したエデン構成員などではなく、見知った顔であることを認識すると警戒を緩める。

「こいつを買ってこいと言われた。だがどれがどれだかわからん」

シルバーバレットに見えるよう複数の品名が綴られた面を向ける。
そこに書かれているのはカルダモン、クミン、コリアンダー、クローブ、ターメリックなど。どれもカレーやサブジなどに使われる香辛料だ。
かつての流通が容易な世界であれば特別珍しいものではなかっただろう。だが、今の世界どんな資源も貴重。
特に生育地の限られる香辛料はバザールくらいでしか手に入れる機会はない。厨房の物好きが欲しがるのも無理はないだろう。
それはそれとして、彼に香辛料の違いがわかる筈はないのだった。
69シルバーバレット ◆</b></b>00VQHnSkJLvb<b>[] 投稿日:20/09/24(木)22:49:01 ID:WKL [2/3回]
>>68
「相変わらず勘は鋭いな。凄いゾ」

乗せようとした手を顔の側で立て、軽い挨拶へと移行。賞賛交じりに緩む警戒を見る顔は変わらず人懐こいような笑顔。
そのまま向けられたメモに顔を少し近付けて視線を向ければ、何やら一人で納得したように「ハイハイ」と小さく呟く。

「お使いか。イ~~~ネ買い物、暴れてばっかだと息が詰まっちゃうもんな。お釣り出たら何か好きな物買っちゃえ。
 ……それはそれとして、香辛料だなこりゃ。カリーでも作るのかな。 分かるよな、香辛料?」

嘗て海をわざわざ渡っていた頃の様に、今は些細な流通すらままならない時代だ。
特に野菜や家畜と違い、生産地の限られる品は配給などで出る事はまず無い。こういった場でなければ、手に入る事は無いと言えよう。

「当てもなく見て回るのは買い物の醍醐味だけど、探す物がどこにあるか目星でも分からなきゃそれは苦行に片足突っ込んでるぜ」

品書きから見て、依頼主は厨房の誰かだろうか。手が離せないのは同情するが、相応しい人選かは怪しいものだ。
形が残り、口にする事もある野菜ならまだしも、味付けなどに使われるような細かい香辛料ともなると知らない人は多い。彼も詳しいわけではないが。
特にその相手が戦闘一筋に生きてきた少年ならば、半ばで詰まるのも頷ける。そうでなくても難しいような注文なのだから。
素早く思考を終えてバックパックを担ぎ直すと、空いた片手の親指で人混み──賑わうバザールを指す。まるで断られるとは微塵も思っていないように。

「一人より二人、二人より沢山。 来な。手伝ってやるよ。俺も厨房の連中に飯たかりたいし」
70ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/24(木)23:13:54 ID:fTz [3/3回]
>>69
「カリー……そうか、これが香辛料なのか」

彼は香辛料と言う存在は知り得ていたが、具体的な外見や匂い、これと言った特徴の知識は有していなかった。
バザールは珍品の山だ。彼が知識を深める場所としても役に立つだろう。

「助かる。すぐに終わらせてしまおう」

シルバーバレットの提案を素直に飲む。自分一人では解決できない問題を無理矢理に進めたところで好転はしないと戦場で知っていた。
後について歩きながらバザールを行く。視界の端に摩訶不思議な品々が飛び込んでくるが、今優先すべきは別だ。

「シルバーバレット」
「他の国は、どんなところだった?」

不意に問いかける。この要塞都市ではないどこか、遥か彼方の国々ついての情報は常に不足している。
彼は特にそう言った外部の情報に疎い存在だ。ただ、なんとなくであっても興味が湧いてしまう。

/今日はここで凍結させていただいて良いでしょうか?
/次の返信は明日の21時頃になると思います
71ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/24(木)23:17:42 ID:mee [1/1回]
人の足で一昼夜。果てのあるなだらかな道程なれど、備えがなければ厳しい距離。
さて特別体力がある新人類でもなく、むしろ同年代と比べても圧倒的に脆弱な肉体の少女が。
長旅の知識も心構えも事前準備も疎かなままで出立して、終端に無事到達できるだろうか。

「ううっ…………」

答えは当然、否である。それが燦然と輝く世の摂理、脆く儚い無情の現実。
生命の掠れた荒野を越え、緑の絨毯が示す街道を辿り、地を穿つ樹木が点々と立つ草原へ。
細かく休憩を取りつつ、誤魔化しに大半を委ねた旅路はそこで限界を迎えつつあった。

「――――お腹すいた……」

ペース配分を考えず、そもそも推定時間に合わせて食料を調達しておかなかった時点で、既に定められていた末路。
手持ちは尽き、そこらでさざめく自然の恵みから調達できる経験も知識も発想もない。
できることと言えば、ただそこに居れば食事が与えられる箱庭では知ることのなかった耐え難い空腹に、顔を顰めてぐずるだけ。

「うううぅぅぅうぅぅ…………!!」

終いには道端で微笑む木の幹に額を擦り付けて、腹の虫の悲鳴と一緒に駄々っ子めいて唸る始末。
傍からすれば、変に裂けた黒い外套をケープのように纏った橙へ滑る赤毛の少女が、物言わぬ草木に当たり散らしているようにしか見えない。
有り体に言ってしまえば、追い詰められたあまり奇行に走っていた。
72ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/24(木)23:30:41 ID:aNo [2/2回]
>>67
「では、改めてチャレンジャー様。先程はありがとうございました。
 おかげで手傷を負うこと無く解決に至ることが出来ました」

当然ながら、名乗られた名を偽名と疑うことも無ければ、本名であると確信するはずもない。
ただ、告げられた名を再び連ねて礼を放ったことに、純粋な謝意を示す以外の理由もないものだった。

「おや、積み荷が気になりますか。これは確かに価値ある物です。
 何を、どれだけ簒奪されようとも、一度取り込めば絶対に奪われることの無いもの……」

積荷についての問い掛けに、少女は何らと含みをもたせることもなければ、一欠片の表情の揺らぎも見せることはない。
自分の行動に対して、絶対的な自信があり、そこに一切の……どう踏み入られても、淀むものなど無いからこそ。
自ら少女は、謳うように語り出すだろう。それは魔法のようであって、人が皆。持ち物も、持たぬ物も、忘れてしまうものだ。

「本、とりわけ教科書の類が多くを占めます。当然、金銭的な価値など、販売価格以上はありません。
 ですが、素晴らしいものです。どんな鉱石の輝きにも劣らず、煌めく」

それは、ゴフェルンに保護された者達……その中で、教育を必要とするものは、老若男女と存在する。
知識とは尊ばれるものであり、それには単純な金銭に換算できないものがある。如何な機密よりも、少女にとっては大切なものだ。
希少価値など無い。少なくとも、彼ら強盗が必要と思うような代物ではサラサラ無いのは、確かだった。

「では、報酬については今しばらく。本日中には手続きを済ませておきましょう。
 私はこれにて失礼致します。それでは――――ラファ、行きますよ」

『うわっ、普通に乗ってくださいって!!!』

最後に手短に別れの挨拶を済ませると、輸送車両の天井から、開いた窓へと向けてそのままその身を滑り込ませた。
器用に翼を折り畳んで座席に座ると、ひらひらと手と顔を乗り出して、最後の別れの区切りとした。
方向は、当然ながらゴフェルンの方向へ、他愛の無い荷物を乗せて。

/それでは、こちらからはこれで〆としますね
/絡みありがとうございました~!
73シルバーバレット ◆</b></b>00VQHnSkJLvb<b>[] 投稿日:20/09/24(木)23:31:10 ID:WKL [3/3回]
>>70
「ま、俺も本物を見た事はあんま無いんだけど」

竦める肩は、彼ほど疎くもなく、さりとて好奇心を刺激されるほど純真ではないという事。
幾つになっても知識を得る事は出来るが、それに心動かされるかは別の話なのだ。願わくば、この少年はこうならない事を。

「どこも変わらないな。人は死ぬし、『エデン』の連中も好き勝手やりなさる。
 支援を取り付けたり出来るだけはしているが、状況が良くなってるとは言えないな」

顔を向けずに投げ返す言葉は、変わる事のない混沌の様相。軽い調子なのは、それが日常となってしまっているから。
百年前の小隕石から全てが狂った。当時を知るための情報や口伝の昔話はあるが、ありきたりな戦争の記録などと違い学べる事は少ない。
世界とは悲劇なのだ。今すぐに全てが吹き飛んで終わるという事はないかもしれないが、首を絞める真綿は既に動脈の動きを塞ぎつつある。

「───だが、細かい所は違うぞ。世界は広いからな。
 亜熱帯の草花、大陸中央のデカい砂漠、沿岸の潮風……。綺麗な物はまだまだある」

はたと脚が止まる。クルリと身を翻す。ニヤリと笑う口元から飛び出す言葉は、幾許かの熱を帯びる。
真っ直ぐにファイアナイトを指す指は、先程挙げたのが全てではないと念押しするため。彼ら次世代に位置するであろう者達にも、まだ残されている物があると伝えるため。
世界とは悲劇だ。だが、いい所はまだ残されているはずだと。

/了解です!ひとまずお疲れ様でした!
74 : ベルント・ヴァイツエッカー◆</b></b>cy7Dnfdd96<b>[] 投稿日:20/09/24(木)23:42:07 ID:rPi [3/3回]
>>72

「教科書か…いや、マークが狙った理由はわからんが、重要なのは納得した」

ベルントは皮肉なくそう答えた。WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)も麻痺が拡大するばかりな昨今。
歴史や文化、知識という本来は人類が後世に繋いでゆかねばならないミームもまた、摩耗あるいは迷信にとって代わられつつある。

教科書の重要性は厭世的な面があるベルントとて重々承知していた。

「ああ、報酬の相場はハンターあたりに準拠してくれ。レンジャーの給料じゃあなくてな」

そう言いながら、やたらスタイリッシュな乗り方をする少女を見送った。
『どこにでも英雄もクソ野郎もいる』分かってはいるはずだが、拘ってしまう自分の器量の狭さに、
やや自嘲的に嘆息をつきながら、ベルントは帰路を急ぐのだった。

//ありがとうございましたー!
75ユーリヤ ◆</b></b>SNYu.akPHA<b>[] 投稿日:20/09/24(木)23:48:07 ID:pNj [1/1回]
>>71
そんな少女の横を装甲車が通り過ぎようとしていく。
簡易的な迷彩の施されたそれは、何に襲われても不思議ではないこの時代においては至極一般的なモノだ。
余裕のある者のほうが少ないこの時代、倒れている人間など不思議でもなんでもないしわざわざ気にかける事もない。

「……少し、車を止めて」

そんな中、車の中でもフードを目深に被った女性が停車と資材の持ち出しを命じたのは酔狂でも無ければ、単なる慈善精神でもない。

「こんな所で見つけるだなんて。
 珍しい事もあったものね……」

携帯食料の入った袋を片手に車から出て来る白いコートの女性。
そのコートには金糸で刺繍が為されており、エデンに居たものが見れば思い出す事もあるだろうか。

「……久しぶり、といっても私の事なんて覚えていないでしょうけど」

赤毛の少女を見つめる視線はどこか虚ろなようにも見え、しかし眉根を寄せる様から何らかの感情は読み取れるだろう。
それが憐れみか怒りかは、本人すら知る由もない。
76ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/25(金)00:22:44 ID:9LB [1/4回]
>>75
空っぽの胃が何かを入れさせろと騒ぐのが、こんなにも苦しいことだと初めて知った。
煩悶に心が追いつかず、身体が勝手に発散を求めて駆り立てる只中で。
近づきつつある排気音を捉えれば、焦燥に満ちた灰色の視線がありふれた、それでいて少女にとってはまだ新鮮な装甲車を追いかけて。

「…………?」

それが目の前で止まることが、滅多にない出来事であることくらいは分かる。
空腹を押し殺し、息を詰めて。大樹に今度は背を預け、すっかり縮こまって車の動向を観察し。

「――――っ!!」

新緑を育む日光の下に晒した姿を認識した瞬間。日陰でも見て取れる程に血の気が失せ、ただでさえ色素の薄い肌が青白を呈した。
ひゅうと息を飲んだ音が風に乗って運ばれる。背中を丸めて自分の身体を抱きしめ、華奢な肩が怯懦に震えた。
見間違えるはずがなかった。救済を謳い血を浴びる『神官』を、求められるがままに癒したことは数知れず。
その中でも特に若い彼女は良く印象に残る。そしてここで接触する理由なんて、少女には一つしか思い浮かばない。

「や……いや!来ないで……!」
「わたしは……あそこにはもう、戻りたくない……!」

かろうじて絞り出した拒絶の声は葉擦れにも掻き消されそうな程にか弱く、逃げようにも足は竦んで動けない。
言葉だけで武装するのは、黒い布の下に三対の飛べない翼を隠す、ほんの少し前まで同じ信仰に身を置いていた小さな癒し手。
それが有事への抵抗手段、即ち力を持ち得ないことは、彼女も良くまた知るところであるだろう。
77シュトラール◆</b></b>hHMogxWV7M<b>[] 投稿日:20/09/25(金)00:38:47 ID:9od [1/2回]
───演習区画・統合訓練施設

過酷な前線に立つゴフェルン職員には、常に高度な作戦遂行能力が要求される。
その為の訓練設備が要塞都市には区画単位で用意されており、個人単位の基礎修練から中隊規模の作戦演習に至るまで、多くがこの中で完結する。

フロアでは予備隊の訓練生が中心となって、マーシャルアーツを用いた格闘訓練を行なっている最中。
今日、彼等の教官役を勤めているのは、トレーニングウェアに身を包んだ少女、医療部門及び研究部門のスタッフであるシュトラールだった。

「反応が遅いです。目で追ってから動いていては、何時迄も当てられませんよ?」

普段は屋内に引き篭もり気味なシュトラールであるが、訓練生相手の組手において教官として充分な役目を果たしていた。
相対する訓練生は必死に組みつこうとするが、シュトラールは的確にこれを捌いて、一瞬たりとも触れることを許さない。
伸ばしてきた腕は軽く叩いて、足払いはステップで回避して、必死の形相の訓練生とは対照的にシュトラールは余裕綽綽。
やがて、疲労から訓練生の動作が一瞬だけ鈍り───次の瞬間にはシュトラールの放った足払いにより、訓練生は床を転がっていた。

「……今日は、ここまでにしましょうか。皆さん、お疲れ様でした」

解散した訓練生達を見送ると、シュトラールは緊張が解けたように大きく息を吐いた。
シュトラールの本業は医療及び研究である。最近は前線に立つ機会も少なく、訓練の教官役を申し出たのもそうした勘が少しでも鈍らないようにする為だった。
とはいえ、マーシャルアーツを用いた格闘訓練は不要とする声もある。新人類には強力な能力があるのに、それを使わない戦闘訓練に意味があるのか。
それも一理ある、とシュトラールは思う。かといつまてその意見が全て正しいとも思ってないので、こうして教官役を勤めている訳なのだが。

「もう少しだけ、身体を動かしていきましょうか」

一息つけば軽やかに立ち上がる。ポニーテールに結ったシルバーヘアがぴょんと跳ねた。


//返信が返せるようになるのは明日夜以降になりますが、置きで絡み待ちを
78ユーリヤ ◆</b></b>SNYu.akPHA<b>[] 投稿日:20/09/25(金)00:40:36 ID:xJH [1/3回]
>>76

恐怖を叫び浅い息をつく赤毛の少女の言葉通りに足を止める。
正直なところ他人の空似も疑った。
だがこの怯えようならば間違いはないだろう。

「戻りたくはないのね」

武器も構えていないし害意も抱いていない。
なんなら手に持つ袋が邪魔なくらい、だとしても目の前の少女はこちらがその気になればこの状態からでも殺しうる事を理解してしまっているだろう。
その力、それに装甲車の中の戦力を用いればこの癒し手を確保し無理矢理にでも働かせる事は容易い。

「……正直な話をしていい?」

そう言って後ろを見やる。
装甲車から視線こそ注がれているが、音までは拾われていない事を確認すれば、ため息を一つ吐いた。

「エデンは貴女を必要としている、それは間違いない。
 だけど、私はエデンの事なんてどうでもいい……」

だから、逃してやらない事もないとでも言う口ぶりで相手に揺さぶりをかけていく。
エデンの役職者にありながらその理念の全てに賛同していないというのは事実だ。

「どうして逃げ出したのか、それを知りたい」

足を止めた地点から手を差し出すのはあくまでも手を取る為の動作。
そこに救いや慈悲といったエデンが掲げそうな大層な理想はなく、単に飢える人間を見過ごすのも寝覚めが悪いという程度の人間臭い感情があった。
79 : ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/25(金)00:52:54 ID:yvY [1/1回]
一台の輸送車両は、移動要塞都市内を順に回り続けていた。
その内側に乗った大量の本を、都市内の各所に配って回り、気付けばすっかりと日が落ちきってしまった時間帯。
今からだと少しばかり遅い夕食になってしまう夜に、ヘッドライトの灯りで居住区を照らしながら走っていく。

『次で最後でしたよねー……うぁ!?』

「んっ……これは……バーストでしょうか?」

破裂音とともに停止する輸送車両。
その車体が斜めに、勢いよく沈み込んでいるのが、車内にいる二人のオルヴィエート人にも分かるほど。
停車とともにエンジンが停止、すぐに扉が開いて、二人合わせてタイヤを見る……原因はすぐに目についた。

『あー、やっぱり前輪がやられちゃいましたね……さっきの襲撃、無傷じゃなかったか……。
 取り敢えず、すぐに交換呼びます。スペアもありますけど、応急用だし』

「そうですね……タイヤはそちらでいいとして、荷物は……」

輸送車両の荷台を開く。箱詰めされた荷物自体は、特に乱れている様子はない。
残るのは大きなダンボールに詰め込まれたものが三つ程度。最後の最後に残された荷物だ、数は多くはない。
一度荷台から離れる。暗闇の中にも、二人分の光輪は、闇の中でよく輝いている。
連絡のために、一旦トラックの傍から離れていく女性を横目で見ながら、少女は荷台へと視線をやった

「……私が運んでいってしまいましょうか! 大した量でもありませんし……」

ヘイルヴ・セデス・サピエンティアエにとっては、重量も、それから距離も、大した物ではない。
いっそこの程度ならば、自分の手で運んでしまうのもいいだろう。そうしてみようか。

都市居住区の一画には、輸送車両が一つ、立ち往生し。その傍らには、翼と光輪を持った二人が、やはり困った様子で立っているのだった。
80ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/25(金)01:19:43 ID:9LB [2/4回]
>>78
御役目を放棄して逃げ出したことに、負い目が皆無と言えば嘘になる。
象徴として有れかしと養育された朝と夜を裏切った罪は、いつか花に水を与える如く罰せられるだろうと。
物心ついた頃から神の存在を説かれていた少女には、そう信じる心が一片だけあった。

「――――え……?」
「……それは…………」

だから彼女の意思が、裁きの光槍とは異なる方を向いていると察して、恐怖の芯が呆気にとられて空洞を拵えた。
ぎゅっと瞑っていた瞼をおそるおそる持ち上げる。捻れた宗教に身を置きながら、信仰を無為と吐き捨てる言葉が信じられなくて。
ノイズから徹底的に遠ざけられていた少女は、そんな人間がエデンに居るとは夢にも思わず。恐怖を上回った困惑と混乱に、呆けた頭が答えを探して口を噤んだ。

「…………怖かったから」
「どこかで傷ついて、せっかく治しても……それでもまた、何度も何度も怪我をして帰ってくる人達が、理解できなくて……」
「神の御業とか、世界の救済とか……そのために、あんなに痛い思いをしても平気な人達が、怖かった」

外界から隔絶され、白翼を御使と重ね合わされ、能力を捧げ続けた少女は純粋で憐れなまでに無知だった。
彼らが身を削ってまで戦う理由も相手も、救うべく世界が今どんな有様なのかすら。ただ漠然とした理念でしか理解が及んでいなかった。
しかし肉体の苦痛だけは分かるからこそ、その愚昧なまてまに強固な意思が、得体の知れない気味悪いものにしか映らなかったのだ。
差し伸べられた手に視線を落とし、束の間の沈黙、逡巡。取ろうと伸ばした腕が蟠った不安に寸前で止まった。
81ユーリヤ ◆</b></b>SNYu.akPHA<b>[] 投稿日:20/09/25(金)01:37:41 ID:xJH [2/3回]
>>80

「普段は神官としての立場があるけれど、私は神なんて存在の事を欠片も信じていない。
 だから、貴女の事を天使などと呼ぶつもりもない──ファラ」

それは紛れもない事実。
神などという存在が仮にいたとすれば、自分の境遇を信じられはしない。
これも生まれながらにエデンではないが故に得られた視点だろうか、と感情を綯い交ぜにするファラを見やる。

「……よかった、ゴフェルンに誑かされたのではなくて」

その、聞こえるかどうかも怪しいような呟きと共に雰囲気が一気に軟化する。
まるで普通の人間が友人……とまでは言わずとも、話の合う人間を目の前にするような態度。
それはエデンにおいて私を知る人間のうち殆どは見た事がないものだろう。

「何が正しくて何が間違っているのか、私は断じる事の出来る立場にない。
 ただ……狂信を異常と認められる、異常から逃避出来る。
 エデンの神官としての立場から言えば最早悪徳……だけどそんなの"普通"の事だと私は思うわ」

手を伸ばし、それでも戸惑うのもファラの境遇を思えば普通の事だろう。
なれば、と携帯食料や水の入った袋を地面に置いた上で二、三歩後ずさる。
これらの動作が彼女を殺傷し得る状況を変える事はない、だが確かな意思表示にはなったはずだ。
82ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/25(金)02:14:26 ID:9LB [3/4回]
>>81
信じられないものを見る目つき、しかしそれは嫌悪と排斥を内包した悪感情に依るものではなく。
全く未知の価値観、信心に溺れず信仰に属する在り方への驚愕に、拓けた世界を展望する薄鈍の双眸。
ついでにその喫驚には肌で感じ取った、かつて見たことのない彼女の柔らかな雰囲気も僅かながら含まれているのは言わずもがな。
幸か不幸か、頭の整理をつけている間の幽けき呟きは聞き取れず、一人首を傾げるに留めた。

「普通……そう、なのかな。わたしには、良く分からない」
「……だってあそこでは、傷ついてでも役目を果たすのが普通だったでしょ。わたしも、あなたも」

平凡を語る定規とはどれか、平常を騙る常識は何か。
それすらも、少女にとっては鳥籠の中。外にも条理はあると知っても、ただそれだけ。
浮世に触れたばかりの少女には、今や万人の知る世界情勢すら大部分が欠如している。それでも、今分かることが一つあるとするなら。
彼女から目を逸らさず、けれどゆっくりと拾い上げた救いの袋は、本来易々と他人に与えられる代物ではないということだ。
開いた距離を縮めることはないが、回収するために踏み出した足を巻き戻しもしない。幾分か恐怖の薄らいだ、代わりに心底不思議そうに唇が問いを紡いだ。

「…………ユーリヤ。わたしからも、聞いていいかな」
「あなたはどうして……連れて行こうとしないで、ここまでしてくれるの?」
83ユーリヤ ◆</b></b>SNYu.akPHA<b>[] 投稿日:20/09/25(金)02:37:09 ID:xJH [3/3回]
>>82

「……そうね、貴女にとってはそうだった。
 でも私は違う、違うのよ」

普通の定義とは何か。
語ればキリはないだろうが、少なくともファラに押し付けられた普通の私が持っていた普通は違った。
だから、言う必要がある。

「私にとっての"普通"は、失われて久しい。
 だけど……それをほんの少し取り戻せた、貴女にとっては未知のこの状況のおかげで。
 ええ、久々に諦観と憎しみ以外の感情を抱けた……
 神官としてではなく、ただのユーリヤとして……という事なら、納得出来るかしら」

自分語りをするつもりはあまりないし、こんな事を言ったのは恐らくファラが初めてだ。
というより、エデンにおいては性格や言葉を作っている節があるので当然だが。

「これから生き延びたいのであればゴフェルンを頼ればいい。
 あそこはエデンだけでなく私の敵、だけど所謂正義の味方。
 貴女のような人なら受け入れてくれるでしょうね」

野晒しになっていればそのうち心無い略奪者やエモノ、あるいはエデンの人間に脅かされるだろう。
最悪エデンならば生存は保証される、しかしそれを生活と呼べるのか。
一般の信者であればまだいい、彼女のような能力を酷使せざるを得ないのがエデンだ。
ならば、ゴフェルンを頼るのが彼女の為になる、という考えに基づき案内を行う。
彼女にとって私のゴフェルンに対する憎しみは関係ないのだから。

そうやりとりをしているうちに、装甲車から運転手が降りてくる。
余裕を持って出てきたはずの時間がもう逼迫していると告げに来たのだ。

「──いえ、他人の空似でしたよ。
 見え隠れしている翼だってオルヴィエートの生まれにはよくあるものですしね。
 ……では、貴女の旅路に神の加護がありますよう……」

運転手からファラの正体を問われ、平然と嘘を並べ立てれば慣れた手つきで祈りを捧げる。
他人から荘厳などとも言われるその動作に自分で信仰など感じないが、いつもと違って無事を祈る事自体に嘘はない。
装甲車へ向かう途中、一度だけ振り返れば彼女へこっそりと手を振る。
それは神官としてではなく、1人の人間としての別れの挨拶だった。

//そろそろ限界なのでここで〆とさせてください、ロールありがとうございました!
84 : ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/25(金)12:49:46 ID:9LB [4/4回]
>>83
四角い窓の外に出て、少女の『普通』は瓦解した。
今はまだ、色とりどりの世界の表層しか見ていない。それでも人の生き方は、何が当たり前かは千差万別であると。
少しずつ学び始めてきたからこそ、彼女の弁も納得はしきれないが理解はできた。少し考え込む素振りを見せて、緑風に促されるように小さく頷いた。
休む間もなく御使として扱われ、立場と私情をずっと切り離せずにいた少女にとっては、やはり信じられない思いを見開いた眼から隠せずにいたけれど。

「ゴフェルン、って……でも……」
「…………少し、考えてみる」

一度は手酷く突っ撥ねてしまった名前。無理矢理連れ戻そうとしないどころか、水と食料まで寄越した彼女が今更嘘を織り交ぜるとは、少女には疑うのは難しかったが。
それでもどうしたって、見ず知らずの胡乱な組織に対する不安や恐怖は拭えやしない。
たっぷりと間を取って、ようやく呟いた言葉は消極的だったが最大限の妥協なのだろう。

「――――!!」
「……主の恩恵、神の愛があらんことを」

車の中から降りてきた新手に身を強張らせる。彼女はああ言ったが、それがあくまで個人単位だと分かっていた。
だからなんでもないように虚構を紡ぎ、先を促す様子を見て安堵の吐息が若葉を擽る。
ごく簡略化された祝祷は高峻たる祈りにも引けを取らず、在りし日の天使が施す祈りがそこにはあった。
車内からの視線を受け、大っぴらに手を振り返すことはできなかったが。赤い唇は確かに音もなく「ありがとう」と囀った。

//最後の最後で寝落ち申し訳ありません、ありがとうございました!
85ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/25(金)21:31:05 ID:MN7 [1/2回]
>>73
「そうか」

シルバーバレットの言葉に乾いた答えを返す。今や世界は滅びへ向かって着実に歩みを進めており、渦巻く混沌の戦火は彼ですら既知の事実。
残念だとか、悲しいだとか、そんな繊細な情動が湧き起こる筈も無い。生まれた時からずっとこんな世界なのだから。

「……?」
「綺麗なものか……本物を見てみたいような、気がする」

世界に期待してはいない。だが、シルバーバレットが口にした光景を頭の中で想像すると、微かな興味が湧いた。
ファイアナイトの中にある原点の景色。吹雪と山、雪と氷、動く者は無く、暖かい者もいない。
世界の果てまで、遥か彼方まで、永遠に続くと思っていた。けれど、それは間違いだった。
それを知ることが出来たなら、その後はどうでもいいとすら思えた。

シルバーバレットの助力を受けて頼まれた品物を一通り揃え、後は無事に持ち帰るのみとなった。

「シルバーバレット」
「腹が減ってるなら、食堂の奴にカリーとやらを作らせに行こう」
「どうだろう?」

この珍奇な品々でどんな食料を作り出すのか。世界中の景色と同様に彼にとっての大きな謎の一つだった。
86シルバーバレット ◆</b></b>00VQHnSkJLvb<b>[] 投稿日:20/09/25(金)21:53:35 ID:HbD [1/2回]
>>85
「でしょ?生まれたからには良い物も見とかないとな。 俺みたいにそこら中歩き回るのは無理でも、いつかその辺りに行けるといいな。
 この街は飛べるのが取り柄の一つなんだ。何かこう…いい感じに一段落付いたらさ、西の方にでも出してもらおうや。色々あるぜ」

百年前の隕石以降に見られるようになったのは、新人類の台頭や異常気象、動植物の危険な変異だけではない。ファイアナイトのような反応だ。
元々あった物が無くなったのなら人は悲しみ、或いは怒り、感情の炎を滾らせるだろう。だが最初から無いこの環境がスタンダードとなった今は?
ゴフェフンに属しているシルバーバレットは、一応この要塞都市に戻りさえすれば食いっぱぐれる事はそうは無い。謂わば持つ者に分類されるのだろう。
だからこそ、世界を見舞うこの環境が酷く過酷で凄惨で救いようの無いものだと分かるが、そこで生きてきた者──保護の手の届かない少年少女は、己達の過酷な運命こそが普通なのだろう。
美しい物、綺麗な物、素晴らしい物……。生きていれば目に付くはずのそれらも、今となっては世界の比率を満たす僅かな要素に過ぎず、また求めるには余裕が無さ過ぎる。

それとも、諦観のままに心を躍らせる事もなく、植物の様に生きるのが正解なのだろうか。
……シルバーバレットはそうは思わない。自己満足の偽善だとしても、だからこそ伝えたがる。世界の有様と、そこに息吹く希望の欠片を。

「だからお前さんも、それまでに少しは表情筋緩めて、もっと欲張りになっときな。スマイルスマイル」

「えーっと今ので最後だ。キャラバン様々だな」
「いいね!カリーなんて久しぶりだ。お前さんもお駄賃代わりに遠慮せず食っちゃえ。
 もし食った事無いんなら、味は保証するぜ。 善は急げだ、ハリアップ」

頼まれていた品は全て集まった。おこぼれに預かるのも悪くはない。彼にとっては、その提案こそが主な目的だったが。
軽快なサムズアップと笑顔で返す様子は、成人をとうに終えているにしてはどこか子供っぽく、期待に歩は早まるのであった。

「そうだ、お土産もあるんだよ。話だけじゃなく。 それも後でやるから楽しみにな」
87ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/25(金)22:35:36 ID:MN7 [2/2回]
>>86
シルバーバレットと共に食堂へと向かう。自身にお使いを押しつけた職員に品物を押しつけ、その報酬としてカレーの制作を依頼した。
厨房職員は肯定とも否定とも取れない苦笑いを見せたが、すぐに厨房へと戻り調理を始めた。
食堂に様々なスパイスが入り混じった食欲をそそる香りが漂い始め、二人の下に平皿に盛られたカレーが届けられる。

「スマイルか……作り方を学んでおく」

そして、シルバーバレットの土産話を聞きながら人生で初めてのカレーを口にする。
見知らぬ国の話、聞いたことのない伝承、その全てが彼の行く末を示す導きとなるだろう。

「このカリーと言うやつ……」
「舌が痺れる感覚がする。けど美味いな」

口に含む度に広がる辛味と酸味。白米と良く合うそれは次の一口を誘う。
遅めの昼食となったが、その一時は彼にとって貴重な時間となっただろう。

/この辺りで〆になります。お疲れ様でした!
88 : シルバーバレット ◆</b></b>00VQHnSkJLvb<b>[] 投稿日:20/09/25(金)22:43:37 ID:HbD [2/2回]
>>87
/ありがとうございました!お疲れ様です!
89 : シュトラール◆</b></b>hHMogxWV7M<b>[] 投稿日:20/09/25(金)23:19:59 ID:9od [2/2回]
>>77
//再利用ですが、再募集…
90ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/26(土)16:24:35 ID:UIH [1/1回]
>>77
「シュトラール」

銀髪の少女に声をかけたのは以前食事を共にした少年、ノーマンだった。
彼は普段の白いウィンドブレーカーを脱ぎ、黒いタンクトップとカーゴパンツだけで訓練に臨んでいた。
彼が試合を行っていた一角では多数の訓練生が息も絶え絶えな状態で床に転がり、壁にもたれかかっている一方、彼に疲労の色は見えない。

「訓練なら付き合う。向こうは全然ダメだ」

訓練生達へのダメ出しを口にするが、悪意があってのものではない。事実を事実としてありのままに伝えてしまうために、彼の言葉は時として棘のあるものとなる。
彼が訓練に手ごたえを感じていないのも事実であり、訓練生達より腕の立つ者と試合をしたいと考えていた。
そこにシュトラールの姿が目に入り、好都合と考え声をかけた訳だ。

「シュトラールはなんでここに?」
「医療部門、だったよな?」

手足の筋肉を伸ばしウォーミングアップを行いつつ問いかける。彼は前線に立つエージェントのため日頃から訓練は欠かさない。
だが、シュトラールはデスクワークを主にするエージェントだ。本来ならば戦闘技術は必要無い筈。
それでも鍛錬を積むのは、何か深い理由があるのではないかと彼なりに類推してみたのだ。

/良ければ!
91シュトラール◆</b></b>hHMogxWV7M<b>[] 投稿日:20/09/27(日)00:01:59 ID:96a [1/2回]
>>90

「ノーマンさん、お疲れ様です」

見知った顔を見つければ、シュトラールは微笑んで挨拶に応じる。大規模な訓練施設なので、こうして利用中に知り合いと遭遇することは少なくない。
頬を伝う汗をタオルで拭きながら歩み寄る姿に、疲労の気配は見当たらない。教導を任されるだけの身体能力は確かにあった。
医療、研究職であるにも関わらず。知らぬ者からしてみれば、確かに違和感を抱いて当然だろう。

「時々、こうして教育係のお手伝いをしているんです
 これでも以前は医療オペレーターとして、何度も実践を経験してきたんですよ?」

医療スタッフだからといって現場に立つ機会がゼロとは限らない。生傷の絶えない戦場では、緊急治療の有無が生死を分つ場面など幾つも存在する。
常在戦場の心得と呼べるほど大したものでもないが、それでも何時現場に戻っても十全に動けるように、最低限のコンディションは維持を続けていた。
理由としては、それだけのシンプルなもの。強いて言うならば、シュトラールの生真面目さがよく現れているというべきか。

「とはいえ、私が受け持っているのは基礎訓練のみです
 能力の行使を前提としたトレーニングは、私にはちょっと荷が重いですから」

戦場で生死を分つ要素は多岐に渡るが、その中でも大きなウェイトを占めるのが新人類としての特殊能力、その練度。
幾ら身体能力で差があったとしても、特殊能力はそのハンデを容易く覆す。そしてその分野における指導はシュトラールの管轄外。

特殊能力をどう扱うかは、実戦に立ち続けてる者が教導すべきであって、それは他の訓練に関しても同じことが言えるだろう。
シュトラールが教えられるのは飽くまで基礎中の基礎。やはり踏み込んだ内容に関しては現役の戦闘員に大きく劣るのは否定できない。

「お相手、いいですよ。とはいえノーマンさんが相手だと、私の方が教わる立場になりそうですが……
 では、どうしましょうか。マーシャルアーツ形式でも、実戦形式でも。ノーマンさんの希望する通りに」

普段は医療室に引き篭もってる人間と、実戦を潜り抜けているエージェントでは、力の差は明白だ。
それでも彼にとっての訓練と呼べる程度には戦える自負はあるのか、シュトラールは望みの形式を尋ねるのだった。


/遅くなりました、よろしくお願いします
92ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/27(日)11:03:32 ID:Gb5 [1/5回]
歴史の転換点に選ばれることもなく、要衝として注目されているでもない、ありふれた小国で。
新人類への居心地が悪い視線こそあれど、比較的差別と蔑視の緩い地域。人ならざる部位を晒して歩く者も見受けられるにも拘らず。

「――――だから、場所だけ教えてくれればいいって……」

真新しい黒の外套で小さな体躯をすっぽりと覆い、被ったフードから毛先を藤黄色に浸した赤毛を零して。
背中に少しばかり不自然な膨らみを伴った少女は、苛立ちと不安の綯い交ぜになった声で辞意を口遊み。

『お嬢さんみたいなちっこい子供が一人旅なんて大変だろ?途中まで乗せてやるって言ってるじゃん』

対する無精髭の男が粗野に笑えば、同調した笑い声が疎らに響く。少女を包囲するように立つ、二人の男からだった。
その背後には装甲の張られた大型トラックが二台。表通りから外れた路地の奥、開けた場所に鎮座するその金属体の周りにも何人かの男達。
明らかに異様、如何わしい空気の中で、唯一異質な少女が遂に踵を返そうとして。

「もういい……他の人に聞くから…………」
「……なに……?ねえ……いや、離して……!」

自分よりずっと背の高い人の壁に阻まれて、その場で数歩足踏みをしていられたのも僅かな時間。
いいからいいから、と腕を掴まれ引っ張られ。ようやく異常と身の危険を認識した甲高い声が虚しく響いた。
93ブリッツスイーパー◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[] 投稿日:20/09/27(日)12:40:58 ID:LYU [1/7回]
どこの都市に属しているわけでもない、およそもう住んでいる者もいない忘れられた土地にて。
複数人のエデンの構成員とともに彼女はいた。連れているのは最小限の戦力であり戦闘目的ではないと見える。
そんな彼女たちと相対するのは、世間一般で言われる"戦争屋"と呼ばれる者たちの一人。武器の密売から何まで戦争に繋がることをやることで金を稼いでるような奴らだ。その大半は戦争を、人の命を何とも思ってはいない者がほとんど。

「――――約束の金だ、受け取れ」

構成員の一人から袋を受け取り戦争屋へと放り投げる。中にはおよそ少なくはない額の金銭が入っており、これから受け取るものの代価となる。
戦争屋の背後には大型のトラックがあり、その中には武器や食料といったものが積んである。
エデンは所詮正規の集まりではない、食糧や武器は自分たちで調達せねばならず、正規のルートでそれらを手に入れることはできない。
だからこそ彼等のような者たちの力を借りる必要がある。

『毎度あり…俺にとっちゃ相手が新人類だろうがテロリストだろうが相手すりゃ誰だってお客様だからな、次もご贔屓に頼むぜ?』

今回のこの取引は当然出来る限り隠密に行われたものだ。
だが戦争屋というものは敵も多い、もしかすればどこかでこの情報が漏れ出た可能性があるかもしれない。

//ゴフェルン所属でもエデン所属でも無所属でも誰でも大丈夫ですっ!
94ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/27(日)13:38:03 ID:U08 [1/1回]
>>91
「そうなんだ」

熟練した職員が訓練生の共感を務めることは無理のある話ではない。例えそれが支援を主にする職員であったとしても。
戦場から離れて鍛錬を止める職員も少なくはないが、今なお鍛え続けているのは彼女の勤労意識の高さによるものか。

「じゃあ、まずは組み手しよう」
「シュトラールのスキル、知らないから」

彼の持つ能力は純粋に戦闘のみを意識した力だ。訓練施設で使用すれば最悪施設を破壊しかねないことは教え込まれていた。
そして、彼はシュトラールの能力を知り得ていない。訓練においては相手の能力を意識した上で進行するのが常だ。
以上の理由をもって彼は組み手形式を選択した。〝まず〟と言うように、いつまでも組み手ではないかもしれないが。

「よし……」
「さぁ、来い」

ウォーミングアップを終え、いよいよ模擬戦が開始する。大抵の訓練生は型にはまった構えで攻撃の機会を伺うことだろう。
だが、彼はこれと言った構えを見せることなく足を肩幅に開いて仁王立ちしている。視線だけはシュトラールとその周囲の空間を見つめ、他は完全な脱力。
相手を侮っている訳ではない。彼なりの礼儀として最も得意とする型で迎え撃つつもりだ。
95ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/27(日)14:20:02 ID:AFl [1/3回]
>>92
「失礼――――多少、他人よりも、悲鳴に耳聡いものでして」

路地裏の奥に、そこに亀裂を入れるかのように、堂々と声が響くことだろう。
その声の持ち主は、少女であった。金糸の刺繍が入った、軍用のブーツやコートを身に着け、亜麻色の髪を後ろで一つに纏めている。
然しその背格好よりもよく目立つのが、頭上に浮かぶ光の輪と、堂々と隠すことすらもしない、二対の純白の翼であった。
その正体が、素性が何であるのかも、果たして一体何者であるかも、正にこの場に明け広げたまま。
一切の躊躇なく、その中央を歩み抜いていく。

「大の大人が寄ってたかって、少女一人を虐げるなど、全く以て嘆かわしいことです。
 貴方達の事情を知りません、問いません、ですが……」

そして、少女の手を掴んでいるその手首に向けて、ヘールの右の手が添えられるだろう。
傍目から見れば、正しく触れているだけかと思えるほどに柔らかなものであったが、その手を微動だにさせないだけの力があった。

「これ以上を望むのであれば、このオルヴィエート天軍九体が最上級騎士。
 ヘイルヴ・セデス・サピエンティアエが御相手致しましょう。さぁ、如何致しましょう」

そして、その紺碧の瞳が、その場にいる男達へと向けられる。
刺すようなものでもない。威圧するものでもない。身を竦ませるような恐怖心を、与えるような類では断じてなかった。
だが、そこには確かな意味を成すものがあった。確固たる意思を、正に喉元に突きつけるかのような意味が。
両翼を、悠然と広げながら、ヘールは少女へと笑い掛けるだろう。自分が来たからには、もう怯えることなど無いと。
96グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/27(日)14:23:03 ID:Bji [1/7回]
>>93

「じゃあ、次は――わたしの相手をして」

不意に吹き抜けた風に、どこか無機的な声が混じる。

直後飛来するなにかが、戦争屋たちの間近へと降り立ち――衝撃、そして激烈な振動が彼らを襲う。
異様な速度で接近したそれは、立ち込める粉塵のなか、ゆらりと立ち上がり全容を露にした。

絹のような銀の髪を背中の中ほどまで伸ばし、ターコイズブルーの瞳を煌めかせる、陶器人形めいた涼やかな容貌。
小柄な体躯に艶のある黒革のコートを纏い、左右の腕にバングルを嵌めた、人類種そのままの姿をした少女。

だが傷一つなく、一切の動揺もないその姿は、見た目通りの存在でないことを語るに十分だろう。
そしてその視線は、討ち漏らした戦争屋たちの有無や、急襲に対する反撃を確認し警戒していて――
これが、意図的な襲撃であることはその様子からも明白だったのだから。

/よろしくお願いしますー!
97ブリッツスイーパー◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[] 投稿日:20/09/27(日)14:55:10 ID:LYU [2/7回]
>>96

「…………おい戦争屋、これは"貸し"だ」

『あぁなんだい?って…な、あぁっ!!?』

「総員、衝撃に備えろ」

それが飛来する直前、戦争屋の服を掴めばそのまま片手で遠くへと放り投げる。
そうしてその直後に猛烈な衝撃が襲い掛かる。だがそれぞれが体勢を低くすることで衝撃へと備えたためにそれ自体がダメージにはなり得ない。

「命令だ、そいつをトラックに乗せてひとまずは安全なところまで走れ」

衝撃による砂埃の中、連れてきた数人にそう命令するならばさきほど放り投げた戦争屋のところへ向かいトラックへと乗り込む。
向こうは未だこの視界の中のはずだ。離れたところに投げられた戦争屋までは把握できまいと。
対してこちらはその戦争屋の位置を把握している、だからこそ命令を出して戦争屋をまずは優先する。
戦いにおいて物資というものは何よりも重要だ。それを提供してくれる者に恩を売ることができるのなら願ってもないチャンス。

「私はこいつの相手をする……この礼儀がなっていない客人のな」

もしもそのまま何も手を出さないのなら、戦争屋を連れ物資を積んだトラックは走り出すことだろう。
98グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/27(日)15:13:10 ID:Bji [2/7回]
>>97

まず想定を外されたのは、初撃をほとんど無傷でやり過ごされたこと。
予め空中から把握しておいた位置取りだったが、遠距離からの急襲を選んだことが仇となったか。
それを可能にするほどの知覚力が、エデン側の指揮官と思しき彼女には備わっているということでもあったが……

それそのもの以上に、齎された状況が問題となる。
エデンの補給路に打撃を与えることも、武器の供給を阻害することも共に失敗。
エンジン音の鳴り響くままに撤退を許せば、さらなる戦火の火種となることは疑いもなく……


「……ッ!!――――――――」

瞠目し、虚空を揺るがすは半実体化した力場――肩口から展開される、左右一対の念動力の翼。
隙を覚悟で、阻むものがなければ地を軽く蹴り抜き、黒衣の少女は飛翔――
トラックに突撃し、翼で殴りつけ、横転させてでも撤退を封じようとする。

物資が――殊に武器がエデンに渡ることを防ぐことが目的なのだから、戦闘要員に足止めを食えばそれだけで戦略的には敗北だろう。
そして、彼女を蹴散らせると楽観など到底できなかった。
この果断な突撃でさえ、遂げられる確証など持てはしない。
警戒するからこそ、まずは勝利の前提を守らんとすることに全力を傾けたのだった。
99ブリッツスイーパー◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[] 投稿日:20/09/27(日)15:28:41 ID:LYU [3/7回]
>>98

エデンというのは認めたくはないが、周囲にはやはり敵が多い。目の前のこの襲撃者の所属は分からないが敵であることは確かだ。
見るからに単独、伏兵の可能性は低い……そういえば彼女のあの特徴、少しばかり聞き覚えがある。

「おいおい…つれないな、貴様はこの"私"が相手をすると言ったんだ」

帯電、疾駆。彼女が飛び出すのとほぼ同時に動き出す。
体内の筋繊維に無理矢理に電気信号を送りつけ通常ではあり得ない身体能力を発揮させる。
人間は常に力をセーフしている、だがこれはそもそもの人間のそのセーフティを無視して身体を動かすのだ。つまりは人間の100%を引き出すことができる。
そんな彼女の前で隙を晒すこと覚悟の直線的な行動は悪手だ。

「通すわけにはいかないッ…!!」

だが速度に関しては向こうにはわずかに及ばない。ならばと太もも部分に備え付けられたホルダーから武器を取り出し、電気を込めた上で二本を投擲。
目標は彼女本体ではなくその両脇だ。そうしてそのナイフが彼女の両脇に到達した瞬間にそれらは放電し、一定範囲内へと込められた電気を放つ。
100グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/27(日)15:45:18 ID:Bji [3/7回]
>>99

(――速い……!? それでも……!)

追いつくには至らないが、確かに追従してくるエデンの兵。
投擲されるナイフの軌道を瞬時に計算し、さらなる加速を以て置き去りにせんとするが――遅い。

「あ――あぁああああっ!!」

雷電の速度でその身を貫く電光が、意思を無視して身体の制御を奪い。
そうして空中でバランスを崩せば、飛行の軌道は歪み地表に叩き付けられる。

念動力の翼で身を庇うも、落下の勢いのまま転げる躰は、電撃の痺れを残したまま痛みを刻まれ、ほどなく静止。
そうして仰向けに見上げる少女は、苦しげな喘ぎを零しながら、視界外からの攻撃を阻むよう周囲に翼を展開した。
不用意な接近は、この状況でもなお危険――そう悟るに足る強い瞳が、自らを追い込んだ苦境を脱さんと、真直ぐに視線を投じていた。

だが、トラックの離脱を阻むことは困難となるのだろう。眼前の彼女までも撤退を選ぶなら、諸共撃墜を図れたが……そんな甘さとは、明らかに無縁の存在がこの敵手だった。
101ブリッツスイーパー◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[] 投稿日:20/09/27(日)15:57:20 ID:LYU [4/7回]
>>100

墜落していくその姿を見れば疾駆を止めて様子見へと。
こうまでしてしまえばもう物資の襲撃には間に合わないはずだ、もしもまだそれを諦めていないのだとすればただの能無しだろう。
初手の奇襲などを考えれば相手とて素人ではないはずだ、ならば下手に油断はできない。

「貴様…その力はエーテルによるものか?それとも――――新人類か?」

彼女の周囲にうっすらと見える半透明の力場。まず間違いなくあれが彼女の扱う力だということは分かる。
だがそれがエーテルを原動力とした特殊な装備等によるものなのか、もしくは自分自身の力なのかは判断できない。
一見関係のないことのようにも思えるが、外的要因での力なのかそれとも自分自身によるものなのかは戦闘の際の重要な情報となる。それ次第で戦闘の運び方も変わってくるというものだ。
向こうが律儀に答えてくれるなど考えてはいないがもしもの時のために物資がより遠くへ行く時間を稼がせてもらおうと。

「貴様の容姿には覚えがある……まぁ風の噂でだがな」
「我々"エデン"の妨害をする面倒な小鳥…確かそれが貴様とよく似た容姿だと聞いていたな?」
102グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/27(日)16:16:39 ID:Bji [4/7回]
>>101

様子見に入る彼女の姿を視認しながら、どうにか呼吸を整えてゆく。異能の由来を問うその言葉には、明確な答えを返すことはなく。

「……さあ、ね?確かめてみれば、いい……
 どちらでも……変わりなんて、ないんだから――」

新人類も、旧来のヒトも。力として、脅威としてそのエーテルに接する存在に変わりはない、と。
そんな思考の一端を窺わせながら、これ以上の余裕を与えるべきじゃない、と判断して。

「……べつに、あなたたちが覚えてくれなくてもいい。
 地上にある限り、私のやることは変わらない――

 小鳥でも、幾らでもヒトの手に果実を落としてやれることを教えてあげる!!」

地を掴む様に再び立ち上がり、力場を地表に接させ……その一声とともに踏み込んだ。
攻撃の予兆はわかりやすいが、先程までの推力と揚力を、ただ前進にのみ充てたそれは凄まじく。
さらに踏み込みの直後から、古の盾での打撃のごとく、曲面を描く力場を、己が身を守りながら横殴りに振り抜いてみせる。

ごく短距離の飛翔を加速に活かし、その勢いを残す体躯を軸に、極まった出力の念動力の翼による接近戦を展開する――
攻防一体の闘法は粗削りなれど、原始的だからこそ合理的だった。守りに入るならば無傷で凌ぐことは叶うが、攻勢を奪うことの意義も大きいだろう。
攻撃の軌道を完全に見切られたならば、僅かな間隙を縫う様に穿たれる可能性もあったが。
純粋に脅威としての猛度こそが、多少の粗を踏み潰して余りある力となっていた。
103シュトラール◆</b></b>hHMogxWV7M<b>[] 投稿日:20/09/27(日)16:26:30 ID:96a [2/2回]
>>94

「お手柔らかに、お願いしますね」

大きく息を吐いてリズムを整える。改めて、相対した相手の様子を確認すると、全身を弛緩させた脱力状態。
決して、それを慢心だとは思わない。敢えて型を作らないことで、どのような攻勢にも反応できる姿勢だからこそ、打ち込む側は攻めあぐねる。
一番確実なのは同じ手を真似て千日手による膠着状態を起こし、相手が痺れを切らすのを誘発する手法だろうが、訓練でするような手段でもない。

(……なので、まずは動きを引き出しましょう)

脱力状態から再び全身に力を籠めるには僅かなタイムラグが生じる筈。
だったら反応されるよりも先に、全速力で接近することで先手を打つ。

呼吸を整えて、両足に力を籠める。間合いを一瞬で詰めると、シュトラールの手がノーマンの胸元に触れる。
真っ向からの急接近、ノーマンが反応するよりも先にシュトラールの初動が完了していたならば。
次の瞬間にはノーマンの胸倉を掴んだシュトラールが、その身体を地面へと思いきり投げ飛ばすことになる。
104ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/27(日)16:36:14 ID:Gb5 [2/5回]
>>95
瞬間、風さえ呼吸を忘れた静寂が静寂がその場に満ちた。
致命的に危険の察知が鈍い、他愛ない獲物を手中に収めんとした男達も、フードがはだけて怯懦の顔色を晒した少女も。
皆一様に、闖入者へ戸惑の視線を向けて言葉を失っていた。纏う純白の荘厳に気圧されるように、自然と歩む道が割り開かれる。

『ッ…………虐げるなんて人聞きが悪いな。俺達はちょっと道案内してあげようとしただけだぜ?』

白い指が浅黒い手首を掴む。それだけで、唯一男に主導権を残された指先の力が緩んだ。
少しの間を置いて、薄暗い路地に似合わない莞爾の笑みと視線がぶつかった少女が、はっと我に返って手を振り解く。
剣呑な雰囲気に身を竦ませ、凛然と空気を孕んで膨らんだ翼の後ろにそそくさと隠れる少女を追う者はいなかった。その代わりに、忌々しげな視線が突き刺さるのみだった。

『しかし天使サマが手を差し伸べてくださるってんなら、俺達の出る幕はないってモンだ』
『……運が良かったなぁ、お嬢さん?』

彼らは下劣だったが、浅墓でもなかった。オルディエートの、それも高位の軍人と事を構えることが何を意味するか、分からないほどに愚蒙ではなかった。
恨み辛みと歯痒さを押し殺し、手の甲を追いやるように払う。何処へなりとも行けと言外に語る所作。
末路は想像できなくとも多大な危機に陥りかけ、そこを救われたとだけ悟った少女は、不安げに二対の翼と光輪を見上げている。この場を離脱するならば、大人しく付き従おうとはするだろう。
105 : ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/27(日)16:37:29 ID:Gb5 [3/5回]
//予測変換に頼ってたら変な誤字していました…オルヴィエートですね、失礼しました!
106ブリッツスイーパー◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[] 投稿日:20/09/27(日)16:55:10 ID:LYU [5/7回]
>>102

「変わりがない?…………はっ、どうやらとんだ楽観主義者らしい」

彼女のそんな返答に吐き捨てるように言葉を放つ。
それだけでこの女の現人類に対する嫌悪感を表すのは十分だろう。そもそもエデンにはそのような人間が殆どなのだからこんな反応が返ってくるのはわかり切っていたことかもしれないが。

「落としてやれる…か?それは随分と――――上からな物言いだな」

大袈裟な攻撃動作。それを見れば何か仕掛けてくるということは明確だ。
来る――――そう感じた瞬間には目の前の少女は動き出していた。
凄まじい初速、この動体視力を保ってしても目で追うのがやっとだ。だがそれでも見えているのなら対処のしようはある。

「乱雑な…!」

まるで見えない盾によるかのような殴打。あの勢いが乗ったそれを喰らってしまえばひとたまりも無いだろう。完全に透明ではないということが唯一の救いか。
身体を捻り、バク転を思わせる曲芸じみた身のこなしで距離を取りそれをなんとか避ける。恐らくあの力場が生じている場所は盾のようになっているのだろう。
翼もないというのに飛翔せしめるそれはきっと念動力かそれに近しいカテゴリの力だ。だがあぁやってある程度その力場が可視化されているのなら――――

「ならば二度とそんな言葉が吐けないように念入りにその翼を捥いでやろうッ…!!」

先ほどと同じナイフを再び両手に一本ずつの計二本を投擲。ただそれはまるで彼女を避けているかのように両横へと放たれて。
いや、実際避けているのだ。あの力場で防御をされては仕方がない、だがそこさえ突破してしまえば残るはあの華奢な本体。
ナイフが少女の横をそのまま通過しようとした瞬間、それらは唐突に軌道を変えて少女へと襲い掛かった。
電気は時に磁力さえも操れる。電磁力による磁場を発生させることによる軌道修正。完全に浮遊させたり自由自在とまではいかないもののこれくらいの軌道を変えることならばできる。
107グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/27(日)17:24:19 ID:Bji [5/7回]
>>106

「……楽園の理想が低すぎるだけ。それとも……壊して、奪うだけのひとたちにはわからない?」

敵意の言葉に返るのは、静かな、そしてエデンへの感情が篭もった声。
澄んだ音色は、追い込まれた呼吸の揺れを殺しながらのものだった。

だからこそまずは――攻勢をこちらに奪い返さんとして。

目を見張る運動能力、卓越した回避技能が未だそれを許さない。
今一度投擲されるナイフを、翼で掴み砕かんと力場を伸ばして。

「――う、く……、ぁっ……!!」

擦過する様に力場を掠めた刃が、僅かに軌道から逃せただけの華奢な躰を抉り貫いた。
……異能の出力や規模では恐らくはこちらに優位がありながら、一方的に手傷を刻まれてゆく。
その技量に戦慄を覚える余裕もなく、深く背を穿たれ、血を流す躰が傾ぎ――

「……なにも……奪わせてなんてあげない……!!」

直後、劇的に変容する翼が真なる飛翔を齎した。
劣勢を悟って選ぶのは、地上戦用の形態から、高速飛行に特化した形態への即時移行。
横に比べて明らかに狭い縦の視界という、ヒトがヒトである限りは有する、構造的な弱点を突く急加速・急上昇を成立させて。

有利を奪った直後という、思考が転調を迎えるはずの一瞬を狙い撃つ。肉体の余裕は一切ないが、このまま刻まれ続けることこそが最悪手ゆえ是非もない。
迎撃を受けなければすれ違いざま、空中で反転しながら左の後頭部目掛けて踵を一閃――意識を刈ることを狙い、斜め下へ、身体ごと回し蹴りを叩き込まんとする。
108ブリッツスイーパー◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[] 投稿日:20/09/27(日)17:58:10 ID:LYU [6/7回]
>>107

「――――貴様は、何も分かっていない。壊して奪う、だと…?」
「それは我々の台詞だッ…!!!」

その言葉はこの女の言葉の中で初めて強い感情が込められたもので。
何もかもを壊された、何もかもを奪われた。
あの日轟々と燃え上がる業火の中で聞いた両親の声。無力な自分はただ逃げることしかできなかった。自分がただ新人類だと、たったそれだけの理由で全てが奪われた。
いや"たった"ではない、それほどの理由なのだ。そこに明確な違いがあり、その隔たりはこうまでも頑なで根深い。
向こうがこちらを拒絶するのなら、こちらとて相応の態度で臨むだけのこと。

「居場所がないのなら奪うしかあるまいよ、世界が限られているのならどちらかに傾けるほかないだろう…!」

突如少女の身体が消える――――いや、消えたと錯覚させるほどの速度で上昇したのだ。
一度視界から外れればそれは明確な隙となる…そう、それがただのヒトであるのなら。
エーテル汚染による身体変化。ネコ科としての特性を兼ね持つその動体視力はおよそヒトのものとはまるで性能が違う。それこそその急上昇に食らいつくくらいには。
だが……その速度に対応できるかどうかは別の話だ。
その一撃に対して迎撃は間に合わない、故に防御行動に徹する他ならず今までのナイフではなくひと回り大きいブレードを二本取り出し、それらを両手に持ち重ねて、それで少女の蹴りを受け止めようと。

「ぐ、ッ……!」

凄まじい力、勢いによって威力が増したそれはブレードを持つ腕を痺れさせ痛みとともに苦悶の表情を浮かばせる。だがそれでも有効打となることはなんとか防げた。

「貴様のような輩は…反吐が出る…!」

そしてブレードでその脚ごと少女を弾き飛ばそうと力を込める。そして更にブレードを帯電させて直接少女へと電気を流し込もうとする。
筋繊維に電気を流し、その身体で電気を纏って身体能力を無理矢理に向上。身体への負荷は膨大なものだ、しかしそんなことは気にもせず今はただ目の前の目障りな小鳥を墜としてやろうと。
109グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/27(日)18:35:28 ID:Bji [6/7回]
>>108

「……!!」

篭められた、圧倒的な憎悪と絶望――眩暈さえ覚える激烈な重みが、瞬きの間、呼吸を奪う。
知らぬ過去だが、この重みを、遺された傷痕が齎すこの熱量を……知っている。
ターコイズブルーの瞳が、幾つもの思いに揺られるまま、震えて。

「そのために……同じ様に、何もかも壊して世界を狭めるの!?
 
 新人類の仲間を守ろうとすることになにも間違いなんて無い、だけど……エデンのやり方じゃ、誰も、何も残らない……!!
 あんなひとたちを頼ることでしか、続けられない戦いの先に――人が生きられる世界なんて、あるはずもないの……!

 ねえ、気付いて――……今の人類を殺し尽くしても、仲間たちは、守れない……ッ!!」

必死に言葉を叩き付けながら、そうするしかない心は、それでも無為を悟っている。
言葉如きで止まれるなら、喪ったそのときに停まっている。
正気では目指せない大願、破壊を繰り返してでも守らんとするもの――

……きっと、誰より覚えがあるからこそこんなにも必死で。
だからこそ終わらぬことを識り、なおも、この闘争に身を投じ続けるのだろう。

急上昇からの一蹴りは、抜き放たれるブレードと両腕によって阻まれる。
彼女の上げる声が収まれば、敵意とともに異能と膂力の反撃が返り。


「く――……うぁああああぁっっ!!!」

心身ともに既に無傷には程遠い身が、弱まった抵抗力のまま声を漏らした。
吹き飛ばされながらどうにか翼を利用して着地し、攻勢に出るため再度陸戦用の形態に移行。再度、強襲をかけんとしたが……

「――――う……!!」

大電流に灼かれた躰が言うことを聞かず、痙攣する肢体の強いるまま膝をついた。
それはまるで、斬首を乞う罪人のようで――流血と電流に苛まれた体躯は、傷だらけの姿を、念動力の翼も見えぬまま晒すのだろう。
それが真に隙であるかは判然としない。だが、駆り立てられた憎悪が時に導く苛烈さは……冷静さを、僅かばかりでも奪えるだろうか。
さもなくば、恐らくは刻まれ続けるだけの未来が待っているが……

「……――――」

追い込まれた身で、自分以外を映した瞳を、憐れむ様に過ぎる痛みは――
ヒトの弱さを残す者になら、或いは、致命の毒となり得るものかもしれなかった。
110ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/27(日)19:56:15 ID:AFl [2/3回]
>>104

沈黙を、背筋を伸ばして歩み、自らのやるべきこと、成すべきことを、思うままに成すことは、正しくヘールの本懐であった。
その伸ばした掌が、要求の通りに少女の手から離れたのであれば、いとも容易く指先を解いて手放した。
これにて、場の趨勢は決まったとヘールは決定した。彼らの認識が、もっと浅いものであったならば、また結果は違っただろう。
最も、最後の到達点については、変わることはないし、変えることはないと、自身はそう確信してはいたが。

「結構。賢明で居てくださって、こちらも助かります」

そしてやはりその声色は崩すでもなく、他の場にいる男達へと向けて、決着は付いたのだと宣言するかのように。
少女が隠れた翼が、僅かに動くと、そこから微かに、まるで太陽の如き香りがふわりと立ち昇る。
短いやり取りであった。そして、それ以上のことを求めることも、この場で解き示すようなこともなかった。
そこに積もった怨念も怨恨も、この場の暴力が許される理由でも、この場で解を得られるものではないのだから。

「さぁ、行きましょうか。お怪我は御座いませんか?」

先ずはそこにいる少女のケアが先決だった。やはりというべきか、人目を憚ることもなく。先ずは片膝を付いて、跪く。
かの男達に代わって、自身が恐怖の対象に代わってしまえば、何の意味も成さない。
大仰が過ぎる姿であろうが、これまであった背丈の差は大幅に縮まるどころか、今度は少女自身を低くから見上げた形にもなる。

「私の案内で良ければ、貴女のこれより暫くの道中を、お供させていただきたく思うのですが……如何でしょう?」

そして彼女へと、離脱と、それから暫くその傍に在ることを提案する。
これからすぐにこの場を離れて、再度目標にされたのであれば、今この場のやり取りも、全く無にも等しくなろう。
或いはその介入に付随する、感情の激化とて容易く予想できるからこそ、その右手を彼女へと差し出した。
自由意志を制限する気はなかった。その手を取るかどうかを、了承の示しとすれば良い。
111ブリッツスイーパー◆</b></b>g3TGIKRaI9ic<b>[] 投稿日:20/09/27(日)19:56:51 ID:LYU [7/7回]
>>109

「綺麗事を並び立てるなッ!」

感情が荒立つと同時に周囲にバチリと電撃が走る。
この力だ、この力が全てを狂わせた。そうである風にしか生きられないというのに、望んでこうなったわけではないというのに。
身勝手な理由で差別をされ、この世界から切り捨てられたのだ。

「貴様こそ分かれッ!…………イスールを見ろ、あれが人間の本性だ。あれを見てもなお共存ができると貴様は言うのか?」
「一体どれだけの同胞があそこで戯れに命を落とした?我々が新人類だと、たったそれだけの理由でだ。奴らは報いを受けなければならない…それも死を以ってだ」

もはや引き返せないところまで来ているのだ。新人類と現人類とのその隔たりはもはや覆せない。
この世界を現人類の為の世界へと造り替え、今の世界の造りから解放する。名前を捨てて、その為ならば己の命すら賭けてみせると、エデンに入った時に復讐と共に誓ったのだ。

「…………所詮は小鳥、その程度で羽ばたこうなどと…思い上がるな」

膝をつく少女を見下ろしながらそう言い捨てる。
力で言えばこの少女のものはかなりのものだろう。だが場数と経験に於いてはこちらがまだまだ上回っていた。
だがそれはつまり、それだけの戦場を潜り抜けてそれだけの数を殺してきたということ。

「ッ……ふざけた眼を…!…………良いだろう。小鳥風情が、貴様のその浮ついた理想がいかに間違ってるかこれから嫌というほど見ることになる」
「その時にまだ同じことを言えるか見ものだな?」

向けられた視線、その瞳を向けられると無性に苛立ちが募っていく。
どうせこの身体では身動きはできまい、それだけ言い残したのなら女はその場を去っていくことだろう。
最後に少女へと向けたその瞳に込められた感情はどす黒く、そして真っ赤な激情へと染まっていた。

//返信が長引いてしまって申し訳ありません…!こちらからはこれで〆させていただきます…!ロールありがとうございました!
112ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/27(日)21:30:38 ID:Gb5 [4/5回]
>>110
小さき者の身柄を宣告する響きに、山彦となって返ってくるのは苦々しげな睥睨。
険悪な眼差しが徐に膝を折り低くなった頭をを認めるや、喫驚に塗り潰されるのも無理からぬことだろう。
跪拝の対象となった少女もまた、突然の行為にふつりと押し黙ってしまったが。

「………………」

何故、どうして今、こんな場所でと。全く理由が想察できない当惑は確かに沈黙の中に息衝いている。
しかし形ばかりなれど畏敬を向けられたことに対してはそうではなかった。
慣れていると形容すべきか。返答に迷う素振りこそ見せるが、人が己の前に跪いている事実に狼狽も焦りも皆無。

「…………あなたは、エデンの人間ではない?」

世俗を切り捨てたかの如く平坦で、恐怖の漣が嘘のように平静な態度は、かつてエデンの輩に向けていたそれと同じもの。
心身に染み付いた佇まいは僅かな時間で洗い流せはしない、過去を想起させる状況に本能でそう振る舞う。
投げかけた問いに否定で以て答えたなら、少女は無言で超然と頷きそっと手を取るだろう。
元来なら怯弱が邪魔をして、そう易々と決断をすることはないはずだった。それでも不安を脱ぎ捨てて一先ずの行先を委ねたのは。
彼女の雄大な翼にあるのは時折やる視線からも明白で、しかしそこに込められているのは畏怖とも違う、一種の親近感にも似た安心感だった。
113 : グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/27(日)21:33:56 ID:Bji [7/7回]
>>111


「……っ。……――」

綺麗事。叶わぬ夢。否、叶ってはならない夢だ、と。
幾度となく突き立てられた言葉の刃が、さらなる苛烈さで傷口を抉る。
けれど、そう生きることを決めた重みを……きっと、彼女は知らぬままで。

だから、頽れていてはならない。もはや成せるか否かを問う以前に、そう遂げるのだと刻んでみせなくてはならないと――
そう誓う意志に、灼かれ、穿たれた躰は応えることはなく。


「……! 待、……ッ……――――!」

敵手の接近を待つばかりだったその身は、彼女の揺れ得ぬ憎悪も、侮蔑も、激情も、すべて聞き届けるのみ。
そして残された暗雲、不吉な予言めいた言葉は、こうあることを決めた在りし日を思い起こさせていた。
降り出す雨に濡れる躰は、頬に冷たい雫を伝わせて。

「喪うこと、なんて天…もう識ってる……。それでも、私……は、――――――――。」

翼で天翔けず、自らの脚で歩む道程。痛む傷に陶器人形のような顔を歪めながら、それでも、歩みの停まることはなく……。
神殺しの牙は未だ閃くことなく、銀狼を縛る軛は軛のまま在り続ける。
その軌跡がどの様な混迷を生き抜かんとするのだとしても……忘れ得ぬひとつの亀裂を、彼女は刻み付けて行った。

/こちらこそ、〆が遅くなりました…!お疲れ様でしたっ、ありがとうございましたー!!
114ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/27(日)22:25:26 ID:AFl [3/3回]
>>112
隠すべくこともなかった。彼女が語る言葉には、一切の嘘偽りもなければ、回りくどい物を含ませているわけでもない。
その立ち居振る舞いも、ごく自然の物で、自らの立ち位置は高尚なれども、個として主張するわけでもないが故の跪拝。
先に述べた言葉を、前提として置くのであれば、ただ、礼を尽くすばかりである。

「そうですね――――強いて言うならば、エデンとは"敵対者"の位置にありましょうか」

然し、その言葉には内心に深い疑念を抱くことになる。
表情も声色も、立ち居振る舞いも揺らすことはなく、目の前の少女に向けて礼を逸するつもりもないが、そこにエデンの名が出たこと。
それに何か、俗に言うならば、きな臭いものを感じ取ったのだ。であるならば、尚更捨て置くわけにもいかない。
そういう結論に至るのが、彼女の思想であり信条であった。

「神の言葉を歪め、楽園を騙る邪教の徒。そして、私は闇を打ち払う剣の炎。
 皆は私をヘールと呼びます。オルヴィエート天軍九隊、『ケルヴィム』の聖堂騎士です」

自らの素性を改めて明かすことによって、その証明とするには、少々足りぬだろうか。
そう名乗ること自体が、彼女がオルヴィエートとその権力、エデンとの敵対関係について理解していることが前提であることなのだから。
彼女が世俗に疎いということを考慮していないものであった。未だ少女のことを、彼女は明確に把握しきれていないのだ。
ともあれ、エデンとは、寧ろ敵対者であることは隠すこともなく告げ、それでも少女が手を取ったのであれば。

「では、未熟な身ではありますが、暫しのエスコートをお任せください。
 如何に致しましょう。何方かに向かう御積りでしたら、同じオルヴィエートが足を用意しておりますが……貴女にお任せします」

立ち上がり、片手を握りながら、歩幅を合わせつつ、少女をその場から連れ出すことだろう。
これより共に有る限り、安全を保障することには違いはないが、然し少女の目的を達せなければ、その安全は意味を成さない。
一応、足となるものは存在しているが、たった今彼女はその車両に詰め込まれようとした身である。
ならば、そこには不安も残ろう。そのため、手段については少女に委ねるとして。

「――――私の翼が気になりますか? この翼と光輪は、オルヴィエート国民がエーテルに曝露された時、例外なく出現するものです。
 気になるのならば触れても良いのですよ。少し今は、羽根が抜けやすいかもしれませんが……」

少女の示した興味に対して、軽く羽根を動かして答える。
そして空いた左手で、自身の光輪を指して、オルヴィエートという国の、非常に奇妙でおかしな特性について語るのであった。
新人類でも、単に国民がエーテルによって影響を受けた時、出現する奇妙な特性。何ということもないように、彼女へと語る。
そして今は、ちょうど羽根が生え変わる時期でもあった。これについては、個人差もあるが。

「ところで、貴女も新人類とお見受け致しました。その背は……そう、だという認識でよろしいのでしょうか」

そうまで語れば、気付くかもしれないが、彼女は少女の背中に何かしらの特徴が見られるが、その中身までも把握していないのだ。
彼女が新人類であることは理解していても……だ。見せることを強要するわけではない。彼女は、ただ、少女へと確認を求めた。
115ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/27(日)23:34:06 ID:Gb5 [5/5回]
>>114
「敵対者…………そう」

エデンに与する者でなければ、少女にとってそれだけで手を取るには十分だった。
ただ物心ついた時から共にあった啓典を、邪道と断じる価値観に複雑そうな皺を眉間に刻むのみ。
立ち上がり身長が逆転すれば康寧は霧散し、また拭いきれない鬼胎を強張った表情筋に留めはするが。
連れ出そうとする無理のない力に逆らおうとはせず、小さな歩幅で歩き出す。
恨みがましげな視線と舌打ちを背に、角を曲がって男達が見えなくなったところでようやく躊躇いがちに口を開いた。

「……ゴフェルンを、探してる。ユーリヤ……知り合いに、そこを頼るように勧められたから」
「ここから遠いなら…………どうしよう、と思ってる」

差別と迫害に郷里を追われ、ゴフェルンに縋る。今のご時世ならごくありふれた、よくある話。
大方関わってはいけない人間の区別もつかず、同じ話を先程の連中にもしたのだろう。
分かりやすく風体を隠し、安住の地を求める放浪の小娘など、どう考えてもそうでしかなく。裏の市場に回される未遂の悲劇もまた、然程珍しくはない。
ただ一つ、変わった点を挙げるとするなら。

「…………オルヴィエート……国……?」
「……そう、なんだ……みんな、こういう風に……」

エーテルの恵みを甘受した者が必然的に得る特質のみならず、全土に轟かせるかの国の名前さえ。
まるで初めて耳にしたかのようにか細く反芻し、無知に首を傾げたことだろう。
何が一般常識であるかも分からない少女は、今の問答がどれだけ世俗から浮いた結果であるかすらも知らない。
ただ触れこそしないが、どこか感慨深げに四枚翼を見やって。己の容貌に話が及べば、僅かに目を見開いた。
逡巡、不安、抵抗感。灰の双眸が目まぐるしく感傷の色を変え、それから徐に足を止めた。繋いだ片手は離さず、もう一方で外套の襟元を掴んで。

「――――わたしはファラ。あなたと同じ、羽を持つ者」
「……頭のそれは、ないけれど」

袖を通したまま、外套を肩から落とす。弛んだ襟が垂れ下がって、不自然な膨らんでいた背部が剥き出しになる。
背の大きく開いた白いワンピースと、同色の何かが広がる。左右三対、六枚の翼が陽の当たらない路地に微風を起こす。
頭上に座す光の冠はどこにも見受けられない。しかしそこに寛ぐ翼は、確かに新人類の一種であると鮮明に影を落とす。
同じだからこそ、晒した異形。人目につくのを好まないのか、すぐさまそそくさと羽を畳んで外套を羽織り直そうと。
116ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/28(月)00:29:13 ID:fTx [1/3回]
>>115
「ゴフェルンですか、それは、貴女はとても運がいい。私はオルヴィエートからゴフェルンへ出向する者。
 今正に、ゴフェルンへの帰還の最中でした。都合が良ければ、私が共にお連れしましょう」

ゴフェルン……その名は国々に轟く。それがどんな形であろうとも……そして時に、新人類達にとっての希望にも。
知り合いである、ユーリアという人物もまた、それを知って少女に、そこを行き先とするように求めたのだろう。
その過程と、今まで何をしてきたか……という疑問は後回しにしておくことにして、今は彼女の意思に従うまでだった。

「ふぅ……む……そうですね、翼と光輪を持つ者と、そうでない人々も、皆共存していますよ」

オルヴィエートという国すら知らないことに、彼女は深い疑問に思う。
単に教養の差というにしても、名前程度ならば聞いたことがあるはずだと、思うに……よほど世俗に疎い。
或いは、そうならざるを得ない環境で育てられたということになる。これについては、やはり深堀りしなければなるまい。
悪意やそういう類の物を感じないのは救いだった。もしくは、そんなものを抱く余裕など無かったのかもしれないが。
少女が立ち止まると、同じく立ち止まる。そしてその姿を、覗き込んで外套から現れた、その三対の白翼を確かに垣間見たのだった。

「……なるほど……」

少々の驚きの色を瞳に見せつつも、少女の、翼に対する意識も合点がいった。
しかし頭上に光輪がないということから、オルヴィエートの民ではない……殆ど関係のない新人類であるか、或いは。

「素敵な翼を持っていたのですね……私より数も多く、立派で、綺麗なものですね。
 もしかすれば、貴女のルーツにオルヴィエートがあったかもしれません。その血統が紛れる方に、特徴が一部顕れる……ということがあるのです」

オルヴィエートに於いて、翼の大きさや数で何らかの階級が決まる訳ではない。
だが、それが立派であればあるほど、羨望の眼差しを受けるということが無いわけではなく、その視点からの言葉も含まれていた。
無論、全く無関係であるということもあるだろうが、それを念頭に置いた上で話す言葉の節々からは、少女に対する同族の意識が見られよう。

「貴女には幾つかの選択肢があります。このままゴフェルンに向かい、市民登録の後その一員となるか。
 或いは、私とともにオルヴィエートへと……私の国へと向かい、信徒として、国民の一員となるか」

それから、一呼吸を置いて。

「或いは、その両方か、ですね」

無論、このまま放浪する……という手も無いわけではないが、それは望ましいものではない。
少なくとも、一人で旅をするだけの力が確認できなければ、到底それは是認出来るものではなかったし、先の状況と知識を見るに。
それは足りていないように見える。ならば、何らかの庇護を受けるのが、最も良いだろう。何方か片方か、或いは両方を選ぶか。
何れにせよ、少女と運良く出会えたのは、ヘールにとっても幸運であったのかもしれない。

「おや、隠してしまいますか? 私とともに居るのですから、伸ばしていたとて構わないのですが」

彼女が外套を羽織り直そうとするのを、止めるわけではない。
だが、見ての通り……とばかりに、二対四枚の翼を広げる。正しく、目の前にいる新人類は、隠すことなど考えても居なかった。
視線が痛い、というのであれば仕方ない。だが、今くらいは、文字通り羽根を伸ばしたとて構わないのだと告げるのだった。
何より。羽根を畳んだままで居るのは、少々窮屈であることを、知っているのだから。
117ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/28(月)01:43:34 ID:p2k [1/3回]
>>116
思わぬ足がかり、当面の目的への繋がりに目を丸くする。同行の申し出は今日だけで二度目、しかし此度は束の間の沈黙の後小さく頷く。
強い語調でも無理強いでもなく、だと言うのに警戒いを押し退けて言葉に甘えようとするのならば。
それは新人類としての共通点もあるだろうが、偏に彼女の断乎とした振る舞いに依るものと言えた。
エデンの外界に於ける立ち位置すら教えられていない少女には、胸の裡に疑念が降り積もりつつあることも気がつかないまま。

「さあ……親がどんな人か、聞いたこともない。もしかしたら、それも有り得るかもしれないけど」
「……そこまで良いものじゃないし…………見られたくない人達がいるから」

生まれて間もなく、両親が進んで組織に捧げたと聞いている。ヒトの親など判然としない方が、より神秘らしく扱える。
それが当然だと幼い頃から言い聞かされていたから、そこに哀惜はなかった。ただ再び外套の下に押し込めようとした翼に言及された時には。
刹那言い淀み、困窮に眉尻を下げて。自虐にも近い言葉の響きを伴い、しっかりと襟を正してしまった。
癒す力と併せて、信仰を集める御使として使われる要因となった象徴を純粋に賞賛されるのはひどく複雑であったし。
エデンの一員に見つかれば、と考えただけで覆い隠す立派な動機であり、人の多い通りではフードも被るのだって同じ理由だった。

「…………わたしには、何が正しいのか分からない」

言われるがままに目指してきた道以外の選択肢を提示され、幾分かの思案に数秒の間。
やがて光の見えた路地裏で綴られた言葉は調子こそ遠慮がちだったが、強い感情の宿らない淡々とした音。
彼女の翼や地面に逃げたりと、臆病だった目線がまっすぐに碧玉を見据えた。

「あなたの国のことも、ゴフェルンのことだって、まだ全然知らない。どんな場所で、どんな人が居て、何の為に、何を目指すのかも」
「正直なところ、神とか信仰とかは別として……エデンと何が違うのかもよく分かってない」

率直で愚直な、蒙昧の告白。痛い程に真っ白な、世間から隔絶されたが故の純粋な無知。
正義とはどこにあるのか、何を以て悪と為すのか。世情の定規が測る善悪もまだ育まれていない、芽吹く前から刈り取られた先入観。
閉じた楽園の中で啓典とお務め、信徒を癒す信心の受皿たることだけを叩き込まれた、原野の少女の細やかな欲望。

「だから、実際にこの目で見て確かめて、それから考えたい。その為にも、まずはゴフェルンのことを知りたい」
「……わたしを使わないなら、の話だけど。それじゃ、駄目かな」
118ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/28(月)02:23:34 ID:fTx [2/3回]
>>117

少女の頷きへと向けて、微笑みで了解として返すだろう。
実際に、誰かと語るときには、その包み隠さない立ち居振る舞いをこそ、信用できぬと糾弾されることも屡々行われることがあった。
その態度と、立場以外で、信用を得ることについては、弁舌が回るわけでもなく、とんと苦手であったから、それは安堵にも繋がった。
これで、彼女との間柄が、この路地裏を抜けるまでの関係で留まらないことだけは、約束されることになるだろう。

「そうですか……それでは仕方ありませんね」

そうしたくない理由があるのならば、それを尊重するべきである。少なくとも、それを強制するような振る舞いを行うことはなかった。
自分の意思が、実現に難しいものであることを知っているし、そうは言っても、その視線が痛く突き刺さることはよく分かる。
何より、見られたくない人、という……彼女の事情について、まだ知らない。全ては、彼女の意思にこそ委ねられるものであり。
外套とフードによって覆い隠された少女の姿を、白日に追いかけるような真似をすることはなく。
また、思案に耽る少女を揺さぶることもなく、ただ言葉を待ち、そして、その思いを聞き届けるだろう。


「……貴女は、とても聡明なのですね」


彼女は本当に何も知らないのだろう。かのエデンという失楽園の中で、おそらくは……軟禁か、それに程近い状況であったのに違いない。
大凡、その年齢からは結び付かないほどの無知がその肯定に繋がる。それで尚、彼女は自身の知らぬものを、知らぬまま受け入れることを拒んだ。
そう言ってから、はたと頷いた。全く以て、満足しきったことで、思わず行動に現れてしまった仕草であった。

「良いでしょう。貴女の思うままに振る舞いなさい。貴女はそれで、何も間違ってはいません。
 貴女は赴くままに、知りたいことを知れば良い。他の誰でもない、私が貴女を肯定します」

ゴフェルンでは……少なくとも、望まないことを、強制されるようなことはないだろう。
少女の思う儘、その無知を既知に埋め尽くすことを良しとした。在りたいように、振る舞うことは、正に自身も成すところなのだから。
その欲望を、他の誰でもなく肯定する。それで良いのだ、と。
暗く、何もない路地裏から、明るい雑踏へと足を踏み出した。目の前には使い込まれた黒い輸送車両があった。
そこで一度手を話すと、『少し待っていてください』とだけ告げて、その扉を叩いた。

「車を出してください、ゴフェルンへのお客人です」

『……うっ!? 寝てました……え? お客さん?』

車中、運転席で居眠りをしていたのは、小さな一対の翼を持ち、頭上に光輪を輝かせた一人の女性であった。
年齢だけで言えば、彼女を連れ出したヘールよりも年上であるようで、実際にその通りだが、立場としてはあまり高くはないのは明白だった。
先に車に乗り込んで、一段高いそこから、一度離した手を、再度少女へと差し出した。

「さぁ、行きましょうか。大丈夫です、彼女も翼を持っていますから」

『よろしく~』と間の抜けた声と、小さな手振りを持って、彼女を歓迎する第三者の姿が見えるだろう。
三人乗りの一列シート。窓際に載せたのは、ほんの僅かでも不安を軽減する意図があった。いざとなれば、この扉を開いて逃げ出せると。
彼女が乗り込んだのを合図に、輸送車両はゆっくりと、低い唸りとともに動き出すだろう。

「さて……ファラ。今度は貴女のお話を伺っても良いでしょうか?
 勿論、話せること、話しても良いと思ったこと、の範囲で構いません、無理をせず、私に話せるだけのことを」

さて、動き出した車内。中ではしっかりと、四枚の翼を畳みながら、彼女へと問うた。
それは彼女の素性を探るものであった。断片的な物と、そこから到れる推測は持つが、やはり本人の口から聞くべきなのは間違いない。
あくまでも、彼女の語れる内、語りたくないことは、話さなくてもいいと前置きして、そう促すが、さて。
119 : ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/28(月)02:24:39 ID:fTx [3/3回]
/本日の返信はここまでになりそうです……!
/凍結かどうかについては、お任せします!申し訳ありません!
120ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/28(月)09:37:25 ID:p2k [2/3回]
>>118
「……違うよ。わたしは、聡明なんかじゃない」

自分が悧巧だと思ったことはない。精々が、聞き分けの良い人形程度の認識しか抱いたことがなかった。
だから謙遜でも傲慢でもない、純然たる否定で以て首を横に振る。朱色の毛先がゆったりと踊った。
賛辞を素直に受け止められてはいない。けれど空を求めて広がろうとする双翼を、誰かに認められるのは初めてのことで。

「でも……ありがとう。そう言ってくれて」

それだけでこんなにも安堵できることもまた、経験のない感情の揺らぎだった。
行動を認可されるとも違う、思想と原理の自由を赦される解放感。
満足げな相槌につられるように。足音が広がって溶ける僅かな時にも満たない間、微かな笑みを浮かべた。怯えの一時雲隠れした、年相応の表情。
活気のある日向に出ればそれは深く被ったフードの奥に夢幻と失せ、束の間の孤独にぼうと佇む。
輸送車両とその車内、周囲の人間へと忙しなく視線をやっていたが、声をかけられれば慌てて顔を上げて。

「…………うん。よろしく」

一瞬にも届かない短い躊躇、小さく頷いたのは頭を下げたつもりだろうか。
傍目にも分かるぎこちない動きで手を取り、引き上げられた車のシートにちょこんと収まる。小柄な体躯は一人分の幅にも満たなかった。
とはいえそう広くもない空間に、出会ったばかりの相手と三人きり。例え不安がなくても、なんとなく窓の外を眺めてしまうのは自然な態度と言えた。
重低音。一際大きく揺れて、規則的な振動。人の目につく街中を抜けてようやくフードを取り払う。
しばらく続いた沈黙を唐突に破った問いに、予想できなかったと言えば嘘になるが。それでも、口を開くには時を要した。

「傷ついた人間を救ってきた天使が、務めを捨てて楽園から逃げ出した」
「…………それだけの話」

抽象的で、多分に比喩を含んだ言葉。それ以上を語ることはなく、窓枠の向こうを向いたまま押し黙ってしまう。
淡々とした、他人事のような語り口。嘘を混ぜてはいなかったし、寓話として聞かせるならばそれが全てだった。
あのままでは食い潰されかねなかった、己が秘めたる力を口にすることはなかったが。それを明かすにはやはり恐怖が勝る。
流れる景色を追って、無言。やがて、かくんと頭が落ちた。あまりに変化のない振動に、船を漕ぎ始めてしまったらしかった。

//返信だけ確認して寝落ちしておりました、申し訳ありません…!
//返信を置いておきますので、時間のある際にでもお返しいただければ!
121 : ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/28(月)11:50:08 ID:R1d [1/2回]
>>120

その振る舞いは、少女の揺れ動く様を前にして、やはり貫き通すように、背筋を伸ばし、確かな足取りを見せていた。
自身の言葉は決して間違っていないと、彼女への評価は間違っていないと、言外にそう告げるかのように。
その感謝の意に、口元に常に浮かべる微笑みを崩さぬまま。やはり、言葉を続けるのであった。

「よく学び、よく遊び、そして正しい振る舞いを身に着けましょう。
 何より、自分に恥じることのない在り方を。それを見つけるのは、他ならぬ貴女です」

全ては少女次第であろう。望むならばゴフェルンで出来る限りの教育も施されるだろう。
つまるところ、年相応にあれこれと学んで、そうして自分にとって正しいと思えることを。
そして在りたい姿を見つけ出し、そう在れるように。そして何より、少女の行く先を、祝福するのだった。

「そう……それは、お疲れ様でした。
 ……少なくとも、私は、貴女は間違ったことをしたとは思いませんよ」

彼女の語りに相槌を打つと、それ以上が聞けないと分かって、自身も少しばかり考え込むに至った。
それだけで、凡その輪郭を捉えることが出来ても、それ以上の情報を得ることは出来なかった。
ただ、無理に引き出すつもりも無かったものだから、無言のまま。沈黙に耐え兼ねた運転手が、オーディオへ手を伸ばすが。
その手を人差し指で静止した後、口元に当てて、静寂を求める。視線の先には、船を漕ぐ少女の姿があった。

「一人で旅をするのは疲れたでしょう。少し眠っていても構いませんよ」

『あ、いいなぁ。私も大きいのが欲しい……』

眠気に覆われ始めた少女を見たのであれば、その片翼を広げる。
それからすっぽりと、その身体を覆い尽くしてしまうだろう。正しく、毛布の役割を、彼女へと果たそうとしていた。
彼女自身の翼でも出来るものではあったかもしれないが、その眠気には抗い難かろう。自分の体験からも、それは良く分かる。
小さな座席ではあるが、座席を倒すなり、翼に凭れ掛かるなりすれば、多少楽にもなるだろう。何にせよ、暫しの休息を許した。

『エデンの脱走者かぁ……大変だったでしょうねー』

「小さな体で、ここまでよく頑張ったものです」

声を潜めた会話が、小さく、何度か交わされるだろうが、それ以上に刺激になるようなものもなく。
小さな振動と緩やかな制動を繰り返して、車両は移動要塞都市ゴフェルンの方角へと、何事もなく走り向かっていく。

『今回は順調でしたね』

「御客人もいらっしゃる今、争うことにならず良かったですね。
 さぁ、ファラさん。到着しましたよ」

ゴフェルンに乗り込んだ後、要塞都市の役所前に、輸送車両を駐車した。荷物の運搬については、二人が降りてから行う事として。
後は案内に従って手続きを行うのだが、一人での手続きと、誰かの紹介では、手続きの複雑さと掛かる時間が大きく変わる。
それまでは付き添うつもりで、取り敢えずは、少女を夢の世界から引き戻しに掛かるために、声をかけるのだった。

/お気になさらず! こちらお返しさせていただきますね!
122ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/28(月)13:07:41 ID:R1d [2/2回]
>>120

その振る舞いは、少女の揺れ動く様を前にして、やはり貫き通すように、背筋を伸ばし、確かな足取りを見せていた。
自身の言葉は決して間違っていないと、彼女への評価は間違っていないと、言外にそう告げるかのように。
その感謝の意に、口元に常に浮かべる微笑みを崩さぬまま。やはり、言葉を続けるのであった。

「よく学び、よく遊び、そして正しい振る舞いを身に着けましょう。
 何より、自分に恥じることのない在り方を。それを見つけるのは、他ならぬ貴女です」

全ては少女次第であろう。望むならばゴフェルンで出来る限りの教育も施されるだろう。
つまるところ、年相応にあれこれと学んで、そうして自分にとって正しいと思えることを。
そして在りたい姿を見つけ出し、そう在れるように。そして何より、少女の行く先を、祝福するのだった。

「そう……それは、お疲れ様でした。
 ……少なくとも、私は、貴女は間違ったことをしたとは思いませんよ」

彼女の語りに相槌を打つと、それ以上が聞けないと分かって、自身も少しばかり考え込むに至った。
それだけで、凡その輪郭を捉えることが出来ても、それ以上の情報を得ることは出来なかった。
ただ、無理に引き出すつもりも無かったものだから、無言のまま。沈黙に耐え兼ねた運転手が、オーディオへ手を伸ばすが。
その手を人差し指で静止した後、口元に当てて、静寂を求める。視線の先には、船を漕ぐ少女の姿があった。

「一人で旅をするのは疲れたでしょう。少し眠っていても構いませんよ」

『あ、いいなぁ。私も大きいのが欲しい……』

眠気に覆われ始めた少女を見たのであれば、その片翼を広げる。
それからすっぽりと、その身体を覆い尽くしてしまうだろう。正しく、毛布の役割を、彼女へと果たそうとしていた。
彼女自身の翼でも出来るものではあったかもしれないが、その眠気には抗い難かろう。自分の体験からも、それは良く分かる。
小さな座席ではあるが、座席を倒すなり、翼に凭れ掛かるなりすれば、多少楽にもなるだろう。何にせよ、暫しの休息を許した。

『エデンの脱走者かぁ……大変だったでしょうねー』

「小さな体で、ここまでよく頑張ったものです」

声を潜めた会話が、小さく、何度か交わされるだろうが、それ以上に刺激になるようなものもなく。
小さな振動と緩やかな制動を繰り返して、車両は移動要塞都市ゴフェルンの方角へと、何事もなく走り向かっていく。

『今回は順調でしたね』

「御客人もいらっしゃる今、争うことにならず良かったですね。
 さぁ、ファラさん。到着しましたよ」

ゴフェルンに乗り込んだ後、要塞都市の役所前に、輸送車両を駐車した。荷物の運搬については、二人が降りてから行う事として。
その後をどうするか。彼女が金銭面で困らないのであれば宿でも借りればいい。だが、その身一つであるならば手続きが必要だ。
案内に従って手続きを行うのだが、一人での手続きと、誰かの紹介では、手続きの複雑さと掛かる時間が大きく変わる。
自分の家に住まわせるのもそれはそれで問題ないが、何にせよ、ここで下りるのが都合がいい。
一先ずの宿を手に入れる、それまでは付き添うつもりで、取り敢えずは、少女を夢の世界から引き戻しに掛かるために、声をかけるのだった。

/すみません、少し修正です……!
123ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/28(月)13:48:50 ID:gm6 [1/1回]
>>103
シュトラールの指先が迫る。急速な動きに空気の流れが変わり、黒いタンクトップの裾が微かに揺れる。
全ての動作が完了しノーマンの体が宙に浮く寸前、彼はシュトラールの手を掃うようにして後方へと宙返りし回避する。
その動きは人間と言うより野生動物に近い。着地してなお体勢を崩さない体幹も同様。

シュトラールの動きを見て、彼はにわかに高揚感を覚えた。最近ではめっきり相手がいなくなっていた格闘訓練に、新たな花が添えられた感覚。
彼の戦闘法が炎と大剣を主体にした近接戦闘だとしても、格闘技術が不必要と言う訳にはいかない。
技術を蓄えれば蓄える程に、戦闘におけるセンスとも呼ぶべきものが磨かれていくのだ。

「……いいね」

言うが早いか次は彼の攻勢。全身に捻りを加え数度回転しながら滑るようにシュトラールへと接近。
彼女の頭部を狙った回し蹴りを繰り出す。回転の威力をそのまま足先に乗せ、相手の意識を奪うことを目的にした一撃だ。
124 : ベルント・ヴァイツエッカー◆</b></b>cy7Dnfdd96<b>[] 投稿日:20/09/28(月)21:50:48 ID:sqM [1/1回]

文明や伝承、歴史の連続性など実際、曖昧なものだ。
エーテルによる災害が顕在化した時、人類はそれを思い知らされた。

各地が分断され、ネットワークが崩壊し、国家という枠組みも解体と再編が繰り返された。
そうしている内に歴史や出来事は加速度的に曖昧となっていき、
一部のテクノロジーの保持に成功した者達を除けば、エーテル時代より前の歴史を知らぬ者も多くなっていた。

◇石の村

そんな人類斜陽の時代に存在するコロニーの一つだ。
村と言ってもそこそこ規模は大きく、石と木と漆喰の家屋に噴水もあり、元気に走る子供たちの姿も見える。
が、電気は無い。ネットワークも。テレビジョンも、だ。

「人類の祖先はかつてテクノロジーなる禁忌に手を染めて罰が下った…ねえ」

村に抗生物質などの医薬品を届けたベルント・ヴァイツエッカーは独り言ちた。
なんとも宗教染みた伝承だ…と馬鹿にするのは傲慢だろう。

人類同士の繋がりがエーテル災害やマモノなどによって歴史と共に分断されて、
各コミュニティが独自の世界や文化を育んてもそう不思議ではない。

「なんとも、な」

そう言いながら、村の掲示板に目を通す。
様々な困り事や、マモノの被害、果ては数世代前に存在したというファンタジーゲームみたいに、
ハンターなどを対象とした討伐依頼、賞金首の情報などまでが張られている。

エーテルによってテクノロジーが進化を続けて、人類の最盛期を経た挙句にコレとはとんだ皮肉であった。

//組織の外の世界を描写してみました。組織人でもフリーな人のキャラでもOKなシチュエーションで待ちです。
125ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/28(月)22:41:26 ID:p2k [3/3回]
>>122
深くを問い質さずに済ませた相槌を一瞥、果たして今の曖昧模糊が過ぎる言葉の選び方で、どう伝わったかを推し量る術はない。
更に言えば現在の自分の境遇が、外の人間にとってどう捉えられるべきものかも知らないものだから。
まるでなんでもないように思索の沈黙に身を委ねて、打ち寄せる眠気に足を取られるのだ。

「……ううん……大丈夫……」

言動が一致しないとは正にこの状態を指す、気丈なのは単語の羅列だけ。
馴染みがあるはずの、それでいて自分のものとは全く別物に思える感覚。柔らかいだけでなく、体温と保温性だけでは説明のつかない温もり。
やがて微睡みに負けた瞼の上下がゆっくりとくっついて。揺籃の翼に抱き寄せられるに任せて、頭を隣の肩に預けて寝息を立て始めるのだろう。
多少の話し声では、その意識を浮上させるには至らなかったが。時折眉がひくついたから、あまり良い夢を見ているようではないらしかった。

「…………ん……、……?」

次に目覚める時にはもうそこは新天地、彷徨える弱者を止め処なく受け入れる地平の聖地。
とろんとした灰眼を瞬かせて未だ夢見心地、少しずつ現況を思い出せば気怠げに頭を起こす。
溌剌としない面持ち、覚醒しきらない思考に促されるままふらりふらりと輸送車から降りる。頬を撫でた風が現実を囁いた。

「…………!……ここが…………」

要塞都市、正義の味方、偽善の黒き預言者。形容すべき言葉は多々あれど、本質にして根幹を示すものは一つしかない。
ゴフェルン。エーテルに起因する全ての遺恨を取り除くべく、民草を照らす希望の大樹。
行き交う人々は皆、何の抵抗もなく己が新人類であると装いで語る。もう一つの楽園とは違って、どこを見ても屈託のない笑顔。
短い期間とは雖も、点々としてきたどの場所でも見たことのない景色。漫然とは違う理由で、しばらくそこを動けなかった。

「本当に……しばらく、ここに居ていいの?」
「…………わたし、払えるものも、出来る事も、大してないけど……」

さて問題の手続きだが。一般的な人の営み、個を登録して家を持つ生活形態をそもそも知らない少女一人にやらせてはいけないだろう。
更に言えばくすねた路銀も本人に自覚は薄いが後僅か、放浪に誤魔化されていたが身の回りのことだって木偶に等しい。
無垢な象徴としての在り方以外、能のない虚者。それでも、この歳まで何も知らされずエデンに留め置かれる理由があった。
故に今後の身の振り方を問われれば、対価が見つからずにどうしようもなく眉を八の字にして口を噤んでしまうしかない。
困窮に目を伏せる。「仕事があるなら」と、憂悶に掠れた声が自信のない意欲を謳った。

//遅くなってすみません、ここから安定します!
126グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/29(火)00:14:07 ID:T7s [1/6回]
轟音と地響き、逃げ出す鳥のマモノたちのざわめき。
草原地帯を襲った異変は、何が起きたのかを知ることはそう難しくない。

一撃で首をへし折られたと思しき、20m大の牛のマモノ。
城塞の壁でさえ突破できてしまいそうな頑健極まる体躯は、頭部があらぬ方向を向いている以外はさしたる傷も見当たらない。
激しい戦闘があったというよりは、瞬きの間に決着が付いたかの様で……。


「……よし。これを売れば、皆もしばらくは食べ物には困らない……ね」

僅かに息を切らしながら呼吸を整える人影が零す声は、経過はともあれ、結末を悟らせることは易いだろう。
絹のような銀の髪を背中の中ほどまで伸ばし、ターコイズブルーの瞳を煌めかせる、陶器人形めいた涼やかな容貌。
小柄な体躯に艶のある黒革のコートを纏い、左右の腕にバングルを嵌めた、人類種そのままの姿をした少女。

大型のマモノとはいえ、極端に相性のいい部類だった。
だからこそ、狩りの標的としては都合がよく、経験上肉質も悪くなかったのだが。

「…………。……、――」

運搬用に呼んでいた、近くの街の知己たちの手で、特大のトレーラーの荷台に括りつけられる骸を見遣りながらも。
晴れぬその表情は、心此処に在らずといった様子だった。
なにかを憂いて、思考は同じところを廻り続ける。その度に曇る表情は、やがて……大きな刺激を受けたかの様に瞠目して。

「――……っ、痛……!」

思わず漏らす声は、鋭い痛みが思考に割り込んで上げさせたもの。
少々ふらつきながら表情を歪める黒衣の少女は、なんでもないとでもいう様に、街の者たちを見送ろうと手を振っていった。

/置き進行になりますが、よろしければどなたでもどうぞー!
127ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/29(火)00:16:20 ID:6bK [1/4回]
>>125
その言葉の意を、決して信用することはなく、そして予想通りに眠りに落ちていった。
肩に掛かる重さについて。あとは彼女が自然と体が動くに任せるままだった。
時折、運転手のオルヴィエートが、目を輝かせてその姿を覗き込もうとするのを、片手で静止する。
まさか、如何に騎士とて、夢の中にまで手を差し伸べるようなことが出来るはずもなく……ただ、小さく身体を任せるままだった。

そうして辿り着き、彼女が輸送者から降りるのを、少々おっかなびっくりに追いかける。
常に背筋を伸ばし、その態度を崩さない振る舞いを見せているが、何度か垣間見えたように、感情は人並みに揺れ動くようだった。
ともあれ、彼女が無事降りることが出来たのならば、その後を追って、車両を降りる。

「そう、これがゴフェルン――――我等が要塞都市、ゴフェルンです」

未だ、夢半ばの空の方舟。そこには確かに、騎士をして、間違いではないと胸を張って答えることの出来る理想に邁進する
胸を張って名乗るのに、幾ばくの抵抗もなかった。ここならば、少なくとも健全に生きられようと。
そして、それを支えることもで出来るだろうと、言い切ることが出来る程度には。そこに情も持っていた。


「仕事……ですか……そうですね……」

仕事、というのであれば、探せばないこともない……だろう。
ゴフェルンは人手の足りている組織ではない。あまり好ましいことでは分かっていたとしても、ある程度は使わざるを得ない。
無論、彼女の年齢次第ではある。流石に幼子を戦場に駆り出すようなことは許されないが……選択肢としてはある。
ある、が。それを選ぶということはなかった。ただ、彼女に対して一つ、必ず備えなければならないものを確信していた。

「では、学校に通ってみませんか?」

そうして、提案したのは……仕事と言うには、余りにも遙か前段階を示す物であった。

「ここ、ゴフェルンには独自の教育機関があります。様々に事情を持った子供達が集まり、皆平等に教育を与えられます。
 教育とは、知識とは、学とは……何にも替えられず、奪われない。生きるための武器であり、宝となります」

無論、考えもなしにそう言ったのではない。彼女には、どうにも一般常識にすら疎い部分が見受けられる。
このまま、ゴフェルンの外に出たとしても、身を守る術すらも持たない彼女では、すぐに何らかの悪牙にかかる。
そして何より、子供の仕事というのはよく学び、よく遊び、よく食べることだ。恐らくは、彼女にはその経験もあるまい。
エデンという組織に対して、敵対する者として多分の悪視を含めたものではあったのだが。

「学校に通いながら、滞在するのであれば……一つは、孤児院でしょうか。
 集団生活を営むことにはなりますが……お金の必要はありません、学校にも通えるはずです」

ゴフェルンへの市民登録を希望する者達が、審査を待つ間に、一時的に生活するための施設が存在する。
然し、ゴフェルンへの新人類の移入は少なくはない。短いスパンで退去しなければならず、出来る限り早く家を探す必要がある。
そも、まだ彼女はこのゴフェルンを見て、知りたいという段階だ。移住を前提にする方法は得策ではないだろう。
学校には口利きをすれば、そこまで揉めることもなく通るだろう。この都市に住む人々の事情は多種多様で、子供達もまた同様なのだから。
その上で、妥当なのは孤児院に預かってもらうことだろうか。
食事に困ることもない。常に孤児院の職員によって面倒を見てもらえる。集団生活を強いることにはなってしまうが、それも勉強にはなろう。

「一つは、私の家に来る……という方法でしょうか。
 家を空けることが多くて、少し勿体ないと思っていたところなのです」

もう一つの選択肢は、それなりに荒唐無稽な方法でもあった。
心からの献身を以て、彼女へと提案するであったが、未だ完全に信を置かれているとは、自身も思ってはいなかった。
だが、少なくともプライベートゾーンを作ることは出来る。家に帰れば、大勢で居る必要もなくなる。
ともあれ、提示はした。あとは彼女の選択を聞くのみで、どう答えようと、善処することは約束しよう。

/遅くなってしまいまして申し訳ありません、了解しました……!
128ユーリヤ ◆</b></b>SNYu.akPHA<b>[] 投稿日:20/09/29(火)00:47:48 ID:PQP [1/5回]
>>126
手際良い、というより一瞬のうちに決着したマモノ狩りの様子を見ていた影がある。
身を隠すでもなく槍を携える姿は未だうら若く、しかし少女と呼ぶには抵抗のある歳の女性。
その身に纏う白いコートに金糸の刺繍はなく、つまりエデンとしての所属を隠してここにいる。
いつもは目深に被るフードも首元に遊ばせ、新人類としての羊角を隠そうともしない。



「見事なものだわ」

自分の獲物が横取りされた事を恨みも怒りもせず、素直に黒衣の少女を称賛する。
と、いっても街ぐるみであったならば仕留めたとて無理に独占するつもりはなかったのだが。

「……助けはいるのかしら」

どこかしらに痛みを抱えているのは明白ではある。
だが、それを理由に「助けてあげる」などと押し付けるのは好きではない。
──普段から無心で、或いは怒りに任せて行なっている事はそういう事なのだが、それは棚上げにしておく。

(…………ブリッツからの報告にあった妨害者に似ているわね……
まあ、私の知った事ではないけれど……)

立場は違えど同じ実動部隊、ただしそこに助け合いの輪を感じないし敵討ちなどというつもりもない。
あくまでも一個人として接触しようとする──が、コートは金糸によるエデンの所属を示す刺繍がないだけでいつも使っているものと似たようなものだし、
そもそも緑かがった白の長髪やら機殻槍などは普段通りだ。
向こうがエデンの情報に詳しくなくても、作戦行動や布教・救済と称した各地の支援で私の姿を見た事が有るかもしれない。
129グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/29(火)01:09:46 ID:T7s [2/6回]
>>128

「……?」

ゆるりと向ける視線が、声をかけた彼女の姿に重なって。
純粋に誰なのかを思案する様なあどけない表情は、属する組織を見抜けた訳でないことを隠してはいないのだろう。
そのまま少しだけ考えごとに意識を沈み込んだが、我に返ったように瞬きをすれば口を開いて。

「……ありがとう。

 もしお願いできるなら、あの人たちが、街まで無事に帰れるよう護衛を申し出てあげてくれたらうれしい……。
 私は、少し疲れてしまったから」

もしかしたら、同じ獲物を狙っていたのかもしれない。
戦いをする人みたいだし、悪意にはそれなりに敏感なつもりだけれど今は感じなくて。
それなら、せっかく申し出てくれたんだからなにかお返しがしたい――

普段であればもう少し警戒していてもよく、けれど今は疲労と消耗が勝っていた。
勿論、地の部分でお人好しなところもあるのだろう。
言葉にしたそれは、申し出に甘える様でもあるけれど。

……実のところ、立っているだけでそれなりに辛いことも――思っているほど上手く隠せてはいないのだろう。
苦しげなものをどうにか隠そうとする様な呼吸、気を抜けばふらつくかのように不定期に強張る躰。
そんな様で、さらに利他を追及しようとする様な答えは……
声をかけてきた女性ではなく、かたちのない心に突き立つなにかが、強がりみたいに助けを求めない今を生んでいることをも語るのかもしれない。
130ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/29(火)01:11:55 ID:0RO [1/6回]
>>127
労働とは価値を持つ行為であり。少女にとってはただそこに居て、言葉を与え、時に請われるまま手当を施すことがそうだった。
それを果たしているからこそ自由のない、しかし不自由もまたない生活を保障されていると、朧げながらも知覚していた。

「…………学校……そこに行けば、世界の事をもっと知れるの?」

だから学ぶことを本意とした場が存在することも。況してや本来子供とは、知識と経験を蓄えるべき時期であるとすら想像がつかない。
未知の領域、何が待つのかも闇に霞んで見えないそれに、ふと浅い皺を眉間に刻む。胸の前で組んだ指が忙しなく手の甲を叩いた。
不安げな所作は環境の変化にどうしたって付随する憂の表れ、均衡の怖気と興味は後者に傾いていたがそれよりも。

「孤児院って、あの?…………あまり、良い印象はない」
「……それにわたしの周りは、大人ばかりだったから……歳の近い人と、話すのは……」

修道院に併設された、孤児を拾い養う慎ましき家。神の名を掲げるエデンにも似たような施設はあったし、慰問と銘打って足を運んだこともある。
しかしそこで見たのは、世界に背を向けた昏い絶望だけだった。その隙間に主の救いの何たるかを語り、如何にして救済を得るか語るものだから。
痛みを恐れず神託を信じて赴く戦士の萌芽が育まれる場所。そういうイメージが先行して眉を曇らせる。
それだけにもう一方の心証が、年相応の人見知りらしく浮いて朱の滲んだ髪を揺らした。

「でも……あなたに頼ってばかりなのも、迷惑だと思うから……」
「……やっぱり、自分でどうにかする。どうにかなると、思う……多分……」
131ユーリヤ ◆</b></b>SNYu.akPHA<b>[] 投稿日:20/09/29(火)01:23:28 ID:PQP [2/5回]
>>129

自分ではなく他人を助けてやってくれという姿勢、この世界においてはもはや珍しい──と私は思う──精神性だ。
それに免じて要望を聞いてもいい……のだが、正直面倒だ。

「構わないけれど……今ここで何かに襲われたらきちんと抵抗出来るのかしら。
 もし私が悪い人間で、マモノと戦い疲弊した隙を突こうとしていたなら悲惨だったんじゃあない?」

本当は構うし、どちらかといえば悪い人間だ。
方便も今考えたものだが、意外とその通りにしてしまうのも悪くないかもしれないと思うのは中々にライブ感のある考え方をしているなと自分でも反省する。
ともかく、そんな意地悪な問いと共に歩み寄っていく。
右の手をかざし、その先にエーテルを集中させれは出来上がるのは水の球。
そこに圧を加えれば壁にも槌にも槍にもなりうるが、漂わせる分にはただの水だ。

「水分の補給だけでも効くものだし、痛むところが有れば冷やすのにも使えるわ
 いらないというなら押し付けはしないわ、どうせタダも同然なのだし」

ただの水は、人の命を育み守る事が出来る。
古来よりそうしてきたように、目の前の人間へそれを与えようとする。
それは普段から神官として行なってきた施しであり、エデンとしての働きの中でも唯一価値を感じているものだ。
無論、今回は個人として行なっているのでただの人助けに過ぎないがその方がしがらみが無くて気が楽だ。
132グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/29(火)01:45:34 ID:T7s [3/6回]
>>131

「ぅ……、――。

 ……そのときは、動けなくなってでも刺し違えるよ。
 そのくらいの力は……まだ、残ってるはずだと思うから」

痛いところを突かれた様子で、変化に乏しい表情が、僅かな変化で言葉とは裏腹の実相を語るのだろう。
隠し事が不得手で、本当に刺し違えられたとしてもそれが望ましいはずはなく。
向けられた言葉の通り、悲惨なことを否定できてすらいない。

そのことに気を配る余裕がないのかもしれないが、力の大きさや戦い慣れた様子からはかけ離れたような子供の部分。
それを、或いは今だからこそ露にしていて。

筋道だった彼女の言葉に、やはり悪意なんてないことを確信した。
こうまでされて無下にするのも、どうにも出来ずに。

「……わかった、降参。少し、待ってて……」

諦めたようにため息ひとつ、コートを脱げば、すらりとした肢体を被覆するインナーが露わになる。
そうして、同じく新人類であるこの女性に背中を向け。


「……背中が熱を持ってしまっているのが、あまりよくはないんだと思う。

 ただ……少し恥ずかしいから、冷やすのはこの上からにして。……それでいい?」

振り返りながら向ける言葉は、先日の一戦で、投擲されたナイフが突き立った背中の傷が痛むことを伝えた。
露になる肌こそそう多くなくとも、体型を晒すことに変わりはなくて。
それを恥じらう様でもあり、施しを享けながらの、自らの注文の多さに羞恥を覚える様でもある。

同時に、オルヴィエートの新人類なら翼の根元にあたる部分が僅かに突起してもいたのだけれど……
インナーの形だと言われればその程度にも見えるだろうし、着目されることはないはず、と自分自身に言い聞かせた。
133ユーリヤ ◆</b></b>SNYu.akPHA<b>[] 投稿日:20/09/29(火)02:00:12 ID:PQP [3/5回]
>>132

「仇敵でもない相手と刺し違えるだなんて……勿体ないにも程があるわ」

それは相手の言葉が本心であっても本気でない事が分かる故の冗談。
死ぬのはいけない事であっても道徳ではなく実利の面で語る、無論私はそこまでドライな人間ではない……「なかった」が正解かもしれない。

「ふふ……恥ずかしがらなくてもいいのよ。
 こういう能力を持っていると、人の治療に回る機会は多いもの。
 私なら水道が通っていない環境でも清潔な水が得られる、新人類というのはつくづく便利なものね」

そんな、自分達を取り巻く環境を皮肉るようにしながらも彼女の背中を見やる。
傷口からどのような得物によるものか、それが自分の同僚によるものかを確かめようという意図がなかったではないが、脱衣を無理強いするほどではない。
要望通りに水の球を押し当てれば、そこから冷たさが広がるだろう。
ついでに言えば逆側から押し留める事によって球状を保つようにしているので衣服が濡れる心配もない。

「……私、今笑ったのね」

別に生来笑うことの出来ない性質というわけでもない、ただ単に復讐心と与えられた役割がそうする暇を奪っていただけだ。
そして復讐心は変わらずこの胸にあるし、捨て去るつもりもない。
だが、久々に得た感情に素直に反応出来た事に少しの戸惑いがあるのは事実だった。
その戸惑いと水球の維持に神経を使っていたせいか、彼女の背中の違和を追う事はない。
134ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/29(火)02:03:41 ID:6bK [2/4回]
>>130
「そう、そこに行けば、きっと貴女は一人で生きていくための知識を得られます。
 この世界をもっと知れる、今まで見て知ったものの事を、もっとよく見ることが出来る」

知識を得るとは、視野が広がることでもある。これから見に行く世界のことも知ることが出来る。
これまで見てきた世界についても、より解像度の高い視点で見ることが出来るだろう。
なんにせよ、ヘールという少女は、教育は何にも代えがたいものであると思っていた。
仮に、ゴフェルンを彼女が気に入らないと言くことになるとしても、それだけは教えておきたかった。

「……そうですか? 私は、それでも、近い年齢の子と話すのは良いことですし。
 何かを強制されることもありません。ここはオルヴィエートの支配下でもありませんし……」

幼い身で、未知の街へとやってきて、不安に駆られることは分かっているが、どうすればそれを解消できるかは分からなかった。
自信が胸を張って立ち、肩書と武勇を以て指し示せば信を得ることは簡単だったが、それが通じないのならばどうすればよいのか。
全く、知らないままで……背筋を伸ばし、微笑みを絶やさず、然しそこに焦燥のようなものが見えて取れるのだった。

「私のことを気にする必要はありませんよ。私は何より、後に続く者達を一人でも多く育てたい。
 強いて言うのならば――――その返却は、その素晴らしい未来を、その目で見ること、でしょうか」

どうにかなる。そう語られても、そうと頷けるだけの諦めの良さは、持ってはいなかった。
何より、後進の育成をこそ重視していた。まだ若く、少女の齢ではある。本来であれば、自分が後進であるべき身ではある。
だが、そうはなれない。戦士になるべきとは思わない。何か、大きな事を求めるわけではない。ただ……正しい教育とともに。
より寛容で、お互いに寄り添える世界を、自分の代わりに見てほしい。それが、心からの願いであり。

「それに、本当のことを言えば、心配です。貴女は本来一人で生きるべき年齢ではないのですよ?
 もう少し、周りの人間に甘えて生きても良いのです。これは決して、貴女の自主自立の精神を否定するものではありませんが……」

その常に余裕であるように、威厳を保つように、伸ばされた背筋も滑稽にすら見えるようになってくるかもしれない。
目に見えて流れる汗の粒と、紡がれる言葉が、早口になっていく。何かをアピールするように、人差し指を立てて。
兎も角、目の前の少女を、何らかの解決を見出さないまま、さよならをしたくはないようだった。

「ならば仕事……ですが子供では……ちょっとした店……ですが出入り業者も多く……。
 でしたら役所仕事を……どこかの掃除……しかし子供に仕事など、手伝い以上は……」
135グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/29(火)02:25:23 ID:T7s [4/6回]
>>133

「なにも出来ずに、全部無意味にしちゃうなら……
 そんなことする人を道連れにした方がまだ、私の力に応えてあげられるんだと思う。

 でも、それももったいない……? ……むぅ。難しいね」

なにを願ってもどうしようもない状況は、きっとあって。そんなものを想定するから、刹那的な言葉になることもある。
けれども本気でそうしたい訳もなく、冗談として流すのもそう上手くなく。
結局、翻弄されるみたいにその先の言葉に迷って困り声を零した。

「…………、……。――」

彼女の事情を耳にして、恥ずかしがらなくていい、なんて言葉は合理的で。
それでも感情はまた別のものだから、黙り込んで、身動ぎしたくなる思いを堪える。
施しを受けることにもやっぱり慣れずに。
目を瞑り、少しずつ楽になる傷の痛みに心地よさそうに漏らす吐息が、暫し少女のたてる僅かな音になる。

その最中の言葉に瞬けば、また少し和らいだ瞳に戸惑う姿が映し込まれ。

「……あなたは、あまり笑わないの?

 いつもこんな風に人のために力を使って、誰かに笑顔をあげられそうなのに。
 ……勿体ないね。じゃあ私がまた怪我してまたあなたに会ったら、また笑いそう?」

自分を癒してくれるひとが、珍しく笑ったというなら嬉しいこと。
陶器人形めいた容貌に人らしい温度を添えて、やりかえすみたいに、冗談と微笑みを向けてみせる。

なんとなく得意げでもある表情は、また見たいし聞きたい、だとか――そんな感情のまま弾む声を、楽になった躰だからこそ乗せる様だった。
136ユーリヤ ◆</b></b>SNYu.akPHA<b>[] 投稿日:20/09/29(火)02:38:54 ID:PQP [4/5回]
>>135

「無論、それが望みというのはなら押し付けはしないわ。
 けれど……そうね、私にはどうしてもやりたい事があるかそう思うだけかもしれないわ」

その内容は人に語るべきでない深く昏く愚かしくも野蛮なる、正当な復讐。
当然、話題に出ればはぐらかす気満々だ。
だがそれとして今の会話の流れは事実だし考えさせられるものがある、自分に明確な目的を持たないならば悪と道連れなんて生き方も悪くないのかもしれない。
まあ、恐らく彼女の価値観に照らし合わせれば私は悪の側なのだが。

「そうね……作り笑いなら沢山するのだけれど。
 表に出すのが下手なのよ、こんな事するくらいには感情に素直な癖にね」

こうしている間も、微笑みに取れなくもないといった表情なのは自覚している。
別に表情筋がどうこうという話ではないし、ゴフェルン相手にはよく怒りを露わにしている。
もしかすると負の感情ばかりが支配していたのかもしれないと思うと少しゾッとする話だ。
そう考えながらも連ねられる問いに対して少し考え込み、答えを出す。

「……怪我の理由にもよるけれど……
 多分、また怪我している事に呆れるんじゃあないかしら」

眉を下げ我ながら困ったような顔をしながら、おもいっきりはぐらかした、と言っても理由がある。
自分に言い訳をするように並べ立てるが、彼女がブリッツと──彼女の方からこちらを妨害する形で──交戦した者に容姿が近く、そうでないという確たる証拠もないからだ。
次に会う時は敵同士かもしれない、という事を思うと真っ赤な嘘には少し抵抗があった。

//すみません、今夜はここから置き進行でお願いします……!
137シュトラール◆</b></b>hHMogxWV7M<b>[] 投稿日:20/09/29(火)02:58:27 ID:imW [1/1回]
>>123

(わあ、予想以上にパワフルな避け方です)

シュトラールは内心愕然としていた。当初の予想通りではあったが、彼我の運動能力差は歴然だった。
そもそも幾ら日頃から訓練を嗜んでるからといって、常日頃より最前線にて活躍する戦闘員と同等に立ち回れる筈がない。
高揚するノーマンとは対照的に、シュトラールは若干の後悔を胸に抱きつつ、しかし思考が諦観に切り替わることなく瞬時かつ冷静に状況を俯瞰する。

(……落ち着いて、一挙一同を捉えるように。派手な動作は一見威圧的でも、実際は大きな隙を伴うもの)

元より身体能力や一撃の威力で張り合うつもりはない。
シュトラールにとっての勝機は微々たるものだからこそ、一瞬に生じる僅かな隙を決して見逃してはならない。

回転蹴り。体重を乗せた高速の一撃が直撃したならば、シュトラールの小柄な体躯など容易に吹っ飛び、意識が刈り取られることだろう。
しかし威力を実現する為の回転は明確な予備動作であり、可視化された攻撃予告としてシュトラールに判断の余裕を与える。
一瞬の時間である。しかしその一瞬さえあれば、彼の足先が何処を狙っているかも、どう応じればいいかも見極められた。

(……狙いは頭!だったら、敢えてギリギリまで引きつけて……!!)

限界まで引き寄せる。蹴りが眼前へと迫ったその瞬間に、身を屈めて一撃を頭上へとやり過ごす。
脳天狙いであることが判別できたことに加えて、シュトラールの小柄な体躯があってこそ可能な回避手段。

「…………はあ!!」

そしてシュトラールは距離を引き離すことなく、そのままカウンターに転じた。全力で床を蹴ると、勢いのままにショルダータックルをノーマンの上半身に目がけて炸裂させる。
シュトラールの筋力、そして体重ではその威力は決して強力とは言い難い。だが、上段狙いの蹴りを放った直後の不安定な姿勢では、これを受けて踏ん張ることは極めて難しい。
だからこそ回避が間に合わなかった場合は、ノーマンの身体は後方へと吹き飛ばされることになるだろう。
138ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/29(火)03:16:05 ID:0RO [2/6回]
>>134
知識がどれだけ高尚で、学識が如何に解を求めるのに先立つか。漠然と察してはいても、実感するには至らない。
故に徐々に熱の入る論弁は、それをいっぱいに言い聞かせようとしているがための気勢だろうかと。
会って間もない仲ではあるが、どうにもらしくないように見えてしまうのは、生憎と気のせいではないのだが。

「だって、それでも……どうすれば分からないし、緊張する」
「……そう。それならいいけど」

外界から隔てられた特殊な環境で育つと、こうも面倒になる場合があるらしい。
子供扱いされるのは、陶器のように遇されるのと似ていたから気になりはしないというのに、同じ子供を相手取るのは不慣れとのたまう。
確かに恐怖や警戒に気を張っているか、そうでなければ淡々とした言動が常であるから、見た目相応の振舞いとはやや遠くはあった。
或いは何かを強いられることのない、圧力の絶無への根本からの諦観。知られなければいいと、秘匿を胸に刻んで両腕を抱いた。

「その要求は、むしろ重荷。誰かが考える素晴らしい未来が、わたしの幸福とは――」

例えば組織力を高める為の偶像として、飛べない翼を広げること。
彼女は何も、その方向を指し示したわけではない。ただ、背中を押そうとしてくれているだけだというのに。
言葉を引っ込めたのは険があったと自責が覗いただけでなく。思いもよらない焦慮が、森厳を秋暮れの如く染めていくのをようやく見て取ったが故。

「…………心配……して、くれているんだ」

立場に関係なく、個に対してそうはっきりと告げられたのはこれで二度目。一度は委ねる先の安寧に信を置けず突っ撥ねてしまった。
今なら分かる。あの女性も目の前の彼女も、こんなに他人事に狼狽しているのは。
それがきっと個々の普通で、理由のない、けれど何人にも書き換えられない生命の指針なのだと。

「分かった。分かったから、落ち着いて。少しの間だけ、甘えさせてもらう」
「……今はまだ……異教の場は落ち着かないから……ヘール、あなたを頼ってもいいかな」

しどろもどろな勘案を、困ったように首を傾げて嗜める。
人は他人が平静を失っているところを前にすると、自分でも驚く程に冷静になれる節がある。
だからグレイの双眸でまっすぐに見上げて、告げる声は凪いだ湖面の如く透き通る。止まり木を定める微かな不安が外套を握る指に宿った。
139ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/29(火)03:25:55 ID:6bK [3/4回]
/申し訳ありません、本日返レスはできなさそうです……!
/返信は午前中、あと数レスで〆に入ろうとは思います……!
140グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/29(火)03:33:31 ID:T7s [5/6回]
>>136

「そうなりたい訳じゃないけど……それしかできなかったら、そうするんだと思う。

 ……特別な誰かを助けてあげたり、とか? すごく、そういうのも似合いそうだよね」

不安に翳る言葉は、聞く彼女は違うかの様に紡がれる言葉に、なにかを思い。
なにかに気付いた様に明るい灯を点して続く。

願いは時に深い痛みを伴う。問うことはなく、自分が想像するままの彼女の願いを口にしていた。
確証なんてどこにもなく、見ず知らずだった己にこんなことをしてくれる人だからなんていう緩やかな空想。
けれど……どうしてもやりたいことがあるという彼女の言葉に、思い出せたことがある。

成せるか否かすら問題じゃなく、そうするのだと決めたこと――
翼を刈ってまで人に溶け込んで、願う明日を目指し続けるということ。
打ちのめされ、恐怖とともに刻み込まれた憎しみと予言めいた言葉は、再起の意志を前にただの過去になって。


「それなら私は、もっと今みたいにしてるのが見たいな。
 したいようにしててくれたら、そんなことも増えるのかな……

 恩返し、何か思いついたら教えてほしい。力仕事は得意だし、人よりは出来ることも多い……!」

自然体でいてくれるのが嬉しいし、そのために、なれるのなら力にもなりたい。
自分に何ができるのかなんて分からなくても、それを言葉にすることは今は出来て。
根拠のない自信みたいに伝える様は、どうにも日常の彩を空気に添えるのだろう。

また怪我していることに呆れる、なんて言われてしまえば……
少なからぬ頻度でそんな状況に陥っていることを思い、なんだか意気消沈した様子で、僅かに眉が垂れ下がるけれど。


「……名前、聞かせてもらってもいい?

 私を癒してくれてるひとを……いつまでも、あなた、ってだけ呼ぶのも変だと思う」

完全に個人として、まるでこれからを願うみたいに問いかけた。
エデンの者に名乗ったことはなく、偽名を名乗られても識りようはなく。
ただ好意を抱ける隣人に、抱く思いのまま接する様に。微笑みとともに、また言葉にしたのだった。

/了解です、遅くまでありがとうございました…!続きは、置き進行でお願いしますー!
141 : ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/29(火)03:41:43 ID:0RO [3/6回]
>>139
//かしこまりました、こちらは一日お返しできると思いますので!
142ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/29(火)11:51:06 ID:T2b [1/2回]
>>138
焦燥はそう珍しい感情ではあるまい。物事が上手く立ち行かないことは往々にして在り続け、今回もその通りだった。
実際、想定通りに作戦が行かなかった、戦闘行動に大きな逸脱が発生した、程度のことではその立ち居振る舞いを揺らがせることはない。
だが今、ピンと張られた翼が、心做しか潤いを失っているようにすら見えるのは、決して気の所為ではない。

「そう、そうなのです。私は何より心配で――――全ての人々を助けられるとは、矮小な私の身では決して思いませんが、
 然し、私の手の届く範囲の人々であるならば、尽くを救いたいと……確かにこれはエゴイズムなのかもしれませんが……」

彼女の淡々とした言動が恐ろしいわけでも、過去に敵対者であったことが問題ではないというのは、態度を見れば分かるだろう。
兎角、そういうものに頓着しない性であった。その願いや人間性、内面は、殆ど目の前の相手に見せたもので全てであった。
子供とは、無知であり、無力であり、庇護されるべき存在であるというのは、十把一絡げの偏見であるのかもしれないが。
少なくとも、それを信じて、ここにいる少女に自身が定義した幸福を歩ませることを、第一としている。

「――――!! ええ、勿論です! 御安心を、児童の一時保護経験は何度かあります。
 ちゃんとお部屋も用意しています。御安心を。不自由はさせません」

表情も、姿勢も、変わるものではないが、だからこそ僅かな変化で、ぱぁと心境が明るく照らされたのは分かるだろうか。
さて、一時的に、子供とはいえ、自身の部屋に招くことに抵抗がないのは、自身の思想と人格も当然ながらあるとして。
彼女のような子供は、珍しいとはいえ存在しないわけではない。経験があるからこそ、でもあった。
何れも、短い期間で離れて、在るべき場所へ、在りたいと思った場所へと向かって行きはしたが。

「……申し訳ありません。貴女も不安でしょう。貴女は私が護ります。これだけは、約束させてください」

少女の、灰色の瞳が真っ直ぐと見上げる。目の前の少女は、果たして自分よりも遥かに不安に溢れているだろう。
だと言うのに。平静を保ちながら、妥協させ、ルールの下に置かれるのは、孤絶よりも漠然とした恐怖すらも在るだろう。
その不安を取り除くには、時間の経過以外にはない。せめて、その凪いだ水面に、浮かぶ僅かな波紋に、両手を重ねる。

それから、彼女を連れ立って、手続きに向かうだろう。

「孤児の申請を――――移住ではなく一旦様子見で――――長期滞在用のIDを――――。
 責任者は私で――――連絡用の端末を一台貸し出し――――」

幾つかの大まかな手続きは、代理で行う。必要なもの、そうでないもの、彼女へと選択を迫るには厳しい物がある。
手際自体は手慣れたものであった。代理で行えるものを終えたのであれば、後は彼女自身の受け答えが必要になる。
文字の読み書きが出来ない場合でも、口頭記録による受け答えが許され、文字での書き出しはそちら側でやってくれる。
名前を含む分かる範囲でのプロフィール、病歴等。それを終えれば顔写真の撮影に、IDカードの発行。
煩雑で合間に待たされる時間も多い。長椅子で待たされる間、大人しく両翼を畳み、二人並んで待っていることになる。

「手続きは完了です。これが連絡用端末、これが貴女のIDカードです。
 説明は私が後で行いますから、先に家に向かいましょう」

そして、少女へと提示したものを差し出した。何か分からなくても、大切なものであることは分かるだろうか。
矢継ぎ早ではあるが、手を取って、少女を自身の家……正確にはゴフェルンでの家、に案内するだろう。
歩くことになるが、そうまで長くはない。少なくとも、彼女が歩き続けた道程よりは遥かに。

「さぁ、どうぞ。遠慮はなさらず。
 此方の部屋は好きに使って頂いて構いません。貴女のお部屋ですから」

さて、部屋については質素なものであった。
質素倹約を旨とするオルヴィエートの規範となる騎士である以上、当然ではあるが、実に何の変哲もないものだった。
壁には子供や仲間と映る写真。技術書、哲学書、教科書、絵本等が並んだ雑多な本。
騎士勲章とスティレットがそこに飾られ、その横に小さなロザリオと教典が慎ましく置かれている。
案内する部屋には、勉強机とベッド、コートハンガーが置かれている。何れも、年季とは言わずとも、使われた後が見える。

/先日はありがとうございます、お返しさせていただきます……!
143ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/29(火)14:33:35 ID:0RO [4/6回]
>>142
静は動を際立たせ、微細な変化ですらも甚大に変えて強調する。
気色に歓喜がさしたのを捉えた瞳がすうと細まる。焦慮が鎮火した安堵、或いは明確に宣言してしまった行先への燻る不安。
それでも、頼っていい相手だと言った人間がいる。心配だと言ってくれた者がいるから。

「…………ありがとう。よろしく」

そうして手続きの場に赴いたなら、最初は何かできることがあるでもなく。段階が進んでいくのを横目に、落ち着きなく役場内を見回す。
その内容だって大部分が耳を通り抜けるばかり。自分のことを他人が進めていること自体には、何の抵抗もないようだった。
次段階に入って声をかけられ、差し出された書類と共に読み書きの習得を問われた時。束の間の沈黙を挟み、首を横に振った。

「出来るけど……これは知らない文字。わたしが知ってるのは――――口頭でいい?そう……」

試しに紙の端に書きつけたのは、綺麗に整ってはいるが今の世では既に失われかけている、聖書の原本に用いられた古き言語。
読める人間のずっと少ない語に役所の人間も困惑を顕にし、音声言語を用いた受け答えと相成ったはいいのだが。
今の要素で語ったのは名前と齢十三、背中の翼。過去の遍歴で口にしたのは既往歴だけで、生まれや前歴は愚か、それまでの生活の一片たりとも明かそうとはしない。
本当に知らない部分もあるのだろうが、特に軟禁同然の頃に掠める話は明らかに、意図的に口を閉ざしていた。

「……やっと、終わり?……ふう…………」

それからも多岐に渡る手続きと、狭間に空いた待ち時間に翻弄されて。全行程が終了した証を手渡された頃には、疲労の色を隠そうともしていない。
息をついて、端末をしげしげと観察する。ただの板にしか見えていないのだろう、訝しげに何度も裏と表をひっくり返して。
その答えを後回しにし、手を引かれて歩き出す。道中、怯弱と興味の綯い交ぜになった双眸だけが疲れを知らず動き回る。
そうして辿り着いた場所もまた、少女にとっては未知の世界。何もない、バイブルと寝床だけがあった鳥籠とは違う、人の営みの場。

「…………ここが、ヘールの家……こんなに、物があるんだ……」
「……本当に、自由に使って……出入りしてもいいの?用がなくても……わたしを、使う時じゃなくても」
「…………好きな時に、外に出られるの?」

感慨に近しい響きでひとりごち、緩慢とした動作で外套を脱ぐ。輸送車から降りて初めて、六枚の翼が外気に開いた。
少女にとって己の部屋とは、必要とされない時に放っておかれるだけの場所だった。娯楽もなく、扉を開けることすら許されず。
ここは同じではないと、理性では理解していても。逃げなければならない物が、逃げたいと思った物が横たわる不安は中々に拭えない。
かつての日々を追想し、道具の不自由を編んだ鎖が足首に絡む。微かに震えた確認の声が、窓から射し込む夕焼色に溶けた。
144ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/09/29(火)14:38:33 ID:qEu [1/1回]
>>137
肉体性能に差があることはノーマンからしても明白。だからと言って躊躇すると言うことはない。
手加減する。それは相手が自身より劣っているから、弱いからと言う慢心の表出に他ならない。要は心のどこかで相手を舐めているのだ。
それは訓練において最大級の侮辱であり、礼節に欠けるものであると随分昔に教えられていた。
故に彼は一切の容赦をしない。死なない程度に本気を出す。

(……高すぎた)

普段自分より背丈の高い相手と組み手しているからか、彼は回避された瞬間に軌道の修正を感じる。
実際はシュトラールが小柄であることなど様々な原因が重なった末の結果だが、蹴撃が不発に終わったことは変えがたい事実。
タックルにより後方へと吹き飛ばされる。後方宙返りの要領で一度床に手をつき、そこから体を押し出すようにして受け身を取る。
着地した時には彼とシュトラールの距離は4m程離れていた。

「シュトラール」
「君はどんな力が使えるんだ?」

不意に投げかけた問いかけ。今までにシュトラールの能力を目にする機会は無く、また関係する資料の閲覧顕現も彼には無い。
先程、彼女が実戦形式での訓練も候補に挙げたことから能力による戦闘も可能なのではないかと彼は予想していた。

「なんなら、マジのやつをやろう」

彼はシュトラールの実力を認めていた。だからこそ、更にその先も知ってみたくなる。
にわかに空気が焦げるような音がした。
145ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/29(火)15:51:21 ID:T2b [2/2回]
>>143

幸いながら、彼女が過去を語るについて口を閉ざすのに、大きく進行を妨げるようなことはなかった。
これで、もしもある程度の年齢を経た大人であったとしたならば、流石に素通りというわけにもいかない。
だが、あくまでもこれは児童保護であり、ならば語りたくない過去はあって当然。それを聞き出すのは、手続きの内ではない。
古代文字。それだけは書けると言う彼女に、エデン内部における歪な教育を感じつつも、手順は滞りなく終えるだろう。
日が落ちかける要塞都市の中を、少しの間歩き回る。彼女にはまだ、チカチカと強く輝く光を直視するようなものかもしれない。
その瞳が、慣れる頃にはその怯えが拭い切れることを、期待して。


「上着はどこかに掛けてください、それから、ファラ。ここに座って」

家の中へと案内したならば、彼女の問い掛けへの答えを聞くよりも先に、椅子に座るように促した。
机を挟んで、荷物を置かせて、腰を落ち着かせて、向かい合う。それから、小さな咳払いを一つすると、その瞳は。
そのは緋色に揺れる瞳を、紺碧の瞳が、揺れること無く真っ直ぐと見つめる。
浮かべた笑みは消えて、焦燥に揺れ動いた様は、面影すらも残さなかった。

「これから貴女は自由です。自由に学び、自由に遊び、自由に休むことが出来ます。
 貴女を虐げようとする者はいません。誰かに何かを強いられたならば、私が、誰かが、貴女を守ります」

今ここに、彼女を咎めようとする者は誰もいない。
ID登録されたカードキーを使えば、簡単に部屋の扉を開くことは出来るだろう。
そこにある本を自由に使っても構わない、どこかに買い物に行くのだって、簡単だ。連絡がなければ少し騒ぎにはなるだろうが。
縛鎖は無い。そこに求められるのは、最低限の常識と法律だけだ。

「貴女の過去について、深くは問いません。貴女がこれまで何者であったとしても、関係ない。
 貴女は、何者でもない、他ならぬ『貴女』として、自由に振る舞いなさい」

共に主への感謝を唱えろと、強制することもない。宗教とは規範だ。自身を律するための、一つのルールである。
それが自意識であるから、彼女に教典を読むことを勧めることだってしないつもりだった。
何を信じ、何を見つけ、何に従うか。それを考えるのは、他ならぬ少女の選択だ。

「……ただ、帰りが遅くなるときは、連絡を欠かさずお願いしますね」

まだ使い方を教えていない、彼女からすればほんの板切れ。それが唯一、彼女を縛る物と言えるだろうか。
口元に常に浮かぶ微笑みとともに、背筋を伸ばして聞いて欲しい話を、区切りとする。
146ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/29(火)19:06:00 ID:0RO [5/6回]
>>145
静かな高揚と僥倖への不安に冷や水をかけて、大人しく示された椅子に腰を下ろす。
元より整頓する荷物もない着の身着のまま、残り乏しい路銀と以前施された水と食料程度。
それらを机に上げ、背を伸ばしてまっすぐに向き合う。背負った翼だけが、呼吸に合わせて律動する。
凛と張った空気だったが、厳格を孕んではいなかった。告解にも似た緊張感は、むしろ落ち着きさえ齎すものだった。

「…………わたしとして……自由に……」

最後まで口を挟もうとはせず、全てを聞き入れた後の沈黙にそうぽつりと零すだけ。
ヘールの顔を見据えてはいても、意識は深い思索の水底。微動だにしない少女を、羽の動きが辛うじて彫像でないと伝えた。
そうしてどれだけ時間が経ったか、日が地平に口づけを交わす頃。ようやく静かに唇を開いた。

「…………ここまでしてくれるあなたの望みに、どれだけ応えられるかは分からない」
「もしかしたら、やっぱりゴフェルンあなたの国も、間違ってるって言い出すかもしれない」

殉じるべき狂信が恐ろしくなって、一度は逃げ出した。今もまだ、何が正しいことなのか、正義の溢れた世界の輪郭だって分かっていない。
万物への不信とまでは言わない。ただ人が語る正義を、素直にそうと認めるのが難しくなっていると、朧げながらも自覚があった。
白い翼は、きっと何色にも染まる。だからどんな未来も、確約することはできないのだ。

「――――でも、これだけは約束する。わたしはわたしとして……今ここにいるファラとして、やりたい事を、やりたいようにやる」

時には天使としての振舞いを、教義を捨てきれないこともあるだろう。
だがこの宣言は、傍若無人を唄ったものでは断じてない。理念とは異なる、もっと本質的な在り方を定義付けるための信義。
人の価値観を理解しようと努めても、引き摺られはしないと。確固たる意志を鈍色の眼光に秘めて臆面もなく言い切った。

「…………離れてたら、連絡も取れないと思うけど……」

これでか、と言いたげに、連絡に言及されれば端末を持ち上げてまたまじまじと観察する。
照明に透かしてみたりとどう見ても見慣れていないから、一から教えるにはどうやら根気がいるようだった。
147ユーリヤ ◆</b></b>SNYu.akPHA<b>[] 投稿日:20/09/29(火)20:18:30 ID:PQP [5/5回]
>>140

「私のやりたい事など至極つまらないものよ。
 ……そうね、腹一杯になるまでフルーツケーキを食べたいとかそのレベルのもの。
 こう見えて意地の張る人間なの」

嘘は言っていない、明言はしていないし感情のままに何かをしたいという観点ならば同じようなものだ。
意地を張るというのも事実、そうでなければ諦めて隠れ住むか怒りを呑み込んででもゴフェルンに行った事だろう。
誤魔化しのついでに、意識を向ける目的とはいえ許可さえ得られれば後ろから髪を梳く。
随分と気を許したものだなあ、と自嘲するが表には出さないし出そうとしてもあまり出ない。

「したいようにする……それが難しいのよね。
今もたまのオフだからこうしていたけれど……見つかると色々とうるさい所にいるの。
イスールから色々あって連れ出してくれた事には感謝してるのだけど……そうね、内心ではうんざりしていたのかも」

気の抜けるままに、余計なお喋りが口をついて出る。
その情報を聞いてゴフェルンか、そうでなければエデンを思い浮かべる事も十二分にいるだろうに。

「恩返しだなんて浮かばないわ……新人類であるあなたが自然に気負わず生きていけたらそれでいいなって……
…………よく考えると、他人に欲望を投影して押し付けるのって、中々重いわよね」

これは敵とか味方とか関係なくそう思っている。
そう思う程度に、私は自然体である事を忘れていたからだ。
そうして、エデンに戻ればまた忘れるのだろう、正気のまま狂信の内で自分を保つ事は難しいから。

「…………ユーリヤ。
 ただのユーリヤよ、何の変哲もない、普通のユーリヤ。
 そうね、私もあなたを名前で呼びたいわ」

エデンにおいては別の、洗礼名を名乗っている。
だから自分の名前と情報が結びつく事はほぼないだろう。
仕方がないとはいえ、嘘をつくようで気は引けるが致し方ない。
微笑みに対し本心からの、しかし僅かな笑みで返しながらも心は忘れたはずの痛みを感じていた。
148ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/29(火)21:16:39 ID:6bK [4/4回]
>>146

沈黙に対して、口を挟むことはなかった。思考は沈黙を糧として育まれるというのであれば、それを妨げる理由など無かった。
果たして、どれほどの時間が経ったか、数えることもなかった。ただ、彼女が自ら、何かを語るまで、沈黙を保ち続けていた。
そこに開く答えが、未だ何もわからないというのならばそれでも良かった。重要なのは、彼女の意思を聞き出すことだ。
そしてやがて、開かれて、紡がれた言葉には、端的に答えを返すだろう。

「ええ、それだけ約束してくれたなら、十分です」

確かに少女は約束してくれた。それだけの言葉があれば、他に何か、求めることもなかった。
そのやりたいことが、間違ったことなのであれば、それを是正するのは、先を往く者の役目である。
彼女がこれから先、どこに、どんな価値観を見出し、何を成して、成さないか……それを知れる程に時間があるとは思ってはいなかったが。
今は確かにその、瞳に宿る光を受け止めることが、先達の役目であることは間違いなかった。

「貴女は、貴女自身の目で、何が正しいかを見出し。どうか貴女の、正しいと思うことを成してください」

よく学び、よく遊び、よく世界を知り……願わくば、十分な知識と視野で、世界を判断すること。
それだけが望みだった。その正しさを肯定するか、否定するか、それはまた別の話になるものだから、それはそれで良いのだ。
ただ、彼女の歩む道が幸福であらんことを祈る。どうか、これよりの道程は、今まで歩いた道筋よりも明るいものであることを。

「そうですね……知りませんか。
 それの使い方はですね……まず起動のために、サイドのスイッチを……」

一般常識がすっかりと欠落している彼女に、技術の塊であるその機械の役目を教え込むには、なかなか手間のかかることだった。
だが、その断固たる鋼鉄の意志については、並ぶ者などいないと謳われる人物にとって、その程度の事はなんということもなく。
日が沈み、夜が暮れ、就寝時間の夜二十ニ時になるまで……連絡の方法から、お湯の調節まで、兎に角付きっ切りで、教え込むことになるだろう。


/それでは、こんな感じで締めにするのは如何でしょうか……!
149ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/09/29(火)22:38:28 ID:0RO [6/6回]
>>148
柔らかな肯定に、麗かな祝福に莞爾たる微笑を須臾に返す。
殆ど必要とされなかったそれを長時間保てはしないが、到達した先の感情が花弁と散るわけではない。
先刻まで、遡れば邂逅の時から晴れずにいた憂悶の雲も、今では随分と光を通すようになったようで。

「ここ?…………ひかっ……!?」
「こ、これ?触ればいい?えっと……あれ、ええっと……」

言われた通りに電源を入れた文明の利器が、光を放つのに肝を潰して取り落としそうになったり。
タッチパネルに爪を立てて操作したり、そもそも精密機器の当たり前な扱い方さえ未熟だったり。
果ては洗濯や湯浴みすらも人に委ねていたようだったから、一から教えるには相応の根気を要するだろう。
しかしヘールの類い希なる鋼の精神力はその障害を物ともしないだろうし、何より。
少女自身に、本来あるべき人の起居を吸収そうという貪欲さがあったから。手間はかかっても、それらはごく自然に行われる行為であって。
それはきっと朝と夜を重ねて、当たり前の日々の一幕のなっていく。十の翼が時折撫で合って、先を照らす白羽を落とした。

//そうですね、こちらからは〆にしようと思います!
//数日に渡るロールありがとうございました、楽しかったですー!
150グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/29(火)23:37:29 ID:T7s [6/6回]
>>147

「ふぅん……そうなんだ。
 自分で思ってるより、ずっと優しそうに見えるんだけど。
 んぅ、ん、んんっ……――」

彼女自身はそんな風に言葉を紡いでも、先のやりとりからは、どうしてもその目的を大切にしているように思えて。
言葉にできる根拠なんてものはなかったけれど……
その根にあるのは、同じ新人類として自分に接してくれている様な、暖かな心があるみたいに感じた。

そして嫌がる様子もなく、髪を梳かれれば穏やかな吐息を漏らして、心地よさそうに目を細める。
気を許したという意味では、きっと同じことで。
よく手入れされた髪に触れられるのを喜んで、懐ききったような微笑みを浮かべていた。
人の温もりが好きで、やさしいこのひとが触れてくれることも嬉しい。
そんな、屈託のない思いが掌越しに伝わろうとする様だった。


「うん……したいことをするのは、大変。
 したいようにするのは、もっとなのかも……。

 そのために、あなたはそんなところにいるのかもしれないけど。
 抜け出せるときは、抜け出してほしいな。……そう思うのは、我儘?」

思い浮かべたの特定の組織ではなく、新人類を取り巻く世界的な環境の厳しさ。
先日のエデンの猛者に、この躰に刻み付けられた激情も……それがあるからこそ、あれほどの苛烈さを帯びていた。

或いはどこにいても、それと無縁ではいられないからこそ。
彼女は、きっとその見知らぬ組織の外にある自分に、こうして接してくれている様にも思えて。
そのやさしさに甘えるみたいに、また彼女がしたいようにできる『いつか』を欲しがってみせていた。

問う瞳は少しだけ不安そうで。
大切なはずのなにかがあってなお、自然体でいてくれたらいい、なんて――
伝えるのは自由だけれど、正しいだなんて別に思えない。
そんな心境を隠すつもりもない、或いは彼女が願ってくれたままの接し方がそこにはあって。

そしてどうあれ名前が聞けて、自分も名前で呼んでくれようとしたならぱっと表情を綻ばせる。

「……グレイプニル。私も、ただのグレイプニルだよ。
 お揃いなのも、なんだか楽しいな。

 よろしくね、ユーリヤ。また、あなたとこんな風に過ごしたいな。
 楽しみにしてること、何かある? 私も知れたらいいんだけどな――」

顔立ちの印象よりずっと人懐っこく、或いは年相応以上にあどけなく。
抱く好意のまま、また彼女らしい笑みを見留めて笑顔と言葉とが零れていた。
151ユーリヤ ◆</b></b>SNYu.akPHA<b>[] 投稿日:20/09/30(水)01:08:53 ID:h3M [1/1回]
>>150

「そうね……もしかしたら私って結構優しかったのかもしれないわ。
 けれど、居場所が居場所だからその優しさを表に出す機会がなかったから気がつかなかったの。
 でも、それも全部私のやりたいことのためで、それはきっと終わらない……
 …………なんだか、こういう言い方をするとまるで血を吐きながら走り続けているみたいね」

実際にはそうでもないのよ、と心にも無い言葉を付け加えると共に背中の様子を見る。
患部の冷却はなるべく続けるべきではあるが、ずっと冷やし続けるというのもこの時期においては辛いだろう。
水球をグレイプニルから離すと共に、地面に吸い込ませる。
そうしている間も飾りも毒気もない、純粋でなくとも悪意などない目線に偽りの自分を見透かされている気がして。

「そうね……私はこうして、ただのユーリヤになるのが楽しいし好きだってつい最近気付いたわ。
だけれど……その「また」が来るかどうかはわからないの……」

あどけない瞳のままに見つめて来るグレイプニルを裏切るように、草原地帯を装甲車が駆けてくる。
所属を示すエンブレムこそないものの、そんなものがわざわざ迎えに来るのならば穏当な組織でない事は察しがつくだろう。

「サ……ユーリヤ、すまないが乗ってくれ
「……今日一日は安息日という話ではありませんでしたか?」
『仕方がないだろう、緊急事態だ』
「はぁ……石を投げられても知りませんよ」

機殻槍の反応を追ってわざわざこんな所にまで来て、しかも洗礼名で呼ぼうとする。
そんな不手際に不機嫌さを隠しもせず、なんなら見せつけるようにして運転手と話し込めば、嫌々装甲車へと歩み出す。
安息日という宗教的な言葉に違和感を抱いたならば、装甲車や機殻槍と併せて正体の看過にまで至れても不思議ではない……が構わない。

「さようなら、さようなら……
 グレイプニル……また、会える事を祈っているわ」

扉を開け、ステップに足をかけながらグレイプニルに手を振る。
それは別れの挨拶で、もしかするとユーリヤとしては今生の別れになるかもしれないと思うと初対面であったというのに込み上げて来るものかあった。
だが、押し殺したり気付かないフリには慣れている。
そのまま車に乗り込むと、待ってましたと言わんばかりにエンジンを吹かせて車は発つのだった。

『ユーリヤ……いや、サキエル。
 あの少女は……』
「さあ?
 誰でしょうね、普通の子ですよ。
 普通のいい子です……私のしていることが馬鹿馬鹿しく思えるくらいに」


//ここいらで〆にさせてください、お待たせしたりしながらも長時間のロールありがとうございました、
152 : ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/09/30(水)01:24:19 ID:tQS [1/1回]
>>149
/こちらこそ、楽しかったです!長い間ありがとうございました、お疲れさまでした!
153 : グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/09/30(水)01:55:18 ID:BDD [1/1回]
>>151

「私には、そうしなきゃいけない理由は分からないけど……
 ……終わらないなら、私が会いに行きたいよ。
 ひとりじゃ息が詰まるなら、ひとりじゃなくなれる誰かがいたら。息をするくらいは、できそうだもの」

終わらせられる、なんて口には出来なくて。
知らないからこそ、ただのグレイプニルとして、ただのユーリヤにそんな言葉を向けられるのかもしれない。
世界を動かす大きな力に、グレイプニルはユーリヤよりきっと疎い。
それでも、新人類としての彼女の歩んだ道程と今とが、彼女の在る組織や……その戒律に縛り付ける様な、息詰まる居場所を成している様には思えて。

変えることなんて出来なくても、共にあれることを願って止まなかった。
けれどそれを願えてしまう様な少女だからこそ、ユーリヤは、遠ざけようとするのかもしれない。

「…………」

また、が来るかどうかは分からない。
それだけ、この世界は残酷にできているのだろうか? 出逢ったばかりだけれど、その言葉が……ひどく寂しかった。
なにも知らないことが悔しくて、それでも、なにか言葉にしてしまえば認めてしまいそう。

そして装甲車のたてる轟音が、その時間の終わりを急に告げて。

「うん……ありがとう、ユーリヤ。体は、すごく楽になったよ。
 もう私はいつまでだって、ここからなら歩いていけると思う。

 だから……ね、いつか、またっ――――」

会えたこと、癒してくれたこと、ただのユーリヤでいてくれたこと……それに、あの笑顔。
忘れられないこの一日を、大切に胸に抱いて。
だからこそ、自分の言葉も彼女の想いも裏切りたくはないと思った。

……また会いたいから。だからこそ、もう立ち止まらない。

エデン――その言葉を、薄らと思い浮かべさせるここ数日の出来事を、今一度瞼の裏に浮かべながら。
新人類の少女は、ただのグレイプニルとして、自分たちを苛むはずの世に、大切な誰かのくれた想いのまま一歩を踏み出すのだった。

/2日間、遅くまで本当にありがとうございました…!改めてお疲れ様でしたー!!
154シュトラール◆</b></b>hHMogxWV7M<b>[] 投稿日:20/10/01(木)02:00:02 ID:TLB [1/1回]
>>144

(やはり……どうして軽くなってしまいますね)

反撃には成功したものの、受身を成功させて即座に立て直す姿を見れば、与えたダメージが微々たるものでしかないことが容易に想像できる。
体格差、そして筋力差。慢心を向けられるよりはずっと良いが、この調子で戦い続けていけば、地力の差によってすぐに押し負けるだろう。
とは言え状況を打開する策が思い浮かぶ訳でもなく、カウンターを主軸として粘り勝つ他ない。
偶にはこういう逆境を経験しておくのも悪くないと、シュトラールは覚悟を決めながらも、少しだけこの状況を楽しんでいた。

(大丈夫、私は私のできることを、一つづつ続けていくだけ。今までも、これからも)

呼吸を整えて構えを作り直す。今のままで行けば持久戦は必至、焦らず慌てず相手の一挙一同を見極めて、強かに立ち回ろう。
そのようなスタンスを固めていたからこそ、ノーマンの問いかけと提案に意表をつかれて、少しばかり黙り込んでしまった。

「…………それは、つまり……分かりました」

炎熱の予兆。言い澱んでしまったが、今更ノーマンの本気を止めようとは思わない。
訓練場の壁際にまで飛び退くと、利用者向けに常設されている演習用武器を手に取る、非殺傷タイプの銃弾が装填された拳銃に、トレーニングナイフ。予備の弾倉を幾つか。
提案していたのは実践形式。シュトラールにそれを実施する気があることに間違いないが、必ずしも能力行使を前提としたものではない。
ノーマンが能力を用いるとして、対してシュトラールは実戦レベルでの武装を用いる。詰まるところ、シュトラールには自身の能力を使う心算はなかった。

「……能力の代わりとして、これらの武器を利用させてもらいます
 私の能力は危険性が高いから……ノーマンさん相手には使えません」

本気の戦闘を所望する相手に対して、武装するのみで能力を用いないと明言するシュトラールの姿は、果たしてどう映るだろうか。
無論、シュトラールとて間違いなく本気である。だが、異能を使わないと明言したそれは、手加減や慢心の類に見えてもおかしくないのだから。
能力を"使えない"のではなく"使わない"。自らの意思で強力なカードを切らないと宣言したシュトラールは、ナイフホルダーを両足に装着し、拳銃の安全装置を外して準備を整える。

//すみません、週末まで不安定な返信になります
155ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/10/01(木)20:36:18 ID:lIa [1/1回]
楽園を喪失してから今日に至るまで、激動の訪れぬ日など一日たりとも存在しなかった。
それは仮初の住まいを得てからも変わらず、目にするもの全てが新鮮な少女にとって、知識の吸収は怒濤と同義。
変わらないのは毎夜嫌な汗を運ぶ、白き部屋に還った情懐の夢。

「――――っ……、……」

だから目覚めはいつも、鈍い幻痛を伴う倦怠が霞みがかって、頭がうまく働かない。
首筋の汗を撫でる空気が冷たい。窓の外はまだ暗かったけれど、再び微睡む気にはなれなかった。

要塞都市の一方向を見下ろせる、小ぢんまりとしたプラトーがある。
灯りも眠る街並みと、その向こうに横たわる地平線が広がる岩崖の上。外の空気が吸いたくてこっそりと出歩き、気紛れに足を運んで辿り着いた先。
そこで何をするでもなく、景観を五感で甘受する少女はどこまでも泰然と佇み、瞬きすらも時が引き伸ばされているようで。

「――――――」

白み始めた空の果てとは正反対の、黄昏を切り取った赤毛は未だ夜の闇に寄り添って、橙の毛先だけが暁光を待ち侘びる。
背中の大きく空いた長衣は、六枚の翼を惜しげもなく朝露に晒す。空気を孕んで広がった羽搏きに、小さな呟きが掻き消された。
156ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/10/03(土)00:31:57 ID:sBa [1/1回]
>>154
シュトラールの答えに彼は些か不機嫌そうな表情を見せる。
危険すぎるから使えない。それはこちらの実力を甘く見ているのではないか。ファイアナイトが能力に耐え切れないと思っているのではないか。
やむを得ない理由で力を使わないのであれば納得したが。

「なんだそれ……?」
「わかった。そっちがその気なら、俺も同じだ」
「こいつだけでやってやるよ」

エーテルによって彼の掌に結晶が浮かび上がる。本来ならば全身を鎧のように包むそれは徐々に細長く形状を変化させる。
黒い結晶により作られた片手用の直剣。エッジを潰し殺傷性を低めているが、炎の操作は十分可能だ。
相手が本気を出さないならこちらも本気を出さずに勝ってみせる。調子に乗るなとでも言いたげなその行動は至って真剣。

「ぜあぁぁぁっ!!!」

改めて、戦いの火蓋が切って落とされる。
シュトラールへ向けて真っ直ぐに接近しながら下段からの切り上げを見舞おうとする。
直撃しても切断されることはないだろう。しかし、力を込めて振るわれる鈍器もまた脅威。
眼差しが少女を鋭く突き刺す。力を使ってみろと言いたげな程に、強く。
157 : ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/10/03(土)18:21:46 ID:M7b [1/1回]
//>>155で再募集します!
158グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/10/04(日)00:31:58 ID:FUu [1/2回]
ゴフェルン滞在地に程近い、小さな村近くの丘陵地帯。

異常繁殖した肉食獣型のマモノの討伐が、この一帯の急務となっていた。
一体ごとの力はさほどでもなく、旧来の火器でも十分に撃破し得る域。
だがその数の多さが、容易に手を出すことを許さず……元より余力のなかった小さな街は、少しずつその侵攻を受けることとなる。

人類種の生存圏を、僅かなれど狭めようとする獣の群れ。
誰もが滅びと無縁ではいられないこの時代に……新たに血腥い惨状が展開されていた。
飛び散った肉片、破けた毛皮、血に塗れて粉々になった骨格。

まるで荒ぶる巨人がなにもかも踏み荒らしたかの様なそれは、マモノの群れが蹂躙されただけのもの。
何者かの襲撃を受けたことは明白で。
破壊の限りを尽くしたとでも言うべき、血臭立ち込めるその光景の中……似合わぬ姿形をした人影がある。

絹のような銀の髪を背中の中ほどまで伸ばし、ターコイズブルーの瞳を煌めかせる、陶器人形めいた涼やかな容貌。
小柄な体躯に艶のある黒革のコートを纏い、左右の腕にバングルを嵌めた、人類種そのままの姿をした少女。

傍らに転がるマモノの残骸たる、牙だらけの上顎に向けた視線は、やがてゆらりと空を仰ぎ。

「……私達にも、関係ない話じゃないのかもしれないね。……もし、今以上に対立が激化すれば――」

零れた呟きが、淡い吐息に混じって空に溶けた。
街がさまざまな帯域で流した救援要請は、相応の節操のなさでメッセージを届けるのだろう。
ゴフェルン、レンジャー……或いは、エデンにさえも。

同じ新人類でも、視界に映すものは様々だ。
共存か、淘汰か。今を守るか、打ち砕くことを願うのか。
明日すら見えぬこの世界で、濃く垂れ込める雲のさきに、星灯り差す空を見通そうとでもする様に。

冷え込む大気を肌で感じながら、思惟の綾を編む黒衣の少女の姿がそこにあった。

/無所属含めて、所属不問の待ちですっ。置きになりそうですが、よろしければお願いしますー!!
159ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/10/04(日)00:37:44 ID:s1a [1/2回]
>>155
遥か彼方より昇る朝日と共に少女に近寄る影が一つ。
黒いタンクトップに白のウィンドブレーカーを着て、カーキのカーゴパンツを穿いた如何にも軍属らしい格好の少年。
「ファイアナイト」のコードネームを与えられたエージェント。少女がそれを知り得ているかはわからないが、彼を形容するのにこれ以上の言葉は無い。

「何してんの」

ふくよかな翼を携えた背中に問いかける。この場所に訪れる者など滅多にいない筈だ。
そう言う彼はと言えば時折ここへ来て朝食の握り飯やサンドイッチを食し、何をするでもなく朝日を眺めて帰っていく。
今日もまた特に意味は無い時間を過ごそうとしていたところ、少女の姿が見えた。

「よっ、と」

少女の近くに腰を下ろす。外部に面している場所のため、僅かな朝露が衣服を濡らすが気に留めることはない。
簡素な弁当箱の中から出てきたのはやけに大きめの握り飯だった。

/しばらく置き気味になるかもしれませんが良ければ!
160ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/10/04(日)01:18:39 ID:5H3 [1/2回]
>>159
目を覚ました小鳥達が黎明を祝う唄を囀り、役目を終えた街灯が眠りに就く。
光は地上から東の空へ移ろい、耳を澄ませば微睡みから覚醒しつつある生命の息吹が聞こえてくる中で。

「――――ひゃあっ!?」
「なに、誰っ……!?」

意識の埒外にあったすぐ後ろから、明確に己へと投げられた声に、肩を跳ね上げてこれでもかと喫驚を返した。
灰の瞳をいっぱいに見開き、寛げていた翼を縮こまらせ、狼狽と不審にふらついた足取りで力なく距離を取る。
その表情に映すのは敵意ではなく純然たる焦燥、見知らぬ人間を得意としない生来の小気によるもの。

「……別に。なんとなく来てみただけ……景色、綺麗だったから」
「…………あなたこそ、何を――――」

その証左に問いを無碍にすることもなく、遠慮がちな調子ながらも対話を受け入れる姿勢でさえある。
聞き返しかけて、弁当箱から顔を出した握り飯を一瞥すれば意図を悟った言葉が途切れる。
その代わりに、それとなく両手で抑えたお腹が小さく鳴った。夜明け前に外に出たのだから、当然朝食はまだだった。

//ありがとうございます、よろしくお願いしますー!
161ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/10/04(日)01:53:49 ID:2Ap [1/1回]
>>158

暗幕を引き裂き、月夜に太陽が覗くかのような輝きが、空を煌めいた。
それは月光を背に受けて、それをすら塗り潰すかのような輝きと共に、一直線に堕ち星の如く降り注ぐばかりであった。
尾を引く輝きは、淡く煌めくエーテルの放出そのものであった。それに覆い隠されて、そこに落着するまで、終ぞその全容を見せることはなかった。

「……おや」

冷気を溶かし尽くすかのような高熱の輝きの向こう側、そこに経っているのは、一人の少女のものであった。
膝を突いて降りたそこから、四枚の翼がゆっくりと開き、それと共にゆっくりと立ち上がる。
亜麻色の髪を揺らしながら、その碧眼は困惑とまではいかずとも、小さな疑問を浮かべている。
金糸の刺繍が施された、黒い厚手のコートが翻り、頭頂部に浮かぶ光輪が、その顔立ちをよく照らしている。

「私の剣を振るう機会があるかと思いましたが……既に終えてしまったのですね?」

期待される展開に反して、待っていたのは既に物語を終えた死骸ばかりが転がることにも明らかだった。
救難信号を追いかけて、急いでやって来た事について、その行動が無駄になったと言い張るつもりがあるでもないが。
少し、拍子を抜かれた気分であるのも事実ではあった。であるために、その下手人であろう、そこの黒衣を纏う少女へと向けて、疑問の符と共に語りかけるのであった。
162グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/10/04(日)03:04:18 ID:FUu [2/2回]
>>161

夜天灼き貫く流星に暫し目を瞬いた。
やがて光輝がやや収まり、煌々と己を照らす耀きに慣れたなら常態を取り戻す。
かの国では天の御使いと貴ばれる翼と光輪は、戦闘態勢を少々緩める理由にはなって。

「……ここにいたマモノは全部仕留めたけれど、本当に全てが終わったかは疑問。
 だから、もう少し調べてみるつもりだったけど……」

そこで高い位を感じさせる装いと、四枚の翼に改めて目を遣る。
安堵めいた吐息は、敵意の不在を悟らせるには足るものかもしれなかったが。


「あなたは……エルヴィエートの人? どうして、ここに……?」

少々不思議そうに小首を傾げ、やや警戒混じりの視線とともに、そんな言葉を投げかける。
もし救援要請に応えてきたと答えるならば、疑う意味も薄いだろう。

エルヴィエート人の特徴的な変異は、エデンとの対立とともに、広く知られるところではあるが……だからこその疑問。
地理的には少々離れているはずで、そもそもの彼女がこの近辺にあった理由が今一つ分からずに。
信頼に到るまでの最後の一押しを、その問いかけを以て願う様でもあった。
163ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/10/04(日)13:50:00 ID:s1a [2/2回]
>>160
「飯だけど」

相対する少女の生来の気質など気にすることなく、粗雑な答えを投げ返す。
一口目を頬張り、朝焼けを見つめながら無言で咀嚼し飲み込む。一見すれば修験道の者にも見える。

「……」
「やらないけど」

微かに弁当箱を自身の方へ寄せながら如何にも利己的な台詞を吐く。
実態は他人を思いやるだとか分け与えるだとか言った人格面での成長が進んでいないのだが、傍目から見れば自分勝手にも映るだろう。
二口目を頬張り、拳ほどもあった握り飯は既に1/3にまで減少していた。

「そんな羽根ある奴、初めて見たな」
「新入り?」

彼の記憶に艶やかな六枚羽根の住人は一度として記録されていない。
頻繁にゴフェルン要塞都市を出入りする身、様々な住人を見かけるが一度も見たことがないとなれば恐らく最近になって参加した者だろう。
164ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/10/04(日)14:42:01 ID:5H3 [2/2回]
>>163
「…………欲しいなんて、一言も言ってない」

実際には口に拠らない非言語で以て、そう密やかに語ったに等しいのだが。
給仕ならともかく、さして親しくもない相手に腹の虫の騒ぎ声を聞かれ、素直に空腹を認めるのには恥を忍ぶ必要がある。
それが出来ずに朝日の生誕へと逃げる視線、悔しさとも未練とも取れる絞り出したかのような声だった。

「うん……育った場所から逃げてきて、今はここにいさせてもらってる」
「……まだ夢に見るくらいには、最近の事」

偏見と差別に苦しめられ、生まれ故郷を追いやられた新人類がゴフェルンに縋りつくのは、そう珍しい話ではない。
少女の事情は些か特殊だが、庇護を求めてこの街に居つくという意味では、やはりよくある話で。
言及された翼が僅かに脱力して控えめに広がる。眩しげに目を細めた横顔が、掬い上げた悪夢の残滓を朧げに映した。

「……あなたは?ずっと前からここにいるの?」

徐に、握り飯を頬張る顔を見下ろす。朝露に煌く地面を気にしてか、腰を下ろそうとはしなかった。
一言二言を交わして余裕が生じたのか、最初のビクつきは随分となりを潜め。首を傾げるのは端然とした、超俗さえ孕む仕草だった。
165ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/10/05(月)01:36:58 ID:0Yu [1/3回]
>>164
「やっぱり」
「もう来ちまったってのに昔のこと夢に見るのか?なんで」

思慮深さもへったくれも無い豪速球の問いが放たれる。
人は忘れることで生きていく動物だが、時にそれを不得手とする者もいる。
忘却は個人の能力であり、差があることは当然なのだが彼にとってはさして難しいことにも思えなかった。

「ん、そうだけど」
「もう十年くらい。だから俺の方が先輩」

事実を事実として語るだけの淡白な声音。偉そうにふんぞり返るでもなく、かと言って嫌味ったらしくもない。
一個目の握り飯を食べ終わると二個目に手をつける。それと同じ程にごく自然な語り口だ。

「もっと前から戦ってたらしいけど、よく覚えてない」

そう付け加えると、握り飯の角に食らいついた。
166ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/10/05(月)02:35:07 ID:Bh2 [1/2回]
>>165
「なんでって……知らないよ、そんなの。夢なんだし……見たくて見てるわけじゃない」

夢が無意識から抽出された深層心理の極一部だとしたら、そのエピソードを作為的に選び取るなどできやしない。
ならば何故、と聞かれて明確な答えが打ち出せるはずもなく、困ったように眉を寄せて口を噤む。
それでも、思い当たる心因を手探りで挙げるならば。

「…………多分、まだ怖いからだと思う」
「あそこに連れ戻されるのは……また、同じ事をさせられるのは、嫌だから」

未知を展望する未来を、鎖された過去へ引きずり戻される恐怖。未だ根を張る不安が、逃避の忘却を妨げる。
己の意思で何処かから逃げ出し、誰かに探し追い求められる、何かしらの価値がある。
本人はそれが伝わり得ると意識こそしていないが。具体性がなくても心情だけを伝えるなら十分だろう、共感とは全くの別問題ではあるが。
朝日から逃げるように、眼下の街並みよりも下の地面へ刹那目を伏せた。

「…………そう、あなたも……」
「ねえ、あなたはどうして戦ってるの?戦う人はいつも、あんなに痛い思いをするのに」

嫌味のない先輩風に、少女もまた感情をざわめかせることはなく。むしろその後の、戦う者である宣告に複雑そうな反応を示す。
二の矢の問いに他意は見受けられない。羨望も嫌悪も、心底にちらつく恣意的な魂胆でさえ。
只管に純然たる、明星の如く澄んだ疑念。ずっとずっと、他者の傷に触れる度に降り積もっていた。
徐にしゃがんで目線の高さを合わせる。抱えた膝の上に乗せた顎が傾いて、ぱちぱちと不思議そうに瞬いた灰色の双眸が少年をじっと見据えた。
167ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/10/05(月)11:44:22 ID:gLN [1/1回]
>>162

「偶々、近くを通り掛かった時に救難信号を受け取ったのです」

正しく、最も彼女の願う一言を、包み隠すこと無く彼女へと告げる。
隠す理由もなく、背筋を伸ばして、微笑みを絶やすこと無く、足先を揃えてよく通る声を張って。
そこに敵意も、害意も見せることはなかった。拍子が抜けたことに対する、落胆の色も当然、表には出さず。

「私一人で向かう方が早く辿り着けますので、一足先に此方へと向かいましたが……」

今し方の高速航行は、背部の両翼を放出部として用いることによる、強力な推力による飛行である。
一般的なオルヴィエートの翼では、個体差はあれども翼のみでは、そこまでの高速飛行ができるというわけではなく、そのために。
行動を共にしていた人物については、後から向かうように示し、一足先に此方へと向かってきたのだ。
そちらにも信号を受け取れるだけの装備はある。問題があれば、そちらへと同様の方法ですっ飛んでいくつもりだった。

「申し遅れました、私はオルヴィエート天軍九隊『ケルヴィム』の騎士。
 ゴフェルンへの協力者という立場でもあります、ヘイルヴ・セデス・サピエンティアエと申します」

片手を胸に当てて、一礼と共に名乗られたそれは、オルヴィエートの人間が、今此処にいるという理由については、それで十分だろうか。
同盟支援を旨とするケルヴィム、その役目は多岐に渡る。今回に於いても、ゴフェルンに関する任務の最中での事だった。
その翼と光輪に恥じぬ立ち居振る舞いを心掛けるヘールの姿は、果たして彼女にはどう認識されるか。

「調査と仰っていましたね。微力ながら、私もお付き合い致します。
 相当の腕前をお持ちであると存じますが、やはり、一人よりは二人で行う方が、不測の事態にも強く在れましょう」

そして、もう暫くの調査に向かうつもりであると語った彼女へと、同行を提案する。
下心無く、ただ純粋にその身を案じての物であったが、然しそれが彼女へと伝わるものであるかは別問題だ。
果たして、どう受け取られるか。何を選択するかは、彼女次第だ。

/先日はお返しできませんでした、申し訳ありません……
/お返しさせていただきますので、ご都合の良いタイミングでお返し頂ければ……
168ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/10/05(月)14:33:13 ID:0Yu [2/3回]
>>166
「どうして?」
「決まってるだろ。戦わなかったら殺されるだけだぞ」

余りにも暴力的で、それでいてこの世界では至極真っ当な答え。
闘争から逃げる術は無い。この世界は常に闘争で満ち、それは疫病の如く徐々に範囲を拡大している。
一度は逃げ延びたとしても、逃げた先で再び戦火に巻き込まれることなどざらにあるのだ。
ならば、自ら武器を持ち戦うしかない。生き残る為には、勝つしかない。

「お前もそうすれば良い」
「ここから連れ戻されないように戦えばその内夢なんて見なくなる」

恐怖に震えている間は何も変わらない。夢に怯えない為にはその元凶を討ち滅ぼすしかない。
もしかしれば他に道があるかもしれない。しかし、それを考える時間も余裕も足りないのが現状。
無限に時間があればこの世界を変える術が生まれる可能性は無きにしも非ず。だが、それはただの夢物語。
だからこそ、彼は今生き残るために戦うことを選び、それを奨める。
169ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/10/05(月)22:33:10 ID:Bh2 [2/2回]
>>168
その答えはひどく端的、それでいてこの世の様相をこれ以上になく表す真理。

「そうなの?…………確かに、そうしないといけない時も、外の世界にはあるかもしれないけど……」

しかし生まれてから殆どの時間、外界に触れずに生きてきた少女にとってもまた、青天の霹靂に近しい衝撃で。
大義か激情か、他所に理由を置いた決死の闘争しか、それも惨たらしい跡形しか見たことのない箱入り娘には。
純粋に生存だけを懸けた衝突が存在することも、そも生を掴むために戦うという発想すら、今の世では考えられないほどに致命的に欠けていた。
つと落ちた視線が食べかけの握り飯を捉えて、けれどその瞳は新雪を踏みしめる思考に沈む。眺めているようで見つめているのは己の内。

「…………わたしには、出来ないよ」
「それが、人と人が戦う理由になるのか…….やっぱりまだ、分からないから」

やがてゆうるりと首を横に振り、少しだけ困ったように眉尻を下げた。
世を憂いた義憤の気概や、末法に失望した自棄の介在しない、解を探求するが故の先送り。
比喩ではなく、数多の傷の痛みを知る少女だからこそ。誰かを暴で退けることに、ずしりと重い躊躇が響くのだ。
それならば、いっそ。争いの理由なんて、全て溶けてなくなってしまえばいいと、思わないこともなかった。

「それに戦い方なんて知らないし、そういう力は持ってない」
「わたしは弱いから。今から頑張ったって、あなたのようには出来ないと思う」

卑下でもなんでもない、客観的な事実としての自覚。無力を諦観と共に受け入れて、微かな寂寥を孕んだ微笑。
天罰を恐れながらも、逃れ得ないと知る咎人のように。地を撫でた羽の先から露が弾けた。
170ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/10/05(月)23:16:40 ID:0Yu [3/3回]
>>169
胡坐をかいたまま要塞都市の方を親指で差す。その先に広がっているのは当然、流れ着いた難民達が暮らす街並み。

「大体皆戦いで負けたからここに来た」
「戦いで負ければ全部奪われる。家族とか、友達とか」
「俺はそう言うのはよくわからない。けど戦って勝たなきゃ飯は食えない」
「お前がどんな風にここに来たのかは知らないけど……」

握り飯を飲み込むようにたいらげ、深く息を吐く。まだ冷たい大気に白い息が揺れる。

「殺されないだけマシだったんじゃないの?」

突き放すような一言。どれ程苦しめられようと、どれ程傷つけられようと、生存だけは許されていた。
それだけで少女は優遇されていたのではないかと問う。事実、この世界では簡単に奪われる命は数えきれない。

「別に、俺と同じことなんてしなくていい」
「でもゴフェルン(ここ)に来たなら、お前も戦うしかない。お前のやり方で」

暴力のみが戦いに非ず。戦いとは抗うこと。そして、勝ち取ること。
ゴフェルンは敗者達の集まりだ。だが、敗者が寄り添って慎ましく生きる理想郷などではない。
生き延びるために、明日の勝者となるために戦う場所こそがゴフェルンの本質だ。

「食いなよ。これ」

少女に握り飯を差し出す。朱銀色の朝日が空を染め始めていた。
171ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/10/06(火)00:25:57 ID:CBe [1/3回]
>>170
指につられて眼下を見やる。広がる朝焼けが染め上げた街に、少しずつ人々が顔を出す。
都市の目覚め、掠れ行く明けの明星。渡り鳥の群れが白明に背を向けて飛んで行った。

「そうだね、外に比べればずっと安全だった。ここに来られたのだって、いろんな人が助けてくれたお陰だったし」
「…………でも、あんなのは……道具として使われるだけなら、死んでいるのと同じ」

断じて振り返らず羽搏くその尾羽の如き、顧みない言葉もまた、反論の余地のない真実だと飲み下す。
命あっての物種とは誰が言ったか、衣食住の全てが満たされる環境に文句をつける要素がどこにあろうか。
それでも偶人として在るのを、生きていると少女は認めなかった。外の景色を知ってからは、認められるはずもなかった。
最初こそ逃げ出す足は恐怖に駆られていたが、今なら分かる。あれは息をしているだけの、ただの緩やかな死だと。

「同じじゃない、戦い方…………あの人達みたいな、怪我をするのとも違う……?」
「………………??」

必要とされた最大の要因にして、この世に於いて最もありふれた争いの形態。暴力と暴力、死と痛みを叩きつけ合う原初の闘争。
それしか戦いの形を知らなかった、或いは認知していなかった少女には、思ってもいなかった観点に、首を捻って静止してしまう。
思考を止めているわけではない。ただ考え込み過ぎると、他に回すリソースが著しく不足してしまうらしかった。
何よりすぐに答えを出すにはまだ、自分がすべき事、成せる事が見えていないのだから。

「……ん、え……くれないんじゃなかったの?」
「…………ありがとう。いただきます」

目の前に差し出された握り飯を反射的に受け取ってから、遅れて灰色の目を瞬かせる。揶揄ではなく、細やかな疑念が唇を震わせた。
しかしこうして手中に収めたと認識すれば、忘れようとしていた空腹が寝返りを打つのも道理。こくりと白い喉が鳴ったかと思えば。
返事を待つ前に謝礼を呟いて、小さく白米に齧り付く。もそもそと咀嚼して、知らず仄かに頰が緩んだ。
172ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/10/06(火)01:18:50 ID:OZj [1/3回]
>>171
「俺はもう作戦に出るから、後はお前で考えて」

なんとも無責任な言葉を吐きつつ、弁当箱の蓋を閉じ風呂敷で包んでから立ち上がる。
少女がこれからどのような道を歩み、どのようにして〝世界〟と戦うかは少女自身が決めることだ。
それを知ってか知らずか、彼は戦い方は自分で考えろと突き放した。
今、この場で出来ることを考えていればその内道は開けてくるだろう。彼がそうだったように。

「なんとなく、そんな気分になったからやる」
「飯さえ食ってればどうにでもなるだろ」

そう言葉を残して、彼は高台から軽やかに跳躍し要塞都市の街並みへと消えていった。

/キリが良いのでここで〆にします。ありがとうございました~!
173 : ファイアナイト◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/10/06(火)01:20:24 ID:OZj [2/3回]
>>156
/シュトラールさんの方、こちらに返信を置いてあるのでお時間ある時に確認お願いします
174 : ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/10/06(火)02:13:23 ID:CBe [2/3回]
>>172
一見すればまるで無責任な垂教、最後に残されたのは禅問答めいた霧中の疑問。
時折抱く世界の有り様への懐疑の重みは、日毎に吸収する知識の数を軽々と上回る。
それでも、階と切欠が齎されたのだから。そこで考えるのを止めるつもりはなかった。

「……好い加減な人」
「…………おいしい……」

投げやりな去り際に呟いた言葉に棘はない、むしろ困惑していながらも不本意ではなさそうな黎明の柔らかさ。
与えられたのは曖昧な方向性であり、明確な道筋ではない。楽園の一本道から背いた少女にとっては、それこそが僥倖だった。
軽やかに飛び降りて溶け込んだ影を見送って、また一口含む。腹とは別に何かが満ちる思いに、悠然と開いた翼が羽片を街に落とした。

//こちらこそありがとうございました、お疲れ様でした!
175グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/10/06(火)03:44:52 ID:itw [1/1回]
>>167

耀く翼広げ向き合う姿は堂々として、けれど威圧感はなく。
民を護るための強さと意志が、凛冽な佇まいから滲み出る様でさえあっただろう。


「……ゴフェルンの外部協力者? それに、オルヴィエートの騎士さん――

 ちょうど近くに城塞都市が留まっているものね。
 その用事の途中で来てくれたんだ……街の人たちも、そんな人の姿があるだけで、安心できるところがあると思う」

その誠実さに応える物言いは端的で、彼女ほどには柔和な雰囲気を纏う様子はない。
けれども和らぐ視線と、そこに添えられた、街の人々を思う言葉には。
彼女を信頼に足る人物と認めたことを隠す様子もまた、なかった。

そして安堵の吐息ひとつ、黒衣の少女もまた名乗りを返す。


「……グレイプニルです。

 ゴフェルンには知り合いが何人かいて、何度か一緒に新人類弾圧を抑えに回ったのもあって、友好関係にある――
 もし、私を信じてくれるなら……力を貸してください、ヘイルヴ。

 人が人として生きられる場所を、これ以上減らさないためにも――」


真剣な瞳は、或いはグレイプニルの容貌のうちで、最も人間らしいものだっただろうか。
彼女がそれに応えるならば、変化の控えめな表情に、ぱっと華やぐように、仄かに嬉しげに双眸は光を増して。

「マモノの異常繁殖の原因を突き止めるには、エーテルの異変を探るのが定石になると思う。
 それを解決するところまで、できれば私はやってしまいたい……

 街の人たちの話から、この地図に、いくつか関係のありそうな場所の候補をあげてみたの。
 あなたは……ここまでの道程で、なにか空から気付いたことはあった?
 少しでも候補を絞れるなら、それに越したことはないんだけど――」

そう言って広げる地図は、元々は救援要請を出した街にとっては生活圏であったのであろうこの近辺を描いている。
地図に記されたポイントで特に目を引くものは遺跡、谷底、湿地帯の三つほどだろうか。

高濃度のエーテルが、ごく短い時間だけ溢れ出ていた様な違和は――或いは護るべき民を捜す空中からの視点で、気付くことも叶っただろう。
あとは、ここからはそれなりの距離のある、遺跡の座標と重ね合わせたならば。
その知見を、初めの協力とすることも叶うのかもしれなかった。

/元々置きですし、お気になさらずっ。引き続き、ご都合の良いタイミングでよろしくお願いしますー!!
176ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/10/06(火)16:28:06 ID:s74 [1/1回]
>>175
「ええ、その通り。貴女の正しい理解と信頼に、先ずは感謝を。

 我々騎士は全ての人々の規範となり、希望となることもまた使命の一つ。
 そう見えたのであれば、それは私が、私の理想の通り振る舞えているという証左でしょう」

先ず、身分の証明について揉めることとて珍しくはない。
新人類であることを、包み隠さず翼を広げて隠すことはなく、無償の献身を方々へと振り撒くことについて。
それこそが信用できぬのだ、と糾弾されることもまた少なくはない。それに於いて、その信頼は当然感謝に値する。
そして、その立ち居振る舞いは、人々にとって輝きであることを目的とする者にとっては、最大の称賛でもあった。
大きくその態度が変わるではないが、気を良くしていることは、口にせずとも明らかではあった。

「ふむ、グレイプニルさん。その言葉を信じましょう。
 私のことはヘールとお呼びください。親しい者達は、皆そうしています――――さて。

 それであれば、我々は志を同じくする者。当然、貴女のその理想に、この私が寄り添いましょう」

その眼差しは、きっと嘘をつかないもの。この目の前の少女が、その言葉の通りに語るのであれば。
ヘールという一人の騎士は、彼女のその瞳に灯る光を、その全霊を以て肯定することを、心より誓うことだろう。
これよりの僅かな時間であるかもしれないが、人々のために戦う志、その隣を歩いてみせようと。

「ええ、それに異論はありません。
 それにおいては、高高度から飛来するに当たって、高濃度のエーテル反応を目視しました。
 ここより離れた、恐らくは遺跡と思われる地点からのものでした。ただ、ここからは少し距離があります……」

オルヴィエートの新人類は、エーテルの感知能力が高い傾向にある。
高濃度のエーテルを、見下ろせる位置から、となれば、それを探り当てるのはほんの僅かな時間でも、容易なものであった。
何にせよ、最も大きく、そして予想できる原因への近道となるだろう。但し、移動には多少の時間がかかる。
ただし、今この場には、翼を持ち、空を駆けることの出来るオルヴィエートが居る。

「ですので、飛びましょう。高所に苦手意識はありませんか?」

つまるところ、先程彼女に見せた……あの移動方法を、今度は彼女を抱えて行おう、という算段であった。
あれは、オルヴィエートの正しい飛行方法ではない。純粋に、エーテルの出力を用いて飛んでいるに過ぎないのだが。
それを目の前の少女を抱えて、もう一度やってみせようという魂胆だった。

/お心遣い感謝致します……! 一先ずお返しさせていただきますね!
177 : 剥落理想◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/10/06(火)21:14:10 ID:OZj [3/3回]
現在、ゴフェルン要塞都市が駐留している地点から約200km北東に位置する国境線。
兼ねてより領土や資源問題で対立するロムリアとエルプスの二国は睨み合いを続け、国境監視所は日常的に緊迫した気配に包まれていた。
某日、エルプス国境監視所にて。

「……ん?」
「レーダーを確認しろ。北方に距離5000。リド山脈中腹」
「まさか……」
『レーダーに反応無し。いえ、これは……生体反応あり!数1000、2000、更に増加中!』
「嘘だろ……本当にやる気か!?総員戦闘準備!」

突如として出現した一軍。正体不明であれど、その場にいる誰もが確信していた。あれはロムリアの軍勢だと。
その推測通り、国境へ向けて進軍するのは武装したロムリア兵や歩行戦車、黒色単眼のヘルメットを被った一団など。
正規兵と雇われが入り混じった一個師団。彼らの軍靴が国境に踏むのは時間の問題だ。
直ちにエルプス中枢へと情報が伝達され、ここにリド山脈戦役の火蓋が切って落とされた。


明くる日、ゴフェルン要塞都市に急報が届けられる。

『リド山脈国境付近にて軍事衝突。付近の難民キャンプへの影響が予想される』

端的な文章で始まる電文は暗にゴフェルンへの協力を要請するもの。
駐留地点はエルプス領土内にあり、駐留許可を出しているのも同国だ。協力、もとい利用するには十分な理由だと判断したのだろう。
戦の炎、その昂ぶりがゴフェルンの根を焼かんと迫っていた。

/情勢の変化的なソロールです。ロールのネタにするなどご自由にお使いください
178ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/10/06(火)23:50:26 ID:CBe [3/3回]
奴らが来る、と誰かが叫んだ。
戯言や蜚語などでは断じてないと、俄かに浮き足立つ軍属の剣呑が克明に語る。
要塞都市の程近く。能く支援を受け、ゴフェルンからの来訪者も多い一つの難民キャンプが混乱に陥るのに、そう時間は要さなかった。

力ある者は侵入者を迎え打たんと国境に足を向け、力なき者は侵掠者を恐れて戦火からの逃避に走る。
ある新人類は空を往く安息の地に縋ろうと門戸を叩き、ある宗徒は神の救いを求めて膝を折った。
混沌混迷大混乱、大部分を占める難民は特に余裕なんてあるはずもなく、誰もが脇目も振らず行き場を求める。

「――――あ、っ……」

そんな蜂の巣をつついた騒ぎの片隅で、状況を飲み込めず突っ立っていた子供が、一人突き飛ばされたところで誰も気に留めやしない。
容易く衝撃に押し負け、すっぽりと矮躯を覆う黒い外套の、不自然な背の膨らみが内包する重さに引っ張られ。
尻餅をついた拍子にフードが脱げて、これから流れる血河を予期した深緋の髪が喧騒に溢れる。鈍痛に眉をひそめながら、呆然と座り込んだまま。

軍馬の嘶きはまだ山脈の頂を越えてはいない。けれど暴力の大波が打ち寄せるのは、時間の問題だった。

//置き気味になりますが!
179グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/10/07(水)06:38:49 ID:8Wq [1/1回]
>>176

「……ありがとう、ヘール。
 ちいさな勝利でも、あの街の人たちからすればそれが全てだから。
 零さずにすむことは、嬉しいな。

 遺跡……それなら、あなたの翼ならそう遠い距離にはならないよね。
 私も、同じ様に空を行くことが必要になるけど……」

この世界において、信頼できる人間と出会えることは、出会いの数からすれば相当に貴重で。
そうとすぐに識れる彼女との出会いは、グレイプニルにとっても感謝に堪えない僥倖だったのだろう。
共闘するひととしても、万一の時に街を託せるひととしても。戦力にも人柄にも心配のない彼女だからこそ……
人々を想うまま、束の間だけ、淡い喜びとちいさな微笑をグレイプニルは零していた。
あとは、移動手段だけが問題だけれど。

グレイプニルの肩口から、黒衣を揺るがせてちからが伸びる。それは瞬きの間に、翼めいたかたちの力場へと変容を遂げて。

「……平気。遠慮なく、飛ばして」

念動疑翼・空戦特化形態――高出力の念動力を飛行能力に大幅に割り振った異能の翼が、虚空を押し退けて月明かりに煌めいた。
先程の高速飛行に追従するのも、この形態ならば問題ない、と。
驕りも無用な謙遜もなく、彼女とともに己が意志を遂行するひとつの命として。
共に翔ぶ空の道行きに、先導役を願い出るのだった。

飛行中はさしたる障害も無く、問題なく遺跡への経路は続くだろう。
その最中に、何かやりとりを試みることもできるだろうし――小山の様な史跡の威容に、何かを検めようとしてもいい。
異形の植物が根を張る先史の遺物は、彼女たちを待ち受ける様に、ぽっかりと入り口を開けていた。
180 : バルカン◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/10/08(木)00:37:20 ID:JLv [1/1回]
リド山脈近くの平原、ロムリア正規軍及び傭兵師団とエルプス護民軍の衝突が始まって間もない頃。
戦場の一画でエルプス側の歩行戦車や無人機、エーテル術師らが次々と撃破され大地の染みと化す異様な状況が発生していた。
彼らを瞬く間に蹂躙したのは黒い単眼のヘルメットを被った一団。圧倒的数の不利を物ともせずに戦場を恣にする異形。
ロムリア正規兵でないことは確実。彼らの所属を示す情報は何一つ無く、エルプス側は苦戦を強いられている。

「――――〝装填〟――――」

黒いメットを被り、同じく黒のボディースーツを身に纏った小柄、と言うよりも少女と言った方が正しい体格の兵士が呟く。
足元には人間の頭大の岩石が複数。周辺に転がっていたものを集めただけと言った様子。
上体を倒しながら左足を大きく後方に振り上げる蹴りの予備動作。サッカー選手のようにも見えるそれは戦場にはやや不釣り合い。
しかし、次の瞬間に少女の力がエルプス兵らを襲う。

「――!また来るぞっ!伏せろぉ!」

蹴り飛ばし、穿ち抜く。
大振りな予備動作から放たれた大砲の如き一撃。体格からはあり得ない速度で岩石が飛翔し、歩行戦車のコクピットを正確に撃ち抜いた。
パイロットは胸郭を叩き潰され、心臓と両肺の破裂によって即死する。
休む間もなく次の一撃。コーナーキックの練習でもするかのように叩き込まれる岩塊はエルプス兵らを命を容易く奪う。
暴力的蹴球遊戯。少女を止める者は何処に。
181ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/10/08(木)01:11:17 ID:KYo [1/1回]
>>179

「おや……翼ですね。とても良いことです」

グレイプニルの背中に現れた、念動力によって構成された異能力場による翼。
オルヴィエートの翼のそれと比べれば、明らかに性質は違うものだが、それでもそこに仲間意識が浮かんだことは分かりやすい。
背中の羽根がパタパタと揺れたのは、例えば犬が尻尾を振るのにもそう大差ない仕草のそれであった。
今この場に於いては、少々場違いな感想ではあるかもしれないが、それは彼女の純朴で、純真な人柄に胸を打たれたからでもあった。
ともあれ、航行については問題ない。抱える必要もないとあらば、遠慮することもないだろう。

「それでは向かいましょうか――――それでは、真後ろを飛ぶのはご遠慮下さいませ」

――――エーテルの収束に伴う、甲高い音が一瞬だけ響き渡り、瞬く間に、その身体は空へと打ち上げられた。
変換されたエーテルの熱量への変換、圧縮、開放。これを以て背部からエネルギーを噴射し、推進力とする。
夜天の空へと舞い上がったのであれば、その姿はまた大きく弧を描き、目的の遺跡へと向かい――――そうして、辿り着く。
出力を終えて、地に足をつける。それから、僅かに顔を歪めると、そこで何度か、咳き込んだ。

「……げほっ、けほっ……」

口元を手で覆い隠しながら、数度咳き込むと、すぐにまた、背筋を伸ばして、現状の把握へと移るだろう。
そこにはエーテルの影響を受けて、歪んだ成長を遂げた植物たち。それは、目の前の大穴から伸びてくるようにその姿を僅かに見せる。
それにスンスンと鼻を鳴らした。周囲を見渡して、その空気を肌に感じて、それから一歩踏み出した。

「……失礼。毒の類の心配は、今の所は無いようですが、エーテルの影響は色濃いようですね。
 問題はありませんか? 私はある程度の耐性を持ってはいますが……」

見ての通り、エーテルの影響は色濃い。もし曝露に対して弱い体質ならば、もしかすれば中でアレルギー反応も起こり得る。
もう少し装備を整えて向かうのが最善ではあるだろうが、マモノの死骸から類推される数……またこれが現れ、街に向かったのであれば。
当然驚異になる。また彼女や、自分が間に合うとも限らないと考えると、やはりこれは早急に処理しなければならない問題か。

「さて……行きましょうか。グレイプニルさん、気付いたことがあれば、すぐに共有しましょう」

そうして、遺跡へと向かっていくことだろう。
なにせこの遺跡については、何も知らない状況だ。足取りは確かながら、慎重なものにはなってしまう。
侵入者を排除するための罠のようなものが張り巡らされていてもおかしくはなく、それならば、警戒はするだけ損はないものだ。
182グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/10/08(木)06:12:21 ID:M8K [1/1回]
>>181

「ん……うん。私も好きだよ。ヘールみたいに、誰も隠さなくて済んだらいい、って思う――」

彼女の嬉しげな様子に頬を綻ばせながら頷いて、そっと自由な翼に視線を遣る。
新人類には特に過酷なこの世界で、隠すことなく、誇るべき自分でいられるひと。
そんな彼女に、願う未来を重ねるみたいに。穏やかな空気に、どこか楽しげに双眸を細めるのだった。

そしてまたヘールの言葉に頷くと、念動力の翼をはためかせ。グレイプニルの描く軌跡もまた、ヘールを追う。
ヘールの飛行が先進技術の生み出す卓越した機構の結晶に似る一方で、グレイプニルのそれは、さながら千古の息吹を帯びて煌めく荒ぶる流星だった。
衝撃も空気抵抗も念動力の覆いで突き破り、自分自身に直接推力と揚力を与えながら前進する。

着地したそこは、ヘールの観測通りに異変を感じさせる場所で。

「……っ――これ、っ……――!」

グレイプニルも表情を歪めると、少々身を強張らせて警戒の視線を周囲に向ける。
そしてやや落ち着けば、ヘールの投げかけた問いに口を開いて。

「うん……もう平気。だけどこの場所……明らかに普通じゃ、ない……――」

自分の肩口を気にする様子を見せたが、それ以上の戸惑いも無く答えを紡いでみせた。
代わりに瞳に宿すのは、揺れぬ目的意識。人々のためのそれは、きっとヘールの思いとも重なる部分が多いのだろう。

「……そうだね。よろしく、ヘール――お互い無事で解決したいね」

当たり前で、けれど忘れてはならない思いを言葉にして共に遺跡に足を踏み入れていった。

入り口からやや地下へと潜る傾斜を経て、石造りの黄褐色の遺跡は、外観からしてもやや広い内部通路に到る。
崩れる心配は大きくなく、遥か古の建造物なれど、今なお頑強さをある程度保っている様で。

道なりに進んでゆけば、幾度かの枝分かれを、彼女らは経験することになるだろう。
空気の流れと高濃度のエーテルの滞留から、行き止まりを判別することもヘールには叶うだろうか。
それらを回避して効率よく進んだなら、やがて。

「……ッ――……ヘール、あれ……!」

グレイプニルが注意を促した方向に、壁の亀裂に隠れ潜もうとする小さな影を、ヘールは見止めることができるだろうか。
シルエットは痩せた小型の猿に似て、奇妙な黒い靄がハッキリとした外観を掴ませない。
けれど、爬虫類のそれに似た深紅の瞳が、確かに彼女らを捉えていて――
攻撃の様子こそ見せず、エーテルの内包量もごく僅かだったが。それは、確かに悪意を感じさせる視線で少女たちを睥睨していた。

瞬き一つしないその視線を捨て置くか、先手で攻撃を加えるか……それとも、別の対処を試みるか。
攻撃にやや意識を傾けつつあるグレイプニルだが、ヘールの決断は如何なるものとなるだろう。それが、悪意の影への第一手となる。
183ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/10/09(金)00:08:36 ID:uZ6 [1/1回]
>>182
ヘール自身が、翼を隠さずに要られることは、力があるから、相応の後ろ盾があるから、自信があるから……条件が揃っているからだ。
仮に力がなかったとて、その志は高く、翼を隠すことは無かっただろう。だが、その道行きは、今ほどに容易くはなかった筈だ。
この世界において、向けられる偏見に無関心でいられるはずもない。そしてだからこそ。

「……そうですね。いずれ、誰もが、翼を広げて立つことが出来る世界に。それは、私の夢でもありますから」

そう願い続け、その生命の最後までが燃え尽きるまで、翼を広げ続けるのだ。

全力での高速航行に、確かに彼女が付いてきたことに、まずは安堵する。
余計な心配は無用だった……というのは結果論かもしれないが。勇ましく、疾く、強く、空を征く様は、自身にだって劣るまい。
彼女はこれからも、人々にとって、強力な剣であり、盾となるだろう。それが、ヘールという人間にとって、深い安堵にもなった。
同じ志を持った人間が居る。自分が例え果てようとも……そう思えば、やはり自然と微笑みが溢れるのだ。

「……ええ、普通ではないでしょうね。
 ――――無事は当然。私が居る限り、必ず二人無事に帰ることを約束しましょう」

その言葉は虚勢ではない。騎士として、護るものとして、自信と確信を以て語られ、果たされるものだ。
そして、彼女もまた、護るべき者の内に入る。力あるものかどうか、それは決して、守らなくても良いもの、という結果には至らないのだから。
……とは言え、足取りはやはり慎重にはなった。

「……丈夫な作りですね。崩れる気配もない……」

古いものだが、確かな建造技術で作り上げられたものなのだろう。
ところどころに綻びはあれども、建物自体は頑強だ。どこにも崩れる気配がない。
古代の施設を探索する上で、老朽化というのは、手強い敵の内の一つであるのだから……然し、問題にはすぐに直面した。
促されるまま視線を遅れば、そこには小型のマモノが一体。大きな脅威には見えないが、問答無用の悪意がこちらへと注がれている。

「どうか落ち着きましょう……今の目的はこのエーテルの暴走を止めることです。
 あまり無意味に消耗するのは、良くはありません……」

あまり無意味な交戦は避けたい。この遺跡の全容について、何も知らず、ここから長丁場になるかも知れない。
無論、相手はマモノ。凶暴な生物であるのには間違いないため、殺生を行うこと自体は、致し方無いと割り切ることもできようが。
先ずは消耗することを避ける……幸い、相手は単独で、小柄だ。凶暴であれども、獣の本能を覆すほど攻撃性が高くはないと踏む。
ならばと……その手の中に、光り輝く剣の柄と、不定形の光熱の剣が出現する。

「……これならば如何でしょう。暗闇に潜むマモノであるならば、近付きたくは無いものでしょう」

そうして、それを松明代わりに前方に掲げる。
周囲を明るく照らし、強烈な熱を発するその光の剣。例えば、獣を避けるために焚き火をする、という話を聞いたことがあるだろうか。
その手に握る剣を用いて、ヘールはそれを見せようと試みたのだ。その悪意の瞳は、果たしてコチラへと向け続けることが出来るだろうか。
ゆっくりと足を踏み出す。その剣をマモノへと突きつけながら、牽制しつつ奥へ、奥へ、と向かうように。
184 : ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/10/09(金)16:07:44 ID:Gzq [1/1回]
//>>178で再募集します…!
185◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/10/10(土)21:32:38 ID:v6z [1/2回]
>>178
難民キャンプに来訪する武装した集団。腕章には「Gophern」と刻まれてあり、彼らがゴフェルンより派遣された対策部隊であることは想像に難くない。

「落ち着け!我々はゴフェルン!エルプス当局の要請により君達を安全な場所まで導く!」
「落ち着いて指示にしたがってほしい!君達の身の安全は保障する!」

部隊員達は数名の小隊に分かれて難民の避難誘導を開始する。その手際は慣れたものであり、経験の多さを如実に感じさせる。
そんな時、ある小隊長がファラの姿を目にする。彼は小走りでファラに近づくと、屈みながら声をかける。

「お嬢ちゃん、大丈夫か?もう心配ないからな」
「おじさん達が安全な所まで連れていく。立てるか?」

機動隊が身に着ける標準的なボディーアーマーを着込み、胸元にはスリングで自動小銃を提げている。
ヘルメットを被った姿は冷淡さを感じさせるが、それに反して口調は非常に穏やかなものだ。
186ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/10/10(土)23:30:00 ID:DJs [1/1回]
>>185
群衆の喧騒も、秩序を呼びかける声も。聴覚に訴える全てが、水中のようにくぐもって遠ざかる。
何故あんなにも皆、周章狼狽に取り巻かれているのだろうか。それがよく分からなくて、漠然とした不安が胸を占める。
戦火の熱を、焦げ跡を知らない少女は現況を飲み込み、理解するのにも時間を要し。それは茫然自失と称するには十分な状態で。

「――――――っ……!!」

声をかけられてようやく目の前の相手に気がついたのだろう、ぱっと大袈裟に仰け反って息を飲む。
驚愕に次いで表情に表れたのは不安と不信、顔の見えない相手への警戒に唇を引き結んだ。

「…………、…………!」

声もなく、ふるふると気丈に首を横に振る。地べたに座り込んだまま、隠せていない怯えに肩が震える。
人に頼らずとも、帰るだけなら一人でも平気だと。手助けなど不要というのが本意のつもりなのだが。
問いの答えとしてはどう見ても、急報に腰が抜けてどうしようもなくなっている迷い子のそれでしかなかった。
187◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/10/10(土)23:50:27 ID:v6z [2/2回]
>>186
「立てなくとも立ってくれ。それが無理なら、乱暴だが担いでいく」

恐慌を隠せない少女に無理難題を突きつける。時間も余裕も無い今この状況ではそれもやむなし。
どの道、この場から動かずにいれば何れ戦列を並べた軍団がこの新人類居留地を薙ぎ払っていくのだから。
兵士の表情はバイザーに隠されて視認し難いものになっているが、冷静なように見えて限界まで脳を酷使する切羽詰まった顔をしている。

「身元不明の少女一名を発見。規定に則り誘導する」

少女が抵抗しなければファイヤーマンズキャリーと呼ばれる方法で担ぎ上げ、避難民が集められている一画へと運ぶだろう。
見てくれは木材を運ぶ大工か大荷物の旅人だが、緊急事態において外見の優先度は急速に低下するものだ。
そこまで辿り着けば後は他の隊員に業務が引き継がれるが、少女が何か語り掛ければ名も知らぬ小隊長は応答するだろう。
188ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/10/11(日)00:19:05 ID:x23 [1/4回]
>>187
宛ら蛇に見込まれた蛙の如く、立てと頭が命令しても神経は素知らぬ顔して沈黙を決め込む。

「や、何するの……一人で帰れるから……離してっ……!」
「そっちじゃなくて、あっち……!ねえ、ちょっと……!」

枝葉の末梢よりもか弱い抵抗など古強者の腕力の前には無意味、肩に担ぎ上げるのは体重的にも容易いだろう。
最初こそ手足と、それから外套の下の何かをばたつかせ、移動要塞都市の駐屯する方角を指し示していたが。
疲れ果てて諦めるのにそう時間はかからない、やがてくたりと脱力して身を任せた。
息を整える少しの間隙。ややあって、俯いたまま口だけを開いた。

「…………ねえ。どうして皆、あんなに慌てているの?」
「これからここで起きる事は……そんなに恐ろしいの?」

混じり気のない、純然たる疑問だった。この世界では最早珍しく、戦争の齎すものを知らない問いだった。
エルプスとロムリアの確執について一切の無知というわけではない。ただ、伝聞ではどうしたって限界がある。
人と人が争う明確な理由は見出せず、戦乱の舞踏が踏み均した跡地も見たことがない。漠然とした不安だけが心臓を擽って、縋るものを探した指がボディーアーマーを掴んだ。
189グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/10/11(日)02:22:03 ID:n7t [1/1回]
>>183

「……いろんな人たちが、それぞれの生き方で道を拓こうとしてる。

 だからね、ヘールもいつか、絶対そんな世界を見られるんだと思う。
 そうじゃないなんて、私も許せないもの。
 ……なれるなら、幾らでも力になりたいんだけど――」

力を尽くして明日を願った人にこそ、その戦いが守れた未来を目にしてほしい。
それはきっと当たり前の思いで、けれど、口にされることは多くなくて。

それでもこの出会いで言葉にできたのは、相通じるものを彼女に見たことと――
かつて、遺されたからこその。グレイプニルの側の理由にあったのかもしれない。
今はそれ以上が物語られることはないけれど。

護られるだけでなく、共闘し、共に未来を描きたいと。
そう抱くまま口にされる感情は、少しの強情さと、あるがままの心を宿して夜を照らすようだった。
ヘールの言葉に、芯をより確かなものとする強さを受け取って。
戦うものとして進める足取りは、攻性のものだからこそ、時に拙速に到ろうとすることもあろうのだろう。

遭遇したマモノに即時排除を決めようとするグレイプニルに、ヘールの制止の声は確かに届き。

「……それで済むなら、確かに攻撃する必要はないけど――

 ……追ってきたりは、しないみたい。
 行こう、ヘール。あのマモノが何をしたくてやって来てても、もう、害を加えてくることはないと思う」

光熱の剣を深紅の瞳に映し込むマモノは、己を容易く亡ぼすであろうそれに、身動ぎ一つすることなく視線を注ぎ続け……
けれど、それ以上近づこうとする様子もなかった。不気味なまでに沈黙を保ち、爛々と光る瞳に彼女らを映し続ける。

何をする様子も無いのは、ヘールの光剣の輝きに行動を阻まれたのか、それとも初めから攻撃を目的としてはいなかったのか。
いずれにせよ……ギギ、と軋む様な歪んだ唸り声一つ残して、陽に溶ける影の様にマモノは姿を消した。
グレイプニルの零す安堵の吐息が、仄かに空気を和らげる様だった。

そうしてひとつめの関門を越えた彼女らが道なりに足を進めれば、やがて、断崖じみた大穴を真正面に見下ろす一角に辿り着く。

印象としては、褐色の石材が敷き詰められた円形劇場。
20メートルはあろうかという段差は、飛行能力を持つ彼女らに限っては、問題となることはないだろう。
だが、膨大な労力をかけて造られたはずのこの領域に、如何なる意味が秘められたいるのか――

エーテル感知に優れるヘールならではの手法で探ることも出来るし、グレイプニルを当てにする手もあるのだろう。
何れ、ただ広いだけではないはずのこの場所が――或いは、騒動の解決への大きな一歩を生むのかもしれない。
計り知れぬ時を経て、今再び深奥への道を拓くために。古の構造体が、ふたりの新人類の答えを待つ。

/お返しが遅れて申し訳ありません、お返し置いておきます……
/ご都合のよろしいタイミングで、引き続きお相手頂けますとありがたいです……!
190◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/10/11(日)13:07:32 ID:ONz [1/3回]
>>188
「は……?」

少女の言葉を耳にして一瞬訳のわからない顔を見せる。新人類であれば誰もが一度は経験したことのある戦乱を知らないと言うのか。
正真正銘特殊な境遇で生きてきたか、余りにも過酷な環境に晒されたことで自意識を守るために心が壊れたか。
どちらにせよ、彼の答えは一つだ。

「殺し合いだよ。今、あの山の向こうで沢山の人間が殺し合ってる」
「その内ここも巻き込まれる。だから、その前に君達を迎えに来た」

戦乱。それは人間の生み出した最も醜く、最も人間らしい行い。
互いに命を奪い合い、価値を奪い合い、奪い合った末に残るものは僅かな価値と膨大な犠牲。
それが世界の真実であり、この世界の全てと言っても過言ではない。
191ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/10/11(日)15:55:55 ID:x23 [2/4回]
>>190
「殺し、合い……なんで、そんなこと……」
「……お互いに、傷ついて……あんなに痛い思いを、するだけなのに……」
「…………生きる為?それとも、正義の為?」

何故こうも、近今では痛ましい程に珍しく無知足り得たのか。
その理由が後者にしては真っ当な反応、心的外傷による逃避はなく真っ向から聞き入れて言葉の意味を咀嚼する。
それでも納得と理解は別物であるから、素直に頷くことはなかった。誰に答えを求めるでもなく、苦しげに独りごちるだけ。
顔を上げて戦線の山脈を見やる。血煙はまだ遠く、見えない叫喚に想いを馳せた。

「…………――、けど……」
「……迎えにって、言ったよね。あの人達は、どこに連れて行くの?」

やがて難民キャンプの一角、騒めく人々が集められた地点に辿り着けば、地面に下ろした少女は幾分か落ち着きを取り戻している。
深い思索に容量を費やして恐慌も忘れたのだろう、両の足でしっかりと立って尚、意識は当の山間へと向いて。
小隊長か、はたまた引継ぎを受けた他の隊員か。投げかけた至極当然な疑問も心ここにあらず、聞こえるはずのない戦乱の咆哮にばかり視線が行った。
192◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/10/11(日)17:29:09 ID:ONz [2/3回]
>>191
「ハハッ!正義か。そうなら良かったんだがな」
「だが、どっちでもない。強いて言うなら〝金〟のためだ」

領土・資源問題はそのまま国益に直結する。いがみ合う国家は双方共により多くの利益を手にしたいと願い、争う。
わかりやすいロジックだ。限りある資源の恩恵を享受出来るのは限られた数だけ。僅かな席を多数が奪い合う。

「ゴフェルンだよ。知ってるだろう?ここから150kmくらい先だな」
「少なくともここにいるよりは安全だ。俺達よりも遥かに強い奴らがいるからな」

南の空を見上げる。彼方を一筋の光が飛び去っていく。流星のようでいて異なる挙動。
空を駆ける炎。ゴフェルンと呼ばれる要塞都市が君臨する方角から山脈の向こうへと微去っていった。
彼の言う〝遥かに強い奴ら〟もまた、この戦いに介入するのだろう。最早戦の火は抑えが効かない程に燃え上がっている。
193ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/10/11(日)18:35:25 ID:x23 [3/4回]
>>192
「お金になるの?戦争が?」
「……そっか……そういう理由もあるんだ……」

これまで考えもつかなかった、新しい知見。原始的な本能や確固たる信念とも異なる、実利と便益に従う合理の蔓。
きょとんとして聞き返したが吸収するのは早い、遠き山稜を見上げて得心をぽつりと呟く。怒号に驚いた鳥達が一斉に空を汚した。

「知ってる。わたしはそこから来たから」
「……それは、やっぱりお金の為?」

ゴフェルンから難民キャンプへの支援物資輸送。その隊列に相乗りさせてもらう形で、少女はこの地にやってきた。
郷里を追われた新人類が何を思い、どう生活を送っているのかを知るために。そして今は、侵攻戦の意味を問う場へ変貌を遂げる。
疑問の言葉は、奥底で否定を望む響きを孕む。慈悲を騙り、俗的な欲望を根幹とした組織ではあってほしくないと。
つられて天蓋を切り裂く紅の軌跡を見上げる。天翔ける彗星を灰の視線で追いかけて、ふと言葉が口を突いて出た。

「……あそこで何が起きてるか、この目でちゃんと見ておきたい」
「…………って言ったら、駄目かな」
194◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/10/11(日)21:30:11 ID:ONz [3/3回]
>>193
「ん?遠征組か?一人で?」
「何やってんだ輸送班は……まぁそれならどんな所かはわかるだろう」

少女がゴフェルン所属の存在ならば話は早い。
見ず知らずの場所で一方的に守ると言ってきた者達に囲まれるよりは不安感も和らぐだろう。

「……お嬢ちゃん、銃は撃てるか?」
「戦場に行って、そこで死なない奴は運が良い奴か法外に強い奴だけなんだ。そして運の良さは事が起こるまでわからない」
「お嬢ちゃんは法外に強い奴か?」
「そうでないのなら、俺達やここにいる人達は君の為に命を削ることになるが……」
「それでも良いかい?」

先程よりずっと冷淡で容赦のない言葉。
だが、力無い者が好奇心や知識欲だけで戦場に足を運べば碌な結果にならないことは今までに何度も見てきた。
力無い者が命を落とす結果ならまだマシ。力無い者の一時の好奇心の為に周囲の人間が命を落とす結果になれば目も当てられない。
責任を持てる者だけが戦場に出ろと暗に語っていた。
195ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/10/11(日)23:10:40 ID:x23 [4/4回]
>>194
「ううん。銃を撃ったことも、剣を握ったことだってない」
「正直言って、自分の身を守るのだって難しいと思う」

至極あっさりと、己の無力を認める。軍畑に赴こうものなら、足手まといもいい所だという自覚は朧げながらもあった。
言葉を探す束の間の沈黙。決まり悪さなど一片もない、少しばかりの黙考に耽るだけの淡白な様相。
しかしてそれは、好奇心を成就させるための言い分を探し回る間に非ず。

「…………でも、わたしは知りたい。皆があんなに傷ついて、それでも向かい続ける戦場が、どんな場所なのか」
「あそこでは、教えてくれなかったから……わたし達の戦いがどういうものだったのか、自分で直接確かめたい」
「……じゃないと、わたしが今までしてきた事の意味も、分からなくなりそうだから」

駆られているのはもっとずっと切羽詰まった、義務感のようなものだった。
この世にエーテルを満たす為の、なんて曖昧で宗義に塗り潰された上っ面の言葉ではなく。
どれだけ血腥く泥臭い、死の気配に満たされた世界で、これまで癒してきた彼らは傷を負い、また舞い戻ろうとするのか。
それを知って初めて、この世界の普通を真に理解することができるのだろう。己の為せる事を追い求める資格を得るのだろう。

「遠くから見てるだけでもいい…………死にさえしなければ、怪我をした人はわたしがすぐに治す」
「だから、お願い」

本当なら隠し通したかった力を、必要経費だと自分に言い聞かせてコストに乗せる。
脆弱で年幼いにも拘らず、死地を望む声はひどく静かで僅かな緊張だけが張る。
が、所詮は言葉だけの懇願。担がれて碌に抵抗もできない少女の我儘を却下するのは容易いだろうし、無理は承知の彼女がそれ以上食い下がることもないだろう。
196ヘール◆</b></b>HNRuiQxDVE<b>[] 投稿日:20/10/12(月)00:08:37 ID:y01 [1/1回]
>>189
思惑通りに事が運んだのは、幸運でしか無かったかも知れない。
何れにせよ、あのマモノについて、今は相手にする必要がないように思えたのは、紛れもなく良いことであると判断しても良いか。
とは言え、その先へと足を進める……その最中に、グレイプニルへと向けて、口を開くことだろう。

「……先程のお言葉。有り難いものではありましたが……実のところ、私の命はもうあまり長くはないのです」

事も無げにそう語る事実は、決してひた隠しにされるような事実ではない
多少知っている者。例えば、上司だとか、同僚だとか、その辺りの人間であれば、語るのを憚るものではなかった。
ただ、相手に必要以上の配慮を強いることになるが故に、軽率に語るものではないことは事実ではあった。
それでも、彼女へと語り出したのは。こうして、志を同じくする人間と出会えた幸運か。それとも、彼女への敬意でもあるかもしれなかった。

「高濃度のエーテルに、常に曝露されることによって、内臓器系が変形してしまっています。
 出来る限りの安静を以て一年、とのことですので、実際にはそれより短いはずです」

エーテルの運用に長けた新人類であれば、エーテルの曝露は微細なものである。オルヴィエートにとっては微々たるもの。
だが、それでも耐えきれないほどのエーテルに曝露され続けていた。高出力と引き換えに、それは命を蝕み続けていた。
内臓器系は、歪に変形して元々の機能を失いつつあった。治療も及ばず、安静を以てただ、延命程度の意味をしか成さない程度。

「私が、理想を見届けることは、敵いません。ですが、その理想へ、繋げることは出来る――――。
 そのために私は戦っている。グレイプニルさん。あなたに会えて、私はとても幸運に思います」

たとえ自分が、その理想へと辿り着くことが出来なくても。
仲間たちが、きっと辿り着いてくれる。助け出した子供達が、きっと見届けてくれる。
そうやって繋げるために、ヘールという人間は生きている。その少ない命を、最後の最後まで燃やし尽くして生きようとしている。

「きっとあなたなら、私の理想の世界を、見届けてくれるでしょうから」

そこに、彼女という志を同じくすることが出来る人間を見つけたことの、何と幸運なことであろうか。
だからこそ、今この場に居る彼女には、傷一つ負わせるわけにはいかない。万事、滞りなく終わらせるのが、その役目だ。
その向こう側の、素晴らしき世界を、彼女には、自分の代わりに見届けてくれるだろう。短い間の、邂逅ではあったが。
人を見る目には、それなりに自信があるものだから。

さて、辿り着いたるは新たな関門。
その機構については、とんと理解が及ばなかった。何らかのエーテル技術を利用しているかもしれないが……。
少なくとも、今の所はまだ何もわからない。だが、その用法については、既に理解を得ていた。

「……なるほど、これはまるで、舞台……」

そう言うやいなや、その両翼を羽撃かせて、地を蹴り出して、その体を宙へと浮かせた。
容易く、その構造体の上に舞い降りると、両足を揃えて、足音もなくその上に立った。

「であるならば、先ずは役者が立つことには、始まりませんね」

それが舞台であるならば、先ずはそこに役者が必要だ。
何より、そこにエーテルの反応を感じた。それがただの舞台ではないならば、何らかの引き金になると、ヘールは予想し、降り立ったのだ。
意気揚々とそこに立っているわけだが……果たしてなにか起こるか、それとも肩透かしを食らうか。

/お気になさらず!
/お返事お待ちしていますね
197◆</b></b>Oav.BQhQhpOh<b>[] 投稿日:20/10/12(月)02:18:15 ID:xHD [1/1回]
>>195
「……今すぐには無理だ。俺に君の同行を決める権限は無い」
「一応、掛け合ってはみる。だが期待はするなよ?」

少女の懇願に先程と同じ冷淡な口調で返す。しかし、その懇願の一片を汲み取る甘さはあったようだ。
今すぐには不可能でも、この戦いは恐らく長く続く。その中で少女が戦の凄惨さを目の当たりにする時は来るだろう。

『これで全員か?見逃しは無いな?くまなく確認しろ』
『班分けが済み次第移動を開始します!落ち着いて、指定の輸送車に搭乗してください!』

部隊を纏める人物が集まった難民達に声をかけている。ゴフェルン要塞都市への移動はすぐにでも始まるだろう。

「お嬢ちゃん。覚悟しておきなさい」
「現実は、その覚悟の更に上を行く」

少女を運んできた小隊長は最後に初めのような温和な口調で語り掛ける。
それは自らの心の進む方向を曲げられない少女に対する、慈悲にも近い忠告だった。
山脈の向こうでは今も業火と硝煙、超常と暴力が入り乱れている。
絶望は未だ、絶えない。

/この辺りで〆でお願いしますー
198 : ファラ◆</b></b>9vG5R8E252<b>[] 投稿日:20/10/12(月)12:11:14 ID:vMR [1/1回]
>>197
「…………ありがとう」

この時点で切り捨てられてもおかしくはない、見通しの厳しい頼みなのは分かっていた。
だから意外そうに何かを言いかけた唇はすぐに謝意を紡ぎ、棄却されなかった安堵と喜びに目を細める。
呼びかけられた方へ一瞥。指示された車両へ向かう前に、警告と呼ぶには物柔らかな声に振り返った。

「でも、わたしは知らないといけない。前はあそこの大人が理解できなくて、怖かったけど」
「あの人達がどんな場所で戦っているのか、わたしは見た事がないから。それを知って初めて、わたしがやるべき事が掴める気がする」

毅然とした宣告に折れる気は皆無、その覚悟は無謀か過信か。
否、ただで済むとは少女は夢にも思っていない。身の危険だけではない、心に深い傷を負う恐れだって十二分にあるだろう。
それを理解していながら、怯懦を見せずまっすぐに言い放てたのは。

「それが今しか出来ないわたしの戦い方で――――楽園から逃げた罰だと思うから」

お役目を放棄して原野へと逃げ出したのを清々すると言い切るには、長い年月と重い責だった。時折、逃走の是非を己に問う程度には。
いつか再び蒼空が鎖される遠い諦観さえ抱いて、それでも恐怖を齎す無知を昇華する余地があるならば、足掻かざるにはいられないのだ。
背を向けて呟いた言葉が、戦火に枯れた風に拐われる。外套の裾から白い羽が一枚零れ落ちた。
猛禽が朱く染まった北の空へ飛び去る。舞い上がる朽ちた砂が散らした命の数を歌った。

//ありがとうございました、お疲れ様でした!
199グレイプニル◆</b></b>uJNv3R1wyo<b>[] 投稿日:20/10/13(火)04:54:03 ID:c3G [1/1回]
>>196

「――――え……?」

経路に響く足音に混じり、ごく当たり前のことの様に語られる重すぎる現実。
呆然と瞠目するままに零れた声は、透き通った音色に、空白になった意識が受けた衝撃の大きさを描き込む様で。

そのまま語り続けられる変異の重さは……彼女という命が、どれだけの意志でこの歩みを選んでいるのかを語らずとも伝えていた。
だから、あるがままに抱く願いを言葉にできない。
困難が待ち受けようと残された時を延ばして、定まった離別も、新人類の受難も、全部、置き去りにしていつか、この優しい女(ひと)が笑顔になれる明日が見てみたいなんて――

「……っ、……ぅ、く――――」

……ふと漏れる声は、揺れても。託される想いは、悲嘆に沈むことを少女の心の内で拒むようで。


「……ヘールは、ずるいよ。

 一番受け取ってほしいのに、全部、私や他の皆に渡していっちゃう――
 ……だけど、なくせないものを託されてしまったから。
 もう、諦めることも捨てることもしてあげない――……命が続く限り、ずっとずっと無事でいてよ。

 その間中、あなたが幾らでも笑っていられるように。私も……ずっと、幸せなまま戦い抜いて、生き抜くよ。
 泣いてなんて、あげないからね」

揺れて、迷い、願って、けれど前に進み続けることを決してやめずに。
ターコイズブルーの瞳に雫を溶け込ませた少女は、彼女と共に見据えた場所へと、静かな焔を胸裏に湛えるよう、その歩みを進めていった。

そうして辿り着く円形の領域にヘールが降り立てば、グレイプニルは、念動疑翼を再展開して滞空。
何が起きても即応できる様、ヘールの間近で迎撃の用意をして、

果たして、変容は起こる。
構造体の中心部が跳ね上がると、噴き出す高濃度のエーテルを突き破る様に、瞬く間に空間を埋め尽くして異形の蔦が跳ね回った。

「――――ッ!! ヘール、気をつけて……!!」

咄嗟に半透明の翼で身を守るグレイプニルに蔦が踊り掛かり、力場の表面をなぞる様に、奇怪な蠢きが暫し宙を掻き毟った。
どれだけの量が潜んでいたのか、暴れ舞う力場に刻み裂かれようと、次から次へと溢れて、決して容易に滅びきらない。
無双の膂力を誇る異能なれど、守勢に回れば突破は困難なのか。

そんな状況だからこそ、ヘールは、或る違和に気付き得るのだろう。

怪植物の反応は――どこか困惑するかの様で。ヘールにも、グレイプニルにも、もはや危害を加えることなくただ確かめる様に虚空に溢れ続けている。
光熱の剣で灼き裂こうと、反撃を行うことはない。
部分的に符合する鍵が、敵とも味方とも知れぬ何者かへの対応を決めかねている。そんな印象を受けるだろうか。
大規模な攻撃を加えるならば好機だろうし、また異なる手段を以て対応することもできるのだろうか。

見受けられる特徴といえば、這い出してきた根元にあたる、高濃度のエーテルの滞留する領域では、この怪植物の蔦が大人しくしていること――
そして高速飛行に慣れたヘールならば、この植物が遮る地下に、風が吹き抜けることも感じられるだろうか。
何らかの手段を以て突破したならば、この先に待ち受けるなにかに到る――

そんな予感と、夥しい異形の影に揺られる状況だった。

/ありがとうございます……!引き続き、よろしくお願いしますー!!
200 : 名無しさん@おーぷん[] 投稿日:20/10/14(水)11:10:00 ID:DQ0 [1/1回]
>>199
こうまで真っ直ぐでいられる人間が、果たして今、この世界に如何ほどいるだろうか。
出来ることならば、その心が常に前を向いていられるように――――在ってほしいと願い、守り抜きたいと思う。
だが、それが叶わぬ願いであるからこそ、こうして彼女へと語り、そして託して、後は神へとそれを祈ることしか出来ない。

「――――全く、なんということでしょう。
 それでは、あなたが幸福で居る限りは……無事に、生き抜くことを約束しなければなりませんね。
 
 貴女とここで出会えたのは、やはり、私にとって幸運でした」

歯痒く、無力な身ではあった。だがそれでも、僅かでも意思を揺らがせることはなかった。
決めた道は歩み抜かなければならない。例え、それが重く、冷たく、短い命を削るものであったとしても。
ただその道行きに……彼女のような、輝きを見つけることが出来るからこそ、そこに微笑みを絶やすことはなく。
だからこそ、残る命を燃やして、こうしてここで、戯れるような一言を零すことが出来る。

「もう、死んでもいいとすら思えるくらいに」

クスクスと笑いながら、歩を進める。
暗く、何があるかも分からない道ではあるが、それでも一歩一歩を、確かに踏みしめて。


「これは――――!」

降り立った舞台の中央――――そこから吹き上がるのは、高濃度のエーテル、そして無数の異形の植物だ。
咄嗟に、その手に握る光の剣を振るい、薙ぎ払った。焼き切ること自体は簡単だったが、あまりにも数が多い。
一度、この物量を一気に削り取るだけの火力が必要か。そう思い立ったが、それを実行に移す前に、一つ違和感に気づく。
攻撃を加えてこない。出現して、こちらを認識しているような振る舞いをみせるが……それ以上に動かない。

「グレイプニルさん……少々お待ち下さい。これは……」

そこで、一度その攻撃を止めた。滞空し、待機する彼女へと一度声をかけてから。
ゆっくりと、その中心部へと歩む。その植物の観察と共に。

「……噴出孔付近では動きが衰えている……私達のエーテルに反応して動きを止めた?
 それとも……何か別の、共通する点に反応しているか……」

その植物が、何らかの接触を試みようとしたのは間違いない。
それが攻撃性の発露なのか、単なる捕食なのか、それとも全く別のなにか、なのかは分からない。
だが、片方だけではない、二人に対して……既のところで止めているのには、何かしらの理由があるはずだ。
運用するエーテルか。それとも。

「風……この下に大きな空間がありますね……失礼、グレイプニルさん。
 少し……下に、降りてみようかと思います」

その左手に、光が収束すると、そのまま自信が立つ構造体へと向けて放つ。
熱量と衝撃を以て、そこを抉じ開ける……床を破壊し、植物が埋め尽くすならば、それごと貫いてしまわんと。
そして、その下を覗き込むだろう。果たしてそこに、何が待ち受けるかと。

/遅くなってしまい申し訳ありません……!


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